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「──江迎さん! どうやら、わたくしが遠慮をする必要は一切合切無くなったようですわね!」

「え……どうしたの、二十八さん。なんだか話が急すぎて見えないわ?」


 基本的に自身も話がとんでもない方向へと吹っ飛びがちな江迎怒江が、急な話の展開に困惑するという珍しい事態。

 そこにはマイナス13組における同級生。二十八二十九(つちや ひずめ)の姿があった。

 江迎も一見すると大人しいお嬢さん風の外見なのだが、二十九の方は本物のお嬢様である。ふわふわの桃髪を揺らす江迎と、銀髪縦ロールを揺らす二十九が並ぶと、まるで絵画のように……というか萌え漫画の一コマのように美しかった。


「あなたにとってはまだ癒えぬ傷を抉ることになってしまうかも知れませんが、江迎さんは失恋をされたのですよね?」

「わあ、想像よりも直球のところが来たぁ……」


 想像よりもと言う通り、確かに枕詞の唐突さには驚いたが、江迎は内心では二十九がどんな話をしてくるかというのが分かっていた。

 何故なら二十九は、江迎のストーカーだからである。

 「ストーカーなんて最低だよ! 人を危険に晒して、相手の気持ちを考えてない!」と大真面目に「え、君がそれ言うの?」なことを語ったこともある江迎だが、二十九相手には簡単に批判や拒絶が出来ない理由がある。

 一つは二十九が単純に危なっかしすぎる性格をしており、自分自身への罪悪感から「危険を人から遠ざけたい」という、時に愛情よりも優先される江迎の衝動にぶっ刺さっていること。

 そして、もう一つの理由は……二十九は驚くほど“節度のあるストーカー”であり、人吉善吉に江迎が想いを寄せている間は、すぱっと付きまといを止めたどころか、普通の同級生として恋の応援もしてくれていたこと。

 要するに胸の内がまったく変わっていないのに、このお嬢様は完璧に“行動指針”だけをコロコロと変更できてしまうのである。


「あのね、二十八さん。気持ちは嬉しいけれど、私はまだ次の恋愛にはいける気持ちじゃないの。恋という花が枯れてしまっても、根っこはまだ残っていたりすでしょう?」


 自分の恋愛をまるで草引きのように例える辺り、相変わらず江迎の自己肯定感自体は地を潜っているのだが、それでも数々の戦いを超えてきたことから成長した彼女は、丁寧に二十九へと説明を行う。

 ……のだが、二十九は「我慢に我慢を重ねて、遂にチャンスが回ってきた!」という状況にテンションが上がりきってしまっているらしく、江迎の説得をまるきり聞こうとしない。


「そもそも人吉さんは優しさの人のように一見すれば受け取れますが、その実態たるや鈍感型の博愛タイプ! 餌だけ撒いて釣りをしない、環境汚染タイプの輩でしてよー! 江迎さんの目がようやく覚めて、わたくし歓喜しております!」

「──訂正して環境汚染ってなに人吉くんはむしろ環境を改善してくれるんだよ虫で例えるならムカデとヤスデを間違えるくらいに失礼だと思わないヤスデってあの足の数とフォルムが可愛いったらないわよねとにかくあなたは間違ってる」


 ぞろり……と恋敗れたとは言え、未だに江迎の中に燻っている狂気が顔を覗かせる。自分の話を聞かずに纏わりつく辺りまでなら江迎は優しく許すが、今でも人間としては尊敬している善吉を馬鹿にされるんは許せない。


「今以て博愛の毒に犯されているのですわね、江迎さん! ですが、わたくしはあなたを否定したいわけでも怒らせたいわけでもない……なれば一回こっきり互いをぶつけ、それで恨みっこ無しの決闘がよろしくてよ!」

「え? それはちょっと……二十八さんを怪我させるのは気が進まないから」


 先までは目の前の“障害”を排除することにまるで躊躇の無い人殺しの目をしていたのに、今はクラスメイトに怪我をさせることを厭う優しい少女に戻っている。この振れ幅こそが江迎の危険性と、そしてある種の社交性であった。


「わたくしがもしも負ければ、江迎さんに謝罪した上で2度と近づかないし、人吉さんにも土下座で謝罪してまいりますわ!」

「人吉くんもいきなり土下座されたら困惑しきりじゃないかな……」

「ですが! もしも江迎さんが敗北することがあれば、今日だけ、そうオンリートゥデイのみ、なんでも言うことを聞くと約束してくださいまし!」

「あれ……? 二十八さんは私へ生涯近づかないのに、私は今日一日だけでいいの……?」

「さあ! さあさあさあさあ! 江迎さん、提案を受け入れてくださいな!」


 江迎はクラスメートに怪我をさせたくないのだが、相手の言葉からは自分に対する並々ならぬ執着が覗いており、依存体質で恋愛脳な彼女としては、それを無碍にするのが何とも酷いことに思えてしまう。

 これで諦めてくれるなら、きっと互いにとって幸せなはず……失恋という経験で大きく精神的に成長した江迎は、渋々決闘の話に乗ることにする。

 とは言え、江迎の持つ特殊能力──過負荷“荒廃した腐花”は極めて強力・凶悪である為、江迎は如何に手加減して二十九との争いを終わらせるか、優しい気遣いを既に始めていた。



「──あぁっ!? そ、そんな……」

「やった! やりましたわーっ! わたくしの勝ちのようですわね、江迎さん!」


 そんな二人の対決は、意外にも二十九の圧勝という形で終わることになった。

 江迎はマイナス13組の首領だった球磨川禊にそこまで重用されている様子が無く、江迎も彼女の持つ過負荷についてはほとんど知らなかったのだが……二十九の持つ過負荷“一(ニノエマ)”は極めて江迎と相性の悪い能力だった。

 “金で実現できる現象に関しては、正当な対価を自身の資産から払うことで、過程をすっ飛ばして実現することができる”……金で叶うこと限定であるが、言うなれば現実を自在に改変してしまう能力である。

 江迎の“荒廃した腐花”は、触れたものを問答無用で腐食させるという強力なものだが、腐食とは大抵の場合は影響を及ぼしたものの価値を下げてしまう。

 空気を毒ガス化させるのも、地面を腐葉土化して植物を操るのも、建築物を腐食させて質量攻撃を行うのも、すべて“買い取られて”自由を奪われてしまい、逆に謎の瞬間移動や未知の攻撃を前に、江迎は成すすべなく倒れ伏したのだ。


「あなたが悪いんですわよぉ、江迎さん……♥ わたくし、ちゃんと待ったじゃありませんの……♥ あなたが人吉くんに恋している間は、応援すらしたというのに、別れても他に進めないなんて! 札束で顔をはたかれてもやむなしなのですわぁ♥」

「くっ、うぅ……あ、愛は、お金じゃ代えられないんだよ……」

「まだそんなことを仰るの?愛しの江迎さんとは言え、流石にこれ以上は許容できませんことよ……! 来なさい! 約束を果たしていただきますわぁ!」


 江迎はそのまま二十九に抱え上げられると、例の瞬間移動で人気のない体育館へと連れ込まれてしまう。

 二十九の能力は「金を使った結果を呼び出す」能力である為、例えば先に二人が戦闘を行っていた花壇前の肯定から体育館までを「飛行機で移動した」ことにした場合、距離分の運賃しか懸けずジェットエンジンの速度を実現できるのだ。

 江迎との甘い時間を妄想し、幾度もカタログでチェックしていたベッドを購入&郵送分の資金を払って体育倉庫に呼び出すと、その上に江迎を放り出し、忽ちの内に倉庫入り口が最新セキュリティの防弾扉に変わる。


「約束通り、江迎さんを好きにさせていただきますわよぉ……♥ あなたの愛が強固なのは知っていますが、終わってしまったそれならば、二十八家の資産が敗北するはずありませんわ♥」

「あっ、やぁぁっ……!」


 そう言って江迎の体に圧し掛かり、耳にちゅっ♥ ちゅっ♥ と口づけながら、スカートの中へと手を突っ込んでくる二十九。江迎は自分の過負荷を使って抵抗しようとするが、掌で触れた範囲を全て忽ちに修復されてしまう為、元から脱ぐつもりだったのだろう制服をボロボロに崩すことしかできなかった。


「ほら、江迎さん……♥ 見てくださいまし♥ わたくしは、この通り♥ 貴女に触れられたとしても、己の力で身を守れるのですよぉ……♥」

「あっ……♥」


 江迎の手が二十九の頬に触れる。ぐずぐずに腐れ落ちるはずの顔は、対腐食性の手術効果を得ているのか、それとも後から後から再生しているのか、その美しく高貴な容姿を穢すことは無かった。

 より強い異能でリセットされるとか、触れたこと自体を無かったことにされるとか、そういって接触を可能とすることはこれまでもできたが、過負荷を理由に人間関係を気付けなかった江迎にとって、この行動は想定以上に効いていた。


「あっ♥ あぁっ……♥ だめ、だめぇ……♥ わ、わたし、まだ気持ちの整理が出来てないのにぃ……♥ つ、二十八さんに触れられて、気持ちよくなるなんてぇ……♥ こ、こんなの不貞だよぉ……♥」

「不貞とか♥ 今からは私以外の相手を考えることこそが不貞ですわぁ♥ 謝りなさい♥ 謝って♥ 江迎さん、わたくしのモノになる態度を示しなさい♥」

「ひっ、はぁぁぁぁっ♥」


 二十九は湯水のように金を使いながら、無数のセックス指南を受けた結果を自らの体に反映し始める。

 思い人以外と体を重ねることに、普通の人間ならば良心の呵責を覚える。しかし、二十九は処女を保ったままで千人切りのテクニックだけを体得し、乳首と後ろの穴……菊門をぐりぐりと攻め続けていた。

 これまで純愛の経験しかない江迎にとっては、二十九の愛撫はあまりにも激しすぎる。自分で振れたこともない場所を弄り回され、そこから快感が伝わってツンと膨れて勃ったり、少しずつ湿っていくことに、恐怖さえ覚える。

 その膨大な愛の質量で他者を圧倒して来た江迎が、今は二十九を前にされるがままであった。


「あぁっ♥ やっ、あぁぁぁっ♥ そ、そんなところ、き、汚いよぉ……♥」

「江迎さんったら♥ あなたの体に汚いところなんてありませんわぁ♥ でも気になるなら、腸内洗浄をして差し上げますわね♥」

「はぎゅぅぅぅぅぅっ♥ お、おなか、からっぽになるぅぅぅぅぅっ♥」

「その空になった部分には、わたくしの愛を詰め込んで差し上げましてよぉ……っ♥ 江迎さん……そろそろここ、触らせていただきますわぁ♥」


 二十九の指が、ちゅぷっ……♥ じゅぷぷっ……♥ と江迎の中に沈み込んでいく。その指先からは、日本では違法だが後遺症のない、強力な媚薬が海外から取り寄せられ、しみだしていく。

 江迎も年頃の少女であるから、恋心を覚えた相手に下腹部の辺りが熱くなる感覚を覚えたことはある。しかし、そういった心の動きを一瞬で駆逐するほど、炎のように激しい快感が二十九の指からはもたらされた。


「あぁぁぁぁっ♥ あんっ♥ あぁぁっ……だめ、だめよぉ……わ、私、まだぁ……んひぃぃぃっ♥ こ、こんなの、恋しちゃう♥ 恋してる時と、体が同じ状態になってしまってるのぉぉぉっ♥ あぁぁっ♥ ごめんなさいぃぃっ♥」

「ようやく謝れましたわね♥ これであなたのいじわるの罪は許されましたわぁ……♥ さあ、後は達して♥ 絶頂して♥ イキなさい♥ イクのですわ、江迎さん♥ 失恋直後のレズレイプで♥ 同性に恋しておイキなさいっ♥」

「あはぁぁぁっ♥ つ、二十八、さ……ひ、二十九ちゃんんっ……♥ んっ、あぁぁっ……ひあぁぁぁぁぁっ♥」


 逆手に真っ白なシーツを掴んだ姿勢で、舌を突き出して絶頂を迎える江迎。

 その淫らな姿に自分自身で驚きつつも、これほど照れて乱れても能力が発動せず……いや、発動しても何も揺らがずに愛されることに、あまりにも心が満たされてしまっていた。


「はぁ……はぁ……♥ 江迎さん、ごめんなさい……わたくしは、この過負荷のせいで、金で叶うことだけに価値を持ち続けてきましたわ……けれど、人の心はわたくしの能力ではどうしようもない……あなたの心を奪えませんの……」


 金で魂を売り渡す人間は存在するが、しかし人間の命の価格には“平均値”が存在しない。大金持ちが暴力の前にゴミのように死することもあるし、何の資産も持たぬ者が世界を救うこともある。

 故に二十九の過負荷の能力の前で、人の心だけは不可侵なのだ。金で揺るがすことはできても、買い取ることは出来ない。


「わたくしは本当に江迎さんを愛していますが、こういった形でしか愛を伝えられませんの……もう思い残すことも無いですし、江迎さんに嫌われてまで生きて行く気はございませんわ」

「二十九ちゃん……」

「もしも、わたくしが憎くて許せないというのなら、このナイフで心臓を刺してくれて構いません。二十八家の守り刀でございますわ……後は、江迎さん能力で土に還してしまえば、完全犯罪でしてよ」


 先までの江迎を圧倒する姿とは真逆の、強くも儚い愛の殉教者の姿がそこにはあった。

 そして、江迎は……そんな愛について、誰よりも理解している少女であった。



 ──十年後。


「江迎すわぁ~ん♥ こちらのお花の準備、できましてよぉ~♥」

「ありがとう、二十九ちゃん……でも何時まで私のこと江迎って呼ぶの最近は婦婦別姓って言うのもあるけれどやっぱり苗字が同じだからこそ生まれる連帯感や共同体としての意識があると思うし何よりも私が呼ばれたいと願っているのに」

「おっとぉ、久しぶりにでましたわねぇ……だって、その、まだ恥ずかしいですし……」


 レズレイプまでして江迎に迫った二十九だが、こうして同性同士の婚姻を迎え……黒神くじらが自分の嫁と結婚する為に色々とやらかした余波である……十年が過ぎてもなお、妻をまだ名前で呼び捨てることが出来ていなかった。

 あれから江迎は二十九を受け入れ、二人は結ばれることになったのだが、そうなれば江迎の膨大な愛は今度は二十九に注がれることになり、江迎主導で学生の間に二人は婚姻を交わすことになった。

 いずれは二十八家を継ぐことになる二十九だが、今は江迎と共に花屋として働いており、社会経験を積みつつ十年まるまる新婚生活を送っている。

 実際、腐葉土を生み出したり発酵を行える江迎の過負荷と、正当な資金さえ払えばあらゆる手間を短縮できる二十九の過負荷は、あまりにも花屋という職業にシナジーがあった。


「い、いずれは必ず呼びますから! ささっ、そろそろお店を開きましょう。江迎さんのお花たちを、今日も皆さんがお待ちですわ~」

「もう……」


 拗ねたような顔をしながらも、内心では江迎は二十九に感謝していた。失恋からすぐに立ち直れたのは紛れもなく彼女のお陰だし、様々な行いも結ばれてしまえば全肯定できるものだからだ。


「(そう言えば、二十九ちゃんがどっちの子供が欲しいか聞いてなかったわ……)」


 今のところの江迎の目標は、二十九が家を継ぐ前に、花屋で稼いだお金だけで同性妊娠を試みる資金を溜めることだ。

 思い立った江迎は……開店準備に追われる二十九に向かって、四分近くしゃべりっぱなしで子供の性別についての質問を投げかけるのだった……。





今回の攻め役

※二十八二十九(つちや ひずめ)

・箱庭学園に通う女生徒で、マイナス13組所属。銀髪縦ロールの典型的お嬢様であり、当時は罪悪感MAXだった江迎が距離感のバグっている自身と仲良くしてくれていたことから、惚れ込んでしまった恋の暴走特急。

・基本的にはお淑やかなお金持ちのお嬢さんなのだが、思いつめるとエライ行動に及ぶことがあり、この際の暴走具合は江迎が押されるほど。もっとも、大抵は思いつめているのは江迎関係であるので、被害者は基本彼女だけであるが。

・過負荷は“一(ニノマエ)”。お金で実現できることに対して十分な対価を支払えば、時間などをすっ飛ばして過程だけを享受できるという反則的能力。某“願いの館”の簡易版みたいなものと考えれば、実家が大金持ちなのも重なり出鱈目に強い。

・ただし、金の及ばない領域(まだ未発見の概念や、二十八家の資産を超えてしまうような事象)に関しては対応できず、また人間の心についても“相場が無い”という理由で買ったり操作することが出来ない。この力を使うくらいなら、大金を実際に積んだ方がしっぽを振る人間は多いだろう。


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