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 私は、トレーナーさんが好きなんです。狂おしいほど。  北海道から出てきて三年。嬉しいことや楽しいことが、沢山あった三年間でした。  だけど、ここにいない二人のお母ちゃんを思うと、寂しくて、苦しくて、それを耐えて走った三年間でもありました。  そんな私を傍で支えてくれたのが、トレーナーさんでした。  とても優しい人でした。  トレーニングも、息抜きも、学業も、遊びだって、私が必要とすれば、いつも寄り添ってくれるトレーナーさんでした。  最初は、信頼でした。  きっと、お父ちゃんやお兄ちゃんがいたら、こういう感じなんだろうなって、そう思いました。  でも、だんだんと違ってきました。  トレーナーさんを見ていると、家族を想うのとは違う潤みが、胸の中に生まれるんです。  それが何なのか、私には分かっていました。  だって、今の私はもう高等部です。  胸に凝る熱が、私に何をさせようとしているのかぐらい、分かります。  ねえ、トレーナーさん。知っていますか?  私、一人で熱を鎮める方法、もう知っているんですよ?  その時、いつもトレーナーさんを想ってしてるって、知っていますか?  貴方にとって、私はきっと今でも田舎から出てきて、不安を胸に、それでも目を輝かせていた、中学生の『スぺちゃん』なんでしょうね。  大切な友達と可愛らしく遊んで、美味しそうにご飯を食べて、煌めく風を切って走る健全なウマ娘なんでしょうね。  トレーナーさん。知っていますか?  私が、今まで貴方に何をしてきたか。  貴方が知らない間に、何をしてきたか。  えへへ。  教えてあげますよ。  今の私とトレーナーさんなら、乗り越えられますから。  あれは、暑い夏の日でしたね。  私は、その時トレーナー室でジュースを飲んでいました。  甘い人参ジュースです。すごく美味しいのに、栄養価は目を見張るほど高い、凄いジュース。  よく、トレーナーさんがトレーニングの後に買ってくれたジュースですよ。  今でも、買ってくれますね。  私、もう自分で買えるのに。  貴方には私が、まだあどけない女の子に見えてるんでしょうね。  まあ、それはいいです。  その夏の日も、私はトレーナーさんに買ってもらったジュースを、紙コップに入れて飲んでいたんです。  そしたら、スズカさんに呼ばれたんです。確か、併走のお誘いだったと思います。  喜んで行きましたよ。だけど、喜びすぎてたんでしょうね。私はジュースを紙コップに九割残したまま、部屋を後にしました。  留守にしたのは、三十分くらいだったかな。  帰ってきた時、トレーナーさんがいましたね。  ビックリしました。  だって、トレーナーさん、私の飲みかけのジュースを飲んでたんですもん。  きっと、私が貴方のために注いだジュースだと思ったんでしょうね。  だって、食いしん坊のスぺちゃんが、飲み物を残して外に出ることなんて考えられないですもんね。  釘付けになっちゃいました。  トレーナーさんが、私の飲みかけのジュースを飲んでる姿から、目を離せませんでした。  私の唇が触れた紙コップに、トレーナーさんの唇が触れているから。  ええ、そうです。間接キスですね。  その事実も、確かに、私の心臓を熱くしました。  でも。  私の舌を浸して、唾液を吸った甘い汁が、トレーナーさんの舌に絡んでいる。  その事実の方が、当時の私には魅力的でした。  思わず、唾をのみ込んじゃいました。  水飴みたいな唾。  ウマぴょいな動画の中で、男女がディープキスをする時の、わざとらしい水音を立てる唾。  認めますよ。あの時、私は興奮していました。  仕方がないじゃないですか。  あれは、間接ディープキスです。  私の唾液が、トレーナーさんの粘膜に触れて、食道を通り、ろ過されて、おしっこになる。  その一連の流れが、あの時の私の頭の中で、ぴかぴかと光って、ぽかぽかと熱を発していました。  ねえ、トレーナーさん。  あの時、トレーナーさんがうっかりそんなことをしてなければ、私はおかしくならずに済んだんです。  だから、トレーナーさんのせいでもあるんですよ?  トレーナーさんと、あの卑しい女のせいなんですよ?  でも、許してあげますね。  お陰で、決心がつきましたから。  その時のことが、忘れられなかったんです。  だから、私はトレーナーさんにあらゆる手を使って、唾を飲ませようとしました。  トレーナーさん、いつもトレーナー室にボトルを持ってきていましたよね。  飲み口の部分、こっそり舐めてました。  満遍なくです。  どんな口のつけ方をしても、絶対に私の唾液に貴方の唇が触れるよう、念入りに塗り込みました。溝の辺りがテラテラと光るぐらい、念入りに。  そんなことをしているとね、うっかりしちゃうんですよ。  飲み物の中に、うっかり、一筋の唾液がポチョンと落ちたんです。  うっかりですよ?  最初の一回目だけですけど。  ええ。二回目以降は確信犯です。  ボトルの中に真っ直ぐ入るよう、狙いをつけて、粘着質な唾を垂らしました。  その時、何を想像してたと思います?  トレーナーさんの口に、直接、自分が唾を垂らす姿をイメージしてました。  えへへ。  ウマぴょいな動画で見たんです。男の人と女の人が、いやらしいことをする前に、そんなことをしていました。  よく見るんです。そういう動画。  そうやって発散しないと、私たちは狂うんです。  ウマ娘って、本能の塊みたいなところがありますからね。  レースに向かう闘争本能に駆り立てられて、私たちはターフを削り取る風になります。  同じくらい本能に根差した欲求──例えば、三大欲求なんかも、濃い。  食欲。睡眠欲。それから──。  えへへ。  後は、言わなくても分かりますよね。  トレーナーさん、感謝してくださいね。  私たちがそういう動画で発散するから、トレーナーさんたちは清い身でいられるんですよ?  まあ、真っ当な子達は、レースや食に対する欲求の割合が多くなって、そんな動画に頼らなくても大丈夫なんですけどね。  私も、最初はそうでした。  『スぺちゃん』はそうだったんです。  トレーナーさんに唾なんて飲ませなくても、たとえば、手を繋いだりするだけでも、満足できてたんです。  でも、仕方ないですよね。  三年間で、私は怪物になっちゃったんですから。  トレーナーさんのせいですよ?  トレーナーさんが、私に優しくしてくれるから。  その癖、私以外の女の人を見つめてるから。  ええ。知ってましたよ。  桐生院トレーナーと、付き合ってるんですよね。ハッピーミークさんから聞きました。告白したのはあの人からだけど、そのずっと前から、貴方は彼女を想ってましたよね。  何で分かるかって?  トレーナーさんが、そういう目で彼女のことを見てたからです。  女の子は、そういうの分かるんですよ?  『スぺちゃん』には、バレないって思ってましたか?  田舎からやってきた、純真無垢な女の子にはバレないって思ってましたか?  残念でしたね。  全部分かってました。  それでも、実際にお付き合いする素振りは見せなかったから、私は貴方を振り向かせようと、トレーニングに打ち込んだんです。  人間の桐生院トレーナーじゃ、走りで魅せることなんて出来ませんもんね?  走って、走って、走って、汗を流して、涙を流して、全部全部振り絞って、勝ちました。  URAも、制しました。  あ、言っておきますけど、つまらなくはなかったです。  仲間達と一緒に駆け抜けたあの時間は、とても豊かで、キラキラしてました。  でもね、トレーナーさん。  ウマ娘は、走るだけのロボットじゃないんですよ?  私たち一人ひとりには人格があって、人生があって、レースもするけど、恋もするんです。  私はURAを制しました。レースに勝ちました。  じゃあ、恋は?  レースと同じぐらい、それどころか、時と場合によってはレースよりも大切な恋は?  トレーナーさんに、想いを伝える気でいたんです。  URAを制して、少し落ち着いたら、告白するつもりでいたんです。  ふふ。  悠長でした。  トレーナーさん、桐生院トレーナーと温泉に行ったんですよね。  その時、告白されたんですよね。  ええ、ハッピーミークさんから聞きました。  トレーナーさんも桐生院トレーナーも、実直ですよね。  URAが開催されるまで、色恋に現は抜かせないって思ってたんですよね。  だから、それまで互いに告白しなかったんですよね。  素敵です。  素敵すぎて、吐き気がします。  どうして、私に三年間も夢を見させたんですか?  夢は熟成されて、発酵して、肥大して、変貌しました。  執着だとか、狂気だとか、人は言うかもしれません。  いいえ。  恋です。  どうして、桐生院トレーナーの恋だけ実って、私の恋は踏みにじられないといけないんです?  どうして、恵まれた家に生まれて、恵まれた教育を受けて、何でも持っているような桐生院トレーナーだけが報われるんです?  人に生まれただけでも幸福なのに。  トレーナーさんと同じ種族に生まれただけでも幸福なのに。  あ、すみません。ちょっと、熱くなっちゃってましたね。  ふふ、失敗失敗。  どこまで話しましたっけ。  ああ、トレーナーさんのボトルに唾液を流し込んでたところまでですか。  それからも、色々としたんですよ。  そうすれば、胸のイガイガが収まりますからね。  知ってますよ。桐生院トレーナーとは、キスも出来てないんですよね。  ええ。  互いに一線引いてるんですよね。少なくとも、今自分達の受け持っているウマ娘が成長するまで。  どちらも専属契約ですもんね。  彼女はハッピーミークさん。  トレーナーさんは私。  えへへ。  トレーナーさんは、桐生院トレーナーの唇は知らないのに、私の唾液の味は知ってるんですよね。  えへへ。  えへへへへ。  可哀想な桐生院トレーナー。  ざまあみろ。  本当に、沢山の唾液を貴方には飲ませました。  いっぱい、いっぱい飲ませました。  ボトルに入れるというのも多かったですけど。  個人的に楽しかったのは、私の噛んだものをトレーナーさんに食べさせることですね。  例えば、そうだなあ。  ほうれん草。  ほうれん草を、よく噛んで、グチュグチュになるまで噛んで、ペースト状にしたものを、パスタに絡めて食べさせたりしましたね。  ウマ娘の咬筋力って強いですからね。ミキサーにかけるのと同じぐらい、ドロドロのものができるんです。  そこに鶏がらスープとか混ぜて、ソースにして、パスタにかけました。  美味しかったですか?  美味しかったですよね?  トレーナーさんが美味しそうに食べて、「スぺは将来良いお嫁さんになるなあ」って言ってくれたの、忘れませんよ。  絶対に、忘れませんから。  そういう風に、噛み潰したものをトレーナーさんに食べてもらうのは楽しかったです。  その中でも、一番楽しかったのは、あれですね。  桃のシャーベット。  あれは、私がトレーナーさんから貰った桃の果実を、丁寧に噛み潰して、凍らせたものです。  それを食べて……えへへ。トレーナーさん、それを食べて何を言ったか、覚えてますか? 「桃の中に、ほのかに香るミントの味が、良いアクセントになってる」  ミントの匂いのする香料を、バニラエッセンスみたいに使ったんだと思ったんですよね。  あれ、そうじゃないんです。  私、直前までミント味のガムを噛んでいたんですよ。  つまり、私の唾液がミント味になってただけなんです。  えへへ。  えへへへへ。  えへへへへへへ。  分かりますか?  トレーナーさんは、私の唾液を美味しいって言ったんですよ。  すごく興奮しました。  その場で押し倒そうかって思いました。  ウマ娘の力で押さえつけて、逃げられないようにして、トレーナーさんの口に舌をねじ込んで、まだミントの味の残った唾液を直接飲ませてあげようかって思いました。  そうされても、文句は言えないですよね?  それだけのことを、あの時のトレーナーさんは言ったんですから。  そうしなかったのは、私が貴方のことを大切に思っていたからです。  床に押さえつけられたら、痛いですもんね?  自分よりも強いウマ娘に蹂躙されるの、すごく怖いですもんね?  だから、そういうことはしないようにしようって、思ってたんですよ。  唾を飲ませるだけで我慢しようと思ってたんです。  だって、トレーナーさんはまだ誰のものにもなっていなかったんですから。  桐生院トレーナーとのお付き合いなんて、カスみたいなものです。  手を繋ぐのが精一杯のおままごとみたいなお付き合いなんて、ちゃんちゃらおかしいでしょう?  ええ。  ずっと、そんなおままごとをしてれば良かったんですよ。貴方達は。  ふう。  トレーナーさん、大丈夫ですか?  ごめんなさい、長々とおしゃべりしちゃって。  多分、意味わからないですよね。仕方ないですよ。風邪で、朦朧としてるんだから。  ええ、風邪ですよ。酷い風邪です。  だから、私はお見舞いに来たんですよ。  えへへ。  タキオンさんのお薬って、本当に便利なんですね。  いつも使ってるトレーナーさんのボトルに、一錠落とすだけで、この効き目ですから。  何言ってるか分からないですよね。  良いんです。  そのまま、ぼんやりしていましょうね。  あ、そうだ。林檎持ってきたんです。お母ちゃんが送ってきてくれました。あとで食べさせてあげますね。  すごく甘い林檎です。朦朧としてても、きっと美味しいですよ。  甘くて、蕩けちゃうと思います。  蕩けちゃいましょうね。  蕩けちゃって、忘れちゃいましょう。なかったことにしちゃいましょう。  あんな女の唇なんか。  ええ。知ってますよ。  トレーナーさん、桐生院に押し倒されてましたもんね。  駄目ですよ。介抱のためとはいえ、簡単に家に上げちゃ。分かってたでしょう? 彼女が酔っぱらっていたことぐらい。  念のため言っておきますけど、私は何もしてませんから。  単にあの女が、欲を抑えきれなかっただけ。  折角恋が実ったのに、キスも、それ以上のこともできない。  表ではプラトニックな関係に満足したような顔は出来ますがね。でも、酒の力で一皮むけば、ああいう風に本性が這い出てきます。  舌、ねじ込まれてましたね。  ドロドロした唾液、流し込まれてましたね。  服、はぎ取られそうになってましたね。  それでも、体格では貴方のほうが勝ってますから、何とか押しのけられたんですよね。  だけど、知ってますよ?  押し倒されてた時、キスされた時、トレーナーさん、興奮してたでしょ。  そういう目をしてました。  分かりますよ。  最近の監視カメラって、高性能ですからね。貴方の眼に宿ったぎらつきも、ぴくんて震えた腰も、全部はっきり写ってました。  それで、何とかあの淫売を寝かしつけて、貴方は一人トイレに駆け込みましたよね。  あの時ほど、トイレに監視カメラを仕掛けなかった自分を恨んだことはありません。  まあ、つまりです。  私、我慢の限界が来たんです。  だってそうでしょう? あの女が、おままごとじゃ満足できない、卑しくて汚らわしくて盛りの付いた雌犬みたいな女だって、分かっちゃいましたから。  このままだと、磯臭く汚されるのは時間の問題ですからね。  だから、貴方に一服盛ったんです。  時間差でじわじわ効いてくるタイプです。  あ、桐生院トレーナーは来ませんよ。  私が見舞いに行くって言いましたから。  彼女はしつこく食い下がってきましたが、でも、私が純真無垢な笑顔で「いつもお世話になってるトレーナーさんですから、こんな時ぐらい恩返ししないと!」って言ったら、引きさがりました。きっと、私のことを子どもだと思ったんでしょうね。  愚かですよね。  私、もう赤ちゃんつくれるのに。  えへへ。あーあ、気分悪い。  金輪際、あの女の話題は出したくありません。  口が汚れます。  ですから、口直ししますね。  林檎。  甘い林檎です。  今、食べさせてあげます。  あーん。  しゃく。  ぢゃく、ぢゃく、ぢゃく。  くちゅ、くちゅ、くちゅ。  ほら。  舌、らしてください。  らして。  らせ。  んふふ。  んじゅ。  れちゅ。  じゅぶ。  じゅるるるるる。  こくん。  ずずずずず。ずぞぞぞぞぞ。  こくん。こくん。  ん。んんんん。  ちゅ。ちゅるるるる。  ちゅううう。  ぷはっ。  えへ。  えへへへ。  トレーナーさんの唾液は、ミント味じゃなくても美味しいですね。  トレーナーさん。  トレーナーさんが悪いんですからね。  でも、まあ、私も悪いんです。  だから、トレーナーさん。  あの女の手じゃ、絶対に届かないところまで。  深く。  深く深く。  深く深く深く。  一緒に、堕ちましょうね。

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