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2年目の文化祭が開催されたー。


今年の出し物は”焼きそば”ー。


昨年のトラブルのことを少し思い出しながらも、

綾(翔太)は、楽しい文化祭のひと時を過ごすー。


既に入れ替わってからおよそ1年半ー。

複雑な感情の中、二人は文化祭の二日目を迎えるー。


☆前回はこちら↓☆

<入れ替わり>僕とわたしの不思議な青春㊱~友達~

2年目の体育祭が終わり、 2年目の文化祭が近付いて来たー。 生徒会長になった翔太(綾)を見て、 ”僕も何かをやってみようー”と、 文化祭実行委員に立候補した綾(翔太)ー。 しかし、綾に執着する渡海 和之が綾に合わせて立候補したため、 気まずい空気が走るー。 翔太が小さい頃、親しかった菜々美の助けもあって、 ...

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★主な登場人物★


遠藤 翔太(えんどう しょうた)

C組生徒。大人しく、奥手な性格の持ち主。綾と入れ替わってしまう。


星村 綾(ほしむら あや)

C組生徒。可愛らしい雰囲気に、明るい性格の持ち主。翔太と入れ替わってしまう。


神田 哲真(かんだ てつま)

C組生徒。翔太の中学時代からの友人。女子は苦手。


山井 穂乃果(やまい ほのか)

C組生徒。綾の親友。入れ替わりを知ってからも変わらず接してくれている。


伊藤 菜々美(いとう ななみ)

C組生徒。翔太が小さい頃、親しかった相手。現在は心を閉ざしている。


★脇役も含めた人物紹介はこちら↓★

<人物紹介>僕とわたしの不思議な青春~登場人物図鑑~

長編入れ替わりモノ 「僕とわたしの不思議な青春」の 登場人物図鑑デス! 連載前に予告として掲載した、 主人公たちのクラス名簿の内容に加え、登場する教員や その他の人物もご紹介しています~! ※ネタバレは控えめ(漫画や小説の最初の方のページに書かれている  人物紹介ぐらいの内容…)デス~!  最初にクラス名...

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「ーー姉さんー」


ベッドの上で横たわる”弟”が苦しそうに言葉を口にするー。


”奇跡”だったー。

もう、意識が戻ることはない、と、そう言われていたー。


交通事故ー。

”弟”は交通事故に巻き込まれて、病院に運び込まれたー。

もう、助からないほどの重体の状態でー。


そんな病院に駆け付ける姉ー。


「ーーーーごめんねー…ごめんねー…

 わたしのせいでー」


彼女は、涙ながらにそう言葉を口にしたー。


”弟”が事故に遭ったのは、”おつかい”の最中だったー。

元々は”姉”が行く約束をしていたものの、

”急な予定”が入ったことで、弟に代わりに行ってもらったのだー。


そして、その途中で”事故”に遭ったー。


「ーーー姉さんはこれからもー

 楽しく、毎日、生きていけるのにー…


 姉さんばっかりー…ずるいやー」


彼は、言ったー。

とても、とても、悲しそうな目でー。

恐怖と、悲しみと、嫉妬と、色々な感情が混ざったあの顔を、

今でも忘れることはできないー。


「ーーーー…ごめんなさいー…」

彼女は、震えながら弟の手を握るー。


どうすることもできず、親に一度家に帰るように言われて、

家に帰宅した彼女ー。


そしてー、

その翌朝、弟の”剛志”は息を引き取ったー。


「ーーーーーー」

今日は、その”命日”ー。


「ーーーーーーふぅ」


文化祭二日目ー。

”翔太”が小さい頃、親しかったクラスメイト・伊藤 菜々美は、

死んだ弟のことを思い出しながら、静かにため息をつくー。


「ーーーじゃあ、またあとでー」

「ーーうん!」


翔太(綾)と、綾(翔太)が、そんな会話を交わしながら、

文化祭二日目の校内を巡り始めるのが見えたー。


「ーーーー」

菜々美は、表情を曇らせるー。


小さい頃、翔太と仲良しだったことを忘れたわけではないー。

今でも、翔太のことは、”弟”のように可愛がっているー。


翔太のことを良く知っているからこそ、”入れ替わり”にも、

自ら気付くことができたー。


でもーーー


”わたしだけが幸せなんてー、剛志は許してくれないからー”

菜々美は、心の中でそう呟くー。


”姉さんばっかりー…ずるいやー”

その言葉が、いつもいつも、頭の中に響き渡るー。


だから、せめてーーー


「ーーーー…」

”綾(翔太)”のほうを見つめながら、綾に執着する転校生・

渡海 和之が立ち上がろうとするー。


がー、菜々美の方をチラッと見ると、和之は

気まずそうな表情を浮かべながら、首を横に振るー。


綾に執着する男子・渡海 和之が、文化祭の最中、

大人しくしているのには理由があったー。


文化祭実行委員の活動時間の最中に、

”菜々美”から、こっぴどく叱られー、

和之はすっかり意気消沈し、大人しくしているのだー。


”もう、昔のように、遠藤くんと楽しく過ごすことは

 できないけれどー…”


菜々美は、そう思いながら少しだけ寂しそうな表情を浮かべるー。


だから、せめてー

こうして、影からでもいいからー、力になりたいー。


今の昔も、変わらず、”大切な遠藤くん”のためにー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「今日はウチ、部活の方に行かないといけないからー」

綾(翔太)の友人・笹野 翔子がそう言葉を口にすると、

綾(翔太)は「あ、うん!頑張って!」と、手を振りながら、

翔子を見送るー。


今日は、午前中の途中から”焼きそば”の当番もあるー。


それまでの間は、翔太自身の親友である哲真と一緒に

文化祭を楽しむつもりだー


「ーーー…でもなぁ~…

 こうして二人でウロウロしてると”誤解されそうだよなぁ」


哲真が、綾(翔太)と一緒に歩きながら笑うー。


「ーえ?誤解?」

綾(翔太)が”どういうこと?”と言わんばかりに言葉を

口にすると、哲真は「いや、ほらー」と、

自分と綾(翔太)を指差しながら笑うー。


「ーー男女一人ずつだからー

 見ようによっちゃ、カップルに見えるだろ?」


哲真がそう言うと、

綾(翔太)は顔を赤らめながら

「ぼ、ぼ、ぼ、僕が神田くんとー?

 そ、それは絶対ないから大丈夫!」と、照れくさそうに言葉を口にするー


「ーはははー…お前が恋愛的な意味で俺のこと好きになったりしたら

 色々な意味でビビるけどなー。」

哲真は冗談っぽくそう口にすると、

「でも、周りのやつは知らないわけだしーそう見えるかもしれないから

 たまに気まずいんだよな」と、笑うー。


「ーあはは…大丈夫大丈夫ー。

 もし勘違いされたら、僕も一緒に”違う”って言ってあげるからー」


そんな言葉を口にしながら、

別のクラスの出し物を順番に回っていく二人ー。


楽しそうにしている綾(翔太)を見て、哲真は少しだけ笑うー。


”こんな状態になってもー、変わらず親友でいてくれてありがとなー”

そんな風に、哲真は心の中で思いながら、

これからも綾(翔太)との絆を”友”として大事にしていこうと、

心の中で固く誓ったー。


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翔太(綾)は、

クラスメイトの敷島郡司、岡崎香奈枝の二人と共に、

午前中の文化祭を楽しんでいたー。


「ーな、なんかごめんねー

 いつも二人のジャマをしてるみたいでー」

翔太(綾)が苦笑いしながら言うー。


郡司と香奈枝はカップルなのだが、

去年、郡司と香奈枝に”翔太と綾は付き合っている疑惑”を

向けられて以降、翔太(綾)はこの二人とそれなりに仲が良いー。


「いいのいいの!賑やかな方が楽しいし!」

小柄な報道部員で、噂好きの香奈枝が、笑いながら言うー。


まるで子供のようにはしゃぎながら

「あっち行こうよ!」「次はあっち!」「あ、こっち来て!」

などと、次々と色々な場所を見て回るー。


「ーーあははー…敷島くんも、いつも大変だねー」

翔太(綾)がそう言うと、

郡司は「まるで、僕がお父さんみたいな気分だよ」と、

苦笑いしながら言葉を口にするー。


「ーーあははーでも、敷島くんはいいお父さんになりそうー」

翔太(綾)がそう言うと、

郡司は「そうかな?でも、子供からすると、僕みたいなの面倒臭そうな

気もするけどねー」と、そう言葉を口にするー。


翔太(綾)、香奈枝、郡司の三人で、

文化祭の色々な場所を巡るー。


「ーところで、綾ちゃんとはどんな感じ~?

 もう、付き合ってるんでしょ~?」


揶揄うような口調で言う香奈枝ー


「え…えぇっ…?」

翔太(綾)は少し恥ずかしそうにしながら、

「い、今はまだそういう関係じゃないよー」と、苦笑いすると、

香奈枝は「またまた~ あたしの目は誤魔化せないよ!」と、

笑いながら言葉を口にするー。


「ーーあははははー…」

笑って誤魔化す翔太(綾)ー


確かに、こうして入れ替わり生活を1年半も続けている

”翔太”の存在は、綾にとっても、切っても切れない存在に

なっているのは確かだー。

それが、恋愛感情なのか、それともこうして苦楽を共にしている

仲間なのかー、綾自身にもまだよく分かっていないー。


ただ、去年のクリスマスの時に告白された時には

”嬉しい”と思ったー。


きっとー…


でもー

まだ、”今は”どうすればいいのか、迷っていたー。


”自分の身体”で、改めて告白された時にはー

そのときはーーー…


「ーーあ!そうだー。手芸部の出し物、ヤバいらしいよ!

 あたし、見に行こうと思ってたんだった!」

香奈枝がそう言うと、郡司は

「ホント、香奈枝は平気で人を振り回すなぁ」と、

笑いながら、香奈枝についていくー。


翔太(綾)も、そんな二人を見つめながら

少しだけ笑うと、そのまま二人の後に続いて、

”文化祭めぐり”を楽しむことにしたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーあーーー…」

綾(翔太)は、少し気まずそうな表情を浮かべたー。


自分たちのクラスの出し物”焼きそば”の、

店番担当としてやってきた綾(翔太)ー


ちょうど、一緒に担当するのが

翔太が小さい頃親しかった女子・伊藤 菜々美だったのだー。


「ーーあれ、もう一人はー?」

当番は3人で、40分ごとに交代ー。


がー、ここには綾(翔太)と菜々美の姿しかないー。


「ーー…もう一人は、栗原くんねー。

 なんか、お腹壊したみたいー

 いつものことだけどー」


菜々美はため息をつくー。


行事大好きなお調子者・栗原 誠一は、

またもやお腹を壊してしまったようだー


「ーーまぁ、二人でも何とかなるでしょ

 ーーー”星村さん”は、そっちをお願いー」


菜々美はそれだけ言うと、

無言で焼きそばの準備をしたり、パックに詰めたりしているー。


「ーーーーー」

表情を歪める綾(翔太)ー。


”ー小さい頃、よく一緒にいたんだからーーー

 分かるの。

 今までずーっと、黙ってたけど、遠藤くんだよね?

 で、遠藤くんの姿をしてる方が、星村さんー”


1学期が終わる直前、綾(翔太)は菜々美からそう言われたー。


が、それ以降も、菜々美は”入れ替わり”を知っているような

素振りは一切見せず、綾(翔太)のことも、綾の名前ー…”星村さん”と

呼んでいるー。


小さい頃は、とても仲良しだった菜々美ー。


高校で最初に再会した時、

”わたしのことは放っておいてー”と言われた時は

本当にショックだったー。


けれどー


「ーーあ、あのー…」

綾(翔太)が言葉を口にすると、菜々美は「なに?」と

淡々と答えるー。


「ーーーい、伊藤さんーーー

 そのーーー”何が”あったのー?」


綾(翔太)は、ずっと聞きたかった言葉を口にするー。


今しかないー。

そう、思ったー。


菜々美は焼きそばのほうを見つめながら、

大きくため息をつくと、

「別に何もー。”人は変わる”ーそれだけ」

と、そう言葉を口にしたー。


がー、

綾(翔太)は言うー。


「ーーーそんなはずないー」

とー。


「ーーーー…」

菜々美は、焼きそばのパックの準備を終えると、

綾(翔太)の方を見つめるー。


「伊藤さんが、僕の入れ替わりのことに気付いたのと同じで

 僕にも分かるんだよー…!

 小さい頃、僕たちはたくさん、一緒に遊んだんだからー!」


綾(翔太)が、前に菜々美に言われた言葉を返すようにして

そう言うと、菜々美は表情を曇らせながら、小さく舌打ちをしたー。


「ーーーー…放っておいてって言ったでしょ?」

菜々美が、不満そうに言うー。


「ー放っておけないよ!

 ーー僕は、伊藤さんのこと、今でも好きなんだから!」


綾(翔太)が言うー。


”好き”とは、友達としてー、という意味だー。

小さい頃、よく一緒に遊んでいた翔太にとって、

菜々美は今でも”一緒に遊ぶ友達ー”

まだ、恋愛感情とかが芽生える前に、その感覚のままー。


「ーーー…えーー」

菜々美は少しだけ驚いた表情を浮かべると、

「ーでも、今の遠藤くんは”女”だしー」と、そう言葉を口にすると、

綾(翔太)は、咄嗟に顔を赤らめながら

「と、友達としてってこと!」と、そう言葉を口にするー


その言葉に、菜々美は

ほんの少しだけー表情を緩めるー。


「ーーーーふふーそうやって恥ずかしくなると

 ムキになるところー、変わってないねー」

菜々美の言葉に、綾(翔太)は「か…揶揄うなってばー」と、

少し拗ねた様子で言うと、

「その顔でそういう仕草されると、不思議な感覚ー」と、

菜々美は、そう言葉を口にしたー。


「ーーーーーー」

再び沈黙する二人ー。


「ーーねぇ、教えてよー。

 僕の秘密は、ちゃんと話したでしょー…?


 だから、伊藤さんのことも、教えてよー」


綾(翔太)が言うー。


菜々美は表情を歪めながら、焼きそばの準備を再び始めるー。


「ーーーーーーーーーーー」

菜々美は、深く息を吐き出すと、

「ーーーーわたしに弟がいたのは、覚えてるでしょ?」と、

そう言葉を口にするー。


その弟、剛志は、家庭の事情で菜々美が転校しー、

翔太と離れ離れになったあと、交通事故で死んだのだと言うー。

当時、お使いを菜々美が頼まれていたものの、

菜々美は、”友達とのとある約束”をしてしまい、

お使いに行けなくなってしまったー。


一度家に帰宅して、そのことを説明し、

剛志に”お使い”を押し付ける形になった菜々美ー


”ちぇっ!自分が遊びたいからって、

 僕に押し付けるなんてー”


ブツブツ言いながら、そのまま不機嫌そうに

おつかいに出かけていく剛志ー。


”ごめんねー!よろしく!”

菜々美はそう言いながら、弟を見送ったー。


がーーー

そのおつかいの最中に、剛志は”事故”にあったー。

信号無視をした車にはねられ、重体となったのだー。


その言葉を聞き、菜々美は”友達との約束”を、断り、

すぐに病院に駆け付けたー。


その時に、言われたー。


「ーーー姉さんはこれからもー

 楽しく、毎日、生きていけるのにー…

 姉さんばっかりー…ずるいやー」


とー。


そしてーーー

菜々美が一度帰宅した、その翌朝ー、

弟の剛志は息を引き取ったー。


剛志との最後の会話は

菜々美の中で”呪い”のように残ったー。

菜々美は自責の念を感じー、

”わたしはもう、笑っちゃいけないー”

そんな風に、塞ぎこむようになったー。



さらにーーーー


「ーーーなんで……なんでこうなるのー…」


数日後ー

菜々美は、泣きながら

”その亡骸”の手を握っていたー。


”菜々美ちゃんー迷惑かけて、ごめんねー”


そんな手紙が残されていたー。


菜々美が”おつかい”の約束を蹴ってまで、

友達とした”約束”はーーー

”いじめを受けているクラスメイトから相談したいことがある”と

言われて、その話を聞きに行く、という約束だったー。


ただ単に、”友達と遊びたいから”おつかいを弟に

押し付けたわけではないー。

”いじめ”の被害者である子の相談に乗ろうとしたのだー。


しかしー、そこに向かう途中で弟の事故を知り、

結局、菜々美は”いじめを受けている子”の相談にも乗ることができないまま、

”今日は行けなくなっちゃったー…ごめん”と、連絡を入れて

病院に引き返したー。


がーーーー


その結果がーーー


”菜々美ちゃん、ごめんねー…”


その子の”自殺”だったー。

追いつめられていたその子は、菜々美に”相談”を断られたことで、

”本当は迷惑がられていた”と、思い込んでしまいー、

既にギリギリの精神状態だったその子は、数日後、

自殺してしまったのだー。


「ーーぜんぶ……わたしの…せいー」

弟と、友達ー

その二人を”わたしのせい”で失ったとー、

伊藤 菜々美は、その時ー”光”を失ったー。


「ーーーーーだからー…もうー、わたしはー」

過去を語り終えると、菜々美はそれだけ呟くと、

「これで話はおしまい。満足した?」と、

淡々と作業に戻ってしまうー。


「ーーーーー…

 伊藤さんはー…悪くないよー…

 弟さんもー、きっとーー…」


綾(翔太)が言うと、

菜々美は「遠藤くんに何が分かるの!兄弟もいないのに!」と、

声を荒げるー


「ー分かるよ!僕だって今は”お姉ちゃん”なんだからー!

 もしも、美桜ちゃんを失ったらー

 僕だって辛い気持ちになるのは分かるよー!」


綾(翔太)は言うー。

”妹がいる綾”と入れ替わったから、今は自分もお姉ちゃんだとー。


「ーーーーでもーーー…

 二人とも、伊藤さんのことを責めてなんかいないー…

 絶対にー」


綾(翔太)がそう言い放つと、

菜々美は表情を曇らせながら、目を逸らしたー。


「ーーーーーーー」


それからは、無言だったー。


けれどー、菜々美の目から涙が零れ落ちるのを見てー、

綾(翔太)は、”伊藤さんは、今も昔も優しすぎるよー…”と、

そんなことを、心の中で呟いたーー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2度目の文化祭が終わったー。


次の行事は、合唱コンクール。


そんな中、

「来年の今ごろは、進路のこととかで色々忙しそうだよね~」

と、綾の親友・穂乃果がふと言葉を口にするー。


そうー

来年の今ごろは、今年と違って色々忙しい時期だー。

大学受験をするにしても、就職するにしても、

色々とやることがあるー。


今年のようにはいかないー。


「ー綾は、どうすーーー…」

穂乃果はそこまで言いかけて、翔太(綾)を見て言葉を止めるー。


「ーーわたしはー…」

翔太(綾)は、そこまで言いかけて、表情を曇らせるー。


”進路”ー

いったい、どうすればいいのか、自分でもまだ分からないー。


もしー…

もしもこのままー

”入れ替わり”の状態が続けばー…


”綾”は”翔太”としてー、

”翔太”は”綾”として、進路を選ばなくてはならなくなるー。


相手の希望通りの進路を選ぶのかー

自分の進みたい道を、相手の身体で選ぶのかー。


しかしー

それは、部活を選ぶのとは訳が違うー。


二人の人生を大きく左右する決断ー


「ーどうすればいいのか、わたしにもよく分からなくてー

 色々、考えてはいるんだけどー」

翔太(綾)が、戸惑いながら言うー。


「ーそ、そうだよねー

 綾が元に戻れればそれが一番いいとは思うけどー」

穂乃果がそう言うと、

翔太(綾)は表情を曇らせるー。


元に戻る方法は未だに見つからないー。

このまま戻れないかもしれないー。


それにー…

元に戻る方法が見つかったとしてもー…


その時ーー

二人はどんな反応をするのか、綾自身にも

よく分からないー。


「ーーーー…」

翔太(綾)は苦笑いしながらー、

「ーわたし、最近、”こう”話してる方が自分に違和感感じちゃってー」と、

穂乃果に不安を打ち明けるー。


「ーーそれは、どういうことー?」

穂乃果も不安そうにするー。


「ーー…うんー…ほら、普段、遠藤くんとして振る舞ってるでしょ?

 家でも、学校でもー。


 こうして、”わたし”がわたしとして話せるのは

 穂乃果ちゃんと、あとは遠藤くんと、神田くんだけー。

 だからー…”遠藤くん”として振る舞ってる時間の方がー

 すっごく長くなっちゃってー


 だんだん、わたしの中でそれが普通になってきちゃってー」


翔太(綾)がそう不安を吐露すると、

穂乃果は「綾…」と、心配そうな表情を浮かべながら、

翔太(綾)の方を見つめるー


「今も、気を抜くと”僕”って言っちゃいそうでー」

冗談っぽく笑う翔太(綾)ー


「ーーー」

そんな綾の方を見つめながら、穂乃果は

少しだけ考えてから、言葉を発したー。


「ー大丈夫ー。

 綾がこの先、どうなっても、わたしは綾を推し続けるからー」


正直、穂乃果にも”親友”として、どう言葉を掛けていいか

分からなかったー。

入れ替わりの当事者にしか、分からない辛いことも

いっぱいあるだろうからー。


だからこそー、そんな、前向きな言葉を投げかけたー。


「ーーーふふー…

 ありがとうー」


翔太(綾)は、少しだけ安堵の表情を浮かべながら微笑むと、

この先のことを考えながら、穂乃果と共に教室に向かって歩き出したー。



㊳へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


★2-Cの日常★


中尾 俊太(なかお しゅんた)は戸惑っていたー。

彼は、入学時に大人しい性格だった自分を変えようと、

金髪にしてイメチェン、高校デビューを図ったー。


が、周囲に怖がられてしまい、失敗ー。

2年生になってからは黒髪に戻したー。


しかしー…


「ーーん? お前、誰だったっけ?」

クラスメイトの”人生は暇つぶし”な、藤沢 孝弘から

そう言われてしまう俊太ー。


「ーーーぐ…」

俊太は表情を歪めるー。


「ーお~!中尾!久しぶりだな!

 元気にしてたか?」


昨日も、一昨日も学校にいたのに、

クラスのお調子者、栗原誠一からそんな言葉を掛けられてしまう俊太ー。


「ぐぬぬぬ…」


「ーーなんか知らない人が教室にーー!

 寧々、こわ~い!」

一人称が名前の、自分が可愛いと思い込んでいる女子・福井寧々から

”知らない人”と勘違いされる俊太ー。


「ーーお、お、俺を”影が薄い”キャラにしないでくれ~~!!」

俊太はそう叫ぶー。


そんな言葉を偶然聞いていた数学教師ー

いつもネガティブなオーラを漂わせている黒川星奈先生は、

笑みを浮かべながら俊太に声をかけたー。


「ーーふふー影の世界へようこそー中尾くんー」

不気味な笑みを浮かべる黒川先生ー。


俊太は、そんな黒川先生の方を振り返ると、

「イヤだ!俺は印象薄いキャラになりたくない!」とそう叫びながら

再び”イメチェン”を決意するのだったー…


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


3月最初の長編でした~!☆!

物語の中では秋ですが、

現実ではちょうど卒業の季節ですネ~!☆☆!


物語内の卒業式は、

まだまだ先ですが、楽しみにしていて下さいネ~!


★関連話★

(※こんな話あったの?いつだっけ?という場合の参考にして下さいネ~)


・菜々美に入れ替わりが発覚した回⇒第32話

・菜々美が弟のことに触れた回⇒第6話

・菜々美に最初に冷たくされた回⇒第1話

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