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件の大食い大会の告知があって1か月。梅雨もあけ夏本番といった空の下、屋台の店主たちが客寄せの声をあげている。もともと妖怪だけに通知された大会であったが、人妖入り混じる人の里ではどこから話が漏れたのかすでに大食いブームといった様相を見せている。

鈴仙・優曇華院・イナバは里の問屋街で頼まれていた薬を卸し、また調薬に必要な種々の素材を仕入れて住処である永遠亭へ帰る道すがらだった。鈴仙の鼻を香ばしい肉の焼ける香りや、団子やまんじゅうなどが蒸しあがるときの甘やかな香りが刺激する。夕時も近くなると里の屋台や飲食街は一層活気づいて仕事で疲れた鈴仙を誘惑してくる。

(いつもなら、何かつまみ食いしながら帰りたいところだけど)

と、今朝のことを思い返す。

久々に通した袖がきつい。まるでワンサイズ小さいものを着たときのようにボタンを留めるとパツパツとして苦しい。スカートはホックが止まらずファスナーも半分ほどしか持ちあがらない。おかしいと思ってサイズを確認してみても間違いはない。ふと姿見を見たところでやっと気が付いた。

(あれ…?私太った…?)

以前のスラリとした玉兎の姿はそこにはなく、全身にむっちりと肉がついた地上の兎がそこにいた。

(最近はゆったり目の薬屋の服しか着てなかったからなぁ)と思い返したところでどうしようもない。その薬屋の服は今日は洗濯中。たまのブレザーもいいよね、と箪笥から取り出してみればこの有様だ。とはいえ、そんな理由で仕事を休めるはずもなく、改めて大きくなった体を制服に押し込む戦いに挑む。少し大き目だったブレザーとネクタイで悲鳴をあげるブラウスのボタンを隠し、スカートは半分上がったファスナーと安全ピンの組み合わせでなんとか形を整える。出発前の鈴仙を見る師匠の視線はなにか言いたげではあったけど、その口が開く前に永遠亭を飛び出してきた。あとは里での所要を終えて、今日を乗り切ればなんとかなりそうだ。ふと腹に手を当ててみればブレザー越しにやわらかい腹肉の感触。明日からは節制しないとなぁと思いながら永遠亭へと歩みを進めるのだった。

ああ、なんとか今日一日を乗り切った。そんな油断が悪かったのかもしれない。1膳食べて空になった茶碗におかわりをよそおうを米びつに手を伸ばしたときに

「ぶちっ」

と不穏な音が食卓に響いた。同時に腹周りの圧が少し緩くなり、鈴仙の顔色は青くなる。食卓を囲む姫様や師匠、てゐの視線が鈴仙に突き刺さる。

「優曇華?」

師匠が口を問いかける。思わず姿勢を正して誤魔化そうとしたとき、さらに「ぶちっ」と嫌な音。少し間をおいてブレザーの下からブラウスのボタンが滑り出て、隣に座るてゐのところまで転がっていった。

「れいせ~ん、これちょっとやばいんじゃないのぉ~?」

と、てゐがニヤニヤと笑う。恥ずかしさで青くなった顔が一気に赤く染まる。そんな2人の様子を見て師匠である八意永琳は

「優曇華、食後に私の書斎まで来るように」

と、一言つげて食卓を後にした。

後のことはあまりよく覚えていない。ニヤニヤ笑いのてゐと気の毒そうにしている姫様の顔と味のしない料理たち。使い終えた食器を洗い終わると永琳の待つ書斎へ足を向けた。

おとないを入れて書斎の戸を開く。書き物をしていたらしい師匠が振り向いてこちらへ顔を向ける。呆れたような、少し困ったような表情で鈴仙を見つめる。

気まずい沈黙があたりを支配する中、ようやっと師匠が口を開く。

「優曇華、件の大会のことは知っているかしら?」

大会とは守矢と博麗が年始に行うという大食い大会のことだ。

「え、ええ、知っています」

ふぅむと頷く師匠。

「なら、話は早いわね。我々はあの大会には関わりません」

「はぁ…」

「私たちはあんな勢力同士のマウント合戦みたいなものに加わる必要はないでしょう。どの勢力がトップに立とうが医療分野で私たちの手は必要になる」

「は、はぁ…」

鈴仙の生返事に永琳は思わず嘆息する。

「つまり、貴女のその体形のおかげで、我々が変な野心を持っていると思われるのは心外と言っているのよ」

師匠の目が鈴仙の体を上から下まで一瞥する。

「その締りのない腹周りも、太い足も、丸い顔も、今の私たちにとっては都合が悪いの」

「すっすいませぇん!」

鈴仙が思わず声を上げて頭を下げる。

「頭を上げない、優曇華」

太くなった体を精一杯小さくして顔を上げると師匠が手を差し出している。その上には小さな紙袋。おずおずとそれを受け取って中を開くと中には錠剤が数十粒ほど入っている。

「一粒飲みなさい。水はなくてもいいわ」

言われるまま錠剤を口へ運ぶ。味のないそれをごくりと飲み干して師匠を見る。

「すぐに効いてくるわ。ほら」

師匠の言葉と合わせるように体に感じていた圧迫感が消えていく。特に腹周りがするすると楽になっていき、するりとスカートが滑り落ちる。

「鏡でも見ればわかるかしら?」

部屋に置いてあった姿見を鈴仙に向けると、そこにはスラリとした玉兎の姿があった。

師匠から薬をもらって以降、鈴仙はまさに有頂天だった。ただでさえ誘惑の多い仕事帰りの帰り道、こと最近は大食いブームで盛りも味もいいものが揃っているというのに体型を気にする必要はなくなった。師匠は「節制なさい」とのことだったが、言われた通り1日1錠飲んでおけばいくら食べても体型が崩れることはない。

「あ、薬屋さん!ちょっと寄ってってよ!」「今日は、肉串がおすすめなんだ!」と最近はすっかり屋台の店主たちとも顔なじみだ。仕事帰りにふらりと寄っては思うさま料理を楽しむ。ストレスの多い仕事とあいまって、ずぶずぶと鈴仙は屋台に依存していった。

ふと、路地の先に赤色のリボンが揺れているのが見える。それはまっすぐに鈴仙の方へ向かってきて、人ごみの間から見えるそれはやがて博麗の巫女のものだとわかった。

「あら、鈴仙じゃない」

「あ、霊夢…」

鈴仙は少し緊張して答える。博麗の巫女はまっすぐ自分を目指してやってきた。つまり、何か目をつけられるようなことをしてしまったのかもしれない。

「ああ、狙いはアンタじゃないから、安心して」

思わず胸をなでおろす。

「天狗の連中見なかった?アイツら目立つから自重しろっていってるのに」

霊夢曰く、妖気をたどってきたらたまたま屋台のところにいる鈴仙を見つけたとのこと。人ごみも多く人妖入り混じる屋台街では細かく追跡することができないため、とりあえず手近なところから当たってみているとのことだった。

「天狗…ねぇ?見た覚えはないけど、周囲の波長を探れば…」

鈴仙の波長を操る程度の能力で周囲の様子を探る。生きる速度の違う人と妖では当然波長も違う。そして、天狗らしき波長を2つほどとらえた。

「あった!…けど、なんか変な感じ、普通より倍くらいありそうなやつが…」

「ああ、それそれ!アイツら今は倍くらいは余裕であるから」

霊夢の返答から、その波長の主のところまで案内する。

「たぶんここ…って、うげっ!?」

鈴仙が驚くのは無理もない。蕎麦屋の屋台の暖簾の下からはみ出した巨大な尻が2つ。4人は余裕で座れる座席が2人の客でいっぱいになっていた。

「こらぁ!」

霊夢がその巨大な尻をひっぱたく。

「アンタらダイエット中でしょうが!」

のそのそと暖簾の向こうから出てきた姿に鈴仙は2度目の衝撃をうける。

「あややや、見つかってしまいましたか」

「だから言ったじゃないの!すぐ見つかっちゃうって」

出てきたのは既知の天狗2人組、射命丸文と姫海棠はたてだ。しかし、その横幅は記憶の中のものより倍はある。

「いやいや!文がどうしてもお腹すいたっていうから私はつきそいで来ただけなんだよね」

と言い訳をするはたての体型はどう見積もっても体重3桁はあるだろう。立派な肥満体型だ。サイズの合わないシャツは体にくいこんで、ボタンとボタンの間からはやわらかな贅肉が覗いている。スカートから延びる足はどっしりと太く、丈の短いスカートは少々不格好だ。しかし、隣に立つ文に比べればその姿はかすんでしまうだろう。

まるまると肥えたその体は150kg以上はありそうだ。顔、胸、足とどこをとっても過剰に肉がついていて、特にせり出した腹のおかげで体の厚みは以前の3倍はあるだろう。その巨大な腹を支えるスカートは可哀そうに変形してぱつぱつに張りつめた下腹がきれいな円形を描いている。

「いや、はたてだってノリノリだったじゃないですか!?」

2人が言い争いをして身振り手振りを交えるたびにどゆんどゆんと贅肉が揺れる。

「いいから、ほら!さっさと帰る!」

もう一度霊夢に尻を叩かれて2人はすごすごと店を後にする。

「驚いたでしょ?アイツら大食い大会用に体を仕上げるつもりが早く始めすぎて、あのザマなのよ」

霊夢が楽し気に鈴仙に言う。

「ふふっ、わざと情報を漏らしてやったのに気が付かないで。いい気味ね」

鈴仙は天狗2人の巨大な尻と霊夢の笑顔を思わず見比べた。大食い大会の話は公式発表前にすでに永遠亭にも話が流れてきた。あくまで出どころ不明の話だったが、それが、あえて漏らした話だったとは。ほとんど勘で動く霊夢がそこまで考えて行動するとは考えにくい。やはり、あの大会は妖怪の賢者の…と考えを巡らせていると

「アンタも大会に出るの?」

と不意に霊夢から問われた。

「い、いや師匠は関与する気はないって」

「そのほうがいいわ。リークにひっかかって文たちみたいな妖怪がちらほらいるのよね」

太い足で体をゆするように歩く2人組の背中を見ながら霊夢が続ける。

「アンタはせっかく痩せてるんだし、ああはなりたくないでしょ?」

「あはは…」

先日のこともあり、鈴仙は笑ってごまかす。太りすぎて薬で痩せたなんて口が裂けても言えない。霊夢と鈴仙が見つめる太いシルエットが別の屋台の暖簾の向こうへ消える。その様を見て霊夢はあきれ顔だ。

「じゃ、あの尻また叩いてくるから」

と、鈴仙に別れをつげ2人が消えた屋台の方へかけていく。その姿は心なしか血色が良く、生き生きとして見えた。

その後ろ姿を見送ると鈴仙も家路につくのだった。

それからといえば、特に天狗や巫女、他の妖怪と顔を合わせることもなく、鈴仙は気ままに食べ歩く生活を続けていた。

(そういえば、あの錠剤も昨日で最後だったっけ。師匠に追加でもらいたいなぁ)

なんて考えながら屋台から屋台へと渡り歩く。最近はローラー作戦のように屋台を回りめぼしいメニューを味わい尽くすのが日課となっていた。それだけの食事をしながら鈴仙の体に変化はなく、スリムな体型を維持していた。常人から見ればとても不可能な量の食材を片っ端から口へ流し込む。そば、うどん、焼き鳥に甘栗、饅頭に団子。屋台すべてを嘗め尽くすように回っては腹に収めていく。

(それもこれも、師匠の痩せ薬のおかげだもんね)

とはいえ、その薬もすでに品切れである。その上でこんな食事を続けていたらあっという間にあの天狗の様なおでぶちゃんになってしまうだろう。逆に言えば、錠剤さえ手元にあれば鈴仙のスタイルも暴食も思うがままである。普段であれば物怖じしてしまうところだが、鈴仙はどうしても追加の錠剤が欲しかったのだ。

「あの、師匠…よろしいですか?」

夕食後、書斎に戻った永琳に声をかける。

「あの、先日いただいたお薬が切れてしまいまして、できれば追加でいただければな、と思うのですが…」

永琳が筆を置いて鈴仙の方へ顔を向ける。

「あの薬があれば、また太ってしまってもすぐ痩せられますし、その、永遠亭の立場を示すには、常備しておいた方が、その」

師匠に冷静な目で見つめられると、どうにも焦って答えが詰まりがちになる。永琳は答えず気まずい沈黙が書斎に漂う。

やがて、永琳が深いため息を一つ吐いて答える。

「優曇華、あの薬は痩せ薬じゃないわよ」

その言葉の意味を鈴仙が飲み込むのを待ってから永琳は言葉を続ける。

「あれは、貴方が太る前の状態へ体を巻き戻しただけ。薬が切れれば巻き戻された状態から本来の体へ戻るだけです。貴方が私の言いつけ通りきちんと節制していたならばその薬はもう必要ありません」

「え、あれ、つまり…?」

「私が痩せ薬なんて安易なものを作るとでも思っていましたか?」

鈴仙の脳裏にこれまでのつまみ食いや暴飲暴食がありありと映し出される。要するに取った食事をやせ薬でチャラにしていたわけではなかったのだ。太る前の体型まで巻き戻していただけで、薬が切れれば、やがてその暴飲暴食の結果が…。青くなる鈴仙の顔を見て永琳は大きなため息を吐く。

「その様子だと…ってそろそろ時間かしら」

「へ?」

師匠の言葉とほぼ同時に鈴仙の体がムズムズと熱くなるのを感じる。初めて薬を飲んだ時とは逆に、ミチミチとスカートがきつくなり、以前ボタンを飛ばしたときのようにブラウスが張りつめる。やがてブレザーの下シャツのボタンがぶちっ、ぶちっ、とはじけ飛んで…

「その様子だと、節制はしてなかったみたいね」

呆れた感じで永琳は鈴仙を見つめている。

「え、あ、師匠、すいません、じゃなくて、たぶんまだ太っ」

鈴仙はボタンを弾き飛ばしてせり出し始めた腹を両手で抑え込もうとする。その腕も見る間に太くブレザーの袖はパンパンに膨れあがり、パンっと乾いた音を立てて縫い目が裂けた。その間にも全身に肉が溢れだしスカートのホックは弾け飛び、ファスナーは嫌な音をたてて引きちぎられる。

「んん~~っ!」

肉が食い込む苦しさで声にならない悲鳴をあげる。ぶちぶちとブレザーの下のシャツのボタンが弾け飛び、ばらばらと鈴仙の足元へ散らばる。不意に首に息苦しさを感じて太くなった首に食い込んだネクタイに手をかける。なんとかネクタイを外して新鮮な空気を肺に入れる。

「ぶふぅ~」

自分とは思えないほどの聞き苦しい声。それと同時に限界まで張りつめたブレザーがついに限界を迎え、バツン、バツンとボタンが飛び散っていく。思わず自分の体を見下ろすと馬鹿みたいに膨らんだ巨大な乳房と、それを押しのけていまだに膨らみ続ける巨大な腹。ビリビリと音を立ててスカートが円筒から一枚の布に代わり腹の締め付けが失われる。スカートに押しとどめられた腹の肉が重力に従い垂れさがり、その勢いで鈴仙はつんのめるように前方へ倒れこむ。ずしん、とひどく重量感のある音と衝撃で書斎がきしむ。

「ううっ、ふんっ!あっ!」

なんとか起き上がろうともがいても、巨大な腹が邪魔で足を曲げるだけでも四苦八苦。床に手を着こうと腕を伸ばすと縫い目の裂けたブレザーとブラウスの残骸がビリビリと引き裂かれていく。その腕は太く丸く、鏡を見ていない鈴仙でも自分がいかに太ってしまったかを悟らせるには十分なものだった。

「永琳!今の何!?」

廊下を駆ける音とともに永遠亭の姫、輝夜の声が聞こえる。鈴仙はさらに焦って手足をばたつかせるが、重たい腹と手足の贅肉がぶるんぶるんと踊るだけだった。

「永琳!何この…何?」

事情を話すと輝夜は爆笑、てゐは大爆笑と言う感じ。永遠亭総出で鈴仙を転がすようにして起こす頃にはその体の肥大化も終わっていた。その体は先に見た射命丸文よりも明らかに太く、正面からも横から見ても球体に近いほど。巨大になりすぎた胸をさらに巨大な腹が持ち上げるせいで視界が狭く、大きすぎる腹と太すぎる足が干渉して一人で立ったり座ったりするだけでも苦しいほど。どうにかこうにか鈴仙を座らせるころには皆が汗だくになっていた。

「ふぅぅ、師匠、どうか痩せ薬を、ふぅ」

息も絶え絶えで永琳に懇願する。永琳はあきれ果てた様子で弟子を見つめる。

「貴方の自堕落の末路をどうして私が尻ぬぐいしてやらないといけないのかしら?」

「そ、そんなぁ…」

鈴仙へ刺さるまなざしは養豚場のブタを見るような冷たい目。泣きそうになる鈴仙の横から思わぬ助け舟が表れた。

「ねぇ、永琳。せっかくだし鈴仙を出しちゃおうよ、あの大会に」

輝夜の響く。

「こんだけ太るほど食べられるんなら、結構いいところまでいくんじゃないかしら?」

がっしと鈴仙の肩をつかむとその衝撃で二重になった顎がぷるんと揺れる。

「しかし…我々に野心があると勘ぐられる恐れがありますし…」

「表向きはただの大食い大会なんでしょ、永琳。私たちは表向きの理由だけで参加したらいいじゃない」

永琳は鈴仙と輝夜の双方を見比べるとしぶしぶと首を縦に振った。

「仕方ないわねぇ」

こういう時の輝夜は言い出したらきかないのだ。

「鈴仙、口をあけなさい」

言われるがままに開けた鈴仙の口に錠剤を一つ。脂肪の重さで潰されそうな鈴仙の体に力がみなぎる。

「今のは活力と筋力の増強剤です。その巨体でも一人で生活できるでしょう」

「よかったね、鈴仙」

輝夜が鈴仙に微笑みかける。

「こんだけデブれるくらい食えるなら優勝間違いなしウサ」

さっきまで笑い転げていたてゐが鈴仙の腹肉をつまみながら笑う。

「ちょっと、つままないでよ」

鈴仙の抗議にてゐがビンタで応える。パシーンと景気のいい音と共に鈴仙の腹に紅葉がひとつ。

「こらー!!」

逃げるてゐを追うべく鈴仙が巨体で立ち上がる。ばるんばるんと肉が躍るが先ほどの薬のおかげでその動きは軽妙。ただし、

ドスン!!

踏み出した一歩で畳が浮き上がる。

「鈴仙、床を踏み抜かないでね」

輝夜の一言に鈴仙は小さく「はい」と答えるのが精一杯だった。

鈴仙は自分あてに届いた荷物の封を解き中身を取り出す。たたまれた中身を広げるとそれは衣服だった。とはいっても横方向にやたらに広いいびつな形のスカートとブラウス、ブレザー。それとやたらゆったりとした薬師の服。襟元を見るとXとLの文字がたくさん並んでいる。

「はぁーあ、これからこうなるのかぁ」

思わずため息を一つ。鈴仙の体は以前のスリム体型よりぽっちゃりした程度。巻き戻しを辞めるにしても対外的には前日まで痩せていた者が翌日200kg近い巨体になっていたら不自然極まりない。特に、薬を扱う永遠亭の者であれば、変な薬を飲んでしまったか、はたまた妙な病気をもらったかと色々と信用問題に繋がりかねない。といった理由で鈴仙には再び巻き戻し薬が処方された。が、この体型を維持する理由も大食い大会参加のためになくなったので、これから不自然に思われないギリギリのラインでブクブクと太っていく(正しく元の体型に戻っていく)予定である。

1日で2kg程度、1か月で60kg近く”戻って”いく算段ではあるが、正直なところ気が重い。毎日鏡を見るたびに顔は丸く、腹はせり出し足が太くなっていくのである。まだ数日いったところだが歩くたびに震える贅肉の量が日をまたぐごとに増えていくのがわかってしまう。

(今日も行っちゃおうかなぁ)

どうせ、デブになるとわかっているのだから師匠から言われた節制にもいまいち身が入らない。なにより受けたストレスは食で癒せと体が求めているのだ。

「じゃあ、行ってきま~す」

昨日より一回り大きくなった体で今日も里まで仕事に出る。スカートが食い込み始めて若干苦しいが仕方ない。帰りに寄り道する屋台のことを考えながら今日も鈴仙は仕事に出かけて行った。

EP2 END

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