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「蓮太郎、姉さんを見なかったか?」  玄川家の居間で寛いでいると、戻ってきた歌夜がそう尋ねてきた。 「沙夜姉? 見てないけど」  蓮太郎が首を横にふると、歌夜は「そうか」と言って続ける。 「これから蓮太郎の修行を見てやるから、姉さんも呼んでやろうと思ったんだが」 「沙夜姉の部屋にはいなかったの?」 「あぁ、外にも出てないみたいだが。……もう少し探してみるかな」  言って、踵を返そうとするが、蓮太郎は気になることがあり歌夜に尋ねた。 「優吾くんは?」 「ふむ? そういえば、優吾のやつも見かけないな」  不服ではあるが、優吾もこの家で玄川姉妹と共に暮すことになったならば、今もこの家のどこかにいるはずだ。 「奴なら、たぶん自分の部屋にいると思うが……。部屋を一つ開けて居候中のアイツの部屋にしてやったんだ。うむ、もしかすると姉さんもそこにいるかもしれないな」 「えっ」  確かに用あって沙夜が優吾の部屋に行っているというのは考えられることだが、そう考えるとどうにも胸騒ぎがしてしまう。  また、悪い悪戯でもされていたらどうしようと、いらぬ心配が芽生える。 「一応奴の部屋も見に行ってみるか」 「ちょ、ちょっと待って!」  さっそくそちらへ赴こうとする歌夜を、蓮太郎は呼び止めた。 「えと……僕が呼びに行くよ。僕の修行を見てもらうって話なんだからさ」 「む、そうか? なら頼もうか」  何も沙夜が優吾の部屋に行っていたとしても普通ならばどうということは無いのだが、あの少年には何か嫌な物を感じて仕方がない。  人間として好きだとか嫌いだとか言えるほどまだ関わりがあるわけでは無いが、沙夜のことを狙うようなあの目つきが、どうも気になるのだ。  蓮太郎は歌夜を居間に残し、一人で優吾の自室に向った。  屋敷と言えるほど広い玄川家宅だが、優吾の部屋は一階の長い廊下の途中にある和室だった。  軽く息を整えてから、蓮太郎は襖越しに声をかけた。 「優吾くん、ちょっといい?」  声を掛けて数秒。部屋の中から微かに男女の声が聞こえた。どうやらやはり沙夜が来ていたようだ。 「沙夜姉? 居るの?」  返事はない。代わりに向こうで何か話している様子だが、しばらくして障子が開かれた。 「どうしたの、蓮くん」  出てきたのは優吾ではなく、沙夜が顔だけを出して蓮太郎に尋ねた。  その表情はいつもと変わらないように見えたが、少し汗を掻いているようにも見えた。 「これから修行始めるから、沙夜姉もどうかなって探してたんだけど……えぇっと……」  襖の隙間から部屋の中を覗いてみるが、イマイチよく見えない。 「優吾くんも居るの?」 「え? あ、えぇ、居るわよ。どうかした?」 「いや、何してたのかなって……」 「……少しお話してただけよ。まだウチに来たばかりで色々と慣れてないでしょうからね」  どこか言いづらそうにする沙夜に、蓮太郎は何か違和感を感じ取った。  話していただけと言うが、本当だろうか。僅かに息が乱れて、頬も高潮し、何か運動でもしていたような雰囲気を感じるが。  いつもきっちりと正しく着ている巫女少女にも乱れが見られ、胸元の深い谷間が見え隠れして目に毒だ。 「私を呼びに来てくれたのよね? ありがとう、もう少ししたら行くから」  言って、沙夜は手を振る。  蓮太郎としては、出来ればこのまま一緒に来て欲しいのだが。  そう思っていると、不意に沙夜がびくっと身体を震わせた。 「んっ……!? ちょっ……と」 「沙夜姉? どうしたの?」  不思議に思い問いかけると、沙夜は焦ったように顔を横に振った。 「ううん、何でも無いのよ。……っく!? あっ、その……ちょっと、優吾くんが悪戯してきて」 「えっ!?」 「だ、大丈夫よ? ちょっと……くすぐってきてるだけ、だから……っ」  沙夜は大丈夫だと言うが、顔を俯かせ、声を抑えているようだった。 「またアイツ……沙夜姉に変なことして……ッ! 僕、注意するよ!」 「待って! ホントに……大したことないから……っ、くっ……ふっ……♥ 遊んでる、だけ、なの……」  沙夜にそう言われると、強く言えなくなってしまう。  子供の悪戯に怒ったりしないのは優しい沙夜らしいが、相手はあの優吾だ。少しは叱ってやったほうがいいのではとも思う。 「ゆ、優吾くん……? 今、蓮くんとお話してるから……大人しく……ンッぐうぅぅ♥ し、してぇ……♥」  優吾に悪戯され、沙夜は悩ましい声を上げる。  くすぐられて悶えているだけだとは思うが、どうにも色っぽくなってしまうのは彼女だからこそなのだろうか。 「ね、ねえ優吾くん! 沙夜姉嫌がってるからやめなよ!」 「はあぁ~? ちょっと触ってるだけだろ? 沙夜も平気だって言ってんだから黙れよ」  蓮太郎が注意すると、部屋の中から生意気な少年の声が返ってきた。  優吾は悪びれた様子も見せず、沙夜の後ろでごそごそと何か動いている。 「ごめんね蓮くん……? すぐ、行くから……待ってて」 「えぇ~、もっと俺と遊んでくれよー。そいつなんか放っといてさぁ」  沙夜を困らせておいて、優吾はますます調子に乗っているようだった。  流石に腹が立ってくるが、沙夜が大丈夫と言っている以上、自分が怒るわけにもいかない。  そう葛藤する傍ら、優吾の悪戯はエスカレートしていく。 「ひ、ぅ……ダメ、優吾くん……そこっ、触っちゃ……はあぁ♥」  衣擦れの音と共に、沙夜が艶っぽい声を発する。  どうやら服の中に手を突っ込まれているようで、ビクっと震えて、その度に甘い吐息が漏れ出てしまっている。  それはもうセクハラに近いんじゃないかと思うが、その淫靡な姿に、蓮太郎は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。 「へへっ、沙夜も喜んでるみたいだぞ? もっと続けて欲しいってさ」 「やっ……そんなこと、言ってな……アハンッ♥ やだ……ひろげ、ないで……♥」 「沙夜姉……」  一体何をされているのか、蓮太郎の位置からは見えないが、沙夜の声を聞いて、胸の奥がムカムカしてくる。  これは怒りなのか、それとも嫉妬なのか。自分の感情も分からず、蓮太郎は拳を握り締めた。 「オラッ、食らえ!」 「ん゛ん゛んんんんんっっ!?」  優吾が力を込めて声を出した直後、沙夜が一際大きく反応して目を見開いた。 「なっ!?」  なにがあったのか分からず、蓮太郎もビクッと驚きの声を上げてしまった。 「な、何したんだ!」 「ひひっ、何って……沙夜がでっけぇケツ見せびらかすからさぁ、カンチョーしてやったぜ」 「カ、カンチョー……?」  もちろんその言葉の意味は知っているが、そんな子供じみた悪戯を沙夜に行うなど、蓮太郎には発想すら浮かばず、ただ呆然としてしまった。 「ゆ、ゆうごぐんん……おっ、おじりぃ……ぬい、でぇ…………っ」  沙夜は目の焦点をブレされたまま、背後に必死で語りかける。  だが、優吾はそれを無視して、更にやりたい放題するのだった。 「沙夜がそいつより俺と遊ぶって約束してくれるまでやめないよーん。うりうりぃ、早く言え!」 「あ゛あああっ!? ぐ、ぐりぐりしないでええぇぇ……!」 「やめっ、やめろ!」  蓮太郎が怒声を上げる。  沙夜は強烈な刺激に目を白黒させ、襖を掴んだままガクガクと震えていた。 「どうなんだよ沙夜っ、俺のほうに来るか?」 「わ、分かったから……っ! ゆうごくんと遊ぶからぁ! ひっぐううぅぅううっ……!」  悲鳴のような声で叫ぶと同時に、優吾は肛門から指を引き抜いた。  ようやく解放されて、沙夜は荒く呼吸をしながら、その場にぺたりと座り込んでしまった。  その顔は真っ赤に染まっており、涙を浮かべて、はぁはぁと肩で息をしている。 「流石にやりすぎだよ、優吾くん!」 「まぁ、そういうことだから、お前はさっさと向こう行けよ」  得意げに言う優吾に、蓮太郎は唇を噛む。 「ごめんね……蓮くん……。私、もう少し優吾くんの相手してから……行くね?」  沙夜は肩で息をしながら、申し訳なさそうに呟いた。  そのまま、恐らく優吾がしたのだろうが、ピシャリと襖が閉められる。 「沙夜……姉……」  蓮太郎はその場に立ち尽くし、どうすることも出来ず、沙夜の名を呼ぶことしか出来なかった。    襖の向こうからは、沙夜と優吾の声が微かに聞こえる。 「おい……もっと…………しろよ……」 「ぃゃ……もう、許……おねが……ンヒッ……」  その声を聞いていると、不思議と下半身に熱が集まってくる。  沙夜は今どんな格好をしているのだろうかとか、あの大きな尻に、今も優吾は何かしているのだろうかなどと、いけない妄想ばかりが頭に浮かんでくる。  結局その後、沙夜が来ることはなく、蓮太郎は悶々としたまま修行の時間を過ごすことになった。

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