碧い海のアーネリス ユィナの休日街歩きSS (Pixiv Fanbox)
Published:
2019-06-28 09:32:26
Edited:
2020-10-20 20:49:58
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2024-01
Content
◾︎
都市モジュールの中を歩く2人。
普段は海に浮く、巨大な都市モジュールに接岸する形でぷかぷか浮くポントゥーンという小さな浮島モジュールで仕事をしているユィナたちアーネリスは、たまに街に来ては流行を敏感にチェックしていた。
「こうしてたまに街に来て、ユィナちゃんアンテナ磨かないと田舎の芋っ子アーネリスから変われないかんね〜♩」
ユィナたちアーネリスはそれぞれの海から都市部に集まってきている。
この惑星は陸地より海の方が遥かに広い。
そして海域ごとに特色のある海に幾つもの種族のアーネリスが棲んでいる。
ユィナも田舎の海域から出てきたアーネリスの1人。
ユィナたちポントゥーンのアーネリスに共通しているのが、とにかく食べるのが好きという事。
行動的で、好奇心の塊のようなアーネリスを見ていると、この海に広く分布した理由がなんとなく分かる気がする。
ユィナ、ホタル、ウツホ、ハルナ、コマチは皆スパークラーという海中球技の選手で、日々ポントゥーンの業務と球技の練習を両立させているため、カラダの締まりが他のアーネリスと比べてもかなり魅力的に締まっている。
いくら食べても端からエネルギーに置換され、スパークラーは光魚という遠隔操作できるものをコントロールするため脳みそのエネルギーをかなり消費し、ブドウ糖も大量にいる。
太らないのは良い事なのだが、エサ代・・・いやいや、食事代がかなりかかるスポーツカーみたいな連中だった。
普段はポントゥーンの仕事が忙しくて中々都市部に来れない。仕事が終わる頃には店がほとんど閉まっていて、来てもあまり面白くないのだ。
この海上都市はいくつかのエリアから構成されていて、それぞれが中心部の都市からアメーバのように伸びた巨大な海上経路によって工業区や商業区などに分けられている。
上空から見ると、青いキャンパスに白いインクを飛ばし、その飛沫がそれぞれのエリアで、細い糸のように見える経路で繋がっているような感じだ。
海上経路の他に海中経路もあり、むしろこの海中経路が主だ。
明るいうちはわからないが、暗くなり海が漆黒に染まると、白いインクを垂らしたような都市がオレンジや黄色、紫などの色とりどりの明かりで美しく彩られ、そのインクの輪郭が淡く青白く輝き、インクの飛沫同士を海中で渡り行くいくつもの光点や、ポイントごとに置かれた海中ブイによって、都市周辺の海が碧く淡く透き通るように輝いてるのが分かる。
海中観光が主要産業の1つのこの海上都市は、周辺の海に光点がいくつも存在する。
色んな海流が流れ込み、暖かで栄養豊富な流れの中で育った色とりどりの巨大サンゴ礁や、その周辺に集まる大小さまざまな魚たちをライトアップする夜のツアーポイントだ。
白い氷山の一角が海上から見えているのがそれぞれの白いインクのようなエリアで、その機能を維持する巨大な氷塊のように海中にも都市の基部が広がり、その周辺のサンゴ礁もライトアップされている。
昼間は青い海にポツンと浮かぶ美しい白い都市が、夜になると活動を開始する、まるでそれ自体が巨大な海棲生物のようだった。
夜の繁華街は工業地区などで昼間働く血気盛んで荒っぽいのも多いので、アーネリスにはちょっと危ない。
ユィナたちが夜行くのは都市部ではなく、ポントゥーンにほど近い小さなカフェ・バーの「スターライト」と言う店。
実家のような安心感のある場所なので、休みの日は刺激を求めてこうやって街に繰り出すのだ。
今日はユィナ以外は皆それぞれ予定があったので、ジンノジョウをつかまえて街に出てきたのだった。
ここに来る前ー
◾︎ポントゥーン
「ユィナ、お前今の腹心地はどんなもんだ?」
「え?うーん、腹・・腹・・・なでなで・・・4分くらい?今から街に出るから、少なめに食べてきたんだもんねー♩」
ジンノジョウは冷やっとする。
お腹をなでなでしながら満面の笑みを見せるユィナ。
エヘヘと今にも口の端からヨダレが垂れそう。
コイツ、めっちゃ食うつもりだ・・・
「ユィナ、すまん。行く前にイルカにエサあげないといけないんだが、うっかり海中ゲートを開くのを忘れてしまってな。ちょっと潜って開けてきてくんないか?」
「ええ〜〜〜 ジンノジョウさんのドジ!今日出かけるって分かってたじゃーん!」
「すまんすまん、ほら、早くしないと練ってきたこのオキアミ団子、ダメになっちゃうから」
厳重にラップで包んでいたバケツの口を開けると、周囲にほわぁと磯の香りが漂う。
瞬間、ユィナの目が変わり、ゴクリと唾を飲み込む。
「し、しょうがないなぁ・・・ユィナちゃんが一肌脱いであげようじゃない」
「助かるな〜 さすがユィナ」
「んもう、あっち向いてて」
ユィナはパーカーのような上着を手近な白い壁にかけ、ミニスカートをするりと脱ぎおろす。
スカートを履いていても、常時下に着ている下着のようなスポーツブラのようなビキニが丸出しなのに、何故かこういう時は異性を意識するのか、見られるのを恥ずかしがる。
ユィナはインナーのスポーツビキニとニーソだけの姿になると、いそいそと腕にも手袋をつけ始める。
アーネリスの着る手袋とニーソは特殊な繊維を織り込んでおり、海水に触れると人魚のカラダになってしまう手足の変化を抑制してくれる。
「この周囲のアーネリス用のシャワーポイントは・・・あったあった。これですぐに着替えも出来る♩よし!じゃあちゃっちゃっと終わらせちゃおう!」
張り切るユィナのビキニがキュッとしまり、胸元と下半身に生地が少し食い込み、適度な弾力が分かる胸とお尻の丸さがくっきりと露わになる。
アーネリスに変わると表皮がヌメり帯びるため、水中の激しい動作でズレ落ちないようにぴったりとフィットするのだ。
ホタルやコマチのように、たぷんたぷんと揺れる程ではないにしても、決して小さくないユィナの胸は、歩く衝撃でしっかりとした量感を伴ってわずかにゆさと揺れる。
ぺたんと桟橋の縁に座り、ニーソの足を海につけると、みるみるうちに肌色だったユィナのカラダが白色に変化して、耳もとんがり歯もギザギザに変わる。
下半身が人魚になっていないアーネリスはクリーチャーのように見えるが、陽光や白い桟橋、その隙間から覗く水面のゆらゆらと反射する光を受けて、
ヌメりを帯びた白い肌のやわらかく膨らんだ胸、腹、フトモモと、人間となんら変わらない四肢が振りまく色香がドキッとくる。
光の加減で、水面と青空を写しこんでブルーの差し色が入った大きな黄色の瞳の奥の縦長の瞳孔がキュッと細くなったり、とんがった耳の中に入っている軟骨が透けて見えて、耳がトビウオの羽のような構造をしているのが分かる。
たまに、耳についた水を払おうとプルプルと動かす姿が生物感があって不思議。
白い肌の下、目や胸・腹など血の集まる部分には薄っすらと赤みがかかっている。
ジンノジョウはついついユィナを見てしまうが、ユィナの目にはジンノジョウの手に持つバケツから漂ってくるオキアミ団子しか映っていない。
「ごく・・・そ、それじゃゲート開けてくるっ」
ぬるりと溶け込むように海に入るユィナ。一緒にウニギアのハマちゃんもちゃぽんと入ってユィナに追従する。
ユィナが海中のゲートを開けると、イルカ達が数匹待ってましたとばかりになだれ込んでくる。
お腹を空かせた生き物の勢いにユィナは本能的に危機感を感じる。
「この子たちに・・食べ物・・とられる!」
ユィナの頭が野生の動物レベルに落ちる。
アーネリスの下半身ではないので推力が思うように出ない。
ユィナはイルカのヒレを掴むとしがみつく。
「おーきたきた、よしよーし」
ジンノジョウがバケツのオキアミ団子をにぎにぎしてポイっと宙に投げる。
ご飯を食べる順番は大体決まっている。
イルカは頭がいいので、待てる。
ここに待てないのが1匹混ざっていた。
「はむっ」
1番目に口を開けていたイルカを押しのけてユィナがオキアミ団子を口に入れる。
アーネリスになると味覚が若干魚よりになるらしく、オキアミ団子などはようするに人間で言うミートボールのような感じになるらしい。
つまり、何個でもいけちゃう!
「もっ、もっ・・・こく・・・んっ・・・んふー・・・おいしー!」
イルカに凝視されながらユィナがほっぺを膨らませて団子を食べ、ごっくんと喉を鳴らす。
一瞬の静寂ののちイルカの怒涛の抗議が始まるが、ユィナも負けない
「おめー!ユィナ!順番あるだろ!」
「うっさい!毒味してやってんのよ!アーネリスが先!」
イルカのオデコとユィナのおでこがグリグリとぶつかる。
アーネリスのおでこにある感覚器とイルカの超音波で意思疎通ができてしまうのだ。
大人気ない・・・と思いながらイルカもジンノジョウもその様子を見守る。
だが、ジンノジョウ的には狙い通り。
ユィナ、めっちゃ食うからここでちょっと腹に入れさせないと・・・
ユィナが食べるのを計算して多めに作ってきたのだ。
まるで母親のような気遣い、そして巧妙にイルカの餌やりを手伝わせるという大人のしたたかさ。
どうだユィナ、大人をナメたらいかんぞ!
ジンノジョウは口の端を少し歪め、流れるように順番待ちするイルカ達に団子を投げていく。
食べたイルカ達はざぶーっとジンノジョウの前に出てきて鼻を撫でてもらい、また口を開けて団子を放ってもらい、そのままバックして水に戻っていく。
1、2、3、4・・・8、9
ジンノジョウは10匹目を終えると、虚空に向かって団子を投げる。
すると、白い肌の11匹目が空中でパクッと団子を飲み込み、水しぶきをあげて潜ってくるとツツーっと先ほどのイルカのように背中で滑ってジンノジョウの足元に到着する。
目をキラキラさせながら重力で潰れ気味の胸元で指と指をくいくいさせ、シッポがあったら確実に振ってる勢いのずぶ濡れでぬらぬらしているユィナ。
他のイルカ達はもうゲートから外洋にでており、残りの団子はユィナの分だ。
ジンノジョウはコネコネした団子をニィと笑いながらユィナに見せる。
「はわ〜〜〜〜〜」
とユィナの目がキラキラと輝き、ぐぐ〜と丸出しの白いお腹が鳴る。
無駄な肉の無いユィナの体、鎖骨から肋骨に綺麗な曲線を描く丸い胸がたぷっと乗って、キュッと寄せ上げして1本の深い谷間を作り、うっすら骨が皮の上からツンと突き出た腰骨と恥骨、そしてムチっとしなやかな筋肉の詰まった白いフトモモが陽光に照らされる。
「か、かわいい・・・」
普段は半魚人とユィナをからかうジンノジョウだが、人間の女の子の体と同じ見た目をしながら、肌の色も構造もまるで違う異種族のユィナが醸し出す不思議な可愛らさしと色香にドキッとする。
「あーん♡」
ユィナが口をぱかーっと開ける。
本人はもうぱかーっとバッチコーイ!口に入れてんかー!と開けてるつもりなのだが、ジンノジョウには口をすぼめ、舌と口内で溜まる唾液が糸をひきながら唇が小さく開く様子がスローモーションのように艶めかしく見える。
ユィナの綺麗なギザギザの白い歯が今か今かと団子を待つ。
ジンノジョウはできるだけユィナの体を見ないように、口に団子を近づける。
ガッチーン!と音がして指先にあった団子が綺麗さっぱり無くなる。
「あっぶー!」
ジンノジョウがユィナのその勢いに飛びのく。
んぐんぐんぐっ と頬を赤らめたユィナが団子を味わう。
こくっと喉を鳴らし、お腹に収める。
喉を通り、肋骨が膨らみ食道を通過して胃に落ちる様子が見えるようだった。
「もっともっとー♡」
団子に夢中のユィナがジンノジョウに向かってカラダをモジモジさせて言う。
アーネリスは欲望に忠実で人を惑わすのが上手い。
ジンノジョウは手でコロコロ転がすと、ユィナの舌にぽんと乗せる。
お団子1個、お団子2個。
実に美味しそうに食べるユィナにジンノジョウはついつい与えてしまいそうになるが、流石にこの後楽しみにしている街の喰い歩きを楽しめなくなるのはかわいそうだと思い
「ほれユィナ、あんまり食べるとお腹に入らなくなるぞ」
「んー いーの。ちょうだい〜 オキアミ団子すき〜」
駄々っ子幼児退行を起こし気味にこの瞬間の幸せを貪るユィナ。
「街で飲みたいのあるっていってなかったけ?確か・・・オーシャンブループニプニーダとかいう」
「街・・・おーしゃ・・・プニプニーダ・・・!?」
ユィナの目に理性の光が戻り、ガバッと上半身を上げる。
「ジンノジョウさん!そうだよ! 街! 街行かないとだよ!こうしちゃいらんない!」
さっきまで酒に酔ったように猫なで声だったユィナがすくっと立ち上がると、シャワーポイントまでトタタタと走る。
「1つに夢中で3秒後には忘れてまた次・・・まるで金魚みたいなヤツだな」
ジンノジョウが呆れたように言う。
「ま、これで多少は腹に入っただろうから、たかられてもそこまでの痛手にはなるまい・・・」
シャワーポイントはポントゥーンに簡易的に設置された海水を落とすシャワールーム。
「プニプニ、プニプニ]
ユィナは一人でブツブツ言いながらシャワールームでカラダのヌメリを落とす。
アーネリスの皮膚は水辺から上がると構造が変化して、海水に適したアーネリスの肌の時の名残がヌメリとして残ってしまう。
普通にしていてもいくらか待てば流れ落ちるが、シャワーだとさらっと簡単に取れる。
ユィナはタオルでカラダを念入りに拭き、ウェットジェルで両脇腹のアーネリスの時に呼吸で使うスリットを優しく撫でる。
ここは少し湿らせておかないといけないのだ。
スポーツブラの圧着を緩め、フィット感を調整する。
ミニスカートに足を通し、いつものパーカーのような上着を袖に通して、特殊な形状のサンダルシューズを履いて、手首につけたアクリルの腕輪のような情報端末で時間を見る。
ヤバイ、オーシャンブルー・プニプニーダ、人気だから売り切れちゃったら、ヤダ!
「ジンノジョウさん!行こう!」
◾︎露店街1
「よかった〜 オーシャンブルー・プニプニーダ残ってた!」
「えらい人気だなー 飲み物飲むのにこれだけ並んだのは初めてかもしれん」
オーシャンブルー・プニプニーダは、透明のボトルの中で美しいブルーグラデーションを描く炭酸水の中に、透明のプニプニしたモチモチ食感のまるっこい粒が入っている。
ボトルの淵には果物が添えられていて、トロピカルな感じ。
「手に持てる孤島の風景って感じだな」
「あ、ジンノジョウさん詩人なんだー この箱庭感が人気なんだよ〜」
ちゅーとユィナが炭酸水を飲む。
「あ、これね、 全部飲んじゃダメだよ。3分の2くらい残して。この線が描いてあるとこまでね」
「おう」
「飲んだ?じゃあ淵に刺さってるこの実を入れてみて」
ユィナが赤い小さな実をプニプニーダの中に入れると、ブルーグラデーションがだんだん紫とオレンジのグラデーションに変わる。
「おー!こりゃ凄いな。夕焼けって感じだな」
「サンセット・プニプニーダっていうんだって。1つの味で1杯の量多いっていう意見を聞いて閃いたんだって」
「なるほどなぁ、たしかに若い子はいいが、大人になるとそんな飲めないしな。ちょっと飲んで、途中で味が変わるの楽しめるのはおトク感あるな。見た目も綺麗だし」
「このプニプニは何をイメージしてるんだろうな。泡ぶくか?」
「なんかクラゲみたいだよ。プニプニしてるんだけどコリコリしてるのがリアル」
「流石海洋生物、いろんなクラゲ食ってきた意見は重みが違うな」
「・・・ジンノジョウさんってちょいちょいアーネリスをおちょくってくるよね」
ユィナがジト目でジンノジョウを見る。
ニィと意地悪く笑うジンノジョウ。
「むー」
ユィナは忌々しそうに夕焼け色のプニプニーダをほっぺを膨らませて飲み込む。
◾︎露店街2
ユィナとジンノジョウの食べ歩きは始まったばかりだ。
露店街は活気がある。
次に向かった店はアカミルガパオパスという貝料理どんぶりを出す屋台だ。
アカミルガパオパスは辛さを調節できる。
ミル貝のコリコリとした歯応えとチロチロ見えるタコの脚、香辛料で顔がミルミル赤くなるからアカミルガパオパスらしい。
「軍曹!こっちのおにーさんに辛さミルスペックでー!」
ユィナが屋台の筋骨隆々のおっちゃんに注文する。
「イエッサっ!」
妙に歯切れの良い返事が返ってくる。
「軍曹?ミルスペックって・・・食べ物にか?」
「この屋台はコックさんを軍曹って言うのが通なんだよ。ふふん、食事は戦い!なんだかんね!」
ユィナは鼻息荒く言う。
ジンノジョウは先程のユィナとイルカとの戦いを思い出して、何故だか妙に納得してしまう。
「アカミルガパオパス、ミルスペック!」
軍曹が腹から声を出して歯切れよく料理をジンノジョウの前に置く。
「う、うぉぉ・・・赤い・・・」
ジンノジョウは燃えるように赤く、鼻にツンとくる唐辛子パウダーがたんまりふりかけられたガパオパスどんぶりを見て
「ユィナ、これ・・・唐辛子パウダーの蓋が外れて全部入ったんじゃないか・・・」
そうジンノジョウがユィナの方にヒソヒソ話をしようとした時
「フシュー ジンノジョウさんすごいね、それ食べられたら猛者だよ。兵器クラスだかんね」
どこから持ち出したのか、ガスマスクで顔を完全に防備したユィナが、両脇のエラスリットにパァンパァンと透明の防護シールを貼ってこちらを見ている。
ガスマスクの奥の目は半笑いのようで、光が無い。
「がんばってね?」
首を傾げてユィナが促す。
ジンノジョウはゾゾっと背中に冷たいものを感じて、おとなしくアカミルガパオパスに箸をつける。
ツンと鼻にくる香辛料は唐辛子を遥かに超えるヤバみを感じる。
んん、ちょびちょびいっても苦しみが続くだけだ、一気にいく!
ジンノジョウはどんぶりを手に持つと、かきこむように口にいれる。
「えっ」
ユィナは驚いて思わず声を上げる
ユィナのシナリオ的にこの肌を刺すような香辛料のヤバみからちょっと食べてギブギブ!ふふ〜ん、情けな〜い、ユィナちゃんに嫌味言った罰だ!
という流れを考えていた。
まさか一気にいくとは、思っていたよりもジンノジョウさんって、バカ・・・違った、男っぽいんだ。
(おお、案外コリコリして歯ごたえ良いし、卵とソースの染みたご飯があんかけチャーハンみたいでこれはうま・・・うま、あつ、あつ、いた、イタタ・・・!)
じわじわくる香辛料パウダー、唐辛子の中でもかなり悪魔的な部類に入るグランババネロをほんの少しミックスしたこのガパオは後からクる。
「イッテ〜!」
ジンノジョウがカーンとドンブリを置く。
「はい!ジンノジョウさんラッシー!」
ユィナがガスマスクを外して急いで慌てて注文した甘いラッシーをジンノジョウに渡す。
大粒の汗をかくジンノジョウが一気に飲み込む。
(すごい、ちょっと食べ方は汚いけど、ほとんど食べてる)
ユィナがちらりとどんぶりを見て思う。
◾︎
「ひ〜、イ・・・ ま、まぁまぁの辛さだったな。 ユィナ、お前なー」
タコの口のように唇を真っ赤にしたジンノジョウが強がりながらブーたれる
「アハハ、唇真っ赤、顔真っ赤でタコ見たい!・・・ごめんごめん、ジンノジョウさんがからかってくるからちょっと仕返しのつもりだったんだけど、まさか全部、しかも一気に食べちゃうなんて思ってなかったから。あの香りでヤバイって思わなかったの?」
「まぁ少しヤバいとは思った。どうせ全部食べるんなら一思いにな」
「そっか、一応ヤバいとは思ってたんだね」
「なんだそりゃ。でもあのアカミルなんたらの味付け、普通の辛さだったら割とイケると思ったぞ。あれはちと香辛料パウダーが多すぎだけど」
そう言うジンノジョウをユィナがキョトンとした顔で見る。
普通はトラウマ級のあの辛さをあれだけ感じたらもう良いやってなってもおかしくない。
まさか全部頭からいくとは思ってなかったユィナはちょっと申し訳ないと思っていた。
「ジンノジョウさんってさ、もしかして結構な辛党?」
「いや、普通だ。普通、だと思う。俺はそう思ってる。・・・ちょっと辛さひいてきた。ラッシーサンキューな、ユィナ」
「ううん、いいの。私もちょっと大人気なかった。ごめんね、ジンノジョウさん」
ユィナがちょっと上目遣いにおずおずと言う。
「そういえばユィナ、さっき脇腹に何か貼ってたが、アレはなんだ?」
「あ、アレは両脇のエラを刺激物から守るパッチシールだよ。ぴったり閉じてるとはいえ、ここは粘膜が露出してる部分だから、さっきの香辛料のパウダーとか刺激のあるものに弱いの」
「そうなのか」
「うん、でもよっぽど凄いものじゃ無い限りは必要ないんだけどね。さっきのは辛さ等級でもかなり上のグランババネロがちょこっと入ってたから」
「グランババネロってそんなに凄いのか」
「んー、噂ではグランババネロだけのものを食べちゃうと胃に穴が空いちゃうとか」
ジンノジョウが青くなる。
「アハハ!大丈夫!さっきのはちょっとしか入ってないし、胃に穴が空くっていうのも噂だから。ジンノジョウさん赤くなったり青くなったり忙しいね。おもしろいんだー」
クスクス笑い、いたずらっぽく目を細める目の前の少女がアーネリスだという事をジンノジョウは良くも悪くも警戒している。
(コイツらは・・・オキアミ団子を美味しそうに食べる半魚人だからな・・・)
ジンノジョウは差別主義者ではなく、何事も事実を冷静にフラットに見る傾向があった。
特別ユィナたちに恐怖感を抱いていると言うことはなかったが、ユィナたちのアーネリスの側面はまだまだ未知で、自由奔放さに振り回される事も多く、人間としての常識が通用しない事を感じていて、人間とアーネリスの違いを意識しておかないとお互いが不幸だという事も分かっていた。
「街に出てくるの久しぶり!たまに街に来て空気吸わないとね〜 田舎の海から出てきた甲斐がないわ」
露店街を抜け、ひらけた一角に出て、前を歩くユィナが伸びをしながら言う。
この都市モジュールには強化ガラスを多用した透明感のある建物が多い。
「ユィナ達の田舎はどんな感じなんだ?」
ジンノジョウが一服しながらたずねる
「故郷の海?知りたい? じゃあ、あの店に入って話そ!」
◾︎カフェ
「ココも来てみたかったんだ〜♩わっ アレもコレも美味しそう!これはまた近いうちにみんなと来ないといけないな〜」
ユィナが目を爛々と輝かせてメニューを見る。
店内は天井が高く、一面のガラスで採光も充分にとってあり、むき出しの空調の配管が見えるが、上手く組まれたスチールパイプに観葉植物があちこちにぶら下がり、壁には貴重な木材を多用しているのもあって、ナチュラルな感じとインダストリアルな感じが上手くミックスされた居心地のよい所だった。
ナチュラルウッドの明るいベージュ色の素材と、藍色のファブリックが親しみやすさと丁度良い高級感を出している。
差し色に目に優しいグリーンが散らばる空間。
椅子も色んな種類があり、くつろげるローソファなど、食事以外に読書なども楽しむ人も多い。
あそこがいい!とユィナが指差したのは対面式の1人用ボフっと埋もれるローソファだった。
埋もれるように腰掛けたユィナが一心地つく
「はぁ〜 これいい〜♩」
ぽふっと背中をソファに預け、ユィナがむにゅっと自重で潰れる白いふとももをもじもじさせる。
常時かなり際どいスポーツインナーを剥き出しのように履いているユィナは、座る時にミニスカートのお尻を手で整えて座るが、普通に着用しても白いVゾーンが丸見えになるデザインなので、対面に座るジンノジョウは年頃の少女の健康的な下半身に目が行く。
「あー ジンノジョウさんのえっちー」
ユィナが目を細めてもじっとふとももをさらに閉じる。
白い三角形の布地の面積が太ももの肌色でとスカートの布地で埋もれるように少なくなっていくのが逆に扇情的。
「お前、明らかにからかってるだろ」
「からかってませんよ〜 目の前に居るトレーナーさんに鍛えて頂いたおみ足を存分に披露してるだけです。おかげさまでこんなに育ちました♩」
ユィナが目を細めてアームレストに肘を置いて頬杖をつき、片足をあげて脚を組む。
ユィナの細い体を支える、しなやかな筋肉の集合体のような尻からフトモモの滑らかなラインと圧倒的な肌色面積がジンノジョウを直撃する。
ジンノジョウはおもむろに腰を浮かせると前かがみになり、ユィナに近づく。
「きゃあ〜 ジンノジョウさんここお店だよ、大胆・・・」
ペシ!
「アタッ」
ユィナの組んでいた足のふくらはぎをジンノジョウが軽くペシっとはたく。
目はジト目だ。
「ほんとに元気だなぁお前、バカやってないではよ注文しな」
「ゔー、ユィナちゃんのプレミアムでモチモチなふくらはぎをそんな雑に・・・もうちょっと味わうように叩いてよねー ジンノジョウさん」
ユィナはふくらはぎをさすりながら足組を解いて坐り直す。
◾︎故郷の海の話
「ユィナの故郷の海ってどんななんだ? というか、海に棲むってどんななんだ」
「んー、陸上で生活してるよりかは肩がこらないかな。陸上だと胸とか色々重くて」
スポーツブラをちょいとあげて下乳がむにゅっと変形する。
「水の中だとこういうお肉は浮くからその辺はラクね。故郷の海、アーネリスの多くは小さい島の周辺で生きてるんだけど、私が居た海にも島があって、人間と一緒になったアーネリスは島側で生きるのね。
ハルナのパパとママがそんな感じ。ハルナのパパは島に来た植物学者さんでしょ。
私のパパはサメの海洋知性種だから、私は島よりも海側で、基本的には海の中で生きてたんだ。でも、学校は行かなきゃだから、島のスクールには通ってたけどね」
「海って、貝殻のベッドに寝て・・・みたいな感じなのか」
「アハハ!ジンノジョウさんって案外ロマンチストだよね。そういう発想、私いいと思う。純然たるアーネリスは実際そういう生活送ってるっていう話だけど、アーネリスにはアーネリスの産業みたいなのがあってね。
私たちは私たちで結構文化的に暮らしてるんだよ」
「いまいちピンとこないんだよな。水中にその・・・部屋があるってわけでもないんだろ?」
「海は広大で高低差があるでしょ?私たちアーネリスには基本的に天敵はいない・・・居ないわけじゃないんだけど、あんまりそういう脅威って日常的には訪れないから、珊瑚の棚・・・ジンノジョウさんに分かりやすく言うと、漁礁みたいなのを自分たちで作って、お互いつかず離れずで暮らしてるの」
「アパートとかマンションみたいなもんか」
「んー、どっちかというと平屋の一軒家みたいなもんね。広い海でぎゅうぎゅうに暮らす必要もないし。プライバシー保てて、かつお互い様子見できるくらいの感覚。あ、そうだ。ここはジンノジョウさん達と感覚が違うかもだから言うとね、私たちアーネリスは結構自立するのが早いの。人間みたいに1つ屋根の下に一緒に〜 じゃなくてね。私たちって海の中に居るでしょ?雨風を凌ぐ必要がなく屋根の概念がないから、必要なのは急激な海流変化で流されない場所。
私たちは親子で海で繋がってるっていう共通の感覚があるの。だから、ちっちゃい子供の頃は一緒に暮らして、早いうちにそんなに遠くじゃない所に自分の根城を作ってそこで暮らすようになるんだ。根城は簡単に作れる珊瑚に固定するキットがあるの。」
「それはいいなぁ、人間は住処を探して維持するのが大変だからな」
「うん・・・分かる・・・ユィナも都市に出てきて、稼いだクレジット全部自由に使えると思ったんだけど、まさか住む所にこんなにお金かかるなんて思ってなかったよ」
「海で棲むのにお金っているのか?」
「うん。ちょっとだけどね。私たちも野生で生きてるわけじゃなくて、それなりにちゃんと社会システムがあるから、所属している海域に棲むのに定額で一定の料金かかるんだよ。所属してる海域はアーネリスに住みやすいようにご先祖様が長い時間をかけて形状を変えていった海だから、私たちは小さい頃からその保全と環境の作り方を学ぶの」
「へぇ〜 凄いんだな」
「ふっふーん、まぁ自分たちが棲む所なんだから自分たちで管理するのが当たり前だからね。だから愛着は凄くあるの」
「アーネリスはスクールに通う頃から仕事もするんだよ」
「そうなのか」
「うん。と言っても最初はご先祖様の遺跡にひっついたワカメとか藻を掃除する所から。段階的にやれる事をあげていくの。それでちょっとお金がもらえるの。海域に毎月のクレジット払わないとパパとママがチョー怒るから、みんなしっかりやるんだ。でも必要なお金はわずかだし、自分の住んでる所を働いて維持してるんだ!って思えるから、みんな生き生きしてる。海流が変わると流されちゃう事もあるし、部屋をデコろうとモノ増やし過ぎてお金使い過ぎても流されてどっか行っちゃう。ユィナも昔、買った好きなものが流されて・・・苦い思い出あるよ・・・」
ユィナが悟ったような目をしてストローでアイスティーを啜る。
「そうか・・・ でもいいな、お前たちの生活はとても教育的というか、羨ましいぞ」
「ユィナもそう思う。人間の教育や暮らしを見てると無理があるよね。
体だけが大きくなったのに、中身の準備ができていないまま、その年齢になったからっていきなり慣れないむずかしい大人の事を一気にやらせようとする。アレじゃ誰でも戸惑うし間違うよ」
「そうだな、お前たちみたいに段階的に社会経験できれば1番いいんだけど、社会構造も違うし、富の格差もあるし、それを教える人、親の資質、本人のタフネスの問題もあるし・・・人間は本当に難しいな」
「人間は個の富や幸せを追及・優先する社会だもんね。アーネリスは小さい頃から個を固めて社会性を学んで、その上でやりたい事をしに海を出たり残ったりする選択をするから、学んだ事や価値観が全然違うんだなってユィナ都市部に出てきて最初驚いたよ」
「学ぶにしても、詰め込んで記憶する事を学ぶと思っている層が多いからな」
「頭でっかちじゃ幸せになれないよね。行動して経験しなきゃ。私もいつか、いえ、そう遠くない未来・・・ママになるかもしれないんだし・・・」
ユィナが真剣に口元に手を当てて遠くを見る
「ブフッ」
ジンノジョウがむせる。流石女の子、考え方がリアルだ。
っていうかこんな重い話になるとは思ってなかった。
スッと背筋が伸びて物思いにふけるユィナは綺麗だった。
(まぁ、この娘なら花嫁候補に求めてくる男は多いだろうから、その心配はいらんだろう)
ジンノジョウは思う。
「ユィナの故郷では観光とか名物のものってあるのか?」
「静かな所だったけど、そういうのがあるほど有名な所じゃなかったなぁ。
・・・あ、でもママの海なら桜色とか紫のサンゴ礁で有名だよ!私のアーネリスの時の体色はママの故郷の風景みたいだってよく子供の頃に言われてたんだ。・・・これは・・・前に話したよね?」
ユィナが顔を赤らめてジンノジョウを上目遣いで見る。
以前、アーネリスの体を授業と称してユィナが体を張ってレクチャーしてくれたことがある。
ジンノジョウも思い出して顔が赤くなる。
「あ、ああ・・・」
「わ、わたしこの体色すごく好きなんだ。この髪の毛の色も。すぐに覚えてもらえるし」
ユィナが顔を赤らめて髪の毛を撫でながら言う。
「そ、そうだな、練習中も一目で分かる色だ」
「で、でしょ?アハハ」
ジンノジョウとユィナはお互いあの時のお触りの距離感を思い出して汗が吹き出す。
いつもの茶化しあいと違って、あの時は必要とは言え大胆過ぎたとユィナは思っていたし、ジンノジョウは良いと言われたとはいえ大人として恋人でもない女の子の胸を触るのはどうなんだと反省していた。
「ユィナ、あの時は・・・」
「言わないで!いいの!あれはスパークラーに必要なことだと思ってやったことだから・・・」
(ジンノジョウさんに触られるの、イヤじゃなかったし・・・)
ユィナは赤面して目を泳がせる。
「ジ、ジ、ジンノジョウさんもあれでアーネリスの時の私たちの体がちょっと分かったでしょ。あんな事、ユ、ユィナちゃんくらい度胸がないとやってあげられない事だし?ジンノジョウさんも触る機会ないからラッキーだった・・・でしょ?」
ユィナが恥ずかしさを飛ばすため強がって言う。
「ま、まぁ久しぶりでちょっと緊張したのは事実だけどな」
ジンノジョウも負けじと強がる。実際相当ご無沙汰だった。
「ひ、久しぶり・・・前は誰かを触った事あるんだ・・・」
ユィナがちょっとショックを受けたような顔をして、自分の胸を隠すような仕草をしてちょっとこちらを睨む。
「お前、子供なのか大人のなのか反応がよーわからんな・・・でも、俺も実際アーネリスの事をほとんど知らんのであの時は勉強になった。その、ありがとな。イヤな思い引っ張ってないといいんだがと思ってな・・・」
「い、イヤとか・・・引っ張ってるとか無いよ。気にしないで」
ユィナもジンノジョウも暑くなって水をストローで花から蜜を吸う蝶々のようにチューチューひたすら飲んだ。
「そ、それでさジンノジョウさん、スパークラーの事なんだけど」
「お、おう」
ユィナが赤面する顔でスパークラーの話を切り出す。
それから2人はスパークラーで考えている事を陽が傾くまで話し込んだ。
なんだかんだ、話す事が続く2人。
◾︎
陽が落ち、ユィナの棲むボール型のアパート寮へと続く桟橋までジンノジョウが見送りにくる。
ユィナたちアーネリスはポントゥーン近くに係留されている簡易的な浮島に個室のボールを並べて生活している。
特殊な体の構造のアーネリスは、人間のようにアパートで生活するより、すぐに海にアクセスできる救命ボールのような形状の個室寮に住んでいる。
オレンジに揺れる水面、桟橋の手すりで羽を休めるカモメ、停泊するヨットのマストが並び、遠く水平線にいくつも浮かぶ綿雲。
「夕陽が綺麗だねー」
ユィナが風に遊ぶ髪の毛をかきあげて言う。
毛先に行くにつれて透明になる、まるで光ファイバーのような髪の毛が夕陽と海の色を反射して、キラキラと透き通るピンク色から薄い紫色に美しいグラデーションを輝く。
だぼっと羽織ったオーバーサイズのパーカーを、肘の所でショールのように着る独特のユィナの服装が風を含んでフワフワと揺れる。
「今日はありがとね、ジンノジョウさん」
「おう、色々大変だったが楽しかったぞ」
「色々大変って、それ女の子に言う言葉?なんかめんどくさいコみたいじゃん。ユィナちゃんと一緒に居たから色々得難い刺激があった、でしょ?」
ユィナが怪訝そうな表情をする。
「はいはい、さいでがんすさいでがんす」
ジンノジョウがジト目で手をヒラヒラする。
「む。 まぁいいわ。私も楽しかった。また行きましょ!」
ユィナが谷間を見せるように前屈みを作り、後ろ手に組んで目を細める。
たぷんとユィナの胸が揺れる。
ジンノジョウの目がついついそこに釘付けになる。
「スパークラーの事もたっぷり話せてよかった。明日からもスパークラー指導よろしくね、ジンノジョウさん!」
「おう、いい夢見ろよ!」
「ジンノジョウさんも、今のサービスなんだから。目に焼き付けて良い夢楽しみなさいよねー♩」
ニシシと笑いながら桟橋から帰路につくユィナ
こんな調子で小さな応酬の繰り返し。
でも最後に勝つのはユィナちゃんなのだ。
満面の笑みでてくてくあるくユィナの後ろで、ジンノジョウがタバコに火をつけ、一服し、頭を掻きながら
「女の子・・・アーネリスはつえーなー」
と苦笑いをして見送った。