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 私はあの日見てしまった。夜中にトイレに行きたくなって暗闇の中電気もつけずに歩いていた廊下から変な声が聞こえた日。その声は姉の部屋から聞こえてきていて、耳を疑った私は姉の部屋をそっと覗き込んでしまった。 「……ッ、んぁ……っ、はぁん……んぅっ、んぁ」  薄暗いナツメ球が照らす部屋の中で体のいたるところに黒い拘束具を身につけた姉がヴヴヴと低いモーター音を鳴らしながら小さく声を押し殺して喘いでいた。さすがに私も高校生になっていたし、性癖については人それぞれの世界があることは知っていた。けれど、彼氏がいない大学生の姉がまさか自分を拘束して快楽に浸っているとは夢にも思わない。  だからといってそのときの私にできる選択肢は見なかったことにしてトイレに行くしかないわけで……。邪魔しちゃ悪いと思って静かに立ち去ったのが二週間ほど前のことだ。あの日以降姉と顔を合わせるたびに拘束具を身につける姉を思い出してしまって、普通に話してるはずなのにどこかぎこちなく感じてしまう。たぶん、私だけが感じていることなのだと思う。姉はいつもと変わらない様子でドラマの話しを振ってきたり、SNSで得た面白い情報を教えてきたりと分け隔てなく笑っていた。  そして今――私は姉の部屋にいる。魔が差したといえば聞こえはいいかもしれない。事実今日は偶然が重なった。両親は実家へ祖父母の様子を見に行くということで外泊。姉は友だちの家に泊まりに行くということで外泊。つまり、二人姉妹の家系で留守番に残されたのは妹の私一人だけということになる。こんな珍しい日に気になっていた物を拝みに行くというのも悪くない。そんな気持ちを抑えられなかった。 「この辺……かな?」  膝丈の白いTシャツワンピース姿で姉の部屋のクローゼットを開ける。すぐに目に飛び込んでくるのは不自然に置かれているタオルに隠されたダンボールだった。引っ張り出して中を開けてみると黒色を鮮やかに反射する名前もわからない拘束具たちが箱の中でひしめいていた。 「こんなにいっぱい……お姉ちゃん全部買ったのかな?」  純粋に浮かぶ疑問と未知なる存在の出現に好奇心が鼓動を早くしているのがわかる。箱の中にどんなものがあるのか気になってきて姉のベッドの上に一つ、二つと並べていく。  黒い拘束具は基本的に革製品でよく見てみると本革だった。分厚い革はしっかりとなめしが行き届き、なんども使用されているからかほんのりと姉の匂いが染みついていて、手触りはとても柔らかく感じた。  手枷や足枷に首輪といった部位的な拘束具とベルトがいくつも連結されている体の形にあわせて作られた拘束具もあったけど、これを体に装着したらあちこちベルトが食い込んで色々なところが強調されちゃいそうだった。それら一つ一つには南京錠がセットでついているらしい。小さなヤツが沢山でてきた。他には黄色いシリコン製のゴルフボールくらいの丸い球に左右ベルトがついているものや、黒いゴム質でできた指二つ分くらいの棒に同じく左右にベルトがついたものが出てきたが、いまいち使い方が想像できなくて少し考える。 「これ、もしかして口に咥えるヤツなのかな……? こんなの咥えるの……?」  なにかのアニメのギャグシーンで黄色い球と似たものをとあるキャラクターが口に装着していたことを思い出す。たぶん左右にある細いベルトは頭の後ろで留めて、口から吐き出せなくするための物なんだと思う。そう考えるとこれは口枷ということになるのか。 「お姉ちゃん……すごいな」  白いシーツのベッドの上に並んだ道具たちをみていると自然と感嘆の声が出る。これだけの拘束具を両親や私にばれることなく集めて、夜中にひとりで楽しんでいたのだからあたりまえの感想なのかもしれない。 「誰もいないし……ちょっとだけなら……いい、よね?」  先ほどからずっと胸の鼓動がなりっぱなしだった。目の前にある道具は今も変わらず黒色を鮮やかに反射して私の視界に入り込んでいる。この道具を身につけたときどんな気持ちになるのか知りたい。姉が私や両親にバレないようにこっそりと集めてきた道具を自分もつけてみたい。でも、本当にいいのだろうか。姉に黙ってこんなことをしていいのだろうか。 「手枷だけなら……」   明日になったら両親も姉も帰ってくる。試してみるのなら今しかない。手首に嵌めるだけで金具を連結しなければすぐに外せるはずだし、気分だけ味わえればそれだけでいいのだ。そうやって理由を無理やりこじつけて、姉のベッドの上にあがりこみ手枷を手首に嵌めてみることにした。 「……っ」  左手首に本革の手枷が触れる。すべすべしていてほんのりと冷たいそれを腕時計をつけるように手首のサイズに合わせて調整する。少しだけ重さを感じる手枷をまじまじ見つめながら、ベルトに開いた穴へ錠を差込むと、ぴったりと私の肌に馴染んでしまっている手枷がそこにあった。右手首にも同じように手枷を嵌めてみる。 「こうしてみると、ただのブレスットとあんまり変わらない感じ……リストバンドに似てるかも?」  手枷を嵌めてみたというのになんだか実感はない。胸は相変わらずドキドキしてるのにいまいち物足りないのだ。それもそのはずだ。最後に南京錠で錠を閉じないと簡単に外れてしまうらしい。南京錠がバックルの役目をしているみたいだった。でも、お試しならこれで十分だ。 「……もうすこし、つけてみる……?」  姉の部屋を不自然に見回して自問自答する。等身大の鏡には姉のベッドの上に白いTシャツワンピを身に着けた私が両手首に黒いバンドを嵌めながら拘束具に囲まれている姿が映っていた。実に不自然な状況になんだかいけないことをしている気分になってくる。怒られるとわかっているのに、つい悪いことをしてしまう子供とはこういう気持ちなのだろうか。 「足枷も手枷と同じ感じだったよね……?」  手枷がつけられたのなら足枷も同じ仕組みだと思った私は、なんとなく手にとって足首に嵌めてみる。手枷よりも少しだけ大きくて幅のある足枷は新鮮だった。足首に何かを嵌めるなんてほとんどやったことがないのだ。だから手枷のときよりも本革が触れる感触はなんだか異質ですごくドキドキした。 「……っ」  足首に足枷を嵌め終えたころには、なんでか呼吸がすこしだけ乱れていた。姉のベッドの上で体育座りになって鮮やかな黒色の足枷を触る。なめらかな肌触りで、私の足首にぴったりと嵌りこんでいる。お姉ちゃんもこんな風に肌に馴染む拘束具を眺めて楽しんだりしていたのだろうか。本革から飛び出したバックルのために用意された錠の入れる穴が手枷同様不自然に残っている。ここに南京錠を差し込む妄想がつい浮かんでしまう。 (うわ……私、すごくえっちな顔してる……)  等身大に映る私の表情は真っ赤に染まっていて、何かを期待している瞳はどこか上目遣いになってしまっていた。自分がこんな顔をしているところなんてはじめて見た。手枷と足枷を手首と足首に嵌めただけでこんな顔をしている自分がなんだかとても恥ずかしくて堪らなくなってしまう。 「や、やっぱ変っ! コレだめなヤツだ……っ、はずさなくちゃ……!」  ドキドキに堪えられなくなって、手首と足首に嵌めた本革の枷を外していく。外していく……けれど―― 「……っ、でも……今だけ、なんだよね……いや、でも……どうしよう……」  好奇心と倒錯感のジレンマが胸の中をぐるぐるいったりきたりする。ベッドの上に並ぶ南京錠と外したばかりの左手の枷を交互に見て動きが止まる。両親も姉もいない時間帯なんてそうそうない。これほどまで自由に、好き勝手に家の中で遊べる時間なんてほとんどないのだ。だったらいっそのこと……今しかできないことを楽しむのは悪いことだろうか……。 「……っ」  一度外した手枷をもう一度左手に嵌めてベルトを止める。ベルトから飛び出した錠を差し込む穴に南京錠をそっと差し込んで―― ――カチッ、 ――カチ、 ――カチっ、 ――カチッ、と四箇所全てをロックした。 (私、しちゃいけないことしてる……っ、見つかったら絶対怒られちゃうのに……っ) 「はぁはぁ、はぁ……はぁ……っ」  乱れた呼吸のまま、次に手に取ったのは黒いゴムの棒の左右にベルトがついた口枷だった。  それを口もとまで運んで咥え込む。舌に触れた棒は冷たくて、ゴム独特の味がした。歯で少し噛んでみると浅く食い込んだ歯をちょうどいい弾力で包み込んでくれてる。 「んひ……っ、ん……むっ……ん?」  そのまま頭の後ろでベルトを留めようと動かすと、ベルトが頬を何度か圧迫してくる。いまいちベルトの調整具合がわからなくて、なんどか留め金の位置で苦労する。それに思ったよりもベルトが硬くてうまくバックルに入らない。暫く苦戦したけれど、顎をもう少し大きく広げて黒い棒を深く咥え込むと口の形を「い」の発音のまま戻せなくなって、しっかりと口に嵌りこんだ。 「ほえへ、ひいほはあ?」  思ったよりも喋れてしまうから面白くて喋るけれど、舌はうまく動かせなくてなんだか不便だ。それに口の形を固定されちゃうから、すっごく恥ずかしい。他人からみると、犬が骨を咥えているように見えるのかもしれない。気になって等身大の鏡を見てみる。そこには間抜けな顔をした私が顔を真っ赤にして黒い棒を口に咥えていた。 「ふあ……へふあかほ、……んッ、ぁあ!?」  自分の顔を見て笑ったところで、突然溢れてきた涎が顎を伝ってTシャツワンピに染みを作り出す。驚いて間抜けな顔にぴったりの間抜けな声も部屋中に響き渡ってしまう。 「ほっは……ひうひはいに、ほだえあっ……っ」  この口枷はきっと犬みたいに涎を垂れ流させるために使われるものなんだろう。思ったよりも喋れるし、なにより口の形が「い」の発音のまま固定されてしまっているのは周囲から見られることを考えるとなんだかすごく恥ずかしい。それに舌が押さえられてしまって涎がいっぱい口の中に溢れてきて、顎から涎が垂れてしまうのは無理やり涎の存在を意識させられてしまう。良くできた口枷だ。 「……っ、ん……ふぁっ、あ……ん」  などと、冷静にレビューをしている間にも涎が溢れてTシャツワンピを濡らしてしまう。 (お姉ちゃんもこうやって、コレを咥えて遊んでたのかな……?)  あの日。薄暗いナツメ球のあかりだけじゃ、顔まではよく見えなかった。でも、声を必死に抑えて喘いでいた姉は口にも枷を咥えていたに違いない。姉が隠れてやっていた夜のひとり遊びを今は自分も試していると考えるとすっごく胸の奥が締めつけられて変な気分になってくる。でも、まだ私は拘束具そのものを拘束するためには使っていない。姉だけが知っている感覚を私はまだ知らない。 (このまま枷を連結したら……私、どうなっちゃうんだろう……?)  今頃になって、拘束されてしまった自分が他人にどう扱われてしまうのか、妄想してしまう。 「――――」  家に忍び込んできた空き巣が今の私を見つけたら――きっと、枷を無理やり連結させて私のことを拘束してしまうだろう。そうなってしまったら、抵抗できずに助けも呼べない私をさらにベッドの上に並べてある拘束具を使ってめちゃくちゃに拘束してしまうに違いない。  そして私に向かって空き巣は言うのだ。 『――お前の望みどおりにしてやったぞ。"マゾ奴隷の変態”』と ――カチャッ 「――っふぁ……!?」  妄想に耽った勢いで、手首の枷を南京錠で連結した途端に、アソコに強い刺激が走った。なんだかショーツがじんわりと湿っぽい。興奮しすぎて、漏らしてしまったのかもしれない。胸の前で両手をそろえて連結された手を使って、Tシャツワンピを捲り上げて、シルクのショーツを見てみると黒い染みがじんわりと出来上がっていた。ちょっともわもわするけど、尿臭はしない。おしっこじゃないヤツがでてきちゃったらしい。 「んひっ!? ふぁ……っ、ん!」  そして下を向いたせいで口から溢れた涎が姉のベッドのシーツを濡らしてしまう。さすがにこれはマズい。とりあえず、トイレにいって色々と済ませてから、下着取り替えないと……。 (まずは口枷を外さなきゃ……っ) 「……ッ、ん……ほえ……ふひぁ、ほほあな、はえ?」  両手を手枷で連結しているせいで頭の後ろに上手く手が届いてくれない。それに口枷のベルトが硬くて片方の指だけじゃぜんぜん緩めることができない。今思えば口枷は咥えるときに結構苦労していた。 「んぁっ……!? んふ、むぅ……む、んッ!」  その間も涎が溢れてくる。外せない口枷がすごくじれったくて、なんでか焦ってくる。何度か繰り返してもバックルで留められたベルトは緩んでくれない。それなら手枷を外せばいいじゃないか。と思いついて南京錠のカギを探す。取り出してなかったけど、たぶんダンボールの中に入ってるはずだ。 「……っ? ……ふぁえ? ……ふぁんえ!?」  いまだにベッドの上に五個も並んでいる南京錠の鍵はどうしてかダンボールの中には入ってなかった。何度も繰り返し探すけれど、やっぱりみつからない。こんなのおかしい。だって普通は一緒の場所にしまっておくはずだし、鍵がなかったらどうやって枷を外せばいいのかわからない……。 (うそ、うそうそうそっ!? 嘘だよね? 鍵は……そうだ、引き出し!)  今思うと、姉は大事なものは勉強机の引き出しの中にしまいこむ癖があった。だとするときっと勉強机の引き出しの中に南京錠の鍵がはいってるはずだ。そのはずだった。 「ふぁいっ!? ふぁんで!?」  けれど、引き出しの中に鍵という単語に見合うものが一つも入っていなかった。入ってたのは私が姉に向けて書いたバースデーカードやら、誕生日やお祝い時にもらったであろう手紙が入ってるだけだ。 (もう一度……っ! もう一度探しなおすしかない……っ!)  等身大に映る両手を胸の前に拘束されて間抜けな顔で口枷を咥えた私の姿は実に滑稽で笑えない。血相抱えた表情はとにかく必死で、ダンボールのあったクローゼットの中やベッドの周り。他には姉の部屋の隅々まで拘束された姿で鍵を探し回るけれど、まったく見つからなかった。 ――数時間後。  夕日が差し込む姉の部屋の床は口枷から零れた私の唾液でところどころ濡れていて、部屋はぐちゃぐちゃに荷物が転がって汚れてしまっていた。 (……これ、どうしようっ)  とりあえず、頭を冷やすために一度トイレに入って色々済ましてから、拘束された手でショーツを取り替えて、涎でびちゃびちゃになった顔を洗ってきたけれど……。 「んふっ……ん、むッぁ、あぁ、おおおおおあああッ!!!!」  そして、顎に垂れる涎。口枷をずっと咥えっぱなしで、いい加減顎も疲れてきた。あのあとも何度も外そうとしたけれど、ベルトはぜんぜん緩んでくれない。というか、鍵を探すために手をいっぱい動かしたせいですでに握力はボロボロで指先を動かすと腕がつりそうになって痛かった。そんな腕を頭の後ろにもっていって硬いベルトを緩めるなんて絶対に無理だ。だから大きい声で適当に叫んでしまった。 (もしかして、私……パパとママとお姉ちゃんにこの姿見られちゃうの……?) 「――っ」  そんなのは絶対にイヤだ。そう思ったとき、また地面に雫が垂れた。今度は涎じゃない。溢れてきてたのは涙だった。自分で自分のこと拘束したのに、勝手に自分で泣いてる。こんなの変。絶対変だ。だって、こんなのおかしい。外せなくなっちゃうなんて、おかしいよ。  何度も数時間前の自分の行いが反芻思考で蘇る。今しかできないこと。とか理由をつけて南京錠を四個とも枷に取り付けた。あれがきっかけでエスカレートしちゃって、一回気持ちよくなってから冷静になった。そのときにはもう両手を連結しちゃってた。そう、空き巣に捕まったことを妄想して……。 「……ほうあ! あひふ!」  私が拘束されている姿を姉と両親に見られても説明する方法がある。私が空き巣に拘束されたことにしちゃえばいいのだ。それなら私がこんなことをしていたとしても怪しく思われないし、姉の部屋に逃げ込んだことにすれば辻褄もあう。あとは、私が本当に抵抗できないくらい拘束されていればいいだけ。 「――――」  涙を拭うとさっそく片付けようとしていた残りの拘束具を再びベッドの上に並べる。装着の仕方がわからないものはダンボールに戻して、見てくれで解りやすいものだけベッドの上に残す。  まずはこれ、首輪からつける。これを首に嵌める意味はあんまり感じないけど、どうせ本格的に拘束具を使ってしまうなら着けてしまおうと思った。それに手枷や足枷どうように本革でつくられていて、バックルのところには南京錠を取りつけるだけで簡単に嵌めれる。両手が不自由で疲れている状態だから、楽に装着できたほうがいい。  不自由な両手をなんとか動かして首輪を嵌める。そのたびに手首を繋げる枷の金具が南京錠と擦れあってカチャカチャ音が鳴るけれど、気にしない。思ってたよりも大きい幅広の首輪を嵌めるのはなんだかすごく恥ずかしい気持ちになる。でも、これも空き巣のせいにするために必要なことだから仕方ない。 ――カチッ。 「……ン」  と、首にぴったりフィットする重厚な本革の首輪が南京錠で施錠される。これでもう、私は首輪を外せない。 (なんだか少し息苦しくなっちゃったけど……姉が帰ってきたら、たぶん外せる……よね?)  その辺は深く考えずにさらに自分へ拘束を追加するために次の拘束具へ視線を向ける。。次に手に取ったのは首輪よりもさらに大きい本革でできた本革の枷だ。最初はなにかわからなかったけど、たぶん太ももに取り付けるための足枷だと思う。他の枷同様に似た構造をしている。唯一違うのは大きさだけだった。 ――カチっ。  何一つ迷うことなく、太ももへ嵌めてベルトをバックルで合わせると南京錠で施錠してしまった。足首や手首と違って太ももの枷は肌に食い込んでくる感じがする。たぶん運動不足の私の贅肉が原因。べつにそこまで太ってるわけじゃないけど、こうして枷を嵌めてしまうとムチっとした太ももが太く見えちゃって、なんか嫌だった。でも仕方ない。全部空き巣が悪いのだ。あとはこのまま両足を閉じたまま足枷のリング同士を南京錠で施錠して、姉のベッドの上で過ごせば全て空き巣のせいになるはず。 ――カチッ、 「んふ……っ、む……っ」 ――カチッ。 「ふ、ふぁ……へひは……っ」  足を真っ直ぐそろえたまま太ももと足首の枷を連結され、さらに手首を枷に連結された私は見事に体の自由を失った。がんばれば、うさぎ跳びみたいにぴょんぴょんジャンプして移動したりはできるだろうけど、もう腕が辛くて何もしたくない。このまま姉のベッドの上で寝てしまいたい気分になる。 「……っ」  姉の部屋の窓からは夕日が差し込んでいた。私が姉の部屋に入ったのは正午過ぎだった。結構長い時間拘束具を身につけていることになる。さすがにこれだけずっと身に着けていると慣れてきちゃう。首輪だけちょっと苦しいけれど……。たぶん、今の疲労感ならこのまま眠れる。  そうやって、適当なことを考えていると意識があいまいになってきた。自分がどんな格好してるのかもあやふやになってくる。 「……すぅ、すぅ」  深く、浅く呼吸をしながらまどろみの中へ意識がのまれていった。 「ん……っ、んぁ……ふごっ、ごほっ、ごほっ!?」  口の中に溜まった涎で咽て目が覚めると、両手の枷がカチャッ、カチャッと音を鳴らす。なんだか妙に腕がだるい。頭の上に両手をそろえたまま寝てしまってたらしい。姉の部屋は真っ暗で何も見えない。ナツメ球もつけずにそのまま寝てしまったんだっけ。こんな夜中に目が覚めちゃうなんて最悪だ。どうせなら明日の朝なら良かったのに。 ――ガッ、カチャッ 「……ッ、……ふぇ?」  そうおもって寝返りをうとうと頭の上にある両手を動かそうと力をこめる。でも、何かが引っかかって頭の上から動かない。だから、もう一度試してみる。 ――ガッ、ガッ。 「――――」  何度試してみても同じ。両手は頭の上にそろえたまま動かせない。両手を引っ張るたびに手首が枷に圧迫される。やさしく嵌りこむ本革は私の体温を吸い込んで馴染んでいるのに、両手に力をこめるたびにあいまいな存在をしっかりと主張してくる。拘束具本来の姿を取り戻したかのように金具が擦れあう音はガチャガチャと音を鳴らして私を笑っているみたいだった。  どうしてこんなことになってるのかわからない。わからなくて胸の奥が苦しくなって次第になんとも言えない焦りが溢れてくる。 (なん、なんで……っ? なんで、こんな動けない……のっ?)  そして――違和感は両手だけじゃないことに気づく。 ――ガッ、ガ。 「ふぅ……っ!? ふぁんえ? ふぁひお!?」  足も真っ直ぐのばしたまま動かせないのだ。何かが足枷の連結部に引っかかって足の動きを封じてしまっている。真っ暗闇の中。手を上に足を下に伸ばしたまま私はベッドに磔にされていた。寝ている間に拘束具がどこかに引っかかるなんてありえない。考えられる要因は―― (――本当に空き巣が入ってきた……?)  姉は友だちの家に泊まりにいっていて友だちを置いて帰ってくるはずがないし、両親がもしもこの姿をみたら、拘束なんてせずに起こしてくるはずだ。 (ヤバい……っ、ヤバイっヤバイっ! どうしよう……っ!?)  とにかく手足を動かして、拘束から逃れようと動く。でも、カチャガチャと金具が擦れる音に混じって本革の枷がギシっと軋む音が僅かに聞こえるだけで、拘束は一向に緩む気配がない。 「んふっ……むッ、っ……んぎッ、んぁ……っ!?」  それどころか手足に枷が食い込んできて、変な気持ちになる。というか、さっきから乳首が妙に服に擦れて痒い。ブラジャーつけてたはずなのに、ブラジャーがなくってる。しかもなんか身体のあちこちが細長い物で締めつけられている気がする……それはアソコにもしっかりと食い込んできてて、体をくねらせるとアソコが擦れる……っ。 (……コレ、もしかして……っ、アレも着けられてるの?)  使い方がわからないからと、ダンボールにしまったはずの幾つものベルトが連結された体の形を象った黒い拘束具。名前のわからないソレがブラジャーを脱がされたTシャツワンピの上から無理やり装着されちゃってる。 (私を拘束した犯人は、私の体を好き勝手触っていたってことに……っ)  そう思っただけで、全身から冷や汗があふれ出た。拘束されてしまっている私は何一つ抵抗できない。手足の枷をカチャガチャ鳴らすことしかできない。犯人は私のことをいつでも自由に犯すことができてしまう。そんなのは嫌だ。絶対、体を自由に弄ばれたりなんかしたくない……っ。 「ひああああっ!!! ふぁえかっ!!! はふえてっ!!!」  声を大きくだして叫ぶ。誰に届くのかもわからないのに、必死に手足をバタバタ動かして、自分で装着した拘束具に奪われた自由を一生懸命取り戻そうと気力を振り絞って拘束から逃れるために抵抗する。 (怖い……怖い……っ、怖いよっ) 「ほええひゃんっ!! ほええひゃんっ!! ふぁふへてえええええ!!!」  姉の名前を叫んで暫くの間そうして何度も繰り返し体を暴れさせて拘束から抜け出そうとするけれど、拘束は緩むことはなく、私の体をベッドに磔にしたまま無慈悲に自由を奪いとっていた。 「――っ!?」  そんな私の頬にそっと、誰かの手が触れた。あまりにも突然触れたせいで、息が止まって声もでなくなる。心臓は大きく警鐘を鳴らして私に逃げろと言っているのに、手足の枷は許してくれない。もう、目をつぶるしか私に残された行動はなかった。 ――刹那、パっと部屋に明かりが灯る。眩しさにまぶたをさらに強く閉じて、全身に力をこめてできるだけ小さく体を窄める。ほとんど動けてないけど、それしかできないから仕方ない。 「あんたねぇ、人様の部屋で勝手に遊びまわった癖に目が覚めたら泣き喚くって、どういう神経してるのよ?」 「……ふぇ? ほええひゃん?」  聞こえてきたのはあきれ混じれの姉の声だった。 「大体、なんであんたが私の拘束具をつけて遊んでるわけ? そもそも勝手にあたしの部屋に入るなよ、このバカ妹!」 「……ほえんあはい」 「謝るんなら、最初からやらないっ!」 「……ふぁい」  姉の声を聞いて、顔を見て安心する。めっちゃ怒ってたけど、でも、姉がいるということは両親にバレる前に拘束具を外せる。というか、帰ってきたんだったら、拘束の量なんて増やさずに起こしてくれたらよかったのに。というか、なんで姉が帰ってきたんだろう。 「……あぁ、あたしが帰ってきたのが不思議そうな顔してるから一応言うけど、パパとママがあんたのスマホに連絡しても出ないから、あたしに見に行けってうるさかったのが理由。帰りが明後日になるとかなんとか……。で、友だちに無理いって戻ってきたってわけ」  理由を聞こうとしたところで、姉は私の意図に気づいてあっさり教えてくれる。そういえば、両親に夜に電話する。といわれていた気がする。自分の部屋に置きっぱなしになっているスマホの音はさすがに姉の部屋までは届かなかったみたいだ。 「そして、あんたは自分で自分のことを拘束する変態だったってことがわかったわけなんだけど? 何か言い分はある?」 「……ほええひゃんだっえっ!」 「ほぅ? 私の物を使っておいて、その言い分はけしからんな。マゾな妹を懲らしめるのは姉の役目になるのか……」 「……ひぁっ!? ひはほうお!!」  変態の姉に変態呼ばわりされて、つい反射で口答えしてしまった。姉はクローゼットへ向かうと手にピンク色の道具を持って私のところに戻ってくると、楕円型のコードがついた球体をベルトが食い込むショーツを避けてアソコの敏感なところに当たるように入れてくる。 「あんた、ここびちょびちょじゃん……拘束されて感じてるとか、さすが私の妹って気がするわ……」 「――ふぁっ……っ、ふぁひひえっ?」  アソコに冷たい異物感が残る。奥までは入ってきてないけど、たぶん、豆のところにあたってる。ショーツとベルトで押さえ込まれちゃって、ちょっとやそっと股を動かしたところで異物がずれたりしてくれる気配はない。 「あたしの拘束具で楽しんでたんだから、最後まであたしの道具で楽しませてあげる」  姉はそう微笑むとコードの繋がる先にあるリモコンらしきものを操作した。 ――ヴィィィィィィィィィィィィイィィィィヴヴヴヴッィィィィィイィィィィィィ 「――ンァッ!?」  突如走りわたるとてつもない刺激に驚いた体はビクッと跳ねた。そのまま刺激は細かい振動音とともにアソコに残り続けて、アソコがきゅんきゅんと熱く高ぶっていく。 (なにこれっ、すごく、気持ちぃ……っ!) 「その様子だと気に入ったみたいじゃん? あんたも年頃の女の子だもんねぇ」 「っ、ふ、んっ……っ、ンァ……ふぁ、んぁん……っ!」  ヒリヒリと熱く高ぶっていく刺激が気持ちよくて、声が自然と溢れちゃう。思考もなんだか定まらなくなって、もっと刺激がほしくなっていく。 「……こっちも硬くなってきてるじゃん? あんたって、本当変態だね」 「ひゃめっ……! ほええひゃっ、んッ……ほえッ、ひゃめッ!?」  そんな私の体の上に姉が跨ると、ベルトで強調されてしまって、ハッキリとTシャツに浮き彫りになった乳首を指先でつまんで、やさしくちねったり、強く押しつぶしたりして、刺激を与えてくる。アソコも胸も執拗に責められて、神経が焼ききれそうな感覚が先っちょから脳に伝達してくる。 「姉の部屋で自縛して、姉に体を弄ばれて嬉しいんでしょ? 自分のこと拘束して動けなくして、手足に嵌めた枷に抵抗するすべも奪われて、何にもできなくなった自分がたまらなく恥ずかしくて気持ちよくてしかたないんでしょ?」 「ひぁうッ……っ! ひょんあんあ……っ!」  姉の言葉を否定するけど、今の私は一言一句間違いなく、姉の言うとおりで。何一つ抵抗できずに弄られることがこんなに気持ちいいとは知らなくて、必死に抵抗するけど、体は正直に与えられる快楽によって一段一段と段数を上げて高みへと上っていってしまう。 (……っ、あ、コレ、イクっ……イッちゃう……っ! 気持ち良すぎて、ダメっ……!)  ――姉の指が乳首を強く引っ張るように弾くと同時に、アソコに姉の足が強く押しつけられた。 「――ふぁああああああああああっっっ!!!!?」  頭が真っ白になって体がかってにビクビク痙攣する、アソコから溢れてくるのはおしっこなのか、それとも別の粘液なのかもあいまいでわからない。唯一わかるのは、もう体は快感でいっぱいだって言うのに、未だに刺激し続けるモーター音はかわらず残り続けているということだけ。 「あんたの望みどおりに自縛できて満足した?」 「――ッ」  姉が優しく微笑みかけてくる。でも、その言葉に違和感を覚える。それが何なのかいまいちわからなくて、快感の余韻に浸って体を拘束具に預ける。 「ふぅ……さてと、あんたが自縛した拘束外すからちょっと待ってて」  私をベッドに磔にしたままの拘束具を見て姉が部屋から出て行く。 「……んっ、んぁ……ほええひゃっ、あほほこお……ふほいえぅっ……!」  たぶん、鍵を取りにいったんだと思うけど、アソコで振動し続ける機械を止めずにでてった。呼び止めても気づいていないみたいだった。もう十分気持ちよくなったのに、いつになったら止めてくれるだろう。 「ン、ふぅ……っ、んぁ……っ、んっ!」  それにしてもこの拘束具たちにはすごくお世話になった。自分で装着したときはドキドキして楽しめたし、鍵がなくて外せないときはものすごく焦ったけれど、ベッドに磔にされて姉の責めから逃げられなくなり、体を好き勝手に弄られて気持ちよくされて……快感に浸った。今もまだ、アソコの機械動いてるけど……。  そういえば、姉はさっき変なことを言っていた。 『あんたの望みどおりに自縛できて満足した?』 (……私のことベッドに磔にしたのおねえちゃんなのに……変なの) 「――ちょっ!? やめっ……!? 放してぇっ!!」 「……んぁ?」  下の階から姉の大きな声が聞こえた。誰かと揉めてるような焦燥感漂う緊迫した声だった。 「……ほええひゃっ?」  その声は一度だけで、すぐに何も聞こえなくなる。それから暫くして、階段を上る足音が聞こえてきて、足音は私が拘束されている姉の部屋まで移動してきた。 「……んぐッ!!」 「――ふぇ? ふぁん、え?」  私の目の前には顔に赤い痣を作った姉が、口に布をかぶせられて、胸の上下を走る縄に厳重に緊縛されている姿だった。その後ろには黒い覆面を被った作業着姿の男がいる。目の前で起きている現状がよくわからなくて、アソコを刺激する振動も口から溢れる涎さえもどうでもよくなってしまう。 「そこに座れ」 「……っ」  覆面の男が低い声で姉に命令する。姉は言われたままに動き、勉強机の椅子に後ろ手に緊縛されたまま座り込むと、男をキツク睨みつける。 「抵抗しなければ痛いことはしない」  男は姉にそういうと、縄を取り出して姉の足を椅子に縛りつけ、さらに残った縄を使って首にも縄を掛けると椅子の背もたれに縛り付けてしまった。 「ほええひゃんっ!」  あまりにも酷い仕打ちに姉を呼ぶ。首に巻かれた縄は確実に首を絞めている。あんなの絶対にくるしい。 「おとなしくしてるんだな」 「んぐううっっ!!!」  男は姉にそう告げると、怒りを露にする姉を横目に私のところへ近づいてくるとベッドに腰掛けた。 「キミはお姉さんと違ってとても可愛い子だ。金目の物は見つからなかったし、手土産にキミを連れて行こうかな?」 「――っ!?」 (もしかして、私のことを誘拐するつもり……っ?)  覆面の下で男の口もとが陰険に微笑む。 「まぁ、それは冗談だけど」  私の頬に手を添えてねっとりと舐めまわすように撫でてくる。酷く不快で背筋から氷が駆け上ってくるかのようにぞわりとした悪寒に包まれる。 「こんな機械で気持ちよくされて、可愛い声で喘いでたときはとてもよかったよ」 「……んっ、ふぅ……っ! むっ、……んぁッ!?」  男が手に拾ったのはモーター音を鳴らす機械のリモコン。それを操作するたびに振動の強さが変化して刺激の強弱で腰が動いて変な声がでてしまう。 「だから、もっと可愛い声で喘いでくれ――」 ――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッッッ!!!! 「ふぅうううううううううううう!!!!??」  今までとは比べ物にならない機械の振動に腰が浮かび上がってビクビクと跳ねる。 (さっきよりもすごいぃぃぃぃぃ……っ!!)  姉に快楽を与えられていたときとは違う。姉は私のことを優しく介抱してくれてたのだ。でも、この空き巣は違う。私のことなんて何一つ考えちゃいない。自分の欲のために好き勝手に機械の強さをMAXにしてしまった。 「んぐぅうううう!!!!」  姉がくぐもった声を上げている。でも、私はそんなことを気にしてられるほど余裕がなかった。一段ずつ上がっていく快楽とは違う。何段も駆け上がっていく快楽の波は弾けるのが早いのに全く、引いてくれない。ずっと上に駆け上り続けていって下にはもどってきてくれない。 「ンァッ、はぁんッ!? ムゥッ、うヴッ、ぁんっ……!? んぁっ……あぁんっ!?」 「あぁ、とてもいい声だ。そのまま可愛い声で喘いでくれ」  男はそういって部屋の電気を消すと扉を閉めて出て行った。 ――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴゥウゥゥウゥウウウヴヴヴッッッ!!! 「……ンっ、ふぅっ!? ムっ、……んぁッ!? ぁんッ…、ぐっ、ふぁあッ!?」 「んむぅうううううう!!!!」  部屋の中では激しく振動するモーター音が響き渡り、カチャガチャと金具同士が手足の先で笑いながら、私の喘ぎ声が口枷越しに大きく部屋に反響する。部屋の片隅から姉が声を張り上げて縄抜けしようと必死に縄を軋ませて、動いていた。 ――丸一日鳴り続けた不協和音は両親の帰宅によって幕を閉じた。  あの日から数週間後。私の元に一通の封筒が届いた。宛名は不明で疑問に思ったけれど、とりあえず中を開けて見てみるとそこに入ってたのは――

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