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※The English version is also below.

※한국어판도 밑에 있어요.

※下面还提供了简体字。


「そこのあなた、お待ちなさいな」

「……!」


 コンサートホールの裏口から出てすぐ。

 関係者や業者が利用するその裏道は既に暗くなっていました。


 わたくしが呼び止めたのは燕尾服に身を包んだ音楽家と思われる男性でした。

 一見すると怪しい所はありませんが、なぜ息を潜めるように、しかも裏口から出て行くような真似をしたのかが気になりました。


「何か、ご用でしょうか?」

「失礼。二、三おうかがいしたいことがございますの。少し、お時間をよろしくて?」

「生憎と先を急ぐ身でして。それではこれで――」

「動いたら撃ちます」

「!」


 わたくしはホールから出るときに返して貰った魔法杖を抜き、男性に突きつけました。

 はっきりとは分かりませんが、この男性には何か違和感があります。

 あるいは、それは既視感だったかも知れません。


「何をするのです」

「手を――手を見せなさい」

「どうぞ?」


 男性は素直にわたくしの言葉に従いました。

 わたくしは少し近づいて男性の手を観察しました。

 舞台でこの男性が持っていたのはピピのそれと同じヴァイオリンでした。

 男性の手には、ヴァイオリン弾きらしい弓だこが見て取れます。

 しかし、わたくしの疑念は晴れません。


「腕輪だよー、クレアちゃん」

「! 変身の魔道具!」

「ちっ……!」


 男性は苛立たしそうに舌打ちすると、身を翻して駆け出そうとしました。


「旦那様、ここまでです」

「!? エマ、貴様、裏切るつもりか!?」

「わたくしの主はカトリーヌお嬢様ただお一人にございます。旦那様にお仕えした覚えはございません」

「離せ! 離さぬか……!」


 男性を取り押さえたのはエマでした。

 地面に組み敷いたその手際は、とても一介のメイドの技とは思えませんでした。


「エマ……それにカトリーヌも。旦那様……ということは、この人は……?」

「うん。エマ、腕輪をー」

「はい」


 エマが男性の腕輪を引きちぎると、男性の姿がみるみる内に変わり――。


「クレマン=アシャール……一体、どうやって……?」

「音楽家の中に、アシャール家が手配した魔法使いがいたんだよー。もしもの時に体を入れ替えることの出来る、ねー。キャスリングとかいう魔法だったかなー?」


 説明するカトリーヌは車椅子に乗っていました。

 車輪を器用に手で動かしながら、カトリーヌはこちらにやって来ます。


「カトリーヌ! 貴様、育てて貰った恩を忘れたか!」

「それについては心から感謝しています、お義父様ー。でも、もうやめましょー? これ以上、アシャール家の家名に泥を塗らないで下さいー」

「何を言う!」


 クレマンは組み敷かれたまま身をよじり、なおも逃れようとあがいています。


「儂こそがアシャール家そのもの! 儂さえ生きながらえれば、アシャールは終わらぬ!」

「もうとっくに終わっていますよ、お義父様ー。十年前のあの日にねー」

「十年前……? カトリーヌ、あなた何を言っていますの……?」


 不吉な予感がしました。

 何か、とても良くないことが起ころうとしているような、そんな予感が。


「ウチはクレアちゃんに謝らないといけない」

「カトリーヌ……?」

「十年前、クレアちゃんのお母様であるミリア様を殺したのは――ウチだよ」

「――!?」


 わたくしは一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。

 いいえ、耳はきちんとその言葉を聞き取りました。

 ですが、心がそれを理解することを拒否したのです。

 だってそんな、そんな馬鹿なことがあって!?


「何を言っているの、カトリーヌ。お母様は事故で亡くなったんですのよ?」

「その事故が、仕組まれていたことだったんだ。ウチはお義父様の差し金で、フランソワ家に差し向けられた暗殺者なんだよ」

「何を……あなたはさっきから何を言っていますの!」


 わたくしはやむを得ず杖を構えました。

 カトリーヌは動く様子を見せず、ただ車椅子の上で微笑んでいます。

 ――いつもと変わらぬ微笑みで。


「あの日、フランソワ家の馬車と衝突した平民の馬車には、ウチとやり手の暗殺者三人が同乗していたんだ。事故に見せかけてフランソワ家の馬車を止めると、ウチらはドル様たちに襲いかかった」


 カトリーヌはまるで独り言のように言葉を続けます。


「ウチらの襲撃を防いだのはミリア様だった」

「お母様が……?」

「ドル様は多分、戦闘向きの魔法が使えないのかな? とにかく、ウチらに応戦したのはミリア様だった。ミリア様はドル様の乗る馬車に何らかの防御魔法をかけて封印すると、自分は徒手空拳でウチらを相手にした」


 カトリーヌは目を閉じました。

 まるで当時のことを思い出すかのように。


「……それで……?」

「結果的に、ウチらは相打ちになった。こちらはウチを除いて全滅。ウチも左足に大けがをして行動不能だった。そしてミリア様は――」

「……お母様は……?」

「ウチを庇ってお亡くなりになった」

「どういう……ことですの……?」


 説明を要求するわたくしに、カトリーヌは再び目を開けました。

 その顔は、見たことのない自虐に歪んでいます。


「監視がいたんだよ。ウチらが失敗したことを察した監視たちは、証拠隠滅を図った。ウチと三人の仲間は消されそうになったの。でも、ミリア様がウチを助けてくれた」

「お母様……」

「全てが終わった後、ウチはウチの魔法を使って全てをなかったことにした。きっと事故現場にいた人には、ただの事故としか思われなかっただろうね」

「カトリーヌ……あなたは一体……」

「だからね、クレアちゃん。ミリア様を殺したのはウチなんだ。ずっと謝らなきゃと思ってた。ごめんね」


 カトリーヌは車椅子の上で深く体を折りました。


「今さら……どうしろというんですの……! そんな……そんなこと……!」

「許してくれとは言わないよ。ウチはそれだけのことをした。でも、償いをさせて欲しい」

「償い……?」


 わたくしが問うような口調で呼びかけると、カトリーヌは顔を上げました。

 そして、その手には魔法杖が握られています。


「!?」

「安心して。危害は加えないから」


 そう言うと、カトリーヌは杖を――クレマンに向けました。


「待て、カトリーヌ! 何をする!」

「お分かりでしょう、お義父様。ウチの魔法は――」

「や、やめよ! 儂はまだ終わらぬ! 帝国に逃げ延び、再起を――!」

「消去(イレイザー)」


 カトリーヌの杖から強い魔力を感じました。

 目には見えないその何かは、クレマンを包み込みました。


「嫌じゃ! 忘れたくない! 儂が儂でなくなってしまう!」

「……」

「誰か……! 誰か……儂を……助け……」


 かくり、と力を失ったように、クレマンの体が崩れ落ちました。


「……殺しましたの?」

「んーん。心をね、ちょっと弄らせて貰ったの」

「あなたの魔法は、姿を消す魔法ではなかったんですの?」

「そういう使い方も出来るけど、根本的には別の魔法だね」


 カトリーヌはエマに指示を出して、クレマンを連れて行かせました。


「ウチの魔法は記憶の消去だよ」

「記憶の消去?」

「うん。いつも姿を隠しているのは、視覚記憶を部分的に消去させて貰ってたの」

「器用ですわね」

「えへへ。でも、この魔法の本来の使い道は――」

「!?」


 わたくしは油断していました。

 危害は加えない、というカトリーヌの言葉を鵜呑みにしてしまっていたのです。

 カトリーヌの魔法はわたくしに向けられていました。


「カトリーヌ……!」

「クレアちゃんから……んーん、みんなからウチに関する記憶を消させて貰うよ」

「そんな……!」

「ウチが犯した罪は、死罪でも生ぬるい。ウチはこの先、誰の記憶にも残らずに生きていくことにするよ」

「そんなの……存在の否定みたいなものじゃないですのよ!」


 誰の目にも留まらず、誰の記憶にも残らない――そんな在り方はもう、生きているとは言えません。


「そうだね。それがウチに課された罰――この呪われた人生の生き方だと思う」

「考え直しなさい!」

「ごめんね、クレアちゃん」


 手足から力が抜け行くと同時に、頭の中から何か大切なものがかき消えて行くのが分かりました。


「わたくし、絶対に忘れませんわよ! あなたが何をしたって、絶対に……絶対に!」

「クレアちゃん……」

「見てなさい、カトリーヌ! ……いくらあなたが強がったって……わたくしには……分かって……」


 意識が、遠くなります。

 わたくしは……誰と、何を話しているのでしたっけ……?


「……やっぱりやだ……やだよう……。でも……でも!」


 薄れ行く意識の中、誰かが涙ぐむ声が聞こえます。

 でもそれが誰かはもうわたくしには分かりませんでした。


「さようなら……クレアちゃん」


 最後に聞いた声はとても悲しくて、わたくしは頬を伝う涙を抑えられないまま、眠りにつきました。

 


*Translation below was made possible with the help of Sephallia. Thank you so much Sephallia.


76. Farewell


“You there, stop where you are.”

“…!”


I left the concert hall through its back door to find that the alleyway, only meant to be used by the hall staff and authorized parties, had already gone dark.


The individual I called out to was likely one of the musicians that performed for the festival, he was wearing a tailcoat. At first glance, he didn’t seem particularly suspicious, but then why would he feel the need to restrain his breathing and quietly leave from the back door? I just found it to be a little curious.


“Hm, do you need something?”

“Pardon me, there are just two or three things I’d like to confirm. Could you spare a little of your time?”

“Unfortunately I’m in a bit of a hurry. Well then, I’ll be―”

“Move an inch and I’ll shoot.”

“!”


Drawing the wand I had reclaimed upon leaving the hall, I pointed it straight at the man. I couldn’t quite place it, but something just felt out of place. Perhaps it was a sense of deja vu.


“What is the meaning of this?”

“Your hand―let me have a look at your hand.”

“Go ahead.”


The man openly did as I said. I approached him and took a close look at his hand. On the stage, he performed the violin. That meant that, like Pipi, he too should have calluses from the violin’s bow. And even though his hand did have them, for some reason I still had my doubts.


“Look at the bracelet~, Claire-chan!’

“…! It’s a magic artifact that’s used for disguise!”

“Tch…!”


The man clicked his tongue with obvious frustration before making a break for it.


“Milord, this is as far as you go.”

“!? Ema, you… Do you intend to betray me!?”

“Lady Catherine is the only one that I serve. I have no recollection of ever serving you, Milord.”

“Let me go! Let me go…!”


The one who had subdued the man was none other than Ema. The technique she used to pin him down was definitely not one that you’d expect from a regular maid.


“Ema… And Catherine too. Milord… Wait, does that mean this man is…?”

“Yup. Ema, the bracelet~”

“Right away.”


When Ema tore the bracelet off of the man, his appearance rapidly changed―


“Clément Achard… How, just how is this possible…?”

“There was a mage that House Achard had made arrangements with at the festival~ He can use a spell to swap people’s paces~ I believe the magic was called Castling~?”


Catherine gave her explanation from her wheelchair. She skillfully used her hands to operate the wheels and approached me.


“Catherine! You… ungrateful… Have you no regard for how much trouble I’ve gone through to raise you!”

“I truly am grateful for that, really, from the bottom of my heart, father~ But don’t you think it’s time we put an end to this~? Don’t do anything that would further sully the Achard name.”


Even while still pinned firmly to the ground, Clément continued his struggle to break free.


“I myself AM the Achard legacy! So long as I live, the Achard lineage continues!”

“But it’s already long over, father~ It’s been over ever since that day ten years ago…”

“Ten years ago…? Catherine, what are you saying…?”


I suddenly felt uneasy, a sinking feeling, like something terrible was about to happen.


“Claire-chan, I need to apologize to you.”

“Catherine…?”

“Ten years ago, the one who killed your mother, Milia-sama―was me.”

“ー!?”


For a split second, I couldn’t at all parse what she was saying. No, I’m sure that my ears heard what she said, it’s just, my heart had rejected it. I mean, it sounded so ridiculous, just how could something like that!?


“Catherine, what do you mean? My mother passed away in an accident…”

“And that accident… Was not an accident. My father sent me out to the François manor as an assassin.”

“What… Just what are you saying, I don’t understand any of it!”


Unable to comprehend what was happening, my body instinctively held my wand at the ready. Catherine showed no sign that she’d move out of the way, she simply sat on her wheelchair smiling.


― That very same smile she always put on.


“On that day, I, along with three skilled assassins, were all riding the carriage that crashed into House François' personal carriage. We feigned an accident to stop the carriage, and the four of us were to attack Dor-sama and any others there.


As though she had entered a soliloquy, Catherine’s words continued on.


“The one who fought us off was Milia-sama.”

“My mother did…?”

“If I had to guess, Dor-sama can’t really use offensive magic, right? Either way, Milia-sama was the one to intercept us. After casting some sort of defensive seal to protect the carriage, Milia-sama stepped out alone and empty handed to intercept us.”


As though to recall the events of that day within her mind, Catherine closed her eyes.


“… And then…?”

“I suppose you could say it ended in a draw. On my end, everyone but me was dead, and I had a grave injury to my leg leaving me immobile. Milia-sama―”

“And my mother…?”

“She died trying to protect me.”

“What… Do you mean by that…?”


When I asked for an explanation, Catherine opened her eyes. Her expression, filled to the brim with self hatred, was twisted and contorted to extremes that I had never seen from her before.


“There was another party keeping an eye on the situation. When they realized that we had failed, they moved in to erase the evidence. I and the other three assassins were about to be erased. But then, Milia-sama saved me.”

“Mother…”

“After it was all over, I used my magic to make it all as though it had never happened. I’m sure that to the people at the scene of the crime, it had all just looked like a simple accident.”

“Catherine… Just what are you…”

“That’s why, Claire-chan, I’m the one who killed Milia-sama. I’ve always felt that I needed to apologize properly. I’m sorry.”


From atop her wheelchair, Catherine gave me a deep bow.


“Even if… You tell me all this now… What do you want me to do about it…! That… There’s no way that…!”

“I won’t ask that you forgive me. I know the gravity of what I’ve done. However, I ask that you allow me to repent.”

“Repent…?”


When I asked, Catherine raised her head. And there, in her hand, was her wand.


“!?”

“Just relax. I’m not going to hurt you.”


Catherine then pointed her wand―at Clément.


“Wait, Catherine! What are you doing!”

“I’m sure you already know, father. After all, my magic is―”

“Wait, stop! I won’t end this way! After running to the Empire, I’ll wait for my next―!”

“Eraser.”


I sensed an incredibly strong magic force from Catherine’s wand. The invisible force traveled toward Clément, enveloping him.


“No! I don’t want to forget! I’ll no longer be me!”

“Someone…! Anyone… Help… Me…”


And then, as though he had lost all strength in his body, Clément dropped with a plop.


“… Did you kill him?

“Mn, no. But I just tampered with his spirit a bit.”

“Wasn’t your magic… The ability to turn invisible and conceal yourself?”

“I can use it to do that, but fundamentally, it’s entirely different.”


Catherine instructed Ema to take Clément away.


“My magic allows me to erase memories.”

“Erase memories?”

“Yup. To conceal myself, I just erase the specific memories people have of seeing me.”

“How clever.”

“Ehehe~ But you know, the way that this magic is really meant to be used is―”

“!?”


I had let my guard down. I had just blindly trusted her when she said that she wouldn’t harm me. Catherine had now pointed her wand at me.


“Catherine…!”

“Claire-chan, I’ll take it upon myself to erase your… No, everyone’s memories of me.”

“No…!”

“My sin is so grave, that even death would be too lenient. From now on, I’ll continue to live without ever allowing anyone to retain memories of me.”

“No… That’s… You're practically going to be denying your very own existence!”


She won’t be seen by anyone, nor will she ever remain in their memory―such an existence can no longer be called living.


“That’s right. That cursed way of life―will be my punishment.”

“Please think this over!”

“I’m sorry, Claire-chan.”


As I felt my strength slipping out of my arms and my legs, I felt something very important vanishing from within my mind.


“I… I definitely won’t forget! No matter what it is that you’ve done, I won’t… I absolutely won’t!”

“Claire-chan…”

“Just watch Catherine…! Even if you try to act tough like this… Deep down I… Know…”


I could feel my consciousness drift away.


Just now, I… Who was I talking to, and what were we talking about…?”


“… I don’t want to do this… I really don’t… But… But!”


As my consciousness faded away, I heard someone’s words through their tears, but I no longer knew who those words belonged to.


“Goodbye… Claire-chan.”


Those last words were so wrought with so much sadness… Unable to hold back my tears from flooding down my cheeks, I dropped into a deep sleep.



*아래의 번역은 "와타오시 번역"의 협력으로 실현되었습니다.고마워요, "와타오시 번역"


76. 안녕


“거기 당신, 기다리세요.”

“……!”


콘서트홀의 뒷문을 지나면 바로 나오는 장소.

콘서트홀 관계자들만 이용하는 뒷길은 이미 어둑어둑한 상태였습니다.


제가 불러 세운 사람은 연주회에 참가한 음악가처럼 보이는 연미복 차림의 사람이었습니다.

언뜻 보기에 수상쩍은 구석은 없었지만 왜 살금살금 남들 시선을 피해서 움직였는지, 그것도 뒷문을 통해 빠져나갔다는 점이 마음에 걸렸습니다.


“뭔가 용건이 있으십니까?”

“실례. 몇 가지 물어보고 싶은 게 있어요. 잠깐 시간 좀 내줄 수 있나요?”

“아쉽지만 지금 좀 서두르는 중입니다. 그럼 이만——.”

“움직이면 공격하겠어요.”

“!”


저는 홀에서 빠져나올 때 잊지 않고 챙겨 나온 지팡이를 남성을 향해 겨눴습니다.

구체적으로 어디라고 말할 순 없지만 이 남성에게선 뭔가 위화감이 느껴졌습니다.

어쩌면 그 느낌의 정체는 기시감이었을지도 모릅니다.


“뭐 하시는 겁니까.”

“손을—— 손을 보여주세요.”

“보시죠?”


남성은 순순히 제 말에 따랐습니다.

저는 살짝 다가가 남성의 손을 살폈습니다.

무대에서 남성이 쥐고 있던 악기는 피피처럼 바이올린이었습니다.

남성의 손에는 바이올린의 현이 새긴 굳은살이 새겨져 있었습니다.

하지만 제 의심은 여전히 풀리지 않았습니다.


“정답은 팔찌야—, 클레어 짱.”

“! 변신 마도구!”

“칫……!”


남성은 분한 듯이 혀를 차고서 몸을 돌려 도망치려고 했습니다.


“주인님, 여기까지입니다.”

“?! 에마, 네 녀석 배신할 생각이냐?!”

“제 진정한 주인은 오직 카트린 아가씨 한분뿐입니다. 주인님을 섬긴 기억은 없습니다.”

“놔라! 놓지 못하겠느냐……!”


도망치려던 남성을 붙잡은 건 에마였습니다.

상대를 옴짝달싹 못하도록 지면에 깔고 누르는 솜씨를 보니, 도저히 평범한 메이드라곤 생각하기 힘들었습니다.


“에마…… 게다가 카트린까지. 주인님…… 이라고 부른 걸 보니 이 사람은……?”

“응. 에마, 팔찌를——.”

“네.”


에마가 남성이 찬 팔찌를 벗겨내자 남성의 모습이 점차 변하면서——.


“클레망 아샤르…… 대체 어떻게……?”

“음악가 중에 아샤르 가문에서 고용한 마법사가 있었거든—. 여차할 땐 서로 모습을 뒤바꿀 수 있어. 음—, 마법 이름이 캐슬링이라고 했던가—?”


트릭을 설명해주는 카트린은 휠체어를 타고 있었습니다.

휠체어 바퀴를 능숙하게 손으로 움직이면서 저를 향해 다가옵니다.


“카트린! 네 녀석, 키워 준 은해도 잊은 거냐!”

“그 점은 진심으로 감사드립니다, 아버님—. 하지만 그만 포기하죠? 더 이상 아샤르 가문의 이름에 먹칠하지 말아주세요—.”

“무슨 소리냐!”


클레망은 바닥에 깔린 채로 몸을 버둥거리며 어떻게든 도망치려고 애썼습니다.


“이 몸이야말로 아샤르 가문 그 자체! 나만 건재하면 아샤르는 끝나지 않는다!”

“이미 끝난 지 오래예요, 아버님. 10년 전 바로 그 날 말이죠—.”

“10년 전……? 카트린, 당신 무슨 말을 하는 건가요……?”


불길한 예감이 들었습니다.

뭔가, 굉장히 좋지 못한 일이 일어날 것 같은 그런 예감.


“나는 클레어 짱한테 꼭 사과해야만 해.”

“카트린……?”

“10년 전, 클레어 짱의 어머니, 밀리아 님을 살해한 사람은—— 나야.”

“——?!”


저는 한순간 제가 무슨 말을 들은 건지 이해하지 못했습니다.

아뇨, 귀로는 똑똑히 들었습니다.

하지만 제 마음이 지금 들은 말을 이해하길 거부했습니다.

그치만 그런, 그런 말도 안 되는 일이 있을 수가?!


“대체 무슨 소리예요, 카트린. 어머님은 사고로 돌아가셨다고요.”

“그 사고가 고의적으로 벌어진 일이었던 거야. 나는 아버님의 명을 받아 움직이며 프랑소와 가문에 파견된 암살자였어.”

“대체…… 당신은 아까부터 대체 무슨 소리를 하는 거냐고요!”


저는 견딜 수 없어서 지팡이를 겨눴습니다.

카트린은 그런 제 행동에도 휠체어에 앉은 채 담담하게 웃었습니다.

——평소와 다름없는 미소로.


“그날, 프랑소와 가문의 마차와 충돌한 평민의 마차에는 나를 포함해 프로 암살자 세 사람이 타고 있었어. 사고로 위장해 프랑소와 가문의 마차를 전복시킨 다음 우리는 도르 님과 밀리아 님을 향해 달려들었지.”


카트린은 마치 혼잣말처럼 계속해서 말을 이었습니다.


“우리의 습격에 맞서 싸운 사람은 밀리아 님이었어.”

“어머님이……?”

“내 짐작으론 도르 님은 전투용 마법을 쓸 줄 모르는 거 아닐까? 어쨌든 우리를 상대로 응전한 사람은 밀리아 님이야. 밀리아 님은 도르 님이 타고 있는 마차에 뭔가 방어용 마법을 걸어 접근을 막은 다음 자신은 맨손으로 우리를 상대했어.”


카트린은 눈을 감았습니다.

마치 그때 그 순간을 떠올리는 것처럼.


“……그래서요……?”

“결과적으로 싸움은 승부를 내지 못했어. 우리 쪽은 나를 제외하면 전멸. 나도 왼쪽 다리에 큰 부상을 입어 움직일 수 없었어. 그리고 밀리아 님은——.”

“……어머님은……?”

“나를 지키다 돌아가셨어.”

“그건 대체…… 어떻게 된 건가요……?”


카트린은 감았던 눈을 뜨고서 설명을 요구하는 나를 바라보았습니다.

그 얼굴은 지금까지 본 적 없는 자학으로 일그러져 있었습니다.


“감시하는 자들이 있었어. 우리가 실패했다는 걸 눈치챈 감시자들은 증거인멸을 꾀했어. 나를 포함해 네 명의 동료는 그대로 세상에서 지워질 위기였지. 하지만 밀리아 님이 나를 구해줬어.”

“어머님이…….”

“모든 게 끝났을 때, 나는 내 마법으로 모든 걸 없었던 일로 만들었어. 분명 사고 현장에 있었던 사람들에겐 그냥 단순한 사고로밖에 보이지 않았겠지.”

“카트린…… 당신은 대체…….”

“그래서 말이지, 클레어 짱. 밀리아 님을 죽인 사람은 나야. 계속 사과해야겠다고 생각했어. 미안해,”


카트린은 휠체어에 앉은 채로 깊이 허리를 숙였습니다.


“이제 와서…… 어쩌라는 건가요……! 그런…… 그런 소릴……!”

“용서해달라고는 하지 않아. 나는 용서받지 못할 짓을 저질렀어. 하지만 속죄는 하게 해줬으면 해.”

“속죄……?”


제가 되묻듯이 말하자 카트린이 숙였던 고개를 들었습니다.

그리고 카트린의 손에는 마법 지팡이가 쥐어져 있었습니다.


“?!”

“안심해. 위해를 가하는 게 아니니까.”


그러면서 카트린은 지팡이를—— 클레망에게 겨눴습니다.


“멈춰라, 카트린! 뭐하는 거냐!”

“알고 계시겠죠, 아버님. 제 마법은——.”

“그, 그만둬! 나는 아직 끝나지 않았어! 제국으로 몸을 피해서 재기를——!”

“소거(이레이저).”


카트린의 지팡이에서 강력한 마력이 느껴졌습니다.

눈으로는 볼 수 없는 그 무언가가 클레망의 몸을 감쌌습니다.


“싫다! 잊고 싶지 않아! 내가 아니게 되어 버리는 건!”

“…….”

“누군가……! 누군가…… 나를…… 구해…….”


마치 힘이 다 빠져나간 것처럼 클레망의 몸이 풀썩 꺾이며 축 늘어졌습니다.


“……죽인 건가요?”

“으음—. 마음을 말이지. 살짝 어루만져 줬어.”

“당신의 마법은 모습을 감추는 마법이 아니었던 건가요?”

“그런 방식으로 쓸 수도 있지만 근본적으로는 전혀 다른 마법이야.”


카트린은 에마한테 지시를 내려서 클레망을 데려가도록 했습니다.


“내 마법은 기억의 소거야.”

“기억 소거?”

“응. 항상 모습을 감추고 있는 건 시각 기억을 부분적으로 삭제시켰던 거였어.”

“솜씨가 좋네요.”

“에헤헤. 하지만 이 마법의 원래 용도는——.”

“?!”


저는 방심하고 있었습니다.

위해를 끼치지 않겠다는 카트린의 말을 곧이곧대로 믿었던 겁니다.

카트린의 마법은 저를 향하고 있었습니다.


“카트린……!”

“클레어 짱한테서…… 아니지, 모두의 기억 속에서 나에 관한 기억을 지우도록 할게.”

“무슨……!”

“내가 저지른 죄는 목숨으로도 다 갚을 수 없어. 나는 이제부터 모두의 기억 속에도 남지 않은 채로 살아갈 생각해야.”

“그건…… 존재를 부정하는 거나 마찬가지잖아요!”


누구의 눈에도 띄지 않고, 누구의 기억에도 남지 않는다—— 더 이상 그런 삶은 살아있다고 말할 수 없습니다.


“그렇지. 그게 나한테 주어진 벌—— 이 저주받은 인생이 살아갈 길이라고 생각해.”

“다시 생각해보세요!”

“미안해, 클레어 짱.”


손발에서 힘이 빠져나가면서 동시에, 머릿속에서 무언가 소중한 것들이 사라져가는 걸 알 수 있었습니다.


“저는 결코 잊지 않겠어요! 당신이 무슨 짓을 하든, 반드시…… 절대로!”

“클레어 짱…….”

“두고 보세요, 카트린! ……아무리 당신이 강한 척 해도…… 저는…… 다 알아…….”


의식이 멀어져갑니다.

저는…… 누구랑, 무슨 얘기를 하고 있었죠……?


“……역시 싫어…… 싫다고……. 하지만…… 그래도!”


흐려져 가는 의식 속에서 누군가의 눈물 젖은 목소리가 들렸습니다.

하지만 그게 누군지는 더 이상 떠올릴 수 없었습니다.


“안녕…… 클레어 짱.”


마지막으로 들려온 목소리는 너무나 슬퍼서, 저는 뺨을 타고 흐르는 눈물을 억누르지 못한 채로 잠에 빠졌습니다.



*以下的文章由大狗Dagou为我们翻译。大狗Dagou,谢谢你。


第76话 再见


“那边那位,稍等一下。”

“……!”


从音乐厅的后门出来之后。

相关人员和演奏家使用的那条近道已经变得一片黑暗了。


我叫住了一位身穿燕尾服、看起来像是演奏家的男性。

乍一看似乎并无可疑之处,但我很好奇他为什么要隐藏气息,而且还打算从后门之中出去。


“请问,有何贵干?”

“不好意思。有几件事想和您确认一下。请给我一些时间。”

“非常不巧我急着赶路。那么就此告辞——”

“你敢动的话我就射击。”

“!”


我拔出从大厅之中出来后归还给我的魔法杖,指着那个男人。

虽然不知为何,但总觉得这个男人似乎有什么不协调的地方。

或者说是,既视感。


“您到底要做什么。”

“手—请给我看一下您的手。”

“请?”


男人听从了我的话。

我靠近了过去观察他的手。

在舞台上,这个男人和皮皮一样拿着小提琴。

在其手上,可以看到拿着小提琴的弓。

但是,我的疑惑还是没有消除。


“是手镯啦—小克莱尔。”

“!变身的魔道具!”

“嘁……!”


男人焦急地咂了咂嘴,转身想要逃跑。


“老爷大人,到此为止了。”

“!?艾玛,你这家伙,要背叛我吗!?”

“我的主人只有凯瑟琳大小姐一人,我不记得自己曾侍奉过老爷大人。”

“放开我!快放开我……!”


制服男子的人是艾玛。

将其摆布于地上的手法,实在不像是一介女佣可以拥有的技能。


“艾玛……还有凯瑟琳也。老爷大人……也就是说,这个人是……?”

“嗯。艾玛,把手镯—”

“我明白。”


艾玛扯下了男性的手镯,男性的身姿在转眼之间便发生了变化——


“克列蒙特·阿沙尔……到底是,怎么一回事……?”

“音乐家之中,大概有阿沙尔家安排的魔法使。可以在突发情况时更换身体,应该是依靠一种叫王车易位*(Castling)的魔法吧—?”


(*译注:王车易位是国际象棋中一种特别着法,可同时移动己方的王和其中一只车,详情可以自行查询。)


凯瑟琳坐在轮椅之上。

她用手灵巧地转动着车轮,朝着这边前进。


“凯瑟琳!你这家伙,忘了我的养育之恩了吗!”

“关于这个,我衷心感谢您,义父大人。不过,还请您放弃吧—?请别再给阿沙尔家抹黑了—”

“你说什么!”


克列蒙特被艾玛压在身下,扭动着身体,试图逃脱。


“我就是阿沙尔家族!只要我还活着,阿沙尔家就不会终结!”

“早就终结了哦,义父大人,十年前的那一天……”

“十年前……?凯瑟琳,你在说些什么?”


我有一种不详的预感。

有一种,好像发生了什么不好的事情的预感。


“我必须向小克莱尔道歉。”

“凯瑟琳……?”

“十年前,杀了小克莱尔的母亲大人,也就是米莉亚大人的人——是我哦。”

“—!?”


一瞬间,我没有理解她说了什么。

不,我的耳朵听清楚了。

但是我的心中拒绝理解这句话。

因为,怎么会有这么荒唐的事情!?


“你在说什么啊,凯瑟琳。母亲大人不是在事故当中去世的吗?”

“那个事故是事先安排好的。我是义父大人派来的暗杀者。”

“什么……从刚才开始你都在说些什么啊!”


我不得已拿起了魔杖。

凯瑟琳一动也不动,只是坐在轮椅上微笑。

一如既往的微笑。


“那天,与弗朗索瓦家的马车相撞的平民马车上,同乘的还有我和三名暗杀者。我们伪装成事故,拦住了弗朗索瓦家的马车,然后袭击了道尔大人。”


凯瑟琳仿佛自言自语一般继续说着。


“是米莉亚大人抵御了我们的袭击。”

“母亲大人……”

“道尔大人大概不擅长攻击魔法吧?总之,迎战的是米莉亚大人。米莉亚大人在道尔大人乘坐的马车上施了某种防御魔法将其封印之后,孤身一人、赤手空拳地和我们战斗。”


凯瑟琳闭上了眼睛。

仿佛在回忆当时的事情。


“……然后呢……?”

“从结果上,我们打成了平手。我们这边除了我之外都失去战斗力了。我自己的左腿也受了重伤,无法行动。而米莉亚大人—”

“……母亲大人……?”

“她是为了保护我才去世的。”

“怎么……回事……?”


面对我的疑问,凯瑟琳再次睁开了眼睛。

那张面庞因为我未曾见过的自虐神情而扭曲了起来。


“因为还有监视者。监视者察觉到了我们的失败,试图毁灭证据。我和四个同伴差点被消灭。不过,米莉亚大人救下了我们。”

“母亲大人……”

“一切都结束之后,我使用了自己的魔法,让这一切都消失了。在现场的所有人都以为这只是一起普通的事故。”

“凯瑟琳……你到底……”

“所以啊,小克莱尔。是我杀了米莉亚大人,我一直都想对你道歉。对不起。”


凯瑟琳在轮椅之上深深地弯下了身子。


“事到如今……你还想怎么办……!这样的……这样的事情……!”

“我不会寻求你的原谅。毕竟我做了那种事情。但是,我希望可以补偿你。”

“补偿……?”


听到我的询问,凯瑟琳抬起头来。

然后,她的手握紧了魔杖。


“!?”

“放心吧。我是不会伤害你的。”


说着,凯瑟琳把魔杖指向克列蒙特。


“等等,凯瑟琳!你要做什么!”

“您知道的吧。义父大人,我的魔法是——”

“不、不要!我还没有结束!我要逃到帝国,东山再起—!”

“清除(Eraser)。”


从凯瑟琳的魔杖之中感受到了强大的魔力。

有什么看不见的东西包裹住了克列蒙特。


“不要!我不想忘记!我会变得不是我的!”

“……”

“谁来……!谁来……救救我……”


克列蒙特的身体仿佛失去了力量,一下子瘫倒在地。


“……你杀了他?”

“没有。我只是玩弄了一下他的心灵。”

“你的魔法不是隐身吗?”

“虽然也有这种用法,但从本质上来说并非如此。”


凯瑟琳向艾玛发出了指示,让她带着克列蒙特离开了。


“我的魔法是消除记忆。”

“消除记忆?”

“嗯。我之所以可以隐身,是因为把别人的视觉部分记忆给消除了。”

“真是灵巧的用法呢。”

“欸嘿嘿。不过,这个魔法本来的使用方法是—”

“!?”


我大意了。

我完全相信了凯瑟琳说的“不会伤害我们”。

凯瑟琳准备对我使用魔法。


“凯瑟琳……”

“我会消除小克莱尔的……不,所有人对我的记忆。”

“什么……!”

“我所犯下的罪状,死不足惜。我决定今后不给任何人留下有关我的记忆,就这样活下去。”

“这……不就是在否定自己的存在吗!”


谁也看不见,谁也记不住——这样的存在方式已经不能说是活着了。


“是啊。这就是我给我自己的惩罚——这样被诅咒的生存方式。”

“再重新考虑一下!”

“抱歉呢,小克莱尔。”


在四肢感到无力的同时,我感到脑中有什么重要的东西正在慢慢消失。


“我绝对不会忘记你!无论你对我做了什么,我都绝对……绝对不会忘记你!”

“小克莱尔……”

“好好看着吧,凯瑟琳!……无论你多么逞强……我都……知道……”


意识逐渐变得模糊起来。

我……和谁说了什么来着……?


“……果然还是不要……不想这样……。但是……但是!”


在淡薄的意识之中,听到了谁带着哭腔的声音。

我已经不知道那是谁了。


“再见……小克莱尔。”


最后听到了如此悲伤的声音,我无法抑制脸颊流下的泪水,就这样陷入梦乡。

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