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桜の花は散り、新緑の季節まではもう少しといったころ、射命丸文は奇妙なものを博麗神社で目撃した。

主である博麗霊夢はちょうど不在らしく、おとないを入れても返事はない。ならばと縁側へまわるもやはり人影もない。

「霊夢さーん?いませんかぁ?」

小声で周囲を伺いつつ障子戸に手をかける。このところ大きな異変もなく新聞のネタも枯渇しはじめている頃合い、ついついいけないと思いつつも縁側と居間を仕切る障子戸をそっと開いて中を覗いてみる。もちろん、この貧乏神社で面白いネタが転がっていることはほぼほぼない。とはいえ新聞記者たるもの、こういった細かで地道な取材を重ねることこそ特ダネへの近道であることを熟知しているのだ。そっと障子の隙間から中を覗くと畳の匂いが鼻をくすぐる。薄暗い部屋に目が慣れてくるとちゃぶ台の上には重ねた半紙が山と積まれ、そのわきには乱雑にメモ書きが散らばっているのが見える。

(あれは…)

新聞記者の勘が告げている。アレは何かいいネタの匂いがする。と、そのとき本堂側からかすかな足音を天狗の鋭敏な耳がとらえた。開いたときと同じように、そっと障子を閉じて縁側へ居住まいを正す。

「ゲッ!文じゃない。なんか用でもあるわけ?」

神社の主はいきなり眉を顰める。

「いきなりゲッはないでしょう霊夢さん。この清く正しい射命丸が久々に顔を見せに来たんじゃないですかぁ」

「どーせ、あんたの三文新聞のネタ探しでしょうに」

霊夢が半分呆れたような、もう半分はやっかいごとならお断りと書かれた顔で答える。

「あやや、随分ご機嫌斜めのようですね…。それなら今日はおいとましましょうかね」

ふわりと背中の翼を開いて飛び上がる。

「やけに素直じゃない…って、もしかしてアンタ!中を覗いたりしてないでしょうね!?」

「この射命丸、記者魂に誓ってそのような真似はいたしません!プライバシーを守る文々。新聞をよろしく!!」

翼を一打ちすると放たれた矢の如く空を駆けあがり、先ほどまでいた神社が豆粒の如く小さくなる。あの薄暗い神社の居間に束ねられた半紙の内容を文の目はしっかりと捉えていた。半紙に大きく「妖怪最強大食い決定戦」の文字。

(これは久々の特ダネ、いや特大ダネかもしれませんよ…)

文は逸る気持ちそのままに翼を一打ちして空を駆けた。もはや神社は遥か遠く、彼女が雲を切って飛んだ跡だけが空に残っていた。

がちゃがちゃと煩い店内で文と同僚の姫海棠はたては飯を食らっていた。普通の食事ではなく押し込むように次から次への口の中に放り込み胃に送る。空いた皿はすでに二人の肩ほどの高さまで積み重ねられ、それでもその勢いは衰える様子はない。

「んで、その話は、むぐ、本当なわけ?」

はたてが餃子を口にほおばりながら文に問いかける。

「ええ、間違いないでしょう。私の取材だけでなく上層部の裏取りもできてます」

以前から幻想郷を取材してまわる烏天狗たちの間で不穏な噂が流れていた。それは妖怪の賢者たちが人間の里の支配をまかせる勢力を決めようとしている、と言うものだ。里の支配権は各勢力の微妙な力関係により分割されており、小競り合いこそあるものの概ね平和裏にすごしてきた。一方でそのような不安定な状態を突く形で人間の間から自治勢力や反妖怪勢力を生み出しかねないといった危惧が度々されており、その危惧事態が新たな権力争いの火種として燻り続けている。

「でも、それが大食い大会と何か関係あるわけ?」

「うっぷ。そ、それが大ありです。そんなんだから新聞の購読者が伸びないんでしょう」

つまりこうだ。妖怪の賢者たちは各勢力が権力争いをしている里の状態を解消したいと考えている。とはいえ一方的に権力を取り上げることは大きな不満を生むだろうし

何より、そこで生じる権力的空白が大きな争いにつながりかねない。そのジレンマを解消するのが

「大食い大会ってわけ?」

はたてが空いた皿を重ねて山をさらに高くする。

「そうです。平和に、かつ、誰が一番格上かを決めるために、です」

文はもう息も切れ切れで限界が近い。ゆったりとしたシャツは妊婦のように膨らんだ腹部に引き伸ばされて悲鳴をあげている。

「まぁ、確かにみんなで競っても暴力沙汰にはならないだろうし、なにより…」

そんな、大食い大会如きで戦争にでも発展したら仕掛けた方が笑いもの。メンツ丸つぶれである。表向きはただの「大食い大会」でしかない平和な集まりに不平不満を立てて、こと実力行使に及ぼうなどというのはいかにも体面が悪い。

「ぐぇーっぷ、その通りです」

「ちょっと、文、汚い」

「仕方ないでしょう、うっぷ。もう、限界です」

すらりとした体躯が特徴の天狗の中でも特にしなやかな体の二人のはずが、先ほどからの大量の飲食のおかげでそのシルエットはまるで妊婦のように歪んでいる。

気づけば文のシャツは一番下のボタンは弾け飛び、はたてのスカートのベルトは一番外のホールでも届かずに、フリーになった留め具が体を動かすたびにカチャカチャと音を立てている。

「ふぅ、そして私たちが栄えある天狗の代表ということね」

文は苦し気に首を縦に振る。

「ネタを拾って来たのは私、次に念写でネタを掠め取ったのが貴方です」

「掠め取ったとは失礼ね。珍しくうかれて飛んでる貴方をネタにしようと思ったらたまたま目に入っただけよ」

「まぁ、それはともかく、我々は負けるわけにはいきません。幸い他の勢力よりも一足早く情報を手にすることができました。

あとは入念に準備を重ねて、このアドバンテージを維持していきましょう」

大きな腹をさすりながら文が応える。

「本番まで体が持てばいいんだけどね…」

はたてが愚痴をこぼしたところに、ちょうど給仕が皿を下げにやってきた。大きく膨らんだ腹に給仕の目は釘付けだ。居心地の悪さを感じた二人は店を発つと次なる食い処を探して夜の里に消えていった。

あれから1か月も経つと射命丸の体はすっかり大食いに慣れ、入れれば入れるだけ体が受け付けるようになっていた。最初のころは胃袋がすぐにいっぱいで、そこに無理に詰め込むものだから苦しくてたまらなかったが、今ではすっかり大きくなったようで以前と同量程度であればまだまだ余裕といったところだ。

「ふぅ、最近は暑いですねぇ」

額にうっすらと浮いた汗をハンカチで拭う。そろそろ梅雨に入ろうという頃合いで頬を撫でる風には熱気はない。

「そうかしら?」

隣に立つはたてが答える。彼女は最初の1週間程度でギブアップしてからというもの、”トレーニング”には数日に1回といった具合でどうにもサボりがちである。

とはいえ、その効果は体にしっかりと表れており、以前の彼女の体つきからは大きく変貌している。汗を拭く文を見つめるあきれ顔は丸く、頬のラインはやわらかい曲線を描いている。成長に追いつかないブラウスは内側から張りつめられ、成長したバストは手では収まらないほど。袖口にぴっちりと詰まった二の腕の肉が携帯で文字を打つたびにふるふると震えるのが最近気になってきた。もっとも、でっぷりとせり出した腹がサイズを変えたばかりのスカートとベルトを引き伸ばそうとするのに比べれば大したことでないが。市松模様のスカートは可哀そうに引き伸ばされ、そこから伸びる足は太く以前のしなやかさはみじんもない。今日という日も、文に誘われて数日ぶりの外出だった。手に取ったスカートは大き目だったはずなのに、丁度良いどころかかなりキツイといったところまで成長しており、外へ出る億劫さをさらに大きくしてくれていた。

「ふぅ、今日はあそこを取材しますよ!」

文が指をさして目的の店を告げる。その腕にたっぷりと付いた脂肪が上げた腕とともに踊っている様を見ると

(…まぁ、私はそこまで太ってないし…)

と思わずにいられない。先を行く文の背中は毎日欠かさず行ってきた大食いトレーニングにより厚く太く変貌している。ぴっちりと張り付いたシャツのおかげで、食い込むブラとスカートのおかげで段々ができており、大きな尻に持ち上げられたスカートの丈はいかにも心許ない。そこから延びる足は以前のような脚線美など微塵もない、大根、いや蕪を連ねたような丸々とした肉の塊である。文が1歩足を進めるたびに

サイズの合わないシャツとスカートで圧迫された贅肉が右へ左へむにむにと形を変えていくのが服の上からでも見て取れる。

「ふぅ、ふぅ、やっと着きましたよ。今日は2人ですし、いい”取材”ができそうですね」

文が振り返ってぱたぱたと手で顔を扇ぐ。そのたびに丸々とした二の腕の肉がぷるぷると動いている。正面から見る文は以前の姿からは想像できないほど太い。

まるまると肉のついた顔と太くなった首回り。以前の倍はあろう二の腕にシャツが食い込んでいかにも窮屈そうだ。元々大き目なバストは大きく成長しサイズアップしたであろうシャツでさえボタンに悲鳴をあげさせている。その大きなバストを持ち上げて大きく育った腹が何よりも目にひく。くびれとは逆方向に成長した腹肉はスカートの防壁から今にもあふれだしそうなほど前にせり出してベルトラインを隠している。これでも空腹だというのだからこれからのシャツの運命を考えると同情せずにはいられない。

「取材ねぇ、まぁちょうどネタが欲しかったところだけど」

実のところ、2人はただ食うだけでなく「グルメ特集号」だの「食い処紹介」だのと新聞のネタにしている。これがまた意外と好評で、次回、次々回もと続編を望む声も大きい。料理の紹介が1品だけにとどまらず多種多様、大量にわたり情報量では他の追随を許さないほど充実しているのは2人の新聞を置いて他にはない。

とはいえ

「ねぇ、これいつまで続けるつもり?」

この調子で増量をつづければ体が持たなくなるのは明白である。今日だってふらふらと飛ぶ文に合わせてゆっくりゆっくりと飛んできた。幻想郷最速を誇った文も今では

風に漂う風船の如くだ。

「それがですね、実は、ふぅー」

歩みを止めたことで汗が噴き出してきたのかハンカチで汗を拭うペースが速い。文は頬を伝う汗を拭いつつ切れ切れの息を整える。

「実は守矢神社で動きがありましてね、近々、大会のことが公表されるのではないかという話ですよ」

「近々って…」

「まだそこまでは。ただ河童たちにもチラシの増刷の話が行っているようですし、かなり確度の高い情報です」

「まぁ、その近々って頃までにあんたが飛べる体型維持していればいいんだけど」

でっぷりとしたその体を上から下まで確認する。今朝姿見で確認した自分の体より3回りは太い。

(今の私が75kgだから…)

もうそろそろ3桁の大台に乗ってる頃合いか。

「ねぇ文、今あなた体重何kg?」

文の太い体がびくりとする。

「え、いやちょっと、それは守秘義務がありますので…」

文の目があらぬ方向へ泳いでいる。

「じゃぁ、大台は行ってる?3桁の?」

顔色が青くなったり赤くなったりと忙しい。

「い、いってないです…」

その文の反応から見て、はたては大台突破を確認するのだった。

結局、その店でも文はおどろくばかりの食いっぷりで、入口の体重のやりとりなどまるで忘れたようだった。大きな腹を2人でかかえながらえっちらおっちらとなんとか帰り着き、そのまま記事の執筆に集中してちょうど3日後、なにやら守矢神社で催しがあるらしい。

玄関の前でどすんという重い音と文の声が聞こえる。

「はたてー!いますかー?」

がらりと引き戸を開くとそこには数日前よりさらに大きくなった文の姿。

「今日守矢神社でなにやらイベントの発表があるらしいですよ!」

ええ、知ってる。ちょうど貴女の様子を念写で見てたから。

「さぁさぁ、取材です!行きましょう!」

文の太い手でつかまれるとそのまま外へ引き出される。まぁもとより出るつもりだし、自分は携帯一つあれば事足りる。文に促されるまま山頂の神社を目指してはたては飛んだ。

途中、文がへばってしまい徒歩で守矢神社へ到着したころにはすでに人だかり、いや妖だかりで神社の境内はいっぱいだった。奥の方で東風谷早苗が何やらチラシをまきながらしゃべっているのが見えるが、とてもではないが近づけない。まして、この太い文を連れてだ。

はたてはひょいと飛び上がると手近な木の枝に腰をかけて携帯を向ける。以前よりも大きくたわんだ枝に不安を覚えずにはいられないが、出遅れてしまったからにはどうしようもない。

「うわー、いるいる。幻想郷の勢力の見本市ね」

どこに向けても携帯に写るのは名の知れた勢力の一員ばかり。文の言っていたことはどうやら本当らしい。その文といえばばっさばさと羽ばたいて手近な枝に手を伸ばしている。太い体をうねるようにして腰をかけると額に手をかざして神社の様子を観察している。でっぷりとせり出した腹を抱えて枝に座るのは窮屈でバランスをとるのにも苦労しているようだ。

「あやややや、大盛況ですねぇ」

と言うと神社に一陣の風が吹く。風はまかれたチラシをのせて文とはたての元までそれを届けた。丸丸と肥えようが風は天狗の領分。文にかかればチラシを巻き上げて手元に寄せることなど簡単なことだ。

「えっと、守矢・博麗合同新春大食い大会…新春!?」

思わずその2文字に目を奪われる。あと半年は先である。はたては新春の2文字と文の丸い体を見比べる。1か月でこのありさまである。半年先だと一体どうなっているだろう。そもそも会場の守矢神社まで文はたどり着けるだろうか。その衝撃は文も同様で、紙面を見ながら呆然としている。やがて彼女の尻の下からミシミシ嫌な音が聞こえ…

「文!」

声をかけるが時すでに遅し。射命丸文は轟音とともに木の下へ落下。

「ねぇ、大丈夫?」

ひらりと枝からおりて文に声をかける。

「ええ、なんとか」

腰をさすりながら文が起き上がる。分厚い尻の肉がクッションになったようで大きなケガなどはないらしい。

「それにしても新春って…」

「ええ、あと半年もありますね」

文が答えながら立ち上がる。落下の衝撃でいくつかシャツのボタンが弾け飛び、でっぷりとした腹がのれんをかきわけるようにして顔をのぞかせている。

「半年も経費で食べ放題だなんて、最高ですね!はたて」

太い腕を上げてガッツポーズ。掲げた腕といくらかフリーになった腹肉が躍るのを見て今後のことに頭を抱えたくなるはたてだった。

1話END

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