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4話.飼われる牝犬  ラウラがなにごとかブツブツつぶやき、四肢を縛《いまし》める拘束具に触れた。  直後、拘束具がかすかに燐光を帯び、すぐ消える。 「あぃお(なにを)……?」  そのことにおののき、声をあげると、艶然とほほ笑んでラウラが口を開いた。 「回復魔法よ。この体勢での拘束は関節等に過大な負担をかけるから、あらかじめ弱い回復魔法をかけておくの」  それは、いっけん灯里の身体を慮った行為。しかし、当然裏の思惑もある。  その思惑を隠し、ラウラが新たな責めを始めた。 「牝犬らしい格好になりなさい」  片手で首輪の鎖、もう一方の手で背中で交差させられたベルトを持ち、ラウラが灯里を四つん這いにさせる。  カツン。  肘の部分に取り付けられた金属棒が床を打つ。それで、拘束具の構造の意味を知った。  肘の金属棒と膝の金属板、さらにその裏で二重になっているぶ厚い革のおかげで、肘と膝で体重を支えても痛くない。  そのうえ、肩から肘の長さは股関節から膝の長さより短いが、その差を肘の金属棒が調整して、身体をほぼ水平に保っていた。  とはいえ、立っているときより顔は下向きになりがち。 「ぁうう……」  そのせいで開口を強制された口から、溜まっていた涎がゴポリとこぼれ、床に小さな水たまりを作った。  しかし、溢れた涎を恥じる暇はなかった。 「うふふ……犬らしく、少し散歩しましょうか」  そう言われ、首輪の鎖をぐいっと引かれる。 「ぁ、うぁ……」  鉄の首輪に首を締められ、強制的に歩かされる。  肘と膝の四つん這いでは踏ん張る力もなく、涎の雫を垂らしながら、不器用に手足――いや前足と後ろ足を運ぶ。  そう、今の灯里の肩から生えているものは、腕ではなく前足だ。厳重な拘束により、人としての働きをするはずの腕は、獣と同じ前足に変えられてしまった。  いや、獣の、家畜の、牝犬の前足のほうが、灯里の前足より上だ。  彼らは首輪の鎖を握る人より速く走るが、灯里は徒歩のラウラについていくのがやっと。 「しゃんと歩きなさい」  歩みの遅さを指摘されて、鎖をぐいぐい引かれる。 「ぁう、あぅう……」  床に点々と涎の跡を残しながら、必死で前後の足を運ぶ。  息が切れる。体温が上がる。口枷のリングから舌をテロンと出して、呼吸を荒げる。 「あらあら、ほんとうに犬になったみたいね」  その姿を揶揄されても、恥ずかしがったり反抗したりする余裕はなかった。 (ほんとうに回復魔法なんか、かかっているの?)  そう思えるほど、身体がきつい。  とはいえ、灯里はもともと卓越した身体能力を持つアスリート。 「はぁ、はぁ、はぁ……」  舌を投げ出した口から吐息を漏らし、涎を垂れ流しながら強制歩行を繰り返すうち、少しずつ慣れてきた。四つ足の強制歩行に、馴らされてきた。 「はぁ、はぁ、はぁ……」  無理な体勢での強制歩行が続くゆえ、荒くなった呼吸が回復することはなかったが、ずいぶん楽に歩けるようになってきた。  そして肉体的な余裕は、精神のゆとりを生む。心にゆとりが生まれ、これまでは抱くことがなかった感情も生まれる。  まず生まれたのは、羞恥心。涎を垂れ流しながら、お尻を振り振りぶざまな姿勢で歩かされる恥ずかしさ。 「ぁう、ぁぅう……」  下を向くと、開口を強制された口からゴポリと涎が溢れる。 「ぁあ、ぅぁあ……」  首を上に向けて正面を見ても、口の端から涎が垂れる。  ただ縛られているだけのときでも恥ずかしかったのに、犬のように拘束された今は、それがいっそう恥ずかしい。  そして羞恥心と同時に生まれたのは、屈辱感。憎き魔法調教師の足下に這いつくばるような姿勢で、首輪の鎖を引かれて歩かされる悔しさ。  下を向くと、異様に近い床と、ラウラの靴。顔を上に向けても、視点は彼女の太ももの半ばの高さ。  それが身分の違いを表しているようで、屈辱感がこみ上げる。 「ぅう(くッ)……うぉんあ(こんな)……」  しかし羞恥心と屈辱感にうめいても、誰にも伝わらない。  奴隷の口枷に阻まれて、言葉は獣のうなり声にしかならない。 「うぅ……ぅうう……」  そのせいでいっそう強くなった羞恥心と屈辱感に苦悶しながら、抗うことも叶わず歩かされ続ける。 (恥ずかしい……恥ずかしい……)  しかし、抵抗はできない。 「悔しい……悔しい……)  前後の足に力を込めても、鎖を軽く引かれるだけで逆らえなくなる。 (苦しい……苦しい……)  精神のみならず、肉体も。 「はぁ、はぁ、はぁ……」  止まらない四つ足強制歩行のせいで、呼吸は一向に回復しない。 「はぁ、はぁ、はぁ……」  とはいえ、水泳競技で鍛えられた強靭な体力は、容易には尽きない (いっそ……)  すぐに疲労困憊になり、倒れ込んでしまえたら楽なのに。  灯里の心に、そんな考えさえ生まれたときである。  ピシッ!  お尻をなにかで打ちすえられ、激痛が走った。 「うぃああッ!?」  驚き、悲鳴をあげたところで、もう一度。  ピシッ! 「ぃあああッ!」  さらなる激痛に悲鳴をあげると、目の前に棒状の笞《むち》かざされた。 「しゃんと歩けない牝犬には、笞打ちの罰よ」  そしてラウラは、再び鞭で灯里の尻を小突いた。  それは、強い打擲ではなかった。笞の先端で撫でた程度の、ごく弱い刺激だった。 「うぃッ(ひいッ)!?」  しかし、ジンジンと疼くような痛みが残る尻を笞で触れられ、灯里は震え上がってしまった。  長く運動部に所属し、競技に打ち込んできた灯里には、忍耐力がある。肉体的苦痛に耐える精神力も、養われている。  しかし、痛みに耐えたことはなかった。  自身元一流の競技者で、科学的なトレーニングと教育に関する知識も充分に身につけていた彼女のコーチは、体罰を加えることはおろか、無茶な練習を強いることもなかった。  むしろ練習中身体の痛みを感じたら、すぐに申告して練習を中断、休息を取るよう指示していたほどだ。  それゆえ、灯里は痛みに弱い。  そして、灯里には耐えた経験がないものが、もうひとつある。  それは、性の快感。  灯里は性的な行為がもたらす快感に耐えたことはおろか、それを感じたことも、もちろん求めたこともなかった。  だからこそ、性的快感を抑える術《すべ》を知らず、オイルマッサージと腕の素股行為であっけなく絶頂させられた。  性的快感を求める気持ちに耐える術もわからず、剃毛の刺激でさらなる快感を求めてしまった。  とはいえ、灯里自身はそのことを知らない。知らないまま、ラウラの言葉を信じこまされている。 『ほんとうにいやらしい子……まるで性奴隷になるために生まれたみたい』  魔法調教師にそう言わさしめるほど、自分がいやらしい子だからと思い込まされている。  そしてそれもまた、そうなるようラウラが仕向けたもの。  かつて一部で聖女と呼ばれた騎士すら奴隷に堕とした、帝国随一とされる魔法調教師の手練手管のひとつ。  そして灯里の性質を完全に見切ったラウラが、調教を進めるため次の一手を繰り出した。 「ほらほら、ちゃんと歩かないと、また笞の罰よ」  そう言いながら、笞の先端で灯里の尻を撫でた。 「うぃッ(ひいッ)!?」  痛みに慣れていないゆえに痛みを怖れ、弾かれたように歩くペースを速めたとき、ラウラの笞が媚肉に軽く食い込んだT字帯を軽く小突いた。 「ぅあッ!?」  驚いて悲鳴をあげたが、痛かったわけではない。 「ぅあぁ……」  革ベルトを小突かれた振動が媚肉に伝わったが、それで感じてしまったわけでもない。  ただそのことで、媚肉に食い込むベルトの存在を、強く意識してしまった。  灯里の肉体は、オイルマッサージと腕の素股で性の悦びの味を憶えてしまった。精神は、まだ媚薬が効いている状態で行われた剃毛で、もう一度その悦びを欲しいと思ってしまった。  そして灯里の媚肉には、いまだそのときの火照りが残っている。  一歩一歩、腰を振りながら不自由な脚を動かすたび、火照りの残る媚肉がベルトに擦りつけられる。  四つ足強制歩行の苦痛を感じているあいだは、気にならなかった。  四つ足強制歩行に激しい羞恥と屈辱を覚えているときは、気が回らなかった。  しかし今、笞で小突かれたことで、灯里は意識してしまった。そうなると、ベルトで擦られ続けるそこが、気になって仕方ない。  しかし笞の罰が怖くて、媚肉の刺激を弱めるためにペースを落とすこともできない。 「あぅ、あぅ、ぅうん……」  意識するようになったベルトの刺激で甘い吐息を漏らしながら、首輪の鎖に操られて歩かされるしかない。 「うぅ、あうっ、あぅん……」  一歩一歩、そこを意識しながら歩くたひ、呼吸を荒げて吐きだす吐息に甘みが増す。  とはいえ、灯里を絶頂に追い上げることに一役買い、剃毛でもっと気持ちよくなりたいと思わせた媚薬の効果は、すでに切れていた。  そのため、ベルトの刺激は、灯里が没入できるほどには感じさせてくれない。  剃毛されたときのように、憶えてしまった悦びを思い起こさせ、はるかなる性の高みの頂きを、チラリとかいま見せてくれるだけ。  そんな状態で、灯里は四つ足歩行を強いられる。  ジャラ、ジャラ、ジャラ……。  一歩一歩と歩くたび、首輪の重い鎖が揺れる。  カッ、カッ、カッ……。  肘の棒と膝の板が、硬い石の床を叩く。 「あぅ、あぅう、あぅん……」  T字帯の縦ベルトに媚肉を擦られ、灯里が甘い吐息を漏らす。  そんな状態の灯里をそれ以上煽ることもなく、ことさら性感を高めようともせず、ラウラは淡々と歩かせ続けた。  灯里を堕とすための精神への仕掛けは、すでに仕込み終えた。肉体への措置は、すでに施した。  だから、今は責めはそれだけでいい。淡々と責めを続けていれば、灯里はいつか堕ちる。  そう確信しながら、ラウラは鎖を引いて歩く。  あらかじめ弱い回復魔法をかけたのは、快楽を凌駕させるほどの苦痛を感じさせないためだ。肘や膝、各関節の痛みに邪魔させず、絶えず緩い快感を覚えさせ続けるためだ。  その思惑を知らないまま、灯里は鎖を引かれて歩かされる。  ジャラ、ジャラ、ジャラ……。  鎖がたてる硬く重い音。  カッ、カッ、カッ……。  四肢の先端の金属が床を打つ音。 「あぅ、うぁあ、ぅあん……」  灯里の口が吐き出す吐息。  1周、2周と調教部屋を歩くほどに、吐息に混じる甘みが増す。  全身から噴き出す汗で、肌が再びヌラヌラと光り始める。  股間のベルトがもたらす緩い快感に性感が高められ、肉に熱がこもっているのか。無理な体勢での強制歩行で、体温が上がっているのか。汗で濡れ光る肌に、赤みがさしてきた。  暑い、暑い。肉が熱い。  苦しい、苦しい。呼吸が、身体が、苦しい。  つらい、つらい。羞恥と屈辱で、心がつらい。  そして、気持ちいい。オイルマッサージのときとは比ぶべくもないが、股間ベルトが快感を生み続けている。 (いっそ……)  快感に没入できれば、苦しさもつらさも忘れられるのに。  いつしか不埒な気持ちを抱くようになった灯里は、媚肉をベルトに強く擦ろうとしていた。より強い刺激を得ようと、自ら歩行のペースを上げさえした。  とはいえ、それで得られる効果はわずか。  ほんのちょっとだけ快感は増すが、そのぶん苦しさも増す。  そして快感を求めてベルトに媚肉を押しつけ、歩行のペースを上げてしまったことを、灯里は自覚していた。 『このいやらしさ、まさしく奴隷のカラダ』  そのせいで、ラウラの言葉が、精神に染み込む。染み込んで、刷り込まれる。 「うふふ……牝犬の散歩が板についてきたわねぇ」  そこで、ラウラに声をかけられた。  そうだ。今の自分は、奴隷ですらないのだ。ラウラの飼い犬に貶められた存在なのだ。 「アカリ、おまえはまさに、本能の赴くままに行動する獣」  そのとおりだ。不埒な考えに囚われ、快感を求めて行動してしまった自分は、すでに人ではなく獣にすぎない。  適切なタイミングの声かけで、心の奥底でそう思い込まされながら、灯里の牝犬調教は続く。  そして充分な快感を得られないまま、体力の限界が近づいてきた頃、ようやく強制四つ足歩行が終わった。 「今日の訓練はここまでよ。ゆっくり休憩しなさい」  金属製のボウルをふたつ置いて、ラウラが調教部屋を去った。  緩い快感に蕩け、潤んでぼやける視界で首輪の鎖を追う。その長さ、灯里が知る長さの単位で1メートル数十センチ。どこかにつないで固定されなかったのは、けっして部屋から出られないからだろう。  窓も扉もない、ラウラしか出入りできない空間。もし仮になにか脱出の手立てがあったとしても、両手にぶ厚い革のミトンを嵌められたうえ腕を折りたたんで拘束され、獣の前足に変えられた手では、その程度の簡単な作業もできない。 「ぁう……」  あらためてそのことを思い出してため息をつき、視線を移動させると、ふたつの金属製のボウル。  そのひとつは透明な液体――おそらく飲み水で満たされ、もうひとつは半ばまでドロドロの物体――たぶん食材をすりつぶして混ぜた流動食が盛られている。  これらを飲み、食べろということだろうか。  牝犬として拘束されたまま這いつくばって、ほんとうの犬のように。  まだ、空腹感は感じていない。しかし、喉の渇きは深刻になりつつある。  奴隷の口枷で開口を強制されているせいで、拘束当初から口中が乾いていた。そのうえ強制四つ足歩行により、大量の汗をかいた。水分と塩分を補給するためにも、飲み、食べなくてはならない。 (でも……)  すぐにふたつのボウルに、歩み寄ることはできなかった。  拘束具で四肢を犬の状態に貶められたうえ、犬のように食事をすると、ほんとうの牝犬になってしまいそうで。  実のところ、強制的に犬食いさせられること自体、屈辱的な行為である。  しかし灯里は屈辱的だからではなく、ほんとうの牝犬になってしまいそうだからという理由で、犬食いを拒んだ。  それは結果としての行動だけを見れば、同じこと。しかし、その意味合いは違う。  怒涛の連続調教を経て、灯里は『犬食いすればほんとうの牝犬に堕ちてしまう』と思ってしまうほど、追い詰められていた。  おまけに、今も灯里の身体を捕らえて離さない厳重な四つ足拘束。股間のT字帯。その仕掛けが、少しずつ灯里の肉体を蝕んでいく。  さらに、あらかじめかけられていた回復魔法の存在。それは呼吸の乱れや筋肉の疲労、喉の渇きなどは回復してくれないが、不自然な状態で拘束された手足のダメージを、確実に軽減している。  そのため調教を阻害する過大な痛みを感じることもなく、周到に用意され、緻密な計算のもとに慎重に施された処置が、灯里の肉体と精神にじわりと効いてくる。   そのことに気づかないまま、灯里は喉の渇きと肉の疼きに、じっと耐えていた。

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