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前編  数藤美華《すどう みか》。  ボク、伊東佑《いとう ゆう》の幼なじみの女の子である。  幼稚園の頃は、やけに大きな家に住んでいる元気な子という印象しかなかった。  どうやら彼女の家がお金持ちらしいと知ったのは小学生のとき。とはいえ、ボクたちの関係は変わらず、手をつないで走り回っていた。  そんな彼女に対する印象が変わったのは、中学に上がってから。  地域の公立中学には進まず、中高一貫の私立女子校に通い始めた彼女は、ガラリと雰囲気が変わった。  まず、名門女子校らしい伝統あるセーラー服を着た可憐な姿に、ドキリとした。  それで初めて女の子として意識してから、美華はどんどん変わっていった。  手足はスラリと長く、モデルと言われても疑わないような体型に。すっかり日焼け跡は消えた肌は、透き通るように白く。そして、顔立ちは人形のように美しく。  ボクたちと同じ芋虫だった美華は、中学を卒業する頃には、華麗な蝶に生まれ変わっていた。  対するボクは、芋虫のままだった。  中学生になってもあまり背は伸びず、男子としては低いほう。体力的にも凡庸となり、小学生の頃は運動会のヒーローだったのに、すっかり目立たない存在に。かといって勉強ができるわけでもなく、成績はいつも中の中、よくて中の上。  お互い別々の中学を卒業する頃には、彼女は文字通り高嶺の花になっていた。  そして偶然美華を見かけても声をかけなく――というより、見つけられて声をかけられないよう、彼女から身を隠すように高校時代を過ごし、ボクは都会の大学に進んだ。  そこで――。 「ユウちゃん?」  女性の声で、背後から名前を呼ばれた。  振り返ると、そこに美しい女性が立っていた。  美華である。  高校の3年間、ほとんど顔を合わせなかったあいだに、彼女はますます美しくなっていた。  大学生になりヒールのある靴を履いているからか、視線の位置はボクよりいくぶん高い。キラキラ輝く黒目がちな瞳で見下ろされ、ドキリとする。 「み、美華……さん」  麗しすぎる容姿に、つい『さん』付けで呼んでしまう。  すると美華が、大きな目を細めて咲《わら》った 「嬉しい、憶えていてくれたんだ?」 「えっ……?」 「高校時代は全然見かけなかったから、もう忘れられたと思ってたよ」  違う。そうじゃない。1日たりとも美華のことを忘れたことはない。  ただ、その姿が眩しすぎて、昔と同じように見られなかっただけだ。  とはいえ、そうと告げることもできないボクの手を、美華が取った。 「ねえユウちゃん、この近くに住んでるの?」 「い、いや……たまたま用事で……」 「そうなんだ。その用事は済んだの?」 「う、うん」 「じゃあ、このあとの予定は?」 「いや、なにも……てか、こっちに来たばかりで、まだ友だちもいないし……」 「そう……」  そこで、美華が妖しく嗤った――気がした。 「じゃあさ……」  細めた目が、妖艶に輝いた――感じがした。 「私の部屋に来ない? いろいろお話ししたいからさ」  美華が気軽にそう言ったのは、ボクのことを男と意識していないからか。性別関係なく、ただの幼なじみとしか見ていないせいか。それとも――。  そんなことを考えているあいだに、美華はボクの手を引いて歩き始めた。 「ぅ、ん……」  低くうめいて、ボクは目覚めた。  目を開けると、知らない部屋。  いや、知らないわけじゃない。短い時間だけど、ボクはこの部屋にいたことがある。  不意に声をかけられて、振り返ると美華がいて、そのままマンション最上階のペントハウスに招かれて。とうてい大学生の仮住まい用とは思えない広く豪奢な部屋に驚きつつ、絶世の美女に成長した幼なじみとふたりきりでいることに胸が高鳴った。 「失礼いたします」  メイドさんが、お茶とお菓子を持って現われた。  美華の生活の面倒をみるために、ご両親が雇ったのだろうか。子どもの頃彼女のお屋敷で見かけたのと同じお仕着せを着たメイドさんにもドギマギしていると、美華にお茶とお菓子を勧められた。 「どうぞ、召し上がれ」  誘われるままお茶を飲み、お菓子を食べ、美華と歓談するうち、不意に眠気に襲われて――。  そこで、ハッとした。  覚醒してくるにつれ、自分の身体の異常に気づいた。  動けない。  身体に力を入れている感覚はあるのに、手も足も、肩も首も。背すじを伸ばして椅子に座り、膝の上に手を置いた姿勢からまったく動かせない。 「シュー(あれ)……?」  おまけに、声も出せない。  鼻からかすかに空気が抜ける音がするだけで、耳に自分の声が聞こえてこない。  いや、聞こえないのは自分の声だけではなかった。  いかに静かな高級マンションとはいえ、少しは聞こえるはずの物音がない。聞こえるのはただ、骨伝導を通して伝わる、自分の身体が発する生体ノイズのみ。 「シュー(なぜ)……?」  こんなことになってしまったのか。  わけがわからずつぶやいても、聞こえるのは自分が息を吐く音のみ。  そこで、メイドさんの姿が視界に入った。 『お嬢さま』  彼女の口がその形に動いた気がした直後、美華が姿を現わした。  中高と彼女が着ていた制服、そのなかでも中間服と呼ばれる、白を基調とした夏生地の長袖セーラー服。  その姿にドキリとしたところで、ボクの顔を覗き込み、美華が告げた。 「目を覚ましたようね?」  その声が耳の中に直接届いたような気がして驚くが、美華は気に留めず言葉を続けた。 「眠っているあいだに処置を終わらせてもよかったのだけれど……その前に自分の状態を思い知らせ、絶望させてあげようと思ってね。まず……」  そう言いながら、美華がセーラー服の胸につけたマイクを指差した。 「ユウちゃんの耳孔には今、イヤホンつき耳栓が嵌められているの。私の声が聞こえるのも、私の声以外の音が聞こえないのも、そのせい。そして……」  言いながら美華が目配せすると、メイドさんがボクの前に姿見の鏡を運んできた。  そこに映っていたのは、濃紺のセーラー服姿の女の子だった。  豪奢な造りの椅子に深く腰かけ、背すじをピンと伸ばし、顔を正面に向けて膝の上に手を置いた――。 「……ッ!?」  そこで気づいた。  鏡に映る少女は、ボクと同じ姿勢だ。  耳の後ろで髪をふたつに結んだその子の顔だけが、ボクのものだ。  そしてボクが着ているセーラー服は、美華の高校の冬服だ。 「シュー(コレは)……?」  わけがわからず吐息でつぶやくと、美華の声。 「うふふ……驚いているようね」  その声に視線だけ動かして美華を見ると、絶世の美少女が妖しくほほ笑んでいた。 「ユウちゃんは、人形になるの……いえ、顔以外はすでに人形になってるわ」 「シュー(えっ)……?」 「人形が喋っちゃおかしいでしょう? だから、声を奪ったの」  とまどいの吐息を漏らすと、美華がボクの鼻に触れた。 「鼻に若干違和感があるでしょう? それは、鼻孔にチューブが挿入されているからよ。あ、チューブの素材は人体に無害で、粘膜への刺激もきわめて少ないものだから、安心してね」  安心してと言われて、簡単にできるものではない。なぜなら、鼻のチューブが到達する先は――。 「鼻のチューブのうち1本は食道に。そしてもう1本は気管に、声帯より奥まで挿入されているの。だから息を吐いても声帯を震わせることができず、声がでないというわけ。そのうえで、気管のみ生体用パテで隙間を塞ぎ、空気が漏れないようにしてある。だから……」  そこで美華の指が、鼻孔から顔を出したノズルのひとつを塞いだ。 「……ッ!?」  とたんに、息ができなくなる。  顔を背けて指から逃れようとしても、首は動かない。美華の手を払いのけようとしても、手は微動だにしない。 「……ッ! ……ッ!」  ボクにできたのは、窒息の苦しさと恐怖に耐えることのみ。 「わかった? 人形にされたユウちゃんは、生殺与奪の全権を、私に握られているの」  わかった。わからされた。思い知らされた。 (だから、もう許して!)  そうと伝えようと視線で訴えると、美華がようやくノズルから指を離してくれた。 「人はふだん、運動せず平静にしているときは、呼吸のために鼻孔を片方しか使っていないそうよ。まぁ、鼻の穴を交互に休ませてる感じね。だから、ふだんの呼吸はチューブ1本でも問題ないわ」  その言葉が正しいと証明するように、シューシューと呼吸を繰り返すうち、苦しさが和らいできた。  とはいえ、回復のペースは遅い。  それは、空気が足りないときでも、片方の鼻孔しか使えないからだ。おまけに素材の厚みがあるから、チューブの内径は鼻孔そのものより小さい。  ボクにそのことを解説し、美華が薄く嗤う。 「でも、ユウちゃんにはそれで充分なのよ」  それは、ボクが動けないから。 「ユウちゃんの身体は、すでに人形の身体で覆いつくされている。その素材は防弾用の盾などにも使われる特殊樹脂だから、人力で破壊できるものではないわ」  そう言いながら、美華が人形の身体の上に着せられたセーラー服から露出した首のあたりに触れた。  しかし、そこに触れられている感触はない。  コツコツと爪で叩かれるとわずかに振動が伝わるが、そっと撫でられているだけでは、美華の指の存在を感じない。 「各関節部のロックを外せば、限られた稼働範囲のなかで動かすことができるけれど、ふだんはまったく動かせない状態に固定される」  つまり、動けないボクは平静にしているしかないということ。呼吸用のチューブは、1本で充分と言うこと。  そして平静にしているしかないから消費カロリーは少なく、食事はもう片方のチューブを通して胃に流し込める流動食だけでこと足りる。そのチューブを使って、水分補給もできる。  とはいえ、水分補給や食事をするということは、当然排泄をしなくてはいけない。  その対策も、しっかりと施されていた。 「股間のパネルの奥で、ユウちゃんには導尿処置が施されている。チューブは鼻のものと同じものが使われ、その先端は股間パネルの開閉式ノズルに接続されているわ。つまり、お股に小さい蛇口が付いてるような感じね」  つまりそのノズルから、小水は排泄できる。 「その処理は、メイドが行なうわ。大きいほうは夜、睡眠薬で眠らせているあいだに、股間パネルを外して。もちろん、私が監視しながら」 「シュシュー(なんだって)!?」 「うふふ……彼女は看護師の資格を持っているから、安心して身を委ねてね」  そういうことではない。  若い女性に排泄物の処理をされること自体が問題なのだ。そのさまを、美華に監視されながら。 「うふふ……恥ずかしい?」  ボクの反応を見てとり、美華がいじわるく嗤う。  唇の端を吊り上げて、さらなる残酷な処置を申しわたす。 「とはいえ、それはしばらくのあいだ。さっきサイズを測定して恒久用の股間パネルを注文したの。それが完成したら、パネルを外さずすべての排泄物を処理できるようになる。男の子にはつきものの性欲だって、スイッチひとつで自動的に処理できる。ユウちゃんの肌が外気に触れることは、二度となくなる」  そう言って、美華が最後のパネル――ボクの顔を覆うための、人形の顔を手に取った。 「これ、誰かに似てると思わない?」  それは、美華の顔だ。 「ユウちゃんが着ている制服も、見覚えがあるでしょう?」  もちろん知っている。美華が中高で着ていたセーラー服だ。 「ユウちゃんは、私の人形になるの」  それは美華の所有物というだけの意味ではなく、彼女の高校時代を象った人形にされるということだ。 (で、でも……)  なぜ、そんなことをするのか。  ボクの疑問を感じ取ったかのように、美華が口を開いた。 「私、綺麗でしょう?」  もちろんだ。そして美華自身、それを自覚しているとわかった。 「高校時代も。今も。そして、これからもずっと」  ボクもそう思う。高校時代の美華も美しかったし、今の少し大人びた彼女も美しい。  そしておそらく、美華はこれからも、年齢相応の美貌を保ち続けるのだろう。 「でもね、高校時代の私には、もう戻れない。美しさのレベルは変わらなくても、その質は年々変わっていく。だから、決めたの。そのときどきの美しい私を、生きた人形として残していこうって」  つまり、高校時代の美華の生き人形の中身として、ボクが選ばれたというわけだ。 「私も制服を着ているのはね、今日が着納めだから。今日から高校時代の制服を着るのは、私ではなく私の人形……つまり、あなただから」  ボクがその役目に選ばれたのは、体格的にちょうどいいからなのか。あるいは彼女のなかに、ボクに対してほかの人とは違う感情があるからなのか。  わからない。わからないが、とうてい承服できるものではない。  とはいえ、ボクに拒む術《すべ》はなかった。 「うふふ……」  薄く嗤って、美華が顔のパネルを近づける。  マスクのようなパネルの内側、おそらく口にあたる位置に、ペニスを象ったような突起。その先端に、ほんもののそれの鈴口のような穴がある。 「シュー(いや)……」  拒絶の声は、鼻のノズルから空気が抜ける音にしかならなかった。 「シュー(やめて)……」  懇願の言葉は、音声にすらならなかった。  マスクのような顔のパネルが、さらに顔に迫る。  怖い、恐ろしい。身体が震え、カチカチと歯が鳴る音が、骨伝導で聞こえた。  マスクの裏側に、視界の大半を占拠された。  嫌だ、絶対。このまま人形にされるなんて。  しかし、なぜか美華の言葉には逆らえなかった。 「あーん、して」  そう言われ、魅入られたように口を開くと、ペニス状の突起を挿入された。 「うふふ……素直だね? もしかして、人形になりたいの?」  違う。そうじゃない。  でも、逆らえない。 「うふふ……うふふ……」  舌を下顎側に追いやりながら、突起が口の奥に侵入してくる。 「うふふ……うふふ……」  もう、マスクの裏しか見えない。美華の嗤う声しか聞こえない。  そして――。  カチリ。  硬いものどうしが噛み合う音が骨伝導で聞こえると同時に、ボクの視界は闇に閉ざされた。  特殊樹脂のパネルに閉じ込められて、頭のてっぺんからつま先までピクリとも動かせない。  鼻から気管に挿入されたチューブは声帯をバイパスし、言葉はもちろんうめき声すらあげられない。  耳にねじ込まれたイヤホン付き耳栓のせいで、美華の声以外の音は聞こえない。  人形の顔に嵌め込まれたマスクにより、視界は闇に閉ざされている。  人形パネルに全身を覆いつくされ、身体のどこに触れられてもわからない。  声帯同様、鼻腔もチューブでバイパスされ、吸い込む空気の匂いを感じることはできない。  舌に触れるのは無味無臭のペニス状の突起だけ。おまけに食事も流動食をチューブから流し込まれるだけなので、もう味を感じることもできないだろう。  つまり、身体の自由と言葉を奪われたうえに、五感すべてを喪失した状態。  そんな状態に貶められて、ボクは人形として放置されていた。  いや実のところ、放置されていたわけではない。  美華はずっと、ボクの側にいた。メイドさんは、その傍らで控えていた。  ただボクの目が見えず、美華がマイクをオフにしていたため声が聞こえず、匂いも感じられないため、ふたりの気配を察知できなかっただけだ。  そしてボクには、ふたりがどういう動きをしているかも知る術《すべ》はない。 「お嬢さま、お時間です」  メイドさんが告げ。 「そうね、行ってくるわ。時間がきたらお願いした処置、しっかり頼むわね」  美華が命じて立ち上がったことも、ボクは知らなかった。  そうして永遠とも思えるほど長い時間――実際は美華が去って1時間ほどだったようだが、ボクはすでに時間の感覚を失っていた――が過ぎた頃、太もものつけ根付近に、かすかに振動を感じた。 「……?」  その小さな振動が気になった直後、何者かに脚を開かされた。 「シュー(なに)!?」  驚き、反射的に脚に力を入れるが、そのときにはボクの脚は再び動かせなくなっていた。  そこで、美華の言葉を思い出す。 『各関節部のロックを外せば、限られた稼働範囲のなかで動かすことができるけれど、ふだんはまったく動かせない状態に固定される』  つまりかすかに感じた振動は、股関節部のロックを解除したときのもの。それで脚を開かされ、すぐに再びロックされたため、今度は閉じられなくなった。  そうと理解した直後、不意に視界が回復した。 「……!?」  暗闇に馴染んだ目を光が刺し、反射的に目を閉じる。  ようやく光に慣れて目を開けると、すぐ近くにメイドさんの顔があった。 「聞こえますか?」  そして、耳孔の中で声。 「今だけ、お嬢さまにマイクをお借りしています」  それで声が聞こえた理由を理解したところで、メイドさんが言葉を続けた。 「お嬢さまは所用でお出かけになりましたが、これより言いつけられた処置を行います。まずは小水の排泄」  その言葉と同時に、半ばまで溜まっていた膀胱が軽くなる感覚。  それで排尿させられているんだと察するが、スッキリする感じはない。 「もう出ないようですね」  排泄している自覚も、それが終わった感覚もないままの残念な排泄。 『股間のパネルの奥で、ユウちゃんには導尿処置が施されている……つまり、お股に小さい蛇口が付いてるような感じね』  その蛇口からおしっこを抜き取る作業を終え、おそらくめくり上げられているだろうスカートを元に戻され、また放置――と思ったとき、再び股間に小さな振動を感じた。 「一時的に、股間のパネルを外します」 「シュー(えっ)……?」  意外な言葉に、思わず問い返そうとしたときである。 「シュシューッ(ヒィいいいッ)……!?!?」  ペニスの中をなにかか通過するおぞましい感覚に、声にならない悲鳴をあげる。  そこで、メイドさんが冷めきった視線でボクを見た。 「これより、性的な処理を行ないます」  そしてそう言うと、医療用のゴム手袋を嵌めた手に、ローションをたっぷりとまぶす。 「シュシュー(性的な処理)……?」  予想外の言葉に訊き返しかけたところで、その手でペニスに触れられた。 「シュー(ひっ)!?」  思わずビクンと反応するが、人形に閉じ込められた身体は、微動だにしなかった。  そして、メイドさんの手が動きだす。 「シュー(あっ)!?」  ゾワリと妖しい感覚に思わず声をあげてしまうが、聞こえるのは空気が漏れる音だけ。 「シュー(んん)……」  襲いくるペニスの快感に身をよじろうとしても、人形にされた身体はピクリとも動かない。  メイドさんの表情に、感情は感じられない。その手つきも、どこか事務的で単調なもの。  にもかかわず、ボクのペニスは、彼女の手の中ですぐに大きくなった。 「いやらしい……簡単にこんなになってしまうなんて」  仕方ない。若いボクが、女性に触れられただけでこうなるのはあたりまえだ。 「てっきり、あなたはお嬢さまに恋心を抱いていると思っていましたが……」  たしかにボクは美華に憧れている。しかし、それとこれとは別だ。 「好きでもない女性に触られるだけで、ここを大きくして……お嬢さまへのお気持ちは、消えてしまったのですか?」  ボクの、いや男の生理を知ってから知らずか――いや、おそらく知ったうえで――ボクを罵りながらメイドさんが屹立したペニスをしごく。  悔しい。でも気持ちいい。  気持ちいいことが、新たな悔しさを生む。 「あなたに、お嬢さまへの憧れを思い出させてさしあげます」  そこで、メイドさんの手がボクの顔に伸びた。 「目のシャッターを閉じます」  再び、視界が闇に閉ざされた。 「口の蓋を開けます」  そのかすかな振動が、骨伝導で伝わった。 「これは、お嬢さまの聖水です」 (聖水って……ッ!?)  それが高貴な女性のおしっこを意味する隠語だと気づいたところで、口中に液体が注ぎ込まれた。 (ペニスみたいな突起の鈴口から……!?)  液体が口奥を濡らし、そうと察した直後、舌を刺激するえもいわれぬ味。  チューブと粘膜の隙間から鼻に抜ける、ふくいくたる匂い。  生きた人形にされ、身体の自由と五感を奪われてから、初めて感じた味と匂いが美華の聖水。  再び目のシャッターを閉じられて視界を失い、さらにメイドさんが喋らなくなったため、ボクが感じられるのは美華の聖水の味と匂いとペニスへの刺激のみ。  一見みじめな、いや実際みじめな境遇なのに、ボクのペニスはますます硬度を増してしまう。 (どうして……なぜ、ボクは……)  こうなってしまうのか。  その理由を考えていられたのは、わずかなあいだだった。 「シューッ(ううッ)!」  瞬間的に襲いきた射精衝動。 「シューッ(出るッ)!」  そのことを伝える術もなく、白濁液を暴発させてしまう。  しかし、メイドさんの手は止まらなかった。  ボクのペニスが、硬度を失うこともなかった。  一度射精しても勃起したままのペニスを、メイドさんがしごき続ける。  あくまで事務的に、強弱をつけたりもせず、きわめて単調に。  その巧みとはいえない指技にも、美華の聖水の味と匂いを感じながら、ボクは再び追い上げられてしまう。 「シューッ(ううッ)!」  二度めの射精。  しかし、メイドさんの手は止まらない。  ボクのペニスも萎えたりしない。 「お嬢さまの聖水を与えたせいでしょうか……一向に勃起が治まる気配がありません」  そこで、メイドさんがつぶやいた。  そうなのだろうか。美華の聖水の味と匂いを感じているから、二度も射精したのに勃起が治まらないのか。  わからない。  わからないまま、ボクはまた追い上げられる。  実のところ、すべてはメイドさんの――いや、それを指示した美華の策略だった。  すべての処置が、言葉が、ボクに美華を強く意識させ、彼女への想いを大きくさせるために仕組まれたことだった。  そのことを教えられず、知らないまま、三度めの射精。 「シューッ(出るッ)!」  それでも、メイドさんの手は止まらない。  それで再び高まり始めたところで、不意に肛門になにかを挿入された。 「シュー(ひいッ)!?」  驚き、肛門の括約筋を引き締めてもあとの祭り。 「シュー(ああッ)!?」  挿入された異物――メイドさんの指――を食い締めてしまい、かえってそれを意識してしまう。 「あっけなく挿入されて、驚きましたか? ローションをたっぷりまぶしたうえで、油断しているところで不意の挿入です。とうてい人が拒めるものではありません」  看護師の資格を持つメイドさんの言葉だ、嘘ではないのだろう。人体とは、そういうものなのだろう。  ペニスの快感に酔わされるボクは、あっさりそう思わせられる。  肛門に指を受け入れ、そのことを精神にも受け入れてしまう。  そこに生まれる、妖しい感覚。 「シュシュー(あひ、ひいッ)!?」  それに吐息で喘ぐと、メイドさんの声。 「お尻の穴を指で犯されて、気持ちいいですか? でも背徳感を抱く必要はありません。人は誰しも、肛門に性感帯を持っているものですから」  その言葉も受け入れて、次第に肛門の快感にも酔わされる。 「シュー、シュー、シュー……」  気持ちいい、気持ちいい。 「シューッ(出るッ)!」  ペニスと肛門の快感に一気に高められ、ペニスのつけ根の奥にムズムズした感覚が生まれた直後、あっけなく4度めの射精。  そこでイヤホンの電源を切られ、いっさい音が聞こえなくなった。  視覚に続いて聴覚も奪われ、暗闇と静寂のなかで、ペニスと肛門を刺激し続けられる。  美華の聖水の味と匂いが唾液で薄められた頃を見計らい、追加で注入されながら、強制連続射精責め。 「シューッ(出るッ)!」  また、射精した。  つらい、つらい。射精させられすぎて、もうつらい。 「シュー、シュー、シュー」  苦しい、苦しい。呼吸が苦しい。  細いチューブ1本ぶんの空気しか取り込めないうえに、人形の硬いパネルが密着しているから、胸を大きく膨らませて息を吸い込むことができないのだ。  そんな憐れな境遇なのに、ボクのペニスは元気なまま。  肛門の快感はますます大きくなっていく。 「シューッ(イクッ)!」  また射精させられた。  それでも終わらない。 「シュシューッ(またイクッ)!」  それでもメイドさんの手は止まらない。  ときおり聖水を追加で注入されながら、肛門も刺激されながらの搾精責めは続く。 「シュシューッ(もうやめてーッ)!」  そして数えきれないほどの連続射精を繰り返した頃、そのつらさ耐えかねたボクが前後不覚に中止を懇願したところで、ようやくメイドさんの手が止まった。  それから導尿のチューブと股間パネルを元に戻され、また暗闇と静寂の世界に放置された。  永遠の次に長いと思えるほどの時間、ただ鼻チューブの先端のノズルから空気が漏れる音を立てながら、微動だにできずじっとしてすごす。  いや実のところ、自分の呼吸音が聞こえているのはボクだけだった。  チューブ先端のノズルが接続されたマスクの鼻の位置には、口のものと似た蓋があり、呼吸はその蓋のフィルターを通して行なわれている。そのため、外部に呼吸音はまったく漏れていないのだ。  つまり、誰かがここを訪れても、置かれている人形の中にボクがいるとは気づかない。  それでもはじめのうちは、行方不明になったボクの足取りを追い、ここにたどり着いた人に見つけられて助けだされることを期待した。  しかし長時間の放置の末、そんなことは起こりえないと考え始めた頃、顔のパネルの鼻の位置に振動を感じた。  直後、空っぽだった胃が満たされる感覚を覚える。  チューブから胃に、流動食を流し込まれていたのだ。  やはり、味は感じない。食事をしている実感もない。  そう、これは食事ではないのだ。生きた人形を、生きたまま保管するための栄養補給。機械に燃料を補給したり、潤滑油を差したりするのと同じ種類の行為なのだ。  おしっこの排泄と同じように、食事も生き人形という道具のメンテナンスにすぎないのだ。  そうと思い知らされても大したショックを受けないのは、ボクがこの境遇に馴らされつつあるからなのか。  すでに、心まで美華の人形にされようとしているのか。  わからない。もう考える気力もない。  美華の聖水を口中に注入されての連続射精、搾精責めで疲労困憊のうえに、食事のあと急に眠気に襲われて。 『夜、睡眠薬で眠らせているあいだに……』  美華の言葉を思い出しながら、ボクは意識を手放した。  あれから――ボクが高校時代の美華を象った人形にされてから――どれほどの時が過ぎただろう。  始めのうちは眠らされる回数を数えていたが、1週間を過ぎた頃からわからなくなった。そのうち、時の経過など気にならなくなった。  流動食の食事は、1日6回。硬くて丈夫な人形のパネルがお腹にも密着しているから、1度に大量の流動食を注入できないのだろう。  水分補給は適宜。流動食に水分が多いから、水だけを摂る量は少なくていいのかもしれない。  おしっこ排泄も適時。膀胱がいっぱいになる前に、事務的に採取される。  メイドさんによる性欲処理は1日1回。初日のときのような連続射精搾精責めが課されることはないが、必ず口中に美華の聖水を注入され、その味と匂いを感じながら射精させられる。  肛門に指を挿入されて刺激され、ペニスの奥にムズムズした感じを覚えさせられながら。  これも条件反射というのだろうか。そのうち聖水を口中に注入されるだけで、ペニスを勃起させてしまうようになった。  肛門への指の挿入を繰り返されるうち、それだけで射精衝動を覚えるようになった。  ともあれ、それと前後して運動の時間。だか、実際に身体を動かすわけではない。  なにかの機械につながれ、人形パネルの内側に仕込まれた低周波パルス発生装置を振動させられ、筋肉を収縮させられるのだ。  これにより、動かないことによる筋肉の低下を防げるそうなのだが、ほんとうのところはボクにはわからない。  とはいえ、身体を動かさないことによる筋肉のコリと痛みはほとんど生まれないから、一定の効果はあるのだろう。  そしてその日最後の流動食に混入された睡眠薬で眠らされ、ボクの人形としての1日は終わる。  美華の言葉どおり、そのあいだに大きいほうの排泄を処理されているのだろう。起きているあいだに、ボクが排便欲求に苛まれることはない。  また何日かに一度は、すべての人形パネルを外して身体を清められているようだ。その証拠に、パネルの下で皮膚がズクズクのドロドロになった感覚はない。  つまり運動の時間と併せ、ボクの健康面の配慮も、最大限なされているのだ。  しかしそれは、純粋にボクのためというわけではないだろう。  ただ、ボクを閉じ込めた生き人形を、できるだけ長持ちさせるためだけの措置だ。生き人形のメンテナンスなのだ。  そんな暮らしのなかで、ボクは次第に退屈さや精神的苦痛を感じることもなくなっていった。  人形の瞳のレンズごしに美華の姿を見、耳栓のイヤホンから美華の声を聞き、口中に注入される美華の聖水の味と匂いを感じていられるだけで、ボクは美華に満たされたような気持ちになる。  そのうえ、ボク自身を高校時代の美華の姿にしてもらったのだ。こんな幸せなことがあるだろうか。  ほんとうは、ちっとも幸せじゃないのに。誰の目にも、今のボクはみじめで憐れな境遇としか映らないはずなのに。  ボクはときおり、そう考えるようになってしまった。  そう考えてハッとして、頭に浮かんだ不埒な考えを追い出すことが増えてきた。  そんなボクをさらに完全な生き人形に堕とす処置を、美華は用意していた。 『とはいえ、それはしばらくのあいだ。さっきサイズを測定して恒久用の股間パネルを注文したの。それが完成したら、パネルを外さずすべての排泄物を処理できるようになる。男の子にはつきものの性欲だって、スイッチひとつで自動的に処理できる。ユウちゃんの肌が外気に触れることは、二度となくなる』  ボクを人形にしたときの、美華の言葉。  その恒久用の股間パネルがこの日、ついに届いた。

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