小説 王国近衛師団第15儀仗隊 ポニーガール部隊 後編 (Pixiv Fanbox)
Published:
2021-09-16 09:43:10
Edited:
2023-12-31 23:51:03
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後編
アラベル軍曹が出ていったあと、しばらくすると作業着姿の女がふたりやってきた。
雑用係の民間人だ。
今度はなにをするつもりなのだろう。
いまだ力の入りにくい身体で壁沿いに座り込んでいると、水を飲ませにきた者とは違うふたり組は、私のことを気にも留めず、床に干し草を敷き詰め始めた。
まるで、馬小屋にそうするように――。
そこで、ハッとした。
もしかしたら馬小屋のようだと感じていたこの部屋は、ほんとうに馬小屋なのかもしれない。
3等ポニーガールは軍人としてではなく、軍馬として扱われるのだとしたら、これまでのつらい仕打ちも納得できる。
訓練を担当する教官は軍人であっても、日常生活の世話をする雑用係は民間人。それも人の世話をする女中《メイド》ではなく、牧場で馬の世話をする牧童の姿をしている。
(ま、まさか……)
そんなことはあるまいと否定してみるが、思いついた考えを頭から追い出しきれない。
雑用係に問うても答えは得られないだろうし、そもそも馬銜を噛まされた口では問うこともできない。
ふたりの雑用係の作業を、ただ見ていることしかできない。
水を飲ませにきた女と同じように、私がどう対応しようと、彼女たちはきっと自分の作業を完遂する。
そう考え、作業の邪魔にならないよう、すでに干し草を敷き終えた部分に移動する。
そのとき、扉が開け放たれたままであることに気づいた。
ふたりの雑用係は、私を気に留めていない。いや正確には、そこに存在している、人以外のモノとしか認識していない。
(だから、もし……)
私がこのまま部屋を出ていっても、彼女たちは引き止めたりしないだろう。
脱走。
その言葉が、頭をよぎる。
(でも……)
おそらくできるのは、部屋を出るところまでだ。
外の廊下をウロウロしていたら、きっと誰かに見咎められる。それが雑用係ならいいが、部隊の者ならどうなるか。
もし運良く建物から出られても、部隊の敷地は高い塀に囲まれている。いくつかある門は、衛兵が警備している。
仮にそこを抜けられたとしても、ポニーガール部隊の制服は、外では目立ち――。
そこまで考えて、ハッとした。
かつて部隊から脱走し、私が囚われたときのように拘束され、引き回されて連れ戻された3等ポニーガール。
彼女は、そのことに思い至らなかったのだろうか。
いや、けっしてそうではないだろう。
1等であれ3等であれ、志願であれ徴発であれ、ポニーガール部隊に入るには資格審査がある。ポニーガールは容姿や体力のみならず、頭脳明晰であることが求められる。
私が脱走は不可能と判断したように、その彼女にもそう考えられたはずだ。
(にもかかわらず、どうして……?)
脱走を企てたのか。
しばし考えて、ひとつの結論に達した。
その3等ポニーガールは、わかっていても脱走してしまったんだ。
そうせざるをえないほど、彼女にとって、3等ポニーガールの訓練は過酷なものだったのだ。
そうと気づいて、ある思いが頭によぎった。
(それほどきつい訓練に、私は耐えられるだろうか……?)
とはいえ、ほんとうは耐えられるかどうかを、私が考える必要はなかった。
私を待ち受けているのは、厳しい訓練――その実態は奴隷調教――に苛まれるだけの運命だった。
耐えられれば、一人前の3等ポニーガールになり、さらに2等になるため次の段階に進む。耐えられなければ、脱走して捕らわれ、罰せられたうえで訓練に戻される。いずれにせよ、この境遇から抜け出すことはできない。
そうと気づけないまま震えあがる私には頓着せず、雑用係が作業を終える。
そこで入れ替わるように、アラベル軍曹が現われた。
「ここで3等ポニーガールがどういう扱いを受けるか。ただひとり3等初期研修を受けていないおまえに、身体に叩き込むことで教えてやろう」
冷酷な笑みを浮かべ。
「まずは、3等ポニーガールの処遇についてだ」
干し草が敷き詰められた床に、私をポニーガールの姿勢で立たせ、アラベル軍曹が口を開いた。
「元1等のおまえは、ポニーガールが正式の軍人でと同等であると思っているかもしれんが、ここでは違う」
「ぅえ(えっ)……?」
「もちろん正式に部隊として存在している以上、ポニーガールは軍人として登録されている。1等ポニーガールは、現実的にも軍人として処遇されているだろう。だが、2等3等のポニーガールについては、あくまで名目上のことだ」
そこまで言われたところで、先ほど浮かんだ考えが、再び頭をよぎった。
馬小屋のようなこの部屋は、ほんとうに馬小屋なのかもしれない。
3等ポニーガールは軍人としてではなく、軍馬として扱われるのだとしたら――。
「ククク……なんだ、もうわかっているようだな?」
私の表情から読み取ったのか、アラベル軍曹が唇の端を吊り上げた。
「名目上の地位は軍人であっても、2等3等ポニーガールは、軍馬として処遇される」
そして、私が予想したとおりの言葉を口にした。
「ここではポニーガールは人ではない。ポニーガール制服を身につけた状態で、そういう生きものとして扱われる」
そのうえで聞かされた内容は、想像を超えて残酷なものだった。
「つまり、制服も含めたおまえのポニーガール装備は、除隊の日まで外されることはない。もちろん入浴や排泄など身体のメンテナンスは必要なので、私の監視の下、一部あるいはすべてを外すことはあるが」
はじめ、なにを言っているのかわからなかった。
わかってからも、言葉を返すことができなかった。
それほどまでの、驚愕の内容。
「それでは、さっそくそのメンテナンスのひとつを行なうとしよう」
愕然とする私にそう告げると、アナベル軍曹は先ほど手綱をつながれた金具の下の床を鞭で指した。
「そこに、壁を背にしてひざまずけ」
「うぇ、あぃお(えっ、なにを)……?」
するというのか。
その問いに答える代わり、アラベル軍曹は乗馬鞭を虚空に振るった。
ヒュン、と空気を切り裂く音。
「ぃ(ひ)ッ……」
それだけで震えあがり、私は言われたとおり壁を背にして床にひざまずく。
そこで満足げにうなずくと、アラベル軍曹が革手錠を取り出した。
「手を前に出せ」
揃えて差し出した両手に、革手錠を嵌められた。
「両手を上げろ」
頭の上に拘束された手を上げると、革手錠の鎖を壁の金具につながれた。
もう、抵抗できない。なにをされても逆らえない。
しかし拘束は、それで終わりではなかった。
「脚を開け」
言われて少し脚を開くが、それではアラベル軍曹は満足してくれなかった。
「もっとだ」
内股をペチペチと鞭の先端ではたかれ、恐怖心から慌てて大きく脚を開く。
すると私の前にしゃがみ込み、アラベル軍曹が妖しく輝く瞳で私を見た。
冷酷でありつつも、どこかに熱を感じさせる視線に、背すじがゾクリとする。
そこで、膝の少し上あたりに革の枷を嵌められた。
その枷どうしを肩幅程度の長さの棒の両端につながれ、開いた脚を閉じられなくされた。
そのうえで、コルセットの上の金属ベルトと、革の股間ベルトを接続するバックルに手をかける。
「ぁあ、ぅおぉあ(そこは)……!?」
外してはいけない。
ベルトの下、通気性に乏しく光沢ある伸縮素材の制服の股間部分は――。
「ククク……予想どおりだな」
それを見つけ、アラベル軍曹が目を細めた。
先ほど、私は絶頂させられた。
性の経験がなく、知識もほとんどない私だが、快楽を覚えたオンナのそこがどうなるかくらいは知っている。
「いや、予想以上だ。よほどの好き者じゃないと、こうはならないぞ?」
おそらくそこにできているであろう大きな染みを、アラベル軍曹が揶揄した。
「うぃあ(いやぁ)、ういああぃえ(言わないで)……」
今すぐ消えてしまいたい思いで目を閉じるが、私への辱めはまだまだ終わらない。
「淫らな39番のここがどうなっているか、直接見てやろう」
そう言うとアラベル軍曹が、私のお股に手を伸ばした。
一見首以外開口部のない全身スーツのように見えるポニーガール制服。その股間部分は、ホック留めでオープンできるようになっている。
もちろん制服を着たまま、大小の用を足すためだ。
もちろん蹄を模したグローブを嵌めたままでは用を足せないが、1等だったときは厠《かわや》の際、お付きの女中にグローブの一部を外してもらっていた。
貴族出身の1等ポニーガールのなかには、用足し自体に女中の手を借りる者もいるが、上級市民出身の私には、その習慣はなかった。
だからクロッチ部分のホックを、他人の手で外されるのは初めて。
もちろんその下の生身を、自分以外の人に見せたことはない。
プチッ、プチッとホックを外される感覚とともに、誰にも見せたことのないそこが、アラベル軍曹の視線に晒された。
「やはり、じゅくじゅくに濡らしているな」
自覚していることを、的確に言い当てられた。
「濡れているだけじゃなく、なにかに期待するように、ヒクヒク蠢いているぞ」
自分ではわからないことまで、はっきりと指摘された。
「ぃあぁ(いやぁ)……ぃあぁ(いやぁ)……」
しかし、脚を閉じることはできない。
手で隠すこともできない。
中止を請う声を、言葉として届けることすらできない。
女として、いや人としての尊厳を奪われた気持ちで、不躾な視線と言葉を受け止めるしかない。
そしてアラベル軍曹が晒させようとしている恥は、こんなものではなかった。
「目を開けろ」
恥ずかしさで閉じていた目を開けさせられ。
「私から目を離すな」
そう命じたうえで、妖しい光をたたえた目を細め、私の顔を覗き込む。
「出したいのは、オンナの淫ら汁だけじゃないんだろう?」
薄く嗤ったまま、アラベル軍曹が口を開いた。
「ここに、溜め込んでいるんじゃないのか?」
そう言って、私の下腹部に乗馬鞭の先端を押し当てた。
「ぁあ、あぇえ(やめて)ッ!」
思わず声をあげたのは、痛かったからではない。
そこを圧迫され、漏らしそうになったからである。
それはもちろん、小水のこと。
3等ポニーガールの身分に落とされ、ここに連れてこられて以来、私は1度も排泄できていない。
「我慢せずに、ここで出すんだ」
とはいえ、そう言われておいそれと出せるものではない。
「ここで出しておかないと、制服のまま漏らしてしまうことになるぞ」
そのほうがのちのち、より悲惨な事態を招くとわかっていても。
女にとって、排泄は性的なことより秘しておきたい行為なのだ。
しかし、アラベル軍曹は許してくれなかった。
「出せないなら、出せるようにしてやろうか?」
手にした鞭を私に見せつけ、それから虚空に振るう。
ヒュン、ヒュン。鞭が空気を切り裂く。
「ぃ(ひ)ッ……ぃあ(いや)……」
威嚇された私が、短く悲鳴をあげる。
「私はどちらでもいいが、おまえにとっては、自力で出しておくほうが身のためだぞ?」
それは鞭による強制排泄のあと、続いて罰の鞭が与えられるということだろう。
「ぁあ……」
鞭の恐怖を身体で憶えてしまった私は、おののいて嘆息した。
嘆息して、お股の力を弛めた。
チョロ、とほんのわずかに、温かい液体がそこから漏れる。
「ぃあぁ(いやぁ)、うぃあぃえ(見ないで)……」
しかし、アラベル軍曹は私から視線を外さない。
「目を閉じるな。私を見ろ」
あまつさえ、私にもそうすることを強いる。
「勢いよく出せ!」
そう言われたことが、合図となった。
それまでチョロチョロと出していた液体を、覚悟を決めて迸らせる。
アラベル軍曹に見られながら、彼女を見返しながら、床に敷かれた干し草の上に、勢いよく放尿する。
その液体が、水溜まりを作ることはなかった。
排泄された小水は、すべて干し草に吸い込まれていた。
それが、せめてもの救い。
やがて長い放尿が終わったところで、制服の股間が閉じられる。その上から、ベルトが締められる。
これまでよりひとコマきつく、革のベルトを女肉の割れめに食い込ませるように。
それからアラベル軍曹は立ち上がり、羞恥にまみれる私を見下ろしながら、手にした鞭の先端を股間に押し当てた。
「よく排泄できたな。褒美をやろう」
そして女肉に食い込むベルトを、鞭で軽く叩き始める。
「ぁ、あぇえ(やめて)ッ!?」
思わず声をあげた理由は、もちろん痛みではない。
手の指の長さほどのストロークで、ほとんど力を入れない打擲が、それほどの痛みをもたらすわけがない。
にもかかわらず私が悲鳴じみて叫んだのは、股間ベルトへのごく軽い鞭打ちが生む振動が、女肉を強く刺激したから。それでそこに、痺れるような快感を覚えたせい。
「ぁう、ぁうぁう……」
駆け抜ける快感が、オンナの快楽を生む。
性の甘美なる味を憶えてしまった肉体が、無意識のうちにそれを求め始める。
だが、私にはまだ、理性が残っていた。
「うぃあ(いや)……」
理性が、遅いくる快楽を拒もうとする。
「おぇあぃ(お願い)ぃ……」
しかし、アラベル軍曹の手は止まらない。
厳重に拘束された身では、女肉に食い込むベルトを振動させる鞭の刺激から、逃れる術《すべ》もない。
いや実のところ、拘束されていなくても、私は逃げようとしなかっただろう。
逃げたときの罰を怖れて。それ以上に、本能が快楽を求めて。
拘束されているのをいいことに、私は本能の求めるまま、襲いくる快楽を受け止める。
余さず受け止めた快楽を、すべて受け入れる。
「ぃあぁ(いやぁ)……あぇえ(やめて)……」
喋れないのをいいことに、口先だけの拒絶を口にして。
そのことで、自分自身の理性に言いわけしながら。
私は快楽に流されていく。
あとから思えば、このときすでに、私は堕ちかけていたのかもしれない。
快楽に流されることに馴らされ、奴隷根性が染みつきはじめていたのかもしれない。
とはいえこのときはそうと気づく余裕はなく、私は理性を押し流す快楽に飲み込まれてしまった。
「ぁ、うぁ、あぁあ……」
飲み込まれ、快楽に包まれる。
「あぁあ、あッ、あぅあッ!」
包まれて、快楽に酔わされる。
痛いはずの鞭で、股間ベルトを叩かれながら。
怖ろしいはずのアラベル軍曹に、鞭で快楽を与えられながら。
肉が憶えてしまった恍惚の世界への道を、一直線に駆け上がり――。
「ぁうぁう、ぅあぁあああッ!」
あられもない嬌声をあげ、縛《いまし》めの身をガクンガクンと震わせながら、絶頂に追い上げられた。
「ぁうぅ……」
天井付近の壁に設えられた隙間から漏れる月明かりのなか、干し草の上に身を横たえて低くうめいた。
あれから――人生で2度めの、この日2回めの絶頂を味あわされてから――両手両足の拘束を解かれた私は、馬小屋の中に放置された。
アラベル軍曹が去り、しばらくして現われた雑用係が干し草の小水で濡れた部分を交換するあいだ、ぐったりして動けなかった。
干し草を敷き詰めるのは、床を軟らかくすることだけが目的ではなかった。それには、排泄した場所の草だけ交換することで、清潔を保つという目的もあったのだ。
それは裏を返せば、排泄もここでやらされるということ。その点でも、3等ポニーガールはは人ではなく、軍馬として扱われる存在なのだと認識させられる。
やがて恍惚が醒め、身を起こせるようになった頃、別の雑用係に食事と水を与えられた。
アラベル軍曹が告げたように、その間も馬銜は外されなかった。
馬銜とそれを噛む歯のあいだに漏斗を差し込まれ、すり潰してドロドロにした流動食を流し込まれたのだ。
食材そのものの味と塩気しかないそれが、おそらくこれから先、何年もずっと続く私の食事。
同じようにして水を流し込む行為が、私の水分補給。
一流の料理人が調理した料理も、甘いお菓子も、芳醇な葡萄酒も、爽やかなハーブティーも、私の口に入ることはない。
アラベル軍曹が与えてくれる快楽以外、私に愉しみはない。
そう考えて、ハッとした。
(どうして私は……)
性の快楽が愉しみだと思ってしまったのだろう。
いやそれ以前に、アラベル軍曹に『与えられる』ではなく『与えてくれる』などと考えてしまったのだろう。
しばしその理由を考えて、ふと気づいた。
3等ポニーガールは、人ではなく軍馬として扱われる。馬小屋でしかないこの部屋と、雑用係の対応がその証。
だが、アラベル軍曹だけは、私を人として扱ってくれた。人として、オンナの快楽を教えてくれた。
ほんとうは、それは奴隷調教の一環。いわゆる『飴と鞭』の『飴』として与えられたものである。
しかし、私はそのことに気づいていない。
いや、気づけていたとしても、思いは変わらなかっただろう。
たとえ奴隷であっても、人には違いない。つまり奴隷調教を施されることは、人として扱われているということ。軍馬という家畜扱いとは違う。
実のところ、私がそう思ったのは、アラベル軍曹がポニーガールの、奴隷の調教師として卓越した技量を持っているから。その手練手管に絡め取られた私が、たった1日の調教で奴隷として堕ちかけているからである。
とはいえ私は、そのこともわかっていなかった。
そして私が堕ちかけていたことに、奴隷根性が染みつきはじめていたことに、自分自身で気づけるのはまだ先のこと。
怒涛の1日に疲れきっていた私は、じきになにも考えられなくなり、眠りに落ちてしまった。
朝が来た。
通気孔と明かり取りを兼ねた隙間から差し込む朝日に、目を覚ます。
わずかばかりの怠さが残る身を起こし、干し草の上に佇んでいると、アラベル軍曹が現われた。
ふつうにしていても嗜虐的な雰囲気を漂わせるその顔を見られて、なぜか嬉しく感じた。
酷いことしかされていないのに、昨日以上にアラベル軍曹のことを愛おしく感じてしまった。
その人に促されるまま、再び小水を排泄した。小水のみならず、大きいほうも排泄した。
もちろん、恥ずかしかった。屈辱感も覚えた。
それでも素直に従ったのは、私のなかでアラベル軍曹の存在が、特別なものになっていたからだろう。
人は自らの支配者と認めた特別な相手の求めに応じることで、ある種の悦びを得るものなのだ。
それから、食事と水分補給。
そして、ポニーガールの訓練。
ほかの新人3等ポニーガールは基本の姿勢から訓練されているので、それをすでに身につけている私は、アラベル軍曹とふたりきりで別メニュー。
それで、さらにふたりの絆が強くなった気がした。
自分とアラベル軍曹との関係が、ほかの3等ポニーガールと教官とのものとは違うように思えていた。
そんな暮らしが半年ほど続き、私が新人3等のなかでいち早くポニーガールの歩行を身につけた頃。
2等昇格のために開始された個人訓練中、アラベル軍曹が司令官に呼び出された。
正しいポニーガールの姿勢でしばし待機していると、戻ってきた彼女が告げた。
「事態が急変した」
いつもと違う軍曹の表情に、私も緊張感を高める。
「これから話すことは、機密事項も含まれるゆえ、絶対他言は無用」
そう前置きして語られた内容は、次のようなものだった。
ことの発端は、予想どおり貴族どうしの権力闘争。
さすがにその詳細まではアラベル軍曹も知らされていなかったが、その結果父は無実の罪を着せられて投獄され、家族は下級市民に、私は3等ポニーガールの身分に落とされた。
ところが、状況が変わった。
さらなる権力闘争の結果、私たちを貶めた貴族は失脚。父の無実は証明され、上級市民の身分が回復されることになった。
とはいえ、すべて元とおりというわけにはいかない。
投獄されていたあいだに、財産の多くは失われた。第9王子は別の貴族の娘と婚姻を結び、私との婚約は反故にされた。
「とはいえ、おまえが望めば、1等ポニーガールに戻ることができる。すぐさま除隊し、上級市民の娘に戻ることもできる。そして、このままでいてもよい。どれを選ぶかはおまえの自由。だが1度選べば、ほかの道を選び直すことはできない」
すべてを語り終えたあと、アラベル軍曹が選択を迫った。
「1等ポニーガールに戻るか?」
その質問に、私は迷わず首を横に振る。
「除隊するか?」
その質問にも、間髪入れず。
「では、このまま私の訓練を受け続けるか?」
そして最後の言葉に、アラベル軍曹をしっかり見てうなずく。
直後、私を見返す軍曹の瞳に、妖しい光が灯る。
彼女の高揚を示すように、頬が好調する。
そして唇の端を吊り上げて嗜虐的な笑みを浮かべ、アラベル軍曹が告げた。
「いいだろう。満期除隊の日まで、徹底的にしごいてやる。いや除隊後も、私の個人所有ポニーガールとして、永遠に飼育してやる」
その言葉に、身も心もポニーガールに堕ちきっていた私が、もう1度うなずいたことは言うまでもない。
(了)