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旧作のリニューアルです。


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~~以下はSSです~~

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作者:成崎直


 私立古佐津学園――地域でも屈指の大都会の一等地にある、いわゆるお嬢様学校である。

 落ち着いた校風に、落ち着いた生徒が特色の学校だが、今日はいつになく色めき立っていた。

 学年一の淑女と言われる神城花奈(かみしろ・はな)が屠畜されるからだ。

 神城花奈は、学園の中でも、とりわけ育ちの良い生徒だった。

 父は資産家、母は一世を風靡した大女優という誉れ高い血筋に生まれ、本人は成績優秀、スポーツの才能もあり、さらに美人という、まさに才色兼備の非の打ち所がない生徒である。

 そんな彼女が、いったいどんな死に様を披露するのか? 花奈の屠畜が決定した時からというもの、校内はその話題で持ちきりになっていた。

 「花奈さんは弓道部所属だから、弓道に絡めた死を迎えるのではないか?」

 「母親が時代劇女優だから、艶やかな和服で最期を迎えるのでは?」

 「あまり派手なことはしない性格だから、普段の制服のまま逝くのではないか…」

 そして、生徒たちが期待を膨らませる中、屠畜当日を迎えたのである。


   *   *   *


 屠畜が行われるのは、体育館に設けられた特設会場だった。

 体育館には生徒や教職員の数のパイプ椅子が用意され、ステージの上や、体育館の端に大きなモニターが設置されている。これで、屠畜の様子を中継するのである。

 学校長の挨拶のあと、司会担当の教師による、屠畜を受ける神城花奈のプロフィールの読み上げが始まった。生まれ育ち、これまでの学校内での活躍。それらと並行して、ステージのモニターには、彼女の写真が映し出されている。



 左に流れた長い前髪、主張の強い大きな瞳が特徴的で、肩まで伸びた長い黒髪に、紺地に赤いリボンのセーラー服。

 優しく微笑むその姿は、まるでアイドルの宣材写真のようである。

 卒業アルバム用に撮影したこの写真の他に、入学してからの様々な花奈の姿が映し出されているが、生徒たちの関心はそこには向いていなかった。

 ――いったい、彼女はどのような屠畜を望んでいるのか。

 プロフィールの読み上げが終わり、司会がいよいよ屠畜の話題に触れ始めた。

「神城さんは、今回ご自身でどのような屠畜にするか、提案されました。今までの神城花奈のイメージを壊したい、と仰っていました」

 ――今までの神城花奈のイメージを壊す?

 聴衆の頭の中にはクエスチョン・マークが浮かんでいた。

「言葉でくどくどと説明するよりも、実際に見てもらったほうがいいでしょう。では、神城花奈さんにご登場いただきます。神城さん、入って来なさい」

 司会の声に合わせて、神城花奈が入ってくる。その姿に、会場内にどよめきが走った。

 ――どぎつい赤いジャージに身を包み、足元は黒いシャワーサンダル。髪は金に染まり、手入れがされておらずボサボサの状態。

 普段の花奈からは想像できないヤンキースタイルに、ショックを受ける者、言葉を失う者、いつもと違う服装でも着こなしている花奈に関心する者など、聴衆の反応は様々だった。



 花奈はマイクに向かって言った。

「驚いた? 実は、今までこういう格好をしたことがなくて……最期くらいいいかな? って、お願いしてみました」

 その口調は紛れもなく花奈のもので、姿形は変わっても、目の前にいるのは神城花奈のままだという事実に、聴衆はひとまず安心した。

「早速、屠畜に入りたいと思います。神城さん、心の準備は?」

 司会の言葉に、

「大丈夫です。一生に一度しかない機会なので、楽しみたいと思います」

 と花奈は柔和な微笑みをたたえながら言った。

 屠畜はいわゆるシチュエーション屠畜と呼ばれるものだった。

 これは、ただ殺されるだけではなく、殺される瞬間を演出したいときに用いられる手法で、例えば、海外地域に行かずに海外地域で殺されるような体験をしたい場合、あるいは現実に存在したいファンタジーの世界で殺されたい場合などに使われる。

 方法は様々で、VRゴーグルで屠畜される本人だけがシチュエーションを楽しむこともあれば、スクリーンに映像を投影して会場ごと違う世界を演出したり、また演劇のようにセットを組み、俳優を用意する場合もある。

 今回は演劇の手法が採用された。

 別室にセットを組み、それを中継することで花奈の最期を演出するのだという。

 花奈が体育館を後にし、映像を流すために照明が落ちる。

「映像を流す前に、神城さんから今回の屠畜についての説明があります」

 司会の言葉の後、プツンという音が聞こえ、花奈の声が流れ始めた。別室から放送しているのである。

「今回、私はヤンキーの少女になって、悪い男に襲われて殺される設定で屠畜されます。実は、一回だけ女優みたいなことがしてみたくて……せっかくやるなら思いっきり自分とは真逆の性格の女の子を演じてみようと思って。ヤンキーファッションもしてみたかったし、ちょうどいいかなと思ってこのような形になりました。演出家の方をお呼びし、実際にちょっとした映像も撮影したので、映画のような感覚で見ていただけると思います。楽しんでください。でも、お芝居は初めてなので、ちょっと変なところがあっても、そこは許してくださいね」

 照れたように笑う花奈。

 花奈の声が途切れ、モニターの電源が点けられる。

「それでは、映像を流します」

 司会の声とともに、映像の放映が始まった。


   *   *   *


 夜、シャッターばかりが下り、営業している店がほどんどない寂れた商店街。

 その一角にあるコンビニの前に、いわゆるヤンキー座りをしている少女がいた。

 ジャージに身を包んだ花奈である。

 口に煙草を咥え、ライターで火をつけようとしているが、パチパチと火花が散るばかりで着火する気配はない。

「……くそ」

 ポケットから、新しいライターを出すも、結果は同じだった。

「はあ? マジかよ」

 苛立つ花奈に、がっちりとした体型の男が近づいてくる。

 男はライターを差し出し、「使う?」と火をつけた。花奈は咥えたタバコに火をつけ、思いっきり吸い込んだ。

「コンビニの前なんだから買えばいいのに」

 と、男は笑った。

「めんどくさい」

「そんなシケたライターで頑張る方がよっぽど面倒でしょ」

「火、ありがと」

 横にあった灰皿に煙草を押しつけ、立ち去ろうとする花奈。

「せっかく火つけたのに消しちゃうの?」

 歩く花奈の後ろから、男が近寄ってくる。

「なんか用?」

「ね、お姉さん、今ひとり?」

 返事もなく歩き続ける花奈。男は構わず、

「ちょっと、お姉さん、無視しないでよお。ね、なんか寒くない?」

 男はあからさまに寒がってみせる。

「近くにホテルあるんだ。ちょっとあったまっていこうよ」

「ついてこないで」

 振り返り、男を睨みつける花奈。だが、男は邪悪な笑みを浮かべて、

「お姉さん行くアテあんの?」

 その言葉に、歩みを止める花奈。

 何かを見透かしたような台詞に、花奈は無言で男を見ることしかできなかった。

 場面は変わり、公園。

 花奈と男以外は誰もいない。

 二席あるブランコの右側に花奈がおり、左側に男がいる。

「へえ、彼氏にフラれて、そのまんま出てきちゃったんだ」

 ブランコを漕ぎながら男は言った。

 黙ってうなずく花奈。

「忘れちゃおうよ。前の男なんて。手伝うからさ」

 今度は首を横に振る花奈。

「え~、なんでさ」

 花奈は苛立った様子で頭を掻き、ポケットから煙草を取り出した。

「おっと」

 男はブランコから降り、ライターを差し出す。火がついた煙草を、花奈は大きく吸いこんだ。

「なんで?」

 花奈は睨むように男を見つめ、

「あんた、あいつに似ててムカつく」

 男はそれを聞くなり噴き出して、

「似てる? 顔が?」

 花奈は男の顔を見据えたまま頷いた。

「ははは……そりゃ嫌だわ」

「だからほっといて」

「でもさ、だったら尚更じゃん。彼氏のこと忘れるくらい、気持ちよくしてやんよ」

 ニヤリと笑う男。

 花奈は何か嫌な予感を察知して、公園の出口に向かって走り出した。

「おい、待てよ!」

 場面は変わり、今度は路地裏。

 走っている花奈。

 ここまで駆けてきたが、助けを呼ぼうにも人っ子ひとりおらず、ただ男から逃げることしかできなかった。

 ついに走り疲れ、足を止める花奈。

 はあはあと息を切らしていると、

「つ・か・ま・え・た~」

 と、男が後ろから抱きついてきた。

「くそ、離せ!」

「逃げ足早すぎんだろ、くそ」

 男は花奈を思い切り突き飛ばした。

 尻餅をついてしまう花奈。

「へへへ、もうここでいい、やらせろ」

 ゲスな笑みを浮かべて、ズボンを下ろす男。

 その姿を見た花奈の顔は、みるみる恐怖に染まっていく。

「怖いか? 最初から素直にしときゃ、こんなところで、こんな怖い思いしなくて良かったのによ」

 後ずさりする花奈。

 ドンと、背中に何かが当たる。

 壁だ。

「ここ、行き止まりだから逃げらんねえよ」

 じわりと近づいてくる男。

 花奈に手を伸ばすが、しかし、花奈の手がその腕を掴んだ。が、抵抗するわけではなく、花奈は男に向けて扇情的な微笑みを向けた。

「お、やる気になったのか? だったら優しくしてやるよ」

 男は花奈の胸に触れ、花奈も男の体に触れる。胸板から、ゆっくりと股間に手を流す。

「積極的だねえ」

 目を閉じ、感触を楽しむ男。

 花奈はその隙をつき、思い切り男の腕に噛み付いた!

「痛え!」

 腕から離した花奈の口許には、血がべったりとついていた。

 すかさず逃げ出す花奈。

「畜生、待ちやがれ!」

 怒りに満ちた男の足は、先ほどよりも早く、すぐさま花奈の体を捕らえた。

 花奈の体を地面に突き飛ばし、思い切り蹴りを入れた。

「う……」

 鈍い声を出し、その場にうずくまる花奈。

 その目は泣きそうになっていた。

「このアマ、ぶっ殺してやるからな!」

 男は花奈の体に馬乗りになり、手で首を絞め上げる。

「かは……」

 引いた画で、花奈は手で男の体を叩き、足を暴れさせて抵抗するも、びくともしない。

 男は怒りに満ちた表情で、全ての力を花奈の細い首に注いでいる。

 男の顔の次は花奈の顔がアップになった。

 目を大きく開き、充血させ、舌を出しながら苦しみ抜いている。

「うっ……うっ……」

 という喘ぎ声の合間に、ケホケホと咳のような音を出していた。

 カットは足元に映る。

 大きくバタつかせている足。その勢いでシャワーサンダルが脱げ、両足とも裸足になった。

 今度は手元。男の腕に爪痕が残るくらいに力を込めるものの、男はまったく動じる様子がない。

「死ねえええ!」

 男は叫ぶと、仕上げとばかりにさらに力を込めた。

 男の後ろから肩を舐めるように花奈の顔が映る。目は一点を見つめ、小刻みに痙攣していた。

 次に足の裏が映り、足の指先まで力が込められていたが、やがて、ゆっくりと力が抜けていった。

 男の腕を掴んでいた花奈の手も、だらりと力なく垂れていく。

 ようやく男が手を離すと、花奈の顔が露わになった。

 目はびっくりしたように見開かれ、口はぽかんと開いたまま。顔はほのかな赤色に鬱血しており、首には真っ青な指の跡がついていた。

 股間からは大量の小水が溢れ、足元まで流れている。

 手足を大きく開いた、はしたない格好で花奈は死んでいた。

 はあはあという男の吐息が聞こえ、そのまま男は走り去った。

 画面には花奈の死体だけが映っている。

 人ひとりおらず、エアコンの室外機やゴミ箱などが並ぶ寂れた路地裏。

 お嬢様の中でも指折りの存在だった神城花奈は、おおよそ似つかわしくない場所で最期を迎えたのである。



   *   *   *


 花奈の屠畜映像はここで終わった。

 生徒はみな映像に釘付けになっていた。

 日頃の花奈の姿とはあまりにもかけ離れた姿で動くギャップ。

 初めての演技とは思えぬ、役になりきった花奈の芝居。

 お淑やかな少女の喫煙という、見てはいけないものを見てしまったかのような光景。

 少女を一方的に蹂躙するという、嗜虐心をくすぐる展開。

 そして、清楚な美少女の最期とは思えぬ、はしたない姿に変わり果てた遺体……。

 この映像はアーカイブされ、しばらく男子生徒の自慰の道具として使われた。

 花奈の身体は、観賞用に用いられる予定であったが、ただの観賞用途ではなく、映画などの美術品として使用されることになった。生前の演技の存在感と、母譲りの美貌が評価されたためだ。

 現在でも、ミステリーものの映画の死体役や、富豪の邸宅に置かれる人間剥製といった美術品として花奈の姿を見ることができる。

 花奈は、屠畜によって、永遠の命を手に入れたのである。


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Comments

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I am confused, is she killed while wearing VR or is she killed when acting in that scene?