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23:崩壊 「離してくださいっっ!! いやっっっ!! もう嫌っっっ!! いやなのっっ!!」  十字架の拘束台に立たされたエリシアは腕を振って手を拘束しようとするラフェリアに抵抗の意を示す。  しかし、望まぬ絶頂を与えられたエリシアに彼女へ抵抗する力は無く……すぐに十字架台に背中を押し付けられ強く手を引かれ右手を十字の端まで誘導させられる。 「ほ~ら、大人しくなさい♥ 大人しくできないんだったら……妹ちゃんの方から責め立ててあげてもいいのよ? ほら……不安そうに見てる彼女の方から……」  十字架の傍らに立つアイネに赤い目を向けるラフェリア……。その視線にアイネは「ひっ!」と小さく声を上げ目を背けて口を震わせる。  その弱々しく怯える彼女を見て……エリシアはついつい言葉を出してしまう。 「ま、待って!! アイネは……ダメ! やるんなら……やるんだったら……私を先に……」  妹の怯え顔を見てついつい庇う言葉を出してしまうが、エリシアだって怖い。先ほどの触れられてもいないのに絶頂させられたという理解不能な恐怖が何度もよぎり……手も肩も脚も口も……全て震えてしまう。 「フフ♥ でしょ? お姉ちゃんが妹ちゃんを守ってあげなくちゃねぇ♥ 強い貴女が守ってあげないと……弱々しい妹ちゃんなんてすぐにブッ壊れちゃうわ……」 「い、妹は……アイネは……耐えられない! あなたの責めには絶対に耐えられない! エルフじゃないから……純粋なエルフじゃないから……耐性が……」 「はぁ? 何を言ってるの? エルフじゃない?? 何を寝ぼけたことを……」 「いいえ! 彼女の言っていることこは本当のことよ!」  エリシアの言葉に一瞬真顔に戻ったラフェリアだったが、十字架の奥から聞こえてきた声にその顔を睨みの目に変化させていく。 「ドクターメリッサ? どういう事? 本当の事とは……どういう意味なのかしら?」  エリシアの右手だけを拘束をし終え、中途半端ではあるが一応逃げられないように十字架に繋ぎとめたラフェリアは十字架の裏側にいるメリッサに威圧的な声を響かせる。その声に冷や汗を額に浮かばせるメリッサだが臆するわけにはいかないと言葉を続ける。 「確かに彼女は巫女の家系の末っ子ではあるけど……彼女はマルカスとの間に生まれたハーフエルフ! だから完全なエルフではないっていっているのっ!」  その言葉にアイネの顔をギラリと睨みつけるラフェリア……。彼女の顔は獲物を睨みつける蛇のように縦に伸びた瞳孔が開いていた。  その目を見たアイネは、必死に顔を縦に振ってメリッサの言葉が本当であると無言で彼女に伝える。 「ふぅ~ん……それじゃあ……あの霊薬は? さっき飲んだ……不老不死の霊薬は……一体なんだったわけ?」  その目はそのままメリッサへと向く。あまりの威圧感ある目つきにメリッサは「うっ!」と唸り声をあげ後ろへ下がろうとしてしまうが、妹の為になんとしも注意を引き付けないといけないと歯をくいしばってその場に留まる。 「あれでは未完成よ! まぁ、こうなるだろうと思っていたから……そっちの姉エルフの体液で作った霊薬も予備で作っておいたのよ! こっちが本物! こっちが不老不死の霊薬よ!」  勿論そのようなモノを用意している訳はない。彼女がポケットから出した小瓶は当然偽物……しかもその中身は何も入っていない……ただの空の小瓶なのである。 「何も入っていないように見えるけど? 私の見間違いかしらぁ?」 「不老不死の霊薬は……無色透明の液体になるハズよ! だからこの液体も透明なの! 今からそっちに持って行くから……中身を確かめてみなさい!」 「へぇ~~初耳ね……。まさか……それで時間稼ぎとか……してないわよね? そんなくだらない事を私にしていたらその後どうなるか……貴女なら分かるでしょ? ドクターメリッサ……」 「じ、時間稼ぎなんてとんでもない! 操られて作った霊薬じゃ効果が薄いとわかっていたから……こっちも服に忍ばせていたんです! 操られる前から!」 「なるほど……最初から知っていたのね? あの子が……ハーフエルフだってこと……」 「……ミゼル司祭……いえ、マドレアさんに……聞かされていましたから……」 「フフ♥ 全く……私の部下たちは誰を信用すれば分からなくなるわね……こんなに秘密事が多くちゃ……」 「………………」 「いいわ……持ってきなさい……。そっちを飲めば……間違いないのよね?」 「……は、はい……」  メリッサは……一歩一歩慎重に足を進めていく……。  彼女に近づくたびに威圧感が増して行き……足も竦みそうになる。しかし今歩みを止めるわけにはいかない。 「どうしたの? 震えているじゃない……そんなに怖いかしらぁ? 私のこと……」 「い、いえ……」  歩が止まり、メリッサはラフェリアに手の届く場所まで辿り着く。  疑うような睨む目を崩さない彼女の目をまともに見ることはできず顔を背けてはいるが、どうにか辿りついた。 「じゃあ……渡して? それ……」  ラフェリアの低く静かな口調がメリッサを威圧する。  メリッサはゆっくり右手を差し出し……空である小瓶を彼女に手渡す。 「もしも……この小瓶に何も入っていなかったら……この尻尾で心臓を抉るわよ? いいわね?」  ラフェリアの尻尾が意志を持つかのようにユラリと持ち上がり、鋭い先端がメリッサの胸に狙いを定めるかのように構えられる。  メリッサの鼓動が急速に高まっていく……。彼女が蓋を開けて中身を確かめた瞬間……あの尖った尻尾が自分を突き刺すだろうと考えると……震えは強くなる一方である。 「近くで見ても……何も入っていないように見えるけど? 本当に入っているのかしらァ?」  瓶の蓋が取られその場に捨てられる。 「はい……。飲んでいただければ……分かるかと……」 「そう? じゃあ……信じるわよ?」  ラフェリアはクスリと笑みを零しその瓶を片手で持ち上げ、口元へと運びキュッと飲み干すような仕草を取り始めた。   彼女が瓶の中身を口の中に流し込もうと顔を僅かに上げた瞬間! ――ダッ!!  暗闇から地面を蹴る音が静かに鳴り、暗闇の中からナイフを突き刺すように構えたレファが飛び出していく。  ラフェリアとの距離はそう離れてはいない。不意をつけたなら、背中からズブリと心臓を一突き出来る……ハズだったが……。 「やっぱり……ウソだったわねっっ!!」  その目論見はラフェリアに読まれており、メリッサを狙っていた尻尾を反転させ逆にレファの胸めがけてその尻尾が振り下ろされた。 ――ズシャっっ!!   尻尾の先端はレファの胸を突き刺し、彼女に致命の一撃を与えられる。  膝から崩れ去るレファ……彼女の顔は血の気の引いた蒼白な表情に変わる。 「そんな分かり易い嘘じゃ私の隙を作ることなんて出来なくてよ? ドクターメリッサ! 見てなさい、貴女の妹はこの場で首を切り取ってあげるっっ!! この場でねっ!!」  レファの方を振り返ったラフェリアは、胸を抑え倒れ込もうとするレファの首に向け鋭く伸ばした爪を振り下ろす。  致命の一撃を受けたレファにはこの攻撃を避けるすべはない。 「妹の次は、貴女もよ! ドクターメリッサぁぁぁ!!!」  爪が首に触れるか触れないか……首筋を掻き切られてしまう寸前で誰かの叫び声が聞こえた。  その叫びに呼応してラフェリアの背中に熱い何かが当てられる。火のように熱くハンマーで殴られたかのような鈍い衝撃。  ラフェリアの爪はその衝撃によってレファの首ではなく地面に突き立てられてしまう。石畳の床であるにもかかわらずその爪は土の地面に差し込まれるようにいとも簡単に突き刺さってしまう。   「くっっ!? 姉エルフっっ!? お前の仕業かぁぁ!!」 背中の焼けるような痛みは魔法の直撃した痛み……。そしてその魔法を放ったのはまだ自由の利く左手だけを使って呪文を繰り出したエリシアその人だった。 「お前も殺してやろうかぁぁっっ!! 先に殺してやろうかっっっ!! この糞アマぁぁぁぁ!!!」  怒りに燃えたぎる目をエリシアに向け直し、荒くなった口調と同調するように逆の手の爪を体の反転とともにエリシアに振り下ろすラフェリア。その怒りの感情に身を任せた“標的変更”が……彼女の命取りとなった。 ――ズシャッっ!!!!  ラフェリアはエリシアの首をその鋭い爪で掻き切った……と、誤解した。  その音があまりにも自分の身近でなったものだから……てっきり首を切り落とした音なのだと錯覚してしまった。  しかし、実際は……彼女の爪はエリシアの首にほんの少し届いていなかった……。  じゃあ……あの音は? あの肉に突き刺さるような音はどこから……? 「あっっっがっっっはっっっ!!?」  その疑問は背中の激痛とともに……答えにたどり着いてしまう。  自分の羽根の付け根……背中の中央に焼けるような痛みと身も凍るような悪寒が同時に走り……急速に魔力が失われてい感覚を彼女は感じてしまう。 「イノシシ……娘っっ!? なぜ……お前が……生きて……」  背中に突き刺さった物……それはレファの構えていた水銀のナイフだった。  そのナイフが、彼女の心臓を貫き……淫魔のマナを凝固させ始めていた。 「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……」  胸に手を当て、息を切らすレファ……。彼女もまた確かに心臓を貫かれたはずだった……ラフェリアの尻尾に……。 「へへ……。私が即死する訳には……いかなかったんでね……念のため……仕込ませてもらったぜ……」  胸を抑えていた手を外すと……そこからは血ではなく、何かしらの破片がボロボロと服の中からこぼれ落ちて始めた……。  小さな破片からやがて大きな鉄の塊が落ち……最後にそれが何だったのかを示す部位が服の裾からゴトンと落ちてきた。  それは銃のシリンダー……それと半分に割れた引き金とバラバラになった撃鉄……。  彼女が懐に仕込んでいたものは先ほど捨てたはずのリボルバー式の拳銃だった。ベルトを取りそのベルトで胸元にこの銃を縛り付け……万が一の防具として機能させた……。  ラフェリアの尻尾は拳銃の本体を真っ二つにするほど鋭く抉ったが、同時にレファの体への傷を極端に浅くさせた。  致命の一撃を与えたと思って油断したラフェリアは、彼女が死んだものだと早とちりしたが彼女は虎視眈々と狙っていた……ラフェリアの意識が少しでも自分から離れる頃合を……。  そしてその隙を作ってくれたのはエリシアだった。  片手を拘束され魔法は左手からしか放てなかったが、それでもラフェリアの怒りを自分に向けさせることに成功した。  エリシアはレファが近付いていることに気づいていた。夜目の利くその目で……暗闇を移動する彼女を……服の中に何かを仕込む彼女を見ていたのだから……。  だから、エリシアは気をそらすために魔法を放った……それが致命の一打になる必要はない……気をそらすだけの魔法でいいと分かった上で放ったのだ。  結局その気のそらしが彼女への致命の一打に繋がった。  死んだと思っていたレファの最後の一刺し……それが彼女の……不死身ではない彼女への致命の一撃に相成った。 「はっひっっっ!!? かっっはっっっ!! 身体が……はっっ!! 身体が……言う事を……ぎがなぃぃぃっっ!!」  ナイフの刺さった周囲から徐々に琥珀のように皮膚が固まり始めるラフェリア……。彼女の角は根本から折れ、羽根は破れかぶれに千切ていき、長かった爪も風化していくかのようにボロボロと崩れ去っていく……。 「はぁ…はぁ……はぁ……お前は……力に溺れすぎなんだよ……。そんなんだから……私なんかにしてやられるのさ……」  銃が致命傷を避けてくれたとは言え、胸の深くまで突き刺された傷は血を吹き出しレファの体を急速に弱らせていく。 「わだじがぁぁぁぁぁ、人間ごときにィィィっっ!! 淫魔の女王となるハズのこの私が負けるなどっっ!! 絶対に許されないっっっ!! 絶対にィィィィィィ!!!!」  風化が進むかのようにラフェリアの身体は羽根から順番に砂屑へと変わり崩れ去ろうとする。  しかし、彼女の目は怒りにドス黒く濁り、握った拳から血のように赤い光を放ち最後の抵抗を見せようとする。 「何? 何を……するつもり??」  崩れゆくラフェリアの身体が真っ赤に発光し始める。  目に留めておくこともはばかれる程に眩い光……その光は部屋にいる者全てに危機感を抱かせた。 「はっっはははははははは!! 私の全てのマナを……この体に流し込んでやるわっっ!! どうせ助からないのならば……全部この地下に埋めてしまってやるっっ!! 憎くきお前達も道連れにねっっっ!!!」  ゴゴゴゴと地面が揺れ……地下の屋根が震えだす。 その禍々しいマナのオーラがラフェリアの身体から放出されると、部屋の柱や壁……床に至るまでが不安定に蠢き始める。 「こいつ……マナを全部送り込む気かっっ!!」 「まずいわね……彼女の強大すぎるマナをあの人間の体じゃ収めきれない!! このまま流出が止まらなければこの地下部屋はすぐに崩れてしまうっっ!!」 「アイネっ!! 私の枷を外して!! 早くっっ!!」 「は、は、はいっっ!! お姉様っっ!!」 「無駄ぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!! もう遅いっっっ!! ここからは誰も逃がさんっっ!! 誰もぉぉぉぉぉっっ!!」 「や、やべぇ!! ヤツの体が燃え盛るようにオーラを放ち始めたぞ! もう時間が……」 「はひひひいひひひひひひひひひっっっ!! みんな死ねぇぇぇぇぇ!! 私とともに滅べぇェェェェ!!」  屋根が崩れ始め、地下部屋の入り口も変形しそこからの出口も閉ざされた。逃げ道はもはやない……後は地下へと続く道しか残されていない。 「皆さんっっ!! 出来るか出来ないかは分かりませんが……どうにかやってみますっっ!! こちらへ!!」  枷を外してもらったエリシアはラフェリアから距離を置き、崩れゆく部屋の中央で皆に呼びかけを行う。 「やってみるってなんだ? 何をしようってんだ??」  胸の傷を押さえながらレファは彼女のもとへ向かう。そしてアイネとメリッサも後に続く。 「転移の魔法……私の魔力……全てを使って皆さんを外へ脱出させます!!」 「て、転移って!! お前……小さな物くらいしか出来ないはずじゃ……」 「はい。出来ないかもしれません……これだけの人数を飛ばした事なんてありませんでしたから……。でも今は……出来るような気がするんです!」 「出来る気がする? それは……根拠があってのことか?」 「いいえ! でも……私はさっき母様から力を授かりました……。私の治癒を行うと同時に……母様のマナも多量に頂きました……だからっ!!」 「お前の母ちゃんは確か……できたよな? 複数人の転移魔法……」 「えぇっ! 今なら出来るはずです!! 私だって……母様の血を受け継いでいるのですからっ!!」 「お姉様……」 「……分かった……どのみちそれに頼る以外なさそうだし……やってみてくれ……。それでダメなら……スッパリ諦めるさ……」 「私も……異論はないわ。出来ることは試してみたほうがいい……」 「私は……お姉様を信じてます! これまでも……これからもっ!!」 「分かりました……では皆さん……私の手を握ってください! 腕でも構いませんから!!」 「おう!」 「えぇ!」 「はいっ!!」  レファがエリシアの右手を力強く握る。アイネは左の手のひらを控えめながらもしっかりとした強さで握る。そしてメリッサはレファの手のすぐ上の手首を両手で握る。 「では……いきます! 皆さんっっ!! 絶対に手を離さないでくださいね!!」  エリシアの言葉に3人の手が更に力を込めて握られる。それぞれの願いを体現するかのように力強く……。 ――ガラガラっっ! ガシャっ、ドシャっっ!! ズン! ズズっっ……ズン!! ガシャンっ!! 部屋の壁はみるみる崩れ去っていく。石造りの天井も落盤を起こすかのように次々に大きな石の塊を部屋中に降らせてくる。 部屋の崩壊はみるみる進み……部屋と天井を支えていた柱は次々に折れ砕けていき、アイネ達を拘束していた十字架は床が抜け始めると同時に下の階へと落ちていく。 「やべぇ……この床も……いつまで持つか分かんねぇぞ!!」  周りの床も崩れ、いよいよ自分たちの足場も揺れ始めたことで危機感を持ったレファだが、エリシアは呪文を唱えることに集中していた。 一言一句……詠み間違えることはできない。自身の集中力を少しでも切らせば必ず呪文は失敗してしまう。 エリシアの心は内心焦ってはいたが、努めて冷静であるように……母から昔教わった呪文の唱え方を何度も頭の中で再現しながら、詠唱を続ける。 「かはっっ!! 逃がさないっっ!! 絶対に……逃がさないィィィィィィっっ!!」  ラフェリアは徐々に固まり崩れ去っていく体に炎のような真っ赤なオーラを宿らせ、1歩1歩と崩れかけの脚を前に出し近づいてくる。  すでに脚と呼ばれる部位は形を成しておらず2本の棒が歩いているかのような悲惨な状態ではあるが、その脚で彼女は近づいてくる……光に包まれ始めたエリシアに誘き出されるかのように……。 「くっっ! なんてしつこいヤツなんだ!!」  脚でないもので歩きながら徐々に近寄ってくる崩れかけのラフェリアの執念に狂気を感じたレファは、エリシアの手を握りながら逆の手に拳を握り戦闘態勢を取る。  ナイフも銃もない彼女が頼れる武器は……もう拳しかない。腕っ節に自信があるわけではないが、何もしないよりはその拳を構えていた方が格好はつく。頼りになるものなど一つもないが……その構えをすることで気を紛らわすことだけはできる。 ――ガラガラガラガラガラ!! ドン! ドスン! ズズズズン! ズズズズズズズズズズ…… 本格的に崩落が始まった。 もう一刻の猶予もない。 天井の塊がまだエリシアの頭上に降り注いでいないのが奇跡なくらいだ……。 しかしラフェリアにはその奇跡は訪れず……最後の最後……あと数歩の距離まで歩み寄った段階で巨大な落盤に巻き込まれ下半身を潰されてしまう。 「ぐはっっっ!!? 許さないィィっっっ!! お前たちだけ逃がすなど……絶対に許さないっっっ!!」  下半身を失ったラフェリアはそれでもなお上半身を這いずらせ前へ出る。  左手はすでにマナと血が固まり既に動かせなくなっている。ラフェリアは地面に突っ伏しながらも辛うじて動かせる右手をエリシアの頭上に掲げ最後の自呪文を詠唱し始める。 「これで……終わり……これで……お前たちも……オワ……」  手のひらから弱々しい赤い光の弾が一つだけ放たれ、その弾が真っ直ぐにエリシアの頭上の天井へ命中する。  威力はさほどない魔法だが、いつ落ちてきてもおかしくない程地盤の緩んだ天井にその魔法はトドメを指してしまう。  ドンという鈍い音がしたとともに、寿命を早められた天盤が崩れるように崩落してくる。 「ま、まずっっっ!! エリシアっっ!!」 「お姉様っっ!!」 「エリシアさんっっっ!!!」   三人の声が同時にエリシアに届く。  それと同時にエリシアの目もグっと見開き、最後の詠唱を完了させる。  天盤は瞬く間に彼女達の頭上に降り注ぎ、そのまま立っていた床も崩壊させ地下の奈落へ全てを落していく。  ラフェリアは4人が無事に脱出したのか……それとも崩落に巻き込めたのか……その結果を知る術を持たなかった。  魔法を放った瞬間、全てのマナを放出し尽くし……顔も手も……分断された体も……全て石像のように固められ彼女の存在は永遠に消え去ってしまったのだから……。 部屋の崩落は彼女なき今もなお続き……白亜の聖堂は内側に凝縮されるかのように崩れ去っていった。 後に残ったのは…… 大破した教会の残骸と…… どこまで続くか分からない……深い深い……奈落の大穴だけだった。

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