Skeb進捗報告 (Pixiv Fanbox)
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Skebで依頼いただいてるものの進捗です。まだ冒頭の全年齢パート。
依頼物は実際どこまで進んでるか気になると思うので、非公開依頼以外は折に触れて進捗報告します。
海では何とも思わなかったのに、着る場所が部屋に変わるだけで、見られる相手が同性の友だちから好きな異性に変わるだけで、こんなにもドキドキしてしまうものなのか。マナリア国の王女アンは彼の前に出る勇気が持てず、物陰で何度も深呼吸しながら己を奮い立たせる。
分かっている。きっと彼は私を見たら可愛いよと言ってくれる、たくさん褒めてくれる。きっと私は幸せな気持ちになる。だが分かっていても恥ずかしいものは恥ずかしい。
アンは胸元に視線を落とし、自分の格好を見る。彼女はマナリア学院の制服でも部屋着でもなく、水着を着ていた。真っ白いビキニは、陽光の下で眩く光ることを計算して作られている。年齢にしては発育がいい乳房は大胆に谷間が露出し、下半身は面積の小さい布から鼠蹊部が覗く。自分のスタイルと容姿に自信がなければ、選ぶのを躊躇う大胆なデザイン。
アンは先日の臨海学校でもこの水着を着た。その時はなんとも思わなかった。海で水着に着替えるのは当然であり、周りにいる生徒も全員水着なのだから。だが部屋で着るのは意味が違う。
ここには他に水着姿の人間など誰もいない。水辺で活動するための機能性を求めて着替えたわけでもない。アンは特定の人物ひとりのために、彼に見せるためだけに着替えたのだ。
アンは物陰から顔だけ出してソファに座る人影を見た。応接セットのソファに慣れた様子で腰掛け、優雅に紅茶を飲む銀髪の少年は、近隣の国からマナリア学院に留学しているライという少年だ。
気配を感じてかライが手元からこちらに視線を転じる。一瞬目が合ったアンは慌てて隠れた。無理! やっぱり無理! 少年の目を意識してアンの頬が熱くなる。
「アン?」
いつまでも出てこないアンを不思議に思ったかライが問いかけてくる。
名前を呼ばれただけなのに腰から力が抜けてへたり込みそうになった。顔だけじゃなくて声までいいなんて反則だよ。
「本当に見せなきゃダメ?」
「どうしても嫌なら仕方ないけど、僕はアンの水着姿が見たいな。臨海学校では別行動だったから、ほとんど見られなかったし。楽しみにしてたのにな」
「あの日はグレアと秘密の特訓があったから」
魔法では天才児と名を馳せるアンだが、水泳が苦手という秘密を抱えていた。臨海学校は親友のグレアと二人きりで、他の生徒から離れて秘密特訓に費やした。
「知ってるよ。楽しそうに話してくれたからね。嫉妬しちゃうくらいに」
「ライも嫉妬するの」
いつも冷静で年齢より大人びて見える彼には無縁の感情に思えた。
「僕だって嫉妬くらいするよ。大好きな彼女を同性の親友とはいえ独り占めされたんだからね」
大好きな彼女、何気なく放った言葉がアンのハートを打ち抜く。事実アンとライは恋人同士なのだが、改めて自分たちの関係を口にされるとときめく。
「だから埋め合わせしてよ」
その声はすぐ近くから聞こえた。振り向くとライの顔がすぐ近くにある。動揺して警戒が疎かになったアンは、易々と彼の接近を許していた。
「想像していた以上に可愛いよ」
「はうっ」
至近距離で浴びせられた褒め言葉にアンの心臓は飛び跳ねた。期待して、予想して、それでもこの破壊力。
「幻の美形、恐るべし」
「勘弁してよ」
アンが呟くとライは片手で顔を覆った。
幻の美形とはライの渾名である。主に学院の女子生徒が用いる通称で、本人の整った容姿と目立つことを避ける行動からつけられた。本人は恥ずかしいから呼ばないで欲しいと否定的で、ますます人目を避けて行動するからレア度が増す。
「いっそのこと受け入れて生徒会活動でもしてみたら」
逃げるから追うは動物の本能だ。敢えて我こそは幻の美形ですと前に出て行ったらどうだろう。
「却下」
「え~、どうして」
「僕はマナリアの優れた魔法技術を学ぶために留学してるんだ。目的外のことで時間を取られたくない。それに」
「それに?」
すっとライはアンの耳元に顔を寄せる。
「他の人につかまる時間が増えたら、アンと二人で過ごす時間が減ってしまうじゃないか」
近づいてきた時と同じ速さでライはアンから離れる。
「顔真っ赤だよ」
「も~~~~」
甘い言葉への照れ隠しにアンはライの肘あたりを小突いた。彼は避けずされるがままになっている。アンも本気で叩いてるのではない。誰かが見ていたら馬鹿ップルのいちゃつきに溜め息のひとつでもこぼしただろう。
ライが手を差し出してくる。彼も故国では王族だ。淑女のエスコートも慣れたもの。緊張がほぐれたアンは、彼の手に自分の手を重ねて委ねる。
「どうかな?」
改めてライに水着の感想を求めた。彼の目が頭の先から爪先まで一筆書きになぞる。彼には下着姿や、なにも着けてない姿も見せてきた。露出度で言えば下着と変わらないのだから、過度に恥ずかしがるほうが変なのだ。堂々としていればいい。
頭では理解していても、やはり下着よりも非日常感ある水着をまじまじ見られるのは、居心地が悪い。
「エッチなんだから」
アンは胸元を両手で隠しながら抗議した。たわわに実った双丘にライの目が釘付けとなり、じっと一点を見つめてきたのだ。
「美しいものに人間の目が吸い寄せられるのは自然なことだよ。雄大な景色や芸術作品から目が離せなくなった経験はない?」
「おしまい! 恥ずかしいセリフはおしまい!」
ダメだ口じゃ敵わない。ま、まあ私も見られて嫌な気はしないし、褒められたら嬉しいけど……もっと見て欲しいな~なんて思ったりもするけど……。
目を合わせられないアンは俯いて床に視線を落とす。そこで彼女は見てしまった。彼の股間がズボン越しにも分かるくらい膨らんできたことに。
「アンはエッチだなぁ」
今度はアンの視線をライが感じ取る。
「ち、違うわ。たまたまよ、たまたま。目に入っただけ。それにエッチ度で言うなら、そこをそんな風にしてるライのほうがエッチよね」
ライの手がアンの頬を撫でる。恋人に愛を伝える優しい手つき。なんてことはない接触でもアンの背筋に稲妻が走った。
「可愛い彼女の部屋で二人っきり、しかも大胆な水着姿まで見せられたら抑えは利かないよ」
「あなたが見せろって言うから」
アンは反論させてもらえない。彼の顔が近づいてきて二人の唇が重なる。彼女も自分から顔を傾けて受け入れる。お喋りの時間は終わり。もっと直接的に愛を伝え合う時間が始まる。
彼の手が耳に触れる。首筋をなぞり、触れるか触れないかのフェザータッチで肩、背中と撫でられる。
おっぱいに興味津々なくせに痩せ我慢しちゃって、とアンはライの自制的な愛撫にはにかむ。初めてした時から彼はそうだった。幼いころより、いつか向かえる初夜のために教育を受けてきたらしく、いきなり胸や性器を無遠慮に弄ってくることはない。
初めて身体を重ねた日、お互い初めて同士だったにもかかわらず、妙にライが余裕綽綽だったのでアンは本当に経験ないのか尋ねた。
過去のことは気にしないからと言うアンに、彼は幼少期から受けてきた教育の一端を明かした。
「子供のころから耳にたこができるほど言われたよ。女性の身体は男と違ってデリケートなんです、男よりもムードを大切にするんです、初夜で幻滅されたら長い結婚生活ずっと義務感の行為を繰り返すだけで終わりますよって」