Home Artists Posts Import Register

Content

それを一口食べた時だった。 桐条グループ宗家の令嬢。 シャドウ殲滅の大義を持つペルソナ使い。 それらの重圧に張り詰めていた糸が、音を立てて切れた。 私の中で何かが弾けたのだ。 ブリリアント(素晴らしい)。 生まれて初めてハンバーガーを口にした私の率直な感想だ。 以前から気にはなっていたものの、ジャンクフードとは無縁の生活をしていた。 当たり前の様に口にするのは、一流シェフが作る料理。 嫌味な言い方だが、高水準の料理に私の舌は肥えていた。 そんな私を唸らせたのは、私の目には安っぽく映るハンバーガー。 私と同じペルソナ使いであり、後輩の結城理(ゆうき おさむ)とよく外出するようになった私は、これまで食べた事がない物を口にする事が増えた。 先日はラーメンを食べたか。その前はたこ焼きを…。 彼との外出は、世俗に疎い私にとって刺激的な時間。 そんな時間の中で、これは一番の驚きと言っていいだろう。 ハンバーガーがこれ程美味とは知らなかった…。 シェフの創意工夫が伝わってくる。 "身体に害がある粗悪な食べ物"という偏見を抱いていた事を反省しなくてはならないな。 彼にその感動を伝えると、オーバーだと笑われてしまった。 彼が感情を表に出して笑う事は珍しい。 それ程私は舞い上がっていたのだろうか。 なんだか気恥ずかしい…。 彼と暫く談笑し、日が暮れてきたので「今日は有難う」と伝えて別れる。 同じ寮に住んでいるというのに、別々に帰路に着く。 同じ寮に住むゆかりや山岸に、私と彼の関係について問い詰められたくないからな。 ゆかりはこういう事に敏感なようで、「先輩、もしかして彼と付き合ってます?」と聞いてきた事もあったか。 …。 ……どうなのだろうな。 私は彼を尊敬している。 ……はっきり言えば…好意を抱いて…いる。 す、好き……だ。 私達ペルソナ使いのリーダーとして皆を見事に束ねる器量は尊敬に値する。 そして何よりも、私は彼といると自然に笑う事が出来た。 ……だが、彼ときたら、いつでもポーカーフェイスだ。 クールガイとでも言おうか。 考えが掴めない。 彼が誰かを好きになり、夢中になる姿が…余り想像出来ない。 …いや、きっと彼が好きになる異性もいるのだろう。 私が……その相手ではないという事なのだろうか。 私は……君の事が…。 先程感じた折角の感動が、彼への複雑な思いの前に薄れかける。 ……また彼とハンバーガーを食べに行きたいな…。 *** ハンバーガーに感動を覚えたあの日から、ワイルドダックという店に放課後よく足を運ぶようになった。 彼と共にハンバーガーを食べる。 緊張の途切れぬ私の日常の、ささやかな癒しの時間だ。 夜はシャドウと戦い、昼は成績を落とさぬよう勉学に励み、そして常に桐条グループの未来について考えている。 この時間は、それらを一時的に忘れさせてくれた。 …しかし、驚いた。 彼はいつも私の横で、ハンバーガーを少なくとも3つは食べてしまう。 細身の身体のどこに詰め込まれているのか疑問に思う。 私もつい食が進んだ。 ……だから、なのだろうな。 彼と幸せな時間を過ごし、つい気が緩んでしまった。 最近…、嫌に制服がキツい。 時折歯に衣を着せぬ言い方をするゆかりに、「先輩、太りました?」と聞かれてしまった。 ……あぁ、太ったさ。 この数週間で6kgも。 ハンバーガー、ポテト、チキン…。 私はジャンクフードにすっかり魅了されてしまった。 張り詰めた日常の中の、ささやかな幸せだからこれくらい…と自分を肯定し、太った現実を見ないようにしていた。 彼との時間が…この食事の時間が心の支えだ。 彼と出会うまで、こんな美味しい物を知らなかったんだ。 少しくらい、気を緩めても許して欲しいというのは…甘えだろうか。 そんな事を考えながら、私は3つ目のハンバーガーに手を伸ばした。 *** あれから数ヶ月。 「太りました?」という他人の疑問は「太った」という確信へ。 周りの人間の私への視線が明らかに変わった。腫れ物に触れるような…。 …私はあれから更に太った。 一見して分かる程に、な。 顎は二重になり、私が口を動かせば顔に纏わり付く肉が揺れるのを感じる。 腹はだらしなく突き出て、妊婦の様。 尤も詰まっているのは贅肉だが…。 胸や尻も幾分か大きくなった。 手はまるで赤ん坊のそれの様に肉厚で、最近召喚機のトリガーを引く際に違和感を覚える事も。 脚は太過ぎてブーツはきついし、股擦れが起きてしまっている。 スカートとブーツから覗く肌色が、何ともみっともない。 誰がどう見ても、だらしがない肥満体。 それが今の私だ。 体重計が100の数字を示した時は、流石にショックで寝付けなかった。 制服も何度新調したか分からない。 周りの人間から、幾度太り過ぎを指摘された事か。 他人の容姿に対してとやかく言うのはナンセンスだが、こうも太ってるとからかわれても仕方がないのかもしれない。 …つい先日、授業中に腹を鳴らした生徒がいて、皆真っ先に私を見た時は戸惑った。 私ではないが、今の私は"そういう印象"なのだろう。 ……今の体重は123kg。 自他共に認める学園一の…デブ。 情け無く、恥ずかしい。 以前の私なら、こうなる前に食生活を改善し、再び完璧な桐条美鶴を"演じた"事だろう。 …だが、私は気付いてしまった。 周りの目が軽蔑の眼差しに変わる中、クールで掴み所のない彼の……私を見る目が変わった。 彼のその目の意味に、私は気付いた。 成る程。"こういう理由"だったのか、と。 彼が異性に…私に強く関心を示さなかった理由。 想像もつかない理由で驚いた。 彼は太った異性が好きなのだ。 世の中にはそういった嗜好を持つ者がいて、彼もその一人だったという訳だ。 正直理解しがたい。 …しかし、私に対する目が明らかに変わったのは事実。 ひとつ屋根の下。 ゆかりや風花のような異性に惹かれる様子がなかったのはこの為か。 私が好意を寄せる彼が、私に好意を抱くように…。 "太った私"の前では、彼のポーカーフェイスも崩れてくれる。 照れくさいが、その事が何より嬉しい。 重圧に弱っていた心が、食と彼で満ちていく。 周りの視線…?構うものか。 し、死ぬ程恥ずかしかったが、彼に好きだと伝えると、彼は私の気持ちに応えてくれた。 彼は太った私を愛してくれる。 満たしてくれる。 私のだらしない身体に、指を這わせる彼。 その時の気持ちの昂りと言ったら。 彼は私に興奮してくれている。 私も、彼に…。 「…た、大切にしてくれよ…」 顔が赤くなっているのが分かる。 恥ずかしい言葉だが、本心だ。 私は彼の気持ちに応える。 彼は責任を持ってくれる。 彼の為なら…もっと………。 *** あれから更に私は太った。 体重は常に右肩上がりで、つい先日150kgを超えた。 僅かに動けば汗が噴き出す肥満体。 ペルソナという分身がいるから戦闘には大きな支障はないが、日常生活には支障をきたしている。 得意のフェンシングも、この肥えた身体では…。 今の私は100mだって走れやしない。 自重が、弾む肉が、堕落した生活が、体力を奪っていく。 …太り過ぎ、デブなんて言葉は聞き飽きてしまったな…。 中には私を豚と揶揄する者もいたようだが……。 豚。 良い響きじゃないか。 今の私にぴったりだ。 私の自室。 彼と2人きり。 私は目の前に並べられた大量のジャンクフードを、品が無く食べていく。 肉汁が口の中で広がる。 脂っこく、濃厚な味。 この味に、私はすっかり魅了された。 飽きもせず、毎日ハンバーガーをーージャンクフードを食べ続けた。 手掴みで、口周りを…衣服も汚し、彼の視線を浴びながら食べる。 ばくばく、ばくばくと、浅ましく。 幼い頃からマナーを叩き込まれた私が、このような礼を欠いた行動を…。 それが何故か、興奮のスパイスに。 "桐条"という名が持つ重圧に耐え続けた半生。 桐条美鶴という名に、束縛すら感じていた。 取り払えば、こうも楽なものか。 大切な名を完全には捨てはしない。 だが、こうして時折荷を下ろす事を許して欲しい。 愛する彼の前で、彼と私自身が望むまま、好きな物を好きなだけ食べる。 …嗚呼、お父様が今の私を見たら何と言うだろうか。 お父様、お許し下さい。 重圧に耐えかね、欲に駆られた浅ましい私を許して下さい。 私は、私を桐条美鶴たらしめる品位を捨て、まるで家畜の様にジャンクフードを食べ続けた。 だらしなく弛んだ腹がミチミチと張っていく。 ハンバーガー、ポテト、チキン。 山の様に平らげ、コーラで流し込む。 苦しいが、気持ち良い。 美味しい。 私を見る彼の熱い視線が…嬉しい。 食べる勢いを増し、遂には… 「ぐえええぇっぷ…‼︎‼︎」 盛大におくびをした。 下品なんてもんじゃない。 だが、彼はそんな私をも愛してくれる。 寧ろ、堪らないと言うのだから分からないものだ。 彼と私自身が望むまま、もう少し…このまま…。 *** 《結城理 視点》 学校が終われば、ワイルドダックに足を運びハンバーガーを買いに行く。 もう手慣れた、いつもの事だ。 「ハンバーガーを40個」 今でこそ店員も慣れたようだが、最初の頃の店員の目を丸くした顔と言ったら。 まさか1人で食べないだろう? 細身の俺のどこにそんなハンバーガーが入るのか? そんな疑問が伝わってきた。 …1人じゃ食べないさ。 寧ろ、俺は1口も口にしない。 全て彼女の為の物だ。 太り過ぎて自室から出る事も億劫だという、堕落した彼女の為に…。 ハンバーガーを40個受け取り、寮へ戻る。 寮へと入り、階段を登るところでゆかりとすれ違った。 俺が持つハンバーガーの量と、そのむせ返る様な臭いに、「あんた達、おかしいわよ」と一言。 理解されないだろうな。 理解して欲しいと思うのは間違っているのだろう。 いや、寧ろ理解されなくて良い…。 扉を広く改装した一室の前に立ち、ノックをして中へ入る。 部屋は酷く散らかっており、僅かばかり異臭もした。 元の綺麗な状態を思い返すと、余りの変わりように驚かされる。 その部屋の主も、余りの変わりよう。 「理(おさむ)」 媚びた太い声で俺の名前を呼ぶのは、酷く太った赤髪の女。 変わり果てた美鶴だ。 下着姿で、巨大なお腹を露出している。 贅肉をたっぷりと蓄えた身体を、惜しげもなく晒す。 汚部屋のベッドに鎮座する巨大な肉の塊。 体重は300kgを超える。 見る者が見ればショッキングな光景だが、俺には堪らない。 ハンバーガーをすぐには与えず、焦らすと肉を揺らして媚びてくる。 空腹だ、早く食べさせてくれ…なんて、あの美鶴が言うんだ。 桐条美鶴という束縛から放たれた彼女は、こうもだらしなく……可愛らしいのか。 堪らない…。 俺と美鶴は、こんなにも満たされている。 互いに重圧に耐える日々で、逃げ場を…幸せを見つけたのだから。 他人の価値観を押し付けて欲しくはないな。 俺は美鶴を太らせ続けるだろう。 美鶴は太り続けるだろう。 側から見れば異常な事だ。 だけど構わない。 こんなに幸せなのだから。 このまま…ずっと一緒に…。 (了)

Comments

Fallboy

ありがとうございます…本当にありがとうございます…それしか言えないほどとても良い作品でした!美鶴の太っていくにつれて変化する心情がひしひしと伝わってきました!リクエストを受けていただいて本当にありがとうございました!

Anonymous

共依存関係にあるって感じで非常にエッチですね… 葛藤はあったものの、好きな人のみる目が違うからと太る内に取り返しのつかないほどに激太りしてしまい心も体も依存せざるを得なくなるという闇深さも背徳感もあって良いですね… 重責から逃れるためにとお互いを求めあう感じが好きで それに従って激太りしていくのも関係と体重が比例していくようで本当に好きです 心理描写もあって 純粋な恋心であったと感じられる部分が甘くてピュアな恋愛かと思えば 太る程にまわりへの言い訳や今の幸せにすがる様子を見えはじめて依存の強さを感じられるようになるのが、めちゃくちゃに好きです!

肉月

ありがとうございます!喜んでいただけて嬉しいです!

肉月

ありがとうございます!精神的に脆い部分があるのが魅力なキャラなので、そこに付け込んでブクブクに仕上げました!