Home Artists Posts Import Register
Join the new SimpleX Chat Group!

Content

先週末、一般ピクシブで公開した小説『異世界に召喚されたらポニーガールだったJK(錠乃可奈)』、イメージイラストも描きましたのでこちらでも。 「いっけなーい、遅刻ちこくー!」  そんな声が聞こえてきそうな勢いで、制服姿の女学生が走る。  トーストした食パンを咥えたまま、プリーツスカートの裾をひるがえし、伸び伸びとしたフォームで走る。  長い黒髪を後ろで束ねた彼女の名は、錠乃可奈《じょうの かな》。この街でいちばん歴史のある、女子校に通っている。  中学の頃は、陸上部だった。  特に陸上競技が好きだったわけではない。部活が強制の学校で、幼なじみの仲よしの子に誘われて入部したのだ。  深く考えず入部した可奈だが、それなりの才能はあったのだろう。短距離種目では、まずまずの成績を残した。  陸上競技の有名私立校からの勧誘が来るほどではなかったが、県内公立校の陸上部関係者からは、可奈がどこに進学するのか注目されていた。  そんななか、彼女が進学先として選んだのが、件の女子校だった。  理由は、陸上部がないから。陸上部のある学校に進学したら、問答無用に入部させられそうだったから。  特に陸上競技が好きではなかった可奈だが、同時に嫌いでもなかった。好成績を収めてチヤホヤされるのは、正直なところ気持ちよかった。  だが、練習は嫌いだった。特に朝練は、どうしようもなく大嫌いだった。  そう、可奈は朝が弱い。朝練どころか、学校そのものに遅刻しがちだ。  派手に着飾ったりや、異性との交際には興味のない――むしろ、かわいい女の子に興味津々である――可奈だが、朝はできるだけ長く布団の中でいたい。  とはいえ、歴史と伝統ある女子校は、風紀のみならず遅刻にも厳しい。1分でも遅刻すれば、放課後居残りで反省文を書かされる。  これまで持ち前の走力で乗り切ってきたが、今朝は厳しい。このまま校門まで全力で走り続け、ギリギリ間に合うかどうか――。  そのときである。  地面を蹴る可奈の足が、空振りした。  突然地面がなくなったような感覚に、思わず視線を落としたところで、自分の足しか見えなかった。 「えっ……?」  とまどってもう一度顔を上げると、視界は闇に閉ざされていた。 「いったい、なにが……?」  わからない。なにが起きているのかも、自分が今どこでなにをしているのかも。  突然襲いきた真の暗闇のなか、どこまでも際限なく落ちているような。それでいて、かぎりなく上昇しているような。  不可思議な感覚に囚われながら、可奈は意識を失った。 「ぅ、ん……」  低くうめいて、可奈は目覚めた。  目を開けて、なにも見えない。身体も動かない。口には食パンを咥えたまま――。  いや、違う。  目を開けても見えないのは、その上をなにかで覆われているからだ。  咥えているのは食パンではない。固い棒のようななにかだ。それが吐き出せないようにされているのだ。  そのうえで、顔と頭全体を締めつけられている感触がある。それで、目隠しと棒状の轡が固定されているのだろうか。  上半身が固められたように動かないのは、腕を背中側でまっすぐ揃え、袋のようなものに収納されて締めあげられているから。  脚がモゾモゾと蠢かす程度にしか動かないのは、足首と太もものあたりで縛り合わされているから。  少しずつ覚醒してきた身体感覚のみで、そうと悟ったところで、聴覚も回復してきたのか。誰もいないと思っていた方向から、女性の会話が聞こえてきた。 「こいつが、件の……?」 「はい。食いっぱぐれた田舎魔術師から買った弟子なのですが、逃亡を企てたところを捕獲しました」 「わがポニーガール調教所からか?」  なんだろう。不穏なワードが連発される。  魔術師ってなんだ。それから買ったってどういうことだ。そのうえポニーガール、意味がわからない。  とはいえ、『ポニーガール』以外のワードの意味だけは理解できた。  それは、可奈が朝に弱い原因のひとつである。夜、布団に潜り込んでから、スマホで読む漫画。そのなかでも、いわゆる異世界転生・転移ものが最近のお気に入りだった。  たいていは、可奈のような普通の女の子が、なんらかの原因で異世界に転生、あるいは転移する。転生先の身分は悪役令嬢だったり、奴隷だったり、町娘だったりとさまざまだが、たいていは王子様的イケメンに見染められる。  見染められるのが王子様という点が少々不満ではあるが、たまに相手も女性の百合作品に出逢うと、時間を忘れて読み耽ってしまう。  そんな作品のなかで、魔法だの魔術師だの、はたまた奴隷の売り買いといったワードはよく見かけた。  とはいえ、女性たちが漫画やライトノベルの話をしているわけではなさそうだ。 「帝都の奴隷調教施設でいちばん警戒厳重とされるわがポニーガール調教所から、いったいどうやって逃亡を企てたと?」 「それが、調教所付き魔術師によると、召喚術を使ったのではないかと」 「召喚術、だと……?」  それもまた、異世界ものではよく出てくるワードだった。  異世界の魔法使い、あるいは魔術師、とにかくそういう職業の人が、可奈たちの世界から人を転移させるときに使う術だ。 「いや待て、召喚術は魔術のなかでも、きわめて高度な術だと聞く。一介の田舎魔術師の弟子程度の娘が、おいそれと使えるものではないぞ?」 「はい、ですからおそらく、失敗したのでしょう。ほんとうなら自分とよく似た異世界の娘を召喚し、身代わりとするつもりだったでしょうが、喚《よ》ぶことができたのは、召喚対象の娘が着ていた服だけ。それで魔力が尽きたのか、召喚した異様な装束を身にまとい、気を失って倒れていたのです」  いや、違う。  その魔術師の弟子とやらは、召喚に成功した。  だからこそ、今ここにこうして、可奈は囚われている。  そうと理解しても、恐怖の感情があまり湧いてこないのは、いまだ脳が覚醒しきっていないのか。 「ふむ、なるほど……ともあれ、途中までとはいえ、召喚術を使えるレベルの魔術師だということはたしかだ。魔方陣を書いたりしないよう、調教が完了しポニーガールとして出荷するまで、けっして拘束は解くな。呪文を唱えることがないよう、絶対に轡を外すな」 「わかりました。それでは予定どおり、明朝より調教を開始します」 「うむ、逃亡を企てた女だ。躾は厳しくな」 「はっ、仰せのとおりに」  そして、ふたりの女性が超不穏な会話を終えて立ち去ったあと、可奈は再び意識を失った。 「ッ……ッ!?」  衝撃的な激痛に襲われ、可奈は目覚めた。 「いつまで寝ているつもりだ?」  反射的に声のほうに顔を向けると、露出度乃高い革の服を着て鞭を手にした女が、床に横たわる可奈を見下ろしていた。  相変わらず、袋のような拘束具に腕を収められて拘束され、上半身は固められたように動かせない。  目隠しは外されている。脚の拘束も解かれているが、代わりにハイヒールのブーツを履かされているような形に、足が固定されている。  そして、お尻がジンジンと熱を持って痛い。きっと、女に鞭で打たれたのだ。 「あうぅ……あぇえ(やめて)、うぃあぃ(痛い)……」  棒状の轡を嵌められたままで、声は言葉にならない。  そこで、可奈は思い出した。  たしかポニーガールと言ったか。奴隷として売られた魔術師の弟子に、身代わりとして自分は異世界に召喚された。  おそらく彼女は、自分に似た容姿の者を選んで召喚したのだろう。それで制服姿で倒れていた可奈は、召喚に失敗した魔術師の弟子として囚われた。 「みじめだな、魔術師の弟子……いや、元魔術師の弟子と呼ぶべきだな。身代わりの召喚に失敗したおまえは、もともとの名前も人としての尊厳も剥奪されたポニーガールなのだから」  違う。魔術師の弟子は、召喚に成功していた。  だから自分は、ポニーガールなんかじゃない。私立女子校に通う、錠乃可奈だ。  しかし、そうと告げることはできなかった。身振り手振りで、訴えることも不可能だった。  そしてこの先も、その機会は訪れないだろう。 『魔方陣を書いたりしないよう、調教が完了しポニーガールとして出荷するまで、けっして拘束は解くな。呪文を唱えることがないよう、絶対に轡を外すな』  魔術師に対する逃亡防止の方策が、可奈から抗弁の機会を奪ってるのだから。  そうと思い知り、愕然として絶望した可奈に、女が告げる。 「立て」  鞭を虚空に振るって威嚇しながら。 「ひッ……!?」  いまだ疼きが残る鞭の痛みを恐れ、モゾモゾと身体を蠢かして立ちあがろうとし、可奈は乳房をさらけ出していることに気づいた。  いや、さらけ出されているのは胸だけではない。お尻も衣類に覆われていないから、鞭の打擲が衝撃的なほど痛かったのだ。  そして、お尻が露出させられているということは、当然前も。 「うぃあ(いや)ぁああッ!」  恥ずかしさに叫び、胸を手で隠そうとしても、拘束の身では叶わない。 「どうした、裸が恥ずかしいのか? ふん、なにを今さら……ここに連れて来られるあいだも、裸に剥かれていたくせに」  違う。裸に剥かれて連れて来られたのは可奈ではない。可奈を身代わりとして召喚した、魔術師の弟子だ。  とはいえこのたびも、そうと伝える手段はなかった。 「拘束具以外は裸が、奴隷の正装だ。これからおまえにはポニーガール装備の設えを行なうが、それにも胸や尻、性器を隠すパーツはない。いや……」  そこで女が、唇の端を吊り上げ、いやらしく嗤った。 「そういえば、躾は厳しくと仰せつかっていたな……よし、一時的ではあるが、このあと隠してやろう」  そしてそう言うと、再び鞭を振るって可奈を威嚇しながら命じた。 「立て、おまえを処置室に連行する」  チャラ、チャラリ。  1歩進むたび、首輪につながれた鎖が揺れる。 「はふ、はふぅ……」  腕を拘束されたまま、首輪の鎖を引かれて歩く可奈の口から、苦しげな吐息が漏れる。  苦しい、つらい、歩きにくい。  目覚めたとき感じたように、足には超ハイヒールのブーツを履かされていた。  いや、超ハイヒールというのは正確ではない。足が超ハイヒールを履いたときの形に固められているせいでそう表現したが、ブーツにはヒールがない。  いわば、踵のない超ハイヒール。ハイヒールはおろかローヒールのパンプスすら履いたことのない可奈にとって、それ自体が足の拘束具のように思えてしまう。  そしてそのブーツは、外見も異様だ。  甲の部分が馬の蹄のように成形され、硬い床に設置する底面には、蹄鉄のような金属部品が取りつけられ――。  そこで、気づいた。  ポニーとは、小型の馬のこと。つまりポニーガールとは、馬に見立てた女奴隷のことなのだ。可奈はその身分に堕とされたのだ。  とはいえ、そうと気づいても、自身ではどうすることもできない。  可奈にできることは、首輪の鎖を引かれるまま、不自由な足でヨチヨチ歩くことのみ。 「はふ、はふ……ッ!?」  轡を噛まされた口から、ときおり涎が垂れる。 「ぁう、ぁあぁ……」  垂れた涎を反射的に吸い上げようとしてうまくいかず、顎を濡らした液体は床に落ちる。一部は首を伝い、胸へと落ちる。  その胸の膨らみ、アスリートとしては大きい乳房は、露出されている。  そのうえ腕を拘束する袋状の拘束具――アームバインダーという名を知ったのは、ずいぶん後のこと――を留める革ベルトが、膨らみの上端を締めつけているせいで、ふだんとは違う形に歪められている。  恥ずかしい、悔しい、くるおしい。  こみあげてくる負の感情に、涙がこぼれそうになる。  だが、立ち止まることは許されなかった。  カッ、カッ。  ブーツ底面の蹄鉄が、硬い石の床を叩く。  カッ、カッ……カカッ。  ときおり、歩が乱れる。  それでも、女が首輪の鎖を引くペースは変わらない。  アスリートならではのバランス感覚で転倒することはなかったが、鎖がピンと張り、首輪が首を絞める。  人に対するに際し、当然持っておくべき配慮は、まったくなかった。  まさに、奴隷の処遇。  それで自分の身分を思い知らされながら、ようやく目的の場所にたどり着いた。 『これからおまえにはポニーガール装備の設えを行なうが……』  首輪の鎖を引かれて歩かされる前の、女の言葉。  ここが、そのための部屋なのだろう。  拘束され、閉じ込められていた場所や、歩かされた通路と同じ、床も壁も天井も石造りの部屋。  ただしここには、木製の棚があった。  異世界に召喚されて、初めて見る家具調度の類。ただしそこに置かれている道具は、ろくでもないものばかりなのだろう。  具体的になにをどうするものかはわからなくても、これまでの自分に対する処遇から、容易にそうと想像できる。  そして、ろくでもない道具は、棚の中だけではなく天井にも。  そこにぶら下げられていたホイスト――手動巻き上げ式の簡易クレーン――のフックに、首輪の鎖を繋がれる。その鎖を、女が巻き上げる。  ジャラジャラと耳ざわりな音を立てホイストが巻き上げられるにつれ、鎖が吊られていく。やがて、それが繋がれた首輪も吊り上げられる。 「あぇえ(やめて)!」  吊り上げられた首輪に首を引かれ、中止を請うが、奴隷ふぜいの言葉にならない懇願が受け入れられるわけがない。  女が巻き上げを止めたのは、首輪が可奈の首に食い込み、軽く絞めるようになった頃だった。  そのせいで、可奈はホイストの真下から動けなくなった。しゃがんだりすることはもちろん、前でも横でも後ろにも、1歩、いや半歩でも移動すれば、首が絞まってしまう。  そこで、女が可奈の顔を覗き込んだ。 「そういえば、今朝はまだ水を飲ませていなかったな」  そう言ってニヤリと嗤い、部屋の片隅に置かれていた手桶を運んできた。  そして柄杓で桶の水をすくい、可奈の前にかざす。 「水飲ませてやろう。たっぷりとな」  その直後、轡を噛まされた口に、水がかけられた。  半分以上は口に入らず、顎を伝って胸に落ちる。だが残りは、可奈の口中に流れ込む。  その水が喉の渇きを癒やしてくれたのは、はじめのうちだけだった。 「おぅ(もう)、ぃああぃ(いらない)」  喋れない口で告げても、女は手を止めない。 「おぇあい(お願い)、あぇ(やめ)……ぁがッ!?」  喋りかけていた口に、さらに水が流し込まれた。 「ン、んぐっ……」  目を白黒させながら、水を飲み下す。 「んっ、んはっ!」  飲み下し、息継ぎをしたらもう1度。 「んグッ、んあッ!」  繰り返し、繰り返し。  お腹が水でパンパンになり、これ以上もう飲めないと思ったところから、さらに数回。  もはや水責めと言えるほど、可奈に大量の水を飲ませ、ようやく女が柄杓を置いた。  とはいえ、それで責め苦が終わるわけではない。 「今朝まだ済ませていないのは、水飲みだけじゃないんだろう?」  嫌な感じの笑みを浮かべ、動けない可奈に女が訊ねた。  そうだ、ふだんなら起きてすぐ済ませる行為を、今日はまだしていない。  鞭で文字どおり叩き起こされ、首輪に鎖を繋がれて連行され、そのまま首輪を吊り上げられて水を飲まされて、する機会がなかった。  女の子なら、誰にも見せず一人で処理する生理現象、おしっこ。  ただでさえ溜まっているところに、無理やり大量の水を飲まされ、もはや限界は近い。 「おまえ専用のポニーガール装備を設えたら、簡単にできなくなる。今のうちにさっさと終わらせろ」  そうすることがあたりまえのように女が告げるのは、それがこの世界全体の常識だからではないだろう。 『どうした、裸が恥ずかしいのか?』  胸とお尻がさらけ出されていることに、可奈が気づいたときの女の言葉。  つまりこの世界でも、女の子が人前に裸身を晒すのは、恥ずかしいことなのだ。 『拘束具以外は裸が、奴隷の正装だ』  だからこそ、裸が奴隷の証になっているのだ。  そして、奴隷が人前でさらけ出さなくてはいけない恥は、裸身だけではない。 「どうした、排泄しないのか?」  この世界の奴隷の常識にのっとり、女が催促する。  とはいえ、命じられたからといって、おいそれとできるものではない。  たとえ、膀胱の出口を意識して引き締めておかないと、漏らしてしまいそうなほど切迫した状態だとしても。 「さっさと終わらせないと、これだぞ」  そう言って鞭で威嚇されても、こればかりは無理だ。  そこで、女が痺れを切らした。  ヒュッ、と空気を切り裂く音。  ピシッ!  直後、鞭がお腹の下のほうに炸裂。 「ッ、ゥああッ!」  その衝撃で、チョロっと漏らしてしまった。  目を剥いて悲鳴をあげ、耐え難い痛みで反射的に身を屈めようとして、天井から吊られた首輪に首を絞められた。 「ウッ……ッ!?」  首が絞まる苦しさが、決壊を招いてしまった。  男性よりずっと短い尿道を通過して、温かい水流が迸る。 「ぅいああ(いやああ)ッ!」  だが身体の構造上、いったん迸り始めたおしっこを止めることは、女の子には難しい。 「おぇええ(止めてえ)ッ!」  しかしもちろん、誰も止めてくれない。  太ももを伝い、ブーツを濡らし、足下に水溜まりを作る。  恥ずかしい、恥ずかしい。つらい、つらい。  でも首輪を吊られ、しゃがみ込むこともできない。それどころか、顔を伏せることすら許されない。 「ぁうぅうぅ……」  轡を噛まされた口から、涎が溢れる。 「ぁあぁあぁ……」  恥ずかしさ涙が頬を伝う。  そのとき、可奈のなかで、なにかがプツリと切れた。  これまでは、厳重な拘束で身体の自由を奪われ、物理的に抵抗できなくされていた。  それが今は、抵抗しようとする気力すら奪われてしまった。  とはいえ、それは女の目の前でお漏らしをしてしまったショックにより、心を折られたせい。一時的なショック状態から立ち直れば、折れた心も修復され、可奈は気力を取り戻すだろう。  通常であれば、女は折れた心をいったん修復させ、それをまた折る調教を課す。繰り返し、繰り返し、心を折る。  それで修復不可能なほど心を砕き、身分のみならず精神まで奴隷に堕とす。  だがこのたび、女は上役に言いつけられていた。 『逃亡を企てた女だ。躾は厳しくな』  その指示にのっとり、女は可奈にほかの女奴隷より厳しい躾を施す。  修復された心を繰り返し折るのではなく、修復する機会すら与えない、凄絶な調教を課す。  とはいえ、それは可奈にはわからないこと。  女の意図を知らないまま、打ちひしがれている可奈に、次なる処置が施された。  女はまず手桶を取ると、おしっこで汚れた可奈の下半身を、残っていた水で洗い流した。  それから、可奈の腕を縛《いまし》めていた、袋状の拘束具が解かれる。  だが、可奈は抵抗しない。逃亡を図ろうともしない。  いまだ首輪を吊られ、その場から一歩でも動けば、首が絞まる状態だから。長時間拘束されていたせいで、腕が痺れて動かしにくいから。加えて、心を折られていたから。  拘束を解かれても抵抗しない可奈の手首に、革の拘束ミトンが嵌められる。  いやそれを、拘束用ミトンと呼んでいいのか。  その革装具の内側は、グーを握った状態でギリギリの大きさ。嵌められてしまうと指が使えなくなるという意味では、拘束ミトンには違いないだろう。  ただ、外観が異様だ。  足の踵のない超ハイヒールと同じように、馬の蹄を模した形状。同じくご丁寧に、蹄鉄を模した金具まで取りつけられている。  それを嵌められた者の手を、馬の前足に変えてしまう、ポニーガールの装具のひとつ。  可奈がそうと気づいたところで、蹄の拘束ミトンの手首に設えられた金具どうしを接続され、前手で拘束された。  その手を高く掲げさせられ、蹄のミトンどうしを接続する金具を、首輪を吊る鎖につながれる。  そうして可奈の身体の自由を再び奪ってから、女はホイストを操作し、首輪の鎖を少しだけ緩めた。  もちろん、楽にしてやるためではない。ここにいるかぎり、可奈を楽にするつもりは、女にはない。  鞭で威嚇しながら、女が可奈の脚を開かせる。  肩幅より少し広い程度まで開脚させられると、頭の位置が低くなったことで、再び首が軽く絞められた。  その状態で、ブーツの足首に足枷が嵌められる。嵌められた足枷が金属製の棒の両端につながれ、脚を閉じられなくされる。  前手に拘束された腕を頭上高く掲げ、脚を開かされ、『人』の字の形に拘束された可奈の前に、新たな革の装具を手にして女が立った。  それは、可奈の感覚で幅30センチほどの革の帯に、複数のベルトと金属製の金具が組み合わされたもの。  その革帯の上端が、可奈の乳房の下端に合わせてあてがわれた。設えられた縦のベルトのつけ根が、両の乳房の中央にくるように位置を決め、背後で3段のベルトが留められる。  それから位置が微調整され、上側の縦ベルト。乳房のあいだを通して引き上げ、金属製のリングを介してY字に分かれたベルトが左右の肩に振り分けられ、これも背中で留められる。  そこで、仮止めしたベルトの増し締め。 「ウッ……」  思わずうめいてしまうほどきつく革帯を締め込まれ、肩も食い込むほど引き絞られて留められる  だが、それで終わりではなかった。  胸の下から肩にかけられたY字縦ベルトの反対側。コルセットのようにウエストを締めあげる革帯の下端に、もう1本ベルトが設えられていた。 「これは、股間ベルトだ」  そのベルトをつまみ上げ、女が告げる。 「通常のポニーガール装具の股間ベルトは2本、股の割れめをかわし、その両側を通すように締める。だが……」  可奈に語りかけながら、唇の端を吊り上げていやらしく嗤う。 「だが、おまえの股間ベルトは1本だ。これを割れめに食い込ませ、きつくきつく締めあげる。そうすれば、どうなると思う?」  わからない。そんなことをしたことも、されたこともないから、本当のところはわからない。  でも、なんとなく想像はできた。  興味本位で、下着の上からそこに触れたときの、ゾワゾワした妖しい感覚。それより大きい感覚が、そこに生まれるのか。あるいは刺激が強すぎて、痛くなってしまうのか。 「ククク……なんとなくでもわかっているようだな。だが、おそらくおまえの考えとは違う。ここには、特別なしかけが施されている」  それは、どんなしかけなのか。 「大陸南部ゾマドール地方の森林地帯に生息する、触手生物を知っているか?」  ゾマドール地方とやらは知らなかったが、触手生物というものは、イメージできた。たぶん、イソギンチャクみたいな生きものだ。  実のところ、ゾマドールの触手生物は、そんな生やさしいものではない。  大きいものでは伸ばした触手は2メートル以上。森に迷い込んだ霊長類の雌、すなわち人間の女を絡めて捕らえ、媚薬成分を含んだ体液を飲ませて肉体を愛撫。恍惚の状態に貶めたうえで、女が分泌する体液を啜って吸収する。その肉体が衰弱し、死に至るまで。 「その触手生物に品種改良を施し、人体に悪影響を及ぼさない程度まで弱体化させた触手の幼生が、股間ベルトの内側に植えつけてある。今は表面が凸凹している程度だが、こいつがおまえの股の汁を吸うと……」  言いながら、女がベルトを可奈の股間に回した。  触手の幼生が植えつけられた裏側が、可奈のそこに触れる。 「い(ひ)ッ……!?」  短く悲鳴をあげたところで、肛門の上も通過する。 「ぃい(ひい)ッ!?」  ぐいっと引き上げられ、もう一度悲鳴をあげるが、女はお構いなしにベルトを締めあげる。  触手の幼生が植えつけられた面が可奈の媚肉に食い込み、肛門にも押しつけられたところで、バックルが留められ固定された。  そして最後に、馬の耳を模した飾りと遮眼帯《ブリンカー》と呼ばれる板を、可奈の頭部を締めあげるハーネスの側頭部に取りつけて、女が告げた。 「これで、ポニーガールの設えは完了だ。さっそく、調教を施してやる」  噛まされた轡の端に扁平な革紐――手綱をつながれて、その場で足踏みをさせられる。  蹄のミトンの手首部分の金具を、コルセットの側面に設えられた金具につながれて。首輪の鎖の代わりに、肩の金具に接続された、手綱と同じ革紐を天井のホイストに吊られて。 「背すじをピンと伸ばし、顔を上げ、視線は前方に固定」  指示されたとおりの姿勢で、ブリンカーで側方視界を制限された目で正面の壁を見て。 「太ももが床と水平になるまで高く上げ、それから床を踏み締めるように足を下ろしなさい」  女に言われるまま、足を動かす。  カッ、カッ、カッ。  ブーツの蹄が、石の床を叩く音。 「リズムは一定に、けっして姿勢は崩さずに」  命令に盲目的に従って。  カッ、カッ、カッ。  裸に剥かれ、首輪に鎖をつないで引き回され、女の子がもっとも見せたくない排泄まで見られた可奈に、抵抗を試みる気力はなかった。  カッ、カッ、カッ。 「数日のあいだは、この訓練を繰り返す。それで歩法が安定すれば、屋外で本格的なポニーガール調教だ」  抵抗どころか、その言葉に抗弁することすらできず。  カッ、カッ、カッ。  ただ、従順に足を動かし続ける。  次第に、身体が温まってきた。  上半身にうっすらと汗をかき、拘束具に覆われていない部位では、かいた汗が玉となって流れ落ちた。  拘束具に締めあげられている部分では、その内側が蒸れ始めた。  だがそんなことは、気に留めていられない。  轡を噛まされた口から、吐息とともに噴き出す涎も、気にしてはいられない。  カッ、カッ、カッ。  蹄鉄の音を響かせながら、指示どおりに足を上げたり下ろしたり。 「ふむ、体力はありそうだな。バランス感覚もいい」  それは、可奈が陸上競技の元選手だからである。競技を引退し、身体には肉がついたが、アスリートとしての美点はまだ残っていた。  そのことに気づいたあたりから、少しずつ気力が復活した。偉そうに命令する女に対する、反発心も甦りつつあった。  とはいえ、可奈がそうなることは、女にはお見通し。  従順に従わせ続けるための処置も、すでに施してある。  触手の幼生を仕込んだ革の股間ベルト。  それをきつく食い込まされた媚肉が、少しずつ潤い始める。  可奈が淫らであるからではない。異物である革ベルトが直接触れ、刺激されているそこが、柔らかい肉を守るため粘液を分泌しているのだ。  快楽の予兆のような感覚を覚えているのも確かだが、いまだ可奈に性的な昂ぶりを自覚させるほどではない。快感と認識されない程度の緩い感覚が、媚肉を濡らしている主な原因ではない。  とはいえ、品種改良された触手の幼生には、そんなことは関係なかった。  原因にかかわらず分泌されたオンナの蜜に反応し、触手の幼生が覚醒する。覚醒し、可奈の蜜を吸い、成長する。そして、自身も媚薬混じりの粘液を分泌しながら、モゾモゾと蠢き始める。  始めに覚えたのは、媚肉が無数の舌に舐めあげられたような感覚だった。  きっと汗と蜜でベルトがぬめっているのだと可奈なりに考えたとき、不意にズクンときた。 「あ、ぅうん……」  痺れるような快感が媚肉に生まれ、一瞬力が抜けてしまった。 「あ、い(ひ)ッ!?」  よろめいて、肩の金具につながれた革紐に身体を支えられる。  ギシッ、と革紐が鳴く。  カカッ、と蹄鉄のリズムが乱れる。  そこで、鞭が飛んできた。  ビシッ! 「ぃうぅうッ!?」  太ももを打たれ、目を剥いて悲鳴をあげる。  激痛にバランスを崩し、肩の革紐に支えられたところで、女の声。 「歩法を乱した罰だ」  そう言われ、復活した気力を振り絞って体勢を立て直す。  いったんは心が折れ、気力を失った可奈の精神が甦ったところで、触手が覚醒する。覚醒した触手の玩弄で性的に昂ぶり、歩法を乱すと鞭の罰。それで甦ったわずかな気力を、体勢の立て直しで消費させる。  まさしく数多の女にポニーガール調教を施してきた、手練れ女の手練手管だった。  それが功を奏し、可奈の気力は、女への反抗に向かわなかった。  そしてそのあいだにも、触手の玩弄は続く。続くどころか、ますます活発になり、艶かしく蠢いていく。  媚肉にぎっちりと食い込み、半ば埋まるほどきつく締め込まれたベルトの裏面の触手から、可奈が逃れる術《すべ》はない。  加えて、太ももを高く上げる歩法だ。  女により強制された歩きかたにより、股間周りの肉も大きく動き、媚肉がベルトに擦られる。  可奈自身が吐き出す蜜と媚薬入り粘液に潤滑され、触手の蠢きとは違う種類の刺激が生まれる。  ふたつの刺激が、大いなる快感をもたらす。 「あっ、あっ、ああっ……」  可奈の吐息は、もはやはっきりと艶を帯びていた。 「はふぁ、あっ、ふぁあ……」  そのことを気に留められないほど、可奈の頭は蕩けていた。  それは、快楽に酔い始めているのか。それとも触手の媚薬が、脳にも回っているのか。  おそらく両方の効果により、しかも効果の足し算ではなく掛け算で、可奈が経験したことがないほど速いペースの昂ぶりがきているのだ。  ともあれ、それで甦った可奈の気力は、思考とともに蕩けて霧消してしまった。  そして、それほどの快楽への対処法を、可奈は知らない。  経験豊富なオンナなら習得している快楽の逃しかたを、可奈は身につけていない。  襲いくる大いなる快楽の奔流を、可奈は全身で受け止める。  だが、大きすぎて受け止めきれず、あっさり飲み込まれる。 「あ、ィ、あぁああッ!」  ガクン、と脚から力が抜けた。  ビシッ! と女の鞭が飛ぶ。 「ぃギッ、ぃあぃ(痛い)いいッ!」  しかし、痛みで快楽が薄れたのは一瞬。  肉の火照りが冷めきるにはほど遠く、弾かれたように歩き始めると、すぐにまた蕩けてしまう。  そこでまた、リズムを乱してしまった。  ビシッ! 「ぃアッ、あァあああッ!」  わずかの時間で再び。  ビシッ! 「ンぎ、ぃあァあああッ!」  そのあたりから、可奈は鞭で打たれたあとにも、嬌態を示し始めた。  ビシッ! 「ンぁ、ンぁあァああッ!」  鞭で打たれても。 「あふッ、はッ、あっあッ!」  蹄鉄の音を響かせ、歩いていても、股間ベルトとその裏面の触手で昂ぶる。  ビシッ! 「はヒぁァあああッ!」  リズムを乱して鞭で打たれ、轡ごしに叫ぶ声は、嬌声と同じになってしまった。  もはや鞭の痛みと性的な刺激が、脳内で区別できない状態。  圧倒的な快楽と媚薬の効果により、可奈は肉体に加えられる刺激すべてが――たとえそれが、ふだんなら耐えがたい痛みであっても――快感に直結する状態に陥った。  今日まで、この世界に身代わりとして召喚されるまで、性体験はほとんどなかった可奈は、調教されたM女性のような状態に陥ってしまった。 (なぜ……どうして……?)  そんなことになったのか。  可奈自身にはわからない。 「あヒ、あっアッ、ァああッ!」  ビシッ! 「ヒぁあァあああッ!」  足踏み歩行と鞭打ちを繰り返すうち、頭が蕩けきり、その理由を考えることすらできなくなっていく。  それは、股間ベルトとそこに仕込まれた触手のせい。加えて、数多の奴隷を堕としてきた女の調教の技。そして――。  ビシッ!  強く鞭で打たれ、それが脳内で大きすぎる快感に変換され、一気に押し上げられて。 「あ、ヒッ、ぐゥううううッ!」  轡を噛まされた口から涎を吹き出し、触手つき股間ベルトの奥から潮を噴き出し、ひときわ高らかに悦びを叫び――。 「こいつ、すごいマゾ体質だ。ポニーガール適性が高い……思いがけない拾いものかもしれないぞ」  肩の革紐にぐったりと預けた身を、ときおりビクンと震わせる可奈を見ながら、頬を上気させた女がつぶやいた。  あれから――可奈が身代わりとして異世界に召喚されてから――どれほどの月日が経っただろう。ひと月ほどのような気がするし、もう何年も経っている気もする。  はじめのうち、調教の回数を指折り数えていた。だがそのうち、数えられなくなった。  四季の境いめが曖昧だから、季節の移り変わりからも判断できない。  そもそも、この世界の生活サイクルや暦が、可奈がもともといた世界と同じなのかどうかもわからない。  自分が今いる施設がポニーガールという奴隷を養成するための調教所だということ以外、可奈にはこの世界の知識がない。  でも、それでいい。  明日調教済みポニーガールとして出荷される自分に、知識なんか必要ない。  出荷に備え、一時的に拘束を解かれ轡を外されたときも、可奈は事実を告げなかった。  長期間轡を噛まされ続けた口を、うまく動かせなかったからではない。蹄の拘束ミトンを嵌められていたせいで、指が痺れていたからでもない。  身体検査のあいだにそれらが回復してからも、可奈はそうと打ち明けなかった。  そして、再び蹄の拘束ミトンと轡を嵌められ、意思を伝える手段を奪われた今も、そのことを後悔していない。  乳首と陰核《クリトリス》に調教済みポニーガールの証たるピアスを嵌められ、魔力を封印する効果のある魔方陣の刺青を彫られた身体では、元の世界に帰ってもふつうの女子校生には戻れないだろうから。 (いえ、そうじゃない……)  と、可奈は思う。  自分の世界は、この異世界なのだ。自分の身分は、ポニーガールなのだ。自分にはもう、この世界でポニーガールとして生きていくしかないのだ。  絶望、諦め、諦念、覚悟。  どれもそうだし、どれも違う。 『こいつ、すごいマゾ体質だ。ポニーガール適性が高い……』  調教初日、可奈を責め苛んだ女がつぶやいた言葉。  可奈自身は、その言葉を聞いていない。耳には入っていたが、記憶には残っていない。  だが日々休みなく繰り返されたポニーガール調教のなかで、可奈は自ら同じ結論に達していた。 (出荷先では……)  どんな責め苦が待っているのか。  そのことに思いを馳せる可奈の瞳には、妖しい光が灯っていた。 (了)

Files

Comments

No comments found for this post.