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中編  女の合図で部下のメイド二人が私の足元に移動してきた。  靴を脱がされ、裸足の格好にされている私の足……。宙に浮く形となっている為足は地面についていない。メイド達はそんな私の足元で胡坐をかいて座り込み、宙に浮いている私の足の足首を掴んで私が足をバタつかせられないようさらに自由を奪っていった。  足裏に向けて構えられるメイドの手……その指がワキワキと蠢く様を見ると、急に下腹がムズ痒い感覚に襲われ背筋に寒気が走り始める。  何をされるかはもう分ってしまっている。分かっているからこそ、その指によって足を触られる想像をすると、どんな刺激が送り込まれてくるか理解出来てしまって余計にムズ痒く感じられてしまう。  くすぐり……  腋や足の裏を軽く触って思わず笑いたくなってしまう刺激を送り込む行為……  子供の頃に友達とかの間で悪戯の一環としてヤったりヤられたりした事はあったけど……大人になった今、それをやられた経験は皆無に等しい。  まさか敵地に潜入して捕まってそれをやられるとは露にも思っていなかったが……あの女はそれを拷問だと言って私を脅してきた。あの優秀なみどりをもこの拷問で壊したのだと言い張っている……。私にとっては……憧れのお姉さんを具現化したような先輩がみどりその人だったのだけど……そんな彼女が映像の中では確かに狂ったように笑い込んでいた様子が見て取れた。顔のドアップしか見せられていないから、彼女が本当にくすぐりだけでアレほど笑わされているのかと言われると疑問の余地が残るけど……それでも我慢強い彼女が笑っていたのは間違いない。だから、きっと彼女達のくすぐりは……物凄くくすぐったく感じるのだろう。みどりが笑ってしまう程なのだから…… 「フフフ……どう? 今から自分がくすぐられるって分かったら……余計に身体がムズムズしてきちゃうでしょ?」  私の前で腰に手を当ててニヤついて見せるボンテージ姿の女。私はそのニヤケ顔にイラつきを覚え、ついつい強気な言葉を彼女に返してしまう。 「別に? ヤるんならさっさとヤったら? あんた達の拷問ゴッコがいかにくだらないか……今から証明してあげるわよ」 「あら、強気で生意気ね? そういうの好きよ♥ その強気がいつまで続けられるか……見ものだわぁ~♥」 「フン! 馬鹿馬鹿しい……。こんな余興程度のお遊びに私が屈するとでも思っているのかしら? だとしたら頭の中がお花畑で出来ているんじゃないかってくらいおめでたいわね」  強気な発言を吐いてはいるが、内心は足首を掴んでいるメイドの手が気になって仕方がない。  まだ肌には触れていないが、彼女達の指は私の足裏を触るギリギリの所に留まって宙をコチョコチョとくすぐるフリを繰り返している。そのフリが近い将来送られてくるであろう刺激を存分に思い起こさせ、触られてもいないのに触られている感覚に近い感情を湧きあがらせてくる。  こそばくないハズなのに……こそばく感じ始めている……そんな異常な感覚が私を支配している。 「ウフフ♥ 貴女は“くすぐり”の事をお遊び程度としか捉えていないかもだけど……私やこのメイド達はくすぐりを“凶器”だと考えているわ」 「きょ、凶器!? くすぐりが?」 「考えても見なさいよ……こんな風に手足を拘束されればどんなに逃げようとしても彼女達のくすぐりから逃げる事は出来ないでしょ?」 「……うぅ……」 「子供の悪戯とかだったら身体を捻ったり抵抗したりしてくすぐりから逃れられるかもしれないけど……拘束されていれば話は別よ? 今の貴女は絶対に逃げられないの♥ どんなに逃げたいと思ったとしてもね……」 「うぐぅ……く……」 「足の裏はくすぐりの急所よ? くすぐり方を工夫すれば誰でも確実に笑わせる事が出来る……」 「な、な、なによ! 何が急所よっ! そんな言葉で惑わそうとしたって私は絶対に……」 「例えば……足裏にある母指球って言う膨らみ。この膨らみを爪の先で引っ掻くように触られたら?」 「ッっっ!!?」  ボンテージの女の言葉が合図となるかの様にメイドの二人がその通りの刺激を私の足裏に送り込み始める。  足の親指……その付け根付近に膨らんでいる母指球と呼ばれている肌の部位……そこを親指と人差し指を使って摘まむように……だけど摘まむほどの力は込めずあくまで爪の先で愛撫するように……コショコショコショと音を立ててくすぐり始める。 「はっっひゃ!? ヒニャッ!!?」  ゾワッと寒気が広がるような感触が足裏全体に伝わり、私はその刺激に思わず情けない悲鳴を上げさせられてしまう。 「フフフ♥ どう? この程度の刺激でも結構くすぐったいものでしょ?」  悲鳴を上げた後は声を我慢するように口を強く閉じ、込み上がってくる笑いの欲を喉奥に留めようとする。しかし、想像していた刺激よりも遥かにムズ痒くてもどかしいこの刺激に私の我慢は震えとなって限界が近い事をすぐに示唆してしまう。 「お腹の底からゾクゾク~ってする感覚……これがくすぐりを受けた時の最初に覚える感覚よ。でもこのゾクゾクはやがて貴女の心の奥に眠っている“笑いたい”っていう感情を呼び起こす事になるわ♥ その強制力は強烈よ? 脳の意思だって無視してソレを優先させてしまうんだから……」  ゾワゾワッ! ゾクゾク! ……足指付近から送られてくるじれったい刺激が私の笑いたい欲を刺激して口から吐き出させようと圧を掛けて来る。  私は必死にその感情を口を閉じる事で押し殺し、身体を震わせながらもこの刺激に慣れるタイミングをうかがう。 「なかなか頑張るわね? みどりちゃんはこの時点でゲラゲラ笑い始めちゃったけど……貴女はどうやらこういう刺激に少しは強いみたい♥」  本当は笑いたい。大笑いして我慢しているストレスを発散させてしまいたいとは思っているが、一度笑い出せばきっと歯止めが効かなくなってしまうのは目に見えている。一度このくすぐりに『笑う』という妥協を許せば、次に襲ってくるであろう刺激に抗えなくなってしまうだろう。そういう気がするから今はひたすら我慢するしかない。 「それじゃあ……こういうのはどう? 土踏まずの“周り”をコチョコチョ♥」  女がそう言うと、メイド達は母指球を二本の指で弄っていた指を足裏の弱点でもある土踏まずの箇所へと移動させた。しかし、肝心の土踏まずには触れようとせず、その周りの肌を触る為に手を大きく広げ指だけを曲げる格好を取り、弱点周りの肌をコチョコチョとくすぐり始めた。 「……ッっひ!? ハヒャッっっっ、うひぃぃぃぃっ!!?」  母指球の刺激にようやく慣れ始めたか……と思えた頃合いを見計らって責め方を変えたそのくすぐりに、私は再び甲高い悲鳴を地下室に反響させてしまう。  母指球のくすぐりよりも遥かにくすぐったい! 最も触れたくないと思っている土踏まずの箇所に触れる寸前の肌をコチョコチョされる刺激は、じれったさが最高まで高められ思わず吹き出してしまいそうになる。しかし、こんな所で笑ってやるわけにはいかないと必死に口角筋に力を込め引き出しそうになる笑いをどうにか喉元に押し留める。  もう笑ってしまいそうだ……  急所をまだ責められていないと分かってはいるのだけど……自分がメイド姿をした女達に足の裏をくすぐられていると意識すればするほどくすぐったさが増し勝手に笑いが込み上げてきてしまう。  こんな薄暗い地下室で……  手足を拘束され身動きが取れないようにされた私の事を……  靴も靴下も脱がされ裸足の格好にさせられている私の足の裏を……  見ず知らずの女たちがくすぐって私の事を笑わせようとしているのだ。そのシチュエーションに晒されていると考えるだけで可笑しさが込み上げてきてしまう。くすぐる事が拷問だと言い切っている彼女の言動にも可笑しさを感じずにいられない。そして、その言葉通りにくすぐりを実行されているという自分自身の境遇の異質さにも、真剣に任務に挑んでいたギャップも伴って自然と笑いが口から零れそうになってしまっている。  笑ってはいけない……絶対に笑ってはいけない! ここは敵地なのだ……可笑しくなど何もない!  笑って気を抜いてしまえば敵の思うつぼだ。敵は私を笑わせる為にこんな馬鹿みたいなことをしているのだ。彼女の思い通りに笑ってあげてはならない! 私の任務はみどりの安否を確認し、敵の秘密を暴く事……それが終わるまでは、笑ってなどいられない。  笑っちゃ駄目だ……絶対に笑っては…… 「コチョコチョコチョ……」 「こちょこちょこちょこちょ……こちょこちょこちょ……」  笑ってはダメだと自分に言い聞かせくすぐられている事を意識しないよう勤めようとする私に、二人のメイドが行為の擬音をわざわざ口に出し私に聞かせようとしてくる。その擬音を聞いてしまうと、せっかく意識の外に追い出そうとしていたくすぐったさの衝動も意識の中に戻ってきてしまって余計にくすぐったさを感じるようになってしまう。 「はぐっっっくっっふっ!! くっっっふっっ!!」  メイドの言葉の掛け方は指の動きと正確にシンクロしており、言葉が早くなれば指も素早く動くし遅くなれば指もゆっくりな動きに変わる。そして二人のメイドは同じ格好をしているがそれぞれ触り方や指の動かし方、擬音の発し方に違いがあるのが分かる。一見すると双子なんじゃないかと思える程外見はそっくりな二人だが、どうやらくすぐり方には個性がでるらしい……同じことをやっていても微妙に違うこそばゆさを足の裏に感じてしまう……  っと、そんなどうでもいい分析を行っていると余計に足の刺激に意識が向いてしまいこそばゆさが倍増してしまう。考えてはいけないと分かってはいるのだけど……良い歳の大人に「こちょこちょ」などという子供染みた言葉を囁かれると考えたくなくてもくすぐりの事が脳裏に浮かんで離れなくなってしまう。  こんなくだらない事を分析している場合じゃないのに……。それよりももっと脱出のための案を練ったり隙を作る為の策を立てておかなければならないという場面である筈なのに……。  刺激が私の脳を搔き乱してしまう。私の……冷静になろうと努力する思考をこの刺激は“笑いたい”という思考に塗り替えて邪魔をしてしまう。 「フフフ♥ 余程笑う姿を見られるのが恥ずかしいのかしら? 意地でも笑わないぞって顔で我慢しちゃってる♥」 「くっっふっ!! ふっ! くっっ……わ、笑わ……ない! 絶対にィ!? わ、笑わ……なひぃ……」 「そう? でも……口元はもう限界ッて感じで震えちゃってるわよぉ? ほら……頬の表情筋もこんなにユルユルになっちゃって……」  突然、ボンテージ姿の女が私の目の前まで近づき私の口の両端に人差し指を突き立てる仕草を始めた。そして丁度頬のえくぼが出来る箇所に指を押し当てると、その指で頬の肌をグッと押し上げ私の顔を無理やり笑顔の形に作り変えてしまった。 「アハ♥ 可愛い可愛い♥ これが貴女の笑った顔になるのね? 良いじゃない♪ とっても素敵よ?」  私はその瞬間怒りと恥ずかしさの熱が同時に沸点に達し、首を左右に激しく振って彼女の手から逃げ出した。そして手を振り切るや否や思わず叫んでしまった。このあまりにふざけ過ぎた行為に文句の一つでもぶつけてやろうと……笑いを我慢している事も忘れ叫んでしまった。 「あ、あんたっっ! ふざけるのも大概にっ……」  女は私が叫ぶのを待っていたのか、私が口を大きく開いて言葉を出し始めると部下のメイド達に即座に「今よ、ヤりなさい」と指示を出してきた。  その指示を受けたメイド達は、待っていましたと言わんばかりに足の側面をくすぐっていた手をすぐに中央に集め直して、足裏の急所である“土踏まず”の肌を一斉に全ての指蠢かせて本番のくすぐりを開始した。 「……い、ブヒャッ!? キひゃっっ!!? いひゃ~~~~~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、ちょ、いきなりズルいぃィぃィひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」  そのくすぐりが始まった瞬間、私はハッと我に返る時間すらも与えられず溜め込んでいた笑いを吐き出し始めてしまった。  一瞬怒りによって何をされたのか理解出来ない瞬間が僅かにあったが、その次の瞬間には脳内を“くすぐったい”という言葉で埋め尽くしてしまう程の刺激が足の裏に感じられ、私はその刺激に抗えず笑う事を余儀なくされた。 「アハハハ♥ そうそう、その顔ぉ♪ さっき作ってあげた笑顔にそっくりの顔になったじゃない♥ とっても素敵よ? 私はこういう顔を貴女にさせたかったのよぉ~♥」  一度吐き出してしまった笑いは……もう元には戻せない。  一度我慢が利かなくなった笑いは……もう自分意志では我慢し直せない。  私はまんまと笑わされてしまった。  成人し立派な大人になったのだと自覚していた矢先に、このような“子供の戯れ”の様な刺激如きに無様に笑わされたのだ……悔しくて堪らない。  敵にこんな無様な顔を見せてしまっている事が悔しくて……死ぬほど恥ずかしい。 「いい? ここからは正直に情報を吐くまでこの顔をさせ続けてあげるわ♥ さっきみたいなお澄まし顔とか不機嫌そうな顔が出来ると思わない事ね……あなたの顔は今から“笑顔”以外の顔は作れなくなるの♥ 勿論……微笑みとか苦笑とかそういう微妙な顔じゃないわよ? 今みたいに口を大きく開けて大爆笑してる顔がデフォになる。どんなに私達の事が憎くても……どんなに責めが辛くなっても笑い続けなさい? それがあなたに出来る唯一の感情表現になるのだから……」 「ギャ~~~ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ、くすぐったいっっひひひひひひひひひひひ!! あじの裏くすぐったいぃぃひひひひひひひひひひっひひひひひひひひひひひひひ!! だはははははははははははははははははははははははは」 「くすぐりの事を“馬鹿みたい”って笑った貴女にはお似合いよね? そのくすぐりに存分に笑いを搾り取られるといいわ♥ 本気の笑いをね……」  必死に足をバタつかせようと試みるが、足の枷が動きを封じてしまいそういう動きを自由にはさせて貰えない。出来る事と言えば足の指をジタバタさせる事だけなのだけど……それをしたところで足裏のくすぐったさが緩和される事は一切ない。  しかし、無駄だと分かっていてもどうしても足指は勝手にジタバタしてしまう。私の意思とは無関係に……身体が拒否するように足指は勝手に動いてしまう。 「コチョコチョコチョコチョコチョ~♪」  右の足を担当しているメイドは、くすぐっている事をさも楽しんでいるかのように軽快に指を素早く上下させ私の土踏まずを全ての指を使って蹂躙している。 「こちょこちょ……こちょこちょ……こちょこちょこちょ……」  一方、左の足を担当してるメイドは、人差し指だけをコチョコチョ動かして引っ掻いたり撫でたりを織り交ぜつつ土踏まずの急所をピンポイントで触り私を笑わせて来る。 「だぁ~~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、うはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、ヒィヒィ! ぃひ~~っひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ……くすぐったいぃぃひひひひひひ!! ホントにくすぐったいってぇへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  くすぐり方の違う二人のそれは、今まで私が味わった事のないくすぐったさを足の裏に植え付け私を無条件に笑わせてくる。  触れられる度に足裏に広がるゾワワっとした違和感が嫌悪感と拒否感を同時に生み、私の脳を混乱させやがて笑いに昇華させそれを吐き出させてくる。私はそれに抗う事が出来ず、意志とは無関係に盛大な馬鹿笑いを口から吐き続け情けない姿を女達の前で晒してしまう。 「そろそろ苦しくなってきた頃合いじゃないかしら? どう? 笑いが連続しちゃうと……息がし辛くなるから呼吸が苦しいでしょう?」  女の言う通り……私は今、息がし辛くて苦しと思い始めていた所だ。  笑うという行為は溜め込んでいた酸素を吐き出す行為にも繋がる。だから笑いが連続すると息を吐く行為の方が多くなってしまい、しっかりと空気を吸うという行為が出来なくなる。  笑いと笑いの僅かタイミングでしか酸素を吸えないのだから……肺は酸欠になり易くなってしまうのだ。  吐く量に比べ吸う量の方が極端に少なくなる為肺には僅かな酸素しか溜められなくなる。しかもその僅かな酸素も次の笑いが起これば全部口外へと吐き出されてしまう為余計に酸欠が強まる事となる。  時間が経つにつれ息苦しさは増大していく。笑う事で体力も使っているのだから酸素を吸う力すらも徐々に奪われていく。そうなれば更に酸欠が強まり余計に苦しくなってしまう……  でも、苦しいと思っていても笑う事がやめられないのだからさらに苦しい思いをしなくてはならなくなる。  負のループに陥っている。  藻掻けば藻掻くほどに沈んでいく底なし沼の様に……笑えば笑う程苦しくなるくすぐり沼に私は落とされていく。 「わ、わ、わがっだぁぁははははははははは、わがっだ! くすぐりがヤバいのはわがっだがらぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、一旦止めて! 苦しいから一旦止めてぇっへへへへへへへへへへへへ、えへ、えへ、えへ……」  くすぐったい刺激というのがどれだけ自分にとって凶器となるかコレで分かった。こんな事を続けられれば……そりゃあみどりのように自白に至ってしまうのも頷ける。  これが続くとヤバイ……そう思ったから一旦くすぐりを馬鹿にした事は訂正する事とした。  くすぐりがヤバイ事だけは認めて少しでも休みを入れて貰う事を狙った……。だけど…… 「一旦止める? 何を言ってるの? くすぐり責めっていうのは苦しくなってからが本当のスタートなのよ? 苦しくなったからやめてあげるのはただのプレイ……でもこの子たちがヤってるのは正真正銘の拷問よ? こんな少し苦しくなったくらいで辞めてあげる訳が無いじゃない……ねぇ?」 「はい……お嬢様。こんな事で音を上げられては困ります。責めはまだ始まったばかりなのですから、もう少し頑張って頂かないと……」 「私達の挨拶代わりのくすぐりでギブアップされちゃ敵わないですよねぇ? お嬢様のくすぐりの方がヤバいのに……これじゃお嬢様の出番が無くなっちゃいます♪」 「本当よね? あの足弱なみどりちゃんでさえ2日間は強気を保ってくれていたというのに……貴女ときたらこの程度の事で“止めて”なんて懇願しちゃうのね? ちょっとプロ意識が希薄なんじゃない? あなた……」 「はぁはぁ、ヒィヒィ! あひひひひひひひひひひ、くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、んえへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! だ、だってぇへへへへへへへこんなに苦しくなるなんて思ってなかったぁぁはははははははははははははははは!! 思ってなかったからぁははははははははははははははは!!」 「苦しくても辛くても敵に情報を喋らないで毅然とした態度を取るのがスパイの役目でしょ? それが何? ちょっと苦しくなったからやめてと懇願するの? それはどうかと思うけどなぁ……」 「う、う、うるさいぃひひひひひひひ!! あんたにそんな事言われる筋合いないれひょほほほほほほほほほほほほほほほ、くははははははははははは!!」 「貴女達スパイが情報を盗むプロだとするなら、私達はスパイを自白させるプロなの。そんな私から言わせて貰えば、あなたにみどりちゃんと同じ3日もかける必要なんてない……今日この一日だけで自白させてやるって自信を持って宣言できるわ♥」  その言葉を女が零すと、タイミングを計ったかのようにメイド達のくすぐりが一旦止まった。  私はようやく訪れた呼吸のタイミングにゼェゼェと息を切らせながらも大きく口を開き今まで吸えなくなっていた酸素を必死に肺に取り込んでいった。 「ゼェゼェ……はひ、はひぃぃ……ひぃ……ハァハァハァ……ゲホゲホゲホ、ゲッ……ぉハァハァハァ……」  額には滝のように汗が垂れ落ちて行っている。涙と涎がどちらか区別つかないほど口の端で合流し顎のラインまで伝い流れている。  酸欠と涙で視界がぼんやりしていて周りの景色がハッキリしない。  視界はハッキリしないが、目の前に居た筈のあの女が私の視界から見えない位置に移動しているという事は知覚できている。  私が呼吸を必死に行っている間に彼女は何処へ行ったのか? 実はその答えは私が一番よく分かっている。  彼女は私の背後に立ち直しているのだ。地面を歩く度に鳴るヒールの音と、彼女独特の甘い呼吸音が背中の後ろから聞こえそう判断できている。  彼女は歩きながら腕まで覆い隠していたラバー製の黒くて長い手袋を脱ぎ、それを床に捨てて私の背中に近づいてきた。  長い手袋が床に落ちるとパサっという重みのある湿った音が私の耳に届けられた。  手袋を脱いだ女は生身になった手を前に構えながら宙をくすぐる様に指を動かして近づいてきている。そして彼女の胸が私の背中に当たるんじゃないかという程距離を詰めて来た彼女は、動かしていた手を私の胸の横からニュッと出して見せ、私の目の前でも同じように手を蠢かせて見せ始めた。  これから私の背後からナニをしようとしているかを示唆するかのように……  彼女が私の何処をどんな風に責めるかを私に教え込もうとする様に……  コチョコチョと動く指はゆっくりと私の胸を目掛けて着地しようと動き出した。勿論彼女が狙っているのは私の貧相な胸などでは決してない。その胸を通り過ぎた先にある第二の弱点部位の方が本命の狙いだ。  足の裏をくすぐったのであれば次はココでしょ? と言われなくても理解出来てしまう場所……  タンクトップの袖から露出していて無防備に晒されてしまっている……こういう刺激に弱いとされている箇所……  正直……私は、ココを触られると想像が行き届いただけで刺激の想像で頭が埋め尽くされ今にも笑いだしそうな顔になってしまっている。  みどりは足の裏が弱いと彼女達がすぐに見抜いたのであれば……私は“コッチの方が弱い”ときっとすぐにバレてしまうだろう……。  それくらい……コッチを刺激される事には苦手意識を持っている。ココを触られると想像すると鳥肌と震えが勝手に湧きあがってきてしまう。  私は必死に嫌がる様に身体を左右に揺らして彼女の手の接近を拒んだ。しかし彼女の手は胸の横を通り過ぎると一直線にタンクトップの袖の方へと降下していき、私のナマのワキ目指して指を蠢かせながら接近していった。  触る直前に彼女は背後から囁くように私の耳に声を入れる。  私はその声を聴いて思わず「ヒィ!」と声にならない悲鳴を小さく上げてしまう。  彼女は私の耳奥にこの様に囁いた…… 「私のワキくすぐりは……息が出来なくなるくらい笑い狂う事になると思うから……覚悟してね♥」と。 →後編へ続く

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