小説 風紀委員会の叛乱 後編 (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-07-08 09:00:00
Imported:
2022-07
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「うふふ……うふふ……」
愉しそうに笑い、理佐が蓮香の乳首ピアスに重りをぶら下げる。
「ねえ、つらい? 苦しい? でも、しばらく我慢しなさいね」
そして、動けない蓮香から離れる。
すると視界に入る、大きな姿見の鏡。
みじめだ。
今の自分は、ほんとうにみじめだ。
蓮香にそう思わせたのは、全裸で拘束架に囚われているからだけではない。
乳首に奴隷のピアスを取りつけられていること、そのピアスに重りをぶら下げられていることも、蓮香を暗澹たる気持ちにさせた。
加えて、首の拘束棒の前方に突き出した部分。当初は気づかなかったが、そこは横長のモニターになっており、今は文字が表示されていた。
風紀委員会管理品。
もちろん、拘束架の呼称ではない。もしそうなら、初めから表示されていたはずだ。
文字が表示されたのは、蓮香が囚われてから。つまり、風紀委員会管理品とは、蓮香のことなのだ。
そう、囚われ人でも女囚でも懲罰対象者でもなく、管理品。
今の蓮香は自治会長でも、学院生でも、人ですらなく、風紀委員会が管理する『モノ』なのだ。
さらに、蓮香の裸身を隠すため、来客時に取りつけられるカバーである。
そこには、備品番号がプリントされていた。房美と理佐以外の風紀委員会メンバーは、その番号で蓮香を呼んだ。
とはいえ、蓮香がモノ同然の粗雑さで扱われているわけではない。
朝昼夕方には口枷ピースを外され、食事を与えられる。その合間にも、水分補給が行なわれる。
股間の金属棒を外し、排泄も許可される。1日1回、首を残して拘束を解かれ、身体を拭き清められる。
ただしそれは、風紀委員環視の下。特に首以外の拘束を解かれる身体の清掃の折は、警戒のために大柄な柔道部兼任の者が必ず控えている。
救いといえば、世話のため直接身体に触れるのが理佐だけということだけ。
そして、理佐が蓮香に触れるのは、世話をするときだけではない。乳首を愛撫して、性的な快楽を与えるのも、彼女の日課だ。
実のところ、それもまた房美の深謀遠慮であった。
排泄など生理現象を見られることは、女性にとっては最大の恥。だがそれ以上に恥ずかしいのは、そのために直接身体に触れられることだ。
その役目を、房美は理佐に一任した。ほかの者に見せることはあっても、理佐以外にはけっして触れさせなかった。
房美自身やほかの風紀委員に対し、蓮香は敵愾心しか抱いていない。対して理佐には、親しみの感情を持っている。裏切られたことで減衰はしていても、いまだ好意のほうが勝っている。
それが功を奏し、蓮香の性感は日々確実に開発されていった。
ピアスホールが落ち着いてから再開された乳首責めの快感は、初日与えられたものとはひと味違った。より快感が大きくなり、絶頂するまでの時間も短くなった。
その理由のひとつが、ピアスの存在。
初日は指が乳首に触れるだけの刺激だったが、ピアスをつけられてからは、硬い金属が内側から敏感な肉を刺激するようになったのだ。
そしてもうひとつの理由が、房美の深謀遠慮と理佐の指技で性感が開発されたこと。
日々の卓越した指技による玩弄で、蓮香の乳首はよりいっそう感じやすくなっていた。
加えて性の頂までの道を肉に覚え込まされ、一直線に昇り詰めるように仕向けられていた。
とはいえ、世話のため以外なら、蓮香の身体に直接触れる者は理佐以外にもふたりいた。
そのうちひとりは、OG会所属の女医。隔日で現われる彼女は、医師として蓮香を診察して健康状態を確認した。
それは、蓮香に一定程度の安心感を与えると同時に、絶望をもたらした。職員会議や理事会をも動かすOG会が、房美の行為を認めていることの証でもあるのだから。
さらに、蓮香に触れる最後のひとりが、房美である。
彼女が蓮香に触れるときは、新しい処置を施すときだ。
OG会にに認められた強権を持つ房美自身がそれを行なうことは、新しくかつ残酷な処置を、この人にされるのなら仕方ないと諦め、受け入れさせることにもつながる。
そんな風紀委員長・大田黒房美が、理佐と入れ替わるように蓮香の前に立った。
「今日は、貴女と理佐以外の、自治会メンバーをここに呼んでいるの……」
そして、冷たい光をたたえた目を細め、蓮香に訊ねた。
「喋れないし、うなずくこともできないでしょうから、目で答えて……このままの姿で、彼女たちを出迎える?」
ありえないことだった。全裸に剥かれ、拘束架に囚われ、股間に金属棒を食い込ませたうえに乳首ピアスまでつけられた姿を、仲間に晒すことはできない。
そう考え、言われたとおり目でうなずくと、房美が鷹揚に答えた。
「わかったわ。身体と顔のカバーがあったほうがいいのね?」
さらに訊ねられ、もう一度。
そこで、房美が唇の端を吊り上げた。
「でもね、それじゃ私がおもしろくないの」
そう言うと妖しく嗤ったまま、股間に食い込む金属棒をいったん緩めた。
それから、金属棒になにか細工をしてから、再び蓮香の媚肉に食い込ませる。
(……?)
どこか、感触が違った。
金属棒の粘膜に当たる部分に、それまでなかった異物の存在を感じた。
とはいえ、拘束架に囚われて動けない身体では、それがなにかを目で確認することはできない。
厳重に塞がれた口では、異物の正体を問いただすこともできない。
そのうえ、理佐の手で身体にカバーが取りつけられ、鏡で確認することもできなくされた。
さらに、顔にも金属製のカバーがかけられ、蓮香は視覚をも奪われてしまった。
心のどこかで、房美に施された処置なら仕方ないと受け入れながら。
「失礼します……」
風紀委員会室に、人が来た。
顔にもカバーをかけられた蓮香は、それが誰なのか目で見て確かめられない。
壁に近い後頭部は露出しており、そこから光が差し込んではくるが、それで確保された視界には、顔カバー内側の湾曲した金属板しかない。
だが、蓮香にはわかっていた。この声の主は、学院自治会メンバーのひとりだ。続いて入室する物音も、おそらく自治会の面々のものだ。
「あの……今日はどういったご用件でしょうか?」
自治会の仲間が、緊張感を漂わせた声で訊ねた。
彼女が房美に対して敬語を使うのは、ただ単に上級生だからというわけではないだろう。
理佐のときは同じ生え抜きの先輩だからと考えたが、彼女は房美の奴隷だったがゆえの言葉遣いだったのだと、今なら知っている。
理佐以外の自治会メンバーは奴隷ではないが、格上の房美に圧倒されているのだろう。
生まれながらの支配者が放つオーラが、そうさせているのだ。
そう考えた時点ですでに、蓮香は房美を『生まれながらの支配者』と認めていた。
肉体の自由は奪われても精神は屈せず、最後まで抵抗を続ける心づもりではいても、心の奥底で房美の支配を受け入れ始めていた。
自治会メンバーが来ると知らされたとき、迷わずカバーで顔と身体を隠す道を選んだのがその証拠。
以前の蓮香なら、恥を忍んで彼女たちの前に裸身と顔を曝け出していただろう。わが身の惨状を見せることにより、彼女たちに公的機関への通報を促していたはずだ。
だが、蓮香にはできなかった。そうしようと考えることすらなかった。
今の彼女にできるのは、みじめな姿を自治会の仲間たちに見られたくない一心で、怯えて息を潜めていることのみ。
そんな蓮香を、新たな試練が襲う。
「おかけなさい」
房美が自治会メンバーに着席を促した直後、媚肉に食い込む金属棒が震え始めた。
「……ッ!?」
絶え間ない金属棒の刺激で火照り続ける肉を刺激され、思わず声を漏らしそうになる。
「ッ……ッ!?」
乳首ピアスに吊られた重りの苦痛に苛まれながら、金属棒の振動にも耐えることを強いられる。
(こ、これは……)
そこで、ようやく気づいた。
振動しているのは、金属棒そのものではない。
『でもね、それじゃ私がおもしろくないの』
そう言って房美が取りつけた異物が、媚肉に食い込んで震えているのだ。
実のところ、それはリモコンローターだった。
内蔵された電池が尽きるまで、離れたところからの操作で、被装着者を責められる淫具だった。
とはいえ、蓮香はその淫具の存在を知らない。
ただ、房美が施したなんらかのしかけで、自分が責められているとは理解している。
そして、いまだなにものも侵入したことのない彼女のそこは、絶えず金属棒を食い込まされていたせいで、乳首と同じように性感を開発されていた。
開発済みの媚肉に食い込み、リモコンローターが振動する。
その刺激が、蓮香の肉を昂ぶらせる。
昂ぶらせ、押し寄せる性の快感に酔わせる。
快感に酔わせ、快楽以外のことを考えられなくさせる。
「ン……ッ!?」
吐息が漏れかけた。
ハッとして声を飲み込む。
ただでさえ、見慣れない物体――蓮香を捕らえ閉じ込めるカバーつき拘束架――は、自治会メンバーの気を引いているだろう。
口枷ピースでくぐもったものになっていても、顔のカバーでいくぶん音量が下がっても、気を引いている物体から喘ぎ声が聞こえたら、彼女たちは訝しがる。
自治会メンバーでただひとり姿の見えない蓮香が、ここにいると気取られるかもしれない。
(そ、それだけは……)
絶対に避けなくてはならない。
そう考え、気を引き締めた蓮香の耳に、房美の声が聞こえてきた。
「自治会は解散して頂戴。会長の蓮香さんも、すでに解散を受け入れているわ」
違う。蓮香は解散を受け入れてなどいない。
しかし、そうと告げることはできない。今の蓮香には、告げようと思うことすら不可能。
「そ、そんなこと……」
抗議の声をあげかけたのは、中途入学組の同級生だ。
だが、彼女は最後まで言いきれなかった。ほかのメンバーは、口をつぐんだまま。
長く重い沈黙。
そのあいだも、蓮香の股間の淫具は振動し続けていた。乳首ピアスに吊られた重りは、そこに痛みをもたらしていた。
「ふ、ぅ……」
媚肉への刺激が、蓮香に小さく吐息を漏らさせる。
「ン、ぅ……」
乳首の痛みが、彼女を静かに苦悶させる。
かつて与えられたことのない快楽と、今まで味わったことのない種類の痛みに、みじめな女囚は声をあげることすら許されない。
「ここだけの話だけど……」
沈黙を破って口を開いたのは、自治会メンバーではなく房美だった。
なかなか応と答えないメンバーに焦れたわけではない。答えたくても答えられない彼女たちの背中を押し、決断を促すためだ。
「OG会は、貴女たちの叛乱に、相当ご立腹なの。自治会長の蓮香さんがここにいないのは、すでに謹慎しているから。貴方たちにも、なんらかの処罰をするよう望む声もあるわ」
違う。なにもかも違う。
自治会は正式な手続きを経て成立したもの。蓮香たちの行動は、けっして叛乱などではない。むしろ叛乱を起こしたのは、房美と風紀委員会のほうだ。
それに、蓮香はここにいる。彼女たちのすぐ側で、囚われ閉じ込められている。
しかし、肉体的にも精神的にも、蓮香はそうと告げられない。恥ずかしい姿を晒したくない一心で、喘ぎ声を抑えようと必死で、告げようと思うことすらできない。
ともあれ房美の言葉に、自治会メンバーのなかでも、OG会の力をよく知る生え抜き組の者に動揺が広がった。
その動揺が中途入学組にも伝わり、全員が不安に囚われた。
「でもここで解散を決めてくれれば、私がOG会を説得する。貴女たちはお咎めなしにしてみせるし、蓮香さんも夏休み中の謹慎で済むよう取り計らう」
それが、決め手だった。
再びしばしの沈黙のあと――彼女たちは顔を見合わせうなずき合っていたのだが、それは蓮香には見えなかった――最初に抗議しかけたメンバーの声が聞こえた。
「わかりました……自治会を解散します」
その言葉が、蓮香の心を完全にへし折った。
へし折って、粉々に打ち砕いた。
「よかったわ。それでは、解散宣言書にサインをして頂戴」
集められたメンバーが全員サインし、最後に理佐が名前を書き込んだときには、蓮香は自制心をも失っていた。
自治会メンバーが、席から立ち上がる。
ひときわ大きい快感が、蓮香を襲う。
メンバーが房美に深々と頭を下げ、風紀委員会室を退出する。
襲いきた快感が、気力を奪われた蓮香を押し流す。
「ンぅう、ンむぅんんッ!」
そして、前後不覚に陥った蓮香が艶めいて喘いだとき。
「どうしたの? 早くお行きなさい」
怪訝な表情でカバーつき拘束架を見たメンバーのひとりが、房美に促されそそくさと退出した。
「ん、ぅ……」
くぐもってうめき、蓮香は覚醒した。
気づくと、顔と身体を覆っていたカバーは外されていた。絶頂したあと恍惚の世界にいるあいだに、股間の金属棒に仕込まれた異物――リモコンローター――も、なくなっていた。
「ン、ぅう……」
目の前に房美がいることを認識したところで、拘束架に支えられた身体が、ピクリと痙攣した。
「んぅ、ん……」
恍惚の余韻に甘くうめいたところで、房美が口を開く。
「もう、わかっているわね?」
わかっていた。蓮香が立ち上げた学院自治会は、完全に終了した。
もし仮に、蓮香ひとりが解散を受け入れていないと主張しても、もうメンバーはついてこないだろう。
そもそも蓮香自身に、もはやそうする気力がない。
だが、残念な気持ちはなかった。悔しくもなかった。むしろ、奇妙な満足感に包まれていた。
(ど、どうして……)
そんなふうに思うのか。
実のところ、それは絶頂後の幸福感のせいである。
理佐に乳首でイカされるときは、小さな頂に繰り返し昇らされる。
だがこのたびは、巨大な絶頂がドカンときた。
それは、刺激された場所の違いによるもの。乳首も敏感な部位ではあるが、陰核を含む媚肉周りとは、得られる快楽の大きさは比べものにならない。
加えて、自治会メンバーに声を聞かれまいと耐えに耐えた末に、ポッキリ折れてイカされたから。それで、恍惚の世界に一気に飛ばされてしまったのだ。
そして、たどり着いた頂が高ければ高いほど、そこで味わう恍惚感も幸福感も大きい。大きいがゆえに、覚醒してからも尾を引く。
ともあれ、それは蓮香にはわからないこと。
わからないまま、恍惚の余韻に浸る蓮香に向かって、房美が口を開いた。
「さっきのように、目で答えて……自治会のことは、もう諦めた?」
その問いに、しばしためらったあと、蓮香は視線でうなずいた。
「諦めたなら、もう私の奴隷になる?」
それには、うなずくことができなかった。
「奴隷になったら、理佐と同じように、楽に愉しく学院生活を送れるんだよ?」
そう言って、房美に促されても。
蓮香はまだ、一線を超えることができなかった。
そんな蓮香を見て、房美が妖しく輝く目を細め、嗜虐的な笑みをたたえて告げた。
「いいわ。夏休みはまだ半分しか終わっていない。残りの期間、私と理佐でたっぷりかわいがって、堕としてあげる」
学院の廊下を、風紀委員会が闊歩する。
先頭は、風紀委員長・大田黒房美。その斜め後ろに、次期委員長と副委員長と目される2年生、岬蓮香と首藤理佐。
あれから――房美の計略により自治会が解散に追い込まれてから――風紀委員会の権限は、以前にも増して強くなった。
もはや職員会議も理事会も、OG会の力をバックに持つ房美と風紀委員会の言いなりとなっていた。
そうして学院の絶対的支配者になった房美の後継者に指名されたのが蓮香。蓮香を補佐する役目に任じられたのが理佐。
元自治会メンバーのなかには、彼女たちのことを裏切り者と陰口を叩く者もいた。
だがそれは、ただの陰口にすぎない。表立ってそう言える者は、もう学院にはいない。それほどまでに、房美と風紀委員会、それを引き継ぐ予定の蓮香と理佐の力は絶大だった。
また風紀委員会のなかに、奴隷が次期会長かと異を唱える者もいない。それほどまでに、風紀委員たちは房美に心酔し、その決定を絶対のものとして従っていた。
そもそも今の学院では、風紀委員長以外の者は、全員奴隷以下の存在と言っていいのだ。
そんな房美と風紀委員会は、支配下においた学院において、部外者には暴走とも思える悪巧みを始めるのだが、それはまた別のお話である。
(了)