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「ーーお疲れ~」

30代前半の会社員・矢島 修武(やじま おさむ)は、

同期の春日部 和夫(かすかべ かずお)に手を振ると、

駅に向かって歩き始めたー。


修武はごく普通の会社員ー。

無難に仕事をこなし、無難に会社からも評価されているー。


出会いには恵まれず、今も一人暮らしだが

本人は”出会いがあれば結婚するかもしれないし、

出会いが無ければこのまま趣味に生きるし”と、

特に、自分の”現状”に、不満は持っていなかったー。


「そうだー。来月の給料が入ったら

 今度はプロメテウスフォームのフィギュアでも買おうかなー」

修武は、そんなことを呟くー。


彼は”特撮”と呼ばれるヒーローモノの番組や、

怪獣映画が子供の頃から大好きで、

部屋にはそのフィギュアやプラモデルなどがずらりと並んでいるほどー。

プロメテウスフォームというのも、彼が見ている番組に登場する

ヒーローか何かの変身形態のひとつのようだー。


先程、別方向に帰って行った、同期の和夫も

”矢島の部屋は楽園だからなぁ”などと、そんな風に評しているほどだったー。


電車に乗る修武ー。


電車の中のモニターには、

今日のニュースが色々と流れているー。


無人販売店で冷凍のからあげが10個盗まれたというニュース、


高齢者の車が、ブレーキとアクセルを踏み間違えてスーパーに突っ込んだという

ニュース。


”元カレ”である同僚の男にOLが刺されて重体かつ、その男が

逃亡しているというニュース。


ハンバーガーショップのアルバイト店員が”俺バーガー”と叫びながら

自分の唾液をハンバーガーの中に入れる様子をSNSに投稿して

炎上しているニュース。


そんなニュースの数々を目にしながら、

修武は小さくため息をつくー。


今日も、疲れたー。

が、今日も家に帰れば、

趣味の時間を堪能することができるー。

それが、修武にとって何よりも楽しみな時間の一つだー。

趣味があるからこそ、毎日頑張ることができるー。

家族を持たない人間にとって、趣味こそ最高の宝であり、養分なのだ。


電車を降りて、

いつものように、家への道を歩く修武ー。


”裏路地”に入っていきー

その先を目指すー。


この裏路地はほとんど人通りのない場所だが、

”駅から修武の家への近道”になるため、

修武はよく、この道をこっそりと通っているー。


がーーー

その時だったー。


「ーーー…え?」

ちょうど今、修武が歩いている裏路地の先に

スーツを着たOLらしき女性が倒れているのが見えたー


”なっー…”

急に人が倒れている光景に驚く修武ー。


そしてーー、

ふと、電車内で見かけたニュースが頭をよぎるー。


”元カレである同僚の男に、OLが刺されて重体”

倒れているOLを見て、そのニュースが頭に浮かんでしまったのだー。


動揺しながらも、

修武はすぐに、その倒れている女性に近付くと、

「あ、あのー…大丈夫ですか?」と、そう言葉を口にするー。


ひとまず、血は流れていないように見えるー。


いきなり触れるのは、トラブルになるかもしれないし、

相手の状況も分からないー。

そう思いながら、まずは声をかけてみたー。


するとー、そのOLらしき女性は、「う…」と声を上げながら

目を覚ましたー


「ーーー…だ…大丈夫…ですか?」

修武は戸惑いながら、恐る恐るもう一度その女性に声を掛けると、

「ーーあ…え???あ、はいー」と、

OLらしき女性は身体を起き上がらせたー。


年齢は20代だろうかー。

少なくとも、

怪我をしている感じではないようだー。


”ーそりゃそっかー、刺されて重体の人がここに倒れてるわけないよなー”

修武はそんな風に思うー。

既にニュースになっているということは、その事件の被害者のOLは

既に病院に運ばれたか何かしているはずだし、

こんな路地に倒れているわけはないー。


このOLはニュースで言っていた”刺されたOL”とは

別人なのだろうー。


「ーーーー」

しかし、修武は違和感に気付くー

うつ伏せに倒れていたからか、分からなかったが

OLの着ているスーツは妙にぶかぶかで、

しかも、男物のスーツを着ている様子だったー


”何があったんだー?”

修武は、そんな風に思うー。


「ーえっ…?」

修武が戸惑っていると、やがてOLはふと、驚いたような声を出したー。


「ーーえ?」

修武が、不思議そうに首を傾げると、

OLは服の上から、自分の胸を物珍しそうに見つめながら

「えっーー…? えっーー?」と、何度も何度も言葉を口にしているー。


「ーーー…あ、あのー…ど、どうかされましたか?」

修武は戸惑いながら言葉を口にするー。


すると、OLは混乱した様子で

「あ、あのー…え、えっと、僕、どう見えますかー?」と、

訳の分からないことを言い始めたー


「え…??ど、どうってー?

 いや、あのー…


 んー?」


修武は何を聞かれてるのか分からず、

戸惑いの表情を浮かべるー。


”僕”ー?

修武は、目の前のOLの一人称にも違和感を覚えるー。


いや、もちろん一人称が”僕”の女性もいるだろうー。

が、男物のスーツを着ているのもあって、

一瞬、修武は目の前にいる女性らしき人物は

実は男性なのではないかと思い始めるー。


最近は”男の娘”もそれなりにいるし、

ネット上で見かける”男の娘”は、一見すると本物と

分からないぐらいにクオリティが高い子もいるー。


この子も、そうなのだろうかー。


そう思いながら、修武が戸惑っていると、

OLは「え、えっとー、僕は”男”に見えますか?

それとも”女”に見えますかー?」と、そう言葉を口にしたー。


「ーー??????」

ますます戸惑いの表情を浮かべる修武ー。


この子が何を言おうとしているのか、よく分からないー。

声は明らかに女性だし、

胸も作りモノには見えないー。

身体つきも女性に見えるー。


ただ、何故男物のスーツを着ているのか、

サイズの合わないスーツを着ているのかはよく分からないー。


”ーーな、なんなんだこの状況はー?

 あれかー?もしかして俺は試されているのかー?”


修武は、そんなことを心の中で考えるー。


しかしー、この人が”女性”にせよ、”男性”にせよ、

ここは女性に見えると答えておくのが無難な気がするー。


本当に女性だったら、”男ですよね?”は失礼だし、

女装している”男”だったら、

”女ですよね?”と言っておけば、ご機嫌になるー…

ような気がするー。


「ーーー…え、えっと、女性にしか見えませんけどー」

修武がそう言うと、

OLは「はぁー…」とため息をつくと、

「やっぱ僕、女に見えますよね?」と、苦笑いしたー。


「ーーは、はいー。

 と、ところで…き、救急車とか呼びますー?」

修武はそう言葉を口にするー。


事情は知らないが路地裏でうつ伏せの状態で倒れていたのだー。

何か、事情があるはずー。


そう思っていると、OLは

「あ、いえー。僕は大丈夫ですー。特に”怪我”とかもしてない

 みたいなんでー」と、それだけ言うと、

自分の身体をサイズの合わないスーツの上から触りながら

「ホントについてない…」と、不思議そうに身体を

触っているー。


「ーーーー…」

修武は、目の前の女性らしき人物が、

自分の身体を触っている光景を前に、

なんだか見てはいけない気がして少し目を逸らすと、

OLは「あ、すみませんー」と、そう言葉を口にしてからー、

”信じられない言葉”を続けたー。


「ーーあ、あの、実は僕ーー

 記憶喪失になっちゃったみたいでー」


OLの言葉に、修武は「はい?記憶喪失???」と、

思わず変な声で聞き返してしまうー。


「ーはいーなんかー…こうー、何も覚えてなくて」

OLは、そう言いながら戸惑いの表情を見せるー。


「ーー…そ、そ、そうですかー……

 自分の名前とかもー?」

修武はそう言うと、OLは頷きながら

「あ、でも一つだけ覚えてるんですー」と、

そう言いながら、自分の身体を少しだけ触るー。


そしてー、修武の方を真っすぐ見ながら言うー。


「ーー”僕は男だったこと”だけは覚えてるんですー」

とー。


「ーー…え??? えっとー、それはーーー」

修武が混乱しながら聞き返すと、

「ーたぶん、倒れる前までは男だった気がするんですけどー、

 なんかーー…”女”になってるみたいでー」と、

OLは苦笑いしたー。


あまりに訳の分からない状況ー。

しかし、OL本人も困り果てた表情を浮かべているー。


修武は少しだけ考えてから、

「ーや、やっぱり一度病院で診察を受けてみてはー?」と、

そう提案すると、OLは「そ、そうですよねー」と、頷くー。


「ーーー…と、とにかく、ひとまず無事でよかったですー。

 そ、それではー」


修武はそう言いながら立ち去ろうとするー。


がーー

振り返るとOLは狼狽えた様子で

「ぼ、僕ー、どうすればいいですかー?」と、

助けを求めるような表情を向けて来るー。


なんだか、可哀想になってしまった修武は

「ーい、家とかはー?」と、そう確認するー。


が、家も名前も分からずー、

財布やら身分証なども、何も持ってない様子だったー。


「ーーーー」

修武は”はぁ~…”と思いながらも

「ーお、俺の家でよければ、少し落ち着くまでなら休んで行ってもいいですよ」と

そう声をかけるー。


「ほ、ホントですか!?」

OLは、”心底助かった”と言わんばかりに目を輝かせるー。


「ーーい、一時的ですけどねー」

修武はそれだけ言うと、仕方がなくその”さっきまで男だった”らしいOLを

そのまま家の方に案内したー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ひとまず、”元男”だと名乗るOLを家に招き入れた修武は、

ハッとしながら、

「あ、え、えっと、そういえばー、大丈夫でしたか?

 男の部屋に来るなんてー」と、不安そうに言葉を口にするー。


変な目的だと思われたら困るし、

もしかしたら相手が怖がっているかもしれないー。

そう思ったのだー。


がー…、OLは笑いながら

「あ、いえ、僕も”男だった”ので、そういうのは気にしないです」と、

そう言葉を口にすると、

「はははー、それなら良かったです」と、修武は少し安心した様子で

返事をするー。


「ー~~~~~…」

OLが、修武の部屋に並んだ怪獣のフィギュアやヒーローのフィギュアを

見つめるー。


一瞬、趣味を見られたことに妙な恥ずかしさを覚えながら

「あ、お、俺、そういうのが好きなんでー まぁ、気にしないでください」と

言うと、OLは「こ、これ…なんか見覚えがー」と、

怪獣のフィギュアを手に、興奮した様子で言葉を口にしたー。


「ーーえ?知ってるんですか?」

修武が少し嬉しそうに反応すると、

「ーなんか、見たことある気がしてー… 記憶が戻るかも」と、

OLは嬉しそうに、そのフィギュアを見つめるー。


修武は、怪獣の名前や、その怪獣が去年公開された映画に

登場した怪獣であることを説明すると、

OLは少し考える仕草をしながら、

「あと一歩で思い出せる気がするんですけどねぇ…」と、

苦笑いしたー。


”元男”を名乗るこのOLは、元々同じような趣味を

持っていたのだろうかー。

そんなことを修武が考えていると、

「あ、すみませんーお手洗いお借りしても?」と、

OLが申し訳なさそうに言葉を口にしたー。


「え?あぁ、はいー。どうぞー。

 トイレはあっちですー」

修武はそう言いながら、OLにトイレの場所を示すと、

OLは頭をぺこりと下げながら、そのままトイレの方向に向かって行ったー。


一人になった修武は少しため息をつくと、

”まさか女性を家に入れることになるなんてー”と、

そんなことを考えるー。


しかも、まさか、”元男で記憶喪失のOL"なんてー、

全く予想外の出会いだー。


”それにしても、何があったんだろうなー

 彼女ー…いや、彼か?

 あの子の記憶が戻れば色々対応もできるんだろうけどー”


修武がそう思っていると、OLが「すみませ~ん…」と、

トイレの方から言葉を発したー


「え?あ、はいー?どうしました?」

修武がトイレの方に向かって声を出すと、

トイレの方から申し訳なさそうに言葉が返って来たー


”あの~…僕、男だったんでー

 女の人ってどうやってトイレを済ませればいいか

 イマイチ分からないんですけど~~~”


とー。


その言葉に、修武は

「いやいや、俺も知りませんよ!男だし!と、

思わず、そんなツッコミを入れたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


トイレが済んで、ようやく落ち着くと、

「あ、そういえばーー…何て呼べばいいですか?」と、

修武はそう言葉を口にしたー。


記憶喪失らしいから、恐らく自分の名前も覚えていないのだろうー。

しかし、何か呼び名がないと困るー。


”おい!”とか”お前!”とか”君!”とか、

そういうのも、イマイチしっくりこないー。


「ーあ~~~~そうですね~~~

 ん~~~~~~~僕の名前は思い出せないのでー

 とりあえず~~」


OLはしばらく考えると、

「とりあえず、深雪(みゆき)って呼んでくださいー」

と、苦笑いしながら言葉を口にしたー。


「深雪ー」

修武がそう呟くと、

深雪を名乗ったOLは「今、適当に思いついた名前ですー」と、

恥ずかしそうに笑ったー。


「ーーー」

修武が少し意外そうにしていると、

「男の名前、名乗った方が良かったですか?」と、深雪が笑うー。


「ーー男の名前でも良かったんですけどー、

 外で僕を呼んだりするとき、男の名前だと

 周りから変な目で見られるかなぁってー」


深雪がそう言うと、修武は「確かにーそれはあるかもしれませんね」と、

女の名前を名乗った理由に納得するー。


「ーーとにかく、まずは記憶を思い出せるといいですねー」

修武がそう言うと、

深雪は「はいー。すみませんー急にお邪魔することになってしまってー」と

今一度申し訳なさそうに言葉を口にしたー。


「いやいや、別に構いませんよ。

 どうせ誰もいませんし、困ることはないですから」

修武のそんな言葉に、”元男”だと語るOL・深雪は安堵の表情を浮かべたー。


この日からー、

”女体化した”謎の人物との共同生活が始まったのだったー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


”女体化したことしか覚えていない”

そんな、謎の人物との出会い…★


この先どうなっていくかは、②以降のお楽しみデス~!☆!


今日もありがとうございました~!☆

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