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#30  頭にはヘッドマッサージャーの不快なこそばゆさ……  目の前には“くすぐって下さい”と言わんばかりに無防備に晒してある七穂のワキ……。  正直、頭を襲う嫌悪感のせいで自制心のタガはいつ外れてもおかしくない状態まで追い込まれる事になったが、やめさせようと手を伸ばそうとすると頭の中に強く“触ってはいけない!”という自分の声が響き、寸前の所で七穂のワキに手を出さずに済んでいる。  何度も何度も手を出そうか出すまいか……という自問自答を繰り返し、その度に手を伸ばそうとしたり引っ込めたりを繰り返していた。  触ってしまえば自分で抑えつけている欲望が解放され快感という名の褒美を受け取る事が出来る……と、分かってはいるのだけどその一瞬のご褒美を受け取る為に今までの苦労を水の泡に帰すのは勿体ない。折角歯を食いしばって我慢してきた思いがこんな事で無駄になってしまえば、次に同じ機会が訪れれば必ず欲を抑えきれずに快楽のままに手を出してしまうという“我慢できない人間”に成り果ててしまいそうだ……  だから、ココは意地でも我慢を続けなければならない。そんな情けない人間だと七穂に思われたくないから……この誘惑にも絶対勝たなくてはならない!  欲に傾きそうな心をそのような言葉で強く戒め、そしてあなたは七穂の悪戯に対して拳に力を込め目を瞑ってジッと我慢する選択肢を選んだ。  その選択を邪魔しようと七穂は何度もヘッドマッサージャーを抜き差ししたり、ワザとらしくワキをあなたの顔に近づけさせて触らせようと誘惑してきたが……あなたは鉄の意志を貫いてその誘惑を耐えきって見せた。  七穂があなたの意志が強い事を悟って誘惑を諦める頃には、あなたはマラソンでも走ってきたのかと思う程に息切れを起こし心身ともに疲弊しているのを自覚した。  握った拳は自分の爪が食い込んでいて手のひらに爪の跡がまばらについているし、食いしばった歯は途中唇までも噛んでいて下唇が歯の圧力によってうっ血してしまっている。  それほどまでに我慢したのだから、七穂の悔しがり様は先程までの比ではなかった。  多分……この雑貨屋のくだりで勝負をつけてやろうと考えていたのだろう……終わった後も「何で我慢出来ちゃうんですかッ!」とか「こんなに恥ずかしい思いを押し殺して誘惑したのにぃ!」などと理不尽な不満をあなたにぶつけてきている。  彼女も彼女でこの誘惑に自信があったに違いない……  こういう事をすればあなたが欲に逆らえないだろうと計算して行ってきたに違いない……  しかし、あなたの自制心はそんな計算をも凌駕する程七穂に対して強い意志を示した。  誘惑を最後まで耐え切れれば貰えるご褒美……“七穂を自分の好きなようにしていい”という権利……それを目指して今までの誘惑を耐え忍んできたのだから我慢できないはずはない。  だけども……もし、この誘惑が最初に行われていたなら……我慢出来ていたかは自信はない。  今までの積み重ねがあったからこそ耐えられたと言っても過言ではないのだから、この様な強烈な誘惑が最初に行われていたなら……正直「ちゃんと我慢できた筈だ」と胸を張って言えはしない。  段階的に誘惑の刺激を強くしてくれたからこそ……今回の誘惑はどうにか耐える事が出来た。  今まで耐えてきた我慢を無駄にしたくないという思いがあったからこそ……我慢出来たとも言える。  あなたはブリブリと文句を垂らしている七穂に向かっては「余裕だった」などと強がった言葉を返してはいるが、内心はそのようなギリギリの心境であり余裕など微塵もありはしない。  あなたのその態度に七穂は頬を膨らませながら可愛く怒りを露わにするが……店を出て映画館の方に向かって歩み出すと、徐々にその態度も落ち着きを取り戻していき…… 「最後の映画館で……絶対手を出させてやるんだから! 覚えておいてくださいね!」  と強がる言葉を吐いてあなたの腕に手を回して腕を組みながらその映画館の方へとあなたを引っ張っていった。  別に急ぐほどの時間ではないが、腕を引く力は強くあなたを急かしているかのように足早に入口へと向かって行った。  映画館につくと、七穂は予約した券売機から整理券を2枚購入し、その内の1枚をあなたの手に渡してきた。  国内興行収入ナンバーワンのSS級アクション映画……そのチケットで見れる映画は広告などでその様に煽られていたのを覚えている。  特に活発な性格とかではない七穂だが映画やドラマに関してはこのようなジェットコースターのようなアクション映画が大好きなようだ。人が死ぬようなバイオレンスなシーンでも、血を流しながら殴り合う壮絶なシーンを見ても興奮できるという……何とも血の気の多い彼女なのだが、それは普段の清楚な振る舞いからは想像も出来ない。  大人しいを地で行く彼女がなぜ映画となればこのような激しい映像を好むのか……理解に苦しむ所だが、きっと彼女の内に秘めている情熱的な物は実は熱いモノがあるのではないかと窺い知る事も出来る。  清楚にしている外面は余所行き用の作っている彼女であり……本当はこの様なショッキングな映像を好む性格を隠し持っていたのかもしれない。  あなたの前だからそんな地を見せてくれている……  そのようにあなたは都合よく解釈をしようとするが、これが七穂の地であるかどうかなど本人に聞いていないのだから真実を知る由もない。  映画の好みは性格など関係なく分かれるものだし……その時期などで見たい映画の内容も変わってくるものだ……  だから、今はたまたまアクション映画が見たい時期なだけであって……決してあなたに自分の地を見せたくてこの映画を選んだわけではないかもしれない。  真実は七穂のみが知る闇の中……だが、彼女はどうやらこの映画にした理由は“見たかった”という理由以外にもう一つあったようで……  この休む暇もない程に騒がしいアクション映画にしたもう一つの理由は、実際にその映画が上映され始めてから徐々に明らかになっていく。  薄暗い映画館で、肘置きやドリンクホルダーの無いカップル用の座席に横並びに座るあなたと七穂……  手を繋ごうと思えば何の苦労もなく手を出し合えば繋げるし、それ以上の事もやろうと思えば簡単に出来てしまう。  肩が触れ合う様な距離感だし少し身体を寄せれば七穂の腕にだって触れる程隙間は空いていない。  そして……ちょっとやそっとの声を出しても周りのお客さん達にバレない程の激しいアクション音が映画の最中ずっと鳴り響いている……  そんな状況になる事を簡単に予測できるこの映画を……七穂が何も考えずに選ぶはずはない。  勿論、この映画館でも誘惑を行う事は決定事項だった筈だ……  デートの最後……彼女と隣同士で見る騒がしい映画……  そういう雰囲気の場で最後にあなたを試そうとしている……  本当にこういうシチュエーションになっても最後まで我慢できるのか? あなたはちゃんと最後まで約束を守れる人間なのか? を……。  今までは人の目を気にしなくてはならない場所が主であり、わりかし明るい“公共の場”という雰囲気での誘惑だったが……映画館の中は全く違う。  二人の空間が用意され……他人の目が届きにくくなるように部屋全体が暗くされている。  そんな“二人だけ”を意識させられる雰囲気で……七穂はどんな誘惑をあなたに仕掛けようと企んでいるのか? その誘惑に果たして最後まで手を出さず我慢する事など出来るのだろうか……  ポップコーンとジュースを無邪気に注文する七穂の後ろ姿を見て、あなたはそのような不安を何度も脳裏に巡らせた。  お客さんの少ない映画館の最後列のカップルシートで……彼女は最後に一体どんな誘惑をあなたに仕掛けて来るのか?  何が行われるか想像は出来ないが……七穂があなたの為に策を練って誘惑してくると考えると、それはそれで妙な期待を頭の隅に浮かべてしまう。  思わずくすぐりたくなるようなハニ―トラップを七穂がどう仕掛けて来るか……不安であり楽しみでもある。  あなたはその様などっちつかずの心持ちを浮かべながら、ポップコーンは注文せずMサイズのジュースだけを注文して七穂と共に映画館の中へと入っていった。  劇場型を形作る段々に配置された座席たち……  その間の通路である階段を1歩ずつ上がりながら七穂の背中を見て期待の生唾をゴクリと飲み干す。  あなたにとってこの“誘惑デート”は罰である事には間違いないのだが……ここまで誘惑されたからこそ改めて思う。  あなたの我慢を削ぐためにあれやこれやと考えを巡らせて誘惑してくる彼女のいやらしさは……今まで知り得なかった七穂の別の一面を垣間見ることができ、そういう事をしてくる彼女も魅力的だと思えてしまう……。  そんな事を考えていると、いつの間にやら一番上段にある最後列のカップルシートへとあなたは辿り着く。  先に座った七穂は右側に座り、続いてあなたはその隣である左側に腰を落ち着かせる。  二人の間には腕を置くための腕置きも、ジュースを置くためのホルダーも無く完全に二人掛け用のソファーのような造りになっている。  しばしの間別映画のCMや映画館の注意事項を映像で流した後、いよいよ館内の照明が落とされ足元の小さな非常灯だけを残して程よい暗闇が七穂とあなたを覆っていく。  そして映画の始まりを示すブザーが鳴り響くと……  そのブザーを合図に七穂もあなたに誘惑の始まりを伝えるべく大胆な行動を起こし始めた。  あなたの肩に左腕を回し……反対側の肩をつかんで自分の方にあなたの身体をグッと寄せると、おもむろに履いていたサンダルを片方脱いで、片方の脚だけで胡座を組む様な姿勢になってその素足の足裏をあなたに見えるように晒し始める。  そして身体をグッと近づけさせた勢いと共に、あなたの耳元に口を近づけさせた七穂は……  あなたに向けて衝撃的な言葉を小さな声で囁くのだった…… 「手を置くだけなら……触っても良いですよ? 私の……足の裏に……」と。 →#31へ

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