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遠くから投げられたバスケットボール。


綺麗に円を描いてゴールへと一直線に飛んでいく。


シュッと鋭い音を立て、カゴに引っ掛かることもなくボールはネットを勢い良くくぐった。


「おっしゃ!!」


「おぉぉ!!」


「さっすが涼真!!」


「きゃあああっ!!


「涼真君すごーい!!」


その見事なシュートに、仲間内からは感嘆の声が上がり、ただの部活だと言うのに見学に来ている女子達からは黄色い歓声が飛んだ。


「当然っしょ!」


バスケで汗を流しながらも、爽やかな笑顔で親指を立てて仲間内に自慢げする姿は、誰がどう見てもかっこ良かった。



武宮涼真。



バスケに限らずスポーツをそつなくこなし、勉強もいつも学年で上位にいる。


性格は明るく誰とでも分け隔てなく接し、いつも輪の中心には涼真君がいた。


健康的に焼けた肌に男らしく整った顔立ち、しかも背も高いとくれば、女子連中からの人気が高いのも納得だ。



友達も少なく暗い性格の俺とは真逆で、同じクラスとは言え住んでる世界が違うし、絶対に俺と仲良くなることは無い。




そう思っていた。




「涼真くーん、ここ教えてくれない?」


「いーよ。どれ?」


「この数式なんだけど…」


「あぁこれか。確かにこれ難しいよなぁ。俺も理解すんのにだいぶ苦労したわ。これなら良い参考書あるし、明日持って来てやろうか?」


「ほんと!?めっちゃ優しいー!」


「えー!私も借りたい!」




「涼真ー、今日部活終わったらカラオケ行かね?」


「ごめん!今日バイトでさぁ…」


「まじかぁ!!ってか涼真バイト何やってんだっけ?」


「駅前のスタ○だって。前も言っただろ?」


「あ、なら今日そこで勉強会しよーぜ」


「いーねぇ」


「他の客に迷惑だから止めろ!!」


「はははっ!ちょっとくらい良いじゃん」




涼真君の周りにはいつも人がいたし、いつも楽しそうに笑っていた。



そんな風景を俺は、いつも羨ましく思いながらも、見ていることしかできなかった。



しかしある日、そんな住む世界の違うと思っていた涼真君と、親しくなる出来事があった。


それは俺が自分の席でこっそりアニメ雑誌を見ていた時のこと。


後ろから突然涼真君に声を掛けられたのだ。



「あ、それまど○ギじゃん!俺も見たことあるよ」



「え?」


後ろから急に聞こえた声と、まさか涼真君の口からその作品の名前が出るなんて思わず、驚いて何も答えられずにいると、涼真君はそんなこと気にする様子もなく、「すげぇ面白かったよな!」とニッと笑い掛けてきた。


その笑顔に俺は思わず同性なのにドキッとしてしまい、恥ずかしさでドモってしまい、上手く会話が出来なかったのを覚えている。


「前に動画サイトで芸人が視聴動画上げててさ、それで興味本位で見てみたら想像以上に面白くて、見事ハマッた感じ。菅原は?」


「お、俺も…好き…かな」


正直涼真君は俺の名前も知らないだろうと思っていた。


「おぉ良いね!実はちょっと語りたかったんだけど、俺の周り誰も見てそうな奴いなくてさぁ…」


「そ、そうなんだ」


そんな憧れの対象でもあった涼真君が、今は俺に楽しそうに話し掛けてくれている。


それだけで嬉しさと緊張で頭が上手く回らなくなっていた。


「なぁ、今度一緒に昼飯食わねぇ?語ろーぜ」


「え、えぇ!?だ、だけど…」


あまりにも突然の誘い。


まさか自分なんかが涼真君から昼飯に誘われるなんて思わず、どうして良いか分からない。


それに涼真君がいつも昼飯を一緒に食べているのは、俺とは違ってクラスの上位に位置する男子や女子達だった。


そんな中に自分が入ったら、絶対に空気がおかしくなるのは目に見えていた。


「明日は俺一人で、裏庭のベンチで食う予定だったからさ。菅原も弁当だろ?そこで一緒に食おーぜ」


すると涼真君はそれを察したように、笑顔でそう言ってくれた。


こんな風に相手のことをすぐに考え、俺が気を遣わないように言ってくれる。


だから涼真君はみんなから人気があるんだ。


そう身をもって実感した。


「お、俺で良いの…?」


「ん?どゆこと?」


「え、えっと…あの…俺なんかが涼真君とお昼なんて…食べて良いのかなって…」


「え?なんで?」


いつも友達に囲まれて楽しそうに昼を過ごしているのに、俺みたいな暗い奴と食べても楽しくないだろうし、それに…


「俺と食べたってみんなが知ったら、武宮君が何か言われるかもしれないし…」


涼真君は良い人だけど、その周りがみんなそうとは限らない。


俺は涼真君と昼が食べれて嬉しいけど、涼真君は多分周りの誘いを断って来る訳だし、それで何か言われるのは気が引けた。


目を上手く合わすことが出来ず、モジモジしながら下を見て言う俺は、挙動不審で変に映っただろう。


「………」


俺が言っても暫く何も言わない涼真君が気になり、チラッと顔を覗くと、涼真君は少し驚いたような顔をしていた。


そして…


「菅原ってあんま話したことなかったけど、俺のこと気にしてくれて良い奴なのな」


「え?」


「ははっ、そんな気にしなくても大丈夫だって。その程度で何か言ってくる奴なんて俺の方からごめんだし、それにこんな良い奴な菅原と更に語りたくなった。明日裏庭で待ってるから、来てくれよな!」


「あっ…」


涼真君はまたあの爽やかな笑顔でそう言うと、そのまま行ってしまった。


あまりの出来事に、暫く呆然としていた。





「よっ、来てくれたんだな」


涼真君に言われた通り次の日裏庭へと行くと、そこにはベンチで一人で座る涼真君がいた。


裏庭は思った以上に静かで、生徒は俺と涼真君だけだった。


「ここ良いだろ?あんま人来ないし、たまに昼飯食うのに使うんだ」


「そ、そうなんだ」


確かに裏庭なんて涼真君に言われるまで、存在自体を知らなかった。


校内図を見てなんとか場所が分かった程だ。


「誰かを呼んだのは菅原が初めてだよ」


ニッと笑ってそう言う涼真君。


そんな顔でそう言われたら、只でさえ緊張してドキドキしてるのに、違うドキドキも合わさって胸が破裂しそうだった。


「は、初めてが俺で、良かった…の?」


「勿論。菅原ならここのことあんま言わないでくれそうだし、特別な」


そう言って俺に座るようにと、涼真君は手でベンチを叩いた。




「でさぁ、まさかあそこで死ぬとは思わなくて、そっからこの先どうなんの!?って気になって、気付いたら全部見ちゃってたんだよなぁ」


「はははっ、俺もあそこはびっくりしたよ。ネットでも話題になったしね」


最初は緊張でなかなか思うように話せなかったけど、自分の得意な話題なのと、涼真君が話すのも聞くのも上手いのもあって、途中からは俺も普通に話せるようになっていた。


「アニメってあんまり見る機会無かったけど、見てみると結構奥が深いのな。菅原は他に何かお勧めとかあったりすんの?」


「お勧めかぁ…あの作品が好きだったなら、同じような系統だと…」


俺があらすじを話すと涼真君は興味深々に聞いてくれ、今度見てみると言ってくれた。


その他も色々と話した。


涼真君のカフェでのバイトの話や、部活の話、俺が普段興味が無いような話でも、涼真君の話し方が上手くて、全部面白く感じた。



楽しい時間はあっという間で、昼休みの終わるチャイムが鳴る。


「あぁもう時間かぁ。もうちょっと話したかったなぁ」


涼真君は俺を見てそう言ってくれた。


「お、俺も!!」


だから俺も、恥ずかしがらないで正直な気持ちを伝える。


「え、まじで?菅原にそう言われんのなんか嬉しいな。また飯誘って良い?」


「う、うん!また食べよ」


「オッケー。約束な」


涼真君はそう言いながら、笑って俺の頭をワシャワシャと撫でた。




それから毎週水曜日のお昼は、涼真君と裏庭のベンチで一緒に弁当を食べるのが日課になった。


涼真君は前の時にお勧めしたアニメはちゃんと見てくれていたし、その度に感想を言ってくれた。


そしてそのアニメの話題で盛り上がる。


こんな夢みたいなことを、まさか涼真君みたいな人気のある人とできるなんて。


学校生活を、俺は初めて楽しいと思えた。




一緒に食べるようになって一月が過ぎた時、俺はなんと休みの日に涼真君の部屋に遊びに行く約束をした。


サブスクを契約している動画閲覧サイトで、お勧めの作品を教えて欲しいと言われたのだ。


男のくせに男である涼真君を好きになってしまっていた俺にとって、その誘いは本当に嬉しかった。


いつもより長く涼真君と話せるし、一緒にいれる。


考えただけで幸せだった。



そしてその当日。


涼真君は昼過ぎまでバイトらしく、14時に涼真君の家の最寄りの駅に集合になっていた。


遅れる訳には行かないと30分前から待っていると、涼真君は10分前に私服姿で現れた。


休みだし俺も私服だから当然だが、いつも制服姿やジャージの涼真君ばかり見ていたから、私服がとても新鮮だった。


涼真君の私服はシンプルだけどとてもお洒落で、自分のスタイルの良さを引き立てていた。


いつも格好いいけど、今日は更に格好いい。


内心うっとりしながら、こっちに向かって来る涼真君を見ていた。


「ごめん優、待たせたか?」


「いや、俺も今来たとこだから大丈夫だよ」


仲良くなったお陰で名前で呼ばれるようになり、それになんだかこのやり取りが恋人みたいで嬉しい。


「んじゃ行こっか」


「うん!!」


向かった先は勿論涼真君の家。


涼真君の家はお金持ちが住むような、大きい高級マンションの一室だった。


親は基本的に仕事でほぼ家にいないらしい。


この家には今、俺と涼真君の2人きり。


別に何かある訳じゃないのに、それを考えるとまたドキドキしてしまう。


案内された涼真君の部屋は広く、いつも涼真君から香る香水の匂いがフワッと香った。


「適当に座ってくれ」


涼真君は部屋のベッドへ腰を下ろし、テレビを付けるとそう言った。


折角だからと、俺は勇気を出して涼真君の座るベッドの隣……には座れず、隣だけどカーペットの敷かれた床へと座った。


ほんとはベッドに並んで座りたかったけど、脚だけど涼真を近くに感じることができるし、これなら照れずに済みそうだ。


「でさ、時間もあるし何か優のお勧めのやつ見てみよーぜ」


「あ、うん。涼真君が好きそうなの、契約してるやつで配信してるみたいだよ」


「調べてくれたんだ。ありがとな」


そう言って俺の頭をポンと撫でてきた。


「あっ、いや、そんな大したことないし…」


ちょっとした仕草や言葉に俺はすぐ翻弄されてしまい、頭でも触られると緊張してしまう。


「じゃあちょっとそのお勧めのやつにしてくれるか?」


そう言って俺にリモコンを渡してきた。


それを受け取って操作していると、手持ちぶさたなのか、涼真君は足指をグニグニ動かしている。


黒いくるぶし丈の靴下を履いた、涼真君の大きくて足指の長い足。


「ん……?」


画面の操作をしていると、一瞬鼻に酸味のある匂いが匂ってきた。


「どした?」


「あ、いや、なんでも…」


なんの匂いだと思いながらも、目的のアニメの検索を続ける。


すると今度は涼真君が足を組み始め、俺の顔の近くに涼真君の黒い足裏が近づいた。


「………っ!!」


そこでさっきのが何の匂いだったのか理解した。



涼真君の足の匂いだ……





続きは10月16日に他プランでも公開予定

現在タバコプランにて先行公開中

全文約12400文字

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