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あの時ー

全てが自分の中で砕け散った気がしたー。


青年にとって、妹は

何よりも大事な存在だったー。


と、言っても、特別異常な愛情を注いだりしていたわけではないー。


あくまでも、普通の兄として

妹を可愛がっていた。


だがー、あの日、

全てが奪われた。


下校中の妹が、交通事故に遭い、

無残な姿となって、死んだのだー。


思えばー

他人に変身する力を手に入れたのは

あの頃だったような気がするー


「---はっ」

青年は、うとうとした状態から目を覚ましたー。


”替え玉受験”の依頼人・美彩の

姿に変身した青年。


今回も、いつもと同じように

受験を軽くこなすだけだー。


だがー


「----…愛結…(あゆ)」

美彩の姿のまま、

青年は呟くー


美彩の表情が、とても悲しそうな表情になるー。


交通事故で妹の愛結が死んだころー

青年は変身する能力をいつの間にか

身に着けていたー。


そのことに気づいたのは、

ひょんなきっかけだったー


それから青年は成長し、

こうして今では替え玉受験や

変身能力を利用したビジネスで

稼いでいるー


けれどー


「---」

美彩の姿で鏡を見ていた青年はドキッとしてしまう。


まるで、妹の愛結に自分が

見つめられているかのような

そんな錯覚をしたからだー。


「---……」

ゴクリー。


青年は美彩の姿で唾を

ごくりと飲み込んだー。


あまり興奮すると変身が解除

されてしまうこともあるから

気を付けなくてはいけないー


でも、それでもー。


「---おにいちゃん…」

美彩の身体で呟くと、

本当にー

死んだ妹にそう言われている気持ちになったー


「愛結…」


自分でそう呟くと、

美彩の姿をしたまま、青年は

鏡に向かってキスをしたー


・・・・・・・・・・・


受験当日ー


「----」

いつものように、順調に試験の問題を解いていくー


「--…」


問題自体は、いつものように解くことができている。

何も、問題はない。

この感じなら、ほぼ確実に合格できるだろうー


けれどー


ドキドキ

ドキドキ


心臓が高鳴っているのを感じるー


自分がー

妹そっくりと美彩という女性に

なっていることに

ドキドキして仕方がなかったー


(こんな気持ちになるのは初めてだー)


青年は思うー

青年は正直、女性にあまり興味がなかったー


だから、人によっては

エッチな方面に使いそうなこの力も

”替え玉受験に使う”という方面の

発想にたどり着いて、エッチなことには

進んで使うことはなかったー


しかしー

今日は違うー


ゴクリー


唾を飲み込むー

美彩のきれいな黒髪が触れるー。


「---ぼ、、僕は…」

青年は呟くー


このままドキドキし続けるとやばいー


もしかしたら、変身が

解除されてしまうかもしれないー


”変身”は、

変身するときは、相手の服装までを

完全にコピーすることができるのだが

戻るときは違うー。

その服装のままもとに戻ってしまうという

不思議な能力だー


だからー…

もし、ここで変身が解除されてしまえば

試験会場で

”女装した自分”という悲惨な状況になってしまう。


しかも、ここは女子大だし、

そのうえ替え玉受験となれば

大変なことになるだろうー


”耐えろ、耐えるんだ”


青年は必死に心の中でそう念じたー


美彩がの甘い声がたまに漏れるー

確実に、興奮してきているー


ここで、

ここで、変身が解除された大変なことになるー


美彩に変身している青年は

がくがくと手を震わせるー

変身を、変身を解除してしまうわけにはいかないー


こんな、こんなことになるなんてー


「耐えろ、耐えろ、耐えるんだ」

美彩の姿でぶつぶつと呟くー


「---?」

周囲の受験生が首をかしげる。


”トイレでも我慢してるのかな?”

周囲の受験生はそんな風に考えたー。


そしてー

なんとか、試験は終わったー


だがー


「くそっ!」

美彩の姿のまま、舌打ちをする青年。

別にトイレに行きたくはなかったが

トイレに駆け込んだ青年は、

鏡を軽く拳で叩いた。


「くそっ!くそっ!」

美彩の髪を手でぐしゃぐしゃにする。


「---…ボクは…馬鹿だ!」

美彩の姿で首を振るー。


妹とこの美彩という子を重ねてしまってー

結局、大変なことになってしまったー


青年はー

”試験に落ちた”


おそらくは、あの出来栄えでは合格できないー


「愛結は、愛結はもういないのにー」

美彩の姿のまま、そう呟くー


そして、髪がぼさぼさになった自分の姿を

鏡で見つめながら青年は小さく呟いたー


「--愛結…」


とー


・・・・・・・・・・・・・・


その日のうちに、青年は美彩に連絡を入れた。


”受験にはおそらく落ちたこと”と

”代金を返金すること”を告げるー。


もう、この姿に用はない。


青年は、美彩の姿から

自分の姿に戻ろうとしたー


けれどー

戻れなかったー。


「---……くっ…」

青年は美彩の姿のまま震える


このままじゃいけない

このままじゃいけないー


とー


でもー。

青年は、机に飾ってある写真を見つめるー


そこには、妹の愛結の姿。

美彩の姿は、本当に、愛結がそのまま

受験生の年齢にまで成長した、

そんな感じの姿だったー


「………おにいちゃん…」

鏡に向かってもう一度呟く青年ー。


このまま変身を解除すればー

今度こそ、”本当に愛結との別れ”だと

そんな風に錯覚したー


もちろん、もう愛結はいない。

変身していようが、変身していまいが、

愛結との別れは、もう

とっくに済ませているー


けれどー


・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


待ち合わせの場所にやってきた美彩は

少し驚くー


青年が美彩の姿のままやってきたからだー。


「--あ…まだ、わたしの姿なんですね」

美彩が苦笑いする。


青年は、答えないー。


ちょっと幼い雰囲気の洋服を着ている美彩の姿をした

青年は、黙って封筒を取り出すと

”合格できなかったお詫び”の代金も含めた

その封筒を手渡したー


「すみませんでした」

青年が頭を下げる。


「いえ…どのみちわたしが受けていても

 同じだったでしょうから…」

まだ合格発表ではないが、

青年は不合格を確信しているー

その言葉を聞いて美彩も

諦めムードだった。


「---失礼します」

青年はそのまま立ち去ろうとしたー


「え…ま、待ってください」

美彩が言う。


「--あ、あの…いつまでわたしの姿でいるんですか?」

美彩は当然の疑問を口にした。


「---…大丈夫だよ、家に帰ったら戻るから」

美彩の姿をした青年は言う。


「---ほ、本当ですか?」

美彩が言う。


いつまでも自分と同じ姿をされていたら

不気味に感じてしまうのは無理もないだろう。


その言葉に、青年は振り返った。


「--頼む。ボクと愛結を引き裂かないでくれ」

美彩の姿をした青年はそう答えたー


「---あゆ…?な、なにを言ってるんですか?」

美彩が不安そうに言う。


「--ボクは、愛結と一緒にいたいんだ!」

自分を手で触りながら、美彩の姿をした青年が言う。


「--な、、なんのことですか…?

 愛結って…?」


美彩の不安はさらに膨らんでいくー


「きみに迷惑はかけないー

 このままきみの姿を僕にくれ」


美彩の姿をした青年が言うー


愛結ともう離れ離れになりたくないー

愛結とずっといっしょにいたいー


妹が死んだとき、青年の精神は崩壊寸前だったー

そんなとき、

”変身能力”を手に入れたー

妹を思う強い思念が、青年に本来あり得ないはずの

力を授けたのだったー


そしてー

その力はー


そう、その力は

この時のために手に入れたんだー


と、青年はそう思ったー


「僕は、愛結とひとつになりたかったんだ!

 きっとそうだ!ボクは愛結になるんだ!」

青年は美彩の姿のまま叫んだー


美彩という愛結とうり二つの少女に

出会ったことでー

バランスを保っていた青年の精神は

再び崩壊したー

そして、愛結への想いが

再び燃え上がったー


冷静さを失い、叫ぶ青年。


「え、、や、、やめてください!

 早くわたしの姿をするのをやめてください!」

愛結が叫ぶ。


「うるさい!」

青年はそう避けぶと

美彩の姿のまま立ち去ろうとする。


「や、、やめてよ!」

美彩が叫ぶー


自分の姿のまま、変なことを

されでもしたら大変だー


しがみつく美彩。

美彩と美彩の姿をした青年はつかみ合いになるー


そしてー

美彩の姿をした青年が地面に吹き飛ばされるー。


感情が高ぶる青年ー

だが、変身はなぜか解けなかったー

今までで一番”長時間”変身してることで

何か影響が出たのかもしれないー


「--は、、話が違います!」

美彩は叫ぶー


青年はいつも最初に

”変身は受験が終わって支払いが終わったら解除する”と

説明しているー

この美彩にも、そう説明したー


それなのにー


「ーーー僕と妹の邪魔するなぁ!!!!!」

美彩に変身している青年は

鬼のような形相で起き上がって

美彩のほうに向かっていったー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


春ー


あのあと、美彩は、なんとか

別の大学に合格したー。


だが、近場では大学を見つけることが

できなかった美彩は、

地方の大学に合格し、

一人暮らしをすることになったー


「---今までありがとう」

美彩がほほ笑む。


「元気でな、美彩」

「つらくなったらいつでも戻ってきていいんだからね」

父親と母親がほほ笑みながら言う。


「うん。ゴールデンウィークには帰って来るし、

 定期的に連絡するから」


美彩はそう言うと、

父親、母親のほうを見てほほ笑んだー


美彩の門出ー。

両親としては寂しい気持ちもあったが、

さみしがりやの美彩の決断を

両親は、応援することに決めていたー


美彩が振り返って手を振るー

美彩の姿が見えなくなるー


「行っちゃったな…」

父親がさみしそうに言う。


永遠に会えなくなるわけではないー

けれどー

やっぱり、離れて暮らすのは、少し、さみしいー。


「---あの子」

母親がふと呟いたー


「最近右手使ってたみたいだけど、

 どうしてかしらね?」


娘は左利きだったはずー。

ふと、そんな疑問が急に母親に頭の中に浮かんできたー


・・・・・・・・・・・・・・・・


少し前ー

身元不明の見つかっていたー

少女の遺体のようだったがー

とある事情から、

”身元不明”のまま処理されたー


当初、警察は、

遺体の身元を、高校生の阪森 美彩だと断定していたー


だがー

その後の調べで阪森 美彩は

学校に普通に登校しておりー

地方の大学に合格し、

家族の元で元気に過ごしていることが判明していたー。


だからー

警察は仕方がなく身元不明で処理していたー


・・・・


・・・・・・


一人暮らしを始めた美彩は静かにほほ笑むー。


大学はすぐに退学届を出して辞めるー

大学に入ったのは両親から離れるための口実だー


「--わたしは…愛結…」

美彩は、ほほ笑むー


いやー

美彩ではないー


彼女はーーー


ほどなくして、”美彩”は、両親と連絡を絶ち、

”愛結”と名乗り、地方で

生活を始めるのだったー


”愛結”はいつも嬉々として

お兄ちゃんへの愛を周囲に語っていたー


が、

その”お兄ちゃん”を見たものはいなかったー。



おわり


・・・・・・・・・・・・


コメント


今年最初の他者変身モノでした~!

最後は…ぶるぶるですネ~


他にも他者変身モノのアイデアがあるので

今後もお楽しみに~☆

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