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 こんばんは。エスケープチャレンジの時間です。  今週のチャレンジャーは、高校を卒業したばかりの女子大生。現役の水球、ウォーターポロ選手という、一流のアスリートです。  現役選手という点に配慮し、全頭マスクを着用しておりますが、素顔は端麗であることを保証いたします。  さて、そんな彼女のチャレンジ理由は、借金地獄に落ちた幼なじみの親友の救済。成功報酬はなんと破格の1億円。  ただし、報酬が高額であるぶん、着せられた衣装は残酷、施された拘束も厳重、ペナルティも過酷です。  まず彼女には、拘束前に遅効性の媚薬が投与されています。今はまだ効いておりませんが、時間とともに薬は効能を発揮、肉体を火照らせ敏感にするとともに、性の快楽を渇望する状態に陥っていきます。  そのうえで、彼女が着用する水球水着の下には、振動する淫具・リモコンローターが仕込まれており、媚薬が効き始めた時点で起動するしかけです。  そして、愛らしい素顔を隠す全頭マスクは、目・鼻・口の開口がいっさいないもの。  素材は鍛えられた肉体にまとう水着と同素材ですが、一般的な水着と違い、きわめて高い強度が要求される水球用です。生地がぶ厚いせいで、彼女の視界は完全に奪われています。また同じ理由で、呼吸も一定程度制限されていることでしょう。  さらに、腕に嵌められた光沢あるロンググローブと脚のニーハイソックスは、水球水着の縁の補強に使われる素材を三重に重ねて仕立てられた特別製。そのせいで、エスケープにおいて重要な指先の感覚は、阻害されているに違いありません。  また、足には15センチの超ハイヒールブーツ。一般的なハイヒールすら履いたことのない彼女にとっては、それ自体拘束具のように感じられる代物です。  ですがそれらは、純然たる拘束具ではありません。  彼女を捕らえる拘束は、きわめて厳しいもの。  革の枷・ベルト、それらを相互につなぐ金属バー、鋼鉄枷、指錠。それらはすべて、単独でも一般女性なら脱出不可能な、厳重拘束具であります。  加えて今回、彼女は床に膝をつくことを禁じられています。  開脚蹲踞の姿勢からバランスを崩し、膝をついた時点で失格。チャレンジ失敗とみなされます。  そんな彼女の頼みの綱は、拘束された手に握らされた各種拘束具と指錠の鍵。  感触のない指で、指錠と拘束具にかけられた南京錠の鍵穴を探り出し、鍵を開けられるのか。  媚薬に冒され、淫具に犯される身体で、1時間の制限時間内にすべての拘束を解き、脱出できるのか。  もし失敗すれば、彼女は全頭マスクを剥ぎ取られたうえで、身分証をカメラの前に晒されます。  映ってはならないものが映ることを防ぐため、配信まで数日の編集期間は置かれますが、彼女は性の快楽に蕩けた素顔と素性すべてを、全世界の人々に見られるのです。  それでは、水球娘のエスケープチャレンジ、スタートです。 (こんなの、ムリ……)  チャレンジスタートを告げる司会者の声を聞きながら、あたしはそう直感していた。 『革の枷・ベルト、それらを相互につなぐ金属バー、鋼鉄枷、指錠。それらはすべて、単独でも一般女性なら脱出不可能な、厳重拘束具であります』  彼のその言葉には、いっさい誇張はない。  腕と脚に厳重拘束具を無数に装着された私は、それらをはるかに上回る数の鍵を開けなければ、拘束を解くことはできない。 『そんな彼女の頼みの綱は、拘束された手に握らされた各種拘束具と指錠の鍵』  その2種類の鍵を束ねた紐は、たしかに握らされた。  だが、それが手の中にある実感はない。 『腕に嵌められた光沢あるロンググローブは、水球水着の縁の補強に使われる素材を三重に重ねて仕立てられた特別製。そのせいで、エスケープにおいて重要な指先の感覚は、阻害されているに違いありません』  そのとおり、紐をたぐり寄せ、鍵本体を指でつまむことすら至難の技。  仮にできたとしても、南京錠と指錠、どちらの鍵を持っているかもは判別できないだろう。そもそも、鍵穴がどこにあるのかなんてわかるのか。 (それに、もし……)  万が一鍵を落としてしまうと、拾い上げることは不可能に近いだろう。  チャリンと床に落ちた音は聞こえても、開口部のない全頭マスクで閉ざされた視界では見つけられない。  もし見つけられたとしても、膝をつかずに拾い上げられるのか。幾重にも、超厳重に拘束された手で。鍵束を持たされている感触も薄い、極厚ロンググローブのこの指で。 (でも……)  今さらあと戻りはできない。  説明を受けたうえで、あたしは自らの意思で契約書にサインしたのだ。  現実に拘束された経験がないゆえ、その厳しさがわからなかったという言いわけは通用しない。 (いえ、それだけじゃない……)  あたしは、奸計に落ち、借金地獄に堕とされた幼なじみの親友――今はまだそうだが、競技者として現役を終えたら、生涯の伴侶にしたいと思っている――を救うために、エスケープチャレンジを決意したのだ。  そして、期日までに1億円の大金を手に入れる方法は、これ以外にない。 (だから……)  絶対に、チャレンジを成功させなければならない。 (でないと……)  あたしも、最愛の彼女も、身の破滅を迎えてしまう。  しばし、動けないまま考えて、あたしは行動を始めた。  なにをさておいても、まずは指錠を外さなくてはならない。  司会者が告げたように、エスケープにおいて、もっとも重要なのは指先の感覚。しかし指錠を外さないかぎり、肝心の指を自由に使えない。  裏を返せば、指錠さえ外せたら、エスケープは半分成功したも同然に違いない。  もし指錠がなくても、すべての南京錠が指で触れられない位置にあることも知らず。  そもそも、指錠に囚われた両親指のあいだにある鍵穴に、ほかの指はまったく届かないこともわからずに。  あたしは親指以外の指を動かして、手の中で鍵を束ねる環状の紐を回す。  だがその試み自体が、無駄な行為だった。  ふたつの鍵は、紐に固定されているわけではない。環状の紐から外れることはないが、それを回せば重力に引かれて下に落ちる。鍵そのものを手中に収めないかぎり、いくら紐を回しても。  鍵束を持たされた時点で視界を奪われた私は、そのことを知らず、気づけず、必死で指を動かす。  加えて、極厚ロンググローブのせいで、指先の感覚は薄い。鍵が指に近づいているのかも、そもそも紐を回せているのかすら、あたしには確信が持てない。  さらに、そのうえ――。 「はぁ、はぁ、はぁ……」  まず覚えたたのは、息苦しさだった。 (全頭マスクには、目はもちろん、口にも鼻にも開口がないから……)  はじめそう考えたが、おそらく違う。いかにぶ厚いとはいえ、水着に使用されるポリエステル生地はスポーツマスクにも使用されるもので、一定の通気性がある。 「はぁ、はぁ、はぁ……」  次に感じたのは、全頭マスクで頭部全体を、ロンググローブとニーハイソックスで手足を覆われているがゆえの暑さ。 (たぶん、それで……)  顔に汗をかき、それが全頭マスクの生地に染み込んで、通気性が悪くなっていたのか。 (いいえ、違う……)  暑いのは、頭や手足が覆われているからではない。 『彼女には、拘束前に遅効性の媚薬が投与されています。今はまだ効いておりませんが、時間とともに薬は効能を発揮、肉体を火照らせ――』  おそらく、その刻《とき》が来たのだ。 『――敏感にするとともに、性の快楽を渇望する状態に陥っていきます』  あたしの肉体は、その状態に陥りつつあるのだ。  そうと気づいたときである。 「ひうッ……!?」  お股に振動を感じ、小さく悲鳴をあげてしまった。 「な、なにコレ……!?」  とまどいの声を吐き出しかけて、今一度司会者の言葉を思い出す。 『彼女が着用する水球水着の下には、振動する淫具・ローターが仕込まれており、媚薬が効き始めた時点で起動するしかけです』  そうだ、その瞬間もやって来たのだ。  媚薬が効き始めるタイミングで、ぶ厚く伸縮性の乏しい水球水着に押さえられ、媚肉に半ばまで埋まったリモコンローターの電源が入れられたのだ。  ヴヴヴヴヴ……。  親指ほどの大きさの淫具が震え、敏感な肉を刺激する。  ヴヴヴヴヴ……。  媚薬に冒され、感じやすくなった肉が反応を始める。  ヴヴヴヴヴ……。  刺激される媚肉に、むず痒さに似た感覚が生まれる。 (こ、コレは……)  知っている。わかっている。性の快感だ。  今はまだ、刺激され始めたばかりなので、むず痒さが勝っている。だがこの先、性の快感となり、女の子を酔わせるのだ。  そうなってしまうと、冷静な思考はできなくなる。思考のみならず、指先を使っての繊細な作業も困難になる。  ただでさえ、ロンググローブのせいで細かい作業がしにくいのに。 (で、でも……)  あたしはいまだ、鍵本体を手中に収めることすらできていない。  ほんとうは鍵に近づいていないことを知らないまま、お股に生まれる快感は大きくなってくる。 「はぁ、はぁ……んふ」  苦しい、苦しい。息が苦しい。 「んふ、んふ、んふん……」  熱い、熱い。火照る肉が熱い。  その熱が蜜となり、媚肉からトプンと吐き出される。  吐き出された蜜が水着のクロッチ部分に染み込む。 「んふん、んん、んッ……」  全頭マスクの奥で漏らす吐息に、甘みが混じり始めた。 (いけない。まずい)  焦りを覚え、これまでより指の動きを速める。  ほんとうに鍵が手に近づいているのかもわからないまま、それ以外の方法を思いつかず。  そのあいだにも、押し寄せる快感の奔流は、どんどん激しくなってくる。  媚肉が吐き出す蜜の量は、ますます多くなってくる。  身体が熱い。肉が火照る。頭がぼうっとする。 「んッ、ンふ、ンぅん……」  漏らす吐息が艶を帯び始めたことに気づかず、ただ手の中で鍵束の紐をたぐり寄せ――。  そこで、チャリンと小さな金属音が聞こえた気がした。 (か、鍵を落とした?)  確認しようと指先の感覚を研ぎ澄ませるが、そこに希望の鍵があるのかどうかもわからない。  もはや、それほどまでに高まり、蕩けてしまった。 (も、もし……鍵を落としていたなら……)  なんとかして、拾わなければならない。  そのためには、いったん指を広げる必要がある。 (でも、落としてなかったら……)  その動きで、ほんとうに鍵を落としてしまう。 (どうしよう……どうしよう……)  判断できず、あたしが動けずにいるあいだにも、お股の淫具は振動し続けている。 (このまま、手をこまねいていても……)  制限時間いっぱい淫具に責め続けられ、快楽に酔わされた素顔を、あたしは全世界に曝け出される。顔のみならず、あたしの個人情報が記入された身分証が晒される。  そして、愛しい彼女を借金地獄から救い出せなくなる。 (だったら、一か八か……)  鍵を落としたと判断し、それを拾いあげるための賭けに出る。  そう考え、意を決して指を広げるが、鍵が床に落ちる音は聞こえなかった。  やはり、さっき落としていたのだ。  数分間を無駄にしたことに、さらに焦りを覚えながら、手を床に近づけようと身体を反らしかける。  そこで、ひときわ大きな快感の波に襲われた。  偶然、そのタイミングだったのか。身体を反らす動きで、媚肉に当たるローターの角度が変わったのか。  それはわからないが――。 「ひゃあぁアッ!」  マスクの奥で悲鳴じみて喘いだところで、身体がビクンと跳ねた。  次の瞬間、身体から力が抜け、後ろに倒れてしまった。  鍛えた肉体は咄嗟に反応し、頭を打つことは回避できたが、そこから動けない。  あお向けの大開脚で、濡れそぼつ股間を晒したまま、あたしは一気に跳ばされる。  はしたない体勢で、機械の力でぶざまにイカされる。  ビクン、ともう一度身体が跳ねた。  腕の筋肉がこわばる。脚の筋肉もこわばる。  だが、動けない。  あたしにできたのは、あお向け大開脚のまま、ガクガクと肉体を震わせることのみ。  そうして、無慈悲にみじめな絶頂に追い上げられ。 「あヒッ、はふぁアぁああッ!」  あられもなく喘がされたあと、あたしはガックリと身体から力を抜いた。  あたしは身の破滅を迎え、愛する彼女は借金地獄に落ちるのだと諦め、悲惨な運命を受け入れることを覚悟しながら。  幼なじみで親友の水球娘がエスケープチャレンジに失敗し、ぶざまに絶頂するさまを見ながら、私は目を細めた。  私には、1億円の借金がある。だが同時に、その数十倍の資産もある。両親と折り合いの悪かった資産家の祖父が、遺産の相続人に私を選んだのだ。  だからほんとうは、借金なんて痛くも痒くもない。  しかし水球娘には、借金のことだけを伝えた。  嘘をついたわけではない。ただ、事実を半分しか伝えなかっただけだ。  そうすれば、彼女はなんとかして私を助けようとするとわかっていたから。  そして、彼女が短期間に1億円を作る方法は、エスケープチャレンジしかないと知っていたから。  私は莫大な資産のほんの一部を使い、エスケープチャレンジの枠を買い取った。  だから、今日のできごとは世界に配信されない。  彼女がエスケープに挑戦し、ぶざまに失敗したことは、私とスタッフしか知らない。  そして、エスケープチャレンジのスタッフは、全員プロフェッショナル。厳しく守秘義務が課され、けっして口外しない。  そもそもエスケープチャレンジの視聴者は、成功するか失敗するかのギリギリを娯《たの》しむのだ。今回のような絶対に脱出不可能な超厳重拘束が、実際に施されることはない。  ではなぜ、私が大金を投じてこんなことをしたのか。 「それはね……」  ぐったりと横たわりときおり身体をピクリと震わせる彼女に、モニターの上で指を這わせながら、私はつぶやいた。 「貴女が、なかなか私を誘《いざな》ってくれなかったからよ」  そう、彼女の気持ちを、私は知っていた。  同時に、私も彼女を生涯の伴侶にしたいと思っていた。 「なのに、貴女は……」  現役を引退してから告白しようなどと、悠長なことを考えていた。 「そんなの、許さないんだから……私は今すぐ、貴女を手に入れたいの」  その願望が、もうすぐ叶う。いや、すでに叶ったと言っても過言ではないだろう。  数日の編集期間のあいだに私が遺産を相続し、枠を買い取って配信を停止。私を救おうとした彼女を、逆に私が救った体にすればいい。  これもまた、嘘ではない。事実を伝える順番が前後するだけのこと。  それで、彼女は気持ちが私に伝わっていたと知る。私の気持ちも、彼女に伝わる。  彼女の現役引退を待つまでもなく、私たちは伴侶になれる。  そして、彼女のエスケープチャレンジ失敗を知るのは、世界じゅうで私だけ。プライベートの部分以外、ふたりの環境はなにも変わらない。  そのことを確信しながら、私は唇の端を吊り上げた。 (了)

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