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第2話「もう一人のクラスメイト」


「リリィ様……来て下さいましたのね」

「ど、どうしたんですか、アレアちゃん。こんなところに呼び出して」


 放課後の中庭。

 わたくしはリリィ様をとある場所に呼び出していました。

 そこは学園の生徒たちにとって特別な場所で、通称「伝説の木」と呼ばれる桜の木の下でした。


 わたくしの呼び出しに応じてやってきたリリィ様は、いつものように愛らしく、少し落ち着かなさそうにキョロキョロしていました。

 この木のことを、リリィ様とて知らないはずはありません。

 この木が伝説の木と呼ばれるのには訳があるのです。


 それは学園の生徒たちの間でまことしやかに受け継がれてきた、ある言い伝えです。

 この木の下で告白をして結ばれた者たちには、永遠の幸せが約束されると言われているのです。

 そんな場所、しかも相手が長年彼女に言い寄ってきたわたくしであるともなれば、呼び出された意図は明確であろうというもの。

 リリィ様の顔には緊張の色が見えました。


「……リリィ様!」

「は、はい!」


 わたくしはリリィ様の目をひたと見つめながら、そのほっそりとした両手を取って言いました。

 彼女の驚いたような顔が、すぐ間近に見えます。

 わたくしは続けました。


「ずっとお慕いしておりました。わたくしと結婚を前提にしたお付き合いをしてくださいませ……!」

「あ、アレアちゃん……!」


 わたくしの告白に、リリィ様は最初驚いたような顔をしていましたが、その意味が脳に浸透すると頬を赤らめました。

 俯いて恥じらうような様子が堪らなくいとおしく、わたくしは返事を待たずに抱きしめたくなる気持ちをぐっとこらえます。


 それは永遠にも似た数分のこと。

 やがてリリィ様はゆっくりと口を開きました。


「り、リリィでよければ、ぜひアレアちゃんのお側にいさせてください」


 リリィ様はそう言って、道端にひっそりと咲くタンポポのように笑うのでした。

 その返事に、わたくしはこみ上げるような喜びを覚えました。


 ずっと思って来た女性が、わたくしの思いに応えてくれた――その事実がゆっくりとわたくしの胸を温かく満たしていきます。


「本当に……? 本当に受け入れて下さいますの……?」

「は、はい……!」

「嗚呼……なんてこと。まるで夢のようですわ……!」


 わたくしは堪らなくなって、リリィ様の身体をかき抱きました。

 ところが――。


「リリィ様……?」


 わたくしの腕にすっぽりと収まっているはずの小柄な身体がどこにもありません。

 まるで幻のように、リリィ様の姿は消えてしまったのです。


「どこ……!? どこですの……!?」


 わたくしは必死になってリリィ様を呼びました。

 ようやく念願叶って両思いになれたというのに、こんなことって……!


「……はあ、アレアったらしょうがない」

「……メイ?」


 辺りを見回していたわたくしの目前に、突如姿を現したのはメイでした。


「メイ、リリィ様をご存じなくて? わたくし、リリィ様と――」

「……うん、分かってる」

「……え?」


 メイは温度ゼロの表情のまま静かに続けました。


「……いい加減、アレアは気づくべき」

「メイ、あなた何を言っているんですの……?」

「……よく思い出して。今はいつか、そしてメイたち三人の関係を」


 そうしてメイはうっすらと妖艶な笑みを浮かべると、まるでわたくしを哀れむかのようにこう言ったのです。


「……これ、夢だよ」

「……!?」


 その言葉に、世界の姿がぐにゃりと歪みました。


「……アちゃん」

「ん……」


 何やら声が聞こえます。

 鈴を転がしたような、大変に心地のいい声です。


「あ、アレアちゃん、起きてください」

「……ダメだよ、リリィ様。本気で起こすならこれくらいしないと」


 もう一つ、耳に馴染んだ少し低めの声が聞こえてくると――次の瞬間。


「きゃあっ!?」


 背中にひやりとしたものを感じて、わたくしの意識は急激に覚醒しました。

 すっかり覚めた目で辺りを見渡すと、いつの間にか窓からは夕日が差し込んできており、クラスメイトたちが次々に鞄を持って教室を出て行きます。

 バウアー女子学園は比較的新しい学校です。

 クレアお母様とレイお母様が中心になって設立して、まだ十年とたっていません。

 バウアーに存在する平均的な学校と比べても設備が整っていますし、作りも頑丈で真新しく見えます。


 そんな風景の中には、呆れたような視線を寄こすメイと、苦り切った表情のリリィ様もいました。


「背中が冷たいですわ!? ちょっと、メイ!」

「……おはよう、アレア」

「あ、あははは、荒療治ですね……」


 制服の背中側を緩めると、小石ほどの氷が三つも落ちてきました。

 メイが魔法で作った氷弾のようです。


「何をするんですのよ!?」

「……それはこっちのセリフ。ホームルームを居眠りして全ぶっちするなんて」

「ま、まあ、あまり褒められたことではありませんね」

「う……」


 メイの言い分は全面的に正しく、わたくしは言葉に詰まりました。

 そうでした。

 今は帰りのホームルームだったのです。

 わたくしはそのあまりの退屈さに、居眠りをしていたようでした。

 何やらとても都合のいい夢を見ていた気がするのですが、今となっては思い出すこともできません。

 ただ、とても幸せな気持ちだったことだけを、この胸が覚えています。


 とはいえ、そんなことを口に出したら、メイはおろかリリィ様にも呆れられてしまうでしょう。

 わたくしは気を取り直して口を開きました。


「だって、ホームルームって退屈なんですもの。内容だって、必要なことは後でメイに聞けばいいのですし」

「……メイの手間を増やさないで。甘えるならもっと恋人らしいのでよろしく」

「そ、そうですよ、アレアちゃん。だ、第一、入学最初のホームルームなんて、重要な連絡の目白押しです」

「そうかしら?」


 最初の方こそ真面目に聞こうと思っていたのですけれど、聞いている内に睡魔に勝てなくなってしまったんですのよね。


「まあ、いいですわ。それで? 寮のルームメイトは発表になりまして?」

「……それすら聞いてなかったの?」

「あ、あはは……」


 メイは無表情のまま温度ゼロの視線を寄こし、リリィ様には呆れられてしまいました。

 ……さすがにちょっとバツが悪いですわね。


 通称「学園」と呼称されるこの学校には様々な特色がありますが、その一つに全寮制であることが挙げられます。

 全ての生徒は四人部屋に割り当てられ、その中で集団生活を営むことになっています。

 誰とルームメイトになるかということは、生徒たちにとって割と大きな関心事なのでした。


「は、発表されましたよ。り、リリィたちは同じ部屋だそうです」

「!? ホントですの!?」

「……アレア、喜びすぎ」

「だって、こんな朗報ありませんわ! これから三年間をともにするルームメイトの一人がリリィ様だなんて!」

「きょ、恐縮です……」

「……メイもいるんだけどなあ……」


 先ほどから苦笑いの止まらないリリィ様と、やや不満げなメイを眺めつつも、わたくしはこみ上げる喜びを抑えられませんでした。

 これまで私服姿しか見たことがなかったメイが新鮮に映るのはもちろんのこと、わたくしの目にはリリィ様の姿も眩しく映りました。

 リリィ様といえば、精霊教の修道服を着た姿が常でした。

 それがわたくしと同じ、しかもこんな愛らしい制服に身を包んでいるなんて。


 おまけに寮の部屋まで同室となれば、これはもう――。


「リリィ様、結婚しましょう」

「と、突然、なんですか!?」

「……多分、いつもの病気。気にしない方がいい」


 律儀に反応してくれるリリィ様に対して、メイの方はぞんざいです。


「メイがいることももちろん嬉しいですわ。でも、こんな風に一緒のクラスになった上に寮の部屋まで同じだなんて、やっぱりリリィ様とわたくしは結ばれる運命なんですのよ」

「そ、その運命は多分間違っていると思うのですが……」

「……メイを添え物みたいにしないで。添えるなら一生添い遂げる」


 夢の中のリリィ様と違って、現実のリリィ様とはまだまだ距離があるようでした。

 とは言え、そんなことが言えるのも今のうちだけ。

 これからは同じ部屋で暮らしていくのです。

 わたくしはこの三年間の内に、なんとしても彼女の心を振り向かせてみせると決めているのでした。


 三人で話をしていると、誰かが教室をのぞきに来ました。


「あれ? まだ残ってたの? さっさと寮に移動して荷ほどきしなよ」

「れ、レイさん!」


 困ったような表情をしていたリリィ様の表情がぱあっと明るくなりました。

 ……まったくもう。


「ごめんね、リリィ。きっとまたアレアが迷惑かけてるんでしょ?」

「そ、そんなことありません! そんなことより、今日、時間ありますか?」

「あー、ごめん。さすがに入学式当日は忙しくて。もう少し落ち着いたら、話せる機会はあると思う」

「そ、そうですか……」


 リリィ様は露骨に落ち込んだ様子です。

 まあ、そうなるでしょうとも。


「リリィ様、行きますわよ」

「え? あ、ちょっと、アレアちゃん!」

「……レイ先生、さようなら」

「うん、さようなら」


 わたくしはリリィ様の手を引くと、さっさとその場を離れました。

 当惑しつつも後ろ髪を引かれているような様子のリリィ様が、とても気に入りません。

 公私の区別をきっちりつけて挨拶するメイとレイお母様の言葉を背中に聞きながら、わたくしはまんじりともしない気持ちで寮への道を急ぎました。


 ◆◇◆◇◆


「し、シモーヌ=オルソーよ! 好きに呼びなさい!」


 帰路でちょっとした魔物騒ぎを片付けてから、わたくしたちは寮に入りました。

 学園の校内に魔物が出るなんて、最近は物騒ですわ。

 旧知の間柄であるユリアとの再会は随分と刺激的なものになりましたが、ひとまず彼女に怪我はなさそうでした。

 彼女のことは心配でしたが、カウンセラーさんもよく見てくれることでしょうし、それ以上わたくしに出来ることはなさそうなので、わたくしたちは予定通り部屋にやって来たのでした。


 わたくしたちに割り当てられた部屋に着くと、既に先客がいました。

 紫色のツインテールに、やはり紫色の瞳をした小柄な女生徒でした。

 学園の寮は四人部屋なので、リリィ様、メイ、わたくしに加えてもう一人いるルームメイトが彼女ということになります。


 シモーヌさんは腕組みをして顎をくいっと上げた姿勢で、わたくしたちに簡潔な自己紹介をしました。

 なんだか威嚇している子猫みたいで可愛らしいな、などとわたくしはやや失礼な感想を抱きます。


「ご丁寧にありがとうございますわ。わたくしはアレア=フラ――」

「知ってるわ!」

「そ、そうですの」

「そっちの二人も知ってるわよ! メイ=フランソワにリリィ=リリウムよね!」

「……よろしく」

「は、はい。よ、よろしくお願いします」


 シモーヌさんの態度に、わたくしだけでなくリリィ様も当惑しているようでした。

 メイはいつもの通りのようでしたが。


「先に着いたから、アタシが使うベッドと机は勝手に決めさせて貰ったわ! 構わないわよね!」

「え、ええ……。構いませんわ。わたくしはリリィ様と同じベッドにしますわ」

「好きにすれば!」

「……じゃあ、シモーヌはメイと同じベッドね」

「構わないわ!」

「え、えーと。り、リリィに選択権とかそういうのは……?」

「「「ない(ですわ)」」」

「い、いいですけれどね……」


 そんなこんなで、机とベッドの配分も完了しました。

 寮の部屋は一つの部屋としてはそこそこ大きな部屋ですが、二段ベッド二つと机を四つ並べるとかなり手狭です。

 収納スペースも限られており、私物は最低限にと入学案内で注意されていました。

 学園の部屋は王立学院の二人部屋よりは広いはずですが、個々人が使えるスペースはずっと狭そうです。


「シモーヌさん」

「シモーヌでいいわ!」

「では、シモーヌ。姓がオルソーということは、あなたはレーネさんとランバートさんの……?」

「ええ、娘よ! 養女だけど!」


 レーネさんとランバートさんというのは、お母様たちが昔からお世話になっている方たちで、フラーテルという大きな商会を経営しています。

 フラーテルは学園の大口出資者の一人でもあり、公私にわたってお母様たちを支えてくれているのです。


「そうでしたの、ならわたくしたちのことをご存じでも不思議ではありませんわね」

「そうよ!」

「はるばるアパラチアからバウアーへようこそ。歓迎致しますわ」

「アパラチアとバウアーの間も転移門があるから、そう遠くは感じなかったわ!」

「ああ……。ナー帝国が世界各地で試験運用を開始したというあれですわね」


 わたくしはまだ利用したことがありませんが、遠隔地へ一瞬で移動できる装置なのだそうです。

 帝国の遺跡から発掘された遺物だとかで、解析や設置、運用にはシモーヌの養父であるランバートさんが深く関わっているといいます。


「ところで、一つよろしいかしら?」

「なによ!」


 わたくしはシモーヌについて、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。


「その話し方は疲れませんこと?」

「なによ、文句ある!?」

「ありませんけれど、もう少し肩の力を抜いた方がよろしいのではなくて?」

「いいのよ、これで!」

「そ、そう……」


 なんというか、シモーヌからは敵意ではないのですけれど、何かしら強い感情を向けられているように感じます。


「わたくし、シモーヌに何かしたかしら?」

「してないわ!」

「なら、もう少し親しみある交流を望みたいのですけれど」

「難しいわね!」

「そ、そうですの……?」


 どうしてシモーヌはこんな感じになっているのでしょう。


「し、シモーヌさん」

「さんはいらないわ!」

「あ、えっと、そうでした。シモーヌちゃんはひょっとして、凄く緊張なさっていますか?」

「!?」


 リリィ様の一言で、シモーヌの顔色が変わりました。


「ど、どうして……!」

「あ、当たりでしたか。い、いえ、なんとなくそんな感じがしたものですから」

「く、屈辱だわ……!」

「……どうして緊張してるの? 初対面だから?」


 メイの問いに、シモーヌは体をぷるぷる震わせながら、


「だ、だって……あなたたち、クレア様の娘さんなのよね?」


 そんなことを言いました。


「そうですわ。わたくしたちはクレア=フランソワとレイ=テイラーの娘ですわ」

「……救世の十傑の娘だから緊張してるの?」

「違うわ!」


 お母様たちは有名人なので、こういう反応をされることもしばしばあるのですが、シモーヌはどうやら違うようです。


「アタシ、クレア様に憧れてるのよ!」

「クレアお母様に?」

「そう!」


 それまでやや強ばっていたシモーヌの表情が、ぱっと明るくなりました。


「貴族に生まれながら、その身分にあぐらをかくことをせず、今のバウアーにおける市民制度の礎を気づいたのは有名な話よね!」

「そ、そうですね。く、クレア様の有名な逸話です」

「その上、魔族との戦いにも身を投じて、最後には魔王すら倒しちゃったし!」

「それも有名な話ですわね」


 シモーヌが語った内容は、クレアお母様にまつわる数々の「伝説」の一部でした。

 しかし、


「……でも、それならレイママだって尊敬の対象じゃないの?」


 メイの指摘はもっともです。

 クレアお母様の残した功績は、ほとんど全てレイお母様にも当てはまる内容なのです。

 もっとも、レイお母様は元平民ですが。


「レイ様は……ちょっと……」


 シモーヌは複雑な表情で言葉を濁しました。


「話したくない内容なら、無理に話さなくてもよくってよ?」

「ううん、いいの! どうせすぐバレることだし」


 そう言うと、シモーヌは後ろを向いて、セーラー服の背中側の裾をまくり上げました。


「シモーヌ……それは……」

「うん、羽が見えるでしょ?」


 シモーヌの背中からは、コウモリのような黒い羽が小さく生えていました。

 つまり、彼女は――。


「アタシ、人間と魔族のミックスなんだ」


 服を戻してこちらに向き直った彼女は、沈鬱な表情でそう告白しました。


「魔族の血が混じってるってことで、結構ヤな目に遭ってきたからさ。魔族っていう存在を生み出したレイ様は、ちょっと素直に尊敬できない」

「れ、レイさんが生み出したわけでは――!」

「分かってる!」


 シモーヌはリリィ様の言葉を遮って続けました。


「頭では理解出来てるんだ。魔族を生み出したのは魔王であって、レイ様本人じゃない……分かってる。でも――」


 シモーヌの顔には葛藤がありました。


「魔王はもういない。魔王を憎んだって、もういないんじゃあ感情の持って行きようがない。だから……レイ様なの」

「し、シモーヌちゃん……」


 リリィ様が何かいたわしげな表情を浮かべました。

 その顔には強い同情の色が見て取れます。

 でも、わたくしは少しひっかることがありました。


「それって、八つ当たりじゃありませんの?」

「アレアちゃん!」


 わたくしの口からこぼれた一言に、リリィ様が咎めるような声を上げました。

 でも、だってねえ?


「……アレアはデリカシーがなさすぎる」

「そ、そうですよ!」

「いいの。……ホントはアレアの言うとおりだから」


 メイとリリィ様がフォローめいたことを言いましたが、どうやらシモーヌ自身にも自分の捉え方が歪んでいる自覚はあるようです。


「実際、レイ様には八つ当たりしてるんだと思う。でも、感情の部分はどうにもならない」

「そういうものなんですのね」


 シモーヌは辛そうな表情を浮かべています。

 こういうとき、わたくしは昔から自分の異質さを感じるのでした。


 弱さへの共感力。

 わたくしにはこれがあまりありません。

 リリィ様やメイが自然に彼女に対して抱いているような同情の感情が、わたくしには今ひとつ理解しきれないのです。


 確かにシモーヌの境遇は痛ましいものかもしれません。

 でも、だからといってレイお母様を恨んだって何も解決しないではありませんの。

 戦うべき相手は、彼女を迫害してきた者たちですわよね。

 ――わたくしの思考パターンはどうしてもこうなってしまうのです。


 わたくしはこのことを、重大な欠点だと感じています。

 お母様たちからも何度も指摘されたことです。


 ――わたくしは、人の弱さが分からない。


「まあ、アタシのことはもういいわ。暗い話して悪かったわね!」

「そ、そんなこと……!」

「……話してくれて嬉しかった」

「ありがと。あんたら、いいヤツね!」


 ここでわたくしが口を挟むとまた場が混迷しそうなので、わたくしは言葉を飲み込みました。


 ひとまず顔合わせは済んだことと、そろそろ夕飯の時刻だということで、わたくしたちは食堂に移動しました。

 入学初日だということもあってか、食堂は非常に混んでいます。

 注文した料理が届くのを列に並んで待ちながら、会話をしつつ交流を深めます。


「そう言えばさ、さっきの魔物騒ぎ見てたけど、凄いわね」


 シモーヌがそんなことを口にしました。

 恐らく、ユリアを助けた魔物騒ぎのことを言っているのでしょう。


「お恥ずかしいですわ」

「……アレアにとっては、あんなの朝飯前」

「あ、アレアちゃんは強いですから」


 口々に褒めそやされてち少し面はゆいですが、わたくしはそのことを誇らしく思えました。

 しかし、シモーヌが凄いと感じたのは、そこではなかったのです。


「あ、そうじゃなくて。確かにアレアの戦闘力も凄かったけど、公然とあんなにいちゃつけるもんなの?」

「そ、そこですか……」


 リリィ様が凹んでいます。

 ちょっと、リリィ様。

 わたくしにいちゃつかれて不服だとでも?


 進んでいく列の間隔を詰めつつ内心の不満を覚えたわたくしをよそに、シモーヌはわたくしの目をまっすぐ見つめて、こう聞いてきました。


「アレアって、リリィのことが好きなの?」

Comments

めそ

いい年末だぁ...

chapuputepu

いのり先生、お久しぶりです。アニメを見ていたので、小説をもう一度読みたくなりました。まさか新しい物語を書き続いているとは驚きました。新しい物語を楽しみにしています!いい年をなりますように。