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支援者限定で発表前に先行公開しております。

発表後誰でも見れるお試しページとなります。

※タイトルは仮です

シナリオの石刻テトさん(https://twitter.com/sekkoku_teto)と一緒に制作しております。

通常の同人CG集より小説色濃いめな濃厚な感じになっております。

よろしければ興味を持っていただければ幸いです!

【あらすじ】

 主人公は大学のゼミで知り合った先輩――今澄 紗姫と親しく交友を重ねていたが、なかなか関係を進展させるきっかけが得られずにいた。

 ある日、久しぶりにゼミの飲み会に参加した主人公は、酒を口にしながら今澄先輩と話し込む。会話が盛り上がるうちに、いつの間にか飲みすぎてしまい――

 ――目覚めたのは、ビジネスホテルのベッドの上だった。

【登場人物】

・主人公

 大学生。名前は、小久井 遥人(こくい はると)。

 生活費のためにアルバイトのシフトを比較的多く入れており、なかなか飲み会などに参加する機会が持てずにいる。

 今澄 紗姫とは、通学路や電車などが被っているため、彼女と会ったり話したりする機会が多い。関係を進展させたいと思っているが、なかなか先に踏み出せずにいる。

・ヒロイン

 主人公より一つ年上の大学生。名前は、今澄 紗姫(いまずみ さき)。

 交流を重ねるにつれて主人公に好意を抱くが、恋愛関係につながるきっかけを見つけられずにいた。

 優しくて穏やかな性格だが、意外と積極的な面も。


 ――着信音が鳴り響く。

 あわててスマホの画面を確認すると、発信元はアルバイト先からだった。

 俺は怪訝に眉をひそめながら、電話に対応する。

「……もしもし。おはようございます」

『ああ、いきなりゴメンね! 小久井くんさぁ……今週末のシフト、ナシにして別の日に変えられたりする?』

「あー……。曜日によっては、できなくもないですけど」

「本当? いやぁ、ちょっとシフト調整が急に必要になってね。それで代わってほしい日なんだけど――」

 店長とのやり取りを終えて、俺はため息をつきながらスマホの通話を切った。

 急にスケジュールが変わってしまったが、週末に空いた時間をどうしようか――

 そう考えた時、真っ先に思いついたのは……大学のゼミ関係の告知だった。

 俺はスマホで、ゼミのグループのメッセージログを確認する。

 飲み会の誘いの文面には――参加表明の期限が今日までだと書かれていた。

「……せっかくだしな」

 そう呟いて――俺は挙手のメッセージを送るのだった。

   ◇

「いやぁ、遥人! お前マジで久々だよな飲み会くるの!」

 バシバシ、と背中を叩かれて、俺は口に含んだ飲み物を噴き出しそうになる。

「バイト辞めたのか、お前? いっつも断ってたくせに!」

「いや、たまたまシフトが変わっただけで……」

「だはは! まあいいや! とにかく飲め飲め!」

 人の話を聞くつもりすらないじゃねーか。

 すでに理性を感じられない、同学部の友人の暴挙に呆れながら――カシスオレンジを口にする。

 甘く軽いカクテルは、酒にあまり強くない俺にとってちょうどいい飲み物だった。

「ふふっ……」

 すぐ隣から、小さな笑い声が聞こえてきた。

 なんとなく恥ずかしさを感じながら――俺は“彼女”のほうへと目を向けた。

 穏やかで清純そうな雰囲気をまとった……いつ見ても綺麗な女性が、そこにいる。

 ――今澄 紗姫。それが彼女の名前だった。


「……先輩、何かおかしいですか?」

「ううん、その……。仲がいいな、って思ってね」

「……ま、アイツとは取ってる講義も被っていますしね。けっこう学食で一緒にメシ食ったりもしますし」

 頬を掻きながら、そう答える。

 同学年、同学部、同学科だと、やはり人付き合いの機会も増えるものだった。

「そうだよね……。やっぱり学年が同じほうが、交流しやすいもんね」

「まあサークルとかに入っている学生は、先輩後輩とつるんだりもしてるみたいですけど」

「サークルかぁ……。わたし、けっきょく入らなかったからなぁ……」

「何か理由があったんですか?」

「んー、とくにはないんだけど……。なんというか、タイミングを逃しちゃって」

 なるほど、なんとなく共感はできる。

 俺もサークル活動には興味があったのだが、当時はバイトも始めたばっかりで余裕がなく、一年生のうちに入れなかったのだ。

 そして二年目になると「今さら加入するのもなぁ……」と気が引けて、とうとう諦めてしまったというわけである。

「まあ……学年が違っても――日常でよく会うと、先輩みたいに仲も良くなったりしますけどね」

 そう言うと、今澄先輩は同意するかのように微笑を浮かべた。

 一つ上の彼女と、俺は――

 客観的に見れば、それなりに親交があると言えるだろう。

 きっかけは、ゼミの授業だった。

 自己紹介をする今澄先輩の顔を目にした時、どこか見覚えがあるなと思い――

 そして、その日の帰り道で疑問は氷解した。

 駅のプラットホームで、彼女は同じ電車を待っていたのだ。つまり通学路が同じだったというわけである。

 それからは、電車や大学までの道で顔を見合わせるたびに、先輩と他愛のない雑談をするようになった。

 授業のこと、私生活のこと、最近のニュースや、趣味や悩みなど。

 些細な会話を、小さな交流を積み重ねつづけ――彼女とはそれなりの関係を築いてきた。

 正直なところ、いま俺がいちばん仲のいい異性が今澄先輩と言えるだろう。

 酒を飲むしぐさをしながら、先輩の姿をうかがい見る。

 向こうも、俺のことを「仲の良い異性の後輩」と認識しているのは間違いなかった。

 しかし――それ以上のことはわからない。

 所詮は友達どまりなのか。

 それとも――もっと進んだ関係になっても構わない、と思っているのか。

「……そういえば、バイトのほうは大丈夫だったの?」

 流れた無言の空気を払拭するかのように、今澄先輩は新しい話題を口にする。

 少しだけ――彼女の体がこちらへと寄っていた。

 酒が入っているからだろうか。いつもより距離感が近いように思えた。

「ほら……この前は、無理そうだって言ってたし」

 おととい電車で会った時は、俺は参加できないと先輩に話していた。だから急に参加可能になったことが意外なのだろう。

「店長から、ほかの人の都合でシフトを入れ替えてくれないかって連絡されて」

「ああ……それで、予定が空いたんだ」

「はい。まあ、おかげで来週は5連勤なんですけどね」

「あ、あはは……」

 心なしか、先輩の笑みが引き攣ったように見えた。

「でも――よかった。小久井くんと飲む機会って、あんまりなかったから……嬉しいな」

 本心からそう思っているような声色に、俺は少し体温が上がったような感覚に襲われる。

 アルコールの影響もあるが――それ以上に、先輩がそばで好意的な感情を口にしてくれているのが大きかった。

「……そうですね、俺も先輩と一緒に飲めて嬉しいです」

 素直にそう返しながら、カシスオレンジを飲みきる。酔いが回ってきたおかげだろうか。彼女に率直な言葉を送ることの抵抗感は薄れていた。

「――小久井くん。そういえば……お酒って、強いほう?」

「んー……たぶん、かなり弱いほうですね。飲みすぎると――」

「飲みすぎると?」

「――記憶が飛びます」

 べつに冗談を言っているわけではない。かなり前に友人宅で飲んだ時は、気づいたら床で寝ていたという始末だった。

 アルコール自体は嫌いではないのだが、この体質のせいで俺はあまり量が飲めなかったりする。

「そうなんだ? じゃあ……お酒は勧めないほうがいい?」

「いえ……せっかくですし、まだ飲ませていただきます」

 ちょうどほかの仲間が、店員を呼んで新しい注文をしている最中だった。俺と今澄先輩も、一緒に次の酒を頼むすることにする。

「もし小久井くんが酔いつぶれたら――」

 彼女は優しげな微笑を浮かべてみせた。

「わたしが付き添ってあげるから、安心して。……ほら、電車の方向おなじでしょ? わたしたち」

「そ、それはそうですけど……」

 女性に介抱される男は、さすがに恥ずかしいのではなかろうか。

 俺は苦笑いをしながら冗談を返す。

「まあ、俺が歩けなくなってたら……駅のホームにでも捨てていってください」

「えぇー? ダメだよ。その時は――」

 一瞬、先輩は何か悩んだような素振りを見せたが、すぐに首を小さく振って言いなおした。

「とにかく……小久井くんのことは、わたしが面倒みてあげるから。安心して」

 先輩の言葉には、ただの親切心以上の感情が含まれているように感じた。

 ただの厚意ではなく、もっと特別な好意であると――個人的には思いたいところだが。

 ――そんな雑談を続けながら、しばらくしてやってきた次の酒を口にしていると、今澄先輩はなんとなしに尋ねてきた。

「……小久井くん、彼女とか作らないの?」

 ホワイトサワーを飲んだ直後だったせいで、俺はむせて激しくせき込んでしまった。

 ……口の中に含んでいた時に言われなくてよかった。あやうく酒を噴き出すところだった。

「だ、大丈夫……っ!?」

「……大丈夫、です。いや、いきなり言われて、ビックリしただけなんで……」

 たぶん俺の顔は真っ赤になっているのだろう。さすがに恥ずかしかった。

「その……まあ……恋人は欲しいとは思いますけど」

「ふぅん……?」

「ただ……時間的な余裕がなくて、なかなか機会がないというか」

 俺は言葉を選びながら答えた。

 実際、俺の場合は大学生の中でもバイトをかなりしているほうだろう。実家からの仕送りがそれほど多くないので、どうしても稼がざるをえなかった。そして単位を落とすわけにもいかないので、レポートや試験勉強に割く時間も必要となる。

 つまり――人付き合いする暇がなかった。

 そして……それこそが、先輩に対して積極的になれない理由でもあるのだろう。

 仮に恋人同士になれたとしても、彼女のために費やせる時間があるかどうか分からなかった。

 それで彼女を満足させられるのか。こんな俺でいいのか。

 そういう不安が、どうしても胸の内にわだかまっていた。

「小久井くんって……えらいよね」

 ぽつりと――本音を漏らすかのように、彼女はそう言った。

「そ……そんな偉くはないと思いますけど」

「ううん、えらいよ。わたしなんて、バイトもしてないダメ大学生だし」

 どこか自嘲的な言い方だった。

 これまで聞いた先輩の話からすると、どうも彼女の実家はけっこうなお金持ちらしい。つまりは、良いところのお嬢様だった。おそらく仕送りが十分あるので、そもそもバイトをする必要もないのだろう。

 羨ましいと言えば羨ましいが、生まれつきの格差というものは世の常である。恵まれた環境だったというだけで、彼女がダメな学生というわけではなかった。

 もちろん――バイトで生活費を補っている俺が偉いというわけでもない。もっと厳しい環境で、努力をしている偉いヤツというのは山ほどいるはずだった。

「あっ……もう飲んだんだ」

 ふいに先輩からそう言われて、はじめて俺はグラスの酒が尽きかけていることに気づいた。

 彼女との会話に集中しすぎて、いつの間にかペースが上がっていたようだ。

「もしかして……お酒に弱いって、うそ?」

「い、いや、本当ですって」

「ふふっ……もっと飲む?」

 俺は一瞬、迷ったが――

 まだ飲み会の終了までは時間があるし、もう少しくらいは酒を追加しても問題ないだろう。

 ……そう判断して、ふたたびアルコールを注文することにした。

「小久井くんのバイト先って……大学生はどれくらいいるの?」

 先輩と一緒に酒を飲みながら語り合う。

 それは電車で話す時より、ずっと親密で楽しい会話だった。

「そうだ……駅前にできた新しいお店……」

 彼女と、もっと多くの時間を過ごしたい。

 言葉を交わすうちに、そんな想いは強くなっていった。

「うん……! こんど一緒に…………ねっ!」

 さっき話した内容は、なんだったろうか。

 まずいな。もしかして、飲みすぎたのだろうか?

「大丈夫…………わたしが…………てあげるから」


 ――――。

「小久井くん……?」

 まどろむような意識の中で、自分が何かを口走っている。

 先輩は笑みを浮かべて、どこか嬉しそうにしていた。

 はっきりとしない世界で、それでも彼女の顔を見て。

 ……はっきりと思うことがあった。

 ああ、やっぱり――

 俺は今澄先輩のことが、す――

   ◇

 不快な頭痛を抱きながら、俺はベッドの上で意識を取り戻した。

 ……寝ていたのか?

 いつ自宅に戻って、いつベッドに転がったのだろうか。

 まずい、何も覚えていない。……完全に失敗した。

 ぼやけた視界の中で、俺はいちど目をこすって呼吸を整える。

 たしか、飲み会のあとに――

 そう、酔いつぶれた俺は二次会のカラオケには行かず、そのまま帰宅することにしたはずだ。

 そして、ええと……今澄先輩も俺と一緒に帰ることを選んで……。

 ……駅前で……いちど休める場所として……ホテルを……。

 ――家じゃない。ホテルじゃねぇか!

 ふたたび目を開けて、ようやく俺は気づいた。

 さほど広くもなく、簡素な内装のそこは、駅前にあるビジネスホテルの一室なのだろう。

 ……知らない間にホテルで部屋を取って寝ているとは。酒の恐ろしさを身に染みて感じてしまった。

 まあ、路肩に転がって寝ていなかっただけマシか――

 そう思った俺は、ふと疑問を抱いてしまった。

 これだけ記憶も曖昧なのに、ホテルの個室まで歩いていって休むなんて可能だったのだろうか。

 仮に今澄先輩がフロントまでフォローしてくれたとしても、独りで素泊まりを選んだのならば、そこから先は自分だけで移動することになるはずだが――

「あ……起きた?」

「…………ッ!?」

 ――心臓がとまるかと思った。

 部屋の入り口側のほうから現れた人物は、見まがうはずもなく今澄先輩だった。

 なぜ、と浮かんだ疑問は、俺の常識がすぐに答えを出す。

 ――二名で部屋を取ったのだ。それ以外に、彼女がここにいる理由はないだろう。

「……先輩」

「うん?」

「……俺、ぜんぜん途中までのこと覚えてないんですが」

「あ、やっぱり? すっごく酔ってたからね? 小久井くん」

 うっ、申し訳ない……。

 というか、なぜ先輩も一緒にホテルにいるのだろうか。もしや俺が、強引に誘ったりしてしまったのか――

「……安心して。わたしが提案しただけだから」

 先輩は俺の心配を見透かしたのか、気さくな笑顔を浮かべて説明した。

「あの状態で電車に乗って帰るのは大変そうだし……だったら、ホテルに泊まったほうがいいんじゃないかな、って」

「な、なるほど……。ご迷惑おかけして申し訳ないです」

 俺はそう返しながらも、内心でいちばん気になっている部分には触れられずにいた。

 ――男女がホテルの一室にいるということ。

 その意味がわからないほど、今澄先輩は世間知らずではないだろう。興味がない、好意的に思っていない相手と、わざわざこんなところに来ようとは思うはずもなかった。

 だから、つまり……“そういうこと”をしても、かまわないという程度には……先輩は俺のことを……。

 ……ダメだ。考えているうちに、緊張してきてしまった。

「……小久井くん」

「はい」

「顔、あかくなってる」

「……いや、さすがに恥ずかしいなと思って。その、いろいろと……」

「ふふっ……」

 先輩は楽しそうに、嬉しそうに、そして幸せそうにほほ笑んでいた。

 ――ああ、やっぱりかわいい。

 純粋に、そんな気持ちを抱いた。先輩のそういう顔が好きなのだ、俺は。

 優しくて、包容力のあるような笑みを見せる彼女が、とても愛おしくて……

 そう……俺は、今澄 紗姫という女性に恋をしていた。

「ねえ、小久井くん。……よ、よければ、えーっと……」

 それまで自然な口ぶりだったのに、今澄先輩は急に言葉に迷ったような感じで、わずかに顔を赤らめて――

「……する?」

   ◇

 ……俺のほうから先に言うべきだったのだろうか。

 軽くシャワーを浴びながら、そんな過ぎたことを気にしてしまった。

 お互いの気持ちは察していても、それを言い出すのは少し勇気がいるものだ。彼女のほうから誘わせてしまった事実は、微妙に情けない気分を俺に抱かせた。

 ――まあ、今さら後悔しても変わらないか。

 お湯をとめて、俺はそのまましばらく瞑目した。重要なのは、これからの行動である。

 どうやって、先輩を……ええと……その……喜ばせるのか。

 ……いかん。緊張してきた。俺は自分が思っていた以上に、意外とヘタレだったのかもしれない。

「…………よし」

 目を開けた俺は、バスタオルで体を拭きながら覚悟を決めた。

 為せば成る。どうにでもなれ、だ。

「――おかえり」

 先輩がそう言って、俺を迎えてくれた。……一糸まとわない姿で。

 普段とは違う、見慣れない姿は、やはり目のやり場に困ってしまう。

 顔を直視するのが恥ずかしくて、けれど下半身にだけ視線を向けるのもどうかと考えて――

 自然と俺の意識が向いたのは、彼女の胸あたりだった。

「むー……なんか言ってよ」

「あ、いや……すみません。ただいま」

「ふふっ……緊張してる?」

「……してないと言えば、嘘になりますね」

「だいじょうぶ。……わたしも、おんなじだから」

 同じ?

 ……いや、そうか。そうだな。

 好きな人と、初めてする時は――誰だって胸が高鳴るものだろう。

 さあ、そろそろ……ベッドに――

 そう思った俺は、ふと重大なことに気づいた。

「……先輩」

「うん? どうしたの?」

「……ゴム……持ってない、んですけど……!」

 そう、コンドームなんて普段から持ち歩いているはずがない。

 シチュエーションに高揚しすぎて、初歩的なことを見落としてしまっていた。

 さすがに……生でするわけにもいかないだろう。

「あ……それなら、ここに……」

 先輩はおずおずと、何かを右手に持って俺に見せた。

 小さな袋に入った、薄いそれは――どこからどう見ても一般的な避妊具である。

 ……なぜ、先輩がコンドームを?

 まさか日常的に所持しているはずはないと思うのだが……。

 ――そんな俺の疑問を察したのか、彼女はわずかに頬を赤くして言った。

「その……ホテルにいく前の、コンビニに寄った時に……」

 コンビニ? いや、待て……。

 いま思い返してみれば、たしかにどこかのコンビニ前で……水を飲んでいたような気もする。

 今澄先輩が俺の面倒をずっと見ていてくれたわけだから、その時に彼女が飲料水と一緒にコンドームも買っていたということか。

 ……ということは?

「先輩、最初からその気で――」

「うっ、そ、そういうことは、気にしなくていいから……!」

 赤面して動揺している姿がめずらしすぎて、俺はちょっと笑ってしまった。

 ……けど、考えてみれば。

 俺と先輩の立場が逆だったら、たしかに“そういう可能性”に期待してしまうのも無理はないと思えた。

「あれ……? 向き、こっちで合ってるよね?」

 先輩は取り出したゴムを確かめながら、俺にそんなことを尋ねてくる。

「……たぶん、そうですね」

「かぶせて、こうするはずだから……。うん、大丈夫だよね……」

 お互いに自信なさげなやり取りは、はたから見るとなかなかに滑稽なのかもしれない。

 それでも、こうして会話をしていると緊張が少し和らぐので僥倖だった。

「それじゃあ――」

 コンドームの確認も終えて、俺と先輩はあらためて向かい合った。

「……どうしよう?」

「どうしますか?」

 いまいちスムーズに進まない性交渉に、二人とも苦笑を浮かべる。

 探り探りの、男女の営み。それはそれで、初々しくていい経験だった。

 先輩は少し考え込んだ様子だったが――

 ふと決心したように、ゆっくりと口を開いた。

「とりあえず……触ってみたり……したいかな……」

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