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”記憶”とは曖昧なものだー。


消えゆく蝋燭の炎のようにー

儚く、そして、消えたあとには何も残らない。


”記憶”とは何だろうか。


後世の人々の記憶に残る人間は、ごくわずか。

何億もの人間の存在は、忘れられるー

人々の記憶から、消し去られるー。


記憶は永遠ではないー

儚く、おぼろげで、泡のように、消えてしまうー


死んだ人間の記憶は、どこに消えるのだろうー。

死んだ人間の感情は、どこへ行ってしまうのだろうー。


いいやー

生きていても、それは同じ。


記憶を塗り替えられてしまった明美の

元々の感情はー

どこに行ってしまったのだろうー。


記憶とは、おぼろげなものー


小さな炎のように、

それは、ふとしたことで、消えてしまうー

ちょっとしたことで、変わってしまうー。


・・・・・・・・・・・・・・


倉本 康成

2年B組生徒。彼女が憑依されてしまう。


藤森 明美

2年B組生徒。お茶目な性格。憑依されてしまい…?


柳沢 零次

2年B組生徒。康成の親友。


篠塚 沙耶香

2年C組生徒。生徒会長。同じ中学の出身。


哀川 裕子

2年B組生徒。陰険なお嬢様


長谷部 勝

2年B組生徒。クラス一のワル。


・・・・・・・・・・・・・・


昼休みー


生徒会の話し合いの最中ー

康成はため息をついたー


「明美は、今日から俺の彼女だー」


不良生徒・勝の言葉を思い出す。


明美の様子がおかしいー

昨日から、明美の様子がおかしいー


昨日の図書室で何があったー?


「あぁぁ~憑依できるなんて最高だぁ…♡

 えへへへへ…へへへへへへ♡」


明美に…いったい何が?


康成が頭を抱える。


「---大丈夫?」

生徒会長の沙耶香が心配そうに声をかけてくる。


「--あ、、え、ご、ごめん」

康成は、我に返るー


朝から、明美の豹変のことで

頭がいっぱいだー。


授業中や休み時間にも明美の様子を

見ていたが、どう考えてもおかしいー

やる気のない態度に

反抗的な態度ー

明美は、あんな態度をとる子じゃない。


いったいー

明美に何があった?


「--なぁ、ちゃんと話し合いに参加してくれよ」


生徒会の一人・高藤が口を開く。

”リア充爆発しろ”が口癖の生徒だ。


「--あ、あぁ」

康成がそう返事をすると、

高藤は続けた。


「---彼女とのトラブルを抱えて

 そういう風になるとかさ、ほんと勘弁してくれよ

 こっちは迷惑なんだよ。

 

 これだからリア充は…

 喧嘩したり、何かあると、すぐにそーやって

 悩みだす。

 だったら最初から恋愛なんかすんじゃねーよ」


眼鏡をかけた高藤がいら立ちながら言う。


「--高藤くん。言い過ぎよ」

生徒会長の沙耶香が言うと、

高藤は眼鏡をいじりながらため息をついたー


「---……」

康成は、それでも、明美のことを考えずには

いられなかったー。


生徒会の話し合いが終わる。


「--明美…何があったの?」

沙耶香が、康成を呼び止める。


「分からない…

 昨日から様子が変なんだ」

康成が困り果てた様子で言う。


「---…そう」

沙耶香が悲しそうに呟く。


沙耶香も同じ中学出身で

明美のことをよく知っている。

中学では暗い感じだった沙耶香だが

今は別人のように明るくなって

生徒会長にまでなっているー


これもまた”豹変”と言えば

豹変なのかもしれないー


康成はそんな風に思いながら

沙耶香のほうを見る。


「--わたしもね…

 ちょっと理由があって

 高校入学の時に自分を変えようと思って

 イメチェン…って言うのかな?

 したことあるけど…

 明美にも何かあったのかもしれないね」


沙耶香が優しく微笑む。


明美に何かー


「---」

康成には思い当たることがない。


家庭の事情かー


それともー


”憑依”


康成にはどうしても図書室で

明美が一人呟いていた言葉と、

突然明美の身体の中から現れたように見えた

覆面の男が気になっていたー


「--あるはずがない」

康成は呟く。


他人が他人に憑依できるなんて、

あるはずがないー。


教室に戻った康成は明美に話しかける。


「なぁ…明美…ちょっと放課後、話せるか?」


康成が聞くー。


だが、明美は康成を感染に無視していた。

頬杖をつきながらスマホをいじっている。


「明美…頼むよ…何があったんだよ?」

康成がなおも声をかける。


明美はそれでも返事をしないー


「…俺、何か怒らせるようなことしちゃったか?

 なぁ…明美」


バン!


明美が机をたたいた。


「ごちゃごちゃごちゃごちゃうっさいなぁ!!!」

明美がスマホを机に置くと、

康成のほうを見た。


「--あのさぁ、うっざいから話しかけないでくれる?」

明美が怒りの表情で康成を見つめる。


確かに明美だーー

だが、中身が別人のようにー

そんな風に感じる。


「--…ご、、ごめん…

 で、、でもさ、、なんでそんなに怒ってるか

 教えてくれよ…」


「---あ~~~も~~~」

明美が茶色に染まった髪を

イライラしながら掻きむしる。


「--うぜぇ」

明美が康成を睨むー


康成は思わず、恐怖すら感じたー


そしてそのまま明美は教室から立ち去ってしまうー


「---明美…」

康成は、何が起きたのかわからず、困惑してしまうー。


「---……康成」

親友の零次が声をかけてきた。


「何かあったのか?」

とー。


「--……俺にも分からないんだ…」

康成は悲しそうに首を振ったー。


明美はいったいどうしてしまったのかー?

まったくわからないー


康成は、ふと教室の窓際を見つめるー


窓際に立っていた不良生徒の勝が

康成のほうを見ながらニヤニヤしていたー


そういえばー

図書室には勝の写真が置かれていたー


あの時の覆面の男は、勝なのかー?


どうして急に明美が勝と付き合いだすなんて

言い始めたのか…?


さっぱりわからない。


康成はモヤモヤしたまま

週末を迎えることになってしまったー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


帰宅した康成は

誕生日に明美からもらった

キラキラした球体を見つめるー


「結局…これが何かも

 教えてくれてないじゃんか…」


部屋で、明美からの誕生日プレゼントを見つめながら

康成は悲しそうな表情を浮かべたー


小学生の時ー

初めての教室で、隣の座席になったのが明美だったー


「わたし、明美!よろしくねー!」


あの日からー

ずっと、共にーー


何かがあれば、いつも明美が助けてくれたしー

何かがあれば、いつも明美を助けていたー


「ーー康成と一緒で、本当によかったー」


明美の笑顔ーーー


それが、突然消えてしまったー


どうしてー

なんでー?


康成は、

スマホを手にするー


明美のLINEにメッセージを送るー


だが、反応はないー。


「---どうしてだよ…」

康成は悲しそうに部屋で考え込んだー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


週明けー


明美が元通りになっていることを

少し期待していたが、

明美はそのままだった。


「---きゃはははははははは!

 うけるぅ~!」


明美がゲラゲラと笑うー

明美と一緒に笑っている女子生徒はー

クラスの中でも一番陰険な女子ー

しかも、お嬢様育ちで我儘な

哀川 裕子だったー。


「--今度、あんたにもやらせてあげるよ」

裕子が笑うと、

明美も笑う。


「え~?マジ?やるやるぅ~!」


「----」

康成は明美のほうを見つめるー


明美は、裕子ら女子グループとはあまり関りがなかった。

裕子らは素行も良くないからだ。


康成は、親しくする友達まで変化していることに

違和感を覚えるー


明美は元々友達が多いが、

特に親しくしていたのは、クラスでは2人。


一人は

大人しい眼鏡女子の結乃(ゆの)

テストでもよく成績を競い合ったり、

好きな本について雑談したりしているー


もう一人は

ボーイッシュな女子生徒・千穂(ちほ)。

よく明美と一緒にお昼を食べていたー


「二人なら、何か知ってるかもしれない…」

康成は、

結乃や千穂が明美について

何か知らないかを聞いてみよう、と心に決めるー。


「---え~?

 きゃははははははは!」

明美が笑うー


まるで別人のようなー


明美が、明美じゃないようなー…


そんな感じがするー


・・・・・・・・・・・・・・・


放課後ー。


康成は、廊下を歩いていたー


不良生徒の勝が前からやって来る。


「---くくく…彼女に嫌われちゃったなぁ?」

勝がすれ違いざまに笑う。


「----…お前が、明美に何かしたのか?」

康成が勝を睨む。


「--ーーあ?」

勝はガムを噛みながら不愉快だと言いたげな

表情を浮かべた。


「--明美から俺に告白してきたんだぜ?

 くくく、俺はそれに答えただけだ」

勝はそう言うと、

康成の肩をポンポンと叩いた。


そして、耳元でささやく。


「ーーーじゃあな。明美の”元彼”さん 

 くくく」


勝はそれだけ言うと、フーセンガムを膨らませながら

そのまま立ち去って行くー


康成の手は震えていたー


”元カレ”という言葉が

胸に突き刺さったー


康成は図書室に向かう。


明美と一度、1対1で話をするしかない。


今日は、明美が図書当番だったはずだ。

図書室の開放時間が終わったら、

明美と話をしてみよう。


そう思いながら、康成は図書室に向かう。


雨が降り注ぐー。

秋の雨ー

さっきまで晴れていたのにー。


そんな風に思いながら、康成は

図書室の前に到着したー。


「---明美…」

図書室は既に片付けの準備に入っていた。


心にポッカリと穴が開いてしまったー

明美の存在はそれほどまでに大きな存在だったー。

その明美が、どうして急に変わってしまったのだろうかー。


康成は意を決して図書室へと入るー

そこには、本を読んでいる明美の姿があったー


明美が持っていた本はー

明美がお気に入りの本ー


「---」

康成は、”やっぱり明美は明美だ…”と少し安心する。


「----」

明美が少し複雑そうな表情を浮かべるー


雨の音が響き渡る図書室。


「--明美…何があったんだよ…教えてくれよ」


図書室には康成と明美だけ。


明美は本を閉じると、図書室のカウンターの前に立って

康成のほうを見つめた。


「---…あんたが、うざいの」

明美が吐き捨てるように言う。


「--ど、、どうして……

 俺は何も…明美!」


康成が言うと、

明美は声を荒げた。


「分かってる!分かってるよ!

 でも、、なんでかな…?

 うざくて、うざくて、たまらないの!」

明美の表情が歪むー


「どうしてー…?」

明美は自分でも、自分の現状を理解できていなかったー


自分に憑依した人間に、

思考を変えられて、憎悪を植え付けられてしまったことをー。


「---明美…」


康成は、明美のほうに近づいていく。


「ーーうるさい!わたしの名前を呼ぶな!」

明美がカウンターに置いてあった本を投げつけてくる。


康成は、本を避けなかったー


痛みに耐えて、明美の目の前にやってくるー


「---明美…

 俺は、どんなことがあっても、

 明美のこと、好きだからー…

 

 だから頼むよ。

 理由を教えてくれよ。

 どうして…どうしてなんだ、明美」


康成が優しく言うと、

明美は、瞳を震わせたー


「---あんたのこと見てると…

 むかついて…むかついて…

 どうして…」


明美の目から涙が零れ落ちるー


「---明美…」

康成が呟く。


「---…わたし……どうしちゃったんだろう…」

明美が図書室の端のほうにある鏡のほうに目をやるー


茶髪になってー

メイクが濃くなってー


自分はどうして、こんな…


「---明美…俺も力になるから…

 何が起きてるのか分からないけど、

 俺、、できる限りのことはするから」

康成がそう言うと、

明美は康成のほうを見たー


少しだけ、明美の表情が緩むー


「---……ほんと、お人よしなんだからー」


ーー!!


明美に今までに何度も言われたことのある言葉ー


康成がおせっかいをするたびに、

明美は苦笑いしながら、康成にそう言っていたー


やっぱり、明美は、何があっても明美なんだー

康成はそう思いながら、明美にほほ笑みかけようとしたー


しかしー


ビクン


明美が、震えたー


「---あ、、明美…?」

康成が明美のほうを見る。


「-----ククク…危なかったぁ」

明美が邪悪な笑みを浮かべているー


「---!?」

康成が驚く。


「まだ、塗りつぶしが完全じゃなかったかぁ…

 こいつには、もっともっと、悪い女に

 なってもらわなくちゃなぁ」


明美が自分の胸をつつきながら笑う。


「な…あ、、明美…?」


雨がさらに強くなり、雷が鳴り始めるー。


「--お前を苦しめるためだー。

 自分の大事な彼女が

 変えられてー

 染められてー

 自分の手から零れ落ちていくー


 そのざまをもっと、俺に見せてくれー」


明美が狂気に満ちた笑みを浮かべながら言うー


「--お、お前…明美じゃないな…

 誰だ!」


康成が叫ぶー


「--くくく、それは言えないなぁ…」

明美はそう言うと、笑いながら図書室から

立ち去って行こうとするー


「もっともっと、こいつにお前への憎悪を植え付けてやる!

 もっともっと、悪い女に変えてやる!

 あはははははははっ!」


「--待て!、、あ、、明美に何をしたんだ!?

 お前は…いったい!?」

康成が叫ぶ。


明美が振り返るー


雷が鳴り響くー


明美は呟いたー


「憑依…されちゃった♡」


とー。


「---ひ、、、憑依…」

康成は唖然とする。


「---ばいばい、康成」

明美の口調を真似て笑うー。


そして、明美はそのまま立ち去ってしまうー


「---…あ、、、明美…」

絶望してその場に崩れ落ちる康成ー


雨の音が響き渡る図書室で康成は、

一人、絶望の表情を浮かべたー


”憑依ーーーー”


それが、康成と、

憑依されて変えられてしまった明美の

戦いーー

そして、憑依した男子生徒を追う日々のはじまりだったーーー



④へ続く


・・・・・・・・・・・・・・


コメント


長編小説、ということで

いつもより丁寧に展開していける余裕があって、

新鮮な気持ちで執筆できています~☆!


続きはまた近日中に~!


今日もありがとうございました~!

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