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「--みんなが、清水みたいに真面目だと助かるんだけどな」

数学教師の三橋先生が言う。


「--いえいえ、そんな…」

高校2年生の清水 亜佳梨(しみず あかり)が

照れくさそうに返事をする。


亜佳梨は、まじめで心優しく

生徒・先生どちらからも信頼されている優等生だ。

性格も社交的で、友達も多い。


「--失礼しました」

亜佳梨が職員室から出る。


「---…」

そんな亜佳梨の姿を3年生の男子生徒・

里内 淳介(さとうち じゅんすけ)が

不満そうに見つめていたー


・・・・・・・・・・・・・・


放課後ー。


「--え~ほんとに?」


「うん!なんかね~、

 後輩が、急に不真面目になっちゃってさ~」


亜佳梨の友達で

美術部の部長を務める奈子(なこ)が、

苦笑いしながら言う。


美術部の後輩が急に不真面目になって

困っているというのだ。


「ーーう~ん…

 いろいろ大変だね」

亜佳梨が言う。


亜佳梨も、奈子の後輩・彩花(さいか)と

何度か話をしたことがあるもののとても

良い感じの子だったー。


その子が、どうして急にー


「悪い彼氏とでも付き合ったのかなぁ~」

奈子が言う。


彩花は、格好も派手になって

何に対しても反抗的に

なってしまっているー


”何か”きっかけがあったに違いないー。


奈子は、そんな話をしながら

時計を見つめてほほ笑んだ。


「あ、部室行かなくちゃ!

 ごめんね!呼び止めて!」

奈子が笑いながら

座席から立ち上がる。


「ううん。頑張って!」

亜佳梨がそう言うと、

奈子は「ばいばい!」と言いながら

手を振って、教室から出ていったー。


「--ふ~、もうこんな時間かぁ…」

亜佳梨がひとり、時計を見て呟く。


母からお使いも頼まれているし

そろそろ帰らなくちゃ、と亜佳梨も

教室を出て、廊下を歩き始めるー。


空き教室の前を通りかかった亜佳梨ー

その時だったー


突然空き教室の扉が開き、

何者かが、亜佳梨をその中に引きずり込んだー。


「---!?」

驚く亜佳梨ー


亜佳梨は無理やり机に座らされてしまうー


「--くくくく…」

男子の笑い声ー。


亜佳梨を空き教室に無理やり連れ込んだのはー

3年生の里内 淳介だったー。


生徒会書記を務めている男子生徒で、

同じく生徒会書記の亜佳梨は、

よく知る先輩のひとりだったー


「さ、里内先輩?」

亜佳梨が驚いて淳介のほうを見ると

淳介は笑ったー


「--急に驚かせてごめんよ」

淳介が言う。


亜佳梨が座らされた椅子の目の前にある机にはー

オセロ盤が置かれているー


「--?」

亜佳梨が首をかしげると、

淳介は笑うー。


「君とオセロで対決してみたいんだ…

 ふふふ…」


淳介の言葉に、

亜佳梨は少し淳介のことを気味悪く思いながら

返事をするー


「お、オセロ?

 わ、わたし、やったことないですし…」

亜佳梨が言うと、

淳介は首を振ったー。


「ルールは簡単だよ。

 相手の駒を挟んで自分の色に変えるー。」


淳介はオセロ盤に駒を置きながら

オセロのルールを実演してみせる。


「そして、最後に、駒が多いほうが勝ちだ。

 簡単だろう?」


淳介は、オセロのルールを説明し終えると

駒を片付けながら亜佳梨のほうを見る。


「---……あ、、あの…」

亜佳梨は、淳介のことを気味悪く思ったー。


今まではそんなことを思ったことはなかったが

いきなり、無理やり空き教室に連れ込んで

オセロでの勝負を挑むなんて、ちょっとおかしいー。


亜佳梨は立ち上がる。


「-ごめんなさい。今日、用事があるので」

そう言って、空き教室から立ち上がろうとするー。


しかしー

教室の扉が開かない。


「--無駄だよ」

淳介が逃げようとする亜佳梨に声をかけた。


「--!?」

亜佳梨が振り返って淳介のほうを見る。


「-先輩の僕がお願いしてるんだ。

 1戦ぐらいいいだろう?」


「---…!」

亜佳梨は驚くー


淳介から黒い闇のオーラのようなものが

見えた気がしたー


オセロ盤の周囲に、

得体のしれない”何か”が広がっている気がしたー


「---大丈夫さ…

 僕は君には何もしないし、

 1戦勝負したら、ここから出してあげる。


 オセロは、そんなに時間もかからないし、

 それならいいだろ?」


淳介の言葉に

亜佳梨は不安そうな表情を浮かべたまま言う。


「教室の扉…なんで開かないんですか?」

ーと。


当然の疑問だ。

カギは内側についていて、カギは開いている。

なのに、教室の扉は開かないー

亜佳梨が不安に思うのも無理はない。


淳介は両手を広げて

にやりと笑みを浮かべた。


「手品さー」


とー


亜佳梨を小ばかにするような態度でー。


「---1戦だけですよ」

亜佳梨はそう呟いて着席する。


さっと相手をした方が早そうだし、

先輩の期限を損ねて、面倒なことになるのも

イヤな感じだー。


「-そうこなくちゃね…」

淳介はにやにやしながらさっそく最初の駒を置いたー。


白い駒が、回転して黒い駒になるー


「--!?」

亜佳梨が表情を歪めるー。


淳介が駒を置いた直後、

淳介が駒に触れていないのに、

白い駒が勝手に跳ねて回転したのだー


「何をしたの?」

亜佳梨が、淳介を睨むー。


「---手品さ」

淳介は笑うー。


人が回転させていないのに

駒が回転するなんてありえないー


「チッー」

亜佳梨は舌打ちをしながら自分の駒を

どこに置くかを考えたー


黒い駒が4つになり、

白い駒はひとつしか残っていない。


「-----ところで」

淳介は亜佳梨のほうを見ながら

ニヤニヤしているー


「--なに?」

亜佳梨が不愛想に答えると

淳介は笑ったー


「---自分の異変に、君は気づかないかい?」

淳介の言葉の意味が分からないー


「---…!!」

亜佳梨は、少し考えたあとに気づくー。


「え…」


無意識のうちに、亜佳梨は

自分が舌打ちをしたことー

先輩の淳介に対して敬語ではなく

ため口で話していることに気づいたー


「---あ、、、あれ…?」

亜佳梨が困惑しているー


淳介はニヤニヤしているー


「先輩に対して、態度が悪いんじゃないのかぁ?

 清水さん…」


淳介の言葉に、亜佳梨は

動揺しながら答えるー


「す、すみません…」


とー。


「--ふふふ…

 まぁ、いいさー」


淳介は、亜佳梨に駒を置くように促すー。


亜佳梨は、不慣れなオセロに戸惑いながら

駒を置くー


黒い駒が回転して、白い駒になるー


不思議と心が落ち着いてきたー


「ふぅぅぅ…」

深呼吸をしたあとに亜佳梨は

「先輩の番です」と呟いたー。


「ふふ…」

淳介は、再び駒を置き、

白い駒を回転させるー。


黒い駒が増えて、

亜佳梨の駒が減るー


「チッー」

亜佳梨は、急にイラっとして

舌打ちをしたー


「おや?」

淳介が上目遣いで亜佳梨のほうを見る。


「また、舌打ちしたね?」

淳介の言葉に

亜佳梨がはっとする。


「あ、、、あれ…?」

亜佳梨は違和感を感じるー


なんだか、さっきから

心が落ち着かないー

イラっとしたり、落ち着いたり、

自分の状況がいまいちよくわからないー。


「---ふふふふ…

 このオセロは、特別なオセロでね…」


淳介が語り始めたー


「黒い駒は、君の黒い部分ー

 どんな人間にも、心の奥底には

 黒い部分、悪い部分、闇の部分が存在する。


 そう、覗いてはいけない深淵が存在するんだー」


淳介はニヤニヤしながら、亜佳梨の白い駒を指さす。


「そしてー

 白い駒は君の良心だー」


亜佳梨は、淳介の言葉を聞きながら

淳介のほうを不安そうに見つめたー


「白い駒が減ればー

 君は良心を失い、黒い心ー闇の部分が

 増幅されるー


 逆に、白い駒が増えればー

 君は、いつも通りの優しい君でいることができるー


 ーーもしも、、もしも

 全部黒になったらー…

 ボクがかったら、

 君はー…くくくくく」


淳介が笑うー


これはー

”漆黒のゲーム”


対戦相手の心を

黒と白に見立てるー


そして、白がすべてなくなった時ー

その相手の心は、漆黒に染まるのだー。


「--もしも黒い駒だけになったらー

 つまり”黒”の僕が勝ったらー

 君の心は”闇”に支配されるー


 さっきから感じてるだろう?

 君の白い駒が減るたびに、

 心が荒れるのをー」


「--そ、そんな…」

亜佳梨が動揺しているー


もしも、自分がまけたらー

自分はー?


「くくくく…

 僕はね…

 ”僕より優秀な後輩”が嫌いなんだー。


 昼休みー

 三橋先生に褒められている君の姿を見ていてね…

 腹が立ったよー。


 あのあと、僕も三橋先生に用があったんだけどさ、

 先生、なんていったと思う?

 「里内も清水を見習えよ」だってさ!

 くくく…

 あぁ…君みたいな優等生がいると、むかつくよなぁ…」


ガン!


淳介の言葉に腹を立てた亜佳梨が机を膝で蹴るー。


「--ごちゃごちゃうっさいわね!早く続けなさいよ!」

亜佳梨が声を荒げたー


「ほら」

淳介が笑う。


「ほぅら…君の心は、白い駒を失えば失うほど

 黒くなっていくんだよ…」

普段、声を荒げることのない亜佳梨ー

指摘された亜佳梨は叫ぶー

「ち、違う!あんたがわたしを挑発するからよ!」

とー。


亜佳梨は、明らかに動揺しているー


次第に黒く染まる自分の心にー


淳介は駒を置くとにっこりとほほ笑んだー


「そういえばさ、

 1年生の彩花ちゃんー

 知ってる?」


淳介の言葉に、

亜佳梨はドキッとするー


「うん!なんかね~、

 後輩が、急に不真面目になっちゃってさ~」


友人・奈子の言葉を思い出す。


美術部の後輩、彩花が

急に豹変したという話ー


「ま、、まさか…」

亜佳梨が言うと、

淳介はほほ笑んだー


「そうー

 あれは、僕の仕業だ。


 彩花ちゃんはねぇ、、僕にオセロで負けたんだー

 この僕に、パーフェクトで、ね?


 白い駒を全部失った彩花ちゃんの心は

 闇に染まったー。」


淳介の言葉に

亜佳梨は手を震わせたー


奈子の後輩の彩花の豹変が

こいつの仕業だったなんてー、と…。


「---…くくく、安心しなよ。

 君もー、もうすぐ、

 不良生徒になるんだよ…


 その方が面白いってー

 ”あの人”が言ってたんだよー


 くく……

 くくくくく…」


淳介は笑いながら駒を置くー。


「---うぜぇ!黙ってろ!」

亜佳梨は大声で怒鳴ったー


そして、乱暴に駒を置くー

恐怖で手を震わしながらー


「--無駄だ…

 この僕には勝てないー

 地域大会1位の僕には…ね?」


淳介は自信満々な笑みを浮かべて

亜佳梨にそう言い放ったー


②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・


コメント


前に「憑依将棋」という作品を書いたことがあるのですが

今度は「オセロ」を題材にしてみましたー!

ちょうど、白と黒の駒が目に入ったので、

白い駒を失うと、善の心を失っていく感じに…!

憑依だと憑依将棋とまったく同じになってしまうので、

今回は、洗脳にしてシチュも全然違うものにしています☆!


今日もお読み下さりありがとうございました~!

続きは明後日に書く予定デスー!

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