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序章 「貞操帯倶楽部って……なに?」  私、城崎裕香《きのさき ゆうか》は、文化部部室棟掲示板のポスターを見てつぶやいた。  この春私が入学した私立貞節女子学園は、部活に力を入れている。それは校則で生徒は必ずいずれかの部活に所属することを定めているほど。  ほとんどの運動部は県内の強豪。そのうちいくつかは全国大会の常連。文化部でも、吹奏楽部や書道部は全国レベルの実力だ。  実のところ、卒業生である叔母に勧められるまま貞節女子学園に進んだ私は、入学するまでこの校則の存在を知らなかった。  運動音痴は両親譲り、これといって特技も熱中している趣味もない私は、もし部活必須の校則を知っていたら入学しなかったかもしれない。  とはいえ、入学した以上、いずれかの部活に入らなければならない。  しかし、申し込み期間ギリギリまでいろんな部活を見学して回り、悩んだ末に楽そうなところを選んで申し込んだ部活は、すべて落選だった。  それは、ある意味当然の結果。部活に力を入れている貞節女子学園ではあるが、多くの生徒は私と同じようなタイプ。楽そうな部活には、そんな子たちの応募が殺到する。  そして、そんな部活の部員選考は厳格じゃないから、ほとんど応募順に埋まっていく。期間ギリギリまで悩んだ私が入部願いを提出した時点で、楽そうな部活はすべて定員に達していたのだ。  周囲に流されやすく、優柔不断な私の性格。  今回は流されて安易に決めて後悔すまいと慎重になりすぎて、優柔不断な一面が災いした。  ともあれ、いまだ募集中の運動部か、不人気の文化部のなかから、入部するところを選ばないといけない。4月いっぱいの一次申し込みですべて落選した新入生には、さらに1ヶ月の猶予が与えられるが、その期間も残り少ない。  制服が冬服から中間服がちょうどいい季節になり、日によっては夏服を着たくなるようになった頃に見つけたのが、貞操帯倶楽部のポスターだ、 「貞操帯、興味ある?」  漠然とそのポスターを見ていると、背後から声をかけられた。  振り向くと、サラサラ黒髪ロングの美少女が、穏やかに微笑んで立っていた。  いや、1年生の私が美『少女』などと呼ぶのは失礼にあたるかもしれない。なぜなら、その人は――。 「貞操帯倶楽部、部長の高砂愛美《たかさご まなみ》です」  3年生であることを示すエンジ色のスカーフ――貞節女子学園では、学年によってセーラー服のスカーフの色が決められている。ちなみに私たち1年生は、濃いめの青――の先輩が、ペコリと頭を下げた。 「あ、1年生の城崎です」  応えて私も頭を下げると、愛美先輩がにっこりと笑った。  身長は160センチ台前半か。女子としては少し高め。身長低めの私とは、10センチ近く差がある。手足がスラリと長く、制服の上からでも、スレンダーな身体つきだとわかる。にもかかわらず、成長するべきところはきっちり成長している。  艶のある黒髪、絶妙な位置で切りそろえられた前髪から覗く凛々しい眉、くっきり二重の大きな瞳、すっと通った鼻すじとやや薄めの唇。 「愛美先輩――」  そう、愛美先輩。名は体を表すいうのは、彼女のことを言うのだろう。高砂先輩ではなく愛美先輩と思わず呼んでしまうほど、その人は美しく愛らしかった。 「す、すみません。いきなり下の名前で……」 「ううん、いいのよ。むしろ、そう呼んでくれて嬉しいわ」  私が非礼を詫びると、先輩が笑顔のまま顔の前で手を振った。 「それより、私に訊きたいことがあったんでしょう?」 「あ、はい……あの、貞操帯倶楽部って……?」 「そうね。こんなところで立ち話もなんだから……」  あらためて訊ねると、愛美先輩が私の肩に手を置いた。 「部室でお話ししましょう。今日はいい茶葉があるの」  そしてそう言うと、私の肩を抱くように、貞操帯倶楽部の部室へと誘《いざな》った。

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