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「ねぇ、西片。おすもうしよっか。」 一緒に下校しているとき、高木さんから急に言われた一言が良くわからなかった。 「……え!!?」 頭の中で理解するまでにしばらくかかり、理解できた途端、驚きの声が上がった。 「だから、おすもう。この間腕ずもうで負けたでしょ?  本格的なおすもうなら西片の方が勝つかもしれないよ?」 「う、……う~~ん。」 高木さんはいつもの笑みを浮かべながら下から覗き込んでくる。 (確かに腕ずもうじゃなく、すもうなら高木さんに勝てるかも…  でも、それって高木さんと抱き合うってことじゃ……  そんなことしたら、セクハラっていわれるかもしれないし。  いや…でも高木さんのほうから誘ってきてるわけだから…) うなりながらあれこれ考えてると、高木さんが大きな笑い声を上げた。 「あはははは!  西片、何そんなに悩んでんの!おかしいぃ!!」 「あぁああ!またからかったな、高木さん!?」 オレが高木さんにまたしてやられたと思い声を上げると、 高木さんは目じりに涙を溜めながら笑っていた。 悔しさに呻くオレに、高木さんは声をかけてきた。 「それで、どうする?おすもうで勝負する?」 「ぐ……、仮に勝負するっていっても、どこでするつもり?」 オレが悔し紛れに高木さんに聞くと、高木さんはしたり顔でいってきた。 「それは内緒。それじゃあ4時にいつもの神社に来てね。  あ、体操服を着て来たほうがいいよ。私も体操服着ていくから。」 「えッ、ちょっ、高木さん!!?」 「じゃぁ、後でね、西片。遅れないでよー!?」 そういって高木さんは自宅に帰ってしまった。 なし崩し的に勝負することになってしまった。 オレは途方にくれつつも、考えを改めた。 (そうだ。さすがに高木さんにすもうで負けるはずもない!?  これは今までからかわれていたツケを返すチャンス!?) オレは家に帰りながら、必死にそう自分に言い聞かせた。 4時。 いわれたとおり体操服を着て神社に行くと、すでに高木さんの自転車が置いてあった。 神社の中に入ると、体操服姿の高木さんが座って待っていた。 「おそいよ、西片。待ってたんだから。」 「え!時間通りだよね!!」 「ぷ。うそうそ、私も今来たばかりだよ。」 「た、高木さん~~~!!」 いきなりからかわれた。 このままではマズイ。 話を変えないと。 「そっ、それで高木さん。どこですもう勝負するの。」 「ふふ、やる気だね、西片。」 「そ、そんなことないけどッ」 「こっちだよ。ついてきて。」 高木さんに言われたとおりついていく。 神社の奥を少し進んでいくと、小さめの土俵があった。 「へぇ~~。土俵がこんなところにあるなんて知らなかったな。」 「昔は使ってたみたいなんだけど、今は誰も使ってないんだって。  ちょうどこの間見つけたんだー。」 そういった高木さんは手に持っていたバックを地面に置くと、中から白い帯状の者を二つ取り出した。 「はい、これ西片の分ね。」 「ん?これは…まさか廻し?」 「おすもうするんだから、当然でしょ?」 「いやいやいやッ、なんで高木さん廻しなんか持ってるの!?  というか、オレ、廻しのつけ方なんかわかんないよ!!」 「大丈夫。私が教えてあげるから。  ほら西片、足開いて。この廻しの先もってて。」 「えっ、えぇ~~~」 勢いに流されるまま高木さんの指示に従ってしまった。 高木さんは前から股下を通して後に廻しを持っていく。 まさか廻しを締めて本格的にすもうをすることになるなんて。 そんなことを考えていたら、また高木さんにやられてしまった。 「えいっ!!」 「おふぅううう!!!」 いきなり高木さんは廻しを吊り上げると、オレの股に食い込ませてきた。 「あはははは!!『おふぅううう!!!』だって!!  西片、声面白い~~!!」 「うぅ、高木さん!!!」 オレが抗議の声をあげると、高木さんは目尻を擦りながら謝ってきた。 「ごめんごめん。今度はちゃんと締めるから。」 「もぉ、頼むよ高木さん。」 高木さんは今度は何もすることなく廻しを締めていった。 高木さんが体を寄せてくるたび、ほのかに良い匂いがして、ドキドキしてくる。 (は!?なんか気づけばすもうやることになっている!!  とりあえず来ただけだったけど、高木さんは本当にすもうで勝負をする気なのか!?) 気づけば自分の腰にはしっかり廻しが締められていた。 どうしようと悩んでいると、高木さんがもう一つの廻しを渡してきた。 「はい。今度は西片が私に廻しを締めてね。」 「はぁあああああああ!!?ムリだよそんなの!?」 「大丈夫だよ、私が教えながらいくから。」 「いやッ、そういう問題では…」 「いいから、ほらッ!!」 「うぐぅ…わっわかったよ。」 高木さんに言われるまま、高木さんの股下に廻しを通していく。 高木さんの後ろに回って廻しを引っ張りあげようとしたとき、先ほどオレがやられたことを思い出した。 (そうだッ、ここで思いっきり廻しを引っ張りあげればっ……  なんて、そんなことしたらセクハラっていわれるよな…  さすがにそんなことは出来ないか。) 「西片~。なにしてるの?」 「えッ、いやッ、なんでもないよッ!!」 「あやしー。どうせやらしーこと考えてたんでしょ?」 「そんなことないよッ!!?」 「ほんとうに~~。じゃあ、廻し食い込ませてみる?」 「えッ!!!」 突然の高木さんの言葉に心臓が大きく音を立てたのがわかった。 (くッ、食い込ませるッ!!高木さんのお尻に廻しをッ!!?  そッ、そんなことしたらッ……) オレがドキドキしながら高木さんのお尻と廻しを交互に見つめていると、高木さんのほうから忍び笑いが聞こえてきた。 我にかえって高木さんを見ると、こっちに振り返ってニヤついた顔でオレのことを見ていた。 「たッ、高木さん!!!」 「あははははは!!?西片っ、顔真っ赤だよ!!?」 (くっそ~~~ッ!!!!またからかわれたッ!!!) 高木さんにまたしてもしてやられてしまった。 (こうなれば無心だ。無心でやっていくんだ!!) オレは心を無にして高木さんに廻しを巻いていった。 ようやく高木さんの廻しが巻き終わった。 (ふぅーー。やっとできた。これでもう大丈夫だな) オレが一安心すると、高木さんがオレのほうに振り返って言ってきた。 「それじゃあ準備も出来たことだし。  西片、おすもうしよっか。」 (そ・う・だ・っ・たーーーーーー!!!  何安心してんだオレーーーー!!  肝心なのはここからだろーーーー!!!  本気なのか、高木さんッ!!!) 「たッ、高木さんっ、本気ですもうするの?」 「いまさら何いってるの。廻しまで締めたんだから、あとはやることといったらひとつしかないでしょう?」 「んぐぅうう、そっ、それはそうだけどさ。」      土俵の真ん中にたってこっちを見つめてくる高木さんに、戸惑うオレ。 どうしたらよいかわからず身構えるオレに、高木さんはさらに言ってくる。 「それともやらない?そうなると、私の勝ちだから罰ゲームだよ?」 「うッ、それはちょっと…」 「それに腕ずもうじゃないから、西片のほうが有利じゃないかなー。  せっかく勝てそうな機会をふいにしていいの?」 「ぐぅ!?……わかった。やろう、高木さん。」 ええぃ!?こうなればさっさと決着をつけよう!! 「ふふ。それじゃあ構えて。」 「わっ、わかった。」 オレは白線の前に手をついて、仕切りの構えをとった。 目の前の高木さんも白線の前に手を着いて仕切りの構えを取っている。 すぐ目の前に高木さんの顔があり、目と目が合う。 思わず目を背けるオレに、高木さんは声をかけてきた。 「ほら西片、目を逸らさない。  見合って、見合ってだよ。」 「わッ、わかっているけどッ」 高木さんに言われて視線を戻すけど、やっぱり目が合うと逸らそうとしてしまう。 自然と頬が厚くなってくるのを感じる。 「それじゃあ、いくよ?  はっけよ~~い、のこったッ!!」 「のっ、のこったッ!」 高木さんの囃子声にオレも合わせて声を出した。 同時に立ち上がると、高木さんがオレに組み付いて来る。 高木さんはしっかりオレの廻しを掴むと、体を押し込んできた。 (ちょちょちょーーーーーッ!!!  なッ、なんかわからないけど良い匂いがするッ!!!  そッ、それにいろいろ触れ合ってるし、なんだか柔らかい!!!  ヤバイッ!!!心臓がドキドキしまくってるッ!!!高木さんに気づかれてしまう!!?) 高木さんの体を直に感じていることに、いまさらながら恥ずかしくなってきた。 そのせいで体の力が抜けてしまい、どんどん押されてしまった。 「西片、どうしたの?このままだと私が勝っちゃうよ?  負けたほうはまた罰ゲームだからね。ほら、がんばれ。のこったっのこったっ」 「ぐぅううううう!!!!」 (みッ、耳元の高木さんの声がくすぐったいッ!!  息遣いもなんかドキドキするッ!!!  まッ、負けたくないッ!!!だけどッ、いいのかッ!!!これはいいのかッ!!!) 葛藤している間にいつの間にか土俵際に追い込まれていた。 「ほぉら、西片。もう後がないよ。  どうする?負けちゃう?のこったっのこったっ」 「う…うぅうッ、もうこうなったらヤケだーーーーーッ!!!!!!!」 もうわけがわからなくなったオレは、高木さんの廻しを掴むと重いっきり引っ張りあげた。 「…あっ」 ゾクゾクゾク~~~~~ッ!!! 耳元でしたその声を聞いた瞬間、オレの背筋を震えが奔った。 高木さんを吊り上げようとした力は、一瞬で抜けてしまった。 「ふふ。そっれーーーッ!!!」 「……あぁあああーーーー!!!」 その隙を突いた高木さんにオレは押し出されてしまった。 土俵の中にいる高木さんと土俵の外にいるオレ。 勝敗は明らかだった。 「まッ、負けた…」 「私の勝ちだね、西片。え~と、ごっちゃんです?」 冗談っぽくいいながら高木さんはオレから体を離した。 高木さんが離れると、オレは思わずその場に座り込んでしまった。 そんなオレを見て高木さんはにっこり笑いながらこういった。 「ねぇ、西片。……もう一回、する?」 「ええッ、……ど、どうしよう?」 「今ので西方も感覚掴めたんじゃないかな?  もう一回やればもしかしたら勝てるかもしれないよ?」 「う、う~~~ん。……そう、だね。よしっ、ならもう一度勝負しようッ!」 「ふふ、いいよ。それじゃあ、白線にいこう。」 高木さんはなんだかうれしそうに笑いながら、さっきまでいた白線に歩いていく。 オレも立ち上がると高木さんの後に続いて白線に歩いていった。 「さ、西方。構えて。」 「う、うん。」 高木さんが白線に手をついて仕切りの構えを取りながらオレを促してくる。 オレも白線に手をついて仕切りの構えを取るが、どうしても目の前にある高木さんの目と視線を合わせることができずに反らしてしまう。 「ほら、西方。見合って、見合って…だよ?」 「わ、わかってるってば。」 思わず顔が赤くなるのを感じながら、高木さんに視線を向ける。 高木さんはオレが視線を向けると嬉しそうに笑いながら、じっとオレの目を見つめてくる。 それがとっても照れ臭くって思わず視線を反らしそうになるが、我慢して高木さんの目を見返した。 「それじゃあ、始めるよ。  はっけよ~~~い、のこったッ!!」 「のこったッ!!」 二度目の取り組み。 同時に立ち上がると、再び高木さんはオレに組み付いてくる。 オレも高木さんの体に組み付いて、しっかり廻しを握りしめた。 今度は負けないという気持ちを込めて、最初から高木さんを押していく。 高木さんもオレを押してくるため、ほとんど拮抗して組み合ってから動かない状態になった。 (た、高木さん、結構力強いのかな?  それに相変わらずなんだかいい匂いがして……。  だっ、だめだ。すもうに集中するんだッ!!) 目をつぶって一生懸命高木さんを押すと、少しずつ高木さんが後ろに下がり出した。 「ん~~~~~、やっ、やっぱり西方も男の子だね。  だんだん押されてきちゃった。」 「た、高木さんも思っていたよりも力があって驚いてるよッ!!」 「え~、それって私のこと力が強い女の子だって言ってる?」 「い、いやッ、そんなつもりはッ!!!!」 「ふふ、隙ありッ!!」 「ああッ!!!」 高木さんのすねた声に思わず力を緩めてしまったオレ。 そのまま高木さんの勢いに押されてずるずる土俵を下がってしまう。 そのままさっきと同じように土俵際まで追い込まれてしまった。 「西方、もう後がないね?  ほらっ、がんばれがんばれ。のこったのこった……だよ?」 「くぅ~~~~、のっのこった、のこったッ!!!」 このままじゃさっきと同じように押し出されてしまう。 それは嫌だッ!! 「え、ええ~~ぃッ!!!!」 「ひゃぁッ!!!」 がむしゃらに高木さんの廻しを引き付けて高木さんを持ち上げようとする。 高木さんの口から甘い声が漏れ出たが、無我夢中のオレは気が付かなかった。 「ちょっ、西方~。廻しがくいこんでッ…  いいよ。西方がそういう勝負を挑んでくるなら、受けてあげるッ!!!」 「うおぉッ!!」 高木さんもオレの廻しを引き付けると、オレを持ち上げようとしてきた。 土俵際でつま先立ちになり、お互いを持ち上げようとするオレと高木さん。 オレは高木さんと全身が密着していることに全然気づかないまま、ただただ高木さんを持ち上げることに夢中になっていた。 「ん~~~~、もう少しっ。のこったッのこったッ!!」 「くぅ~~~~、まっ、負けるもんかっ、のこったッのこったッ!!」 熱くなったオレたちはとにかく相手を持ち上げようと必死に廻しを引っ張り合った。 「あっ、西方ッ!それッ、んん~~~~~~~~~~」 「うぇえッ!!!」 高木さんに負けたくない一心で必死に高木さんの廻しを引っ張っていたオレだったが、 耳元で感じた高木さんの甘い息にまたしても力が抜けてしまった。 そのまま高木さんに押し倒されて土俵の外に倒れこむ。 オレはまた負けてしまったことを残念に思っていたが、上に乗っている高木さんが一向にどいてくれないことに戸惑いを感じていた。 「た、高木さん、大丈夫?もしかしてどっか怪我でもした?」 「う、ううん。大丈夫。でも西方、また私の勝ちだね。」 「うぐぅ、そ、そうだね…」 「ねえ、西方。さすがに疲れちゃったからしばらくこのままでいいかな?」 「ええッ、た、高木さん??」 「ふふ、勝者の特権だよ。」 「そ、そんな~~~~」 そうして高木さんが満足するまで、オレは高木さんに押し倒されたままじっとしているほかなかったのだった。

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