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ヨシュアとミレイユの兄妹はみなしごである。

そのためカティアことカタリナ・T・アディソンが親代わりの保護者として二人を養っている。

茶熊学園に支払う学費も一括で負担してくれていた。

だが一年近く前にアテル・ラナとの大規模共闘作戦に参戦すると聞いて以来、カティアと連絡が取れなくなってしまった。当初はすぐに帰って来るだろうと思っていた。きっとあの高笑いをしながら、笑顔で帰ってきて二人を抱きしめてくれるだろうと。

だがその予想に反して、いまだ消息は掴めず、生死すらもわからない。

冒険者ギルドには一種の保険のような制度があり、依頼の遂行中に命を落とした場合は残された家族に補償金が出ることになっている。だが死亡が確認されたわけではないので、その補償金も出ないままだ。それからもうすぐで一年が経過しようとしている。

感情的な不安も勿論のことながら、経済的な不安も増大していった。

毎月の仕送りによって生活していたため、貯金らしき貯金がない。それでも親しい人に借りたり、お世話になった人に恵んでもらったりしながら、なんとか細々と暮らしてきた。

二人の財布は、頼りない兄の代わりにミレイユが一括して管理しており、毎月兄に少額の小遣いを渡すという方法を取ってきた。その額を削るなどして節約してきたものの、ついに火の車が焦げ付いてしまう。

これまでは茶熊学園の学生寮で生活していたため破格に安い寮費で寝泊まりできていたが、学友となり退寮してからは二人で貧しいアパートを借りて暮らしていた。

だがその家賃が払えなくなったのだ。

このままでは路頭に迷い、二人はまた浮浪児になってしまう。

兄はレザールの劇団で演者をやっているが、劇団というのは基本的に儲かるものではない。毎日の稽古や衣装代・劇場代その他を含めるとむしろ赤字になることも少なくない。

楽しそうに劇に打ち込んでいる姿を見て、兄に心配を負わせたくないと思った。

財布はミレイユが管理しているため、兄はここまで経済的に追い詰められていることをまだ知らない。

― 私がなんとかしなくちゃ。

冒険者ギルドの仕事には年齢の制限が設けられており、危険を伴う仕事や戦闘などの荒事は基本的に15歳以上でなければ請けられない。適切な大人の監督者がいる場合はその限りではないが、一度バイパーに同行した時はあまりの力量の差ゆえに足手まといにしかならなかった。

14歳以下で請けられる仕事は迷い猫探しとか、お届け物とかそういうものばかりだ。報酬も数百Gとお小遣いにもならないくらいで、これだけで生活、ましてや滞納した家賃を払うことなど到底難しい。

冒険者ギルドから離れて酒場の店員なども探してみたが、15歳未満の未成年は基本的にどこも雇ってくれない。

酒場の主人に断られて途方に暮れていた時に出会ったのが、ティナ・トピアの知り合いだというヤクザ風の男。

13歳だと告げると少し驚かれたが、それでもその男は仕事を紹介してくれた。たった一晩で3万Gでも5万Gでも稼げる仕事らしい。そんな大金、逆立ちしてひっくり返っても手にしたことがない。

少し不安はあったがミレイユはその仕事を受けることにした。


「そんな固くならなくていいわよ~?ミレイユちゃん」

やくざ風の男は、顔に似合わない猫撫で声を出す。

「は……!はい……すみません。」

だが一糸纏わぬ裸で男と対面するというこの状況に、身体はかたかたと細かく震えてた。

これから何をされるのだろうか。なんとなく予想はついているものの、あまり考えたくはない。

「ティナちゃんの後輩かぁ。ちょいと心は痛むが、なかなか可愛いじゃない。需要はありそうね。」

男はジロジロと舐めるような視線で裸を見る。

背中がゾクッと震えた。

「一応、聞いておくけどミレイユちゃん。こういうことははじめて?」

「は…はい……初めてです……。」

「まぁそうよねぇ。13歳だもんねー。

これからその身体を使って目いっぱい稼いでもらうけど、いいかしら」

だが覚悟は決めていた。

家を失い、路頭に迷えばもっと酷いことが待っている。

この男、危険な香りはするが、聞くところによるとティナの兄貴分だという。

きっと命を奪われるまではしないだろう。

それならば……

「精一杯頑張ります……よろしくお願いします!」

声を少し震わせながら、ミレイユは決意の表明をした。

-つづく-


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