Home Artists Posts Import Register

Content

作品外の裏話を話せる範囲で書いていこうと思う。


連載に至る経緯や制作意図については(1)で語ったので、連載開始から完結までの話をする。




連載第1話が掲載されたモーニング・ツーが発売されたのが2016年7月。

モーツーの表紙も僕が描いた。『別式』がモーツーの表紙を飾ったのはこれっきり。


前作『変ゼミ』から11ヶ月。

「変ゼミの作者が時代劇を始める」

それだけでフックがある筈と期待していた。

ただ雑誌が売れず単行本が出てみないと分からない時代だ。

ネットで連載分の評判を検索するかぎりではあまり反響があるとは思えず不安は絶えなかった。ただでさえ『変ゼミ』は後半、全盛期の1/10に実売数を落としていた。


第5話までを収録する第1巻の単行本作業に入ったのが、同年10月。12月末売りを目指していた。


担当Kが「単行本カバーは数字で遊びたい」というアイデアを提言してきた。

その案に乗ることにして、カバーのラフを切った。


最初に描いたのがコレ。


次がコレ。


ラフを切りながら「これパチンコ化したら使えるな」などとつまらないことも考えた。

Kと相談の結果、2つ目のラフでいくことにした。


「巻数を表す数字を斬っているイメージ」

これは類が対峙した相手を斬っているのだから、こちらからは数字の背中を見ていることになる。そう考えて数字は左右反転。Kに反対されるか心配したが、理解を得た。

背中から斬るも斬られるも武士の恥なれば。


そして僕はメインである類を描き、背景とその他のデザインをKとデザイナーに投げて……


(ちょっと装丁に関してはこれ以上語れない。第1巻の装丁そのものが代弁してくれていると思う)




こうして2016年12月22日に単行本第1巻が発売された。

そしてすぐに結果は出た。

売れなかった。


第1巻の初版部数は『変ゼミ』の最終部数から考えると信じられないくらい多かった。これは担当Kによる販売部の説得の賜物ではあったが、僕は逆に青くなった。そこまで売れるとは思えない感触をネットの評判から感じ取っていたからだ。なので、むしろ少部数から始めて、あわよくば重版させることで売れてるイメージをつけた方が良かったのではと考えていた。


紙の単行本は第1巻から大赤字を叩き出してしまう。

理由は色々あったかもしれないが、Kが意図したギャンブルは外れた。


「第1巻が売れない」


これが意味するのは「第2巻以降はもっと売れない」

連載漫画の単行本(特にストーリー物)の実売数は巻数が増えるほど、右肩下がりになるのが一般的傾向。どうしても読者が脱落していくからだ。


僕は本作を完結させるにあたって必要な巻数は7巻だと考えていた。

そんな巻数は出せないってことを第1巻が教えてくれた……。

それでも売上回復を信じて連載を続けた。


第1巻が出た少し後、担当Kが忙しくなったという理由でサブ担当Uが付くことになる。

気付けばいつの間にかKはフェードアウト。メイン担当を交替したとは今でも聞かされないままだ。




第2巻が発売されたのは2017年8月23日。

起死回生は……ならなかった。


第2巻カバーラフ

宣伝などに使えるように全身で描いてあったんだよ。ほぼ露出はなかったようだけど。


担当U「別式は…全何巻の予定ですか?」


鳴り始めた…打ち切りの警鐘が。2巻目にして早くも…。

それでも2巻で終わった『つーつーうらうら☆ダイアリーズ』よりはマシってことか…。どんだけだよ、『つつうら』…。そしてあんな想いはもう二度としたくなかった。


『つつうら』が初の打ち切り作品ではなかったが、打ち切りを言い渡されて僕は本当に泣いた。

内容が旅物だったというのもある。登場人物たちの旅が道半ばにして終わってしまう。登場人物たちに向かって謝って泣いた。

基本一話読み切りスタイルの内容だったので、一応何処からでも物語の終章へ繋げられる準備だけはしていた。それでもあまりに短すぎた。

でも…


『別式』は無理!

話を端折って完結させるなんて絶対無理!


無理やり構想を改変して、物語として読む価値のない物を遺すことだけは絶対にしたくなかった。


過去にも打ち切りを言い渡された作品や自らフェードアウトさせた作品は数本あるが、どれも尻切れで放置してある。

でなければ、先述した『つつうら』のように、または『宇宙賃貸サルガッ荘』の場合は4巻まで出せたところで打ち切りを言い渡されたがこれも終章は考えてあったので、なんとか許された残り頁数内に収めてきっちり完結させている。


『別式』は無理もない。まだ2巻目が出たばかりの連続ストーリー物である。

最悪次の第3巻で終わらされてしまうかもしれない状況で浮かんでくる言葉はそれしかなかった。


U「……7巻……今のままでは無理ですね。頑張りましょう」




なんとか全3巻での打ち切りは回避でき、少なくとも4巻は出せることとなった。

この年の夏にサブ担当Uが異動で離脱、Kが戻ってくるということもなく、サブ担当Iに替わる。


第3巻は2018年4月23日発売。前日は僕の誕生日。この数日前から僕は仕事場を東京から京都に移している(2019年12月現在も)。


第3巻カバーラフ。ラフの方がデッサン良いんだよね…。

魁も全身あるよ。


第3巻の内容はほぼ刀萌のエピソードとなった。そして衝撃的な引きで4巻に繋ぐ。

物語が遂に破滅に向かって動き出す……


…が、やっぱり売れない。


物語の進展など新規読者を掴む材料にはならない。

第1巻から売れるか、バズるネタでもないかぎり、途中の内容だけでは勝負できない。

初版部数はとんでもない数字に落ち込んでいた。

もう売上が回復しないのは確定的だった。あとは何処まで墜落せずに滑空できるか…鳥人間の気持ち。


ただ…母数が少ないとはいえ、読者からの評判は第1巻からずっと良かった。

それだけが支えだった。描いている物は間違ってない。つまらないから売れてないわけでは決してない筈。

知られていないだけとしか思えなかった。

とは言え、僕はツイッターのフォロワに向かって「どうかクチコミを」と頼むのが関の山。

効果的な宣伝は編集部に任せたい。ところがその編集部に言われた効果的な宣伝というのが、


 I「今は作者さんのツイッターからの発信が…」


やってるよ。でも全然効果がないというか出せない。僕のツイッターでの影響力はとても小さい。なぜか。




8月のもっとも暑い盛り、担当Iとモーツー編集長が来京した。

『別式』の打ち切り、その直談判のために、だ。


わざわざ京都まで来てくださったのは、僕が東京を離れてしまったからに他ならないのだが、そこまでしてくれるのは、僕がモーツーでは古参の作家であり、『変ゼミ』では商業実績も残していたからであり、いち漫画家としても20年以上画業を続けている年数だけは一応ベテランであるからだ。


その席で言われたことはこう。


・第5巻までは出す

・第5巻で完結させられないと言うのであれば第4巻で終了


僕は後者を選んだ。

4巻収録分の話ももう半分近く描いた状況から残り1巻半で完結させることは不可能だったから。

モーニングKCとしては第4巻で物語が尻切れのまま終わっても構わない。残りは電子書籍の自費出版で想定通りの内容を描ききって読者に届ける、と啖呵を切った。



するとこう言われた。


・モーニングKCとしての体裁が良くない

・作家人生の浪費

・為にならない

・ルーズな僕に出来るわけがない

・次の作品を頑張りましょう


そう言われても僕も本気だった。


これまで面白いと言って読んでくれている読者を裏切って次の作品を頑張る?

「こいつの漫画は面白いと思って読んでても売れないとどうせまた途中で終わる」と思われて次の作品を買ってもらえるのか? それこそ商業作家としての寿命を縮めるとしか思えない。

どうせ売れてないんだ。尻切れにしようが、モーツー的には何も損失はない。


『別式』が売れていないだけでなく、私事においてもその頃の僕は惨めなほどに色んなことに失敗し、負けを喫し、或いは諦め、悔恨に泣き暮れていた。


ここで作品まで棄てたら本当に立ち直れなくなる。自己満足だろうが無理だと言われようがやり遂げる方向に自分で舵を切らないと生きていけない。本気でそう思っていた。

この2年前、連載を開始した直後に僕は人生で初めて自殺を考えた。身長175に対して体重は60を切り、心身ともに衰弱しきっていた。

それでも死なずに(死ねずに、だけど)、『別式』だけは必死に描いてきたのだ。京都へ来たのも環境を変えて仕事のペースを立て直すためだった。


僕にディベートできるような頭の良さはまったくないのでとにかく食い下がるしかなかった。

その結果、編集が譲歩案を提示してくれた。


・4巻と5巻の頁数を増やすのでそれで完結させられないか

・1巻につき32頁


僕「…………なんかやれそうな気がしてきた……」


しかしこの時僕は何故か1巻につき64頁増えると勘違いしていた。

第4巻の単行本作業を始める時にハタと気付いて担当Iに「頁数少なくないですか?」と尋ねると、


I「頁数の話はシビアなのであの時しっかりお伝えしました。これに関して水掛け論はあり得ないです(ピシャリ)」


絶望の中で第5巻分の制作が始まる……




と、その前にふたつ吉報が訪れていた。


・第3巻がほんとに少しだけ重版

・『次に来るマンガ大賞』に本作がノミネートされた


なんと…前者に関しては作家としては7年ぶりの重版。本当に雀の涙程度の重版だったけどありがたかった。

後者は結局ノミネート作品50作の内、上位20作にも入れなかった。

やっと追い風が吹いてきたと思ったのも束の間…

2018年12月21日に発売された第4巻もやはり売れなかった……。


第4巻カバーラフ


だが、第4巻は読者からは大変好評を受けた。

皮肉にも打ち切りで贅肉を削ぎ落とされコマ運びは、緊迫するストーリー展開のスピード感を増す結果となった。

その結果が2019年度の『次マン』にもミネートという事態をもたらす。2年連続でノミネートされた作品など本作くらい。これは……


だがまたしても入選ならず。



ここで『次マン』について苦言を呈しておくと、レギュレーションと審査方法が甘い。「現行連載作品で既刊単行本が5巻以内」であればノミネート可能。そして本選も一般投票がある。

入選した上位作品を見渡せば「もう既に来ていて部数も桁違いな作品」ばかり

虚無感しかない。




2019年9月、モーツー誌上に最終回が掲載される。


本当に出来ることはすべてやって漕ぎ着けた渾身の最終回、いや第5巻収録分はすべてそうだし、第4巻もそうだ。売れない漫画の烙印を押されてからずっと、想定よりも早くやってくるその日に怯えながら内容を煮詰め切り詰め描いてきた。


2019年11月22日、『別式』最終第5巻発売。

最後まで読んでくれた方、本当にありがとう。

よくやったと褒めてくれる方が沢山いて救われています。


第5巻カバーラフ





「TAGROさんは群像劇が上手い」なんてたまに世辞を言われることもあるが、とんでもない。今回も駄目だった。


自分本位の枠から出られず、他人への思い遣りを持てない類もそう。

嫉妬に焼かれ自分の醜さに苦しむ魁もそう。

諦めきれないエゴで身を持ち崩した九十九もそう。

終わった夢を見続ける源内もそう。

依存をやめられない刀萌もそう。

こんな筈じゃなかったと泣く切鵺もそう。

みんな僕の分身だった。


友だち想いの早和、諦めの美徳を持つ十郎。

彼らは僕には憧れの象徴。


そして。

メッキを剥がされ沢山の物を失い、その結果最後に残ったものを大切に思えるようになり倖せに生きられた類は、今の僕の願望であり希望だった。


〈おしまい〉

Files

Comments

Anonymous

2021年9月19日、本日読了させていただきました新参です。 『別式』、4巻以降から、登場人物の思惑がとても複雑に絡み合ってきて、 自分の中で消化が難しくなったので、 私も解説や考察を探してここに来ました。 『変ゼミ』のファンでしたが、正直に申し上げますと、 『変ゼミ』以降のTAGRO先生の作品にはほぼ触れてこず、 「そういえば変ゼミの人って何してんのかな」 という興味から、『別式』を知った、という感じです。申し訳ありません。 ただし、この作品の持つ儚さ、苦しみ、倖せに、 私がものすごく惹かれたのは事実です。 そして、執筆当時のTAGRO先生が、こんな想いでいらっしゃったことを初めて知り、胸が痛みました。 作品と我々読者に対し、真摯な気持ちで向き合って下さり、本当にありがとうございます。 これからも微力ながら謹んで応援させていただきます。

tagrochang

ありがとうございます。遅レスすみません。 頑張りましたよ。

tagrochang

遅レスすみません。 現在無料公開中なので宣伝してやってください。

Anonymous

ありがとう。(全巻出揃ってから買う勢)

tagrochang

こちらこそ (でも出来れば新刊出る度に買ってあげてね。僕だけじゃなく漫画家全員がそれを願ってます)

Anonymous

マジで面白かった。すべてがエモかった。1巻から読み直します。

Anonymous

最終巻がどうしても読解できなくてモヤモヤしてた部分があり、解説を探し求めて辿り着きました>< ファンとしても打ち切りつらいです。 こんなに面白いのに何で!って思います。 ページ数が限られていく中でもちゃんと完結させてくれてありがとうございました。