MOTD 7話 (Pixiv Fanbox)
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先にノベルを投稿して、後から映像や画像を追加します。
5月はこのスタイルでやらせて頂きます。
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「パイちゃんってさ、メロさんやミカンさんみたいに進路はもう決めてたりするの?」
「ふぇ? 全然何も決めてないけど。あわよくば姉の脛をかじってかじり切っての人生とか考えてるけど。どうしたの?」
「またそんなこと言って……。やりたい事、見つからない? もう18だし、クラスの皆も輝かしい未来に胸をときめかせてたじゃない」
「そうは言ってもねアンちゃん。私は他の人間と違って恵まれてしまったんだよ。優しい姉とその相棒、そして素敵な幼馴染を傍に抱えているとね、どうしても重たい腰が上がらなくてさ」
「とか何とか言って! ただ働きたくないだけでしょ! 全くもー……と言っても、このシェルターで生きている限り飢えて死ぬ事なんてないからね。しょうがないね」
「そうそう。それにー、残りの人生をどうやって生きるかってのを考えなくちゃいけないからね。忙しいね!」
18歳、もう既に人生折り返し地点なのである。
以前の世界ではこの年齢は子供なのだろうけど、今は違う、私たち人間の寿命は35-6歳くらいまでに縮んでしまった。
それ以上になってしまうと空気中の毒素を体が排除出来なくなって死んでしまうのだ!
地球に飛来したウイルスの影響でこうなってしまった。
だから打開策として開発したのが体を一気に若返らせる培養カプセルなのだ。コントロールがほとんど出来ないのと、記憶の継承が出来ないのが難点ではあるけれど、種の保存 継続ができる点として評価され、国が決めている。 年齢近くになったら招集をかけられ、カプセルの中に放り込まれてしまうのだ。
これで老いた体を蘇生され、施設に預けられ、育てられる。そしてそれをひたすらに繰り返す。いつになるか分からない、ゾンビの絶滅まで。
「歴史って面白いなぁ」
「あ! またそんな本読んでる!」
「そんなとはなにだー!」
「人類の敗北の歴史じゃないの! またクラスの子に揶揄われるよ! パイナは悪趣味だーって!」
「その度にアンちゃんが殴るんだね。世の中はよく出来てる」
「よく出来てるじゃないよ全くもう!」
「いやいやでもね、これって面白いんだよ。本当かどうかは眉唾物だけどさ、昔の人間達の世界にはシェルターなんてのはなかったんだって! まぁうようよとスローターが歩き回ってる訳じゃないから当然か」
「知ってるよそれ。死ぬ直前にカプセルに放り込まれることも、エディさえも居ないし、クローン技術も禁忌とされていたんでしょ? 前教えてくれたじゃない」
「あれそーだっけ?」
熱いコーヒーをすすりながら読書にふけるのは最高に贅沢なのだ。昔から無類の歴史好き。特にゾンビが発生してからの人類の動き方を調べるのがもっとも好きなのだ。ちょっと悪趣味ではあるが、こういった刺激がないとつまらないと感じてしまう性分である。
「お姉ちゃん、頑張ってるかな。またボーッとしてないといいけど」 「あ、話し変えやがった!」
時計を見る、お昼手前だ。
早速始まった社会人1日目。気合も根性も充分! 張り切って働いてくるねと意気揚々に家を出た姉を尻目に、私はひたすらグータラな時間を過ごしているのだ。
「んーーーーーっと」
体をリラックスさせる。
どこか遊びにでもいこうかしら。歓楽街かショッピングモールか。一番近いのはショッピングモールだけど、一番近いからこそ一番行ってる場所なのである。
「あ、でもお姉ちゃんの初出勤祝いに何かご馳走でも用意しとこうかな」 「メロさんって何が好きだっけ」
「ピザだね!」
「昨日食べたね……」
「私達も好物らしいよ?」
「ガオーって言うやつね。はいはい」
「後は……鍋ものとか?」
「それなら食材買いに行かないとね」
「ついでにドカットステーキ行ってお昼食べようよ!! 久しぶりに行きたい!!」
そしたらやっぱりショッピングモールに行くか。お買い物だ!
けど時間もあるし色々見て回ろう。んで夕方になったら帰ればいいっかな♪
「携帯、携帯っと」
あまり携帯を触らないから結構な確率で足を生やしてお散歩する我が携帯。アンコ以外の人に時間を取られるのが少し嫌いなためだ。でもあまり触らないから………。
「あーバッテリー切れてるーーーめんど草の草。充電するか」
30分も充電すれば満タンになるので、その間にお風呂でも入るかと服を脱ぎ始める。
「こらパイちゃん! 人前で服を脱ぎ始めないの!」
「ふっふっふ、何を言っているのだねアンちゃん。ここは私のテリトリー! 私こそがルールであり、私こそってあああああごめんごめん冷たい手で触らないでっ!!!」
アンコの力強い腕力で風呂場まで連行されてしまった。
相変わらず見た目によらずパワー系だなぁ。
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「えーっと 今日はっと」
服を選ぶ。最近はパーカー系にハマってるためかパーカーが3・4着転がっていた。
「パーカーにホットパンツ、んでタイツだ!」
いつものキイナのスニーカーを履き、駐車場に向かった。
おっとっと 忘れていたものがある。
携帯電話だ。充電90%まで充電完了。ホーム画面を見たらお姉ちゃんから着信が入っていた。
「んー?なんだろう。午前初仕事終わりました電話かな? まぁいいか」
気にはなるが、重要でないのなら電話は取らないほうがいい。お姉ちゃんは基本ビビりだから、誰かしらに泣き言を言いたいのだ。
「パイちゃん、今日は荷物も多いし車で行こうよ!」
「お! いいねぇ!」
最近はもっぱらドライブにハマっている。タナカメーカーから出てるモデル「スハラー」ちょっとSUV気質の優れもの。これでどこにも行けちゃうのである!
そんなことを考えつつ、約8キロ先にあるショッピングモールに向かうのだった。
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お気に入りの音楽を聴きながら車を走らせる。
「〜♪」
「パイナちゃんその曲好きだよねー いつも聴いてない?」
「アンこそよくそんなの覚えてるよねー。まだ3〜4回しか車乗せてないのに」
アンコは記憶力が抜群にいい。しかも目も耳もいいから優秀である。人としての能力が全体的に高いのだろう。
「ふふーーん♪ こういう細かいことは忘れないのです!ふふん」
誇らしげだ。性格が単純シンプルだからか付き合いやすいし、一緒にいると落ち着く。
「アンちゃん、後どのくらいで着くっけ?」
「んーーあと10分くらいかな。渋滞もしてないし、スイスイよ」
そっかーっと ふっと外に目を向ける。少し遠くでなにかもそもそ動いてるのが見える。覆いかぶさってる印象だ。
「んー、なんだろあれ?」
よく目を凝らしてみるがなかなか認識できない。だれか倒れてるのかな?もっとよく見てみようとしたが、信号が青になったので発進せざるを得なくなった。なんとなーーく気になっていたが、まあどうでもいいかな。
窓を開ける。春の香りが心地いい。この季節は大好きだ。新しい出会いもあれば、街の風景もピンク色に染まる。なんだか楽しくなってきたし、心が躍る。
こんな日だから人が多いと思ってたがそうではなかった。むしろ極端に少ないような感じだ。住宅街を少し抜けた先にモールがあるが、いつもは走ってる人や学生が公園などでキャッキャ騒いでいるはずだ。
ふと、風に乗っかってきたのか、甘い香りがした。焼き立てのお菓子のような、バターもような香りだ。
誰か家でお菓子でも作っているのだろうか......。
グーっとお腹がなる。そういえば朝からなにも食べてない。すると、
「パイちゃん今お腹鳴らしたでしょ。 確かに甘い香りしたもんね! もうすぐ着くからもうちょっとの我慢よ」
アンコが笑いながら手を叩く。私もそれに釣られるて口角を上げるが、どこか胸の中にしこりのような不安感が身体中を侵食し始めていた。
気のせいとは思えない。何だろうこの感覚は。出口が見えない長い通路の奥を見ているような恐怖感。
「もー!なんで聞いてるの〜」