【肉畜証明書】屠畜の日☆君ありて幸福-或る百合心中の話-【SS付き】 (Pixiv Fanbox)
Content
コミッション作品です。
百合心中の話で、物語・イラストともは依頼主様の依頼により作成したものです。
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~~以下はSSです~~
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SS作者:あんごー
二輪の花が咲く。
水に濡れ、活気を得たように花びらを広げたその花は、もう1つの花と合わさって、雄しべと雌しべを擦り合わせる。
何度も、何度も。
空が白み、日が昇り、日が陰り、空が星々の光に彩られても、花の行為は続く。
種の繁栄を目的としたものではない。
ただ、その行為のみを目的として、花は押し合い、絡み合う。
新たな水が花を濡らす。
いや、それは水ではない。
蜜だ。
花は相手の花へ。自分の歓喜と愛情を蜜に変えて相手に塗(まぶ)す。
相手の花が自身の蜜に塗(まみ)れ、自分の匂いが染み付き、それに相手が今度は相手の蜜で自分に匂いを付けて答えてくれる。
そんな至福の時が流れていく。
やがて、限界と幸福感の絶頂を迎えた花たちはひと際激しく絡み合い、
「愛してる……愛してるわアヤメちゃんッ」
「わた、しもッ……愛してます……ジィンッ……ジィンッ……」
互いに愛の言葉を紡いで絶頂し、意識は微睡みの中に消えていった。
* * *
ルルイチ学園2年生である市村菖蒲(いちむら・あやめ)が交換留学の為にこの地を訪れたのは、半年程前になる。
異文化交流を通じて見分を広め、より上質な肉畜となる為に故郷であるルルモエから遠く離れたこの場所にやって来た。
菖蒲がホームステイする事になったのはこの街に住む一人暮らしの女性、ジィン・アッコラの家だった。
ルルモエと姉妹都市であるこの場所には幾つかホストファミリーが居り、留学生はその中から行き先を選ぶ。
剣道部に所属し、受賞経験を持つ菖蒲がジィンの家を選んだ理由はただ一つ。ここに和室があったからだ。
「ふふ、アヤメちゃん」
「あっ……もう、ジィン」
ジィン宅にある和室。そこは今、菖蒲の稽古場になっている。菖蒲はそこで毎日竹刀を振り、唯一の観客であるジィンの為に演武を披露する。
最初の頃は菖蒲1人だったが、元々和室を作るほど異文化に興味を持っていたジィンは暇を見付けては菖蒲の稽古を見学するようになった。
そして稽古の合間に何かと質問するジィンとそれに丁寧に答え、時に実演して見せる菖蒲。
共通の話題と一緒に過ごす時間。
2人が肉体関係を持つようになるまで左程時間は掛からなかった。
「ダメです……汗、かいてますから」
「アヤメちゃんの匂い、ワタシ好きですよ?」
今日も稽古が終わった菖蒲をジィンが背後から抱き締め、汗ばむ菖蒲の体を堪能していた。
鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、剣道着の隙間から手を入れて胸を揉む。
「や、めて……お願い」
そんな事を口にしながらも菖蒲の抵抗は弱い。それらを1つのアクセントとしてプレイを楽しんでいるようだ。
2人の性欲は否が応でも高まっていく。
そして、いつもの様に唇が重なり、
「あ」
そうになったところで、菖蒲が声を上げる。
「アヤメちゃん?」
盛り上がってきたところで水を差されてしまったジィンは、やや不満そうな声を上げる。それでも、菖蒲が見詰める方を見る。
そこにあるのは障子の開いた窓。そして、窓の外の庭に咲いていたのは深紅の花だ。深く、どこまでも澄んだ綺麗なその色に、菖蒲は見入っていた。
「ジィン……あれは?」
呆けた声で、菖蒲が尋ねる。
「あれ?あれはゼラニウムという花です」
菖蒲の問いに何でもないように答えつつ、ジィンは行為を再開した。
ただ、最後に小さく「ワタシの心、ですよ」と呟いたジィンの悲しい声音が菖蒲の耳に残った。
* * *
充実した日々というものは、誰しも時間の流れを早く感じてしまう。
菖蒲がジィンの家にやって来て、半年近くが経過した。交換留学の期間は半年。もうすぐ菖蒲は故郷に戻らなければならない。
そんな状況下で2人がする事と言えば、やはり性交渉しかない。性格的にも肉体的にも相性の良い2人は日を追うごとに関係を深め、今では朝目覚めてから時間さえあれば寝る前まで互いに体を求め合うのが日常にすらなっていた。
そんな関係がもうすぐ終わりを迎える。
「アヤメちゃん、アタシ、近い内に屠畜を受ける事に決めました」
いつもの様に激しく互いの体を愛し合った後、ジィン真剣な面持ちでそんな事を言ったのはそんな時だ。
「え?」
それを聞いて、菖蒲は愕然とする。肉畜にとって、屠畜は人生で最も重要なイベントだ。それは結婚にも等しい、いやそれ以上の重要な話。それが今日決まる、というのもけして珍しい事ではない。
ただ、お互いに肉体関係を持ち、今でも十分に充実しているはずの現状では些か性急過ぎる。
「屠畜命令を受けてもいないのに、どうして急に……」
菖蒲がそう言ってしまうのも無理からぬ話だ。
しかし、困惑を浮かべる菖蒲を他所にジィンは微笑む。
「別に突然の決定ではないんです。アタシがずっと考えていた事です」
そう言って語り出すジィン。
彼女が憧れている屠畜方法は、この地域に古くからある処刑法である『腰斬刑』。これは胴体を腰の部分で切断して死に至らしめる方法で、現代で選択される事はほぼ無いマイナーな処刑法だ。
この世界では屠畜の際は本人の望みが極力叶えられる。ただ、ジィンが望むのは『剣の一閃で腰斬される』というものだ。これが厄介な話であり、胴体を一度で両断する程の技量を持った者はそう居ない。基本は屠畜場で巨大な押し切り機にかけられて切断している。
ジィンが望むのはあくまで人の手によって斬られる事。だがその願いが叶えられる事はなく、ジィン自身半ば諦めていた。
そんな時だ。菖蒲がやって来たのは。
「……アヤメちゃんと離れたら、2度とこんな機会はないと思います。そして、何よりも……アタシはアヤメちゃんの手によって死にたいのです……」
自分の望みが叶えられず、ただ延々と満足して屠畜される人々を見ているだけの日々。
ジィンがそんな辛い日々を送っていたとは思わず、菖蒲は驚きで目を見張る。それと同時に、長年抱いてきた思いを菖蒲の手で果たしたいと願うジィンの申し出に、菖蒲は感動した。
「わかりました。この地域の文化の一つである『腰斬刑』……ぜひ処刑者として体験させていただきたいです」
「ありがとうございます、アヤメちゃん……」
「その見返りに、私も、私の地域の文化の一つをジィンに披露させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?……『追い腹』という作法を」
「オイバラ……?」
「愛する人が死んだ後、追って切腹することです」
「アヤメちゃん……!!」
菖蒲の告白に、今度はジィンが驚愕する。
「ジィンが『剣で腰斬されること』を憧れているように、私は『愛する人の後を追って切腹すること』を憧れています。私の愛する人は……ジィン、あなたです。大好きです、ジィン、愛しています。だから、私の追い腹……許してくれませんか?」
「ああっ、アヤメちゃん、アタシも愛しています……」
幸せの涙を流したジィン。
この瞬間、2人の関係はただの肉体の繋がりから本当の恋人に昇格した。
その日は一段と激しく、甘いひと時を過ごす事となったのだ。
* * *
恋人になったその日から、2人の日々は更に加速し、濃密なものへと変わった。
菖蒲はルルモエに戻る手続き取り消す旨を学園に連絡。その後、両親や友人に事情を話し、最後の別れを告げた。ジィンも職場に連絡を入れ、身辺整理を済ませた。
ある程度の準備が整った後はただ快楽を貪る日々だ。
朝起きてどちらとなく肌を合わせ、食事や睡眠以外の時間ほぼ全てを性交に費やした。
これは無為な時間ではない。むしろ、これまでの人生んの中で最も有意義で、掛け替えのない時間だった。
今日も、2人はベッドの上で愛し合い、幸せを享受していた。
そんな幸せの合間、ピロートークの際に、菖蒲は1人ベッドから離れ、何処かに隠していたらしい花束を持ってきた。
「はい、ジィン。私からのプレゼントです」
そう言って差し出されたのは赤い花の束。ジィンの家の庭に咲いているものとは色違いのゼラニウムだ。
それに対し、ジィンは思わず眉を顰める。
それも仕方がない。
赤いゼラニウムの花言葉は「贔屓(ひいき)」と「庇護(ひご)」。解釈にもよるが大抵の場合、嫉妬心や嫌味を示すものだ。
ゼラニウムは一見すると綺麗な花だが、その花言葉は良くないものが多い。例えば、庭に植えられていた深紅の花の言葉は「憂鬱(ゆううつ)」だ。
「アヤメちゃん……これ」
本来ならば嬉々として渡すべきではない花束。それを知らないならば教えなければならない。
そう思い、指摘しようとジィンが口を開く。
しかし、菖蒲は笑みを浮かべ「ジィン」と名前を呼ぶ。
「言いたい事は分かります。けれど知っていますか?こちらの地域と私の住んでいる地域ではこの花の言葉は違うんですよ」
何が言いたいのか。それが分からないジィンは困惑を浮かべる。それに対して、菖蒲は楽し気に笑い、そっと顔を近付ける。
「この花の花言葉は……『君ありて幸福』、ですよ」
耳元で囁かれた言葉。
それにジィンは目を見張り、菖蒲を見る。
そんなジィンに向けられる菖蒲の笑み。ほんのりと赤みがかったその笑顔は、年相応の、まさに恋する乙女の笑みだった。
「アヤメちゃん!!」
「きゃっ」
菖蒲の余りの可愛らしさに、そして愛おしい彼女からの嬉しい告白。感極まったジィンは両手を広げて菖蒲に抱き着き、そのまま押し倒す。
「も、もう……ジィンったら」
「ごめんなさい。でもワタシとても嬉しくて」
「私だって、同じ気持ちですよ?」
頬を赤らめてはにかみながら、菖蒲はジィンを見詰める。ジィンも菖蒲を真っ直ぐと見返した。
「アヤメちゃん……」
「ジィン……」
互いに名前を呼び、2人は再び互いの体を、体力が尽きるまで貪り合った。
* * *
待ち望んだ屠畜の日を迎え、2人は今浴室に居る。
一人暮らしにはやや広く感じる浴室だが、ここでも体を求め合う2人にとっては丁度いい。
当然と言えば当然だが、2人は全裸で絡み合っている。口を吸い、舌を絡め、唾液を飲ませる。体を密着させ、自分の胸で相手の胸を押し潰して刺激し合う。空いた手は腰に回して固定し、もう1つの手で尻を刺激する。
「あんっ」
と甲高い声を上げ、菖蒲の体が跳ねる。
「ふふ、どうしたんです?アヤメちゃん。まだ2本しか入ってませんよ?」
菖蒲を焦らすようにゆっくりと指を前後に動かしながらジィンは言う。関節をほんの少しでも曲げれば更に声を上げて菖蒲が悶える。互いに気持ち良くなろうとしているはずなのだが、今では完全にジィンのペースだ。
「ジ、ィ……んっ」
「これ以上しないで」と懇願しようとする菖蒲だったが、それを察したジィンが先に口を塞いでしまう。
羞恥心によるものか、いつもに比べて強く抵抗する菖蒲。しかし、どれだけ抵抗しようと、キスと愛撫で高められた性欲がそれを阻害する。力は上手く入らず、思考も愚鈍になる。
徐々に、だが確実に。
菖蒲の動きが鈍くなり、
「っ……ッ」
絶頂を迎え、体の筋肉が一気に張る。そして、すぐに弛緩してその場に座り込んでしまう。
「ふふふ、可愛いわ」
果てた余韻で呆然とする菖蒲を見下ろして、ジィンは微笑む。
このまま菖蒲を攻めても良いのだが、それは後の楽しみにしておく。
ジィンはこの時の為に蛇口に取り付けていたビニールホースを手に取る。あり得ない話ではないが、通常、ビニールホースを風呂に備え付けている家庭は少ない。そんなものは必要ないからだ。
しかし、今回に限ってはそれがどうしても必要だった。
「ん、ふぅ」
ジィンはホースを両手で持ち、腰を少し上げると少し躊躇しながら尻に宛がう。緊張した面持ちで指を使いアナルを広げて差し込んだ。
「あふっ」
思わずそんな声が出る。
それでも、一度やってしまえば踏ん切りが付いたのか、ジィンは両手でホースを中に押し込んでいく。
距離にして5cm程差し込んだ辺りで、入れるのを止める。そこまで入れてしまえば後は手を放したところで取れはしない。
「んっ……いぃ……」
ほんの少し筋肉が動くだけで、ジィンの口からは声が漏れ出す。
自然と穴が閉まろうとするが、硬いホースが邪魔をして閉める事ができず、本来出す為の穴に異物が入っている違和感。何より、菖蒲の前でアブノーマルな行為をし、尻からホースを生やしている羞恥心。それらは否が応でもジィンの感情を高ぶらせる。
いったい何をしているのかと言えば、腸内の掃除、浣腸だ。
ここしばらく、2人はまともな食事を取っていない。理由は簡単で、腸内を綺麗にする為だ。
2人はこれから腹を切る。当然の事ながら、腹を切れば中身が出てくる。その中に物が入っているのは余りよろしくない。屠畜には綺麗さが求められる。ならば隅々まで綺麗にしておきたいと思うのは女性として当然の話だろう。
「…………」
緊張と興奮を胸に、ジィンは蛇口を捻る。
たちまちホースの中を水が流れ、肌にほんのりと冷たさを感じた次の瞬間、水が一気に入ってくる。
「ッ……っ」
腸内に水が勢いよく逆流する感覚。不浄の穴、排泄する為の器官に物を入れて更に中へ流し込んでいる背徳感。それを愛する人のすぐ目の前で行っている羞恥心。
思わず声を出しそうになるが、口を塞いで何とかそれを抑え込む。
しかし、水はそんなジィンの事などお構いなしにどんどんと中に入っていく。勢いが緩む事などなく、腸内を水で満たし、みるみる内にジィンの腹部が膨れていく。それはまるで胎児の成長を早回しで見ているかの様な光景だ。
「ジィン」
名前を呼ばれる。
下を向けば、先ほどまで呆けていた菖蒲がジィンを見ている。
「あぁっ……」
菖蒲に見られている。それを意識しただけで、ジィンは軽い絶頂を迎える。
そうして、ジィンの腹部は出産間近の妊婦の様に大きく膨れ上がった。
「ジィン、抜きますよ?」
ジィンの限界を感じたのだろう。菖蒲は蛇口を閉めて確認する。ジィンはそれに黙って頷く。
「ん」
菖蒲がホースを掴み、ゆっくりと引き抜いていく。徐々に抜けていくホースを伝うかたちで、少量の水が外に排出する。弾ける様な音がして、ホースが全て抜き取られる。その際に、ジィンがキュッと肛門を閉めた。
腹が張って苦しい。そう思いつつ、何とか余裕がある事にジィンは安堵の溜息を吐く。
そんなジィンの様子を見て、菖蒲はそっと自身の持つホースをジィンに渡す。
「さぁ」
そして、ゆっくりと立ち上がり、後ろを向く。
「あなたが、入れてください」
そう言って恥ずかしそうに頬を染めながら、菖蒲は自ら腰を上げて尻の割れ目を開く。視線を落とせば肛門が物欲しそうに口を開閉している。
余りに扇情的なその姿に、ジィンは息を飲む。
「ええ……分かったわ」
そう言った声は震えていた。
ジィンがホースを宛がい、菖蒲が声を上げる。
ジィンは菖蒲の体を傷付けない様に、慎重に押し込み、少しでも気が紛れるようにと胸を揉む。
ゆっくりと、体に侵入してくる異物。他人に尻を見られ、あまつさえ物を捻じ込まれる。その感覚に、菖蒲は自分の理性や常識が崩されていくような錯覚を覚える。
「あ、は……んぃっ」
我知らず、はしたない声を出す。それすらも、今の菖蒲には心地良かった。
「入りましたよ」
ジィンが優しく告げる。
「アヤメちゃん、アナルでこんなにも感じるなんて、とってもいやらしいわ」
「ジィンこそ……いっぱい感じてたくせに」
非難と罵倒。文字だけならばそう感じる言葉も、今の2人には誉め言葉であり、欲情を誘う甘言だ。
それを証明する様に、2人は唇を重ね合う。その際、ジィンは蛇口を捻る事も忘れない。
「んんッ」
事前通告もない注水で菖蒲は驚きの声を上げる。だが、一瞬の事だ。すぐに目が蕩け、構わずにジィンの口を吸い始める。
菖蒲の腹が膨れていく。
それに構わず、ジィンは菖蒲の胸を、菖蒲はジィンの秘所をそれぞれ刺激し合う。
先ほどのジィンよりもやや早めに水が注入され、すぐにジィンと同じくらいの大きさになる。
「ジィ、ンッ……私……も、うっ」
「ワ、タシも……アヤメ、ちゃん……一緒にッ」
散々刺激し合った2人は我慢の限界に達し、切羽詰まった声を上げる。そして、勢いよく水が噴出する音が聞こえたのはそのすぐ後だった。
堰を切り、透明な水が噴き出す。それと同時に、絶頂を迎えた2人は互いに向けてアヘ顔を晒しながら失禁する。
降り注ぐ水と零れ落ちる水。それらが派手な音を立てて床を濡らしていく。
気をやった2人は互いを支えながらゆっくりとその場に崩れ落ちたが、愛撫は止まらない。
そのまま2人の行為は続き、気付けば数回の絶頂、そして激しいセックスへと発展していった。
* * *
「ジィン・アッコラです。今から腰斬刑によって屠畜されます。私の死に様をご覧ください」
「はい」
ジィンの言葉に、菖蒲は静かに頷く。
「市村菖蒲です。今から愛するジィン・アッコラさんに殉死する為、追い腹をします。私の割腹を篤(とく)とご覧ください」
「はい」
菖蒲の言葉に、ジィンは満面の笑みを浮かべて頷く。それに釣られて、菖蒲も笑みを浮かべる。
多少の手違いもあったが、2人は本来の目的を果たすべく、和室に居る。互いに向かい合い、死ぬ前の『最後の告白』を行っていた。
屠畜の際に行われる最後の告白。
それは大抵、より多くの人に見てもらう事を前提として撮影し、その為に改まった言葉を言う。だが、これはカメラに収める不特定多数の誰かに宛てた者ではない。
それを伝える相手は目の前のただ1人だけ。
これは言わば、結婚式で行われる愛の誓い。永遠の愛を誓う言葉だ。
「ちゅっ」
「あむ」
どちらとなく、唇を合わせ、舌を絡ませる。この時までに、あれだけ散々互いの体を求め合い愛し合っても、やはりまだ足りない。
もしも許されるのならば、互いが屠畜命令が下る日を迎えるまで愛し合い続けたい。そんな事を思いもした。
そう思いながらも、ジィンは菖蒲に斬られる事を心から望み、菖蒲もジィンの後を追って死ぬ事を望んだ。これ以上、その瞬間を先延ばしになどできない。
「えむ」
「れろ」
最後に一度、互いに舌を巻き付けてゆっくりと離れる。するすると解ける舌が2人の心残りを示す様に唾液でアーチを描き、千切れて落ちていく。
続いて、2人は自分の秘所に赤いゼラニウムを擦り付ける。
互いの愛を繋いだ大切な花。
それに自身の蜜をたっぷりと塗していく。
「ジィン」
「アヤメちゃん」
そして、指輪を交換する様に手を伸ばす。
「あむ」
「はん」
けれど、花が行き着いたのは互いの口だ。
それはさしずめ、結婚式で行われるファーストバイト。切り取ったウェディングケーキを食べさせ合うそれだ。
口いっぱいに広がる愛しい人の味。そう考えただけで興奮し、口からは唾液、秘所からは愛液が止め処なく分泌される。
壊れ物を扱うように、丁寧に丁寧に舌で転がしながら蜜を嘗め取り、喉の奥に流していく。
そして最後に、喉を鳴らして花を飲み込む。
「あ」
途端に2人の口から同時に声が漏れる。
名残惜しい。もっと、味わっていたかった。
そんな思いが透けて見えるため息のような声。
「うふふ」
「あはは」
2人は目を合わせて笑う。
互いの女の象徴、愛の証、そして遺品。それが自分の体の中にある。死ぬまでのたった数瞬の間にでも胃の中で溶ければ、それが自分自身の一部になる。
愛する2人は永遠に1つになれる。
これ程までに喜ばしい事などありはしない。
考えただけで、陶酔感でよろけてしまいそうだ。
(あぁ……アヤメちゃん。とっても綺麗よ)
火照りと甘い疼きの中で、ジィンは菖蒲の姿を見てそう思う。
艶やかで川の流れにも似た癖のない美しい髪。しなやかな曲線を描く四肢。じわりと掻いた汗が鎖骨を流れ、谷間を伝い、柔らかな感触の腹を下っていく。先程蜜を零した秘所は濡れそぼり、控えめな陰毛を煌めかせる。
愛おしいとかそんな個人的な事情を無視しても、ただただ目の前に居る少女は美しかった。
そんな彼女が自分の最期を看取り、そんな彼女の最期を自分が看取る。
なんと幸福な事だろう。
幸せ過ぎて怖いくらいだ。
「アヤメちゃん……見て。私を、見て」
こんな幸せは自分1人で独占して良いものではない。
そう思った時には、ジィンは立ち上がり、両手を胸と秘所に当てがって腰を振っていた。
目の前で始まった淫らなダンス。
蠱惑的に腰がうねり、魅惑的な曲線を際立たせる。
零れ落ちる愛液の濃密な匂いが鼻腔をくすぐり、菖蒲の心を搔き乱そうとする。
事実、菖蒲はジィンの姿に見入っていた。
手に力が籠る度に胸が指を包み込んで形を変えていく。指が動く度に粘り気を帯びた水音が鳴り畳に染みができていく。太ももの肉が弾み、腹が歪み、媚声が菖蒲を誘っている。
ジィンという魔性が菖蒲を虜にしていく。
食い入る様に、それらを凝視する。
目の前にあるのは魔性。そして、この世で最も美しいもの。
一瞬たりともその美しさを見逃さず、全てを脳に焼き付けようと見続ける。
自分はこれから、この美しいものを斬る。美しいものとは短命だ。一度目を逸らせばもう枯れてしまう。
だから、菖蒲は最も美しいものが最も美しくなるその最高の瞬間を斬って、永遠に留める。
不安はある。
いくら菖蒲が剣道で確かな腕を持っているとは言え、竹刀と真剣では勝手が違う。
それでも。
(……必ず、ジィンを斬ってみせる)
その一心が菖蒲を支配する。
「あ、はぁ……」
自分を見る菖蒲の目付きが変わった。
見入るのではなく、見詰める。
その目はまるで刀の刃の様に鋭いものだ。
愛する人が全身全霊を自分に傾けている。その事実が、ジィンに軽い絶頂を与える。
「ア、ヤメちゃんっ……お願いねぇ」
最後であり、最期を予感したジィンは快楽で蕩けた声を上げてくるりと背を向ける。
腰が動く度に癖のある長い髪が揺れる。発情し、発汗した背中がキラキラと輝き、その美しさを増している。腰の動きに合わせて形の良い臀部が揺れ、割れ目が物欲しそうにする秘所の様に開閉する。
「…………」
静かに構えを取る。
片膝を立て、鞘に納まった刀に手を添えて鯉口を切る。
目を閉じて、深く、長く呼吸をする。
数度の呼吸で僅かに残っていた恐怖や不安が消えてなくなる。
一切の曇りもない澄んだ心。
ただ斬る事に意識が集中し、目を開ける。
「あぅッ」
遂にその瞬間が訪れる。
ジィンの口から漏れる声が切羽詰まったものへと変わる。手の動きが勢いを増し、上げる声も激しさを増す。
「アヤメ、ちゃん……アヤメちゃん、アヤメちゃんッ」
何度も菖蒲の名を呼ぶ。菖蒲からは見えないが、その顔は快楽で呆け、犬の様に舌を出す浅ましいものだ。
それすら、菖蒲ならば愛おしいと感じるだろう。
「あッ……ひゃへ……」
名前を呼んだのか、喘ぎ声を上げたのか。どちらとも付かない声を出し、ブルッと震える。
果てた。
そう感じた瞬間、菖蒲の体が動く。
空を凪ぎ、僅かばかりの感触を残して肉を斬る。
「あ」
そんな呆けた声がジィンの口から零れ、それに合わせるように秘所から潮を吹いて体が二つに別れる。
やや鈍い音を立てて、ジィンの体は床に落ちる。
その光景に、菖蒲は絶句する。
悲惨だからではない。
余りに美しかったからだ。
広がる血、零れ出る臓物、斬られた肉の断面、汗ばんだ肌、恍惚に染まる顔。
どれも、ゾッとしてしまう程に美しい。
先程とは別の意味で、菖蒲はそれに見入っていた。
くるりと、ジィンの目が動き、菖蒲を見る。
余りの美しさに我を忘れていた菖蒲は慌てて短刀を手に取る。
「すぅ……ふぅ……」
そして深呼吸をし、ジィンを見返して笑い掛ける。
刃を腹に向け、
「つ、ぃッ」
躊躇なく皮膚を突く。
痛みに思わず声を上げるが、まだ浅く脂肪層を刺しただけだ。
「ひ、つぅ……あッ」
腕を動かし刃が皮膚を裂く度に菖蒲が声を上げる。だが、それはいつしか濡れた声に変わる。
神経を過度に刺激して、傷付ける。正常に痛みを感じているはずの体は、しかし、菖蒲には甘い刺激に感じられた。
自分は今まさに追い腹をしている、それをジィンが見てくれている。その事が菖蒲を興奮させ、脳内麻薬を分泌させる。
横一線に切れ目を入れ終わり、短刀を離す。だがすぐに再び腹に突き立てる。
刃が皮膚を少し傷付けただけで、菖蒲はブルッと身震いする。
「あはぁ」
痴女の様に蕩けた声を上げ、笑みを浮かべて、菖蒲は刃を深く突き立てる。
その瞬間、強い快楽で潮を吹く。
絶頂で一瞬硬直したが、菖蒲は一気に腹を切る。
「ッ」
今度は気絶しそうな程の強烈な刺激が脳を突き抜け、声すら出ない。
思わず体が大きく仰け反り、天を仰ぐ口からはピンと張った舌が突き出す。既に興奮で勃起していた乳首は痛い程にそそり立ち、秘所からは止め処なく愛液が滴る。
「ジ、ィン……」
何とか体勢を立て直し、愛しい彼女の名を呼ぶ。
視線を向ければ、ジィンはまだこちらを見ている。菖蒲は手を退けて十文字に切った腹をジィンに見せる。
小さく動く唇からは完全に血の気が引き、もう長くない事は容易に想像できる。しかし、その表情は恍惚として幸せに満ちていた。
やがて、僅かに動いていた唇の動きが遅くなり、遂には動かなくなった。
愛する人の死を目の前にし、菖蒲は震える。
「き、れい……」
ポツリと出たのはそんな言葉だ。
そして、菖蒲の体が振れてゆっくりと前に倒れ込む。
ジィンの胸に顔を埋める形で倒れた菖蒲。
恍惚か至福か。
そんな表情を浮かべながら、何度かの痙攣と潮吹きの後に、菖蒲自身も動かなくなった。
最後の瞬間まで、2人は思い合い、重なり合っていた。
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