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3:時雨の受難 「うくっっ!! だ、だめ!! 早く何とかしないと……マズい事になっちゃうよぉ……」  美月がくすぐりの罠に笑い狂わされていた頃、2階の部屋を手当たり次第に調査していた時雨にも危機が訪れていた。  2階の中央階段の隣にあった小さな書庫。やたら分厚い扉に、壁は日本家屋とは思えない程頑丈なコンクリート造りとなっていて、声を発すれば部屋の中で反響はするが決して外には漏れないであろう防音密閉空間を作り上げているのが分かる。  この、他の部屋よりも頑丈そうな部屋が怪しいと思い部屋へ入るなり内鍵をかけ静かに電灯のスイッチを入れた時雨はその部屋が書庫だと分かり一層テンションを上げてしまう。  美月に見せてもらった地図には2階の情報はほとんど書かれていなかった。だから地図は持たせてもらっていなかったのだが、たまたまであれ情報の宝庫である書庫に侵入できたことは時雨にとってかなりの手柄であり、母親すらも到達できなかった部屋へ敵にバレずに入れたのだからその嬉しさはひとしおであった。  8畳ほどの小さな部屋。その壁沿いに並べられた背の高い本棚達……。入り口の横には本を読むための物か木製の椅子が一つ用意されていて、更に部屋の中央には意味が有りそうで無さそうな、時雨と同じ背丈くらいの観音像が鎮座しており……不気味に6本の腕を広げてその狭い部屋の中央に位置取っていた。  時雨はその……目を閉じてニコリと微笑みを浮かべている観音像を不気味に思いつつも、像を避ける様に一通り本棚を確認していき……そしてあの本のもとへと辿り着いた。  その本……というか資料の束を一纏めにしたようなファイルの背表紙には“霧ヶ﨑家 屋敷の概要”と書かれていて、今時雨たちの潜入している霧ヶ﨑家の屋敷についての資料であると言う事が一目でわかった。  これさえ読めば地下の秘密の通路も分かるかも……。  そう思った時雨は自分の手柄によって姉である美月に褒められる事を想像しながら嬉しそうにその本へと手を伸ばしていく。  足を爪先立ちにして身体を伸ばせばギリギリ届く位の高さに置かれたそのファイルの束に、一所懸命手を伸ばして取ろうと努力する時雨だが僅かに手が届かない。もうあとほんの僅か高さがあれば届くという位置なのに、本棚の棚部分に足をかけないと届きそうにない……。  一瞬、本棚の1段目に足を置こうかと考えはしたが、部屋に入ってきた時に見たアレを思い出し、伸ばしていた手をすぐに引っ込めてソレを本棚の傍へ運んできた。  ソレは扉の横に置いてあった読書用の椅子。この椅子があれば高さのあるファイルにだって手が届く。  それに気づいた時雨は早速と言わんとするように椅子の座面を踏み台代わりにして再びファイルへと手を伸ばしてみた。  彼女の目論み通り、椅子の高さがプラスされた時雨の手は簡単に目的のファイルを手に取る事が出来、ファイルを手に入れるという目標もすぐに達成出来る……と思っていたが……。  確かにファイルはすぐに取れたのだが、それが罠であったという事は時雨も最後まで気が付かなかった。  ファイルを本棚から抜いて手元まで引っ張った瞬間、ファイルの奥に繋がっていて見た目には分からなかった紐を引いてしまう。本の見開き部分に繋げられていた紐がピンと引かれ、本棚の奥の“何かしらを起動してしまうスイッチ”を入れてしまったのだ。  時雨が気付いた時にはもう遅かった。本棚奥のスイッチがカチリと音を立て、何やら不気味な駆動音が書庫の部屋中に鳴り響き始める。  時雨の入ってきた扉は、ガチリと重い音を立て鍵が二重に閉じた事を彼女に伝え、部屋の天井は地震が起きている様にグラグラと震え始める。  何事かと不安な表情で天井を見上げた時雨をよそに、その得体のしれない罠が彼女に牙を剥いた。  天井の中央付近に手のひらサイズの穴が2つ並んで開き、そこからパイプの様な管が少しだけ顔を見せている。  いかにも何かが出てきそうなその管からは、数秒後……白い煙幕の様な煙が少しずつ吹き出し始めた。  何らかのガスが噴出した!? そう判断した時雨の考えは正しく、少しだけ吸い込んだそのガスは肺に呼気と共に運ばれると身体中をビリビリと痺れさせ始めた。  吸い込めば吸い込むほど身体の自由を奪っていく『痺れガス』。  瞬時にその考えが過った時雨は慌てて椅子を中央の方へ向け、息を止めて椅子の座面を再び台座にし直して必死にそのパイプに手を伸ばし、ガスの噴出を手のひらを被せて抑えにかかる。  部屋の天井はそれほど高く設計されてはなく、時雨が椅子の座面で爪先立ちになって手を伸ばせばギリギリ管の入り口に手が届きガスの噴出口をてのひらで覆う事が出来る。  幸い噴出したガスはまだ微量であったのと、実際に吸ったガスは少量であったため体機能を損なう程のダメージを時雨が負う事はなかったが、これ以上ガスを吸うわけにはいかない。  てのひらにはガスが勢いを増して噴出している様を感じ取る事が出来る。間違いなくこの手を放せば身体の自由を奪ってしまう量のガスが噴出してしまうだろう。  だから手は放せない……。  爪先立ちで身体を支えるのもしんどいのは分かっているけれど、この手は放すわけにはいかない……。  そういう状況に、時雨は追い込まれてしまっていたのである。 「うぅ……ツキ姉……助けて…………」  自分で起こした失態なのだから自分でケリをつけたい……。そう思ってはいるのだが、こんな爪先立ちで腕を伸ばした状態から動けなくなった自分には何も出来やしない。結局相方である美月にこの異変を察してもらってどうにか助けてもらう事しか望めない。  だから、時雨は声を上げてしまう。  忍務中だとか、敵陣の中だとか、バレてはいけないという潜入ミッション中だと言う事も忘れて……大声で。 「ツキ姉ぇぇぇ!! 私を助けてぇぇ!!! 罠に掛かっちゃったのぉぉぉ!! お願いぃぃぃぃぃぃっッ!!」  およそくのいちらしくない忍ぶ事を忘れてしまった大声で義姉への救援要請を響かせようと時雨は叫ぶが、この部屋が分厚い壁と扉に囲まれている事をすぐに思い出す。  自分の声は壁に反響して自分の耳に届けられるばかりで、一向に外の誰かへ届けられる事がない。それに気づいてはいたが、時雨は自分が捕まって酷い事をされるかもしれないという不安に押し潰され必死に声を上げてしまう。 「お、お願いぃぃぃ! 早く助けてぇぇ!! う、腕が……疲れてきちゃったのぉぉ!! ツキ姉ぇぇぇぇ!!」  未熟であり忍びの務めを果たすにはまだまだ甘えが残っている時雨は、本来であればこのような実践の潜入忍務に参加などさせられない。  本人もそれは分かっていたのだが、美月を一人で敵地に向かわせるのは気が気ではなかった。  美月同様自分も捨てられた身……。同じ境遇、似た環境で幼少を過ごした時雨にとって美月の存在は唯一心許せる存在であると同時に、失いたくない半身でもあると思っている。  美月が行くなら自分も行く……。そう母親代わりである稲穂に泣きつき……散々反対された挙句、半ば強引に忍務へ同行を許してもらった経緯があったが故、手柄を上げる事は彼女の最大の目標でありミスなど犯すわけにはいかない立場にあった。  でも彼女は油断してしまった。  こんな状況になって悔やんでも悔やみきれないが……手柄の欲に目が行ってしまい、慎重にならなくてはならない場面で気が逸れてしまっていた。  そして挙句の果てには捕まるのが怖くなっての救援要請である。  時雨には圧倒的に忍びとしての覚悟が足りなかった……。  結局最後には自分の身を案じてしまい、忍務の事など忘れてしまっている……。  そんな不心得者の時雨に、天罰が下される。  と言っても、これも罠の一部である事は明確であり、何よりこのように潜入した者がガスの出口を手で覆うという一時しのぎをする事が分かっていたかのように、ソレは静かに時雨の目の前で駆動を開始する。 「はへ?? こ、このお地蔵さん……う、う、動き始めてる??」  部屋の中央で6本の腕を広げたまま鎮座していた観音像が何やらカタカタと震え始めたかと思うと、金属製の仏像とは思えない程軽快に腕を上下に動かし……手の指を妖しくくねらせ始めた。 「ひっっ!! ひぃぃぃぃぃぃ!! 何か怖いっっっ!! 何、お地蔵さんっっ!? 怖いよぉぉ!!」  カタカタと身体を震わせていた観音像がピタリと一瞬動きを止めると、次の瞬間足を置いている台座に車輪でもついているのかスーーっと滑る様に床を移動し始め、時雨の背後へと回り込む動きを見せる。 「う、後ろに……回り込んだ??」  急に視界から観音像が消えた事に更なる恐怖を覚えた時雨は、必死に背中側に回った観音像を追って顔を捻りながら視界に入れようと試みる。  しかし左右のパイプの入り口を手で押さえている身では思い切って身体を捻る事は叶わず、その像の片方の腕だけが視界に入るくらいしか見る事は出来なかった。 「はひっ!? な、な、な、何か……背が伸びていってる??」  観音像の台座からウイィィィンという駆動音が鳴り響き、何やら台座が地面に4本の支柱を出して高さを出そうとしているのが視界に入ってくる。  時雨の目にはそれは背が伸びている様に見えているが、実際は支柱が台座を押し上げて高さを出しているに過ぎない。  その高さは、やがて椅子に爪先立った時雨の背丈と同じになる様に合わせられ、同じになった瞬間再び不気味に動きを止めた。 「ひぃぃぃぃ! し、時雨の……すぐ後ろに……お地蔵さんが居るよぉぉぉぉ!!」  一瞬動かなくなった観音像だったが、時雨の震えた声に反応したのか、それとも本体との位置関係を測り終え準備が整ったのか……はたまた自分が“地蔵”ではない! と伝えたかったのか定かではないが、ソレは一瞬の沈黙を破るかのようにまた突然動き始めた。  ――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!! 「わひッッ!!? はへひっっっ!!?」  6本の腕は時雨の背後から手を伸ばし、彼女の万歳の格好で伸ばした無防備な腋のラインへと密着を始める。  そして、時雨が驚く様を気にする様子も見せずに、指先をコチョコチョと動かし始め彼女をくすぐり始めた。 「ちょっっ!? な、何してるのっっ!!? アハっッ! はひっっ!! ねぇ、ちょっとぉぉぉ!!」  突然のこそばゆい刺激に時雨は一瞬手をパイプから離してしまいそうになるが、ガスが噴き出してしまう事をすぐに思い出し、腕を引っ込めたい衝動をギリギリ我慢して腕をどうにか伸ばし続ける事となった。  しかし、観音像のくすぐり攻撃は止まってはくれない。  時雨が腕を降ろせないのを良く知っているかのように意地悪に腋のラインをくすぐり続ける。 「はひっっっ、ヒヒッッ!! んひひひひひひひひひひ!! ちょっっ、やめてッッ!! くすぐったいよぉぉ!! やめてっっっ!! 手が離れちゃうっっっ!!」  機械で駆動しているであろう観音像に対して声を上げてもきっと無駄だろうと悟ってはいるが、時雨は声を上げずにはいられない。  袖の無い忍び装束から晒されている無防備な腋の窪みを指先でコソコソとなぞり上げる金属の指の感触……。  忍び装束の上から揉み上げる様に脇の下部分をくすぐる指達……。  そして万歳している事で服が捲れ、露出してしまっている脇腹の筋をコリコリとマッサージするいやらしい手つき……。  ジワジワと笑わそうと刺激を強め始めるその6本腕のくすぐり攻撃に、時雨はすぐに我慢できなくなり機械に対して声を上げてしまう。 「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、や、やめて!! 時雨はくすぐられるの弱いのぉぉほほほほほほほほほほほほほほほ!! おねが……や、やめ! んひゃ~~~ははははははははははははははははははははははははは!!」  観音像は目を閉じて不気味な笑みを浮かべ時雨の懇願を聞き流し、無慈悲にくすぐる手を強めていく。  およそ仏の行いとは思えないほどその手の動きは無慈悲に身体の側面を弄り、彼女の我慢をすぐに崩壊させてしまう。  時雨はプルプルと身体と腕を振るわせながら笑い悶える。 「ぶひゃああぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! だめ、だめ、だめぇぇぇぇぇぇ!! これ以上はだめぇぇぇぇぇぇぇぇ!! くすぐっちゃだめぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  観音像は表情一つ変えずに無防備な時雨を背後からくすぐり責め立てる。彼女が腕を降ろしてしまいたくなる様に、休みなく刺激を加え笑わせていく。  時雨は笑い悶えながらも手だけは放せないと意識を集中して腕を降ろさない様に耐えようとする。しかし、腋をコソコソと弄られる刺激は猛烈な焦痒感を生み今すぐにでも腕を下げて守ってあげたくなってしまう。脇の下や脇腹を揉み込まれるくすぐったさは大きな笑いの衝動を生み、その笑う行為も苦しさを生んでいく。  時雨はすぐに腕を上げ続けることが苦痛に感じ始めてしまう。  このくすぐりから逃れてしまいたい……この笑いの苦しみから解放されたい……。  その楽になりたい衝動が彼女の腕を下げさせようと責め立てる。  しかし、捕まってしまったら何をされるか分からない。きっと美月にも迷惑をかけてしまうし、足手まといだと判断されてしまう。  それは絶対に嫌だ! 絶対に……捕まるわけにはいかない……。  その思いが時雨の腕をどうにか維持させている。  降ろしたくて仕方のない腕を自分から万歳させ、観音像がくすぐり易いように自ら腋を晒し続けている。  笑う事が苦痛だけど、腕も上げ続けるのがしんどいけど……それでも彼女は腕を上げ続けた。  こんな嫌がらせに負けて堪るかと、強い意志を携えて……。 「んはははははははははははははははははははははは、ぜ、絶対降ろさないもんっっふふふふふふふ!! 絶対負けないもんっっっっっ!! んくはっっっははははははははははははははははははははは、アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」  観音像の薄ら冷たい金属製の5本指が、大きな胸と肉付きの良い肩の筋肉の合流地点である時雨の淫猥な腋の窪みをカサコソとなぞり上げていく。まるで腋窩の見えないゴミをこそいで払い退けるかのように、素早く丁寧に……。  その丁寧な触り加減が時雨には耐え難い。  腋の窪みという神経の集まった敏感な箇所を焦らしてイジメる様に触ってくる刺激は、どうしようもなくむず痒くて身体が拒否反応を起こしてしまう。  むず痒い……むず痒い……むず痒いっッ!! 時雨はその自分ではどうする事も出来ない刺激に笑い悶えて応える事しか出来ない。それが悔しくて悔しくて……涙が溢れてきてしまう。  でも泣いてなんていられない! 今は意識を手を上げ続ける事に集中しなくては、気を抜くとすぐにくすぐったさに負けて腕を降ろしてしまいそうな自分が居る。  負けてはいけない……。泣く暇なんて今はない……。自分も忍びの端くれなのだから、負けちゃいけないんだ! と、自分を鼓舞しながら零れそうな涙を必死に抑えようと我慢する。  しかし、微笑む観音像はそんな彼女を絶望させる刺激を新たに送る準備をし始めた。  脇腹をくすぐっていた手が突然時雨の身体から離れ、何やら甲高い駆動音を鳴らし始める。  その手は時雨の背後にある為彼女にはその手の変化は見る事が出来ないのだが、この警戒音にも似た駆動音は彼女に不気味な不安感を抱かせる。  腋へのくすぐりを我慢するのに精一杯である自分に、まだ何か新た責め手を用意するのだろうか?  その時雨の想像は見事に的中してしまう。  彼女の目の届かない所で6本ある腕のうちの下2本の手がロボットが変形する様に形を変える。指が折れ畳まって腕部分に引っ込み、代わりに別の指が奥から生えてくる。  代わりの指は……それを指と呼ぶには少し違う形状をしていた。  機械の太い指ではなく、それぞれが鳥の羽根で出来た指……。いや、指ではなく羽根その物が機械の指の代わりに生えてきたのである。  丁度指の長さと同じくらいの小さな鳥羽根が5本。指の数と同じだけ生えてきて、それが指と同様にクネクネと上下に動いている。  2本の手が羽根指に取って代わったなど知りもしない時雨は、脇腹への刺激が無くなった不気味さを覚えつつも必死にくすぐられている腕を上げ続けるという苦行に挑んでいた。  腕を反射的に降ろしたくなる刺激に対して自分の意思で腕を上げ続ける苦行……。修行嫌いの時雨にとってこの苦行はどんな修行よりも苦しくどんな仕打ちよりも屈辱的であった。  今すぐに逃げ出したい! そう思った瞬間は何度訪れたか数え切れない。  でも時雨は自分の甘えた考えを頑張って押し殺してきた。どんなに逃げたくても今回ばかりは逃げないと、心に何度も自分で念を押した。  そんな彼女に、微笑みの観音像は無慈悲な刺激を加え始める……。 ――コソ……コソ……コソ……。  その違和感は時雨の足元を襲った。 「うひぃぃぃぃっっ!!? ちょっほ!? そ、そこはらめっっッ!! うひゃあぁっぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁっっ!! だめ、だめ、だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! やだっっ!! そんな柔らかいので触らないでぇぇぇぇぇぇぇ!!」  観音像の2本の腕は最初にくすぐっていた脇腹よりも遥か下……背伸びをする様に草履の上で爪先立ちした時雨の足裏に密着していた。  そして羽根にフォームチェンジしたその10本の指先で、裸足である彼女の左右の足裏をゾワリゾワリと撫で上げ始めたのである。 ――コショコショコショコショコショコショ。 「うぴゃああぁぁああぁぁぁあぁぁぁはははははははははははははははは、やだっっ! だめっっっ!! そんなトコ撫でられたら、力が抜けちゃうっっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」  身体全体の体重を足の指に負担させ必死に背伸びして天井のパイプに届かせていた時雨にとってこの責めは陰湿を極めた。  ワキ以上に敏感な素足の足裏を羽根のカサカサした先端が撫で回していく感覚は、こそばゆさ以上に彼女の足の踏ん張り力をも奪っていく。  くすぐったい刺激に対して笑いながらも腕を降ろす事だけはまだ我慢できたが、この足の力を抜けさせていくじれったい刺激には時雨は逆らえない。  やがて身体を支えるための力が無くなっていき自重の重みに耐えかねた足が今にも崩れ落ちそうにプルプルと震えてしまう。  もし、自重の重みに耐えかねて爪先立ちをやめてしまったなら、その落ちてしまった分の高さが失われてしまう。  爪先立ちでようやく天井のパイプに手が届いていたのに……その高さが失われれば間違いなくパイプの入り口を解放してしまってガスが溢れ放題になってしまう。  それだけは食い止めたい……食い止めたいのだけど……。 「おはあぁぁぁははははははははははははははははははははは、も、も、もうらめ!! もう限界ぃぃひひひひひひひひひひひひひ!! 足はやめでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへ!! お願いぃひひひひひひひ、足の裏は許じでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! うひゃぁぁははははははははははははははははははははははははは!!」  腕を降ろさせようと腋と脇の下をくすぐられ、足の爪先立ちをやめさせるために足裏を複数の羽根でこしょぐられる責めは時雨の努力ではどうにもならない臨界点まで彼女を追い詰めてしまう。   「お、お、おでがいぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひ!! あじの裏はらめなのぉぉぉほほほほほほほほほ!! やめでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへ、くしゅぐらないでぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  身体の体重を足指で支えなくては……と、思えば思う程に土踏まずやカカトをくすぐり回す羽根たちが時雨を笑わせ気力を削いでいく。  足指は頑張って踏ん張ろうと力を込めようとするが、その力が指に届けられない。  やがて足はプルプルした震えからガクガクと地震が起きているかのような震えへスイッチする。  誰が見ても限界……。もう自重を支える事なんて出来るはずがない……。 「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! い、い、嫌だあぁぁぁはははははははははははははははははははははは!! 手を離したくないぃぃぃひひひひひひひひひ、手は離したくないのぉぉぉ!! お、お願いぃぃ、助けてっっっ!! ツキ姉ぇぇへへへへへへへへへへへへへへへ!! もう限界っっ!! 限界ぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」  限界を越えて耐えようとする時雨に笑顔の観音像は一切の慈悲をかけようともしない。  もっと苦しめと言わんばかりに腋や脇の下を更に強くくすぐり、そして足裏にもトドメの刺激を加えだした。 「うひっ!? ちょっっっっ! そ、そ、そ、それはずるいぃぃぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! そんにゃトコ触っちゃだめぇぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 ――コショコショコショコショコショコショコショコショコショコショ。  観音像は体重を必死に支えている足指……その周囲……そして足指の付け根付近に羽根を集中させ、イジメる様に羽根先でそれらの箇所をなぞり始めた。 「んあぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁあ!! だ、だ、だめ!! だめぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! 嫌っ、嫌ぁあぁあぁぁぁ!! もうだめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! んああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁ!!!」  どんなに足裏をなぞられても必死に我慢してきた爪先立ちの姿勢だったが、このトドメの足指愛撫の責めには時雨も抵抗虚しく屈服を余儀なくされた。  足指の力を強制的に奪っていくこのじれったくてこそばゆい刺激についに爪先立ちはガクンと大きく崩れ、時雨の背伸びした高さを一段下げてしまう。それにより手のひらがガスの噴出口から離れてしまい、予想していた通りその出口からは多量のガスが噴き出てしまう。  慌てて背伸びをし直そうとする時雨だったが、その噴出したガスを笑いと共に大きく吸い込んでしまい身体が言う事を聞かなくなってしまう。  結局時雨は椅子から転げる様に床に落ち、ガスがだだ漏れる部屋の隅で必死に息を止めようと口を噤む事しか出来なかった。 『ひゃら……身体が……痺れてりゅ……ひゃらよぉぉぉ!! 息を止めるのも……くるひぃよぉ……』  必死に鼻と口を手で覆いガスを吸わない様に耐えようとする時雨だったが、そんな彼女に再び観音像が忍び寄り容赦のない攻撃を浴びせてくる。 「うひっ!? ふひっっ!! ぷひひひひひひひひひひひひひひひ!! ひょ、ひょっとぉぉぉぉ!! やめっ!! んひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」  草履が脱げ落ちた為に素足のまま床に横になった彼女の足裏をあの羽根がまたこそぐり、そして手を鼻と口に当てていて無防備に開いた腋もこれでもかと言わんばかりに指でくすぐり回していく。  もはや暴れる力もガスによって剥ぎ取られていた時雨に、この無慈悲な観音像から逃げる手立てはなかった。  部屋の隅に追いやられても笑わされ、その勢いでガスを多量に体内に取り込んでしまう。  ガスの痺れは肺から広がる様に身体中に伝わり、やがて表情筋も動かせないくらいに痺れが回り切る。 「あへ、あへへへへへへへへへへ……へひひひ……はひへへへへへ……うへへへへへ……ひゃひへへぇぇへへへへへへへへへへへへへへ…………」  やがて痺れが脳まで達した瞬間、時雨の意識は暗い闇へと落されていった。  深い深い谷底へ落ちていくかのように……  しかし、時雨は意識を失ったにもかかわらず観音像は彼女の身体を弄るのをやめようとしない。  ピクピクと電気刺激に反応する様な痙攣を起こすのを楽しむかのように、観音像は薄暗い微笑みを浮かべたまましつこく足の裏や腋をくすぐっていたぶり続けている。  その感情の無い機械人形は、ガスの噴出が止まるまで時雨の身体をくすぐり続けた。  まるで、屈服させ陥落させた事を悦ぶような微笑みを浮かべたままで……。

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