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『ジキルとハイド』という小説をご存じだろうか。とある二重人格の人物が登場するのだが、普段温厚な彼は薬品を使って凶暴な男に変貌するのだ。あらゆるパロディやオマージュ作品が存在するこの小説は、二重人格の例としてよく引用される。


だが、二つの人格は全くの別物というわけではない。元の人格が自身にない性質を求め、薬品に頼って別人格に生まれ変わる。


つまり、変身した後の人格は元の人格の欲求が現れるのだ。



前置きはここまでとして、ここに一人の少年がいた。小柄で華奢な彼は、短い髪と男子の服装がなければ女性として見られてもおかしくないほどだった。


「黒板、よく見えない……」


今は国語の授業中だが、前の生徒が頭一つ大きく、体を傾けないと前が見えない。そんな彼には、まだ誰にも打ち明けていない、ある体質があった。


「もう、ちょっとで、見えるのに……!」


体を伸ばして前を見ようとする少年の心臓が、ドクンッ!!と強く脈打った。それが、彼の体質が発現する合図だった。


「(んっ、こんな時に……出てきちゃうっ)」


彼の座高がググッと上がる。そして、短い髪がざわつき、長くなり始めた。彼は存在感が薄いことをいいことに、教室から忍び出る。


(な、なにやってんのよ、もう!)


その彼の頭の中で、女性の声がする。彼と同じくかなり焦ったその声は、彼よりかなり年上の大人のものだ。


「だ、だめっ、お姉ちゃん、まだ出てこないでっ」


彼は学校の中でも、特に誰もいないところ、体育倉庫に足を運ぶ。その間にも、ぐいっ、ぐいっと彼の背丈は高くなる。伸びた手足にはふっくらとした皮下脂肪がつき、小さくなった服が食い込んでその柔らかさを強調させる。


「はぁっ、はぁっ……んぐっ」


体育倉庫の中に入ると、胸の部分がググンッと盛り上がる。突起がついた2つの膨らみは深い谷間をつくり、それが女性の乳房であることを主張する。


彼の体質は、その体を年上の女性に作り変えていたのだ。


「んぁっ……も、もうっ……なんてことするのよっ」


その声は、少年の頭の中で響いていたものと同じもの、つまり高い女性のものになる。そして、喋り口調も少年から女性のものに変わった。


「ふ、服が台無し……きゃっ!」


さらに膨らんだ乳房が、ビリリッと服を引き裂く。胸以外も、大きく伸びた胴体を隠しきれるわけもなく、くびれたウエストとムチムチに育った太ももは外気に晒されている。


(ご、ごめんなさい……)

「あやまったって仕方ないわよっ」


彼、いや『彼女』の頭の中に響くのは、元の少年の声だった。


一つの体の中に二つの人格が宿り、体格ごとそれが入れ替わる……それが彼の体質だった。


これは、そんな彼の物語である。


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