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 ──飢田リカコの知らない間に、世界はおかしくなってしまった。


「ほら、非川さん♥ ちゃんと指の間まで舐めて綺麗にしてよ♥」

「こっちはお尻♥ さっきトイレ行ったばっかりだから、念入りにね♥」

「うん、任せて♥ ぴちゃ、ぴちゅっ……れろっ、れるぅぅっ……♥ んっ♥ 上野さんの足、しょっぱくて美味しい……♥ はむっ、じゅるるるっ♥ んえぇっ♥ にがぁっ♥ 烏木さんのお尻、舐めごたえがあるね♥ いつもありがとー♥」


 今日もクラスメイトの非川さんが、同級生たちからイジメられている。

 足を舐めさせられたり、お知りに舌を挿入させられたり、腕くらい太いバイブやディルドをマ〇コやお尻に入れられたり……とても見ていられないような状況だ。

 リカコはイジメをやめさせようと、担任のアキ先生に掛け合ったのだが……。


「今の時代に、いじめなんて必要悪でしょ? 誰かがいじめられることで、それ以外のみんなが気分すっきり、笑顔で過ごせる……それをわざわざ止める理由なんて、あるかしら?」


 アキ先生は変わった人で、いつも“マイカ”という友人を学校に連れてくる。

 “マイカ”さんは何がしかの障害があるのだろうか、いつもハロウィンの仮装みたいな恰好をしていて、恐ろしく顔色が悪くて「あぁ……」とか「うぅ……」とか小さく呻くことしかできない。

 そんなマイカさんを愛でるように膝に乗せ、アキ先生はヘラヘラと嗤って告げる。


「リカコちゃんは、被虐証明書のことを知らないの?」

「被虐証明書?」

「そ、どんな場所でもイジメや差別は起こるもの……なら、それらをついついやっちゃう側じゃなくて、いじめられたり下に見られたりする人の方をサポートするのが、良いんじゃないかって考え方よ。立場の弱い人には、公的機関から証明書が出されるの。それがあれば、無償で手術を受けられるんだから」


 アキ先生はマイカさんの股間に乱暴に手を入れて、ぐちゅぐちゅと音を立てて見せる。マイカさんは「うぅ~……♥」と唸りながら、アキ先生の首筋に顔を埋めて、すんすんと匂いを嗅いでいる。


「その手術を受けるとね……どんな暴力に晒されても、それこそいじめにあったとしても、脳に埋め込まれた電極から、快楽物質が出るようになってるの。だから、どれだけイジメられてもへこたれずに、むしろ快楽を感じて笑顔で生きていけるってワケ♥」

「……マイカさんにも、その手術をしたんですか?」

「ううん、この子は私の自前♥ 高校の頃から、こんな感じなの♥ 本当は、ハロウィン一回きりで済ませるつもりだったんだけど、気に入っちゃって♥」


 マイカさんは弱々しく「あぁ~……」と口を開き、黄ばんだ歯でアキ先生の首を噛もうとする。

 しかし、結局それは実行できず、涙を浮かべてアキ先生の胸に顔を埋めていた。本当にうれしそうに、マイカさんの髪をアキ先生が掻き回す。髪がぞろりと、一気に抜けた。


「よーしよし、本当にマイカは従順だなぁ♥ こんな風に、幸せを探せるかも知れないから、非川さんのこともそうっとしておいてあげなね?」

「……! もう、いいです!」


 リカコは怒りに震えてその場を飛び出す。

 すると、ガラガラガラガラと音を立てて、非川さんがうがいをしているところだった。

 嫌な予感がして覗いてみると、コップの中にはおしっこや潮、愛液が混ざったものがぶくぶくと泡立っている。


「や、やめなよ、非川さん! 汚いよ!」

「汚い? 私は平気だよ。むしろ、こうやって喉もすっきり、生き返ったみたいな気分♥」


 満面の笑顔で口の端に着いた陰毛をペロリと舐め取る非川さんに、リカコは切々と訴える。いじめをする側にもいじめを止める側にも話が通じないなら、いじめられている側を説得するしかない。


「非川さん、嫌だったら言ってもいいんだよ? こんなの、絶対間違ってる。誰かを虐げて幸せに暮らしてるとかいうけれど、場所が変われば誰だってこんな目に合うかも知れないんだよ? あの人たちは、永遠に自分たちは“やる側”だと思ってるだけ。私は、こんなの怖くてたまらないよ!」

「……?」

「ねえ、非川さん、私は絶対に非川さんを……ううん、誰のことも虐げたりしない、イジメたりしないよ。私だけは信用して、本当のことを言って? 非川さんだって、こんなの嫌でしょう? 少しずつでも、こんな世界は変えていこうよ……」


 リカコの訴えを、珍しく笑顔ではない神妙な顔で聞いていた非川さんだったが、やがて彼女は押し殺したようにクスクスと嗤い始めた。


「ひ、非川さん?」

「飢田さん、全然楽しそうじゃないね……そんな悩ましい顔見てたら、私だって気を使っちゃうよぉ♥ ねえ、飢田さん……あなたも、私をいじめていいんだよ♥ すっきりしていこうよ、みんな笑顔になろぉ……♥」


 そう言って、非川さんはズボンをズルリと下ろしてみせる。

 そこにはバイブやローターの配線が、山ほど飛び出て愛液がとめどなく溢れていた。


「ひぃぃぃっ!」


 リカコは悲鳴を上げて学校を飛び出す。

 校外だって、注意深く見れば“正しいイジメ”を標榜する情報に溢れている。

 ポスターには首を付けられてピースサインするお姉さんと、その首輪を掴む幼い姉妹の絵が描かれていて「正しくいじめよう♥」の標語が躍っている。

 どこかの病院の前では、高校生らしいお姉さんが手術を終えたばかりらしく、笑顔で首を絞められながら「ほんと、あんたって首絞めるとマ〇コの締まりよくなってさいこぉ♥ 絶対アタシの嫁にするんだから……♥」と囁かれている。

 それらの恐ろしいもの、汚いものから目を瞑り、走って、走って、走って。

 家の中に飛び込んで、鍵までかけて大きく息を吐きだした。


「私は、あんな人たちと違う! 誰のことも虐げたりしない! 人も、ううん、人以外にだって優しくしてみせるもん……! 人以外……あ」


 朝は忙しくて、ペットのチー子のエサをあげるのを忘れていた。早退してきて、よかったのかも知れない。


「ごめんねー、チー子! ごはん、朝の分も合わせていっぱい用意するからね? たくさん食べていいんだよ?」


 そう言って、リカコはチー子に向かって、犬用の食事が乗った皿を差し出す。

 ……派手な化粧がすっかりと落ち、金髪にも潤いが失われかけている、妙齢の女性……リカコの母に向かって。


「り、リカコ……お願いだから、もう許して……浮気なんて、しないからぁ……り、リカコだけ、愛するからぁ……せ、せめて、手術を受けさせてよぉ……」

「どうしたのかな、チー子? ごはん、食べられないの? ああ、そうか……チー子はこうしないと、ご飯が進まないもんねぇ」


 ぐちゃっ! とリカコが振り下ろした足がサラの中に飛び込む。素足で幾度も、幾度もぐしゃぐしゃと踏みにじり、べっとりと足の間にエサをねじ込ませてから……リカコは笑顔で「はい、チー子♥」と足を差し出した。


「あぁぁっ……♥ はむ、じゅるるっ……♥ おほぉぉっ……♥ リカコの足、足ぃぃ……♥ はむっ、はふっ♥ はぁぁっ……ダメ、気持ちよくなっちゃダメなのにぃ……おぉぉぉっ……♥」

「こぉら、チー子♥ 食事中に、トイレ以外でおしっこするのダメだよ? ほら、出した分、飲ませてあげる♥」


 リカコがスカートを捲ると、そこはチー子へいつでもクンニさせられるように、家の中では常にノーパン状態だ。

 母親はごくんと喉を鳴らし、口の端に隠しようのない興奮の笑みを浮かべると、ぴちゃぴちゃと愛情をこめてリカコのマ〇コを舐め始めるのだった……。

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