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このお話はpixiv連動の続きや関連の制作予定が無い為FANBOXのみに掲載してます。

エロ要素と言うよりも「変化者の結末が多少グロい」的な意味でR-18Gとなります。


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 私は風香ちゃんの事が好き、大好き。

 でも私は知っている、風香ちゃんは私よりも好きな「物」がある。


「あ、風船だ!」


 風香ちゃんと街中を一緒に歩いていた私。

 街中で風船を見掛けた彼女は、目をキラキラ輝かせて風船に興味津々。

 風香ちゃんは風船がとても大好き、恐らく私の事よりも。


(はぁ……私も風船になりたいな)


 そうすれば私だって、きっと風香ちゃんにもっと好きになってもらえる。

 なんてね、そんな事ありっこないけどね……そもそも風船になる事なんて無理だもの。

 でも私の風香ちゃんへの想いは、風船よりも大きく膨らんでいると思うの。もう破裂しそうなくらい。


「どうしたの? 美空ちゃん」

「何でもないよ」


 風船を貰ってきた風香ちゃんは、きょとんとした顔を私の事を見ている。

 私の気持ちを言ったところで、本当の意味になんて気付いてもらえる筈がない。

 だって私達、女の子同士だもの。

 でも好きになっちゃった気持ちに嘘なんて付けない、もう私の想いは止められない。


 風船なんて所詮「物」なのに、そんな「物」に対して嫉妬するなんて……正直、自分でもどうかしてると思う。

 思うけど……それ程、風香ちゃんの事が好きって事だよね。


「あ、風船飛んじゃった!」


 風香ちゃんは風船から手を離してしまい、風船は虚しく空の彼方へと飛んで行く。

 とても広い空を自由に、只々自由に。


(ああ、私も風船のように自由になれたらな……)


 そうすればきっと、私のこの想いだって報われるかもしれないのに。

 自由にはなれない、女の子同士での恋なんて許されない世界。

 私にとってはとても生きづらい世界でしかない……。


「うわあーん、風船飛んでっちゃったー!」


 まるで小学生の子供のように泣きじゃくる風香ちゃん。

 ……うん、しょうがないよね。だって私達、6年生とは言えギリギリ小学生だもの。


「風香ちゃん、よしよし」


 私は風香ちゃんの頭をポンポンとして宥めてあげた。


「うぅっ……ぐすん」

「大丈夫、私が着いているから」

「風船じゃなきゃやだあ!」


 風香ちゃんがそんな事を言うものだから、私は少し心にグサッときてしまった……。

 私は風船なんかに負けちゃうんだ、風香ちゃんにとっては私なんかよりも風船がいいんだ。

 私はそんな自分の気持ちを押し殺し、その場から歩き出して……。


「美空ちゃん、何処行くの? あたしを置いてかないで……」


 私はそそくさと歩いて来た道を戻ると、1人1個しか貰えない風船を貰った。

 私達って小学生だから、周りの目さえ気にしなければこういうのは簡単に貰えるんだよね。

 まあ、私は少し恥ずかしいけど……小学生と言っても、もう6年生だもの。


「はい、風香ちゃん。これ」


 私は来た道を戻り、風香ちゃんの元へ戻ると風船を手渡した。


「え、貰ってきてくれたの? ありがとう美空ちゃん! 大好き!」


 大好き、か……私にとって、それは残酷な言葉でしかない。

 風香ちゃんは風船を貰ったきてくれたお礼で言っただけだから。

 そこに私の思うような真意はないんだもの。


「じゃ、行こっか。今度は風船、離さないようにね?」

「うん、美空ちゃん!」


 すっかりとご機嫌が戻った風香ちゃん。

 まるで幼い子供のような仕草で、にぱあと笑う彼女。

 私はこの子の笑顔が大好き、本当に本当に大好き……。



(はぁ……風香ちゃん)


 家に着いた私は、ベッドの上に仰向けで寝そべりながら彼女の事を考えていた。


「風香ちゃん、どうしてあんなに風船が好きなんだろう……私も昔は好きだったけどさ」


 でもそれはまだ私が小学校低学年だった頃の事。

 今では風船なんて子供っぽいと思うし、すっかりとそこまで興味を引く物ではなくなってしまった。

 風香ちゃんの前では絶対に言わないけどね、口が裂けても言えないよ……。


「ああ神様、どうして私は風船じゃないの? どうして私は人間に生まれてしまったの?」


 もし私が風船に生まれていたならば、風香ちゃんに大好きになってもらえたかもしれない。

 でもそんな事、思うだけ無駄ってものだよね。

 所詮私は人間の女の子、美空でしかないのだから。


 私の想いが報われる事なんて、絶対にありえない……。


「今日は遊び疲れた……眠くなっちゃった」


 学校もお休みで風香ちゃんと遊び疲れた私は、そのままうとうとと眠りの中へ落ちて行った。


(むにゃむにゃ……あれ、ここ何処だろう)


 私はいつの間にか知らない場所に居る事に気付いた。

 何だか周りがはっきりとしない、変な空間。


「ここ、何処なの?」

「私を呼んだのはあなたですか? 美空さん」

「え、誰なの? それに何で私の名前を」

「私ですか? 私は神様ですよ」


 か、神様!? な、何で神様が私の元に!?


「あ、分かった。きっとこれは夢だ」

「ええ、夢ですよ。人間の認識で言うならば、夢と言うべきでしょうね。私達にとっては違うかもしれませんけど」

「どういう事なの?」

「夢は神様にとっては別次元とか色々言い出すと、美空さんには難しい話になりますね。気にしないでくださいね」

「は、はあ。それで、神様が何故私の夢の中に?」

「美空さん、自分の事をどうして風船じゃないの? と言いましたよね」


 そういえば……ああ神様、と言ったような気がする。


「もしかして私が呼んだって、その事?」

「ええ、神様の気まぐれですけどね。報われない美空さんの願いを叶えてあげようと思いまして」

「私の願いを叶えてくれるの!? それってつまり、私を風船にしてくれるって事!?」

「美空さんがそれを望むならば。私の力で風船にしてあげますよ」

「お願いします! 私、風香ちゃんに好かれたいんです! 風船にしてもらえますか!?」


 神様の話を聞いて、私は即決で神様に頼み込んだ。


「1つその前に大事な確認があります。いいですか?」

「大事な確認?」

「風船として生まれ変わったら、もう二度と元の人間には戻れませんよ。それでもいいですか?」


 人間の姿に戻れない……で、でも、このままだと私の想いは絶対に報われないもの。

 ならば私、風香ちゃんに好かれる為なら……人間を捨てたっていい。

 私の想いは半端な気持ちじゃない、本気だもの!


「いいです! だからお願いします!」

「分かりました。ではあなたを風船に生まれ変わらせます。リラックスして、楽ーにしてくださいね」


 神様の言う通りに力を抜いて、楽ーにして……段々と、意識が遠くなる。

 そして気付けばいつの間にか、私の夢はそこで途絶えていて……。



(あれ、私……)


 何か変な夢を見た。不思議と夢の内容ははっきりと覚えている。

 美人な神様……女神様? に出会って。私を風船に生まれ変わらせると言って。

 どうせ夢だから、夢の中くらいではせめて……と思って、軽はずみにお願いしますと答えちゃった。


 夢の中の出来事だもの、そんな事まさか本当に起こる訳なんて……え?


(私の姿、何処?)


 ふと私の視界に入った鏡。

 するとそこには、あるべき筈の私の姿がなかった。

 ないどころか、私の姿なんて元の原型すらもない。


 鏡には大きく膨らんだ赤い風船が映っていた。


(この風船の色、大きさ、形、何だか見覚えがある)


 空気に身を委ねるかのように、ゆらゆらと揺れる大きな風船。

 不思議な事に、私の体はその風船に合わせて揺れていた。


 理由なんてすぐ分かった。この風船、私だ。


(何で? え、だってさっきの出来事って……夢、だよね?)


 せめて夢の中くらいは、と思って私は軽はずみな事を言ってしまった。

 夢じゃないと分かれば、本心で人間に戻れなくてもいいだなんて思うかな? どうだろう?


 と言う事はこれって、つまり……夢なんだ。


(そうだ、きっとこれは夢なんだ。私が風船だなんてありえないもの。私、まだ夢を見てるんだ)


 いくら私がまだ小学6年生だからって、さすがにこれくらいの事は分かる。

 だって、人間が風船になれる筈なんてないもの。


 と、思っていたんだけど……。


「あたしの大好きな風船! この感触、正に風船だよね!」


 気付けば私、風香ちゃんに「ぎゅっ」とされながら、胸に押し当てられていて。

 妙に胸から感じる弾力がリアル過ぎるし、風香ちゃんの体の温もりだって伝わってくる。

 段々と私は本当に夢なのかな、と疑問を抱くようになったけど……。


(きっといつか覚めるよね? だって、私が風船になれちゃうなんてありえないもの。せめて夢の中くらい、風香ちゃんに好きになってもらったっていいよね?)


 どんなに感覚がリアルでも、現実的に考えてこんな事ありえないもの。

 だからどう考えてもこれは夢に違いない、きっと……いや、絶対にそうだよ。


 ならば夢をとことん楽しんだ方がいいよね、楽しまないと損だよね?


(風香ちゃんに抱きしめられてる、愛されてる……私、幸せ)


 正直、風船が物凄く妬ましいくらい。

 風船ならばいつだって、こんな風に風香ちゃんに愛してもらえるんだ。


 風香ちゃんの愛を直に感じられる。こんな幸せならば私、人間捨てたっていい。


「つるつるの手触り、最高! 風船大好き!」

(気持ちいい、風香ちゃんにもっとなでなでしてほしい)


 風香ちゃんは風船な私を沢山なでてくれる。

 ぎゅっとして胸に押し付けながら、沢山いいこいいこしてくれる。

 私、とても幸せ。本当の風船になれたかのように、心の底まで気持ちが凄く軽い。


「あ、風船飛んじゃいそう!」


 風香ちゃんに胸を押し当てられ、少し体がへこんでいた風船の私。

 彼女の胸元を離れると私のへこみは元に戻り、ふわーっと上へ舞い上がって行く。

 どうやら私、本当に心が軽くなっちゃったみたい。


「えいっ! 良かった、掴めた……」


 風香ちゃんは私が飛んで行ってしまう前に、きちんと私の事を捕まえてくれた。


「お部屋の中だけど、隅の方へ行っちゃったら家具があって取れなくなっちゃうもの……もう離さないもん! あたしの大事な大事な風船」


 風香ちゃんが私の事をそこまで大事に想ってくれて、愛してくれて、私の事を捕まえてくれて、本当に嬉しい。

 風船ならこんなにも大事に想ってもらえるんだ……。


 その後も私は彼女の胸の中で、沢山なでなでしてもらえたんだ。



 でもしばらくすると、段々私の中身が抜けて行く感覚がして……。


「何だかしぼんできちゃったな、そろそろ膨らまそうかな!?」


 空気が抜けてきたようで、しぼんでしまった私。

 そんな私にある唯一の空気の通り道に、風香ちゃんは口を付けてくれて……。


(私、風香ちゃんにキスされてる……嘘、嬉しい)


 風香ちゃんは優しく、私を膨らませようとして唇から空気を注いでくれる。


(風香ちゃん……大好き。私、風香ちゃんが大好き)


 もう最高の気分。私、いつ死んだっていいくらい。


「なかなか膨らまない! もうちょっと力を入れないとダメかな!? あれ……んん?」

(嬉しい、私、凄く嬉しい……)

「あたし、空気を入れるのを止めてる筈なのに……風船が勝手に少し膨らんだ? 何で?」


 嬉しさのあまり、私の想いが膨れ上がってしまったのかもしれない。

 私の嬉しさは風船のように膨らんでしまう。


「気のせいだよね? 風船が勝手に膨らむだなんて……んん? それに何だか、さっきよりも少し赤色が濃くなってる?」

(嬉しい、私、嬉しい……でも風香ちゃんとキスなんて、少し恥ずかしい……)


 私は恥ずかしさも混ざってしまい、顔を赤く火照らせてしまったかもしれない。


「ま、まあいいや。早く膨らませちゃお……今度は少し強めにね!?」


 風香ちゃんは大きく息を吸って、ふーっと強い勢いで私に空気を注いでくる。


「少し膨らんできた! あれ、でも何だか風船がやけに揺れている……? まだ浮く程膨らんでないと思うけど」

(何だか心臓が凄くドキドキする……私、鼓動が抑えられない)


 心臓の鼓動が止まらず、私の気持ちは浮き上がってしまう。


「何だかおかしな風船だな!? でもいいや、せっかく美空ちゃんが貰ってきてくれた風船だもん! 最後まで大事にしないとね!?」

(私が貰ってきたから大事にしてくれるの? 嬉しい……)


 本当に私、もう死んでもいいくらい……それ程嬉しい。


『ぷぅー! ぷぅー!』


 風香ちゃんは空気の注入を強めて、沢山私の中に流し込んでくれる。

 風香ちゃん、激しい……そんなにされたら私、もう気持ちがパンパンに膨れ上がっちゃう。


「あともう少し……」

『ぷぅー! ぷぅー!」

「大分大きくなってきた。こんなものかな!? あとは空気口をしっかりと縛って……おっけー! あれ? 何で!?」


 嬉しくて、嬉しくて、私の気持ちは治まらなくて……もう破裂しそうなくらい!


『パァン!』

「あ……風船、破裂しちゃった!? あれれ? 何か勝手に膨らんで大きくなったよね……!? あたしの風船……」


 破裂する直後、遠退く意識の中……風香ちゃんの残念がる声を聞いて……私はずっと錯覚していた事に気付いた。

 風香ちゃんが愛していたのは私じゃなくて、風船だったんだ、と言う事に。


 私は粉々に弾け散ってしまい、もう意識も闇の中から二度と戻る事はなかった。

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