【先行公開】姉の家で妹が自縛していた件『前編』 (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-04-18 15:42:55
Edited:
2022-11-25 06:50:55
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まえがき
後編が書きあがったので修正後の文章と入れ替えました。
FANBOXに投稿できる文字数が少ないので二つに分けて投稿してます
※4/23前編のみ全体公開に切り替えました
以下、メインキャラクターの紹介
・(姉):真帆(まほ) 社会人 一人暮らしをしている
・(妹)・美帆(みほ) 中学生 家出をする
――――――――――――――――――――――
「終わったあー!」
今年も残り一週間。年末寸前のクリスマスイブだというのに、真帆は夜遅くまで残業していた。
新入社員として入社した二年前よりも、仕事のペースは順調になったのだが、繁忙期というものは慣れ親しんできた仕事だろうと関係なしに時間を蝕んでしまうものらしい。
だが、それも今日までの話しだ。
11月から休みを取っていなかった真帆は明日から年始にかけて連休になる。
溜めてきた鬱憤を晴らすには長すぎるお休みかもしれないが、そんなことは知らない。
仕事が終わったら、唯一の趣味である自縛プレイを楽しんでやる。と真帆は二日前から決めていた。
早々に帰宅するべく、散らかっていたデスクの上を整理してカバンに荷物を詰めていく。
「真帆ちゃんお疲れさま~、イブなのにこんな遅くまでありがとね~。はい、クリスマスプレゼント」
そこへ部署の先輩である千草が声を掛けてきて、一粒大の飴ちゃんが弧を描きながら飛んできた。
手のひらに納まったそれは子どものころから見慣れている銘柄でイチゴ味と書かれていた。
「あ、なにも準備してない……」
そういえば、毎年クリスマスになると千草から飴ちゃんがプレゼントされるということをすっかり忘れていた。
「いいの、いいの、ただの恒例行事みたいなものだから気にしないで」
その言葉に甘えるように真帆はありがとうございます、と述べてから、もらった飴ちゃんを遠慮なく頬張る。昔馴染みの駄菓子らしい甘さが口の中を満たしてきて、糖分が頭の疲れを癒してくれる。
「そ・れ・よ・り! そろそろ真帆ちゃんも彼氏の一人や二人できた?」
「へ?」
「今日はクリスマスイブでしょ~? 西岡とか遠野とか、ほとんど予定ないくせに有給取って休む子たちが多いけど、三年目になっても真帆ちゃんってそういうことしないからさ~、男の一人や二人隠してるのかなぁ~? って、思ってみたり見なかったり?」
艶然な微笑みを見せながら、真帆の身体をじろじろと眺めてくる千草に真帆は苦笑いする。
「そうだったらいいんですけど、私って小学生のころから結構男運なくて、今もソロライフ満喫中って感じで」
「そうなの?」
「はい、家に帰ったら、一人でぱーッとお酒でも飲んでゆっくりする予定です」
帰ったら自縛します。なんて言えるわけがない。
「だったら、一緒に飲みに行っちゃう? 奢ってあげるよ?」
「いやいやいや、さすがにそれは悪いですよ。それこそ千草先輩には旦那さんがいますし」
「あのバカはいいのよ。クリスマスイブだっていうのに、どこのお店にもディナーの予約してくれないダメ男なんだから」
と言い放った千草のセリフに合わさるように、ピロンッ、とどこからかスマホの着信音が鳴る。
真帆のスマホは、まだサイレントマナーに設定しているため音が鳴らない。
そのことから、着信は千草のスマホであることが伺えた。
「はぁ~? 嘘でしょ……」
「どうしたんですか?」
スマホを見た途端に千草の笑みが崩れさる。
よほど嫌な内容だったのだろうか。
「これ、見てよ」
差し出されたスマホのメッセージには、とある有名フレンチ店の名前と特定の時間を示す数字が書きこまれていた。
クリスマスイブにこのメッセージということはアレしかない。
「うわ……千草先輩やられましたね」
「バカだと思ってたら、サプライズ用意してるなんて……マジで、バカだわ」
「あはは」
これには真帆も苦笑いするしかなかった。
結局、真帆は千草と飲みにはいかず、駅まで一緒に歩みを共にし、最後は挨拶をして別れた。
別れ際の千草は、意気揚々に気持ちが高ぶっていて、とても幸せそうな雰囲気を全身から漂わせていた。
胸を預けられるようないい旦那さんと巡り逢えたようで羨ましい。
「……それにしても、カップルだらけだなぁ」
車窓から見える街並みにはクリスマスの雰囲気が前面に押し出され、イベントの告知やイルミネーション、トナカイの被り物をしてるカップルの姿まで目に入ってくる。
千草のいうとおり彼氏ぐらい作るべきなのか、とちょっとだけ考えてしまう。
しかし、真帆は男性に興味がない。
21年もの歳月を生きているが、これまで会ってきた男性に一度も魅力を感じたことがないのだ。
学生のころは学業と家の手伝いで手一杯で、男の子から告白されても断っていたし。
親と喧嘩して家出してからは、出会いの場へ赴くことはなく、仕事ばかりしている。
昔の友だちとはハガキのやり取りをするくらいで、一緒に合コンに行こうと誘われてもなんだかんだ断っている。
薄々気づいてはいたが、やはり自縛プレイなんていう変な趣味に目覚めてしまったから、普通の人間関係に抵抗心でも抱いてしまっているのだろうか。
「まぁ、別に一人が寂しいわけじゃないから、いいんだけどさ」
二十歳を過ぎたころから、仕事仲間から飲みに誘われることは増えたし。
いまいち美味しさがわからなくてまだまだお酒には抵抗があるけれど、チューハイとやらはジュース感覚で飲むことができるようになったから、やろうと思えばいくらでも飲みに付き合うことができる。
仕事仲間とプライベートも一緒というわけにはいかないけれども、それなりの浅い付き合い方でも十分に寂しさを紛らわすことはできるのだ。
今の生活に欲を言うならば、心の底から安心して自分の秘密を共有できるような存在が居れば何も問題ないような、あるような、そんな気がする。
例えるなら、真帆が自力で抜け出せないような完璧な自縛をしても時間になったら拘束を解いてくれるパートナーがいてくれたら、いいなぁーとか、そういう感じである。
そういうパートナーが一人でもいれば、いつでも好きなだけ自縛プレイを楽しむことができるだろうし、今よりももっと激しい自縛プレイだって可能かもしれない。
それこそ、自縛専用の部屋を用意してくれるくらいお金持ちの人と結婚して、一生その部屋から出ることなく、自らの自縛生活を撮影され続けちゃうとか。
逆に、相手が自縛プレイをして困っているところを助けてあげたり、またはその自縛プレイで物足りないところに手を加えてあげるとか。そういう変なことをいつも妄想する。
まぁ、そんな都合のいいパートナーなんているはずないんだけれど。
「あ、やば……っ」
えっちな妄想をしたせいで下腹部の奥がムズムズしてきた。
ここ数か月発散していなかったおかげで、ちょっとした妄想で身体が火照ってしまった。
「うん、早く帰ろう」
こんな場所でオナるわけにもいかず、駅に停車した電車からおりて自宅マンションへ向かう。
路地を道なりに進んで、自宅のマンションが目前に迫ったころ。カバンの中から着信音が響いてきた。
「こんな時間に誰?」
スマホを取り出すと画面には「アホバカママ」と書かれていた。
一目見て、絶対に出たくない。と思ってしまった。
とりあえず、見なかったことにして着信を切る。だが、間を置かず二度目の着信が鳴り響いてくる。
「うわ……これ、絶対うるさいやつだ」
家出したとはいえ、念のため連絡先だけは教えている。だからと言って、必ず電話に出るとは伝えていない。どうせ、「年末は帰ってくるの?」とか、そういうことしか言わないはずだ。
これから自縛プレイをするというのに親の声を聞くのは、さすがに気が引けた。
「電源切っちゃうおう」
これで、よし。とスマホをカバンにしまい込んで、止めていた歩みを再開する。
「あ、お姉ちゃん」
マンションの入り口に差し掛かったところで聞き覚えのある声に呼ばれる。
声のほうへ視線を向けると明るく染めた枝毛一つない髪の毛を後ろでアップに纏めたあとにお団子にして、毛先をあえて外に下ろすというおしゃれな髪形をした女の子がいた。
切りそろえられた前髪の下には紅い瞳を携えており、背は真帆よりも頭ひとつ分ほど低く、まだ成人していないことが伺える。
真帆はこういうタイプの女の子と面識はないのだが、誰かと似ている。
「もしかして……美帆? なんでこんなとこにいんの?」
白のトレーナーに膝丈のデニムスカートを身に着けて、アウターには濃紺のチェスターコートなんていう大人びたコーデをしてるが、その面影は紛れもなく真帆の妹の美帆だった。
真帆が家を出たときは、お古の赤いランドセルを背負ってる小学5年生だったのに、真帆が居ない間に何があったのだろう。どこかのモデル雑誌に載っていそうなギャルに変わり果てていて、驚きを隠せない。
「お母さんがうるさくて……家出した」
「あー、なるほど」
だが、美帆から発せられたたった一言を聞いただけで真帆はすべて納得する。
家出。
実にいい響きだ。
13歳だったころの真帆よりもギャルっぽい見た目をしているのは、美帆がグレたせいなのだろう。
姉妹そろって実家から飛び出すなど、一体どんな家庭事情を持っているのか疑問だが、高校を卒業してから家出した真帆はある意味独り立ちと言えなくもない。
しかし、美帆はまだ13歳だ。真帆のときとは事情が変わってくる。いくら反抗期とはいえ、13歳で家を飛び出すのは社会的にも問題がありすぎる。
さきほど母親から電話がかかってきたのもそういうことだったのだろう。
「とりあえず、入る?」
「……うん」
親が心配してるから家に帰りなさい。などと13歳でギャルの恰好をした妹に伝えたところで「はい、わかりました」となるはずもない。
とりあず、自宅のマンションに受け容れてから先のことを考えることにした。
「それで、家出した理由はなんなの?」
夜風で冷めきった身体を温めるために、お風呂を沸かしつつホットココアで妹をもてなす。
ココアを飲み切るころには、お風呂も沸いて一休みいれることができるし、なにより、先に妹をお風呂に入れてしまえば、妹の手が届く前に寝室に置かれている自縛道具を片付けられる。真帆なりに考えた実に計画的な作戦だ。
「お母さんと喧嘩した」
「ん-と、具体的には?」
「お皿を洗うとか洗わないとか、部屋を片付けるとか片づけないとか、兎に角いろいろ!」
「つまり、どういうこと?」
真帆の思考回路など気にも留めず、美帆は実家についての愚痴をたくさん零しながら、中学生の女の子らしい反抗期ってやつを堪能しているみたいだった。
真帆が実家住まいのときは、家の仕事から美帆の世話まで、なにからなにまで手伝わされた覚えがある。
それと比べたら、美帆が真帆に話してくる愚痴はとても些細なことでしかなくて、一部は共感できても全ては共感できなかった。
せめて、もう少し大人になってから家出をしていたのなら、どこかで深くわかり合えたのかもしれない。
今の美帆から伝わってくる言葉は幼稚なわがままにしか聞こえなくて、どちらかといえば両親のほうに共感してしまう自分がいる。
要するに、それくらい我慢しろよ。と姉ながらに思ってしまう内容でした。
「まぁ、生きてたらそういうこともあるし、たまには羽目を外したくなるか」
しかし、ここで否定したところで何も解決はしないので、姉らしく共感しておく。
「別に、羽目を外したいわけじゃなくてさ……少しくらいアタシの意見を聞いてくれたっていいじゃん? お姉ちゃんはさ、いつもアタシの面倒見てくれて、なんでもかんでも優しく教えてくれてたし、アタシが困ってたり泣いてるときは励ましてくれたでしょ? なのに、お母さんも、お父さんも、頭ごなしに頑固なことばっかり言ってさ、マジ石頭って感じで、うざすぎるっていうか、なんていうか……あぁ、もう! 思い出すだけで腹が立ってきた!」
思春期特有の感情の抑制が効かない現象は何と言ったっけ。フラストレーションがどうのこうのと何かの授業で習ったことがある気がするが忘れてしまった。
「まぁ、お風呂の用意できたし、先に入っておいでよ。ずっと外で待ってたんでしょ?」
「いいの? お姉ちゃんこそ仕事で疲れてるんだから先に入ったらいいのに」
「いいの、いいの、それより出前頼むけど食べたいものとかある?」
感情が不安定なくせに、他人の心配ができるくらいには成長してるらしい。
お言葉に甘えてお風呂に入ってしまいたいが、自縛道具を放置しておくわけにもいかず、半ば無理やり美帆をお風呂場へ送り込んでその間に寝室にある玩具一式をクローゼットの奥深くへ封印するためにダンボールの中へすべて押しこむ。
中学生の美帆がいる前で、こんな大人の玩具をお披露目させるわけにはいかない。
美帆がどうやって真帆のマンションを突き止めたのか謎だが、美帆が帰るまでプレイはお預けになりそうだ。
「コレでよし……!」
クローゼットの見えないところまでダンボール箱が行き届いたのを確認して、スーツから部屋着に着替える。
まぁ、年明けまでは連休が続いているし、どこかの休みで楽しむことができれば十分だ。
年が明ける前には美帆の気持ちも整理がついて、実家に帰っているだろう。
「お姉ちゃんありがとね、お風呂終わったよ」
テレビを見ながら、暇をつぶしていると適当に貸し与えたスウェットを纏った美帆が隣にやってきた。自分が愛用しているシャンプーやらボディーソープやら色々な香りが混ざった匂いが美帆から漂ってくる。
「んじゃ、私もお風呂入っちゃうから。出前が来たら受け取りよろしくね」
はい、麦茶。とコップに美帆の分を注いでからソファーを後にする。
「オッケー、ありがと」
そう返事をする美帆の胸が、心なしか真帆よりも大きいような気がするのは見間違いだろうか。
まだ13歳だというのに、真帆より大きいなどありえない。見間違いであってほしい。
そんな小さなことに少しばかりの嫉妬を抱きつつ、真帆は仕事で疲れた身体を湯船の中でほぐしていく。
「届いたやつ適当に並べておいたよ」
暫くして、真帆がお風呂から上がったころには、ソファーでくつろいでいる美帆の正面。そのテーブルに出前の品が整列されていた。
「さきに食べててよかったのに」
真帆の言葉に反応するように濡れそぼった明るい髪の毛が美帆の耳から垂れ落ちる。
「そんなのダメだよ。今日はクリスマスイブでしょ? イブの日はお姉ちゃんの誕生日だから、食べるのは一緒がいいなって思ってたの」
「私の誕生日覚えてたんだ」
「覚えてるに決まってるじゃん? だから、その……お、おめでとう?」
「うん、ありがと」
「えへへ」
愚痴を聞いていたときは幼稚なままだなあ、と感じていたが、どうやら美帆も大人になりかけているらしい。よくわからないが、胸の奥があったかくなった。
「じゃ、お腹空いたし食べよっか」
「うん!」
それからは出前を食べながら数年前のくだらない思い出話しなどをして過ごした。
子どもらしく元気よく話をしていた美帆だったが、よほど疲れていたのだろう。
時計の針が0時を指したころに、寝落ちするように眠ってしまった。
やはり、自己管理はまだまだおこちゃまのようだ。
「ほんと、大きくなったなぁ……」
その割に、未成熟な身体は女の子らしい体型へと成長している。
まだ年相応の細くて小さい手足をしているけれども、出るところは出ているし、あと数年もすれば真帆よりも背が伸びるかもしれない。
赤ん坊のころから美帆のことを見てきたが、ここまで大きくなるとは思ってもみなかった。
スヤスヤと隣で寝息をたてている妹が、無償に愛らしく感じてしまう。
もしかするとこれが母性本能って奴なのかもしれない。
「まだ、子供産んでないんですけど……?」
バカみたいな自分の思考回路に突っ込みを入れつつ、寝言を呟いてる美帆を無理やりベッドまで連れて行って寝かせる。
「そうだ。アホバカにメッセージだけは送っておかなくちゃ」
警察沙汰になっても面倒だし、母親には「しばらく家に泊める」とだけメッセージを送っておいた。
たぶん、色々とメッセージを送ってくるだろうが、通知はOFFになっているため、どれだけメッセージがこようと無視をするつもりだ。
「さて、片づけたら私も寝るか」
他に布団なんて用意してないし、今日はソファーで寝るしかない。
風邪をひかないように暖房をつけておけば、ひざ掛けでも寒くはないだろう。
こういうのもたまには良い。
そんな気分で眠りについた真帆を叩き起こしたのは、職場からの一本の着信だった。
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