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1:人間発電所  あいつらは……  ……この収容施設の事を“ヒューマン・パワープラント(人間発電所)”と呼んだ。 ――ピィ、ガガガ…… 『Fuel No……3523~3573マデ、B発電ノ時間デス。速ヤカニ、発電衣ニ着替エ、発電区画Bへト、集合スルコト』  ここに収容された私達“人間の女性たち”は名前で呼ばれる事はなく……奴らに“Fuel(フェル)”という統合された名称で呼ばれ、個の判別は“番号”によって管理される事となっている。 『発電規約27条―第3項ニヨリ、Fuelニハ20時ヨリ、1時間ノ、発電作業ガ、義務付ケラレテイマス』  フェルとは……燃料という意味を持っている。  奴らがこの施設を“発電所”と呼称している事からも分かる通り、奴ら(ロボットの看守達)にとって私達の存在というのは……奴らの活動源である“電気”を生むための、ただの“燃料”に過ぎないのだ。  それがFuelという言葉の意味であり、私達が置かれている境遇を端的に表している表現に他ならない。 『20時ノ発電開始ニ、間ニ合ワナカッタ場合……発電規約ヲ破ッタト、ミナシ、厳重ニ処罰致シマス』  この発電所に……私たち女性のフェル以外の人間は……存在しない。  私たちを管理しているのは……全てがオートメーション化された収容施設と、高度なAIが備わった人型のロボットたちだけなのだ。 『マタ……Fuel三原則ニ、違反シタ場合モ、程度ノ差ニヨリ“廃棄処分”ヲ、行ウ可能性ガアリマスノデ、クレグレモ行動ニ注意クダサイ』  この発電所はなぜ作られたのか……  なぜ機械が人間を管理するという理不尽な体制が敷かれているのか……  なぜ女性しかこの施設に居ないのか……  施設の外はどうなっているのか……  それらの事は一切分からない。  いや、分からないというより……覚えていないのだ。 『Fuelニ思考ヤ思想ノ自由ハ与エラレテイマセン。特ニ……発電所、及ビ我々ニ対スル抵抗、反逆ヲ意図スル思考ヲ、首ニ装着シテアル思考読ミ取リ機ガ検出シタ場合、厳重ナ罰則、ガ加エラレル場合モ、アリマスノデ、合ワセテ注意ヲ、オ願イシマス』  いわゆる記憶喪失と呼ばれる奴で……私はこの施設に入る前の自分の事を何一つとして覚えていない。  私のぼんやりした意識がはっきりし始めたのは、既にこの発電所の中だった。  首にこの“思考読み取り機”とかいう首輪を取り付けられた所からしか私には記憶がない。  自分の名前も……自分の年齢も……生まれは何処で、どんな幼少期を過ごしてきたのかも……  どんな学校を出てどんな仕事に就いたのかも……いや、そもそも自分が成人しているのかどうかすら思い出すことが出来ない。  でも、毎日綺麗に手入れをしていたであろう肩まで伸ばしてある茶色い髪や……手足の爪にマニキュアやペディキュアを塗った跡が見られたり、片耳にはピアス穴があけられてあったりと所々に記憶を失う前の私が自分の体裁を気にしていたであろう様子が伺える。  だから恐らくハタチかその近辺くらいの年齢であろう事は推察できるのだけど……しかし、どんなに自分の姿を鏡で見ても、それが本当に自分であったのかどうかすらも覚えていない為、鏡に映る人物が見ず知らずの他人に見えて仕方がない……  自分が自分である事を忘れているというのは……痒いのに掻くことが出来ない虫刺されの様にもどかしく……まるで目の前に映っているコップが透けて手に取れなくなっているかのように虚空を掴んでるような感覚に陥ってしまう。  自分が一体何者で、どんな事をしてきた人間なのか……それを思い出さなくていけないと思う一方で、何か恐ろしい事をしでかしてココに入れらえたのではないかと不安も浮かんでくる。  親の顔も、兄弟姉妹が居たかどうかも……友人や知人が何人いたか等……思い出したいと願う物事は多々あれど……自分が何者であったかを知らない方が賢明なのではないかと思う自分もいる。  果たしてこのまま記憶を失ったままの自分で良いのだろうか? それとも思い出さなくてはならない事象が有ったりするのだろうか?  今はその狭間に気持ちが揺れており、私は複雑な心境を抱えたままこの発電施設の“日課”をこなす事を余儀なくされている。 『プラントニ入ル際ニ説明シタ通リ、思考読ミ取リ装置ヲ外ソウトシタリ、一定以上ノ衝撃を加エヨウト試ミタ場合、即座ニ警備ガ駆ケツケ、懲罰発電……モシクハ悪質ナ場合ハ廃棄処分ニ処サレル場合モアリマスノデ、取リ扱イニハ十分注意シテ下サイ』  でも……そんな記憶を失った私だけど……実はある“出来事”を境にいくつか戻ってきている記憶も存在している。  そのある出来事とは……施設に入った時に最初に無理やり付けられた……この“人の思考を電気信号に変えある程度読み取る事のできる”首輪のような装置……コレを私はこの施設で初めて見る事になったはずなのだが……その首輪を首に装着された瞬間……なぜかその首輪に“以前どこかで付けた事がある”という感覚が宿り、そのまま同時にいくつかの記憶がフラッシュバックして蘇ってきたという出来事があった。  その時フラッシュバックしてきた一部の記憶の中に、この装置を手に持って自分の首に巻き、何やら黄色いカードを手に持って首の裏にあるカードスロットに差し込んでいる自分の映像が鮮明に蘇ってきた。  確かにこの装置……首の裏部分にカードを挿入できる細長い穴が存在しているのだけど……なぜその首輪を自分で付けてそのカードを差そうとしていたのか……そしてそのカードが何の役割を担っているのかはまでは残念だが全く覚えていない。そこで記憶は途切れてしまっていたのだから……思い出しようが無いのだ。  それをなぜ急に思い出せたのか……いや、そもそもなぜ記憶を失う事態になったのか……そこら辺の謎が分かっていないが故に自分の不気味さに拍車をかけてしまっている。  だから最近では考えないようにしているのだけど……  実は……不可解というか、気味の悪い記憶の断片的なものは他にもフラッシュバックした時に戻ってきていて……  その中でも最も印象的な記憶が……今も目を閉じれば鮮明に思い出すことが出来る。  それは……自分がどこかの廊下を歩いている映像で、自分の目の前には白衣を着た金髪の女性が歩いている。そして……私はその女性に“博士”と呼び掛けるという実に短い映像の記憶だ。  博士と呼ばれた女性は私の声に反応し立ち止まって振り向こうとしてくれるのだが……記憶の映像はそこまでしか思い出せずその女性の顔を思い起こすことは出来ていない。  私が“博士”と声を掛けているのだから……この金髪の女性と私は知り合いか何かだろうと推察できるけど……私がどういう立場で彼女をそう呼んだのか……そして彼女はどういう分野での“博士”なのか一切分からないものだから……結局これも私にとっては薄気味悪い記憶の断片だと思わざるえない。  他にも……何らかの設計図らしきものを見ている私に、指を差しながら“2階トイレの一番奥の個室”と言葉を掛ける低い声の女性を断片的に覚えている。  私が見ているのが何の設計図であるのかはよく覚えていない。  この“発電所”の設計図なのか……それとももっと別の施設の設計図なのか……その大事な部分はごっそりと記憶から抜け落ちてしまっている。  設計図の図面も緑色の線ばかりが描かれた色味も何もない青写真の様な設計図であったため、それがどのような外観の建物なのかすらも読み解くことは出来ない。  ただ……“2階のトイレ”というフレーズは何やら無視でしてはいけないような気がしてならない。  それを発した低い声の女性が誰なのか……それも分からないし、そもそもどういう場面でコレを私に伝えたのかこれだけでは推察など出来やしないのだが……女性の発した声のトーンは真面目で重い感じに話をしている雰囲気があり、何か大事な事を私に伝えている途中ではなかったのだろうかという事だけは感じ取っている。  もしも彼女の言う2階のトイレが……この“発電所”のトイレであるのなら、行って調べてみたいとも思うのだけど……残念な事に私にはそのトイレを探す事も、行く事も、調べる事も出来る状況に置かれてはいない。  この施設は階を跨いでフェル同士が交流するのを禁じているらしく、居住区画の有る1階と2階を行き来するための階段は電子ロックで封鎖されており簡単には入れないよう施錠されてしまっている。  私の収容されている階は1階である為……この電子ロックを破らない限りは、2階にあるとされているトイレには近づく事はおろか調べる事すらも出来ない。  電子ロックを開けようと試みれば……当然のことながら警備ロボがやってくるだろうし、そもそもロックを解除してやろうと考えてしまっただけで例の“思考を読み取る首輪”に感知され捕まってしまう事だろう。  だからどの道……このトイレに何か大事な物事があると分かったとしても……私には行きようが無いのだ。  まぁ、とはいえ……この発電所のトイレを言っているとは勿論限らない。  なにせ……この蘇ってきた記憶はどれほど前の記憶かも分かっていないのだから、もしかしたら自分の通っていた学校のトイレだったのかもししれないし……下手したら病院とか公共施設のトイレの事を言っていた可能せいだってあるのだ。  だからまぁ……この記憶はあまり気にしないようにしている。  トイレの件はまぁ……ココに入れられる前の記憶であるから発電所内のトイレである可能性は低いと踏んでいるのだけど、私の記憶の中にはまだ一番不可解であり一番気になっていると言っても過言ではない記憶が存在する。  それが私の思い出せる最後の記憶であり、最も意味不明な記憶だと言えるのだけど……  実はこの記憶……映像として浮かび上がってきておらず、私が誰かに話しかけている言葉だけが記憶として蘇っている。  その言葉というか……セリフがかなり意味不明であり……気になる内容で……  多分、部屋かどこかで誰かと話をしているシーンなのだろうけど、私はその話し相手に対してこの様に告げているのだ…… 『分かったわ……。じゃあ……私が7日後の23時丁度に、“で』  コレを聞いて……何の事か分かる人間が居るだろうか? 話の途中である事はまぁ分かるのだけど……『“で』って言いかけている所で途切れているというのが恐ろしく中途半端で何かしらの悪意さえも感じてしまう。そこまで言いかけたなら最後まで覚えていろよ! と過去の自分に怒鳴りたくもなるのだけど……でも、覚えているのは本当にこれだけなのだ。  私が何かを納得して『分かったわ』と言って……それから日付と時間を告げ……最後は『で』の続きを言いかけて記憶は途切れている。  コレを自分が発している……と、考えると……何やら自分でも良く分からない事件に巻き込まれているのではないかと不安になるのだけど……  いや……まぁ、もう巻き込まれていると言わざるをえないか……。なにせ、こんな地獄のような施設に……私は収監されている訳なのだから……。  何かの陰謀か……それとも誰かに陥れられたのか……  実は外では戦争が起きていて、私は敵国の捕虜にされここに入れられたのか……もしくはどこぞの金持ちに奴隷として買われていて……余興の様な感覚でこのような場所に入れらえたのか……  自分の状況は、このような中途半端な蘇りをした記憶達では一切分からないが……とにかくここは地獄だ。  発電所とは名ばかりの拷問施設である……と、ココで3日目過ごし終えようとしている今の私なら言い切れる!  なぜならココは……  私達人間の女性を……人間として扱ったりはしないのだから……  奴らの言う発電とは……そういうモノなのだから…… 『発電開始マデ、2分ヲ切リマシタ。Fuelハ速ヤカニ所定ノ“発電カプセル”ノ前ニ立チ、履物ヲ全テ脱ギ素足トナリ、床ニ描カレタ白イ足型ニ両足を収メテ、待機シテイテ下サイ』  発電カプセル……奴らがそう呼ぶラグビーボールを人のサイズまで巨大化させたかのような形状の透明な見た目のそれが……私達を……日に2度……地獄に落とす。  奴らが発電だと言い張っているのだから……百歩譲ってこの行為を発電だとみなすとしても、元来“電気を生む”という行為は、人間のより良い暮らしを実現する為に機械が人間の為に発電を行っていたというのが本筋というものだ。それがココはどうだ? なんの冗談かと思えるくらいに綺麗に立場が逆転しており……機械が人間の管理を行い、その機械の為に人間が発電機に入れられ発電を強要されているという構図が成り立ってしまっている。  しかもこの発電という行為……  人間の尊厳を完全に無視したかのようなふざけた発電の仕方を強いて来る。  発電所と聞けば火力や原子力……水力、風力、波力と様々な種類が存在するが、それらは一様に発生したエネルギーにて巨大なタービンを回し電気を生むという流れを汲んでいるだろうが……ここの発電システムは似ているようで少し違う。  仕組みは詳しくは分からないが、この発電所では人の“声”をエネルギーに変換し電気を得ようとしている。  人の声とは……喋ったり叫んだり泣いたりするときに出るあの“声”である。  声と言っても色んな種類があるとは思うが……例えば、囁き声やヒソヒソ声……そのような小さな声の出し方ではこの発電には向かない。もっと大きく……甲高い声がこの発電には必要なのだ。  それは……悲鳴……怒鳴り声……叫び声……そういう声に近いのだけど……  私達にこれから上げさせようとしている声はそのような感情の起伏によって思わず出るような一時的な声などではない。  怒りの感情や恐怖に叫ぶ声などはその一瞬の出来事に声の沸点は高まるが、それを継続して出させようとするには無理が生じる。  痛みによる悲鳴の搾取だってそうだ……身体を痛めつけて出させていればやがて体にも限界が訪れ、すぐに別の人間を補充しないといけなくなるだろうから効率が悪い方法となってしまう。  それに比べて……コレは、もっと手軽に……もっとFuelのダメージも少なく抑えられ……簡単に声を絞り出させることが出来る。  このカプセルにはそういう装置が多数設置されているのだ。  その為に作られたであろう……マシンなのだから…… 『Fuelナンバー3543。立チ止マラズニ速ヤカニ裸足ニナリ、足型ニ足ヲ乗セナサイ。抵抗スルヨウナラ、発電所規約32条2項ノルールニ従イ、貴女ヲ……』 「あぁ、はいはい! 分かってます! 今脱ぎますよ、脱げばいいんでしょ? 靴と靴下を! 全く……」  布面積の殆どない“発電衣”とかいう真っ白な服に着替えさせたかと思えば、今度は靴などの履物を全部脱いで裸足になるよう指示を下す機械の看守たち……。しかしこの行為は、発電を行う為に必ず済ましておかなければならない“前準備”でありこの指示に逆らえば恐ろしい懲罰が待っている。  裸足になり、足型の上に両足を揃えて乗せると……センサーが作動し目の前の発電カプセルの屋根部分がオープンカーの可動式の天井の様に上に開いていく。  元々透明の天井であったため中の様子は外からも確認できていたが、蓋が開くと「いよいよ始まってしまう」という緊張感が高まり、額に嫌な汗をかき始めてしまう。  一つの部屋には横一列で多数のカプセルが並べられており、その一つ一つに16歳くらい~25歳前後までの若い女性達が裸足になり立たされている。  この光景を見る限り、極端に若い女子であったり極端に高齢の女性というのは存在せず……皆私と同じくらいか少し下くらいの若い盛りの女性ばかりがこの施設では集められている。  なぜこのような偏った年齢の女性しか集めないのか……  それは恐らく……体力や声力の質に関係する部分なのだろう。  声帯が未発達の女児には発電に必要なエネルギーが発生できないケースが多いだろうし……女児や高齢の女性では恐らくこの発電は耐えられない。  だから最初から“若くて声の出る女”を対象に収監しているのだ。  十分な発電量を得る為だけに…… ――ジリジリジリジリジリ! ジィィィィーーーーーーーッ!! 『時間デス。Fuelハ、速ヤカニ、カプセルノ中ニ入リ、仰向ケニ身体ヲ寝カセ、型ノ通リニ手ヲ頭上ニ上ゲ足ヲ開キ待機シテイテ下サイ』  20時のベルが鳴り、機械の看守が私達にカプセルに入る様にと指示を下す。  カプセルの中には女性が手を万歳して脚は肩幅に広げるという間抜けな形をした金属製の“型”が配置されており、私達はその型通りに手を頭上高く上げ脚を少し広げた格好で入らなくてはならない。  この間抜けとも思える格好こそが……この発電には重要な要素となるのだが……。  これから何が行われるか知っている私達からすると、この万歳の格好をするという行為自体がトラウマになっており、正直自分の力で手を挙げるのも……かなり勇気が居る作業となってしまっている。 「ひっ!? い、い、嫌! もう……こんな事するの……いやっっ!! 許してっっ!!」  私の隣に立っている女性は、その型を見るや否や顔を真っ青に染めカプセルから後退ってしまう。  そのまま後方に逃げ帰ってしまうのではないかと思えるくらいに身を引いた彼女だったが、そんな彼女に警備のロボットたちが次々に駆けつけ……彼女の手足を鋼鉄製の手で掴み後ろへ逃げようとするのを阻止しにかかる。 『Fuelナンバー3541……指示通リニ、カプセルヘ入リナサイ! 抵抗ヲ続ケレバ、発電規約32条ー3ノ違反ニヨリ……厳罰ニ処ス可能性ガ発生シマス!』  嫌だ嫌だと首を振って暴れる彼女だが、彼女を包囲し捕縛している警備ロボットたちの手の力は並の人間ではビクともしない程強固であり……彼女如きの力では振りほどく事はおろか手足をバタつかせる事も叶わない。  機械の警備員たちは彼女の手足を掴んだまま彼女の身体を軽々と持ち上げ、無理やり手足を型どおりに広げさせカプセルの中へと押し込んでいった。 「誰か助けてっっ! 私はもう限界なのっっ!! こんなの耐えられない!! もう無理なのっっ!!」  カプセルに入れられた彼女は有無を言わさずその場で手足に自動式の枷が嵌めこまれ、あれよあれよという間に彼女はカプセルの中で自由を奪われてしまう事となる。そして彼女が完全にカプセルの中で身動き一つ取れなくなったと悟ると、ロボットたちは彼女から手を放しまた監視の任に戻るかのように私達の背後へと戻っていった。 「嫌ぁッぁ!! 誰か助けてっっ! お願い誰かぁぁ!! おねが――」 ……プシュウ! カタン。  ロボットが所定の位置に戻ると同時に、彼女を収納したカプセルの蓋が……彼女の悲鳴を遮る様に閉まっていった。  この蓋が閉まれば……もう中の人間がどのように叫ぼうが喚こうが外に声は漏れてこない。  いや、漏れてこないというより……カプセルの中で声を吸収する構造であるから副産物的に声が漏れないようになっていると言い換えた方が分かり易いか……。 、これから彼女は……自分が入れられたカプセルの中だけに“あの声”を搾り取らされる事になるのだ。  無論……従順に従っている私達も同様に…… 『Fuelナンバー3541ハ、抵抗レベル2相当ノ拒否ヲ行ッタ事ニヨリ、懲罰発電ノ刑ニ処サレマス。コレ以上ノ抵抗ヲ行エバ“廃棄処分”ノ判断ヲ下ス場合モ考エラレマス。クレグレモ素行ニハ気ヲ付ケルヨウ警告シテオキマス』  懲罰発電……。それは、普通の発電とは違う……“懲罰を目的とした処罰”である為……それ相応の責め苦を受ける事となる。  そして……廃棄処分という言葉……。私はまだ1度しか見た事はないが……その壮絶さは筆舌に尽くしがたい。  アレを見せられた者は……その悲惨さから誰も機械達に逆らおうとは思わなくなる……  廃棄=廃人もしくは死に至る処分である為、相当の事をしないとこの判断は下されないだろうと思っていたのだけど……私が一度だけ見た公開廃棄処分を受ける事になったその女性は、ただ“この首輪を外そうとしただけ”でそう判断されたのだという……  首輪を外したのではなく外そうとしただけ……たったそれだけで廃棄処分が下されるのである……この発電所がいかに常軌を逸しているのかがそこで知ることが出来た。  そして……機械に逆らう事がどれほど恐ろしい結果になるかを思い知る事となった。 『ソレデハ、手足ニ“枷”ヲ取リ付ケ施錠シマス。枷ハ、センサーニヨリ、手首ト足首ノ位置ヲ特定シテ自動デ掛ケラレマスノデ、型通リニ手足ヲ伸バシタママ、動カナイヨウ願イマス』  カプセルの中にそのような機械の音声が流れると、その警告通りにカプセルの中に居る女性たちの手足に金属製の枷が嵌められて行くのが音で分かった。  マットレスの代わりに寝かされている金属製の型……それの手首・足首部分に開けられた細長く四角い穴……そこから自動的に半円形の薄い鉄板が這い出してきて、対象の手首、足首を上から包むように締めていく。  そしてその鉄板は円状に繋がると私達の手足首を型の方に押し付けるように縮んで圧を掛けて来る。枷と手首や足首に隙間が無くなるまで押し付けが完了したら拘束は完了であり、その時点で私達の手足の自由は完全に奪い去られた後となってしまう。  一度この枷が完成してしまったら、もう誰の力を持ってしても手足を動かす事は出来なくなる。  私や私と同じ境遇に置かれた女性たちは皆等しく両手を万歳……足を肩幅に開いた“縦に細いX字”の格好を強いられ、そのカプセルの中で仰向けに寝かされた状態から体を起こせないよう拘束が成されてしまう。  ここに来て悲鳴を上げる者……助けを乞う者……怒りに声を荒げる者……泣き出してしまう者……実に様々な声がこの発電室の壁に響き渡ってくるが、彼女達の声はすぐにカプセルの中へ消えていってしまう事となる。 ――プシュ、プシュ、プシュ、プシュ、プシュ……  部屋の端の方から順番に開いていたカプセルの透明な蓋が次々に閉じていく。  蓋が閉じられるたびに……一人、また一人と部屋から悲鳴が消えていく。  そして私のカプセルもとうとう蓋が閉じられてしまった。  カプセルの中は外の音が何も入ってこない無音……  今までの喧騒が嘘であったかのように静かで狭い空間。  あまりの静かさに……耳が詰まったような感覚に陥り時折鳴っても居ない筈のキーンという高音を鼓膜に感じてしまう。  透明なボディのお陰で……少し顔を傾ければ隣のカプセルの様子を見ることが出来る。  懲罰発電の刑を言い渡された彼女のカプセルは……既に禍々しい数のケーブルが蠢いている様子が見える。  あのケーブルの先に何が付いていて……それが彼女に何を行っているのか……私は分かっている。  そして……彼女は……私達よりも先に“それ”を受け……カプセルの中で“望まぬ声”を搾り取られている事だろう。  声を電力に変える発電とは……私達に刺激を送り込んで、無理やり“声”を出させるというのがその本懐にあるのだから……  叫び声では足りない……  悲鳴では長くもたない……  怒り声では無理やり出させる事はできない……  大きく……激しく……甲高い……声を“継続的”に出させるには……これが一番効率が良いと考えたのだろう。  その時の感情や意志など関係なく……絞り取る様に出させることが出来るその“声”とは……  普段から私達が発声しているであろう、楽しい時や可笑しい時には必ず自然と出してしまうだろうあの声……  ……そう、それは……  “笑い”……という、声……で、ある。  このカプセルは……私達から“笑い”を搾り取る為だけに……これから稼働するのである。

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