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 毎日が退屈だということに気づいたのは、いつからだろう。  中学を卒業してからだろうか?  第一志望の高校に入学できず、予防線の高校に入学してからだろうか?  それとも、高校を辞めてからだろうか?  明確な日時は忘れてしまったが、私の人生が狂ってしまったのは、その頃だろう。  この先お前はどうやって生きていくんだ?  学校を中退するような浅はかな人間を誰が面倒みるんだ?  お前なんか産まなければよかった。  あのとき両親が放った言葉は、一生消えない染みを私の中に作り出した。  確かに私は、中学校でも成績がいいほうではなかったし、交友関係だって曖昧にしてきた人間だ。  何かを誇れるような活動はしていなかったし、流行りのインフルエンサーでもない。  心を許せるような親友も居なくて、寂しい、苦しいと感じたときは誰にも相談せずに一人で解決方法を悩み抜いてきた。  生活面のすべてにおいて、掃除も、洗濯も、料理も、お金のこと以外は両親の手を借りていないし、高校に入学する準備さえも、すべて自分で用意してきた。そこまで自立して頑張ってきたのに、今は引きこもりのニート生活を満喫してるんだから笑える。  当たり前に過ごしているつもりでも、いつかどこかで足もとの地面が崩れ落ちる時はやってくる。それが他人よりも少しだけ早かっただけなのかもしれない。そうだとわかっていても自分の人生を恨むことしか私にはできなかった。  どうして、私は生まれてきたのだろう。  最初から生まれてこなければ、こんなことで悩まなかった。  他人の幸せを妬んだり、恨んだりすることもなかった。  生きているだけの自分が憎くて、醜くて、情けない。  さっさと死んでしまえば楽になることを理解していても、死ぬ勇気さえもない。  本当、くだらない。  昨日も、今日も、毎日こんなことを考えてる。  こんなくだらない考え方しかできない自分が心底嫌いだ。  自宅の部屋に引きこもり、自殺願望者みたいな発想をしながら、毎日インターネットで動画を見て過ごして何が楽しいのだろう。  朝起きて、食べるものは食べて、疲れたらベッドに眠る。  今だってそうだ。  布団を深く被りながら現実を見ないように夢の中に浸ろうとしてる。  ただ無駄に生きながらえる日々を淡々と続けるだけ。  生きる理由を見つけなさい。と偉い人はいうけれど、生きる理由なんてどうだっていい。  どうせ、ありふれた生活の中に散りばめられている麗らかなものでしかないものなんて吐き捨ててやりたい。  あたりまえの生き方ってなに?  どういう生き方が普通に当てはまるの?  この社会の普通なんて声の大きい多数が決めた偏見でしかない。  そんな偏見の社会で生きながらえるなんてごめんだ。  ハッキリ言って、この世から消えてしまえるなら、私は迷わず消えることを選ぶ。  どこか遠く、誰も私のことを知らないような場所に連れていってくれるツアーがあれば今すぐにでも参加する。 『あるよ。君に相応しい場所が』  ――なに?  突然、頭の中に声が響いてきて閉じていた瞼を開けようとするけれど、開いてくれない。 『こっちにおいでよ。連れて行ってあげるから』  なのに、意識だけが現実に貼りつけられているような嫌な感覚だけが私を支配している。  俗にいう金縛りって奴に陥ってるみたいだ。 『ほら、早くおいでよ』  頭の中で警鐘が鳴り響くけれど、関係ない。  ただ無心に声の聞こえるほうへ意識を伸ばした。 「……ッ」  刹那、暗闇だけだった視界が打ち上げ花火のように弾け飛んで真っ白く染まる。 「……ここは?」  気がつくと雪が降り積もったみたいに白一色だけの部屋に、私は倒れていた。  まるで異世界に飛ばされたような気分だけれど、これは夢。  私はたしかにベッドの上で眠ったのを覚えている。あり得ないくらい鮮明に。 「なんなんだろう、ここ……?」  周囲を見回してみるが、何もない。  ただ、壁と天井があるだけだ。  部屋の広さは六畳ほどで高さは私の背丈二つ分ほど。  出入口はどこにもなくて、私だけが一人ぽつんとここにいる。現実的じゃない空間。まさに夢の中って感じの構造をしてる。 「……本当に夢、だよね?」  意識は夢のように混濁している様子は感じられず、鮮明な視覚情報が現実そっくりの感覚を直接脳に送り込んでくるから不気味すぎる。  ――ギチチッ。  なにより一番不気味なのは、自分の格好だ。  肌に密着している黒一色の全身タイツが動くたびにギュチギュチと音を鳴らし、ゴムを薄く引き延ばしたような肌ざわりが、首からを下を完全に覆ってしまっている。 「全身ゴム塗れでゴム人間になった気分を味わえるなんて、変な夢……」  両手足の爪の先までぴっちりと密着したゴムの感触が非常に気持ち悪い。  全身の肌にサランラップがへばりついてしまったような感覚がずっと私を包んでる。  おまけに腕や太もも、腰の括れや育ちかけの胸の形すべてが引き締められ、黒いゴムの膜一つに身体のラインをこれ見よがしに強調されてしまっているから、ほとんど全裸みたいな状態で恥ずかしい。 「この格好は悪趣味にも程があるでしょ……」  しかも、着脱の機能はどこにも見当たらない。  試しにゴムを無理やり引きちぎろうとしても、弾力性が異様なほど強く、伸縮性もあるせいで全く破ける気配はない。  ネックの部分から脱げるかどうか試したけれど、肩幅よりも広がることはなく、引っ張り続けても、私の筋力じゃすぐに元の形に引き戻されてしまう。まるでSF映画の未来人みたいな格好に苦笑いが込み上げてくる。  いくら夢とはいえ、ここまでヘンテコな夢を見るとは、相当ストレスが溜まっているらしい。 「……脱げないし、脱いでも裸だし、詰みじゃん」  とにかく気分は最悪。  こんなピッチピチのゴムスーツを身に纏い続けるヘンテコな夢からは、さっさと覚めてしまいたい。 「覚めても辛い現実が待ってるだけでしょ?」 「だれっ……?」  突如声が聞こえてくるけれど、部屋には誰もいない。 「あなたは私のことをよく知ってるはずだよ」 「……どこにいるの?」 「ふふ、こっちだよ」 「え? 私が……もう一人?」  声がハッキリと聞こえたほうへ振り向くと自慢げに微笑んでいる“私”がそこにいた。 「そう、私はあなた。桜庭春菜だよ」  黒い双眸の瞳の上で整えられた前髪と背中まで伸びる黒いストレートヘアー。  すらっとした小鼻の下でニヤニヤと嬉しそうに微笑む口元。  首から下のすべてを包み込む黒いゴムさえも、目の前にいる彼女は私――桜庭春菜――と瓜二つの姿をしている。 「……もう一人の自分が出てくる夢を見るなんて、私……病んじゃった?」 「いいじゃない? 病んでても。そういうところも大好きよ?」 「大好きって……何言ってるの?」 「そんなの決まってるじゃない?」 「ちょ、ちょっと!? なに!?」  うふふ、と微笑みながら、彼女は私のほうへ歩み寄ってくると恋人が繋ぐように手のひらを握りしめてきた。 「どうせ誰にも愛されないなら、自分で自分のことを愛してあげるしかないでしょ?」 「あなた、なに言って――っんむ!?」  握り締めてくる手の感触にゾッとして、あとずさった瞬間。彼女の温もりが私の唇に重なった。 「んっ、んぁ、ぃあッ!? んむ、むぅッ! んぁ、ッ、ぁん…ッ!」  逃げ出そうとした私をそのままの勢いで壁に圧しつけ、執拗に唇を吸いつけながら、彼女は私の口の中へぬるりと舌を入れてくる。 「――ッ、ぃや…ッ、んぁ、やだぁ……っ、やめッ、んっんむぅッ!?」  彼女の舌が、唇の内側を這いまわり、くちゅくちゅと粘液を絡めながら歯茎の隙間までにゅるにゅると舌を這いずらせ、濃厚な刺激を弛まなく送り込んでくるから、思考が乱れてしまう。 「んぁ…ッ、んむぅっ、ん、ぁんっ…ぁ…ぅむ、んッ!?」  暫くして、自分の口が、自分に犯されていることを理解する。 「んっ、いぁ……ッ! んむ、うむぅッ! んぁ、むッ、んぁ……ッ!」  こんな歪んだ夢を見るなんてどうかしている。  すぐにでも自分とのキスをやめたいけれど、彼女は容赦なく私の口を犯し続ける。  強制的に、一方的に、私は彼女の口付けに翻弄されてしまっている。 「——やめッ……!」  なんとかして彼女に握られている手だけでも解放しようとついに私の身体が抵抗を始めるが、手首を捻って抜け出そうとする私の手を彼女の手が追いかけてきて、逃がしてくれない。 「いやッ、んッ……もう、やめッ……」  艶めかしい舌が、自分の舌を這いずり回る感触はあまりにも現実離れしていて、このまま好き勝手に弄ばれ続けたら、頭がおかしくなってしまいそうだった。 『ほら、全部受け入れちゃいなよ』  頭の中に声が響いてくる。 『気持ちいいこといっぱいしてあげるから』  この声は私をこの場所に導いた声だ。 『全部受け入れて楽になろうよ』 「んむッ、ん…ッ、ぁんっ! んぅ…ぁんッ、んむぅっ!」  壁に圧しつける力も、手を握る力も、彼女の口づけも、より激しくなって私を貪りつくそうとしてくる。 「――んぁッ!?」  あまりの激しさに呼吸さえも彼女にコントロールされているような錯覚に陥る。  このまま好き勝手に弄ばれていていいはずがない。  訳も分からないまま、自分に犯され続けるなんて、夢の中でもごめんだ。  私の身体は私だけのもの。  だから、いい加減――。 「もう、やめてッ!!」  渾身の力で彼女を突き飛ばすと彼女は背後から崩れ落ちるように地面にたたきつけられ、白い床に這いつくばる。 「……そうやって、私のことも否定するの?」  床に両手をつきながら、私を見上げる彼女の瞳は寂しそうで鏡写しの自分を見ている気分になるから非常に気分が悪くなってくる。 「こんなことされたら、誰だって嫌に決まってるでしょ! この変態ッ!」  口元に滴る唾液拭って、彼女に吐き捨てた言葉は軽蔑そのもの。 「そっか、そうだよね。知ってる。わかってた。理解してる。どうせ、私は自分のことが大嫌い。他人なんかより、一番嫌いなのは自分自身だったよね。あ~あ、すっかり忘れてたなぁ……」  床に俯きながら言葉を連ねる彼女の表情は見えない。  でも、彼女が言っていることはわかる。  私は私が大嫌いなのだ。  私が私を愛するなんて、嘘だ。  そんなことは絶対ありえない。  私は私を愛せない。 「まぁ、それなら仕方ないっか」  うふふ、と顔を上げた彼女の口元が怪しく笑う。  明らかに何かを企んでいる。 「今度は何するつもりよ?」 「さぁ? 自分の両手でも見てみたら?」 「は……? なによ、これ……」  両手に目を移すと黒いゴムの膜の中に手のひらが包まれていた。  ミトン状の三角形に指を一つ残らず閉じ込め、わずかな指の動きを制限するようにぴっちりと覆ってしまっている。  ――ギチチッ。  指を握りしめるだけで、耳障りな音が響いてきて、ゴムの圧力で指を広げることができない窮屈さが手のひらに密着してる。  ここで目覚めたときに感じた首から下を覆っているゴムの膜と同じで破ける気配がみられない。 「……ッ」  指先から肩のほうへぞわぞわした感覚が伝わってきて、身震いする。  こんな悪趣味なものを再現する自分の夢にますます嫌悪感が増していった。 「気にいってくれた?」 「気いるわけないッ! こんなことして、何の意味があるっていうの?」 「別に意味なんてないよ? ただ私は、私の好きにやらせてもらうだけだよ。だって、これは私が見てる夢なんでしょう?」  にやにやと笑いながら話す彼女の両手に掲げられているのは、T字に広がる人の上半身を模した黒いゴムの衣。  袖の先は閉じていて、指先に当たる部位から、怪しく光る銀色の金具とベルトのような留め具を垂らしており、開け放たれた着用口にも、所狭しに銀色の金具とベルトが散りばめられている。  見た目からして、絶対にヤバそうなそれをどう使うつもりなのか、想像したくもない。 「あなたのために用意した拘束衣、ちゃんと着てくれるよね?」 「どうして私がそんな変なもの着なくちゃいけないのよ!」 「あなたは全てを受け容れるだけでいいの。ほら、こんな風にね?」 「――なッ!?」  目の前に居たはずの彼女が、一瞬で私の背後に移動したかと思えば、黒い膜が上半身を呑み込むように被せられていく。 「やだッ、うそでしょ!?」  ピチピチに張り裂けそうなゴムの膜が指先から肩までを締めつけ、背中で閉じられる。 「抵抗しなくていいの? 早くしないと全部のベルト留めちゃうよ?」 「い、いやッ! やめて!」 「あはは、そうやって怖がってる私も大好きだよ」  彼女を突き放そうと拘束衣に通された腕をブンブン振り回す。  けれど、彼女に私の腕は当たらない。なぜか幽霊みたいに背中に張り付いてしまって、離れる気配がない。 「やだッ! こんな変なもの着たくない!」 「嫌なら脱いだらいいじゃない? まぁ、脱げたらの話しだけれど」 「ふざけんなぁ!」  背中のベルトが一つ一つ金具に留められていくたびに、ゴムの膜がミチチッと音を立てて胸やお腹に密着して肌が苦しい。  薄いゴムの膜の上から、さらに分厚くて硬い質感のゴムに締めつけられていく感覚は、異様な窮屈さがあって、自分の身体が別の物に作り変えられていくようなおぞましさがあった。 「なんで? なんでよ! なんで、こんなことするの!?」 「これは、あなたが望んだことなんだから、たっぷり味わってくれたらそれでいいの」 「こんなこと望んでなイッ——!?」  拘束衣が完全に上半身に密着した途端、胸を圧し潰して交差するように両手が肩に引き寄せられ、指の先のベルトが背面に固定されてしまう。 「い、いやッ、やだッ…やめてえええ!!」  さらに背後から二の腕にベルトが絡まり、胴体に引き寄せるように固定される。 「うそッ、なにこれ? なんなのよ!?」  それだけで私の腕の自由は奪われてしまった。  もう、どれだけ腕に力を込めても意味はない。 「外れないッ…外れないよぉ!?」  身を捻ったり、振り回したり、飛んだり跳ねたりしても一度固定された両腕は二度とその場を離れない。  どうしてこんなものを着せてくるのか意味がわからない。  いくら夢の中とはいえ、わからないことが酷く恐ろしかった。  でも彼女は、それで終わりにしない。 「うふふ、あとはこれで包んであげるからね」  彼女が見せびらかしてきたのは、先ほどの拘束衣とは似て非なる物。  ミイラのように拘束されている私の両腕ごと上半身を覆ってしまう分厚いゴムの膜。  そんなものまで被せられてしまったら、私の上半身は完全にゴムの塊になってしまう。 「いやッ! もういやッ! 絶対にイヤッ!」  咄嗟に彼女の反対方向へ駆け出した。  拘束された私の身体は無様そのものだったけれど関係ない。  とにかく怖かった。  あんな物に自分の身体を包まれるなんて、夢の中でも嫌だった。 「逃げても無駄だってわかってるくせに」 「――ひッ」  逃げた先には黒い膜が待ち構えていた。 「ふふ、自分から中に入ってくるなんて、本当は望んでるんでしょ?」 「いやぁあああ!!」  彼女の掌の上で踊らされるだけの私に逃げ場なんてなかったのだ。  抵抗することのできない上半身は、二重構造の分厚いゴム膜にあっさり取り込まれ、背中でジッパーが閉じられてしまう。 「あッ……うあッ……いやぁ……ッ!」  黒光するゴムの膜が上半身を完全に包み込み、人と呼べるような特徴すべてを覆ってしまった。  これが夢だと頭は理解しているのに、身体は現実と同じ感情を溢れさせてくる。  鼻の奥がピリピリと痛んで、視界に涙が滲んでくると、足から力が抜け落ちて膝が床についた。 「あーあ、もう、自分じゃ脱げなくなっちゃったね」 「うぁっ…ッ!?」  無抵抗の身体は、彼女にたやすく押し倒されてしまい、仰向けになったそばから、ゴムの膜がみるみると膨らんでいき、空気の圧力によって、上半身全てが圧迫されていく。 「んぁ…ッ、ぅぅ…キツぃぃッ!」  パンパンに張り裂ける寸前の風船みたいに育ったゴムの膜は、丸みを帯びた黒い逆三角形の中に私の身体を閉じ込めて、四方八方すべてから圧し潰すように締めつけてくる。 「ねぇ、ゴムの中に閉じ込められるってどんな気持ち?」 「もう…やめて…ッ、お願いッ!」  あまりの自由のなさに、白旗を上げる。  夢の中は彼女の思うままだ。そんな場所で私が彼女にいくら抵抗したって意味がない。  抵抗すればするほど、彼女は私をあざ笑ってくるに違いない。  だったら、最初から彼女の相手をしないほうが身のためだ。  どうせこれは夢なんだから、私がどんなことになったとしても必ず覚めてくれる。  私はジッとそのときを待てばいい。 「ふーん、諦めちゃうんだ? まぁ、そうだよね。こんなゴム風船みたな身体にされたら諦めるしかないもんね」 「そ、そうよ……ッ、もう酷いことしないで……ッ!」  私を見下ろす彼女は、呆れたように苦笑する。 「じゃあ、私の言うとおりにしてくれる?」 「する! なんでもする! だから、もうこれ以上は――んむッ!?」  彼女の唇がまたも私の唇を奪ってくる。  パンパンに膨らむゴムの膜の内側で、ミイラのように腕を組みながら圧し潰される私の上半身にのしかかりながら、何度も何度も唇にキスを重ねる。 「んぁッ、ぁん…ぅぅッ、んぅ! んむぅッ、ん、んぁッ、ああッ、あぅ…んッ!」 「……こんなんじゃ足りないッ、もっとちゃんとキスして」 「んむぅぅッッ!?」  彼女の瞳は本気だった。  瓜二つのものとは思えないほど、性欲に満ちた淫靡な眼差しで私の瞳をジっと見つめて、さらに深い口づけを求めてくる。  逃げたくても、マウントを取られているせいで逃げられないし、彼女の口づけを拒否したら、次は何をされるのかもわからない。  だからもう、選択肢は一つしかない。 「んはぁッ、あぅッ、ん…っ、んむ、んぁ……ん!」  迫ってくる彼女の唇に応えるように、蠢き、貪りついてくる艶めかしい舌へ自分の舌を絡めていく。 「んぁっ、ん…そう、その調子……っ、んむぁ…んふふ、上手だね」 「う、うるひゃっ、い…ッんぁ…ッあん!?」  彼女の両手に頭をガッチリとホールドされて、さらに逃げ道を消されてしまう。  唯一自由な両足をバタバタ動かして、刺激を逃がそうとするけれど、ダメだった。  五分。十分。と永遠に続いていく口づけが、じわじわと甘く切ない刺激を生み出してくる。 「んっ、ぁ…ッ! んむ、うふぅ…ッ、んぁ、あ……ッ!」  この口づけは終わらない。  いつまでも続いていく。  私が嫌がらない限り、彼女は口づけを終わらせない。 「あはぁ、んッ…ッ! んんッ、んぁ…あ、やだッ、からだが…ッ、熱……ッ!」 「ふふ、気持ちよくなってきたね?」  突然取り乱す私のことを優しくたしなめて、彼女はうなじにキスをしてきた。 「んひゃッ!? アッ、ああッ…っ!?」  何とも言えない電撃が肩を伝って足先まで響き渡っていく。 「んふふ、可愛い声」 「んぁあッ! あぅ、っん…はぁッ…!」  足先がビクッと突っ張って、下腹部の奥でビリビリする何かが蠢いて、もっと刺激が欲しくなってしまう。  でも、それはダメだ。  彼女が望むままにすべてを受け容れてはいけない。  それでは彼女の思うつぼなのだ。  彼女の好き勝手にさせたくない。  だから、わざとでいい。  彼女が私を疑わないように振舞うだけでいい。 「ねぇ、他には気持ちいいことないの……?」  彼女の唇が触れる前に、おねだりをしてみた。  キスばかりされて、呼吸も乱れてきたし、彼女の意識を私から反らしてやり過ごすための行動だった。 「それじゃあ、とっておきのヤツをあげる」  彼女が姿勢を変えると下腹部の下の辺りに黒くて長い棒をぶら下げていた。  棒の部分は厭らしく反り立っていて、先端は蕾のようにふっくらとし、明らかに女の子についてたらイケナイものを模していた。 「なに、それ……?」 「ディルドだよ。舌で舐めて、お口でしっかり濡らしてね」  黒い棒の先端部分が私の口に当たるように彼女の腰が顔に近づいてくる。 「ほら、お口を大きく開けて」  混乱している私の唇にグイグイと棒の先端を押しつけてくる彼女の顔を見ようとしても、黒いゴムが私の視界を埋め尽くす。 「……ッ」  独特の甘い匂いを放つ得体のしれないそれを口に入れるのは嫌だったけれど、ここで私が拒絶したら無理やり咥えさせられるのがオチだ。  だから、震える唇をゆっくりと開いて。 「――あ、んッ……んぁッ!?」  太くて硬いそれを口の中に受け容れる。 「そうそう、舌を上手に使って、強く噛まないように、優しく濡らしてあげてね」 「んはぁ……んぁ、あぅ…んぅッ!?」  動かないと思っていたら、彼女は腰を前後に動かして口に咥えているそれをストロークさせてくる。 「んぁッ、あんッ、ひぁ…ッ、!? あふッ…ん、んうぅッ…んぶぅ!?」  単純な前後運動だけじゃない。  舌の上で転がっては、唾液がぐちゅぐちゅと動き回り、ほっぺの裏にこすりつけるようにくねらせたり、舌を潰すように圧しつけたりと縦横無尽に好き勝手動き回るから口を休ませる暇なんてなかった。  ひたすらに彼女の気が済むまで、私はソレを口で必死に舐め回す。 「これだけ濡れたら十分そうだね」  数分か。数十分か。どれほどの時間が経過したのかわからない。 「んぶぁ…ぁ…ッ!」  泡立つ粘液を絡めながら、ディルドが口から抜き取られる。 「さてと、準備はいい?」  息を整える私を尻目に、彼女は仰向けのままの私の両足を左右に開くように持ち上げるとびちょびちょに濡れたソレを下腹部のほうに当ててきた。 「……え?」  生暖かいソレがピタっと触れたところは、ゴムの膜に覆われていたはずなのに、ゴムの膜がクパりと開いて、生身が剥き出しにされていた。 「ま、待って……ッ! まさか、それッ、入れるつもり!?」 「当然でしょ?」 「い、いやッ、ちょっと待ってッ!」  咄嗟に逃げようとしても私の両足は彼女に抑え込まれていて、左右に開いたまま何もできない。 「大丈夫。怖くないよ」 「ま、まだ準備が――ッ!?」  取り乱してる最中に、ぬりゅッとお腹の中を掻き分けて、確かな異物感が奥へ向かって突き進んで。 「――んぎぃッ!?」 「うわっ…全部入っちゃった」  一番奥に到達して彼女の股と私の股が一つに重なる。  経験したことのない刺激が内ももに流れてきて、ぴくぴくと足が小刻みに震えてた。 「はぁッ…んっ! んぎッ…!」  奥歯を噛みしめて、刺激が消え去っていくのを我慢する。  これは、マズい。  本当にマズイ。  挿入されるだけで、こんなに気持ちいいなんて知らなかった。 「我慢しなくていいんだよ? ほら、もっと気持ちよくなっちゃいなよ」 「ひゃめッ――!?」  ズリズリと擦れながら、今度は異物感が外へ抜けていく。 「あ、ああぁああ!?」  そして、再び奥に入ってくる。 「うふふ、どう? 気持ちいいでしょ?」  彼女の腰が前後に動くたびビリビリした刺激が全身を駆け巡っていき。 「これ、ダメッ……! こんなのダメぇ…!」  奥を突かれるたびに息が口から零れ落ち、噛みしめようとする顎から力が抜けて、お腹に力が集中していく。 「口ではそう言ってるけど、本当は気持ちいいんでしょ? ほら、イっちゃいなよ? もっと動いてあげるから!」  彼女の腰が前後に動くたびに、グチュッ、グチュッ、と音を立ててお腹の中が掻き回される。  彼女は断続的に止まることなく動き続けて、延々と同じ刺激を送り込んでくる。 「い、いやぁ……ッ、あ、あぅッ、ンッ!? い、イクっ…! イ、イッちゃうぅ…ッ!!」  淡々と続けられる刺激から逃げる術はなくて、気がつくと自分の物とは思えない声が口から零れていた。 「だ、ダメぇッ……! イクぅぅぅううッ……!」  全身の神経が、血管が膨張して、激しく波打って、熱かった。  甘い吐息だけが口から零れて、ただただ昂っていく感情を口に出すことしかできない。 「ほらっ! 我慢しないで! さっさとイッちゃえ!」 「ひゃああああッッ!!」  こみ上げてきた熱量に耐えきれず、視界が白く明滅する。 「んぎぃぃぃいいいいッ!? 止まってぇ! 止まってぇ!!」  なのに、彼女は動きを止めてくれない。 「まだだよ、まだイケるでしょ?」 「無理ぃいいいいッ!!」  身をよじっても、彼女にホールドされた両足はガッチリと掴まれていて逃げられない。  頭の中はもう真っ白で、何がなんだかわからなくて、灼けるような気持ちよさだけがいっぱいに広がってた。 「はぁッ、あ、あ、うあッ…あ、んひゃああッ!? ひゃめッ…! もう、だめええええええ!! 許してえええええ!!」  終わらない。  終わってくれない。  早く、終わってほしいのに。  いつになっても続いていく。 「イ、イクッ! イッてるッ! イッてるのにぃぃッ! また、またイッちゃぅううッ…!!」 「あはは、いいよ! もっともっといっぱい気持ち良くしてあげる!」 「ーーンぐッ!?」  身を乗り出してきた彼女の手が私の首をガッチリ掴んで体重を乗せてきた。 「な、なにッ、じでッ……!?」  ただでさえ呼吸は乱れて、軽い酸欠気味なのに、喉を潰されたら、息ができない。 「このほうがもっと気持ちよくなれるでしょ?」  にやにやと笑みを浮かべる彼女の瞳に恐怖を覚える間にも、頭にぐつぐつと血が溜まって、意識が遠くに消えそうになる。 「しッ、しんじゃうッ…!!」 「死なないよ。これは夢なんだから、死ぬわけないでしょ」 「むりぃッッ…!! じぬッッ、しんじゃうッ!!」  冷静でいられなかった。  だって、自分の体に起きていることは、現実と同じ感覚なのだ。  肺が痛みを発して、喉が悲鳴をあげて、じわじわと死んでいく感覚が脳に流れ込んでくる。  このままじゃ、死ぬ。  確実に死ぬ。  死んでしまう。 「ーーんぎッ……!」  意識が霞んで消えていくのに、上半身は拘束されていて何もできないし、彼女の前後運動は延々と続けられる。 「んぁ……っ、あ……ッ、し……ッ……ぅぅ」  耳鳴りが頭を叩くように響いて、意識がふんわりしていく。  全身が暖かいものに包まれて自分がどこにいるのかもわからなくなって、身体が勝手に痙攣して。 「イ……ぁっ……!? イグッ……イッちゃゔぅッ!!」  ふわふわの多幸感に襲われながら、視界が真っ白く弾け飛んで消えた————————————————————。 「ほら、起きて」 「――んぐぅう!?」  目が覚めると口の中いっぱいに何かが詰め込まれていた。  硬いゴムのような質感のそれを吐き出そうとしても、顔全体を圧し潰してくるパンパンに膨れ上がる何かが邪魔をしてくる。 「んむうう!?」  手を使おうとしても、ミイラのように両肩を抱いたまま、ギチギチと圧し潰されていて動かせない。 「んんーーー!!」  さらに、両足は一本に纏められて、まっすぐ直立に伸ばしたまま狭い場所に閉じ込められているみたいに動かせない。  プシュー。プシュー。と鼻で呼吸をすることはできても、空気を吸うときにお腹に力を強く籠めないとまともな空気が入ってこなくて、息苦しさに襲われる。 「——ッ」  なにより異様な感覚を与えてくるのは下腹部の奥。  そこにはたしかな違和感があった。  三つの穴全部に何かが収まってる。  それがなんなのかわからないけれど、身動き一つできない状態じゃ確認することもできない。 「んぐうううううう!!!」  声を上げて叫ぶけれど、叫んだところで音は鈍く響き渡って、鼓膜の中で震えるだけ。  それが意味してるのは、私の身体は何かに押しつぶされるように包み込まれているという嫌な状況だけを提示してた。  これは夢?  それとも現実?  あのとき、私は夢の中で気を失った。  だから、目を覚ましていてもおかしくない。  おかしくないのに。何も見えないし、動けない。  いったい私はどこにいるの? 「混乱してるみたいだけれど、大丈夫。怖くないよ。ちゃんと説明してあげるから」  暗闇の中に彼女の声が聞こえた。 「んむうう!!」  自分の声はくぐもって聞こえるのに、彼女の声は澄み渡るように聞こえてくる。  やっぱりこれは、夢だ。  私は、まだ夢を見ている。 「あなたが気絶してる間に、あなたの精神体を閉じ込めておける箱と装身具を追加で用意したの。その中にいる間は嫌な現実を見なくて済むよ」 「んむぅ!?」  突如告げられる彼女の言葉の意味がわからかった。  精神体を閉じ込めるってなに?  私は箱の中にいるってこと? 「消えてしまいたいって言ってたでしょ? あなたが望んでたあなたの願いごと。私はソレを叶えるためにあなたのところにやってきたの」  たしかに私は眠る前にそう願った。  願ったけれど、こんなことをして欲しいなんて一度も頼んだ覚えはない。 「あなたは私の代わりにここで幸せな夢を見続ける。そして、深層心理に眠っていた私があなたの代わりに現実に戻る。現実からあなたは消えるから、望み通り願いは叶うでしょ?」 「んぐ! んぐうう!! んむううう!!」  彼女の言っている意味が分からなくて、身体を暴れさせる。  でも、動かない。  動かせない。  真っ暗のまま何もできない。  こんなの、おかしい。 「怖くないよ。大丈夫だから」 「んぐううううう!!」  パニックだった。  もう、何が何だかわからない。  どうして、こんなことになっているのか。  何もかも分からない。  とにかく、出してほしい。  ただそれだけの想いで暴れる。  なのに、微動だにしない。  どこも動かない。  何をしても意味がない。 「そろそろ起きる時間みたい」 「んむううう!?」  彼女の言葉に応えるようにお腹の中の異物が突如激しく震え出した。 「ここは深層心理の奥にある夢の中だから、欲求に苦しめられることはないし、死ぬこともない。だから、ずっと気持ちいいことだけ受け容れていれば幸せな気分を味わえるよ」 「んぐううう!!」  暗闇の中で、ただひたすらに受け入れ難い刺激が襲ってくるのに、身体は圧迫されたまま動かない。 「一つだけ問題があるとしたら、精神体として閉じ込められているあなたの意識は眠ることなく永遠を彷徨うことになるんだけれど……嫌な現実の世界よりはマシでしょう?」  つまり、私は一生このままってこと? 「夢の中でずっと幸せになってね」 「んぐうううううううううう!!」  全身に力を込めて暴れた。  なりふり構わず、全力を込めた。  なのに、何も変わらない。  両手はずっと肩を抱いたまま。  両足も一本のままで。  全身全部が圧迫されてびくともしない。  そして、ヴィィィィィィッとお腹の中で震え続ける刺激が、逃れられない甘い快楽を送り込んでくる。 「んぎぃぃぃいいいッ!!」  何度も、何度も、思考が真っ白く弾ける。  そのたびに助けを求めて叫んでも、そこには私しかいなかった。  たった一人で快楽を貪りながら、暗闇の中を過ごし続けることしか私には許されていない。  こんなにも絶望的な状況なのに私の身体は正直だった。 「んぁ……ッ、あぅ……ッ、ングッ……っ!」  与えられる快楽が気持ちよくて仕方がない。  何度も何度も果ててしまっても、次にやってくる幸福感に思考のすべてが持っていかれる。  もう何も考えられなくなってきた。  どうせ、何もできない。  何もかも全て委ねてしまおう。  そうしたらきっと、彼女の言っていたとおりに私は幸せになれるはずだ。  だからもう……いいよね?                        

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