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「俺は、転売屋に家族を殺された」

夜景が見える高級住宅で、ワインを飲みながら男は呟く。


10年前ー

新型のウイルスが流行ったことがある。

彼は、その時、ごく普通の大学生だった。


実家暮らしだった彼は

祖母と同居していた。

高齢で体力が弱りつつあった祖母。


そんな祖母を守るために、

彼はマスクを着用し、新型ウイルスに感染しないように

身を守ろうとしていたー


だがーー…

”転売屋”

と呼ばれる存在によって

マスクがお店から姿を消した。


マスクを買い占めて、

ネットで高値で売りつけるー。


やがて、彼の自宅のマスクは無くなり

やむを得ず、マスクなしで出かけることになった。

その結果ー

彼は、新型ウイルスに感染した。


新型ウイルスは一般の人によって

それほど致命的ではないものだったし、

彼は大したことなく治癒したー


しかしー

彼は、祖母に新型ウイルスを移してしまったー


結果、祖母は死んだ。

小さいころから、自分を可愛がってくれた祖母は

死んだのだー


”転売屋に、家族を殺された”


マスクがあっても

結果は同じだったかもしれないー

けれど、

もしかしたら違ったかもしれないー


彼の両親は、祖母の死はおまえのせいだ!と言い始めた。


彼は、家を飛び出し、

そして”転売屋”に復讐するために

コツコツとお金を稼ぎ、やがて莫大な富を手に入れ、

そして裏世界で復讐するための力を

手に入れたー


あれから10年ー

10年前とは別の新型ウイルスが流行し始めたー

新型のインフルエンザだ。


”各地で、マスクの品薄が問題になっておりー

 ネットでは高額でー”

部屋のテレビが報道を伝えている。


男は、

ワインを飲みながらテレビを見つめる。


”懲りないやつらだ”

彼はそう思った。


10年前と、同じー。

私利私欲のためにマスクを買いあさり、

人の命をも奪う転売屋。


「--そろそろ、懲らしめるか」

彼は静かにそう呟いたー


・・・・・・・・・・・・・・


街のドラッグストアー


既にマスクの品薄は始まっていたが、

この日ー

怪しげな雰囲気の女性が

大量のマスクをカゴに入れて

レジに並んでいた。


転売屋の天馬 美優(てんば みゆう)


彼女はあらゆるものを転売して

生計を立てていたー


「---ありがとうございました」

店員が引きつった表情で会計を終える。


”転売”だと店員も分かっているのだろう。

けれど、上からの指示がないために

購入を止めることはできない。


「---…」

そんな転売屋の女・美優の背後で、

男が舌打ちをしたー


転売屋を憎む男だー


調べはついているー。

今、マスクを大量に購入した女・美優は

転売の常習者だ。

”勘違い”しないために男は

あらかじめ美優のことを調べていた。


そして…


彼にはー

”入れ替わり”の力があったー


今回のマスク騒動以前にも、

転売屋を何人か懲らしめてきたー。


「----懲らしめてやろう」

彼はそう呟くと、

転売屋のほうを見つめてー

目を赤く光らせたー


次の瞬間ー


「---!?!?!?!?」

男は目を見開いた。


「え!?あ、、あれ?」

男がキョロキョロする。


目の前には、大量のマスクを持った自分がいるー。


「---え…!?わたし…?」

転売屋の女・美優と転売屋を憎む男が

入れ替わったのだー


「---くくく」

美優になった男は、元自分の身体のほうを見て笑う。


「--ちょっと、わたしの身体!」

男になった美優が叫ぶー


しかしー


「みなさ~ん!わたし、転売屋の美優です~

 わたし、今まで転売してたんですけど、

 マスクとか、そういう大事なモノを

 転売しちゃうのってやっぱいけないなぁ~って思って

 今までのお詫びも兼ねて、

 皆さんにマスクを配布することにしました!」


商店街で叫ぶ美優になった男。


男になった美優は「ちょっと!何してるの!?」と

焦った様子で叫ぶー

大量に購入したマスクをただで配布なんてされたら

大変な損害だー


だがー

商店街の利用客たちは、

美優のそばに群がった。


男になってしまった美優は人込みに

突き飛ばされて、しりもちをついてしまう。


「いったぁぁぁ…」

男になった美優は戸惑うー


「な、、なんでわたし男の身体に…

 ってか、私のマスク!」


けれどー

マスクを配布する美優になった男に近づくことはできず

美優は、たった今購入した大量のマスクを

全て無料で配布してしまっていたー。


「--そ…そんな…何すんのよ!」

男になった美優が叫ぶ。


美優になった男は挑発的に笑うと

そのまま美優の家を目指して歩き始めた。


「--い、、いったいなんのつもり!?

 人の身体を奪って勝手にわたしのマスクを!」

叫ぶ男。


男の身体で女口調なので

違和感がすごい。


だが、そんなことを気にする様子もなく美優に

なった男は街を歩く。

スカート姿の美優。

男はこれまでに何度も入れ替わりを経験しているから

あまり驚くような感覚ではないー


彼も人並みに性欲というものを

持ち合わせてはいたものの、

こんな薄汚い商売をする女の身体なんて

もてあそぶつもりもないし、興味がない。


自分の祖母を奪った転売屋を

彼は、嫌悪していたー


「ちょっと!わたしの身体、返してよ!」

騒ぐ転売屋。

男の身体になった転売屋が美優の身体になった男の

周りで何かわめいているー


だが、彼は返事をしない。

彼は転売屋を人間とすら思っていないー

”獣とかわす言葉はない”

彼は、そう思っているー。

転売屋が違法ではない?

そんなことは分かっている。

けれど、彼の祖母は、転売屋がいなければ

死ななかったかもしれない。

あくまでも”かも”だ。

だが、自分のような人間は今後も出てくるかもしれないし

もう、いるかもしれない。

だから、彼は転売屋を許さなかった。

私怨と言われれば、それまでかもしれない。


けれどー


彼は、美優の姿のまま、美優の家にたどり着いた。


莫大な資金で、先に転売屋の個人情報は

調べ尽くしてある。


家に入ると、美優の姿をした男は

美優の自宅に大量に保管されていたマスクの写真を

取り始めた。


「ちょっと!何してるの!?ねぇ!?」

男の姿をした美優が叫ぶ。


一向に相手にしない美優の姿をした男ー。

表情ひとつ、変えない。


転売屋に対する「お仕置き」を

淡々とこなす。


「---」

写真を撮り終えると、SNSの画面の開き、

美優の姿をした男は

”マスクの無料配布を行います”と投稿した。


そして、住所を載せる。


普段はへらへらしている感じの女性だが、

男と入れ替わった今の美優は

完全に無表情だった。

まるで、ロボットのようだー。


マスクを求めて人々がやってくる。

無料発送も行うー


「こんなにため込んでやがったなんてな」

美優(男)は呟くー。

憎しみを込めて。


笑顔を振りまき、

マスクを次々と配布していく。


もちろん、転売屋一人のマスクを

配布しきったところで、

マスク不足が解消されるわけではない。

そして、他の転売屋が紛れているかもしれない。


それでもー

自分のような人間が一人でも、減るのであれば。


彼はそう思っていたー


汗だくになりながらマスクの配布を終えるー

発送するマスクを梱包しながら

マスクを求める人たちに渡す。


「はぁ…はぁ…」

美優は、転売のためにため込んだマスクを

全て配布し終えると、

満足そうに微笑んだ。


「--な、、、なにしてくれてんのよ!」

男の姿になっている美優は叫ぶ。


「わたしのマスク!!!

 これじゃ、大赤字じゃない!!!

 何してくれるのよ!!!」

男(美優)が怒りの形相で叫ぶー。


だがー

美優(男)は反応しない。

そのまま銀行に向かい、銀行口座からお金をおろすー。


彼は、入れ替わった身体から

記憶を引き出すこともできる。


転売で手に入れた薄汚いお金を持ち、

それを全額寄付するー。


「--こ、こらああああ!ふざけないで!」

男(美優)が叫ぶ。


ずっと付きまとっているが

美優(男)は一切反応しないー


そのことに怒りを感じた男(美優)は叫ぶ。


「じゃあ、あんたの身体でやりたい放題してやるわ!」

そう叫ぶー。


入れ替わりである以上ー

相手に自分の身体でいろいろされれば、

この転売屋を憎む男も、

その後のことは困るかもしれないー


そう考えた、男になってしまった美優は

道端で突然服を脱ぎ始めた。


「わたしのマスクを奪った罰よ~!

 どう?これであんたもおしまいよ!」


美優は大声で叫ぶー


道端で露出した始めた人間を見て

周囲は騒然としているー


「--なんだあの女、やばくね?」

「痴女ってやつ?」

「おい、警察を呼べ!」


周囲が騒ぎ出す。


「え…?」

転売屋の女・美穂が戸惑った様子で

近くの曲がり角の鏡を見るとー


「--え…ちょ…!?!?」

そこにはー

全ての服を脱ぎ捨てた美優の姿が

映っていたー


いつの間にかー

美優と男の身体は元通りになっていたー


「--ちょ、、あ、、あんた!待ちなさい!」

美優が叫ぶー


だが、転売屋を憎む男は

美優を”ごみを見るような冷たい目”で

見つめるとそのまま立ち去ったー


立ち去った男はー

姿を変えるー。

別の顔、

別の風貌にー…


男は、入れ替わり能力だけではなく

他の姿に変身する能力も持っていたー


美優とかいう女はそれ以前の問題だったが、

万が一、自分の身体でいろいろされても

変身能力があるから、問題はないー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「----」

ワインを飲みながら男は夜景を見つめていた。


今日も、転売のニュースが流れている。


そうー

男が行動したところで、転売屋が減ることはない。

この世には、転売屋が多すぎる。


だが、それでも、

転売屋と入れ替わって、

”懲らしめる”ことで、

誰かが助かるかもしれないー

誰かがちょっとだけ笑顔になれるかもしれないー


彼はそんな風に思いながら

今日も次のターゲットを探し始めるのだったー



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


転売かな…?

みたいな人が大量にマスクを買っているのを見て

思いついてしまった入れ替わりモノでした~☆!

マスクに限らず、何か少しでもあると、

何に対しても買い占めが起きていて

ちょっと怖いですネ…汗


お読み下さりありがとうございました!!

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