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──箱には二羽、いました。


 始まりの記憶は薄暗い箱の中でした。

 それがダンボールと呼ばれるものだと理解するのは数年先で、私達は俗に捨て子、と呼ばれるものでした。

 箱の中は暗くてジメジメして、聞こえるのは私と妹の息遣いだけ。寒くて苦しくて、それでも隣にいる妹の手の温もりだけが私をこの世界に繋ぎ止めてくれていた。


 何故そこへ捨てられていたのか、その記憶は定かではない。

 大方頭の軽い女が夜遊びで作った子供を育て切れずに放置したとか、そんなものでしょう。当時のその地域には私達だけでなく、よくある話でした。


 何日、そこへ居たのかは分からない。

 1日、2日、もしかしたら何週間も。

 食料も水もなく、身動きすら満足に取れない箱の中で妹と手を重ねながら、意識なんてモノは既に消え失せて、命をただ消費して。


 まだ捨てられた直後に箱の中から抜け出していれば結末は変わったのかもしれません。

 しかしダンボールに収まるぐらいの、自意識が芽生えた程度の年頃といえばまだ自発的に行動をするなんて到底不可能であり、その箱は私達を守る一種の砦のようなものだと当時は考えていました。

 まあ、籠城した結果体力が尽きて動くことすら声を上げることさえ出来なくなっていたのですから、砦というよりも棺、といったほうが正しいのかもしれませんが。


 いよいよ私をこの世界に繋ぎ止めてくれていた妹の温もりや息遣いすら聴こえなくなり、漠然と、その概念すら知らないのに死を理解したとき。

 しかし、けれども、私は終わりの間際にそれを見た。

 彫りの深い顔に優しげな笑みを浮かべた、白髪のお爺さんを。


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