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 ──ぱちんっという、腰の辺りから聞こえたペニバンを装着する音で、白浜和美は正気に還った。

 目の前でドスケベな看護師さんの格好をして、もう何回も舐めたり吸ったり手マンしたりバイブ入れたりディルド挿れあったりした黒嶺ユメの、何故か今でも綺麗なままのマ〇コが丸見えで、自分がそこにペニバン突っ込んで腰をパンパンしようとしていたことに気付き、腰が抜けるほどに驚く。

 ぺちんと、ディルドを固定する為の布部分以外は素っ裸の尻が、尻餅をついた音に反応して、潤んだ目をしたユメが「ハマちゃん……?」と小首を傾げてくる。ここでもう数えきれないほどセックスしまくったせいで、その仕草が頭が沸騰しそうなほどに可愛く感じてしまう。


「ゆ、ゆ、ユメちゃん、何やってんの、私たち!?」

「何やってるのって言われても……いつものように、裏バイトだけど」


 “今さら何を言い出したんだ、こいつは?”とでも言いたげな平静な顔で以て、こっちを誘うために指を軽く唇で咥えて微笑んでくるユメ。

 和美は何もかも投げ出してユメに飛びつき「ユメちゃんっ♥ ユメちゃん♥」と腰を振りたくりそうになるが、何とか正気を保って周囲を見渡す。

 その部屋の中には、出入り口がなかった。

 窓も無いのに、クリーム色の壁と床はぼんやりとした輝きを放っており、視界にはまるで困らない。

 柔らかい突起が壁際には複数生えており、そこにナース服とかメイド服とかセーラー服とか、どこか煽情的でありながらも“洗練されていない”……そこらのエロ親父が“スケベな衣装”と言われて想像するようなあれこれや、頭の中にバッチリ使用した記憶も使用された記憶も残っている卑猥なエログッズが用意されている。


「な、なんだここ? なんのバイトで来たんだっけ? なんのバイトで来たんだっけ!?」

「ハマちゃん、早くしてくれないと疼いて仕方ないんだけれど」

「ユメちゃん! いつもの鼻はどうしたのさ!?」


 かちゃかちゃとペニバンを外そうとしている和美に向かい、そっとユメが顔を寄せてくる。

 そのまま、すんすんと幾度か和美に向って鼻を鳴らし、首筋や、胸の谷間、そして腋に鼻を埋めてみせてから、いつものように目を剥いてのそれではなく、上目遣いの何処か愛らしい表情で「くさい……♥」と呟いてみせた。

 「何が臭いだ♥ いい匂いさせやがってぇ~♥」とか言いながら腋で顔を挟んで手マンしたくなる気持ちをグッと抑えて、和美は懸命に視界を周囲に巡らせて記憶を辿ろうとする。

 確か、この部屋に何かの形でたどり着いたまでは記憶が継続していたはずだ。

 それ以降……その先が思い出せない。自分は一体、何を見た? 自分は一体、どこを見た?


「ハマちゃん……上だよ」

「上」


 そう、天井だ。出入り口も窓のないから、天井を自然と見たのだ。

 これまでも訳の分からない存在に遭遇することは幾度もあったが、自分たちはどこまで行っても平々凡々な裏アルバイター。ユメの嗅覚以外には何の特別な力もない。

 ならば壁を抜けたり空間を超えたりできないなら……天井から“入れられた”以外は、あり得ない。

 和美は天井へと“再び”目を向ける。

 天井一杯に、片方だけの目が覗いていた。



 ──コンパニオンという条件で裏バイトを受けた際、ヤクザの飲み会でお酌でもさせられるのかと思い、体を触られたらビンタして帰ろうとユメと示し合わせた後……待ち合わせ場所で二人は“あの女”に遭遇したのだった。

 天を突くような巨人。山よりも大きい、大女。

 その割には妙に可愛らしい顔立ちのそいつは、呆気に取られている和美とユメを優しく指で摘まんで、この部屋の中に入れたのだ。

 それからは、まるで理性を失ったように二人は体を重ねて愛し合った。

 元々「高校時代は好きな男子とかいたし、お互い多分ノンケじゃね?」くらいの距離感でいたのだが、好感度自体は何で一線超えてねぇのかと怪しむほどに溜まっていた。

 だから、それに応えるように延々と愛し合い、愛されて、イッてイカされて、色々と……「あいしてる」とか「大好き」とか「ユメちゃんと結婚する」とか、それはもう色々と叫んだ気がする。

 別にあの天井の目に……大女に操られた訳じゃない。

 ただただ、互いの胸の内に従ったらセックスになっただけ……そんな、あまりにも自然な不自然の中で、どれほどの時間を過ごしただろう。


「ハマちゃん、ここに来てから、ずっと臭いが効かないの。それって、今やってることがどれもこれも、一切悪いことに繋がらない……どうしようもなく幸せになっちゃうってことじゃないかな。きっと私たちは、ここをゴールにしてこれまで裏バイトをやってきたんだよ」


 ユメにそう言われると、まるでそうであるかのように思えてくる。

 そうやって納得をしてしまうと、どうして大好きなユメとセックスし放題のこの状況を疑問に思ったのか、まるではしかのように“脱出しなければ”という妄想に取り憑かれたのか、分からなくなってきた。

 いつの間にか、天井の目は消えていた。代わりに、あの大女が……人間と変わらないサイズでそこに立っている。相変わらず憎らしいほどその顔は可愛らしく、服装にも何も不審なところはない。

 それが小さくなってしまったら、ただの美少女だった。


「ハマちゃん……♥」


 ユメに手を伸ばされて、少女の側へと導かれていく。自然な動きで和美は少女の頬をはむはむと甘噛みしており、ユメは少女の手の甲をれろぉ……と舐めていた。

 そこからは……二人そろって、少女にイカされ続けた。


「んあぁっ♥ あっ、あはぁぁぁっ♥ ひうぅぅっ……おっ、おぉぉっ♥ すごっ……♥ ゆ、ユメちゃんの指もいいけれどぉっ……♥ あんっ、あぁぁっ♥ わ、私のあそこに、まるで吸い付くみたいにぃ……♥ んっ、やぁぁんっ♥ あぁぁっ♥」

「ハマちゃんっ♥ ハマちゃんの喘ぎ声、可愛い♥ 私相手だと、攻めが多かったもんねっ♥ ハマちゃん、存分にイッていいんだよぉっ♥ ああ、臭くない♥ 全然臭くないって、すごい♥ これが、安らぎ♥ 安定♥ 幸福、なんだねぇ♥」


 二人は四つん這いになって、少女から手マンでイカされ続ける。時おり互いの唇を啜り合い、どこまで信用できるか分からない「愛してる」とか「好きだよ」とか囁き合う。

 その瞬間は確かに、金では得られない幸福を二人は感じていたと思う。



「……おぉぉっ……セックスだけで、こんなに……」


 正確な収支計算はまた別に行わなければいけないが、これまでの裏バイトでも最大級の収入を手に、和美は肩を震わせていた。

 ユメも同額を受け取ったはずなのだが、先まであの不思議なクリーム色の縦長部屋があった方をじっと見つめて、余韻を噛みしめているようだ。


「もう、あそこに戻れないのかな」

「どうだろ。別の女とか連れてきたら、意外とあっさり入れてくれたりして」


 その言葉は、何だかとても冴えているように和美には思えた。


「次は、橙を連れてこようか」

「事情、話さないでいいの」

「いいよ、あいつもきっと、あそこで幸せになれるタイプの人間だから」


 一旦の別れの為に、車を発進させる。

 これからはどんな裏バイトよりも、この場所に知り合いの女たちを運ぶことが、二人の生業になるだろう。

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