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「シンー、おはよーっ!!」
「ん、んん……」

パチっ、と点けられた電気がまぶしい。ボクはモゾッ、とふとんの中に潜り込むと声に背中を向けるように寝返った。でも、声の主はパタパタをスリッパを鳴らして近づいて来て。

「もーっ、シンっ!!朝だよっ!!起きてっ!!」
「んぁっ!?ち、チヨせんせぇ……!?」

ボクのふとんをむんずっ、と掴むと、すごい力でボクからふとんを奪い取ってしまった。最近は朝とか夜とか寒くて困る、ボクはまだ寝ていたいのに。でも、チヨ先生は朝からよーしゃってものがない。

「ふっふーん、もう朝ご飯の時間なのにいつまでも起きないシンが悪いんだぞー?おねしょ治療の基本は規則正しい生活なのに、そんなんだからシンくんは今日もオネショさんなんじゃないんですかねぇー?」
「うっ、うぅ……っ!?きょ、きょうもおねしょ……!?い、いやぁ……」

チヨ先生の言う通り、ボクのオムツはもうパンパンになってて、外からでも分かるぐらいまっきいろ。ジットリして気持ち悪い……。チヨ先生はニヤニヤ笑ってボクのベッドに片ひざをつくと、まくらもとにかかったカレンダーに“×”をつけた。

「これで何連敗かなぁ、シン?まぁでも、シンくんは3歳だからおねしょしちゃってもしょうがないかぁー」
「う、うぅ……、ち、ちがうもん……、ボクはおとなだもん……!!むぅ……」

先生はニンマリ笑ってボクをからかってくるから、ボクはぐずっ、と鼻をすすった。パジャマの裾じゃオムツを隠しきれなくて、水色のすそに斑点のシミが出来る。
チヨ先生との約束で、おねしょしちゃったら一歳ずつ扱いを子どもにする、ってやつ。結局、ボクはこのままだと0歳より下になってしまう、ということになって、チヨ先生は「まぁ3歳ぐらいで留めておいてあげるよ」と言っていた。でも、扱いは3歳児で止まってもボクのおねしょが治るわけもなく。うぅ……、ちっとも治んないや……、どうしよう。

「じゃあ、おむつ替えよっかなー?シンくん?」
「う、うぅ……」

昨日恥ずかしい思いをして隣の建物の事務所からもらってきたオムツの袋。それが部屋の隅っこに積み上げられてるのを見て、ボクはまた恥ずかしくなる。今度から切らさないように用意してくれるって看護師さんは言ってたけど、ホントかなぁ?
封が切ってあるオムツの袋の中からチヨ先生が一枚オムツを取り出して、拡げて持ってくる。ボクは仕方なくベッドに横になって、パジャマをたくし上げた。

「あーあ、パンパンだねぇ、シン。気持ち悪かったねぇ、早く替えちゃおうねぇー」
「う、うぅ……、チヨせんせぇ……はやくしてぇ……!!」
「はいはい、しかたないなぁ?」

チヨ先生はいっつもこうやって、オムツ替える時にボクのことを笑ってくる。チヨ先生にオムツ替えてもらうのキライだ……!
ぺり、ぺり、とテープが外れて、お腹の窮屈なのがとれていく。オムツの前が開かれて、スースーするのと一緒に、つんと鼻をつく酸っぱいような甘いような臭い。チヨ先生が持ってきた蒸しタオルが、ボクの股をキレイにしていく。びちょびちょで冷たくなっていたところが蒸されて、あったかい。すぅ、とそれが引いていくと、素直に気持ちよかった。先生にトントン、とお尻を叩かれて、ボクはすっと腰を浮かせる。その間に、先生はお尻の方もタオルでキレイにしながら、汚れたオムツを取り払って。
ボクのお尻の下に、新しいオムツが。

「ふふーん、ちゃんと出来るじゃん!えらいえらい」
「む、むぅ……っ!?ち、チヨせんせぇのイジワル……っ!!」

オムツを替えてもらうのにすっかり慣れてしまって、勝手に動いてしまう自分が悔しい。嫌なはずなのに、やっぱり新しいオムツの上におしりが乗ると安心してしまう。うぅ……、どうしよう、もしかしてボク、ずっとこのまま……?

「せ、せんせぇ……!!ボク、いつになったらなおるの……!?」
「そうだねぇ……」

急に不安になって、ボクはチヨ先生にそう聞いてみた。チヨ先生は長い白衣の袖から出した手であごをさすると、ニマぁ、と笑った。

「シンはおねしょ治したくて入院してるんだもんねぇ?でも、最近は昼間のオシッコも出ちゃってから気付くみたいだし、このままじゃいつまでたっても退院できないねぇ?」
「う、うぅ……、や、やだぁ……!!みんなのところに、もどりたいもん……!!がんばるもん……っ!!」
「じゃあ、ちゃんとお薬飲んで、治療しなくちゃねぇ?」

しっしっしっ、とイジワルく先生は笑う。うぅ……、あのにっがいお薬かぁ……、頑張って飲んでるんだけどなぁ……。

「あ、そうだ。シンは3歳なんだし、幼稚園に通ってみんなと一緒にお勉強したらおねしょもおもらしも良くなるんじゃないかなぁ?」
「え゛っ!?よ、ようちえんっ!?」
「そう、幼稚園だよー。病院の下に幾月幼稚園っていうところがあってねー、みんな良い子たちばっかりだから、シンもきっとすぐに仲良くなれると思うんだけどなぁー」
「う゛……」

ニヤニヤと笑うチヨ先生に、ボクはあからさまに嫌そうな顔をした。だって、幼稚園だなんて、そんな……!

「い、いやだよ……、ボクおとななのに……!」
「そーお?きっとすぐお友達もできて、楽しく治療できると思うんだけどなぁ?」
「や、やだぁ……!おともだちなんてできないよ……っ!!」

うぅ……、と唸るボクを見てやれやれ、とチヨ先生はため息をついた。だって、ボクは先生で、みんなとお勉強する立場で、一緒に通うだなんて……そんなこと……!

「まぁ、治療のためだから、ねっ?手続きしてくるから、明後日ぐらいにはいけるんじゃないかなぁー」
「う、うぅ……そんなぁ……」

オムツもとれないのに、おまけに幼稚園だなんて……、ボク、ホントにどうなっちゃうんだろう……?

* * * * *

pllllll……、pllllll……

ガチャ

「あ、もしもし?ワタクシ、逆月医院の医師をしております、チヨスケと申します。あ、はい、そうです、シン先生の担当の、はい、えぇ。それでですね、園長先生、お願いがありまして……」


――――――――――――――――――――――――
Bパート


「う、うぅ……」
「もう、シンっ、早くしないと遅刻しちゃうよっ!?ほらっ、こっちこっち!!」
「だ、だってぇ……!!これあるきにくいしぃ……っ!!は、は、はずかしい、しぃ……!!」

二日後。
幼稚園への転入手続きをホントに済ませたチヨ先生は、ボクを医院から連れ出した。小さな背中はグイグイとボクを引っ張って、どんどん先に行ってしまう。

「何言ってるのっ!!シンが幼稚園に行くのはオシッコの練習のためなんだからねっ!!シンは紙オムツじゃ出しても気付かないでしょ!?」
「あうぅ……っ!?そ、それはぁ……!!」
「だーかーら、出ちゃったらすぐ分かるように布オムツの方が良いんだよっ!ほらっ、急いで急いでっ!園バスが出ちゃうよっ!」
「ま、まっ!?」

今朝から練習のため、とチヨ先生が持ってきたのは布オムツだった。実習で見たことはあるけど、実際に触るのは初めてで……、というか、まさか自分があてられることになるなんて、思ってもみなかった。
今朝もオネショしてしまったボクのオムツを剥ぎ取った先生に、新しいオムツをあてられた時はびっくりした。紙とは違った感触、柔らかくて、ふかふかで……、なんだかほんのりあったかい。ポチン、ポチン、とむっつ付いたホックが順番に止められて、ボクのちんちんがふんわりと包まれた時は、その……、正直、気持ちよかったっていうか……。

でも、歩く時は最悪だ。

今もチヨ先生の後ろをついていくのに、股を開きながらじゃないと歩けない。閉じれないんだ。折りたたまれてあてられた布オムツはけっこうかさばって、ボクの足を閉じるのを邪魔してくる。なんとか閉じたくてモジモジしながら歩くんだけど、どうしてもガニ股になってカッコ悪い。園服に合わせて淡い水色をしたカバーには、でかでかとボクの名前が入ったワッペンがついてて。歩くたびにスモックの裾からチラチラ見えて恥ずかしい。

「ほらシン、早く乗って!」
「う、うぅ……」

三日月が描かれた水色のワゴン車には、『園児バス』の見慣れたマークが付いていて。ボクは、チヨ先生に手を引かれるがままにそれに乗り込んだ。
ゆっくりと走り出した園バスに乗っているのは、ボクとチヨ先生だけだ。それだけがせめてもの救いかもしれない。バスは林の中を右へ左へカーブしながら下っていく。もう何週間も前の事だから、医院の周りがどうなっていたかよく覚えてない。……そういえば、ボク、どうやって医院まで来たんだっけ?

「ほら、シン、見えてきたよ」
「あ、あれ?」
「そう、あそこが幾月幼稚園!可愛いでしょ?へへへ」

思ってたよりも小さな建物だった。でも、医院の附属の施設みたいだからそういうものなのかもしれない。ちゃんと運動場もあるし、庭もあるみたいだった。バスの中からでも、元気な声が聞こえてくる。

ちょっと、懐かしい気がした。みんなに会いたい……。

「シン、ほら着いたよ?降りて降りて」
「……うぅ、せ、せんせぇ、やだよぉ……っ!!」
「もーっ!ワガママ言わないのっ!!シンはおもらしもおねしょも治したいんでしょぉーっ!?ほら、みんな待ってるから行くよっ!!」
「えぇーんっ!?だってぇっ!!」

イヤがるボクの手をぐいっ、と引っ張ると、チヨ先生はボクを園バスから引っ張り出した。そのままズイズイと建物の方へ進んでいく先生、ボクはぐずっ、と鼻をすすりながらその後ろを引っ張られていく。

「やだぁ……っ!!ボク、こどもじゃな……」
「あれぇ?しんせんせー??」
「!?」

急に聞き慣れた声がして、ボクはハッと園の玄関の方を見た。そこに立っていたのは。

「さっ、さっくん!?」
「あー、やっぱりそうだー。えへへー!」

こじんまりした、フカフカの毛並み。にまぁー、と笑う顔。タヌキのさっくんが、そこにはいた。
でも、どうして!?

「あれぇ?でも、せんせー、なんでボクといっしょなのー??」
「あうっ……!?そ、それはぁ……」

さっくんが「んん?」と首を傾げているのに、ボクは顔を真っ赤にしてしどろもどろするだけだ。園服の裾をぎゅっと持って、ボクは内股を寄せた。
やだ……、こんなとこ、みられたくな……っ!!

「ふっふっふー、えーっとね、さっくん?シンくんはねー、もう先生じゃないんだよー?」
「ふぁっ!?ち、チヨせんせっ!?」
「えー?そうなのー?」

ニヤリと笑ったチヨ先生はしゃがんでさっくんと目を合わせると、さっくんの頭を撫でている。
や、やだっ……!!ぼ、ボクは、大人で……っ!!ち、治療中で……っ!!

「そうだよー?今ね、オムツがとれないから幼稚園から通う練習をしてるんだー」
「へー、そうなんだー!」
「や、やめ……っ!!やだ……っ!!ち、ちがうもん……っ!!ぼく、ぼくはぁ……っ!!」

チヨ先生にひどいことを言われて、ボクはさっくんの前で泣き出した。だって、ボクは大人で、治療のために入院してて、おねしょもおもらしもなおらなくて、がんばってるだけなのに……っ!!
涙がどんどん出てくる。
じわじわ、温かくなってくるボクのオムツの中。
どうしよう、とまんない……、ぐちゃぐちゃになってくる……!!やだぁ……!!さっくんのまえなのにぃ……!!やだよぉ……っ!!はずかしいよぉ……っ!!!

「あーあー、シン泣かないのー。あれぇ?もしかしてオシッコ出ちゃったのかなぁ?」
「う、うぅ……っ!?ち、ちがうもん……っ、ぐずっ、ちがうもん……っ!!」
「もー、シン、さっくんの前で嘘ついちゃダメでしょお?紙オムツと違うんだから、出たら気持ち悪いのすぐにわかるよねぇ?ちー出たらちゃんと教えてくれないと!」
「あうぅ……!?」

チヨ先生がカバーの上からボクのオムツを揉むと、ぐじゅっ、ぐじゅっ、と音がして、濡れた感じがよけいにわかった。

「しんせんせー、おしっこでちゃったのー?」
「あうぅっ!?」
「そうだねー、出ちゃったみたい。オムツ替えてあげないとねぇー。あ、そうださっくん!」
「なぁに?ちよせんせー??」

チヨ先生はまたしゃがみこんで、さっくんと目を合わせた。

「シンくんのオムツ、替えてもらおっかな!?」
「うぇっ!?」
「え!?ボクがかえていいのー??」

チヨ先生の言葉に、ボクはまた顔を真っ赤にした。さっくんはというと、びっくりしたように目をぱちくりと丸くしたけど、なんだか特別な事を頼まれたような顔になって、目をキラキラとさせている。チヨ先生はニヤリと笑って、さっくんの頭を撫でた。

「さっくんなら上手に替えれるようになるんじゃないかなぁ!?そうだ、さっそくやってみようかっ!」
「うんっ!」
「うぇぇ!?そ、そんなぁ!?」

チヨ先生に引っ張られると、ボクは慌ただしく靴を脱がされると園の中に足を踏み入れた。ボクが脱ぎ散らかした靴は、さっくんがひょいひょいと拾うと、「しん」と書かれた下駄箱の中に収められていく。チヨ先生に手を引かれて、さっくんにお尻を押されて、ボクは小さな部屋の中に連れていかれた。

「シンくんのオムツの替えはここに入ってるからねー」
「はーい!」

チヨ先生が持ってきた大きな通園バッグ、その中には「しん」ってデカデカと書かれたいろんなものがたくさん入ってて……、先生は大きなブランケットを拡げて床に敷くと、その上にボクを招いた。

「ほら、シン、ここに座ってー!」
「う、うぅ……」

ぱんぱん、とブランケットを叩いてボクを招くチヨ先生。ボクは部屋の入り口で立ち尽くしていたけど、さっくんに手を引っ張られてしぶしぶその上に腰を降ろした。ニンマリと笑うチヨ先生。

「そうそう、仰向けに寝転んでねー、いい子だよー」

ボクの横に並べられる、新しいオムツと、カバーと、タオルと、パウダー。

「さっくん、一緒にやってみようか!」
「うんっ!」
「あうぅ……!?」

チヨ先生に言われて、さっくんがボクの股の間にちょこんと座った。

「まずはカバーを外さないとね!できるかなー?」
「よぉし……!」

まだ小さい手が、ボクのオムツのホックをポチポチと外していく。まだたどたどしいながらも、順番に外されていくボクのオムツ。最後の二つは、恥ずかしくて見ていられなくて。
ぽちんっ、とホックが外れた音がして。ボクのオムツが開かれる。

「わー、びっちょりだねぇ!せんせぇ、つぎはどうするのー?」
「汚れてるとこを拭いてキレイにしてあげようねー!最初はコレで拭いてあげて……」
「うぁぁ……」

ごしごしとタオルで拭かれていく、ボクのアソコ。ぽんぽんと叩いたり、ごしごしと擦ったり、さっくんはチヨ先生に手ほどきされながら順番にボクのことをキレイにしていく。

「ほら、シンくんお尻上げてー」
「う、うぅ……」
「じゃあお尻も拭いて、その間にオムツは取っちゃおう」
「うんっ、よごれちゃうもんねっ」
「そうそうっ」

さっくんの楽しそうな声が聞こえてくる。ボクは恥ずかしくて、顔を両手で隠すしか出来ない。キルトでできたブランケットの、冷たい感触。

「オムツはこうやって折ってー、カバーに重ねてー」
「へー、こう?」
「うんうん、さっくん上手だねぇ」
「えへへへー!」
「そうしたら、シンくんのお尻の下に入れてあげようねー」
「はーい!しんくん、おしりあげてー!」
「う、うぅ……」

言われるがままに、ボクはお尻を持ち上げた。ボクのお尻の下に敷き込まれる、新しいオムツ。

「しんくん、いいよー」

ぽふん、とお尻の下で柔らかい音がする。ブランケットよりあったかい感触が伝わってきて、ボクは思わずホッとした。

「あとは、これをポンポンってしてあげて……」
「えへへ……これいいにおい……!」
「そうそう、上手だねー!毛が白くなるぐらいしてあげてねー」
「うんっ、わかったー!」

鼻をくすぐる、ベビーパウダーの匂い。ぽふぽふとボクの股間にまぶされていく感触。くすぐったくて、気持ちよくて、恥ずかしくて。

「あうぁぁ……!!」
「あとはカバーをしてあげたら終わりだよー!」
「うんっ」

また、ポチポチと音がして、ボクのオムツが閉じられていく。ふかっ、とした感触に包まれて、ボクは思わず大きくため息をついた。

「さっくん上手だったねぇ!えらいえらい」
「えへへーっ!」
「これからもシンくんのお世話、任せてもいいかなぁー?」
「うんっ!!えへへっ、しんくんのことは、ボクにまかせてっ!」
「よーしっ、えらいぞぉさっくん!良かったねー、シン、いいお友達が出来てっ!」
「うぅ……!!」

――こうして、ボクはもう、オムツも自分で替えられなくて。
おもらししたら、さっくんにオムツを替えてもらうことになってしまって。

「えへへ!しんくんっ、トイレできるようにがんばろうねっ!」
「う、うぅ……、さ、さっくん……っ!が、がんばるよぉ……っ!!」

こうして、ボクの通園生活がはじまったのだった。

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