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「はぁ、なんでこんなものに頼ろうとしてるんだろう、私……」 一人の少女が、中学校の教室で一人佇んでいた。彼女の名は平良 美緒(たいら みお)。この中学の二年生だ。その隣の机の上は、『オトナになる薬』とラベルのされている薬がおいてある。『10錠飲めば一時間で効果が出ますが、副作用については保証できません』とも、印字されていた。 そして、彼女は55分前に、薬を10錠飲んでいた。憧れの先輩である三浦の気を引きたいがために、彼が部活を終えて一回教室に戻ってくる時間を覚え、その1時間前に薬を飲んだのだった。 「ホントに、あのおっぱいでかい人みたいになれるのかな?」 街ですれ違った……というよりは正面衝突した女性に、あまりに育ちが悪い体を見られ、笑われ、お詫びにもらった薬。彼女が見たことないくらいの胸に圧倒され、怪しい薬を拒否することもできなかった。 「でも……!」 ガラガラ…… 教室の扉が開いた。予想通り、三浦が教室に戻ってきたのだった。筋肉質で大柄、顔はイケメンとは言い難いが、年に見合わず落ち着いたものだ。 「うわっ!?どうしたの、君……?」 人がいるとは思っていなかったようで、彼は一瞬うろたえたが、なんとか美緒に声をかけた。 「三浦先輩、あ、あの……!見てもらいたいものがあるんですっ!」 あと一分で薬を飲んでからちょうど一時間だった。その時間だけ待ってくれれば、美緒は『オトナ』になれるのだ。 「……いいけど、急いでね。あと二分でここを出ないと、最後のバスが出ちゃうから」 「は、はいっ!一分くらい、待ってくれるだけでいいです!」 「え?うん……」 二分。十分だ。美緒は、心臓が高鳴るのを感じた。時計の秒針を睨む。あと十秒、九秒、……、二秒、一秒…… 「……あ、あれ?」 「どうしたの?」 「い、いえ……もうちょっとだけ……」 時間を過ぎた。そして、二十秒、三十秒と経過していく。焦りがつのっていく。そして…… 「ごめん、これ以上待てない」 「あ、ご、ごめんなさい……っ!!」 「いや……だけど、いたずらならもうちょっと良いタイミングでやって。じゃあ」 三浦は踵を返し、扉を閉めて出ていった。美緒の中に絶望感が生まれた。三浦と話すのはこれが最初だった。第一印象は最悪、もう話しかけてくれないかもしれない。 「でも、なんで……」 薬の瓶の印刷を読み直す。そこには、『一時間で効果が出ます』と確かに書かれている。ため息をついて、瓶をおいた、その時だった。 ドクンッ!! 「ひゃいっ!?」と、あまりに突然に、全身に走った衝撃に奇声を上げてしまう。 ギュイッ!! そして突然、美緒の腕が……伸びた。「なにっ!?なんなのっ!?」 美緒は無意識に、椅子に座って落ち着こうとした。しかし、腰をおいた瞬間。 ギュギュイッ!! 腕と同じように、脚が伸びる。その長さは、元の倍くらいになっていたが、太さは変わっていなかった。相対的にガリガリになった長い手足に呆然としていると…… ポコンッ! 美緒は左胸に衝撃を感じた。その発信源を見ると、なにかが大きく立って、服を押し上げている。場所から言うと、美緒の乳首だった。 「えっ、嘘でしょ……?」 服をたくし上げると、確かに左乳首が平らな胸に全然合わないくらい大きくなっていた。恐る恐る触ると、刺激が走る。 「ひゃんっ!」 すると、彼女の悲鳴に応じたかのように、右乳首もポコンッ!と巨大化する。そして休む間もなく、腰骨と背骨がメキメキッと成長し、美緒は『オトナ』というより、ガリガリの乳首が大きい女性らしき何かになってしまっていた。 「こんなの、やだぁっ!」 だが、『効果』はそれで終わらなかった。ドクン、ドクンと彼女の鼓動がだんだんと強くなり、そのたびに全身が痙攣するようになる。 「だんだん、太く、なってる……?」 美緒が理解したとおり、彼女の体は空気を入れられる風船のように、膨らんでいた。手足にはムチッムチッと皮下脂肪がつき、体を押し上げてくるのは尻が大きくなっているせいだろう。大きくなった乳首の根本にも、急速に膨らみがついていく。 「や、やった……これで、オトナにっ」 ガリガリだった美緒は、段々と健康的な体つきになっていく。着ていた服がギチギチといいはじめ、胸のボタンは左右に引っ張られていく。 「あっ、そろそろ、大きくなるの、やめてっ」 強い鼓動のたび、言葉を止めなければいけない。だが、美緒の思いが通じたかのように、その成長は服を引きちぎる前に終わった。といっても、くびれたウエストは丸出し、スカートもギリギリの丈になってしまっている。美緒は立ち上がって、自分の体を確認しようとしたが…… ガラガラ…… 「ひぃっ!?」 「うわぁっ!?」 変身が終わって息をつく間もなく、教室の扉が開いた。入ってきたのは、帰ったはずの三浦だった。 「あの、どなた、ですか……?」 見知らぬ女性に、たどたどしく尋ねる三浦。なにしろ、巨乳のお姉さんがいると思わなかったところにいたのだ。しかも露出度は高く、三浦は目のやり場に困っているようだった。しかしそのおかげか、明らかに中学生と思えない体格の女性が、中学の制服を着ているのに気づいていない。 「あの……美緒……っていう子の姉です」 「あ……お姉さん、ですか……」 美緒は、自分のことを正直に話しても信じてもらえないだろうと、嘘をつくことにした。三浦はそれでも、目を背けたままだった。 「あの、俺、財布を置き忘れたので、取りに来たんですが……」 「ごめんなさいね、妹が変なことを……」 「いえ、いいんです……」 三浦は目を伏せながら、自分の机の中から財布を取り出し、そそくさと入口に戻っていく。 「では、これで……暗くなると変な人が多いから、気をつけてください」 「え、ええ……」 美緒はほっと胸をなでおろしたが、暗くなりつつある外を見て、急いで薬をカバンの中に入れ、教室をあとにした。あまりに急いでいたせいで自分の格好を忘れていたが、通学路の半ばで思い出したときには、美緒の体はもとに戻っていた。

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