倍々世界3 (Pixiv Fanbox)
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8月4日
育人はスマホのアラームで目を覚ました。下の誠二を起こさないように素早くアラームを止め、ふわ、と軽く欠伸をする。
(ん~……疲れとかはねえけど……さすがにちょっとねみいな……)
スマホに表示されている時間は昨日まで起きていた時間よりもさらに30分早い。カーテンの隙間から見える外もまだまだ暗い時間だ。どうして育人がそんなに早起きをしたかといえばもちろん昨日のことである。
(もう絶対遅刻なんかしねえ……)
ただでさえ1年ベンチ入りで反感を買っている育人なので、昨日のような失態はなじる絶好の的なのだ。なので育人はもう絶対隙を見せないと強く決めていた。そのためにまず既にパンツのゴムを超えて勃ちあがっているチンコを鎮めてやらないといけない。
(てかなんかチンコでっかくなってないか?)
育人のチンコは確かに自他ともに認めるサイズだが、勃起してもなんとかボクサーパンツには収まるサイズだった。だが今はそこから先端どころか亀頭がはみ出すようなデカさになっている。
(チンコより背の方でっかくなってほしいんだけどなあ……)
そう心の中でぼやきながら毎朝恒例の抜きのため裏林に向かうが、裏口で履き替えたのは普段履きの靴ではなく、昨日使っていたトレーニングシューズ。
(やっぱり昨日よりきついな……)
このトレシューは部室にあったものを拝借しているのだが、昨日はサイズに若干の余裕があったのだ。それが今日にはもう裸足なのに踵に余裕がないほどにフィットしている。このうえソックスを履いたらきつすぎて痛くなるのは想像に難くない。
「また部室でトレシュー探すか……」
こういうことを考えて念のために早起きをしたのだが、育人もまさか本当にこうなるとは思っていなかった。裏林で手早くオナニーを済ませ(ちなみに昨日よりも大量に出た)部屋に戻り共用の洗面所で顔を洗うと誠二がまだぐーすか寝息を立てているなか練習着に着替える。どうせなら今後のことも考えて、部室でいくつかトレシューやスパイクを探しておきたい。寝巻用のTシャツとハーパンをパパっと脱ぎ、コンプレッションのアンダーシャツを頭からかぶったときに違和感に気づいた。
(なんか……これも小さくないか……?)
育人のアンダーの胸部分が、いつもより張っている。そして胸だけでなく、背中も腕も、締め付けがこころなしか強い。そして何より、長袖のアンダーの裾から出ている部分が、確実に短いのだ。いくら服とはいえ、もう何度も何度も洗っているアンダーシャツが急に縮むわけがない。不思議に思いながらも下も着替えていく育人はそちらでも眉を顰めることになる。足がでかくなっているならソックスが合わなくなるのはわかる。が、ストッキングの位置がひざと比べて低くなっているし、最後に履いたユニフォームパンツも、わかりにくいが裾が短くなっている気がする。
「俺……もしかして背伸びてんじゃね……?」
そう思った育人がにやけてしまうのは仕方のないことだった。身長150cm。誰よりも身長を欲しておきながら得られなかったものが今手に入ろうとしているのだ。高揚が抑えられず、育人はさわさわと腕や脚をさすって身体の感触を確かめる。
「ん~……何してんだ……?」
「あっ、誠二……」
そうしているうちに気の抜けた声を出しながら目を覚ましたのが誠二だ。ベッドの上で起き上がり、スマホを見て「まだ早いじゃん……」とぼやいている。
「なあ、俺、背伸びてるかも!」
「はあ……?」
興奮する育人に対して、起きたての誠二はどこまでもローテンションだ。のっそりとベッドから頭をぶつけないように立ち上がると、ずっと上から育人を見下ろす。
「……いや変わってねえわ」
「違うって! だって」
「てかたとえ数センチ伸びても、俺からしたら対して違わないし……」
「はっ、お前……!」
「顔洗ってくる……」
誠二はいつかのように育人の頭をぽんと叩いて顔を洗いに出ていった。置いて行かれた育人は「こんの……いつか絶対見下してやっからな……」と震えながら、靴のことを思い出して部室に向けてかけていった。
***
練習後、やはり背が伸びているのではと思った育人は、友人の部員に頼んで背を測ってもらうことにした。誠二には頼んでいない。「ま~俺からすれば変わんねーけどな!」って言われるのが目に見えているので。
「でも確かに、なんか育人の位置高いな?とは思った」
「だろ!? やっぱそうだよな!?」
育人と並んで歩くのは同じ1年の康生だ。ポジションはショート。身長は173cmで野球部全体では高くも低くもないが、人当たりがよく、今は二軍だが先輩からも有望視されている期待の男だ。疎まれがちな育人の間を取り持つこともよくあり、康生がいなかったら少なくとも一年部員の関係はもっとギスギスしたものになっていただろう。育人が身長計のある部屋のドアをガラっと開け、そのまま部屋の隅にある身長計に乗ってぴしっと背筋を伸ばした。
「康生! 早く!」
「そんなに急がなくても身長は変わらないって」
康生は身長計に近づくと、上の方からバーを育人の坊主頭にすーっとおろしていく。170、160と目盛りを下りて行って、育人の頭にバーが当たると屈んで目盛りを読んだ。
「んー……ひゃくごじゅう……ろく」
「156!?」
「動くな。……うん、156.5だな」
「マジで!?」
育人が屈んで身長計から降り、自分でも目盛りを確認する。その数値が間違いでないのを見て、育人は飛び上がって歓喜した。
「いやったーー!! 6.5センチも伸びてる!!!!」
「うわ~4月の時150センチだったっけ? すげーな」
康生も隣に比べればテンションは低めだが、十分驚いていた。たった4か月で6センチというのは成長期としても驚異的な伸びだ。喜びが一段落ついた育人はキラキラした目で康生を見上げる。
「これで誠二のやつに勝てるな!!」
「いや~それは……あ、そうだな……」
4か月で6センチ伸びるなら、1年で18センチ。3年で54センチ伸びれば204cmになるのでその考えは間違っていない。ただこの驚異的な身長の伸びがいつまでも続くことはないだろう。だが康生はそれを指摘するようなことはしない。希望はある。そしてわざわざ育人の機嫌を悪くすることもない。それよりこのハイテンションな育人を早くどうにかしたい気持ちの方が大きかった。
「じゃーあとは飯食って寝ないとな」
「そうだ! 食事と睡眠は大事だしな! 康生サンキュ!」
よーしもっとでかくなるぞー! と鼻息荒く部屋を出ていく育人とそれに続く康生。この夜育人は周りが引くほど夕食を掻っ込んだ。外は雨が降り出していた。
8月5日
ミシッ……ギシッ……ググッ……
(ん……)
育人が目を覚ました時、聞こえていたのは激しい雨音だった。勢いよく窓をたたく雨粒の群れ。壁をたたくように吹き付ける風の音。それを聞いて育人は台風が来ていたのを思い出した。元々予報で来るとはわかっていた大型台風。予報通りに昨日の夜から雨が降り出し、あっという間に大雨になった。
(外練はできないだろうし、筋トレかな……)
薄暗い中スマホを手に取って天気予報を見る。一日中雨と風だ。ちなみにチンコはもう日常となったかのようにギンギンに勃起している。この雨風なのでさすがに裏林で抜くわけにはいかないが、雨の日は雨の日でいい場所がある。育人はむくりと起き上がる。その時点で育人は服に引っ掛かりを感じたが、股間は待ってくれそうにないのでそそくさと梯子を下りて部屋を出る。
「なんか……?」
薄暗い廊下を歩きながら、何か違和感を感じて服の上から身体をまさぐるも原因がわからない。裏口を通り過ぎると、もう一つ出入り口がありそこは今は使用禁止となった焼却炉へつながる渡り廊下がある。渡り廊下なので屋根があり、近くに雨水の排水路があるためそこでシコれば雨の日は水と一緒に精液が流れて楽なのだが――
「……さすがに無理だな」
窓の外から覗いた渡り廊下は屋根があるにもかかわらず斜めに吹き付けてくる暴風雨によってぐっしょりだった。こんな中でオナったら体中雨でびしょびしょになるのが目に見えている。となるともう抜くならトイレしかない。暴発寸前の息子を抑えながら人気のないトイレに駆け込む。個室に入ろうとしたところで、少し考えて一番奥の掃除用具が入っている場所へ向かう。中にはモップ用の流しがあり、その中にはバケツが置いてある。育人はパンツとズボンを素早く下ろし、たくし上げたシャツをいつものように口で咥えてもう爆発しそうにびくびくしているチンコをつかむ。身を乗り出し、半分以上が掴み切れていないそのチンコの向かう先にひっくり返したバケツを構えた。
(……これで……!)
日に日に強くなっていく精力と増えていく精液。数日前トイレットペーパーでもあわやという惨事になりかけたため裏林を使っていたのだがそれもできないとなればこうするしかない。もう限界近い育人は勢いよくチンコをしごき、逆さに持ったバケツを合わせ、射精した精液が飛び散らないよう、また垂れた精液が流しに落ちるように位置を調節する。そしてその瞬間はすぐに来た。
「っ……くっ……!!」
逆さになったバケツの底に、勢いよく精液がぶち当たる。その勢いたるや野球部の握力を持つ育人がバケツを取り落としそうになるほどで、底を精液が打った瞬間バシャン、という音がトイレ内に大きく響いた。その後も勢いが衰えないまま精液は発射され続け、バケツの側面を伝いながらモップ用の流しに粘り気のある白い液がぼたぼたと落ちていく。大体たっぷり30秒。ようやく勢いが収まって、育人は踵を上げて流し内に直接残りの精液を絞りだしていく。
(てか、出すぎだろ……)
流しの底を覆うような精液。まだ持ったままのバケツからもまだぼたぼたと白いしずくが垂れ落ちている。何とかチンコを落ち着かせて、育人は丸出しのまま流しの蛇口をひねった。精液は量も粘りもかなりのものだったが、元々掃除用の流しで配管も太く、詰まることはないだろう。最後にバケツも洗ってしまえば証拠隠滅は完了である。ただやはり面倒なので外の方が楽だなと思いながら育人はトイレを出た。強い雨音の中部屋に戻ろうと歩いていると、廊下の先で話し声が聞こえてくる。
「……いないのか」
「………どう………」
「休み…………」
曲がり角から顔を出すと、部員が三人ほど洗面用具を持ちながら話しているところだった。
「おーい、何してんだ?」
「あっ、育人」
「いや、今日さ……ってお前……」
近づいてくる育人を見る部員の目が見開き、言葉が止まる。それを不思議に思いながらも近寄る育人も、その違和感にようやく気付いた。
「……なんか、お前、でかくね?」
***
結局今日の練習は中止となった。理由はコーチも監督もいないから。野球部の寮には最低一人大人がいることになっているのだが、どうも昨日の夜、急に体調が悪くなった部員をふもとの病院に送って行ったとのことだ。通いの職員も多いがこの台風なので、明日の休養日を今日にずらして対応する、と先ほど電話があったらしい。
「ひゃくろくじゅう……さん?」
「えっ、マジ!? やった!!」
昨日と同じように身長計から飛び降りた育人が高揚した声を上げる。が、周りの1年部員は複雑な顔だ。ちなみに誠二は休みになったのを聞いて二度寝している。
「いや……育人そんなでかくなかったじゃん」
「急に成長しすぎじゃね?」
「は~? お前ら嫉妬かよ~」
育人は喜びに踊りだす勢いだが、部員たちは自分の記憶の育人と目の前の育人の背丈が違いすぎて混乱している。記憶では昨日までそうじゃなかったはずなのに、実際今の育人は身長163センチなのだ。
「だーかーら、ついに俺にもきたんだって! 成長期が」
「でも昨日康生に測ってもらったときは156だったんだろ?」
「じゃあそっちが間違いだったんじゃね? いいじゃん伸びてんだから」
気楽な育人に、互いに顔を見合わせる部員たち。まあ育人がもとから小さかったのもあって、部員たちも大きな騒ぎにしようとも思わなかった。事実食堂等で育人と顔を合わせても皆少しばかり首はかしげるものの、それだけだったのだ。誠二なんか気づきもしなかった。台風が直撃しているのもあって皆食事やふろ以外では部屋にこもり、顔を合わせる機会が少なかったのも大きい。そうやってあっという間に一日が終わり、育人は少しきつくなったSサイズの寝巻を着てベッドに寝た。台風のせいもあり、大人たちは、ついに帰ってこなかった。