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母・久美の話を聞いて

唖然としている娘の円花。


母は、娘である円花を出産した

20年前ー既に、憑依されていたというのだ。

そして、今もー。


自分が母親だと思っていた人は、

母親ではなく、母親に憑依した男ー


「----……」

円花は、難しい表情を浮かべていた。


「--じゃあ…お母さんを…

 お母さんの身体を乗っ取って

 22年間、ずっと生きてきたってこと?


 なんのために?」


円花がつらそうな表情を浮かべながら言う。


「----そうよ…

 わたしは…本当は久美じゃないー


 でも…」


母の久美は、続きを語り始めた。


・・・・・・・・・・・・


22年前ー

クラスメイトの久美の身体を乗っ取った

不良男子の史郎は、

不良仲間からの裏切りを受けた。


久美に憑依した史郎は

中身が男であっても、身体は女ー。

不良仲間たちはそうは分かっていても

次第に久美に憑依した史郎を女とみるように

なっていたー。


そして、ある日、不良仲間たちは久美を襲った。


その時にー

偶然通りかかった、当時大学生だった正樹という

男が、久美を助けたのだー。


正樹とは、のちに久美の夫になる人物だー。


このとき、久美は初めて正樹と出会った。


だが、

このときはまだ

”いいおもちゃを見つけたぜ”としか

久美は思っていなかった。


不良仲間たちと縁を切り、

毎晩のようにエッチなことを繰り返す久美。

夜の街で男と寝るようなこともあったー。


そんなある日、

正樹と偶然再会したー


ちょうど時間があって、久美は正樹と

近くのお店に入る。


「ーーーこの前は、ありがとうございました」

久美は笑顔を浮かべて言うー


「---いや、いいさ。

 それより、あのあとは大丈夫か?

 ほら、ああいうやつら、

 また仕返しに来たりするかもしれないだろ?」

正樹が言う。


その言葉に久美は優しく微笑んだー


”こいつ…馬鹿な男だぜ”

久美は内心で笑うー


この男で遊びつくしてやるー。

そんな風に改めて思った。


そして、久美は、それからも正樹と会い、

”恋愛ごっこ”を楽しんだ。

”普通の女の子”として恋愛を楽しむー


「---っかし、お前もワルだなぁ。史郎」

不良仲間の一人・一真(かずま)が笑う。


一真は、久美に憑依した史郎を襲った

不良グループとはまた別の不良仲間で、

久美のことを無理やり襲ったりはしていないため

今でもその関係が続いていた。


「---ははははっ!だろ?」

久美は足を組みながら隠れ家で

煙草を吸っているー。


「---で?どうするつもりなんだよ?」

一真が笑いながら言う。


久美は悪い笑みを浮かべながら続けた。


「あいつの子供作ろうかな~って

 思ってるんだよ」

久美が低い声で呟く。


「---子供?」

一真が不思議そうな表情を浮かべる。


「---へへ…仲良くなって

 子供まで作って、そこで急に俺が

 豹変して、あの男を振って

 養育費もふんだくってやろうと思ってよ~へへへ」


元の久美の面影などまるでない、

邪悪な表情を浮かべるー


「---うわあぁぁ…引くぜ…

 わっるい女だな~」


一真の言葉に、久美は「だろ?」と

不気味な笑みを浮かべたー


・・・・・・・・・・・・


それからもー

久美は正樹と仲良くなっていき、

積極的にエッチなことに誘うようになっていたー


過激なコスプレをして

正樹を誘惑したりすることも

日常的にあったー。


「---はぁ…♡ はぁ…♡

 馬鹿な男だぜ」


大学生になっていた久美は

一人暮らしを始めていたー。

正樹が帰ったあとに、

乱れ切ったバニーガール姿で

笑う久美ー。


正樹は、慎重だったー

決して自分から手を出そうとしない。

久美が強引にエッチに誘わなければ

絶対に手を出してこない。


子供が出来てしまうようなことを

絶対にしようとはしないー


けれども、久美は正樹を誘惑し続けたー。

うまく、丸め込んでー。


「---子供がこの身体に出来たら…

 くくく、金をふんだくって、子供は

 適当に育てて、好き放題させてもらうぜ…


 くくくくく…はははははははははははは!」


そしてー

子供ができた。


久美は、子供ができたことで

笑みを浮かべたー


”あとは、子供ができたことをネタに脅して

 金をたんまり奪うだけだー”


とー。

子供は生まれる前になんとかしてもいいー


そんな風に思っていたー


正樹を呼び出す。

久美は、いつもより少しきついメイクをして

正樹に会いに行くー

そのほうが”脅し”が効くと思ったからだ。


だがー


「--結婚しよう」

妊娠を告げる前に、正樹はそう言った。


結婚指輪を久美のほうに差し出す正樹。


”ば~か!”

久美は内心で笑うー


妊娠を知る前に、結婚を申し込んでくるなんてー。

なんていうタイミング。


「---わたし、妊娠したの」


久美がそう言うと、

正樹は驚いた表情を浮かべたー


”逃げ出すか?”


それともー


久美は内心で笑う。


お前はこれから、地獄を見ることになるんだー。


久美が脅しの言葉を口に出そうとした

その時だったー


「そっか…よかった…」

正樹は目から涙をこぼしながら

久美を抱きしめた。


「これから、いろいろ苦労をかけちゃうことになるけど

 俺も一生懸命がんばるから…

 一緒に、頑張っていこうな…」


正樹はそう言うと、久美を見てほほ笑んだ。


「---え…」

久美は表情を歪める。


「---そんな顔するなって!

 妊娠を聞いたから逃げるような男だと思ったか?


 そんなことしないさ。

 ちゃんと責任は持つし、

 久美も、生まれてくる子供も、俺がちゃんと守ってみせる」


「-----」

久美は、口まで出かかっていた脅しの言葉を飲み込むー。

正樹のあまりにもまっすぐな姿勢にー

心を打たれたのだった。


”もう少しだけ…夢を見させてやるか”

久美は、自分に言い聞かせるようにそう呟いたー


だがー…

それは”言い訳”だったー

本当は、この人と一緒にいたいと思った。


久美に憑依してから1年ー

既に、史郎には久美としての

女性としての感情が芽生え始めていたのだ。


正樹と久美は、すぐに両親への挨拶を済ませたー


久美の両親にもー


久美は憑依直後、好き放題をし

補導されて、両親を泣かせたこともあるー

大学に入ってから一人暮らしを始めてから

両親とは距離が出来ていたー


けれどー

両親は正樹との結婚を泣いて喜んでくれた。


「---…お母さん…お父さん…」

久美は、思わず涙したー


”俺は…お前たちの娘じゃない…”

そう思いながらー


だが、史郎の身体は

既に死んでいるー

もう、戻れないー

久美の身体から出ることができなくなっていたー。


「---………ありがとう」

久美は、一瞬”憑依のこと”を

口走りそうになったー

だが、それをこらえて、両親の前で涙したー


”出産直後、夫を裏切ってやろうー”


また、言い訳をした。

不良仲間の一真にもそう告げた。


一真は血の気の荒い男だ。

もし、久美(史郎)が気が変わったと告げれば

どうなるかー。


「---…もう、いいんじゃないか」

一真が言った。


「え?」


「--好きなんだろ。その旦那さんのこと」

一真がたばこを吸いながら言う。


「---な、、そ、、そんなことあるわけねぇだろ…!」

久美が声を荒げる。


だが、一真は首を振る。


「分かるんだ…

 俺といるときもそうだけど、

 だんだん、お前は女になってる。

 ふるまいも…


 想像に過ぎないけどさ、

 俺といるときだけだろ?そんな仕草とか

 言葉遣いなのは」


一真の言う通りだった。

最近の史郎は、久美として

女らしいふるまいや言葉遣いが基本になっていて

元の口調で話すのは、本当に一真ぐらいだ。


「---自分に素直に生きろ」

一真はそう言うと、立ち去ろうとする。


一真は、”昔”は血の気が多かったー

だが、大学に入って一真も変わっていたー。


「--……俺とはもう会わないほうがいい」


一真が言う。

中身が男でも、今のお前は久美だ、と。

俺と会っていれば誤解されるし、

もうお前は不良なんかじゃない、とー。


「幸せになれよー」


そう言い残して、一真は

久美の前から姿を消したー


そしてー

久美は出産したー

円花をー。


「---」

久美は、生まれてきた赤ん坊を見た時に思ったー


”この子を、守りたいー”

とー


もう、久美は、久美に憑依した史郎は

すっかり”お母さん”になっていたのだったー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


話を終えると、

久美は、ごめんなさい、と頭を下げたー


20年間、ずっとだましてきた、と。


「--お父さんは、知ってるの?」

円花が言う。


夫の正樹は、今も久美が憑依されていることを知らない。


だがー

正樹にも打ち明けるつもりだ。


「---…」

久美は答えない。


「---……はぁ…」

円花はため息をついて、

そのまま成人式に向かったー


母である久美と目を合わせることもなくー


・・・・・・・・・・・・・


久美は、一人、家で悩んでいたー


言わなければよかったかもしれないー

けれどー

たとえ自己満足であっても

このまま隠し続けて生きるのは、つらかった。


家族にだけは、伝えないと、と思ったー

その結果が、どうなろうともー。


そしてー

円花が成人するまでは、と

ずっと黙ってきたこの事実を

今日、打ち明けたのだったー


永遠の罪悪感。

自分は、久美の人生を奪ってしまったー

そして、憑依から抜け出せなくなった今、

人生を返すこともできない。


ガチャー


「ただいま」


娘の円花が帰宅したー


円花は、難しい表情で久美のほうに向かってくると

母である久美のことを見つめたー


「---私にとっては…

 お母さんは、お母さん」


円花はそう呟く。


「たとえ、中身が違う人でも、

 わたしを生んでくれたのはあなただし、

 育ててくれたのもあなたー。

 そして、お父さんと一緒になったのも

 あなたです」


円花はそこまで他人行儀で言うと、

久美のほうを見た。


「だから、あなたはわたしのおかあさん。


 お母さんは、お母さんだもん。

 …これからも今まで通りよろしくね」


いろいろ思うところはあったものの

円花は成人式の最中にいろいろと考えて

”今まで通り”の道を選んだー


「---円花…変な話して、ごめんね…」

久美は円花をそっと抱きしめた。


「ずっと誰にも言えなくてつらかったんだよね…

 大丈夫…お母さんは、お母さんだから」


円花は優しくそう呟くと、

そのまま部屋に向かっていったー。


直後、夫の正樹が帰宅した。


「ただいま」

正樹が笑う。


「おかえりなさい」


久美は、正樹に対しても

真実を打ち明けようとしたー。


大切だからこそ、

ずっと嘘をついたままではいられないー。


そう思ったからー

全てを打ち明けようと思ったー


「----わかってるよ」

正樹は優しく微笑んだー。


「-え?」

久美が戸惑うと、

正樹は優しく肩を叩いた。


「とっくに、気づいてた。」


それだけ言うと、正樹は笑いながら

鞄の中身を取り出して片付け始めたー


「ごめんなさい…」

久美が涙を流しながら言うと、

正樹は久美のほうを見て優しく微笑んだー


「謝るなら、俺じゃなくてー

 憑依したその身体に、な?」


そこまで言うと、正樹は笑って

そのまま自分の部屋に向かって着替え始めたー


もう、この子に身体を返すことはできないー

この身体から抜け出すことができないからー


「-----ごめんなさい」

久美に憑依した史郎は、

久美に対して謝罪の言葉を口にしたー。


謝っても、許されることじゃないー


それは分かっていても、

謝罪の言葉を口にせずにはいられなかったー。


そしてー

人の人生を奪った自分にその資格が

あるかどうかは分からないけれど、

夫と娘のことを、これからも出来る限り

支えていこうー、と、

そう改めて誓うのだった。



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


「--わたし、実はあなたのお母さんじゃないの」

みたいな、よくあるシーンから思いついたお話でした~!


奪われたほうはたまったものではないと

思いますケド、

でも、家族にとっては…


難しいお話ですネ~汗


お読み下さりありがとうございました~!!

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Comments

たそがれ

最初は遊び半分のつもりだったのに、途中から憑依人が純粋な愛情に目覚める展開はいいですね☆ 秘密を打ち明け、受け入れてもらえて一見、ハッピーエンドみたいに見えますが、人生を奪われた本物の久美にとってはバッドエンド以外の何物でもないですよね(笑) ところで、同じく母(妻)が憑依されてると言っても、そのタイミングによっては、色々と大違いな感じになりそうですよね。 この話では夫と出会い、恋愛したのも、娘を産んで育てたのも憑依人だったから、皮肉なことにある意味、偽物の方が本物みたいな感じになっちゃってますけど、もし、もっと近年とかに憑依されていたのなら、さすがに夫や娘に受け入れてはもらえなさそうですし。

無名

たそがれ様~!ありがとうございます~!☆ 憑依した側が改心してハッピーエンド…! みたいなお話も、 憑依された本人にとっては災難でしかないですネ…★ 憑依されるタイミングが違った場合… それでまた違う物語を膨らませていくのも 楽しそうデス…!!