小説 ポニー学園物語 7.懲罰の永久歩行刑 (Pixiv Fanbox)
Published:
2018-06-06 08:33:32
Edited:
2022-02-01 02:05:38
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ポニー学園物語
7.懲罰の永久歩行刑
藤島調教師の手でアームバインダーで拘束し直されながら、私は排泄物で汚れてしまった床の干し草を黙々と交換する牧童たちを見ていた。
私自身も顔をしかめてしまうほどの匂いが立ち込める馬房に足を踏み入れても、彼女たちは眉ひとつ動かさなかった。
藤島調教師に指示されるまでもなく、あたかも日常業務であるかのように汚れた干し草を回収し、代わりに新しい干し草を敷き詰めた。
いや、日常業務であるかのように、ではない。牧童たちにとって、それは間違いなく日常業務なのだ。
それは浣腸の前の、藤島調教師の言葉。
『四六時中お尻に栓をされているポニーは、朝の『処置』のときしかうんちを排泄する機会がない。ポニーの朝の処置は、規則で決められたもの』
つまり牧童たちは、毎朝ポニーが汚した馬房の干し草を入れ替える作業を、日課としている。
そして私の排泄を見ても、排泄物の匂いを嗅いでも、眉ひとつ動かさないのは藤島調教師も同じ。調教師にとっても、ポニーに浣腸で強制排泄させるのは日課なのだ。
そしていつか、そう遠くない日、それは私にとってもただの日課になる。
コルセットの締めつけにも、ポニーブーツにも、アームバインダーの厳しい拘束にも、尻尾付きプラグにもいつしか馴れるように、浣腸と強制排泄にも馴らされてしまう。
排泄を絶対に秘しておきたい女の子から、あたりまえのように人前で排泄するポニーに変えられてしまう。
とはいえ今の私は、そうなることを忌避したいと思えなかった。
それどころか、早くそうなりたいとすら思っていた。
それほどまでに、浣腸の身体的精神的な苦痛に、私は打ちのめされていた。この苦痛から逃れられるなら、1日も早く馴れてしまいたいとさえ考えていた。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか。おそらく牧童たちは知らずに、黙々と作業を進める。藤島調教師は知りながら、アームバインダーの編み上げを締めていく。
キュッ、キュッと革と革紐が擦れ合うほどに、私の腕が革袋に閉じ込められていく。
胸を反らせ、肩を背中側にすぼめ、左右の肘どうしをくっつけて、私の腕が1本の棒に変えられていく。その棒を背中に背負わされ、上半身が固められる。
そしてアームバインダーに続くのは、フェイスハーネスの装着。
革ベルトで顔と頭を締めあげられ、ハミで言葉を奪われ、遮眼帯(ブリンカー)で側方視界を奪われると、続いてポニーブーツの交換。
間近で見る本物のポニーブーツは、練習用のものと比べて、さらに数段踵が高い。いや、そもそも踵がないのだから、踵が高いと言うのもおかしいのかもしれない。
ともあれ、もし踵があればその高さ十数センチにも及ぼうかという超ハイヒールブーツの底には、馬の蹄鉄を模した金具が取り付けられ、全体の形もより馬の足に近づけられている。そして練習用ブーツと違い、ファスナーはなく、代わりに前面に編み上げ紐が設えられていた。
その意味するところは――。
「練習用ブーツと違い、このブーツは一度履いたら最後、そう簡単に脱がされるものではないからね」
そうだ。コルセット同様、ブーツは身体洗浄のとき以外脱がされない。
「それだけじゃないわ。今日からはフェイスハーネスも着けっぱなし。食事のときハミのみを外すだけよ」
「えっ……それじゃ……」
歯を磨くときはどうするのか。伝えたいことがあるとき、どうやって伝えればいいのか。
「その方法も規則で決められているから、おいおい教えるわ。ともあれ、今はブーツを履かせるわよ」
「は、はい」
否応なく答えたところで、編み上げを緩めたブーツの履き口をくつろげられた。
「私の肩につかまりなさい」
練習用ブーツのときと同じように言われ、コルセットにお腹を圧迫されないよう気づかいながら従い、ブーツに足を挿入する。
練習用ブーツと同じ、ぶ厚いがしっとり柔らかい高級な革。ただし、練習用ブーツほどの快適さはない。履かされてしまうと、否応なく爪先立ちの形に足を矯正されてしまう、ブーツの形をした拘束具。
そのことを実感したところで、編み上げ紐を締められていく。
締めすぎて血流を阻害しないギリギリのきつさで、ギュッ、ギュッと。編み上げ紐を締められるたび、私の脚がポニーの脚に変えられていく。
そして最後にすっかりほぐれ、緩くなってしまった私のお尻の穴に尻尾付きプラグを装着すると、藤島調教師が手綱を取った。
「さあ、刑場に行くわよ」
そうだ。私はこれから懲罰を受けるのだ。
どんなものかはわからないが、永久歩行刑という刑を執行されるのだ。
(言いつけどおり排泄を我慢できなかったんだもの、それも仕方ない……)
諦めとともにその罰すら受け入れ、私は手綱を引かるまま、足を運んだ。
『背すじをピンと伸ばしたまま、その背すじと太もも、太ももと脛の角度が、それぞれ90度程度になるよう』
基本歩法に従って、私は歩く。手綱を引かれて、歩かされる。
とはいえ本物のポニーブーツを履かされたうえで、基本歩法を守って歩くことは、予想したとおり大変な難事業だった。
ふたつのコルセットとアームバインダーの効果で、背すじをピンと伸ばし、顔を上げ続けていることは比較的容易だ。というより、その姿勢を保つほうが上半身は楽である。
ただし、それでは足下が見えない。
踵がない超ハイヒールのポニーブーツは不安定きわまりなく、足下を確認できないことで、とても不安になる。
おまけに、尻尾付きプラグの存在だ。
お尻に挿入され、ベルトで固定された極太の固いプラグが、柔らかくほぐれた私の肛門をこじる。
ポニーの基本歩法は一歩一歩の脚の動きが大きいから、お尻の性感帯への刺激も大きい。
数歩歩くうちにゾワリと快感がお尻に生まれ、数メートル歩いた頃には、快感が広がり始めていた。
不安定な足下が見えない不安と、歩くたびに大きくなる快感から、歩くペースが遅くなりがちになる。
「遅いわよ!」
すると藤島調教師に叱責された。
「ポニーの歩法は、速度で2種類に分けられる。遅いほうが常足(なみあし)とも言われるウォーク。速いほうが速足(はやあし)、トロット。おまえの今の速度は、ウォークにも達していないわ」
そして手綱をグイグイと扱(しご)くように引かれた。
「これが、ペースアップを指示するときの手綱の合図。これで従わないときは……」
そう言って藤島調教師が片手の鞭を振り上げたところで、私は弾かれたように速度を上げた。
「ウォークでもトロットでも、歩法は常に片足が地面についていることが求められる。対してより速度が上がる走法、駈歩(かけあし)、キャンターや、襲歩(しゅうほ)、ギャロップでは、両足が地面から離れる瞬間があってもよい」
つまり、ウォークを通常の徒歩とすれば、トロットは陸上競技の競歩。キャンターが中長距離走、ギャロップが短距離走にあたるのだろう。
ただし、すべての歩法走法で、ポニーの基本姿勢を保たないといけない。
「これから行う永久歩行刑は懲罰であると同時に、いかなる速度でも基本姿勢を保つことを、ポニーの身体に教え込むための調教でもあるの」
そしてそう言うと、藤島調教師が奇妙な装置の前で歩みを止めた。
「ウォーキングマシンよ」
言われて見たそれは、コンクリートの土台に据え付けられた金属製の箱の上に、T型のポールが取り付けられた装置だった。
「ここに立ちなさい」
その言葉に従ってTの横柱部分の先端付近に立つと、そこから垂れていた2本の革ベルトを、コルセットの金属製リングに取り付けられた。
さらに横棒の革ベルトの金具の中間付近から前方に伸びた棒の先端のフックに、手綱をひっかけられた。
そうして私を装置につなぎ、なにをさせるつもりなのか。
しばし考えて、ハッとした。
『ミワ号、おまえを永久歩行刑に処す』
藤島調教師の、その言葉。
『ウォーキングマシンよ』
さらに、装置の名称。
「あぅあぁ(まさか)……」
「気づいたようね。ウォーキングマシンは、機械の力でポニーを永久に歩かせる装置」
私の声に応え、藤島調教師がスマートフォンにも似た端末を見せた。
「この端末で、ウォーク、トロット、キャンター、ギャロップ、4つの速度を任意に設定できるし、ランダムに発生させることもできる」
そして私を見据えたまま端末を操作し、妖しく嗤った。
「それじゃ、まずはウォークから始めましょうか」
直後、ゴゥンとモーターが唸る音。ポールがわずかに振動して、ゆっくり回転し始める。
「ぅあっ!?」
コルセットに繋がれた革ベルトを引かれ、慌てて足を運ぶ。
「ウォークの速度に達するまで時間的余裕があるから、そのあいだに歩行姿勢を整えなさい」
それは機械に繋がれたポニーへの配慮だろうか、それとも単なる構造上の特性なのか。
ともあれ、私にはそんなことを考える余裕もなく。
「は、はひぃ(はい)」
反射的に応えて足を運ぶ。
背すじをピンと伸ばし、顔を上げ、背すじと太もも、太ももと脛の角度を意識しながら脚を高く上げ、前方に下ろす。
コルセットに繋がれた革ベルトが伸びきらないよう、常にある程度のたるみを保つよう意識しながら、1歩、2歩。半周ほど回ったところで、速度が安定した。
そこで、元の位置に立ったままの藤島調教師の姿が目に入った。
厳しい視線で見つめられていることを感じ、基本歩法の姿勢と速度を意識しながら歩を進める。
そして、さらに半周。藤島調教師の前を通過したあたりで、少しだけ気持ちに余裕が生まれてきた。
同時に、尻尾付きプラグにこじられるお尻の快感もよみがえる。
よみがえるだけでなく、一歩歩くたびに大きくなる。
とはいえ、私は肛門性感に気づいているだけで、本格的に開発されているわけではない。
そのため、プラグの刺激だけでイッてしまうほどには、快感は大きくならない。
お尻にゾワリ、ゾワリと快感を生み、肉体の芯に火照りを感じ、蕩け始めるところまでは昇れても、そこから先には行けない。
それはウォーキングマシンにつながれ、機械の力で強制的に歩かされながらも、グルグル回るだけでどこにも行けない私の境遇と同じだ。
いや、どこにも行けないのは、今に始まったことではない。
騙され、罠にはめられ、馬飼野女子学園に連れてこられたときから、私はここ以外のどこにも行けない。
「速度を上げるわ。ウォークからトロット」
そして藤島調教師の宣言で、私は再び考える余裕を奪われた。
グン、と腰を革ベルトに引かれて、慌てて歩くペースを上げる。
「速度が上がっても、歩行姿勢は崩さないこと!」
厳しく命じられて、脚を高く上げ、先ほどより先の地面に下ろす。
「歩幅を広げるんじゃなく、回転数を上げなさい。気持ち上半身全体を前方に倒すようにすると、やりやすいわ!」
つまり、短距離走のスタートの要領と同じだ。
そう気づいて、わずかに前傾させた身体が倒れないように、足を前方に運ぶイメージで歩を進める。
「そう、その要領よ。そのままトロットの速度をキープ!」
半周のうちに歩行ペースと姿勢を安定させると、藤島調教師が端末を操作した。
「速度をトロットに固定。ペースを守って歩き続けなさい!」
「はひぃ(はい)ぃ!」
反射的に応えたものの、長くは保ちそうにない。
ふたつのコルセットにお腹と胸と首を絞められ、アームバインダーで1本の棒に変えられた腕を背中に背負わされ、爪先立ちの足の形を強制するポニーブーツを履かされて、基本歩法を守って、トロットで長く歩き続けられるわけがない。
「ぉう、ぉう(もう、もう)……ぃうぃえう(きついです)ッ!」
しかし数分後にあげた声は、ハミに阻まれて言葉にならなかった。
そして無慈悲な機械は、設定された機能を忠実に発揮し続けた。
ウォーキングマシンの機械部分のコントロールパネルの前を通過するとき、カウントダウンされるタイマーが見える。
「はひっ、はひっ、はひっ……」
呼吸が苦しくてタイマーを見ると、10分台が表示されていた。
「はひっ、はひっ、はひっ……」
全身から汗が噴きだしてきたとき、まだ12分台だった。
「はひっ、はひっ、はふぅん……」
ペースが上がったせいで強くなったプラグの刺激で甘い吐息を漏らすと、15分台だった。
そして脚が重いと感じ始めた頃――。
「脚が上がっていない!」
藤島調教師の前を通過したとき、太ももを鞭でビシッと打ちすえられた。
「ふひいイッ!?」
合図ではない。罰のための打擲に、目を剥き、ハミの隙間から涎を噴きだして悲鳴をあげる。
痛い。痛い。
しかし、ウォーキングマシンは動き続けている。足を止めるわけにはいかない。
「ふぎぃ、ふひっ、ふひっ……」
衝撃的な激痛のあとも、打たれた場所がジンジンと熱を持って疼く。その熱が治らないうちに1周したところで――。
「何度も言わせるな、脚が上がっていない!」
そして、ビシッと鞭。
「ふぎぃイッ!」
激痛に悲鳴をあげ、一瞬歩を乱しながらも、熱と疼きに耐えながら脚を高く上げる。
「それでいい。ポニーならば、倒れるまで基本歩法を守り続けること。わかったか!」
容赦ない打擲と、さっきまでとは打って変わった厳しい口調。
そう、これは永久歩行刑。ただの調教ではなく、懲罰も兼ねているのだと思い知らされ、おののきながら歩き続ける。
(きつい……きつい……)
きわめて不安定なポニーブーツを履かされ、アームバインダーで腕を厳しく拘束されて、基本歩法を守って歩き続けることが。
(苦しい……苦しい……)
胸郭の動きを制限するほどお腹のコルセットを締めあげられ、絞まる寸前までネックコルセットで首を締めつけられて、トロットのペースを維持することが。
さらに加えて、お尻の尻尾付きプラグである。
「ふひっ、ふひっ、んふぅん……」
痛みが引いていくと、『感じるところ』と認識させられたお尻の穴にねじ込まれたプラグの快感を意識し、吐息に甘みが混じる。
『背すじをピンと伸ばしたまま、その背すじと太もも、太ももと脛の角度が、それぞれ90度程度になるよう』
緩く高まる性感のせいで、そう言い聞かせるように頭のなかで繰り返していた言葉を、ついつい忘れてしまう。
それには、ふたつのコルセットで呼吸を制限されていることも、関係しているのだろう。そのせいで軽く酸欠に陥り、思考能力が低下しているのかもしれない。
ともあれ、基本歩法の戒めを忘れた私は、次に藤島調教師の前を通過したとき――。
「また脚が上がっていない!」
ビシッ!
「ひぎぃイッ!」
叱責され、太ももを鞭で打たれ、悲鳴をあげた。
「ふひぃいい……」
熱を持って疼く鞭痕に、苦悶させられた。
「ふひぃ……ふひっ、ふひっ……」
反射的に歩法を正し、1周、2周。
しかし、蓄積した披露が霧散するわけではない。
おまけにポニーブーツの不安定さも、アームバインダーがもたらす不自由さも、ふたつのコルセットの苦しさも、緩く肛門性感を刺激する尻尾付きプラグも、そのままだ。
そのため数周のうちに、歩法を守れなくなってしまう。
「脚ッ!」
ビシッ!
するとまた、叱責と鞭。
「ふぎぃいイッ!」
目を剥き、悲鳴をあげ、歩法を正すが、長くは保たない。
(痛い……痛い……もう痛いのは嫌……)
鞭の痛みを戒めにしていられたのは、わずかのあいだ。
(きつい、きつい……苦しい、苦しい……)
すぐにポニーブーツとアームバインダー、ふたつのコルセットに苦悶させられる。
(お尻、お尻……気持ちいい……)
そしてまたお尻の性感が高まりかけたところで――。
「脚を上げろ!」
ビシッ!
「ふひぃいいイッ!」
叱責され、鞭で打たれ、痛みに悶絶して、歩法を正す――しかし、このたびはできなかった。
「はひぃいッ!?」
脚を高く上げようとしてうまくいかず、バランスを崩してしまった。
腕でバランスを取ろうとして、アームバインダーに阻まれた。
(倒れちゃう……!?)
しかし、その心配は杞憂だった。
お腹のコルセットの金属製リングにつながれた2本の革ベルトが、転倒を防ぐと同時に、反動で身体を引き起こしてくれた。
(助かった……)
数歩のうちにバランスを取り戻し、歩法を整え、ふと気づく。
(こ、これって……)
一見受け身が取れない状態での転倒を回避し、安全を担保しているようで、実はきわめて残酷な仕組みなのではないか。
転倒して身体を休めることすら許さない、設定時間いっぱい、確実に歩き続けさせる工夫なのではないか。
『永久歩行刑』
その言葉の重みが、ズシンと肩にのしかかる。
タイマーは動き続けているが、何分、いや何時間で終了するのか、わからない。30分で終わるのか、1時間か2時間か、あるいはほんとうに永久に歩かされるのか。
そして私には、その残酷な懲罰を拒む術(すべ)はない。
拒むどころか、中止を懇願することすら許されない。
「はひっ、はふっ、はひっ……」
ハミを噛まされた口から涎を噴き出し。
「はひっ、はひぃ、はひっ……」
ポニーブーツの不安定さと、アームバインダーの不自由さに悩まされながら。
「はひぃ、はひっ、はひぃ……」
ふたつのコルセットがもたらす苦しさに苦悶しながら。
「はひぃ、はひぃ、はぅうん……」
一歩進むごとにお尻の穴をこじるプラグに性感を高められながら、いつまでも歩き続けるしか選択肢はない。
この頃から、基本歩法を頭で反復できなくなっていた。
にもかかわらず、叱責されることも、鞭で打たれることもなくなった。
それは藤島調教師が、私の消耗具合を勘案し、歩法の乱れを許容してくれているのか。
いや、けっしてそうではないだろう。
『ポニーならば、倒れるまで基本歩法を守り続けること』
その言葉は、藤島調教師の本音だ。きっと彼女は、基本歩法を守らず歩き続けることに意味はないと考えている。
それなのに、なぜ叱責も鞭も受けないのか。今の自分は、基本歩法を頭で反復することもできなくなっているのに――。
とはいえ私にはもう、その理由を考える思考力もなかった。
(きつい、きつい……苦しい、苦しい……気持ちいい……)
そのことしか考えられず、自分自身がウォーキングマシンの一部になってしまったかのように、ただ足を運ぶ。
(きつい、苦しい、気持ちいい……)
それぞれの感覚が次第に大きくなり、同時に私を襲ってくる。
(きつい、苦しい、気持ちいい……きつい、苦しい、気持ちいい……)
負の感覚も正の感覚も渾然一体となり、境いめがなくなっていく。
『私が課すことなら、調教でもエッチなことでも、なんでも感じちゃう?』
不意に、藤島調教師の言葉が頭をよぎった。
そうなのだろうか。そうなってしまったから、プラグの快感が大きくなったのだろうか。きつさも苦しさも、気持ちよさと一体になってしまったのだろうか。
もう、わからない。
ほんとうは呼吸の苦しさがもたらす軽い酸欠とお尻のプラグがもたらす快感のせいで、思考能力が落ちてしまったからなのに、そのことには思い至れない。
それどころか、きついのかも、苦しいのかも、気持ちいいのかも。今自分がなにをしているのかすら、考えられなくなっていく。
やがて、ウォーキングマシンが止まった。
「ふひっ、ふひっ、ふひっ……」
噴き出した汗と涎で全身を濡れ光らせ、肩で息をしながら立ちすくんでいると、藤島調教師が歩み寄った。
「1時間、基本歩法とトロットのペースを守って歩き続けるなんて……すごいわ、ミワ号」
そしてそう言って、汗と涎で汚れきった私を、ギュッと抱きしめてくれた。
そのことに、昨日絶頂したときと同じ。いや肉体的満足度は低いものの、精神的にはそのときより大きな充足感を感じながら、私はハミを噛まされた口で答えていた。
「あぃあぉうぉあいあう(ありがとうございます)、うぇんぇい(先生)……」
(ミワ号……なんて子(ポニー)なの……)
消耗しきり、ぐったりしたミワ号を抱きしめながら、藤島調教師は怖れにも似た感情を抱いていた。
初めての浣腸に、長く耐えられるわけがない。
許可なく排泄したことを叱責したのは、ウォーキングマシンにつないでの永久歩行刑に誘(いざな)うための罠だ。
そしてどれほど才能のあるポニーでも、永久歩行刑で必ず挫折を味わう。疲れを知らない無慈悲な機械に体力を削られ、いつ終わるかわからない歩行調教に心が折れる。
途中で基本歩法を守れなくなり、罰の鞭に泣きわめくか、体力を失って機械に引きずられるようになるのがオチだ。
実際ミワ号も、そうなりかけていた。
(それが、この子は……)
途中から、持ち直した。
それはおそらく、途中まで頭で考えながらこなしていた基本歩法を、考えなくてもできるようになったから。
ふつうなら何ヶ月も、場合によっては1年以上かけ、繰り返し永久歩行刑を課した末に到達する『身体が憶えた』状態に、早くも達したから。
あらためてミワ号のポニー適性に舌を巻きながら、藤島調教師はかつて他のポニーには抱いたことのないない感情を、ミワ号に持ち始めていた。