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僕は4歳のとき、

父の”音楽家”としての顔を初めてみた。


いつもにこにこしている父が、真剣な表情で舞台に立ち、

華麗な音色を奏でたのだ。


父が、その空間すべてを支配していたー。


奏でられる旋律が、

全てを包み込んでいた。


作詞や作曲も手掛ける父の才能に、僕は心を打たれ、

父と同じ道を志した。


だがー。


偉大過ぎる父は、

いつの間にか、僕にとっての重圧となっていたー。


父の創り出す世界に、

僕は、足元にも及ばない。


いいや、それだけじゃない。

父の存在が、絶対に超えられない高き壁となって、

僕の心を締め付けるー


大好きなはずの音楽がー

今日も、大嫌いだー。


・・・・・・


倉本 康成

2年B組生徒。彼女が憑依されてしまう。


藤森 明美

2年B組生徒。お茶目な性格。憑依されてしまい…?


柳沢 零次

2年B組生徒。康成の親友。


篠塚 沙耶香

2年C組生徒。生徒会長。同じ中学の出身。


哀川 裕子

2年B組生徒。陰険なお嬢様


間宮 結乃

2年B組生徒。明美と親しかった生徒の一人。大人しい性格。


国松 千穂

2年B組生徒。明美と親しかった生徒の一人。スポーツ大好き。


小野坂 亮介

2年A組生徒。ナルシストな吹奏楽部部長。


☆登場人物詳細は↓でどうぞ☆

(いつも書いている注意ですが、

 \300と出ていても、このお話を読めている人は

 既にプランご加入頂いている皆様なので、別途料金がかかったりはしません!)

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


間近に迫った行事・合唱コンクールの朝練が行われていた。


結乃が奏でる優しいピアノのメロディが音楽室に響き渡るー。

吹奏楽部に所属している結乃は、

ピアノの腕前も確かなものだったー。


そんな結乃の姿を見ながら、

康成は、去年の合唱コンクールを思い出す。


去年は、明美がピアノを演奏していたー


去年の練習中、康成は明美に聞いた。

ちょうど、付き合い始めてすぐの頃だった。


「--明美ってすごいよな~…」

康成の言葉に、明美が康成の方を見る。


「--なんか、全然緊張してる様子もないし…

 俺が明美の立場だったら、緊張して

 絶対、演奏なんてできないよ」

康成が言うと、

明美がほほ笑んだ。


「--緊張は、してるよー。

 でも、それ以上に楽しもう、って気持ちが強いかな?」


「楽しむ?」

康成が聞き返すと、明美が頷いた。


「失敗を恐れずに、その瞬間を楽しみなさいー」

明美が笑いながら呟くー


「--お母さんが言ってたの。


 一生懸命やって、一生懸命楽しんで、

 それで失敗しちゃったら仕方がない…

 

 本番、失敗しちゃっても、頑張った分は、

 ちゃんと誰かが見ててくれるし、

 とにかく気負わず、楽しみなさい って。

 

 苦しみながら奏でた音色よりも、

 楽しみながら奏でる演奏のほうが、

 綺麗な音色になるんだってー」


明美の言葉に康成は少しだけ笑うー


「はは、確かにそうかもな」


康成は明美のほうを見て口を開く。


「--よ~し、じゃあ、俺も楽しんで歌うようにするかな~

 明美に負けないように」


「ふふ、一緒に頑張ろうねー」


・・・・・・


「----」

去年のことを思い出しながら

悲しそうな表情を浮かべる康成ー


明美の方を見るー。


今の明美はまったく”楽しそう”じゃないー。

毎日毎日、不愉快そうに、

周囲に当たり散らす明美ー。


そんな風に考えているうちに、

結乃が演奏を終えて、満足そうに微笑む。


「--さすが結乃!」

結乃の親友でもある千穂が結乃の肩を叩く。


「ありがとう」

結乃がにっこりとほほ笑んだ。


結乃と目が合った康成は口を開く。


「--でも、間宮さんってすごいよな~…」

康成が笑いながら言う。


「--勉強にピアノに…

 なにをやっても、すぐにこなしちゃう感じだし…」

康成の言葉に、結乃はほほ笑む。


「う~ん…お父さんとお母さんが教育熱心だから、

 自然とこうなっちゃった感じかな」

少し照れ臭そうな結乃。


「--ふん」

明美が不機嫌そうに目を逸らす。

憑依された影響で、康成のことが嫌いで仕方がないはずなのに、

結乃と康成が話しているのを見ると、複雑な気持ちになってしまうー。


「--じゃあ、もう一回やってみよ~!」

千穂の合図で、再び、音楽室には結乃の奏でる

音色が響き渡り始めたー。


朝練が終わり、音楽室を出るー。


「--おや」

音楽室を出ると、そこには

吹奏楽部部長の小野坂 亮介がいたー。


「ーーー」

康成と目が合った小野坂は少しだけニヤっとすると、

康成に小声で話しかけた。


「聞いたよー。

 君の彼女の明美ちゃん、

 ”憑依”されたとかなんとか。

 退学になった不良くんが騒いでたみたいだな」


亮介の言葉に、康成は「……今は色々あって大変なんだ」と

返事をする。


一時期、

康成は、吹奏楽部部長の小野坂のことも疑っていたー。

だが、憑依していた男子は高藤であったことが分かった今、

小野坂は、少なくとも、直接的に憑依した人間ではないし、

高藤に憑依薬を渡したのは”女子”のようだから

小野坂は無関係に思えるー。


「--…君が振られたのも、その憑依とやらのせいなのか?」

亮介がニヤニヤしながら言う。


「----」

ふと、康成は亮介の顔を見て、

亮介の目の下に隈が出来ているのに気づいた。


そして、口を開くー

「--…ずいぶんと明美に興味があるんだな」


とー。


嫌味っぽい亮介に対して、康成も少し嫌味っぽく言うと、

亮介は不敵な笑みを浮かべながら「ま、君に用はないんだけどな」と呟いた。


康成から離れて、同じ吹奏楽部の結乃の方に向かっていく亮介。

結乃が笑顔で亮介からの呼びかけに答えるー。

合唱コンクールでは吹奏楽部の発表もある。

その打ち合わせだろうかー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


昼休みー。


「明美ー…」

康成は、図書室にやってきていた。


「---なによ」

明美が不愉快そうに読んでいた本を閉じるー。


「--いや、この前は、ありがとうってお礼を言いたくて」

康成が言う。


この前ー。

”誕生日プレゼントのオルゴールを渡してくれた”時のことだー。

本当は、憑依された明美が盗んでいったことは

康成も分かってはいたものの、

それでも、明美は何らかの理由で、康成にそれを返してくれた。


だからー、

康成は明美を追求することなく、

優しく接していた。


「---別に」

明美が”ふん”と康成から顔を背ける。


「---……あのさ……」

康成がカウンターに座っている明美の近くで声をかける。


「--最近、大丈夫か?」


退学になった不良生徒・長谷部が”憑依”のことをばらしてから、

明美はクラスメイトたちから”気味悪い”という扱いを

受けて、孤立気味だ。

そのことを康成は心配している。


「---あんたには関係ない」

明美が愛想なく呟く。


「----…」

康成は悲しそうに首を振ると、

「あ、そうそう、夏帆のことも、ありがとな」

と呟いた。


憑依されて変えられてしまった明美ー

けれど、あの日、河川敷で明美は夏帆に

優しく接してくれていたー。


「---………消えて」

明美が舌打ちしながら言う。


康成は「わかったわかった…ごめんな」と呟くと

そのまま図書室から立ち去ろうとする。


「---ねぇ」

明美が本を見つめたまま康成を呼ぶ。


「-?」

康成が明美のほうを見ると、明美は

康成に顔を向けることもなく呟いた。


「--お菓子の作り方教える約束…

 ちゃんと守るから…


 夏帆ちゃんにそう伝えといて」


愛想のない明美ー

けれどーー

やっぱり、明美らしい一面もちゃんと残っているー


康成は、希望を抱きながら

「あぁ、夏帆も喜ぶよ」とほほ笑むと、そのまま図書室を後にしたー。


次は生徒会室ー。

康成は、このところ、必死に動いているー。

高藤に憑依薬を渡した黒幕を見つけ出すこともそうだし、

明美の心を少しずつ取り戻していきたいという思いもある。


できることは、なんでもやるー。


”わかってるよ…”


「--?」

廊下の物影から、吹奏楽部部長・小野坂の声が聞こえて

康成は立ち止る。


「---」

小野坂は、人目につかない場所で

スマホを手に、誰かと会話していたー。


”わかってる。必ず優勝するよ。

 ……音楽家の息子が負けることは、

 たとえ学校行事であっても許さない…

 って、言いたいんだろ?父さん”


小野坂の電話の相手は父親のようだー。


”明美の件とは、関係なさそうだな”

と思いつつも、

父親からプレッシャーをかけられている小野坂に

少しだけ同情して、康成はその場を離れた。


生徒会室では、生徒会長の沙耶香、

吹奏楽部の結乃が雑談していたー。


親友の零次、生徒会長の沙耶香、

憑依される前の明美の友人の2人、千穂と結乃…

その4人が、明美の憑依の件に力を貸してくれているー。

もちろん、みんなにも都合があるから、

全員が集まることは少ないが、こうして昼休みに

情報交換を行うことが多い。


「--あ、倉本くん」

沙耶香と話していた結乃が、康成に気づく。


「--いつも悪いな…」

康成が言うと、沙耶香も結乃も、

”明美を助けたい気持ちは同じだから”と

優しく返事をしてくれたー。


「あ、そうだ、間宮さん」

康成が結乃のほうを見る。


吹奏楽部部長の小野坂が、

明美のことを気にしているようなそぶりを見せていることや、

康成に挑発的な態度を取ることがある点を

康成は気にしていた。

女子ではないが、高藤に憑依薬を渡した女子以外にも

仲間がいる可能性は0ではないし、

繋がりがあるかもしれないー


「---小野坂が、明美のこと気にしてる感じなんだけど…

 同じ吹奏楽部の間宮さんなら、何か心当たりあるかな~って」

康成が言うと、

結乃は「う~ん」と考える。


沙耶香も「小野坂くんかぁ…」と、思い当たることが

ないかどうかを一緒に考えているー。


「---小野坂くんは、

 確かに倉本くんに対してはあまりいい感じじゃないし、

 明美のこと、よく話題には出すけど…」

結乃は、少し考えたあとに、康成の方を見る。


「最近、ピリピリした感じなのは、たぶん、

 小野坂くんのお父さんのせいだと思う」

結乃の言葉に、「親?」と康成が首を傾げると、

結乃がうなずく。


「うん。小野坂くんのお父さん、音楽の世界じゃ

 有名な人で、プレッシャーが凄いんだって。

 だから、小野坂くん、去年もそうだったけど

 合唱コンクールの前になると、寝る間も惜しんで

 練習してる感じで…」

結乃の言葉に、康成は、小野坂の目の下に隈が

出来ていたことや、父親と電話で話していたことを思い出す。


「--わたしも、親から、

 成績で1位を取れ!とか、ピアノのコンクールで優勝しろ!とか

 よく言われてたから、

 小野坂くんの気持ち、なんとなくわかるの。」


結乃が苦笑いしながら言う。 


「そうかぁ…」

康成が、考える仕草をしていると、

沙耶香が口を開く。


「-ーなんか…色々な人を疑わなきゃいけないって

 悲しいよね…」


「--そうだな」

康成が沙耶香のほうを見る。


だからこそー

早く”黒幕”を見つけ出さなくてはいけないー。


明美を助けるためー

そして、この疑心暗鬼な状況から抜け出すためにもー。


「--ーーー」

康成は、高藤が急変した時の第1発見者が

沙耶香であることも少し気にかかっていた。


”信じる”

と言ったのにー

こんな風に思ってしまう自分がイヤで嫌で

たまらなかったー


けれどー

高藤の”会長”という発言ー

そして、高藤が急変したときにお見舞いに行っていたのが沙耶香で

あることー

色々なことが引っかかっていたー。


「--…」

沙耶香が悲しそうな表情で康成を見つめる。


「--あ、ごめん…」

康成は、沙耶香に謝る。

疑いたくはない。でも、どうしてもー


「ううん」

沙耶香が少しだけ笑って首を振った。


「高藤くんが、”会長”って言ったんだもんね…

 わたしが倉本くんの立場なら、やっぱり

 わたしのこと、疑うと思う…


 だから、気にしないで」

沙耶香が優しく微笑む。


「-本当にごめん。でも、俺は篠塚さんのことも、

 間宮さんのことも、信じてる」


康成は沙耶香と結乃のほうを見て、そう呟く。


「---ふふ…でも…、”会長”の疑いは

 自分で晴らしたいなぁ…」

沙耶香が生徒会室の窓の外を見つめながら言う。


「--高藤くんの”会長”が、誰のこと言ってたのか

 ちょっと調べてみるね」

沙耶香の言葉に、康成は「ごめんな…ありがとう」と悲しそうに呟いたー。


高藤に憑依薬を渡した女子・

”会長”は沙耶香のことなのかー。

それともー…


・・・・・・・・・・・・・


教室に戻るとー

明美が男子生徒の胸倉を掴んで睨みつけていたー


教室がどよめいているー


「--もう1回言ってみなさいよ!!あぁ?」

明美が声を荒げているー


「ちょ、、ちょ、ちょ!明美!どうしたんだよ!」

康成が慌てて割って入るー。


胸倉を掴まれていた男子生徒・久保が

舌打ちするー。

文化祭の時、お化け屋敷を提案した生徒だー。


「お前の元カノ、頭おかしいぜ!」

久保は悪態をつきながら座席に座るー。


「--な、、何があったんだよ、明美」

康成が明美のほうを見る。


明美は不機嫌そうに近くの椅子を

蹴り飛ばすと、そのまま座席に座る。


「-ーあぁぁ…うざい!」

明美が髪をぐしゃぐしゃにしながら

頭を抱えるー。


「---…あいつが、明美のこと

 からかって、明美がキレて…」

親友の零次が小声で康成に伝えるー。

久保が明美をからかって、明美がキレたのだという。


明美の孤立はますます深まっていくー。


「---明美…」

康成は心配そうに明美を見つめるー


「----」

陰険女子の裕子が、頭を抱える明美を見つめて

笑みを浮かべたことに、康成は気づかなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・


放課後ー


康成はたまたま音楽室の前を通るー。

ふと、ピアノの音色が聞こえて来るー。


「---」

康成が”こんな時間まで、誰がピアノを…?”と

思いながら部屋の中を覗くと、

そこには吹奏楽部部長の小野坂の姿があった。


必死に練習を続けている小野坂ー。


「--…」

康成は、正直、小野坂に良い印象を持っていない。

かっこつけで、嫌味っぽいし、

憑依の件でも、怪しいと思っていた生徒の一人だ。


けれどー。


必死に練習を続ける小野坂を見て、

康成は、”あいつも必死なんだな…”と心の中で呟いたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


合唱コンクール当日ー

近くの市民会館で、発表が行われていくー。


「そういや、今年は深雪ちゃん、来てないのか?」

康成が、零次に言うと、零次は「ん…?あぁ、まぁな」と苦笑いする。


零次の妹・深雪は文化祭や合唱コンクールに毎年来ている。

今年の文化祭にも来ていたー

だが、今日の合唱コンクールには来ていないようだったー。


・・・・・・・・・・


本番が始まるー。

1年生から順番に、それぞれの練習の成果が

発表されるー。


「--(今のうちにトイレに行っておくか)」

2年生の順番が回ってくる前に、トイレを済ませておこうと、

康成が立ち上がる。


トイレに入ると、

そこには、ため息をつきながら

洗面台で顔を洗う小野坂の姿があったー。


「--君か…」

小野坂が鏡に映った康成に気づいて振り返る。


「---大丈夫か?顔色悪いけど」

康成が言うと、小野坂は嫌味っぽく笑った。


「--君には分からないさ」

とー。


ちょうど、トイレの前を通りかかった男子生徒二人組の

雑談が聞こえて来るー


”A組の小野坂は親が音楽家だから、ピアノとか余裕でしょ~”

”だよな~!あいつ、練習もしないで余裕こいてるもんな~”


その言葉を聞いた小野坂が、ため息をついて、

髪を掻きむしる。


「---気楽にやれよ」

康成がふと呟いた。


「え?」

小野坂が康成の方を見る。


「--…「失敗を恐れずに、その瞬間を楽しみなさいー」ー

 って、俺の知り合いが前に言ってたんだ」


康成の言葉に、小野坂が「楽しむ?」と首を傾げる。


「一生懸命やって、一生懸命楽しんで、

 それで失敗しちゃったら仕方がない…

 

 本番、失敗しちゃっても、頑張った分は、

 ちゃんと誰かが見ててくれるし、

 とにかく気負わず、楽しめ… って。


 なんか、

 苦しみながら奏でた音色よりも、

 楽しみながら奏でる演奏のほうが、

 綺麗な音色になるんだってさ」


康成は、去年、明美から言われたことを

そのまま小野坂に伝えたー


「ーー楽しむ…か」

小野坂が呟くー


鏡のほうを見るー。

目の下には隈が出来て、疲れ果てた自分がそこに映るー。


「---…僕には、見ててくれる人なんていないー。

 成功すれば”音楽家の息子だから当たり前”

 失敗すれば”努力不足”-


 頑張りなんて、無意味だー。

 僕に求められるのは結果だけだー」


小野坂は自虐的に呟く。


康成は少しだけ迷ってから首を振る。


「-間宮さんから聞いたよ。

 小野坂は、毎日毎日必死に練習してるって。


 正直、かっこつけの面倒くさいやつだと

 思ってたし、正直、嫌い…っていうか、

 苦手だけど、でも、やっぱり、努力はしてるんだなって…。」


その言葉に、小野坂は口を開く。


「---男に頑張りを認められても、

 嬉しくもなんともないなー。


 それにーーー

 僕も、君のこと苦手だよ」


それだけ言うと、小野坂は「でも、ありがとな」と

呟いて、そのままトイレから立ち去って行ったー。


・・・・・・・・・・


2年生の演奏が始まるー


A組の順番。

吹奏楽部部長の小野坂は深呼吸をする。


「----失敗を恐れるな…か」

呟く小野坂。


ピアノは好きだー。

でも、最近はピアノが苦痛になっていたー。


ここ最近、ずっと、楽しむことなんて忘れていたかもしれないー。


観客席のほうの康成の姿を横目で見つめるー


”楽しめ”ー。


小野坂は舌打ちをするー。

康成のことは嫌いだ。

何故なら、彼はー”敵”だからー。


演奏が始まるー

とにかく楽しくー

いつも通りー

ありのままにー


プレッシャーをはねのけて、

小野坂は完璧に演奏を終えたー。


会場が拍手に包まれるー。


小野坂たちA組は、そのままステージを後にするー。


「---」

A組の次に発表をする康成たちB組がステージのほうに向かうー。


廊下ですれ違う小野坂と康成ー。


「---…君のおかげで、うまく行ったよ…。

 久しぶりに、楽しくピアノを演奏できた。

 …ありがとう」

小野坂の言葉に

康成は少し恥ずかしそうに「さっきのは明美から聞いた言葉を

そのまま言っただけなんだけどな」と苦笑いする。


「明美…」

小野坂は少しだけためらってから口を開いた。


「--…文化祭の時はすまなかった」

小野坂が申し訳なさそうに言う。


「ーーーそれにしても……

 あんなに可愛い彼女と別れるなんて…な」


文化祭のとき、小野坂は康成に

嫌味を言ってきていた。


そのときのことを言っているのだろうー。


「僕もさ…明美ちゃんのこと、好きだったんだ…」


「--は!?」

康成が驚いて声を上げる。


「--だから、君のことを一方的にライバル視してた。

 

 で、君が明美ちゃんと別れたって噂で聞いて

 ざまあみろ、って思ってたんだよ…」


小野坂の言葉に、康成が苦笑いするー。


小野坂が康成に挑発的な態度をすることが

多かったのは、一方的にライバル視されていたのか…と、思いながらー。


「---でも、僕はもう、諦めた」


「え?」


「--この前、君が図書室で明美ちゃんと話している途中に

 飛び出していったことがあっただろ?」


”理科室から図書室を見ていた高藤を追い詰めた時のことか”と

康成は思うー。


「ーーあのあと、図書室に残されてた明美ちゃんに告白したんだ」

小野坂が笑うー。


「でもさ、あっさり振られたよ。

 ”大切な人がいるから”って」


「大切な人…?」

康成が聞き返すと、小野坂は笑った。


「たぶん、君のことだろ。

 ー倉本か?って聞いた時、すごく悲しそうな顔してた。」


そこまで言うと、小野坂が

”呼び止めて悪かったな”と呟きながら

歩き出す。


そして、去り際に康成の方を見て

小野坂は言った。


「--憑依とか、いろいろ噂になってるし、

 なんで、明美ちゃんが君を振ったのかも、

 なにが起きてるのかも、僕にはさっぱり分からないけどさ…


 とにかく…その…頑張れよ。

 むかつくし、悔しいけど、明美ちゃんには、君がお似合いだ」


「---ありがとな…。頑張るよ」

康成はそれだけ言うと、小野坂とは反対側に歩き出すー。


B組の発表が始まる。

ツインテールの結乃が、ピアノの演奏をするー


明美が、不愉快そうにそれを見つめるー。


結乃のピアノの音色が響き渡るー。


発表は順調に終わりー、

合唱コンクールは幕を閉じたー。


・・・・・・・・・・・・


翌週ー。


康成が登校して、

ロッカーから教科書を取り出そうとするとーー

ふと、”鍵”が外れていることに気づいたー。


「-!?」

康成がロッカーを開けると、そこにはー


「---!!!」

ロッカーに入れられていた紙を見て、

目を見開く康成ー


”これ以上余計な詮索をしたら、

 とても、楽しいことが起きるかも♡”


そう書かれた紙の下にはーー

”妹の夏帆ちゃん、かわいいね!”と

いう文字と共に、夏帆の写真ー

そして、その横に赤い文字で”憑依♡”と

書かれているー。


康成は、その意味を悟るー


これは、”黒幕”からの脅迫ー


”これ以上、憑依のことを調べれば

 夏帆に憑依する”


という、脅しー。


「--ふざけるな!」

康成はそう呟いて、紙を握りしめるー


「-----…」

そんな様子をテニス部部長の千穂がーーー

見つめていた。



⑯へ続く


・・・・・・・・・・・


コメント


小野坂くんは、

”男子、少ないなぁ”ということで考えた

登場人物でした。


読んで下さる皆様から、

”途中から登場したし、たぶん関係ないだろうなぁ”

と思われつつも、意味深な行動を取る謎の人物、的な

ポジションを目指しました!

結果、どうだったかは、分かりませんケド…笑


今日は日常的な要素が多かったですが、

次回からは黒幕の正体に急接近ー!?

真相に向けて動き出しちゃいます!


憑依されて変わってしまった彼女とのやり取りも

増えていきますのでお楽しみに~☆

(Fanbox)


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